※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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このウォーターセブン編は全29話となっております。本日より掲載時間変更させて頂きますので、よろしくお願いします。


W7編
涙と不安


 今日もまた昨日と同じような1日が過ぎる事を願いつつ、私はサマーチェアの上で伸びをする。朝食を私は既に終えているけど、時間としてはまだ朝の枠に当たる筈の時間帯。

 微妙な表現になっているのは、回復したかに思われたロビンが理由。今日は朝食を食べられそうにないと、ロビンが言っていたので現在部屋で休んでもらっている。

 ゴーイングメリー号はルフィとロビン、オマケで私の為に、ロングリングロングランドに4日間停泊していた。その後出航し、今日は航海3日目という事になる。

 

 「うーん!良い天気!」

 

 思わず声に出したくなる程に穏やかな気候で、空は快晴。天候は春、時々夏。

 ルフィはロビンの協力により、布団丸めて抱かせて放置した朝から時々文句のありそうな視線を向けてくる他は変わった様子もない。サンジ君とは2人にならないように気を付けているから、あれ以降何も起きていない。

 ロビンとは日々楽しく過ごしていて、ウソップの心に溜まっていたものはウソップが少しだけど吐き出してくれた事でいつもの笑顔に戻っているのが確認出来た。少し強ばりが残るのは、ウソップが自力で乗り越える他に手段はないのだから仕方ない。

 チョッパーは私が医学書の編纂をサボっていた事に何も言わないけど、それはペンを遠ざけていた事に対する自分のそれも加味してる可能性はある。だからと思って私は今医学書を出す為に編纂してるのだけど、これがなかなか上手く纏まらないのよね。

 どれを纏めたら読みやすいのか、どれを今纏めるべきなのか、それが分からないのだ。ゾロは特に変わった事も無くて、ウソップの勘違いなんじゃないのかななんて少し期待するけど、ウソップはそんな嘘をついたりしないと本当は分かってるの。

 それが嘘や間違いであれば、ゾロや私が傷付く可能性のあるそんな嘘は決して言わない。ウソップの嘘は、誰かを楽しませたりする為のもので、傷付けたりするようなタチのものでは無いから。

 

 「ジャガイモのパイユ。作ってみたのです。マドモアゼル。宜しければ」

 

 深く物思いに耽っていたのか、サンジ君が真横に来るまで気付かなかった。お礼を言いつつ手渡されたパイユを遠慮無く貰って食べれば、流石はサンジ君と言いたくなる程に美味しい。

 

 「ふふ、美味しい。ねぇサンジ君。後でロビンも食べられそうならこれをもう少し柔らかくして、クリームグラタン風にしてあげてくれる?チーズは無い方が良いとも思うけど、どうかな?」

 「ナミさんはどうしてそう……」

 「だめ?」

 

 サンジ君を見上げて首を傾げたら、そんなナミさんが好きだー!と叫びながら幸せー!と続けるサンジ君を見て、どれが本音なんだろうと少し考える。そんな時、サンジ君の叫びにより目覚めたゾロがサンジ君と喧嘩を始める。

 そう言えば、私の傍には常に誰かが居るわねと思う。そう、ルフィ、ゾロ、サンジ君、ロビンの誰かが常に。

 私を守る為とでも言わんばかりのそれに、胸が微かに軋んだような気がした。……私、まさか足手纏いになってるんじゃ……?

 そんな風に沈みそうになる私の意識を揺り起こすようにサンジ君とゾロの喧嘩は激しさを増すから、いい加減にしなさいよと口にしつつもやはり何処か微笑ましい。そんなんだからデキてると思われるのよ、貴方達は……と内心で呟いてから騒がしい中甲板を見下ろす。

 そこでは凍った時の自分を真似て小麦粉まみれになっているルフィと、それを見て笑い転げるウソップとチョッパーがいた。だから私は立ち上がり柵に片手を置いて声を張り上げる。

 

 「こら!食べ物で遊ばないの!……だいたい死にかけといて良くやるわよ」

 

 私も同じ目にあったけど、目の前で凍っていたルフィに私がどれ程心配したか……。私の心はその時同時に凍り付いたような、そんな気がしていた。

 もしも凍る事が即ち死ぬ事ではないのだと知らなければ、私は勝てる筈も無いのに挑み掛かり瞬殺されていただろう。でも、シャンクスの言葉が正しいのならば、躊躇いというストッパーを無くした私はシャンクスでも本気で相手にしないと危険だとの話だから、多少の手傷は負わせられるのだろうか。

 小麦粉を落としたルフィが、気が付いた時には体をびよんと伸ばして私の目の前に顔を突き出していた。その上で心配そうな色をその瞳に宿し、けれども私が持っているお皿に気付くとその瞳を輝かせた。

 

 「ナミお前何食ってんだ?」

 「パイユ。ジャガイモよ」

 

 答えた私の唇にルフィは触れるだけの……バードキスをしてから、困ったような顔で笑う。その意味が分からなくて首を傾げると、軽く私の頭を撫でてルフィは言う。

 

 「心配かけて、悪かった。もっと、強くなるからよ、独りで、泣かないでくれ」

 

 そう言って私の頭に麦藁帽子を被せると、ルフィは喧嘩中のサンジ君の元へ俺も食べたい!と言いながら向かって行く。下からはチョッパーとウソップの笑い声がまだ響いていて、私は自分が泣いていたのだと漸く気付いた。

 小麦粉まみれになって再現されたそれを見ただけで泣いてしまう程に、私はルフィを喪う事が……怖かったのかと思い知る。もっと、強くなって……誰も失わない強さが欲しい。

 涙を拭ったその時、ロビンが船内から出て来たのが見えて思わずそれに笑って声を掛ける。それにロビンも笑顔で大丈夫だと返してくれるけど、無理してるんじゃないのかなと心配になる。

 サンジ君がパイユを用意すると約束してから、ロビンの元へ向かったのを期に、ルフィが私の元へ戻って来たのでその頬をムニッと掴む。そして、気兼ねしてるんじゃないのかと、これのせいで気兼ねしてるんじゃないのか!?と、繰り返し訪ねたらルフィから抗議の声が上がりロビンはお腹を抱えて笑い出した。

 その様子に私以外の全員が動きを止めてロビンを見て、それから私を見て何故か私にすげェとか言い始めた。……私がいったい何をしたと?

 ロビンの体調を鑑みて、私も船内に入る事となったのはロビンが私の傍だと明るく楽しそうにしているから、回復も早いと判断されたのが大きい。ロビンと穏やかにティータイムを楽しみながら、ハニークッキーとハーブクッキーを今度1緒に作らないかなんて話していた時、メリーが突然進路を変えた。

 何事かと慌てて外に飛び出した私の目に飛び込んできたのは、蛙を追い掛けているという現実。その蛙と言う単語と姿で、キュィンという耳鳴りがした。

 思わず耳を抑えて、けれども戻る記憶がそのまま頭痛を引き起こすけれど、頭痛如きで倒れる事を状況が許さない。このままではメリーが砕け散る!

 ダメよ。海列車に巻き込まれたら、メリーが持たない。

 灯台を目指して突き進む男達は、蛙を追い掛けるのに必死で、そのリスクに全く気付いていない。ルフィとサンジ君は食べる為に追い掛けていて、理由も知らずに追い掛けていたチョッパーとゾロが喰うのかよと怒っている。

 白ワインで臭みを消して、とか言って蛙料理に思いを馳せているサンジ君には悪いと思うけど、皆の団結力は素晴らしいけど、危険すぎる。私は必死で声を出す。

 

 「状況確認するから、1度止まって!お願い!」

 「俺はどうしてもあの蛙を食いたいんだ!」

 「メリーを壊したいの!?止まりなさい!」

 

 私の剣幕に皆が動きを止めて、けれどもメリーが何かに乗り上げた衝撃を感じてしまえば慌てて戻ってと叫ぶしか出来ない。それにより何かを感じたのか全員でメリーを戻してくれ始めたけど、少し乗り上げたものから距離が離れた所で私の体は崩れ落ちる。

 海列車に巻き込まれない事による安心感ではなくて、頭痛によるものであるのが何とも情けない。たかだか頭痛如きで……こんな、倒れてる場合じゃ……。

 

 「ぅ……グッ……」

 

 抑えきれない呻き声が自分からもれる。それがまた情けなくて、悔しい。

 残念ながらくっ殺でも、くっやらでも無いけど、体はゆらりと軸を失い揺れながら倒れて行く。それを傍にいたロビンが支えてくれて、甲板とのキスは免れた。

 だけどお礼を言う余力も無い。後でちゃんと言うから、今は少し待って欲しい。

 ロビンはそんな私を優しく柵に寄りかかれる形で座らせて、海列車に視線を向けた。海列車が通過する波で船が大きく揺れるのを感じながら、私は記憶の奔流に悲鳴をあげそうになるのを押さえるしか出来ない。

 蛙と海列車の戦いに、皆が騒いでいる。あの蛙は……そうか、ならもうすぐ仲間に……フランキーに会える。

 街のゴロツキを束ねるリーダーで、仲間になるのに時間がかかったって事しか覚えて無くて、私はこの先まずどうしたらいいかなと考える。だって、見えるものが恐ろしく断片的で、誰が敵なのかが全くわからなかったから。

 ロビンがお面をつけた人について歩く姿。血塗れで倒れているウソップの姿。

 メリーは直せないと言い放つ四角い鼻のウソップ擬きと、憎きCP9と言う単語。そして、アクアラグナと呼ばれる高潮。

 ロビンを苦しめるバスターコールと言う存在が鮮明に映し出されるのと同時に、ロビンの過去が濁流のように押し寄せ目の前にその光景が広がっているような感覚に陥る。幼いロビンが、泣いている……。

 ロビンの全てを奪い、ロビンを苦しめたバスターコールが目の前にあるような錯覚に陥る。今の大将……当時はまだ中将か何かだった青雉や赤犬がまるで目の前にいるような気がした。

 

 「ナミ!大丈夫か!?」

 「ルフィ……。大丈夫、よ。でも、少し胸を貸して……くれる?」

 

 心配して駆け寄ってきたルフィの腕に縋るようにして、私は心配してくれるルフィに甘える。私に、泣く権利なんてありはしないのに、どうして……涙が止まらないのだろう。

 ルフィの胸で溢れて止まらない涙に動揺しながら、ロビンに支えてくれてありがとうと言えば、ルフィが私の背中を優しく撫でてくれた。それから涙がゆっくりと落ち着き、呼吸を整えた私にチョッパーが水を差し出してくれた。

 その水を受け取り、口にするとチョッパーが心配そうに顔を覗き込むから、大丈夫よと笑う。それに対してチョッパーは呆れを全身で表現してきた。

 

 「ナミの大丈夫って、本当にあてにならねェな。ウソップの言ってた通りだ」

 「ウソップ……どういう事?」

 「間違ってねェだろうが」

 

 そう言いながら暖かいタオルを睨み付ける私の顔面に投げつけてくるから、それを使って目元を隠しつつ、借りたままになっていたルフィの帽子に手を伸ばそうとしたら、ルフィにまだ被ってろと言われてしまう。何とも情けない自分に深く溜息を落として、私はタオルで目元を暖める事に集中する。

 本当は冷たいタオルとで交互にやる事で、瞼の腫れは軽減されるのだけれど……今は、これ以上泣かない事にのみ、集中したい。これ以上、情けない所は、見せたくないな……。

 止まらない涙と、襲い来る不安に体の震えが止まらなくて、そんな私をルフィが優しく抱き締めてくれていた。ルフィの鼓動が、私の乱れた感情を宥めてくれているのは、間違いようのない事実だろう。




明日から1日2回午前と午後の6時に本編作品の掲載をして参ります。
詳しい掲載時間につきましては、活動報告を書かせて頂きますので、そちらをご覧下さい。
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