シャワーを終えた私は皆と共に朝食を済ませて、それから私は指揮官さながらに声を張り上げた。そうしてメリーは、航海を開始する事となる。
それの指示を出し終えたらロビンと航海日誌について考えて、その途中でパイと飲み物を運んでくれるサンジ君にお礼を伝える。ロビンと2人、パイとお茶を楽しみながら航海に当たって必要な会話をして過ごす時間は有意義であり楽しい。
「次に本棚を増やす時は、扉つきにしましょう。波が来る度に落ちていては船のバランスも取りにくいし、近くを通る人も危険だわ」
「人は大丈夫だと思うのよ。危険だとしたらそれはナミとチョッパーだけでしょ、他は人間辞め始めてるもの」
「ウソップは人間枠よ。それに、ロビンだってただの美人考古学者じゃない」
「やだわ、ナミったら」
互いにクスクスと笑いながら、本棚に扉をつける必要性について話を進めて行く。本そのものを守る為にも、どの棚にどういったものがあるのかをわかりやすくする為にも扉は欲しい。
可能ならば、強化ガラスの扉にしたい所。そうしないと中で
それを受けて、嬉しそうに本を抱いて移動するチョッパーを見送る。いつシーモンキーが現れるかも知れないからと可能な限りは甲板で過ごす私に、ロビンは協力的だ。
甲板で無駄に時間を過ごす訳にも行かないからと、海図や地図を描いて過ごす。その合間に執筆も少しでもと書き進めればウソップから無理はするなよなんて言われてしまった。
それに対してありがとうと笑えば、それは俺達の台詞だろうなんて言われてしまうのだから、不思議な気持ちにもなろうというもの。気遣われる事に、まだ違和感があるのよね。
今の所海域は穏やかで順調に船は進んでいる。ゾロは甲板で重たそうな物を動かしていて、ウソップは見張りをしている様子が見受けられる。
基本的にウソップかルフィが自主的に見張りをしてくれてる他は、昼間の見張りのいないこの船は結構危険だと思う。そんな事を考えていた私にロビンが首を傾げた。
「この本もナミが書いたの?」
「えぇ、農家の人の話を元に6歳の時に書いた物ね。何か変な事書いてた?」
「……いいえ、変じゃないところが変なだけよ。とりあえず苗の様子見に行きましょう。そろそろ何か対応が必要でしょう?」
ロビンに尋ねられた事に素直に答えただけなのに、何故か呆れたような眼差しを向けられて、私は首を傾げつつも誘われるままにトマト等の夏野菜の様子を見に行く。花も多く咲いていて、それでいてちゃんと育つべき所も育ってるから、実を支えられずに落ちる事も無いだろう。
念の為に主柱は立てたけど、この感じなら不要かしらねと思わされる程に立派に育っている。順調に育っているのがわかると、新芽を幾つか取り除き、時には新芽をわざと残して大きな葉を落とす。
そうして根元に少し肥料をあげてとやっていたら、ロビンに確かに野菜の花も可愛いわなんて微笑まれる。そんな事をしていたらサンジ君がお昼ですよなんて呼びに来てくれて、私とロビンは他愛ない話をしながら食事室に向かう。
食事をしながらの会話で、今夜からロビンも見張りに復帰出来るとの話になれば、ロビンはホッとした様子を見せた。本当に何か仕事をしたいらしいとその様子から分かり、航海日誌はロビンに基本的な所は任せようかなと思う。
本当は金銭管理をと思ったけど、ロビンはそれは私の売上でやりくりしてるから出来ないなんて言うのだから仕方ない。私は航海日誌については週に1度書くついでにおかしい所がないかをチェックして、気候等については私がメモを挟んでおく事で決まった。
仲間が増えるごとに私の仕事は減り、少し時間的にも体力的にも余裕が出来ている気がする。それが有難いのに何処か寂しく感じるなんて言ったら、怒られてしまうかしら?
「……ナミさん、少し良いですか?」
サンジ君に呼ばれるままに食料庫に向かえば、サンジ君が真剣な顔で私を見た。それに対して私も、鼠が出たのかと警戒しながら話を待つ。
「ルフィが、俺がナミさんを犯した事について、気付いてます」
「……え?……あぁ、そうなの」
何となく、バレてるのは分かってたから、特に驚きは無い。でも、その事をサンジ君が知っているという事は、ルフィに何か言われたのかな。
それにしても鼠とかゴキブリじゃなくて良かったわ。鼠は疫病のリスクが高過ぎるし、ゴキブリは1匹出たら終わるもの。
ホウ酸団子でも作ろうかしら。そんな事を考えながら、私は言葉を口にする。
「ルフィは、確信を持って私に聞いてきたから……私は何も答えなかったけど……きっとバレてるだろうなっては思ってたわ」
「なんで、俺に無理矢理襲われたと言わなかったんですか。もし、それでルフィに……!」
「ルフィになら、何をされても構わないもの。それに、ルフィが信頼してる仲間に、ルフィが裏切られた形になるなら、それに確証を与えたくなかったのよ。……何よりもね、サンジ君も命をかける程に惚れ込んでる男に、睨まれるのはつらいかなって思ったの」
余計な事だったかな。サンジ君としては、私に話してもらって、決闘でもした方がスッキリ出来たのかな。
そう思って俯いていたら、突然腕を掴まれて驚き顔を上げた瞬間に棚に押し付けられた。棚の中身が落ちなくて良かったとか考えてる間に退路を塞がれてしまい、顎にサンジ君の指が触れた事に気付いた時には、唇を奪われていた。
サンジ君からのキスは、いつも切なさと優しさが強く伝わってくる。孤独に怯えながらも、傷付けるつもりは無いと言わんばかりの優しくも哀しいキス。
でも、私はそれを受け入れられない。私の全てはルフィのものだから……いいえ、ルフィのものでいたいから。
「止めて!サンジくっ……んァ」
重なり合う唇に、奪われる吐息。苦しい呼吸の合間に、サンジ君が囁く。
「どうしても、ルフィじゃないと駄目なんですか?」
「そうよ、私は……ルフィを海賊王にすると決めたあの時から、ルフィの想いを受け入れた瞬間から、全てはルフィのものなの。だから、もう、止めて。サンジ君なら、もっと他にいい人が「俺は!他でどうにかなるような話をしていません!ナミさんだから、欲しいんだ」」
「サンジ君……」
声が、掠れる。体が、震える。
ごめんなさい。でも私は、もう……決めてしまった。
私のすべては、ルフィの捧げるって。触れられる相手は、ルフィじゃないと嫌なの……。
今の私に泣く資格なんて無いのは分かってるのに、涙は自然と溢れて、こぼれ落ちる。受け止められない想いが、苦しくて……痛い。
私が泣いている事に気付いたらしいサンジ君が、そっと私から離れる。そして、目元を覆って天を仰いだ。
「ナミさんのその涙は、俺の為ですね。……貴女は、優しい。優し過ぎて、それ故に……残酷だ」
サンジ君は声を震わせてそう言うと、静かな声で言った。膿んだ傷口に、自らナイフを突き立てているかのような顔で。
「逃げて下さい。俺から、全力で。俺は、どうしたってナミさんを諦められそうにない。多分、今後も2人になれば襲います」
「サンジ、くん……?」
「ナミさんが泣いても、多分今後は止まれない。だから、俺と2人にならないようにしてください。他に人がいればまだ、何とか止まれますから……。さァ、行ってください」
サンジ君に促されるように私は食料庫を飛び出す。涙に濡れた顔を皆には見せられないからと、私は海に飛び込む事で誤魔化そうと決めた。
突然の私の暴挙に皆が集まってきたけど、1度深く潜ってから顔を出せば何も不思議は無くなる。だってほら、言い訳はいくらでもあるから。
「笛を落としちゃって。驚かせてごめんね!」
「見つかったのか!?」
「えぇ、ほら!」
鉄笛を上に掲げるようにすれば皆が笑ってくれる。私は降ろされた浮き輪に掴まり、そのままメリーに引き戻されると、お風呂に入ってくるわと言ってその場を後にする。
シャワーを浴びながら、私はそれに隠して涙を流す。そんな資格無い事は、自分が1番よく分かってるのに……。
想いを受け入れられなくて、苦しめて、傷付けてごめんなさい。想ってくれて、ありがとう。
私の想う気持ちとサンジ君が想ってくれるそれの違いに、私は涙を流す事しか出来なかった。想いが人を傷付ける事があるなんて、考えもしなかった愚かしい自分を責めながら、私は今だけだからと言い訳して涙を流し続けた。
シャワーを終えて甲板に出ると、ロビンがじっとしている分には問題ないわと嬉しそうに微笑みながら珈琲を口に運んでいるのが見えて、ウソップは心配そうに私を見ているのが分かった。その理由が分からなくて近付くと、ウソップが冷たいタオルを差し出して来た。
「少し、腫れてるぞ。海水でやられたみたいだな」
その言い方でわかる。ウソップは何かに気付いているのだと。
恐らくは私がサンジ君に襲われたなんて口にしてしまったから、ウソップは〝ちゃんと〟見るようになってしまったのだろう。そうなれば元々ウソップは気遣いの天才なのだから、予想を立てるのは恐らくは簡単だった筈。
「ありがとう、ウソップ」
「ナミは、この船の中で皆の姉ちゃんでお袋だからなァ。護らねェと」
「成程、私は婆臭いと」
「なんでそうなった!?」
私の言葉にウソップが焦るのが楽しくて、クスクスと笑えばチョッパーが楽しそうだなと言いながら顔を見せてくれた。それに対して私が、ウソップに婆臭いって言われたのよと笑えばウソップが違ェだろうがと叫んだ時、そのやり取りを見ていたらしいゾロとロビンが笑っているのがわかる。
サンジ君がそんな騒ぎの中で私達に食事だぞと呼び掛けてくれたから、皆で笑いながら、ウソップだけは少し怒りながら食事室へ向かう。夜ご飯に提供された食事を食べ終えてから、私はサンジ君に問い掛ける。
「今日のメインに出された鍋って牛乳ベースだったわよね?」
「そうですよ」
「その鍋の汁残ってる?」
「ええ、後で味を調えてロビンちゃんが見張りなら、その時にでも持っていこうかと思ってます」
サンジ君の言葉に、なら止めた方が良いかなと思って頷いたら、何かあるんですかと問い掛けられて動きを止める。でもそうね、サンジ君に任せてみようかな。
「固茹でにしたパスタをその鍋に入れて、水分が無くなるまで煮込むと、トロトロのグラタンにできるかなって思ったのよ。それだと夜食にもなるし、良いかなと思ったけど、ロビンの体調だと固形物はキツイかなって思っちゃって」
「それなら、チョッパーと相談してみます。それにしても、本当に何でも知ってますね」
「無駄に長く生きてるもんでのぉ。ふぉっふぉっふぉっ!」
私の言葉に1瞬黙り、けれども直後に破顔したサンジ君は納得した様子で頷いた。こういう顔してる時のサンジ君って年相応よね。
「あァ、ウソップが怒ってたネタか。ナミさんもウソップ相手の時は時々年相応ですよね」
「それがウソップの能力かもしれないわね。……本当に、皆いい子で優しい」
思わず呟いた瞬間、サンジ君が困ったような顔をしたのが見えた。そして、いつの間にか食事室に2人だと言う事に気付いて、私はそれじゃまたねと言って慌てて飛び出す。
恐らくは追いかける気になれば簡単に捕まっただろうと、1瞬で変わったその空気により気付かされる。私は、どうしたら良いんだろう。
……体を、鍛え直さなきゃ。寝てばかりいたから、訛ってる筈よね。
そう思って女部屋に帰ると、部屋ではルフィが待っていて当然のように手招かれるからどうしたのかなと近付く。
「ナミ、そろそろ、いいか?」
「……拒否権、私にあるの?」
「ねェな」
ルフィの言葉に無意識で答えたら、ルフィが男の顔で笑った。そして、腕を掴まれてベッドに落とされると、その直後にルフィが覚悟しろよなんて言うからどうして!?と思わず凝視してしまう。
「ナミが欲しいって言った瞬間に寝やがって。そのまま俺の体をまさぐりながら、幸せそうに寝られて、俺がどれだけつらかったか!」
「なっ!し、知らないわよそんなの!」
「同じような思い、させてやる」
その言葉が意味するところが分からない筈もなくて、私は咄嗟にルフィに抱き着くとその耳元で囁く。そんな事をされたら、それこそ、身が持たないもの。
「私、ルフィが早く欲しいわ」
「お前っ!何だその逃げ方!卑怯だぞ!」
「ルフィは、私と……繋がりたくないの?」
ルフィはそれにより悔しそうに唸ると、小さく覚えてろよなんて言うから嫌よと笑ってみせる。それに対してルフィはまたもや唸るから、本当に可愛いと思う。
自ら服を脱ぎ、ルフィの服に手をかけて脱がせてあげればルフィが嬉しそうに笑った。そして、私の背後を奪うようにして背中に唇を落として来るから、体は見えないが故に敏感にそれに反応する。
「あっ……ルフィっ!待って、背中……!」
「弱いのは知ってる。安心しろよ、ナミは全身弱ェから」
「何が安心でっ……あァッ!」
ルフィから与えられる刺激に、唇の感触に、指の動きに、私は翻弄される。背後から貫かれて、体が弓形に反るのが自分でわかる。
2人しか居ない部屋だとは言っても、木造の船だから声は届いてしまうかも知れなくて、だから必死に声を抑えるけど……その為にルフィは余計に私を鳴かせようと激しく動く。呼吸がままならない魚のように、口をハフハフと動かしながら、シーツを掴んで溺れそうなその熱から無意識で逃げようとする。
「ナミ、逃げるな」
ルフィの言葉に逆らえる筈が無くて、私は縋るようにルフィの名を呼ぶ。それにルフィは笑ってくれるから……だから私もまた微笑み返す。
愛する人の腕の中で、ひと時であっても全てを忘れて委ねてしまう。逃げる事ばかりが得意になって、結局私は少しも成長してないのではないかと、頭の片隅で思いながらも激しい想いの奔流に飲み込まれて行く。
互いに愛を囁きながら、このまま溶けてしまえたら良いのにと無理な事を願いつつ互いの体を強く抱き締める。熱いのは、身体なのか、心なのか、それすらももう、私には分からなかった。