※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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人魚?

 目元をタオルで抑えながら、少し冷静になって考えてみる。頭痛は既に治まりつつあるから、色々と考える事が可能になってきたのだとも言えなくはないけれど。

 例えばここで〝私は未来を見えるの〟と話したとして、ロビンが狙われてるのだと話す事が果たして正解か?

 答えは考える迄もなくNO。だってルフィは先の見えてる冒険なんて楽しくないと言っていたし、ロビンの過去を私が勝手に話す訳にはいかない。

 でもその辺を上手く隠して、ロビンが世界に狙われてて危険なのだと話してメリーでそれを迎え撃つ事になれば、どうかな。……駄目だわ。

 そうなればバスターコールがメリーに直接向けられる事になる。それでは流石に足場も無くなり勝てない、対応しきれないわ。

 それならばロビンを説得して、1度捕まって従ってるフリをしてもらう?

 それも難しいわよね。だって皆がそれを納得したり、容認したり出来る筈が無いもの。

 敵が誰で何人いて、確実にロビンが無事でいてくれる保証がないから、誰1人それに賛成はしないだろうと分かる。……どうしたらいいの……?

 そう考えた時、とりあえず戦いの場はエニエス・ロビーが適してると、それだけは確実に言えると思ってしまった。戦場となる場所が、いつだって最悪の被害を受けるのだから、私達の大切な仲間を奪おうとするならば、それくらいの痛みは背負ってもらわないとやってられないわよねと。

 いつかはロビンを守る為に避けて通れない戦いだと言うのならば、確かにこのタイミングが1番良いのだろう。けど、ロビンを苦しめるのも、皆を傷付けるのも、私は嫌だなと思うの。

 

 「ロビン……何処にも、行かないでね」

 「どうしたのよナミ。何だか気弱ね」

 「頭痛が酷くて、なんか心細くなっちゃったみたい」

 

 正解の道なんてなんて分からない。でも、勝たなければ喪うのならば、勝つしかないじゃない。

 喪わずに済む道が無いのであれば嘆くしかないけれど、ロビンを喪わない道は残されている。……メリーだけは、どうにもならないけれど……。

 

 「珍しいな。でも、俺は少し嬉しい。ナミはさ、頑張りすぎなんだよ」

 

 ルフィの優しい声に、ただありがとうと返して私は立ち上がる。いつまでも立ち止まっても、泣いても居られないから。

 タオルを目元から離して強く握り締めると、近くに見えていた灯台に向うように皆に指示を出して行く。そこにはココロと名乗る酔っ払いと、チムニーと名乗る酔っ払いの孫という2人の姿と、猫……?の姿があった。

 そこでこの線路や海列車、先程の蛙についての説明を受けた私達は、成程ねと頷く。それから私は、ふと思い出した事がありココロさんに聞いてみる事にした。

 

 「所で、ココロさん。人魚って全員歌が上手いの?」

 「若い頃は比較的上手いれ。なんれらい?」

 「私ね、人魚説があるのよ。でも、見ての通り尾は無いから、人魚は歌が上手いなら私の人魚説が崩れるかなって思って」

 「あんら、歌が下手らのかい?」

 

 可笑しそうに笑いながらココロさんが尋ねてくるので、私はそれに素直に頷く事で応える。すると何故か皆が白い目で私を見て来て、理解不能過ぎて首を傾げたら何故か揃って肩を竦めたり溜息を落としたりし始めた。

 

 「何か歌ってみれくれるかい?そうすりゃ、わかるろ思うよ」

 「何かって……」

 

 突然そう言われても、思い浮かぶものは無いし、楽器もない。そう思ったらロビンがコニスから貰ったハープを差し出して来て、楽しそうに笑うのだ。

 

 「楽しみだわ。ナミは何を歌ってくれるの?」

 「俺も楽しみだ!好きなので良いぞ!」

 「なら、俺は皆様方に飲み物とパイユをお持ちしましょう」

 

 ロビンの言葉にルフィが続けば、それにサンジ君までもが参戦する。なんだかんだとサンジ君は、ルフィ寄りの人なのかも知れない。

 そんな事を考えながらメリーの方に視線を向けると、メリーから降りてる今はメリーに向けて歌える事に気付いて、それと同時に無意識の内に指が音を鳴らし始めていた。音が鳴れば、歌える。

 

 「題名は〝Be as ONE〟」

 

 私の唇が題名を紡げば、皆が集まって来た。皆は今ブルックがいないから、とりあえず演奏だけまともに出来る私で我慢してくれてるのだと言う事は分かってる。

 

 「ーーー」

 

 遠過ぎて、目指す事も出来ないような気がしていたその場所は、私の夢へと繋がる道。ラフテルへと私を連れて行ける男にしか、私の夢は叶えられないのだから……。

 

 「ーーー」

 

 我儘で臆病な私を励ましてくれる優しくも温かな声が、私を包み支えてくれるの。その声の中には、ねぇ……メリー、貴方の声もあるのよ。

 

 「ーーー」

 

 誰も何もいらないと全てから背を向けていた時でさえ、メリーだけは私の傍に居てくれた。心で泣いていた私をただ乗せて、優しく運んでくれた。

 突然訪れた意味のわからない恐怖の出来事も、切り裂かれそうな痛みと悲しみの中に居た時も、メリーは黙って寄り添っていてくれた。心配してくれていたよね。

 メリーの優しさに、私はあの時縋って、頼っていたの。私はメリーがいたから……あの場で崩れずに、前を向いて居られたのよ。

 

 「ーーー」

 

 理想通りの自分になんてなれないし、理想通りの日々じゃない。毎日が驚きの連続で、心だって休まる時は無いけれど……。

 それでも約束するわ、微笑みだけは絶やしはしないと。だって私には、それしかないから。

 

 「ーーー」

 

 無邪気な笑顔と優しい声で、私を導いてくれる。皆は魔法の言葉を使える、優しい人ね。

 

 「ーーー」

 

 皆が居るから、居てくれるから、1人じゃないと信じられるから……だから私は、逃げ出さずに居られるのよ。大切だからこそ、逃げたくなる時もあるけど、挫けずに居られるの。

 

 「ーーー」

 

 どれ程高い壁も、超えられないような試練も、皆が居るから強くなって超えていける。いくらでも、皆の為なら私は強くなれる。

 

 「ーーー」

 

 何処までも真っ直ぐに前を見据えるその背中に、必死になってついて行く。だってそれだけが、私の道標だから。

 

 「ーーー」

 

 無数に有る未来を、その中でも最良の道をきっとルフィは選んで居る。だからどれ程不可能に思える事でも、信じる事が出来るの。

 

 「ーーー」

 

 不可能なんてない。迷う必要も無いと、共に歩んでくれる皆が居る。

 

 「ーーー」

 

 終わる事の無い悲しみの中でも、手を取り合える人がいる。だから何も怖くないの。

 

 「ーーー」

 

 そんな私達全員を支えてくれているのは、メリーなんだって事、ちゃんと分かってる?

 心はいつも、共に居るよ。だって私達はメリーも含めて、全員揃って初めて、麦藁の1味なのだから。

 歌い終えて、演奏を最後まで終えてからココロさんに視線を向けたら、何故か頷かれた。何だろうと思ったら、楽しそうに笑って妙な事を言う。

 

 「人魚らと言われても、おかしからいね!」

 「いや、おかしいから!だから否定してもらう為に聞いたのよ!?」

 

 私の反論を聞いたサンジ君が、不思議そうに問い掛けてくる。本気で不思議そうなその顔は何処か幼い。

 

 「なんでナミさんは、人魚の事をココロさんに?」

 「だって、ココロさん、人魚でしょ?」

 

 その瞬間その場の空気が凍り付いた。それに私は首を傾げるしか出来ない。

 あれ?違った?

 衝撃的過ぎて、それだけは覚えてるのよね。男の夢と浪漫と願望を詰め込んだって原作者様言っていたのに、人魚の初登場がココロさんで、読んでた時に私、心臓止まるかと思ったのよ。

 

 「ナミさん、落ち着いて。多分さっき倒れた時に脳内で化学反応みたいに何かが起きたんです。落ち着いてください」

 「そう、なの、かな?」

 

 首を傾げた私に、ココロさん以外の全員が頷いたので、とりあえずこの場はそうなのだという事にしておく。だとするなら私の記憶、本当に当てにならないわね。

 その後私に歌が上手いよと褒めてくれるココロさんとチムニーに対して、おべっか使っても何も出ないわよと呆れて言えば何故か皆と顔を見合わせて頷き合う。……なんか、私だけ仲間外れな気分。

 その後そこで私の記憶には欠片も引っかからない町の情報を貰い、ウォーターセブンについても情報を得る。私は全ての島に行って地図を描きたいから、いつかはその島にも行きたいけど、今はまず……ウォーターセブンに向かわなければと、美食の町プッチに反応するルフィを宥める。

 可能なら私だって、春の女神の町セントポプラに行ってみたいわよ。でも、私の記憶と知識が正しければ、時間がそれほど無いから諦めるしか無い。

 それから私の歌を聞きながら、サンジ君の作ったパイユを堪能して、気分が良くなったらしいココロさんのくれた紹介状と地図を持って、ウォーターセブンへとメリーを進ませる事になった。2人と1匹に別れを告げて、メリーの船首にそっと触れる。

 少しでもこの想いがメリーにも届いていたら嬉しい。私は、メリーと別れたくない。

 そんな私達を見送るココロさんが呟いた言葉は、私達の誰にも届いてはいなかった。それが届いたのは、隣にいた孫娘のチムニーだけ。

 

 「あの船は幸せらね」

 「どうして?おばあちゃん」

 「あの海賊娘が歌っれらのはね、仲間ろあの船への想いらよ」

 「船への、おもい?」

 「人魚れもないのに、あの海賊娘……船がもうもらないころを、知っているね」

 「え!?あの船もうダメなの!?」

 「今動いれるらけれも、奇跡らよ」

 

 チムニーがその言葉に悲鳴をあげても、それは麦藁の1味の誰にも届きはしない。麦藁の1味は、偶然辿り着いた見た事も無かった〝海列車〟の駅……シフト駅を後にして、新たな仲間を引き込むべく〝水の都〟ウォーターセブンを目指す。

 メリーの上では、それぞれが思い思いの船大工を想像していた。サンジ君は美女の船大工を、ルフィは大男の船大工を希望している。

 絵心のないルフィの描いた船大工は妖怪のようだけど、多分ルフィの希望している船大工なのだろうと言う事は解る。ただ、その妖怪のような絵が何処と無くフランキーと似てる気がして、少し笑えた。

 笑えたのは、私の中で歌った事がきっかけで何かが吹っ切れたからかも知れない。悩んで立ち止まってもどうにもなりはしないから、私にできる範囲で回避出来そうなものは回避していこうと決める。

 そんな中でゾロが、そもそも海賊になりたい奴と言うのが居ないんじゃないかと言い出す。まぁ確かに、それはその通りだろうと思う。

 確かここの市長に、この島の人達は心酔していたから余計に難しいだろうって事も含めて。それでも私はフランキーが仲間になる事だけ知っているのよね、経緯は覚えてないけど。

 チョッパーは無邪気に仲間が増えると喜んでいて、それがまた異様に可愛い。ロビンはそんな皆を眺めて微笑んでいて、ロビンこそ女神なんじゃないかと思わされる。

 サンジ君見る目ないわ。私よりロビンの方がずっと素敵なのに。

 私はココロさんに貰った地図を到着前に確認しようと思って広げて……甲板に叩き付けた。

 

 「分かるかっ!」

 

 そんな私に皆が笑う。なのでその地図を見せてやれば、皆が黙ってくれたので良しとする事にした。

 ……なんにも解決しないけどね。

 私は見ても分かる筈のない地図を片付けて、眼鏡を掛けて髪を纏める。お団子頭にするのも久しぶりな気がするわ。

 そう言えば、ルフィは私のリボンどうしたんだろう。まだ返して貰ってないな。

 そんな事を考えながら、先に分けておいたお小遣い達の計算を滞在期間が判明したのを期にやり直そうとした所で思い出す。そうだ、この島は移動にもお金が必要なんだった。

 買い出しとお小遣いと……そう1人でブツブツ言いながら移動経費の分もそれに足して行くと、予定よりどうしても多くなるけど、この場合仕方ないわよねと思う。ココロさんが言うにはこの島のログが溜まるのに2週間。

 その期間、本当に何事も無く過ごせたらいいと願うように思いながら、私は直ぐに見えてくる筈の島がある筈の前を見据えるのだった。




おはようございます。今日から8月ですね。
学生さんはお休みですかね?
本日もよろしくお願いします。
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