治療も無事に終わった所で、ルフィが帰ってくるのを待ちながら、ふと気になった事を聞いてみる事にした。その結果によっては、この先行動が変わる事でもあるから。
「ゾロ、狩りは上手くいったの?」
「あァ、勿論だ」
自信満々に言うゾロを見て私は少し考える。こんな状態のゾロが狩りを成功させたのならば、サンジ君も当然成功させてるだろうと思われるから……。
「ルフィが帰ってきたら皆で焼肉でもして、何かお腹に入れましょう。お腹が空いてる時は、ろくな考えが浮かばないものだし、ルフィを飢えさせるのは危険だわ」
私が言えばゾロとビビは驚いたような顔になり、巨人もまた、言葉を失ったようだった。でも、そうしないとルフィが騒ぐのは目に見えてるし、巨人の話だとここのログが溜まるのに1~2年かかるとの事だった。
ここにいる期間が例えば短い方の1年だったとしても、クーデターの関係は確実に間に合わなくなる。そうなればアラバスタはクロコダイルの計画にそって消滅し、ロビンの命も喪われてしまう。
そんな事にはさせられないと思う気持ちが、強くある。それに……戦った後のルフィの食欲は、我慢させないで小出しにした方がいい。
それから間もなくしてルフィが帰ってくると、巨人が大声で泣き始めてしまい、対応に困る事となる。何が起きたか分からない私に対して、ウソップやルフィはわかっている様子でつらそうにしている。
けれども、その直後にもう1人の巨人が起き上がり、感動の再会を果たしていた。その様子にルフィとウソップは大喜びで、2人が笑うならもう理解不能でも十分かな、なんて思えた。
野菜等を摘んでいた私には、この2人の巨人の事はイマイチ分からなくて、状況が掴めていなかったけど。とりあえず問題は解決した様子だし、それだけで十分だろうと思う。
そしてそれから少しするとサンジ君が現れて、大金星を上げてくれた。
そう、サンジ君は何処で手に入れたのかは知らないけれど、アラバスタ行のエターナルポースを持っていたのだ。それにより、ビビがサンジ君に抱きついてるのを見て笑った後、サンジ君とゾロの狩り勝負について話が盛り上がる。
メリーの近くに到着すると、巨大な肉が2ついるとルフィが喜び2人の喧嘩はますます加熱したけれど、解体して肉に直されたそれを積めるだけ積み込んでから、残りの肉とその辺にあった野菜で簡単な食事を始める。お世話になった巨人達に対するお礼も兼ねていて、肉を食べられるだけ食べたルフィもこれで暫くは大人しいだろうと、サンジ君と2人で安心した。
そこで何となくでは無く打ち解けた男達は、何やら出発に際しての注意を受けているようで、その話は男達に任せて私はメリーの状態とか備品等のチェックを行う。この時点で何がどのくらいなのか把握しておかなければ、いざ問題が起きた時に対応出来ない。
それと、秘蔵のウォッカは早々に隠しておかねばゾロに呑まれる。これ、普通のウォッカより度数が少し高いのよね。
中々手に入らない大切なお酒なので、さっさと片付けてしまわねば危険すぎる。表からは、ルフィ達の楽しそうな声が聞こえてくる。
積み込めるだけの肉を積んでも、残して行くとなればルフィは騒ぐだろうと分かっていたし、こんな時でもないとルフィに野菜を食べさせるのは難しいから焼肉にして貰ったのだけど……。その余韻で騒ぐルフィの声に、少し癒される。
原種の多いこの島にも、原種ではない植物がいくつかあり、栽培しやすく使い勝手のいいそれらを少し根っこごと貰ってきたので、プランターで育てる予定だ。必要に応じてサンジ君が上手くやってくれるだろう。
表に出るのと同時に、巨人2人に言われるままに〝船は何があろうと真っ直ぐ進ませる〟とルフィが言い切っているのを耳にしながら、私は船をアラバスタを目指して前へと進め始めた。特に巨人との交流を深めていない私はともかく、ウソップとルフィは少し名残惜しそうにしていて、巨人の2人も盛大に見送ってくれる。
そしてそこに現れたのは巨大な魚。咄嗟に舵をきるように言ってもウソップは聞かず、ルフィも笑って前へ進もうとする。
それでも説得しようとする私にゾロが声を掛ける。それは既に達観した様子で、でも真っ直ぐに進めたら魚に飲み込まれてしまう。
「ナミ、諦めろ」
その言葉に絶望してその場で膝をついた私を慰めるように、ルフィが煎餅をくれたけど最早それはどうでも良い。悲しみに沈みながら煎餅をパリっと食べれば、それがまたいい感じに美味しいから無性に腹が立つ。
どこで買ったんだろう。こんなの売ってるお店、見た事ない。
それから数秒後、船は外へと飛び出して、海に不時着した。大声に誘われるように振り向けば、巨人2人の大切にしていただろう武器が壊れているのを目にしてしまう。
彼等は……何故ここまでと考えて、ルフィとウソップの為かと気付く。確かにこの2人には、惹かれる所が多々あるものね。
その内ウソップも覇王色の覇気を身に付けるのではないだろうかと、そう思ってしまうくらいには、時折恐ろしく似ていると感じさせられる。特に人たらし的な意味で似ている。
戦闘面ではゾロとルフィがよく似ているから、その理屈だとゾロも覇王色を使えるようになりそうだとなるけど、そうなるとサンジ君もそれに該当して……凄すぎて言葉にならない事になるから、有り得ないかと小さく笑う。
助かった事で、助けられた事で、ルフィとウソップは感動し、ゾロとサンジ君は平常運行に戻る。それを確認したら、妙に疲れた気がした私は柱に寄りかかりながらズルズルと甲板に座り込んだ。
何だか、だるいのだ。それに合わせるように視界が微かに歪み、掠れる。
そんな私を見て、心配そうに近付いてくるビビを見れば、私は笑うしかない。優しすぎるのよね、ビビは。
「今ので……少し疲れちゃったみたい。指針見ててくれる?」
反応を何もしないビビに、とりあえず気落ちさせないようにと笑いかける。ビビは何よりもまずは、肩の力を抜く事を覚えなきゃね。
「これでやっと、アラバスタに帰れるわね」
ビビは小さく頷くと、真剣な顔で言う。決意の篭ったそれは、イガラムさんを思い出しているのだろうか。
「生きて、アラバスタへ」
その瞬間スッとお皿を差し出してきたサンジ君が、場を和ませようとしてくれる。こういう所、上手いなぁなんて思いながらも、先程食事をしたばかりだからと私は断り、ビビに声をかける。
「ごめん、少し部屋に行って、休んで来ても良い?」
「えェ、指針なら私が見ておくから部屋で休んで来て」
やはり、女の子が1人いると違うなぁなんて思いながら私は立ち上がろうとして、視界が真っ白になるのを感じた。そのまま体が倒れて、意識が暗くなる直前に、ビビの悲鳴が聞こえた気がした。
大丈夫、大丈夫だから、私の事は心配しないで良いから、先に進みなさい。ビビ。
それから意識が浮上した時には、何人かの叫び声や泣き声が聞こえてきて、相変わらず騒がしいわねと思って聞き流していた。けれど、途中で医者を探すなんて言葉が聞こえてきて、覚醒する。
「ダメよ」
重だるい体でも、自分の体。腕の力で体を何とか起こすと、額に乗せられていたタオルが落ちた。
それを拾い、握り締めながら声を掛ける。今は1秒だって時間を無駄には出来ない。
「私の机の引き出しに新聞があるわ。それを見て」
本当は見せたくなかった。それでも、このままではビビの目的が果たせなくなる。
ビビが言われるままに机から新聞を取り出したのを見て、ホッとする。これで真っ直ぐアラバスタに向かうだろうと信じて。
動揺するビビを見ながら私は説得を続ける。まだ、進路を変えないとは言われていない。
早くその言葉を引き出して、先へ進んで貰わないと。私は……嘆くビビを見たくは無い。
「これでアラバスタの暴動は本格化するわ。その新聞は3日前の物。ビビに見せても船の速度は変わらないから、不安にさせない為に隠していたの」
そこまで言ってから、最終的な判断を下す可能性の高いもう1人に視線を向ける。結局は彼が決める事だから。
「わかった?ルフィ」
「大変そうな印象を受けた!」
思った以上に理解されていて良かった。そう思って笑いかければ、ルフィが複雑そうな顔をして私に近付いてくる。
ウソップも心配して声を掛けてくれるけど、だからこそ元気にして見せなければならない。ルフィの動きを軽く制して、いつものように笑う。
「その体温計が壊れてるのよ。熱中症とかその辺りでしょ。私は大丈夫だから。予定通りアラバスタを目指しましょ」
そう言って立ち上がってから、心配そうな視線を向ける皆に微笑みかける。心配掛けてたら、アラバスタにつくのが遅くなる。
そうなれば多くの人が死に、下手をすれば国が全て砂塵に帰す事となる。それではビビを国まで送り届ける、その意味が無くなってしまう。
「心配してくれて、ありがとう」
それでも、これだけ心配してくれる事が嬉しくない筈も無い。優しい人達に囲まれて、私は幸せ者だと心から思う。
外に出たついでにゾロのところへ行くと、船は何故か直角に進んでいた。大きな時間的ロスだ。
何をしていたのかと聞いて少し揉めた後も、ゾロは反省した様子を見せないので少し頭が痛くなった。何故、指針を見ておく事も出来ないのよ。
その時、肌に感じた空気が変わった。
「空気が変わった」
「は?ずっと変わらねェ晴天だぞ」
「いいから……皆を呼んできて」
ここで押し問答してる場合じゃない。背筋を冷たいものが走る。
「おい、てめェら出て来い!仕事だ!」
そう言ってゾロが指揮をとり、船を動かしてくれる。騒いでみても最後には私の言葉を疑わないでくれるから、本当に助かる。
「ナミさん、何事だい?波も静かでいい天気だよ」
「風。真正面から大きな風が来る。……たぶん」
そう言って前を見据える私の額に、ルフィが無造作に触れた。そして熱いと騒ぐから、これが平熱だと言いきっておく。
それに続いて皆が声を掛けてくるけど、とりあえず今は船を動かしてもらわないと。これは、危険な気がする。
でも、1体なんだろう。
嵐とは違うみたいだけど。熱のせいかな、その正体がよく分からない。
そうして海を気にしているとビビが船室から出てきて、硬い声で言った。その前置きを聞いた時点で、誰1人声を出さなくなった。
それだけビビが緊迫していたのもあるけど、皆もまたビビの言葉と態度に妙な緊張感を持っている様子だった。張り詰めた空気の中で、決意を固めただろうビビは、揺らぐ事無く言葉を紡ぐ。
「最高速度でアラバスタへ」
それはビビからしたら当然の言葉で、私は笑顔でそれを肯定したのに、他からは何も声が聞こえない。重苦しい緊迫感に包まれたのが分かれば、私が心配かけてるせいだと言うのは嫌でも理解してしまう。
ビビを苦しめる訳にはいかないと、皆に言葉を告げようとした時に、ビビが発した言葉により力が抜けるのがわかった。馬鹿ね、そんな甘い事を……。
「ナミさんを治すのが最高速度よ!」
そう確かに思ったのに。けれども確かに体は既に限界を越えていたから、感謝してしまう。
それに対して私がなんと答えたのか。ちゃんとビビに答えられたのかも定かではないままに、情けなくも私はその場に崩れ落ちた。