ルフィはキスの合間に私の素肌に触れてくる。でも流石にそれは不味い。
船からは大分離れてるし、村も今この島には無い事を知っている。でもならばシテも良いかと問われたら、答えはNOだ。
「や……外は、嫌よ。ルフィ」
「……ナミ、どうしてお前迄凍ったんだよ」
拒否する私にルフィは仕方ないなと言わんばかりの顔でそう問い掛けてくるから、素直にルフィを砕かれないように間に入って話をして、その流れでちょっと挑発しすぎたかもなんて言って笑ってみせる。そんな私にルフィはスっと瞳を細めるけど、時々やるルフィのこれが何を意味しているか私は分かっていない。
ルフィは基本的な所では馬鹿じゃなくて、それどころか野生の勘的なもの迄あるから実は賢いのだと言う事を時々私は失念する。それでもルフィはお気楽で何も知らない少年として普段は過ごすから、どうしたって見落としそうになるのよね。
「ナミ、ゾロやサンジがかなわなかった相手に、俺が殆ど手も足も出なかった相手に、1人で戦い挑んで……って事で間違いないか?」
「…………ルフィ?」
ここで頷いたら、なんかいけない気がする。多分私、物凄く怒られる気がするの!
「そんな事、言ってないわ。ただ、ちょっと挑発しすぎた可能性があるって話で……」
「なら、戦う意思は無かったって言えるのか?」
「それは……」
どうしよう。どう言えば良い?
ルフィを守りたかった。ロビンを侮辱するのが許せなかった。
その為に、確かに短剣で四肢を切り落とそうとしたりしたけど、でも……不可抗力よね、それって。
「だって、ルフィを失いたく無かったんだもん」
「……ナミお前、可愛く言えばいつも許されると思うなよ?」
「ルフィー……」
瞳を潤ませてルフィに抱き着いて、少し下から見上げて見ればルフィはクソっと吐き捨ててから私の唇を自らの唇で塞いだ。そして、私の後頭部を押さえると貪るように口付けをするから、とりあえずは難を逃れられたと思う。
……あれ?
キスが深まり、止まる気配がなくなり、気付いた時には草原に私は押し倒されていて……。ルフィの背に空が見える。
「草が邪魔で、誰にも見えねェよ」
「だ、め!チョッパーからも、安静にって言われてるでしょ?」
「……つまんねェ」
暇だからとか、詰まらないからって理由で襲ってきたんかい!
「ルフィ、私測量したいからこの島を歩き回るけど……1緒に来て、果物とか取ってくれない?」
「果物あるのか?」
「えぇ、普通より木は細長いけど、果実系の木が多いのよ。だから少し多目に持って帰って、サンジ君にパイとかジャムとか作ってもらいたいの」
「ん、1緒に行く」
よし、釣れた。1人で大冒険とかされるよりは良いだろうし、暇つぶしもさせられる。
多分この為に私とルフィは、セットで船を降ろされたんだと思うのよね。そう思いつつ歩き出すとルフィに時々木の実を取ってもらいつつ、それの半分程はルフィのお腹に消えるのを眺める。
色々な果実を取りながら島を歩いていたら、ルフィが私の髪に触れて来た。なんだろうと視線を向ければ草がついてたと笑うルフィに、私もつられて笑う。
「ありがとう、ルフィ」
「あんまり、無理しないでくれよな。負けた俺が悪ィのは分かってるけどよ」
そんな言葉を口にするルフィの頭を軽く撫でて、極力ねと言いながら笑えば少しいじけたような顔をされる。ルフィにはまだ、もう少し子供でいて欲しい。
焦って大人にならないで、少しずつ成長してくれたら嬉しいと心から思う。息子のような、弟のような微妙な位置にいた筈のルフィは、いつの間にか弟のような恋人になっている。
いつの間にか、息子のように思う事は無くなっていて、私はルフィに甘えている。甘えすぎなんじゃないかって位に、最近は甘えて頼ってる自覚があるからこそ、少し怖い。
迷惑かけてないかなとか、重荷になってないかなって、不安になる。私ばかりが大切にされて、ルフィは不満とか溜まってたりしないのかなって……。
「ナミ」
「ルフィ?」
突然呼び掛けられて振り向けば、何故か呆れたような顔をされた。なんだろうと思って首を傾げるとルフィは細長い林檎を投げ寄越すから、それを受取る。
「ナミはさ、少し色々考え過ぎなんだよな。少しずつでいい、頼ってくれ。1人で立とうとしないで、1人で全てやろうとしないで、1緒にやろう。その木の実を取ってる時みたいにさ」
「林檎とか取ってるのルフィだけじゃない」
「ばっかだなァナミは!ナミが見付けるから、俺が取れるんだよ!ナミが上にあるのを教えてくれなかったら、俺は取れなかった」
そう言われて林檎に視線を向けた私に、ルフィは笑う。その笑顔が明るくて、温かいから……だからそっとルフィのその肩に頭を預けて、ルフィの鼓動に耳を傾ける。
「……それでいいんだ。無理にナミ1人で手を伸ばさねェで、俺とか仲間頼ってくれよ。もう、ナミは1人じゃねェんだから」
ルフィは優しく言ってくれる。ルフィの心臓は、動いている。
海軍大将も姿を消して、頭の割れた奴等も居ない。ロビンも生きていてくれた。
ゾロもサンジ君も凍った体は元に戻り、ウソップとチョッパーは特に肉体的な怪我はない。皆が無事にこの場に揃っていて、安全な環境に居る。
それなのにどうして、私は今、こんなにも怖いと思ってしまうのかな。今が幸せ過ぎるのかな……?
「ルフィ、私ね、甘え過ぎてる気がするのよ」
「……何処がだよ。寧ろ足りねェよ!」
「ルフィは、私に甘いわ」
ルフィは私の頭を優しく撫でると、その勢いで指に髪を絡ませて遊び始める。何故ルフィはこんなにも私の髪が好きなのか。
そんな事を考えながらも、触られている事が不快である訳でも無いので、そのまま好きにさせておく。そして、細っこいこの体が何故か筋肉質なのを見て、小さく笑う。
この筋肉があるから、軽々と私を抱えて移動出来るのよね、きっと……なんて思えば、いつどうやって鍛えているんだろうと少し思う。遊んでばかりで、鍛えてる様子なんて見受けられないのに。
そんな思考の中でルフィの割れた腹筋とか無駄に厚い胸板とかを撫でていたら、髪を少し強く引っ張られる。なんだろうと視線をルフィに向けたら、少し赤い顔でルフィが言う。
「あんまり、撫で回すなよ。……襲うぞ」
「でも、ルフィはいつも私の事を撫で回してるじゃない。たまにはやり返させてよ」
「……わかった。それなら、耐える」
耐えるって事は、私に触られるの嫌なのかな?
私はルフィに触られると嬉しいけど、ルフィには迷惑だったり、不愉快だったりするのかな?
「……ルフィが私を撫で回したり、人前でキスしたりするの止めるって選択肢でもいいのよ?耐える必要があるくらい、つらいならそっちの選択肢の方が有効でしょ?」
私の言葉にルフィは小首を傾げて、変なものを見るような視線を向けて来た。だからなんだろうと思ってルフィの唇が動くのを待てば、妙な事を口走られる。
「俺はナミが居たら触るし、キスする。ンなもん当然だろ」
……え?
何が当然なんですか?
「ナミは俺のだろ?」
「まぁ、そうね。ルフィのクルーだし、ルフィの彼女だから、ルフィのものよね」
素直に頷いた私に、ルフィもまた満足そうに頷いて見せる。でも、なんだろう、何かおかしい気がするのよ。
「自分のものなら、触るのに何の問題もねェだろ」
「……確かに、そうかも知れないけど……」
「なら、触らねェとか、キスしねェなんて有り得る訳ねェだろ。だから、俺が触られるのも、当然だと思う」
「ん?んん?」
なんか、混乱して来たわ。今ルフィは何を言ってるの?
「だからって、今襲ったらナミに怒られそうだし、チョッパーとロビンにナミと引き離されそうだから、我慢してるし、この先も耐える」
「……私から触ると、襲いたくなるって事?」
「ん?違ェよ。ナミが存在したら、触りたくなるし、キスするのは当然だろ」
……当然なの?
そうなの!?
「んで、触ったりキスしたら、そのまま欲しくなる。そこでナミが触って来たら、いいって事かなと思う訳だよ」
「……それ、何かおかしくない?」
「おかしくねェよ。シゼンノセツリだ!」
混乱を極めて何も返せなくなる私に、ルフィは悪戯に笑うと触れるだけのキスをして来る。それから唇を離したルフィは私の耳元で、その無駄にいい声を使って囁いてくる。
「ナミのすべてが、俺のものだ」
顔が、赤くなる。心臓が妙な動きをする。
なのに抱き締められてるから、逃げる事も出来なくて、私はルフィの首筋に顔を埋めるのだ。こんな、情けない顔を見られたくないから。
そんな私の髪をルフィは弄る。そうして振り出しに戻ると、似たような事を何度も繰り返す事になった。
それでもいつまでそうしていても木の実は集まらないし、測量も終わらないからと動き出して、ルフィと私の背負っていたリュックの中に果物がこれでもかと詰め込まれた頃に私の測量は終わった。ルフィは色々な果物を食べられてご満悦の様子で、帰ればサンジ君か何かを作ってくれるからと嬉しそうにしている。
浅瀬とはいえ、メリーから網を下ろしているから魚も捕れている可能性があるわねと言えば、ルフィは楽しそうに、嬉しそうに笑うのだ。サンジとナミが居れば、俺は飢えねェで済むなと言って。
その言葉でそう言えば〝読んでいた〟頃は何度か飢えてるシーンあったわねと思う。そういう意味では、私も少しは貢献出来てるのかなと思えば、少しだけここにいる事を許されるのではないかと思えた。
少しでもいい、皆の役に立ちたい。そして、少しずつでも私が頼られて嬉しいから、皆にも頼るようにして行こうと思えるようになった。
私は愛を知り、弱くなり、臆病になった。でも、愛を知らなかった頃に戻りたいとは……思えないの。
果物を大量に背負ってメリーに帰れば、笑顔で出迎えてくれる皆がいる。すぐ側には太陽のように笑う愛しい男がいる。
私はその幸福の中で、笑わなければと義務的に思う事なく、自然と笑えるようになっている。ここが私の居場所なのだと、疑う事無く思えるようになっている。
これが成長なのか退化なのかは分からないけど、私は今の私の方が昔の私よりも好きだなと素直に思いながら、出迎えてくれる人達の輪に飛び込んだ。今日もここは、温かい。