※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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描かれない日々

 ウソップは労るような視線で私を見て、それから少し辛そうな顔で笑うと、その掌を私からそっと離す。そうして離れた掌を強く握り締め拳の形に変えた後……小さく体を震わせた。

 それを見てどうしたのかと思い、思わずウソップに手を伸ばそうとしたら、ウソップが苦しそうな声で言葉を口にした。それにより、私は動きを止めるしか出来なくなる。

 

 「ごめんな、ナミ。俺はいつも何も気付いてやれねェし、何かあったと知っても、何を言えばいいのかも分からねェ!」

 

 ウソップの言葉に、軽蔑された訳じゃなかったのかと思って、直後にならウソップは何を言いたいのかと声も出せずに見詰める。罵られる覚悟を決めていたから、他の言葉が来る事に対して脳が上手く活動しない。

 

 「七武海の奴にナミが攫われて、それでメリーとオッサン達守ったって聞いて……俺は〝良かった〟って、思っちまったんだよ」

 

 それは、当然だと思うわよ。メリー無しで先に進む事は出来なかったし、目の前にズタボロの人がいて、庇われたから生きてるなんて言われたら誰でも良かったと思うわ。

 だからこそ、どうしてウソップが苦しむのか分からない。ウソップのその感情は普通の事よ。

 

 「それなのに、帰って来たナミを見た時……弱ってるその姿を見た時には、自分を大切にしろって怒りが湧いてきたんだ。矛盾も良いところだよな……ナミに護られて、庇われて、俺はここ迄来たってのに……」

 

 言葉を、挟む事が許されない雰囲気で。でも、叶うならウソップに、何もウソップは間違ってなんかないよって言いたい。

 

 「その上、サンジにまで襲われたって聞いて。気付いてもやれなくて、その上でサンジの側に立って〝苦しめてやるな〟なんて言っちまって……。そんな俺はさ、サンジが襲った事を責めるより先に、ナミの心や体を気遣うより先に、2人に裏切られた形になったルフィが気の毒だと思って……。でもよ、ナミがサンジに勝てる筈、ねェ事も知ってて。俺は、最悪だ」

 

 名を呼ぶ事さえ、今は許されない。泣きそうな声で、顔で、喉を震わせ言葉を響かせるウソップのそれは明らかなる懺悔だから。

 

 「俺はナミに甘えて、ナミなら全ての我儘聞いてくれるような気がしてたんだ。最低だよな。全部ナミ1人に責任も何もかもを押し付けようとしてたんだ……!」

 

 慟哭のようなそれに、言葉は挟めない。でも、そのまま見てるだけなんて、私にはもっと出来ないから……。

 そっとウソップを抱き締める。その背に腕を回して、後ろ頭を優しく撫でる。

 そんなに、自分を責めなくていいよという想いを込めて。だってウソップのそれは何もおかしくなんて無い。

 ウソップは優しいから、それぞれの立場に立ちすぎてしまう。その為に生じる矛盾に苦しんでるだけだもの。

 ウソップは何も悪くなんてない。大切な、可愛い弟のようなウソップを、無言で撫でていたら小刻みに震えだしたウソップにそっと胸を貸す。

 そしてウソップのソレが落ち着くまで、ただ頭を撫で続けた。落ち着いた頃になって、私はクリマタクトで雨雲を作るとウソップと私の上から雨を降らせて、笑う。

 

 「クリマタクトはこんな事も出来るの。これにヒートボールを合わせると、シャワーテンポになるって訳よ」

 「ビビが喜んでた奇跡の技か。いつでも雨を降らせられるって凄ェよな」

 「おかげで蜜柑の所まで水を運ばなくて良いから、適量の水を甲板で航海日誌書きながらあげられるのよ」

 

 話をわざとズラして笑う。それくらいしか今は出来そうになかったから。

 それからクリマタクトをウソップの目の前で何度か使いながら、ウソップが小石で落とす木の実を見てそれを褒める。本当に狙撃手なんだなぁって思わされるような素晴らしい腕前に、何故だか泣きたくなった。

 

 「ウソップは凄いわね。百発百中」

 「動かない的なら当然だろ」

 「お父さんと、お母さんのいい所取りしたのね、ウソップは」

 「え?」

 「ヤソップさんの腕と才能、そしてお母さんの優しさとその鼻……いい所取りじゃない」

 

 笑って言えばウソップは少し困ったように笑いながら、優しくなんかなんて呟くから私はゆっくりと口を動かす。心から思う言葉を。

 

 「ウソップは、間違ってないわ。それに、間違えてもいいのよ。人間なんだから。ウソップもルフィもチョッパーも、この1味の中では幼い方でしょ。年長者に甘えて、何が可笑しいってのよ」

 「ナミ」

 「男同士で話してたら、そりゃどうしたって男の側に立つものよ。だから気にしなくていいの。ウソップはいい子だし、優しい子よ。吐き出してくれて、ありがとう」

 

 ウソップは私の言葉に小さく馬鹿野郎なんて言ったけど……どうしてかしらね、私は本当に嬉しいのよ。悩んで傷付いて、間違って傷付けて、謝って後悔して、そうして人は成長する。

 1度人生終えてる婆さんに甘えたからって、バチなんて当たりっこないんだから、存分に迷いなさい。寧ろ、私が皆に甘え過ぎなのよ。

 そう思って自嘲すると、ウソップがそれを目敏く見咎めてくる。本当にウソップは優しい。

 

 「ナミはもう少し、自己評価高めた方がいいと思うぜ」

 「それは、ウソップにこそ言える事だわ。ウソップは、自己評価が低過ぎるのよ」

 

 それから僅かに互いに見つめ合って、そして互いに苦笑する。自己評価を改めろって言われて、鉛筆を持ち替えるように切り替えるなんて事はなかなか出来ないと、そんな当たり前の事を思いながら笑い合うしか、今の私達には出来なかった。

 メリーに帰った私達は拾い集めた果物や茸をサンジ君に渡して、それからウソップとクリマタクトの微調整について話をする。そんな私の腰に腕をグルグルと巻き付けたルフィが問答無用で抱き寄せるから、私はクリマタクトをウソップの手元に残してその胸に抱かれる事となる。

 

 「ナミ、なんでこんなずぶ濡れなんだよ」

 「クリマタクトの調整してたからよ」

 「……透けてるから、気を付けろよ」

 

 ルフィの言葉で上着が張り付いてるのが分かったけど、私はうーんと少し唸ってからルフィの頬に軽くキスをする。見えても困らないけど、ルフィが珍しく気遣ってくれたのが嬉しかったから、笑いながら言葉を口にする。

 

 「私のこれは水着だから見られても困らないのよ。だから大丈夫」

 「下着と変わらねェよ。弄りやすい事にも、体型が分かるのも同じだろ」

 「ルフィ……?」

 「……風呂入って、温まって来いよ。また体調崩したら、チョッパーが泣くぞ」

 

 ルフィの言葉に頷いてお風呂に向かえば、その途中でロビンと会えたのでロビンも1緒にどうかと誘う。その会話を聞いていたチョッパーも誘い、3人でお風呂に向かえば何とも平和なひと時となる。

 ロビンは能力者なので、私が1緒じゃないと危険で湯船にはつかれないから、どうしても1緒に入る事が多い。そしてチョッパーも能力者なので、誰かと入る事が必要になるのだ。

 

 「ナミはルフィ達とは1緒に入らないんだな」

 「ゾロ、サンジ君、ウソップは能力者じゃないし、性別違うからね。ルフィは能力者だけど、男もあれだけいるんだから大丈夫でしょ」

 「あら、でもたまにルフィとナミは1緒に使ってるわよね?」

 

 私の言葉に揶揄うような色を乗せてロビンは言う。それは恋人として、色々……その……なんてモゴモゴしていたらチョッパーが何かに気付いたみたいで、そうかーなんて呟いている。

 3人でそんな会話をしながらお風呂を終えて甲板に戻れば、何故か甲板に皆が集まっていてチョッパーにルフィが宣言する。ルフィは余程暇らしい。

 

 「俺は治ったぞー!」

 「チョッパー、ルフィは治ったの?」

 「ルフィはな。ナミとロビンはまだだぞ」

 

 チョッパーに思わず問いかければそんな事を言われたので、私とロビンは顔を見合わせて笑う。そしてルフィはそんな私達に言う。

 

 「だから、快気祝いの宴だ!ナミ、歌え!」

 

 相変わらずの急展開と無茶ぶりに笑いながら、私は頷く。ルフィが望むなら、なんて思ってしまうから。

 ピアノの前に座り、何が良いかなと少し考える。ルフィの快気祝いなら明るい曲が良いのかしら?

 

 「……ナミが歌いたいと思ったものを歌えばいいと思うわ。暗くなったとしても、なんであっても、望んだのはルフィだもの」

 「またそう言う言い方して……ロビンはルフィの事が嫌いなの?」

 

 思わず呆れたように問いかければ、ロビンは首を横に振った。それから優しく笑い私の頭を撫でてくるので、呆れも何もかもが持続しない。

 

 「違うわ。私はナミの事が大好きなだけ。……ナミの歌いたいものを歌って欲しいのよ」

 

 ロビンの言葉で、私は脳裏に浮かんできた曲を少しピアノで演奏できるかの確認の為に、音を出して見る事にした。少し演奏すれば何とかなりそうだと分かったけど、これを本当に演奏しても良いだろうか。

 思い出せない未来の事は、思い出さなくても本当にどうにかなるのだろうか。穴だらけの記憶では、結局何1つ役立てたりはしないだろうと思うのに、結局の所私は何も思い出せない。

 ロビンは〝麦藁の1味の為に〟その命を捨てようとする。その理由はロビンの敵である世界政府のCP9が、ロビンに甘言を囁くから。

 ではその敵がどこにいるのかと問われれば、確か船大工に混ざってたとは思うけど詳しい事は思い出せない。何せ20年も前に読んだ漫画の事だもの。

 そこまで鮮明に覚えてなんていないし、覚えていた頃に書き出しておいた情報は万が1誰かに読まれても平気な程度しか書いてないから、役に立ちそうな事が殆ど書かれてい無い。しかも、ウソップとルフィは決闘するし、メリーはそこでもう無理だと診断される。

 失うリスクを知っていて、でも詳細が分からない。喪うのだと分かっていて、でも回避する術が無い。

 私は……どうしたらいいのかな。そんな思いをのせて、歌う事が宴の雰囲気を壊しはしないだろうかとどうしたって不安になる。

 

 「ナミ?」

 

 ルフィが不思議そうな顔で私を見る。私はそれにより顔を上げて笑う。

 不思議だわ。ルフィがいれば、それだけで笑えるのだから。

 

 「曲が、決まらないのよ」

 「今弾いてたのだと駄目なのか?」

 「暗いのよね、歌詞が」

 「俺は気にしねェぞ」

 

 ルフィはそう言って笑うから、だから私もそれについ笑ってしまう。ルフィがいいと言うのならば、ルフィの快気祝いなんだしそれで良いかなと思ってしまったから。

 予定にない宴はこうして始まった。だから私は、深呼吸しつつ覚悟を決めると、鍵盤に指をそっとのせた。

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