翌朝目覚めると当然のようにベッドも身も清められていた。そして、隣ではそれをしてくれたであろう存在が私を強く抱き締めたまま眠っていて、私はその寝顔に少し癒される。
起こすべきなのかなとも思うけど、寝顔があまりにも無防備で可愛いから、もう少し見ていたいななんて思わされる。だけど、そんな事してたらロビンが帰って来られないかなと苦笑した時、ドアが開かれた。
開けたのはこの部屋のもう1人の住民であるロビンで、私と目が合うと可笑しそうに笑いながら遠慮なく近付いてくる。そして、そっと私を抱き起こすようにルフィから離すと、布団を丸めて私のいた所に差し込んでしまい、耳元で優しく囁き掛けて来た。
「1緒にお風呂、行きましょ」
それに思わず頷いてついて行くと、ロビンが服を脱ぎながら楽しそうに笑った。先日初めて見たお腹を抱えて笑う姿程の衝撃は無いけれど、ロビンが笑ってくれる事が本当に幸せに思える。
「ナミとルフィは、本当に見ていて可愛いわ」
「何か、変な事してる?」
「いいえ、きっと全力で想い合う姿が微笑ましいだけなのよ。……だからこそ、心配だわ」
ロビンの言葉が不思議で視線を向ければ、ロビンは美しいその肢体を隠す事無くその場に立ち、優しく悲しげに微笑む。全ての出来事がいつか終わるのだと言う事を、私もロビンも知り過ぎている。
絶望や苦痛は逃げ出すか、死んだ時に終わる。幸せや安らぎは何もしなくて、壊れる。
それを知るからこそ、臆病になり、不安になる。互いに相手に対して、ずっと傍で笑って居て欲しいと願っているだけなのに。
「ナミを狙う多くの男達に、ナミが傷付けられないか。そして、そんな相手からナミをルフィが守れるのか、私は心配でならないわ。……もしもルフィが無理ならば……」
ロビンはそこで言葉を切ると、私に悪戯な笑みを向けて来る。恐らくは、重い空気を変える目的もあるとは思う。
「私が護ってあげたくなる程に、ナミが大切よ」
「頼りにしちゃうわよ、そんな事言うと」
「えェ、頼ってちょうだい。でも、お風呂では助けてね」
そんな事を言いながらお風呂に向かえば、互いに自然と笑い出す。クスクス、アハハと笑う私達の声に、起きていたメンバーは女達は風呂かと呑気に考え、寝ているメンバーはそのまま眠り続ける。
私とロビンはお風呂上がりのその状態から網の様子を見に行き、ゾロを呼ぶ。それに応えるように眠そうなゾロが網を引き上げれば、その直後にその場で寝てしまうゾロにロビンと顔を見合わせて笑い合う。
そこへ楽しそうですねと言いながら、メロリンモードのサンジ君が姿を見せるので、魚を選別してくれるのを待ちロビンと共にキッチンに運んで行く姿を見送る。そんな2人が去ったその場所で私はまた網を確認して海に下ろせば、朝の仕事はまず1区切りなので少しばかり伸びをして深呼吸をした。
海風は優しいけど、肌と髪へのダメージは半端ない。それでも私は海が好きだと、そんな事を思う。
クリマタクトで植物に水をあげながら、天候の確認と針路の確認を行い、僅かな時間だけ甲板にて船縁に寄り掛かるようにして読書を楽しむ。そうしているとサンジ君が作る朝食の香りが漂ってきて、皆の楽しそうな声が聞こえて来た。
そして、朝食ができるとその時の食事に好物が混ざってる誰かが呼び掛けてくれるのだ。早く食べようと言って。
「ナミー!今日は魚の蒸し焼きとイカと小海老のサラダだってよ!早く来いよ!」
「あら、今日も美味しそうね」
ウソップの声にそう答えて栞を挟みながら食事室へ向かう。中には全員が揃っていて、早く食べようと誘ってくれる。
皆で笑いながら食事をして、デザートを楽しみながら会話をする。変わる事の無い日常の風景の中に、私は自然と溶け込ませて貰っている。
食事を終えたらまた針路の確認をして、それから少し部屋に入ると海図を描いてしまう。移動した分の海図を描いてから少しの資料と紙等を手に甲板で編纂や執筆をして行けば、目の前に腰掛けているロビンが新聞や本を読んで必要そうな情報があると教えてくれる。
時々チョッパーやウソップが何か分からない事を聞きに来て、サンジ君が飲み物やデザートを運んで来てはそのついでにレシピについて質問して行く。ゾロはその間もずっと甲板でトレーニングしてるか寝ているかで、ルフィは誰かと釣りをしたり遊んだりして過ごす。
執筆や編纂の区切りが着いたところで少し伸びをすると、ルフィが何か歌ってくれとか、演奏してくれと言うので、望むままにそれを行い、ロビンは膝や肩に暖かい布を掛けた状態でそれを楽しそうに眺めている。いつもと同じ、賑やかで笑いの絶えないメリーは、別れが近い事を少しも感じさせはしない。
「そろそろお昼ね。ゾロを起こしてくるわ」
「あ!いいよ、ナミはそれもう少しなんだろ。書き上げちまえ!俺様が起こしてやる」
ウソップがそう言ってゾロを起こしに行けば、ルフィはそれに付き添い共にゾロへと悪戯を仕掛けては、目覚めたゾロに叱られるのを飽きもせずに繰り返す。目覚めたゾロが魚の網を引き上げるだろう事は分かっているので、私はちゃんと網を海に戻しておいてよと言いながら1冊の本になる量まで文字を書き進める。
そうして書き上がった物を簡単に見直してから、首に掛けている笛を吹けばクーちゃんが飛んで来てくれてそれを迎える。相変わらず可愛いクーちゃんに癒されつつ、新たな作品を託せばクーちゃんはそれをいつものように受け取ってくれた。
でもそこで仕事が終わる訳ではなく、受取った物の代わりに今回の売上や、前回渡した物のミス等が無いかを確認するようにと書類や未完成の書籍を差し出して来るのだ。チェックを終えてクーちゃんにそれを返せば、完成品として渡された新刊の種類を確認して、それを1番喜びそうな人に託す為に名を呼ぶ。
レシピはサンジ君、医学書と児童書はチョッパー、童話と資料系の本はロビン、戦闘シーンの含まれる小説はウソップ。偉人伝や誰かの話を纏めたもの、国から狙われかねない本は特に誰にも見せる事なく本棚にしまわれて、読みたい人が勝手に読む事になる。
今はまだ譜面を喜ぶ仲間がいないので、それも含めて本棚に片付けられる。勿論チョッパーとサンジ君に渡した専門書の他は、読み終えれば返されて本棚へと並ぶのだけれど。
「この魚の種類なら、昼はパエリアだな」
サンジ君の言葉に歓声が上がるのを聞きながら、ウソップとチョッパーを呼んで新刊を手渡す。喜びながら去って行く背中を見送っていたら、ロビンが呟くように言う。
「これなら、この規模の船に本が溢れているのも分かるわね。陸に行く事無くこれだけの本が自然と集まるのだから」
「ふふ、何か読みたい本があれば教えて。その時はクーちゃんにお願いして次来る時に持って来て貰うから。勿論、その分のお金は各自で支払ってもらうけどね」
「そのうち本のせいで沈みそうね」
「……メリーはきっと頑張ってくれるわ」
視線を泳がせる私に、ロビンは笑う。小説は今度読み終わった物から陸につく度に売る方が良いかしらなんて話しながら、サンジ君が食事の完成を報せるまでまた何かを書いていく。
次の島でのお小遣い等を計算して、必要経費を算出して、それぞれに渡せるように仕分けて行く。
「人数より袋が多いのね」
「サンジ君のお小遣いと、食費は別にして渡さないといけないでしょ?他にもチョッパーの医療品とお小遣いも分けなきゃだし、細かい買い出しのお金と皆のお小遣いも分けなきゃ。ロビンがいつも必要そうな本を見て来てくれるのに対して、後からその分返す形しか取れないのが申し訳無いなっていつも思ってるのよ」
「私としては、読みたい本をお小遣いとは別の枠で買わせて貰えるだけで幸せよ。そもそもお小遣いなんて、私この1味で初めて貰ったのよ」
「男より女の方が必要な消耗品の量が多いのだから、そこはちゃんと上乗せして計算してるわよ。今まで大変だったのね」
私の言葉にロビンは、そうでも無いわなんて言って笑う。必要なら能力使えば盗めるものなんて言うから、全くと笑い返すしか無くなってしまう。
そこへ女の方が小遣い多かったのか!と騒ぎながら近寄るウソップとルフィに当然でしょうと言いながら笑う。私のインクや紙などの購入費用も必要経費として算出するようにと皆に……特にウソップに叱られて、計算を変えたらその消費額を見た皆に小遣い無くなってるじゃねェか!と叱られたのがまるで昨日の事のように思える。
毎日が濃厚で、濃密で、慌ただしくも楽しいから日にちの感覚なんて航海日誌とか新聞が無ければすぐに分からなくなりそう。その時サンジ君が皆を呼んだので、揃って食事をしに向かう。
美味しい食事を楽しみ、感謝して、そろそろトマトが収穫出来そうなのよとか、他愛無いけれども大切な話をして行く。トマトがあるなら今夜はミネストローネも良いですねなんて話すサンジ君に、皆が大喜びして賛成する。
食事の後もロビンと共に行動する事がどうしても多くて、その時ふとロビンが何かに気づいた様子で首を傾げた。
「ねェナミ、ルフィと剣士さんのお小遣い……皆より少なくない?戦いとかでいつも主戦力なのでしょう。大丈夫なの?」
本来この船においてお小遣いと呼ばれている物は、正式には報奨金と呼ばれて、役職や仕事量、その結果等に応じて変動する他に、怪我をした時のお見舞金等が含まれる。けれどもこの船においてはそこは完全無視で、全員平等のお小遣い制度だったりする。
「ルフィは全て食べ物に、ゾロは全て酒に変えちゃうから、何かあってお金が必要になった時困るから、半額だけ渡してるのよ。ちゃんと別にして貯めてあるから、何かの時にはそれを渡してるの。例えば、刀が折れた時とか、船長として何かの責任が生じるような事もあるから」
「……それは、本人達が管理して貯めるべきでしょう?」
ロビンが呆れたように言うけど、それが出来ないのだから仕方ない。そう言って溜息を落とした私に、ロビンはあらあらなんて言いながら笑う。
皆が揃っている。皆が笑っている。
当たり前のようで、当たり前なんかじゃない幸福な時間は、緩やかに過ぎて行き、今日も夜がふける。ロビンが寝たのを確認してから、私は寝ている間に溜まってしまった海図や地図を描いて、朝日が登り始めたのに気付いて慌ててベッドに入った。
こうしてロングリングロングランドでの日々は終わりを告げた。次の島に近づいている事は、楽しみでもあり恐怖でもあるけれど、避けては通れないのだからと布団の中で私は丸くなる。
これから先も、ずっとこんな日々が続けばいいのにと思いながら……それが叶わない事も、本当はちゃんと知っているの。持て余した感情を吐き出す術も分からずに、逃げるように眠りに落ちる事しか今の私には出来なかった。
波間の向こうを目指して、メリーに乗って共に進む。今の所、海には何の変化も感じられない。
ロングリングロングランド編ー完
ロングリングロングランド編これにて完結でございます。長らくのご愛読誠にありがとうございました。
明日からはW7編に入らせて頂きますので、お時間等にご都合が着きますようでしたら、是非引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。
ここで追い付きましたので、この先は通常の掲載速度に戻させて頂きます。
次回掲載は明日、6時を予定しております。
色々な観点から、調整の為明日の本編掲載は6時の1回だけとなります事、ご了承ください。
これからもよろしくお願いします。