とりあえず今はいくら怯えようと、不安になろうと解決しない。だからと思って私は皆に笑顔で声を掛ける。
「じゃぁ皆来て!滞在期間2週間分のお小遣い渡すから!」
皆は大喜びで集まって来て、サンジ君とチョッパーにはお小遣いとは別な袋も渡す事に数名が不満そうな顔をする。でもね、医療品と食料品買う為のお金だから……特にルフィはそんな顔しないで欲しい。
それでも表情の他は、素直に受け取った面々はお小遣いを手にその場を離れて各自行動を開始する。私は少しだけ椅子に座って休ませて貰いながら、色々と計算方法に間違いがないかとかも含めて考える。
チョッパーがどこかで医学書を見付けた場合は、それの代金は後程支払う事になっているので1応それを今回も伝えてある。童話とか小説とかは、自分のお小遣いから出してもらうけど、医学書は医療品の1種に換算されて然るべきだと思っているから。
チョッパーは可愛いけど、だからと言って贔屓していい所といけない所はこれでも弁えてるつもりなのよ。それでも、可愛いからってだけじゃなくて、この船の命綱であるチョッパーには可能な限りは優遇しているけれど。
平気で鼠を食べてしまう三強を初めとして、平気で毒草や毒茸を食べる船長に、毎回防御を考えないで大怪我している剣士。接近戦になるとある意味終わってしまう狙撃手と、怪我をしてもそれを隠すコック。
更に過去に面倒なモノを抱えている女が2人居るのだから、チョッパーの苦労は考えるまでもなく恐ろしく多い。だから多少の贔屓は大目に見て欲しい所だったりする。
その時、見張りを自ら買って出ていたルフィが嬉しそうな声を上げた事で、全員の意識が波間の向こうへと向けられた。新たな冒険が、始まろうとしている。
「島が見えたぞォー!」
ルフィの示す先には、夢のように現実感のない島が見える。流石はワンピースの世界だと、感嘆の息がもれる程に美しいその島は、まるで噴水をそのまま街にでもしたようで……。
ベネチアのような雰囲気だったかなと曖昧な記憶を辿りながら、私にとっても1味の皆にとっても、長過ぎる滞在となるウォーターセブンに視線は固定されている。それぞれがその島の見た目にまず圧倒される中で、私は脳裏にチラつくロビンの悲しい決断と、何故か分からないけどウソップが大怪我して転がる姿に、翻弄される。
私に、何が出来るだろうか。……分からないけど、やれるだけの事は、精一杯の事は、やってみせると1人決意して私は息を吐き出す。
分からない事が多過ぎてどうしたら良いのか分からないけど、立ち止まっていてはどうにもならないからと心を鎮める。そして笑顔で声を掛ける事が、今の私に出来る唯1の事だろうと思いながら、笑う。
「皆!あの島に向かうわよ!ココロさんが言うにはこの島のログは2週間!その間に、やる事は沢山あるんだからね!」
「「「「「おォ!!」」」」」
男達の声が揃い、ロビンは笑う。メリーがウォーターセブンを目指して移動していたら、海賊なら裏町に回れと教えてくれる人がいて、流石は造船業で生き抜いている島だと思わされる。
外から見ているだけでもだいたい理解出来る。水の都の名に相応しいこの島は、ベネチアのゴンドラに近い何かが動いているのが分かるけど、少し距離が有りすぎて理解が追い付かない。
ゴンドラを漕いでいる人の姿が見えないのに、動いているのが分かるから。だからってこの世界の科学技術を考慮すると、モーターボートがそんなに沢山あるとは考えにくい。
測量は出来ても、内情は島に降りなければ分かりそうもないわねと笑う。見える範囲では、街並みも何処かベネチアのそれと似ている気がして、素敵だなと思えば自然と少し笑みが浮かんだ。
やはり知らない島に行くのは楽しい。何もわからないのはいつもの事で、未来なんて本当は誰も知らないのが当然なのだから、情報が無いと嘆くのは後にしようと決めて裏町へとメリーを泊める。
岩場のような硬い地盤の辺りにメリーを泊めて、メインマストを戻そうとしたゾロがいつものようにロープを引っ張った時、メリーが大きく歪んだ。それにより私とウソップは、即座に恐らくは同じ事を思ったのだろう。
それでもウソップはその現実を受け入れたくないのか何も言わなかったし、私も船大工じゃないからなんて言い訳して……現実から視線を反らしていた。考えなくてはいけない事は沢山あるのに、どうして私はすぐに逃げようとしてしまうのだろう。
ウソップが大怪我してしまう姿が見えていたから、私はそれを防ぐ為にとウソップとルフィに声を掛ける。ルフィも1緒にいれば、ウソップが1人あんな姿になる事は無いだろうと言う判断をした為だ。
「黄金の換金と、それで手に入ったお金でメリーの修理頼みに行きたいのよ。だから、メリーを直し続けてたウソップと、船長のルフィには1緒に来て欲しいわ」
「「おォ!任せとけ!」」
2人の声が重なり、同時に頷いてくれたのを見て私は笑う。これで起きなくて良い事項の1つは防げるだろう。
他に何か手はないかと考えて、ロビンを1人にさえしなければロビンとCP9が接触する事が出来ないのでは無いだろうかと思い付く。それなら、ロビンも守れるかも知れないわ。
「女が1人で出歩くなんて、これだけ大きな島だと不安だからロビンが出かける時は必ず誰かエスコートしてよね!任せたわよ!」
「ナミは私に対して過保護だと思うけど?」
「病み上がりが何を言ってるのよ!ちゃんと誰かと出かけてよね!」
「はいはい」
私とロビンの会話に皆が笑う。仲良いよななんて言われて、私は見せ付けるようにロビンに抱き着くと、にっこりと笑って言う。
「青雉にも〝私のロビン〟って言ったのよ。当然じゃない」
「それ、誤解が生じそうね」
ロビンの呟きに私は素直に頷いて、勘違いされたけど放置しておいたわと言えばロビンが呆れたような視線を向けて来た。でも私、誤解されても困らないもの。
「ナミ……恐ろしい子」
ロビンの言葉に私は何か覚えがあるような気がして少し首を傾げてから、有名過ぎる少女漫画を思い出して、千の仮面持ってないわーと内心で笑う。それからルフィとウソップに黄金を背負わせ、前にも掛けさせ、更には両手に持たせて出発する。
「何だか夜逃げする人みたいね」
そんなロビンの声が聞こえて来て、チョッパーとゾロが吹き出して居る声が背後から聞こえたけど、楽しそうだし私としては黄金が重くて反応してる場合じゃないから、今回は適当に聞き流しておく。帰ったらロビンを擽り倒してやるんだら!
出発前の話では、チョッパーは本を見に行きたいのと観光に行きたいと話していた。サンジ君は食材の買い出しに行こうと思ってるだろうし、ロビンは観光方々情報収集したいだろうと思う。
ゾロは特に外出希望が無い感じだったので、船の見張りはゾロになりそうねと考えながら歩けば、少し進んだ所に貸ブル屋と言うものが見えてきたので、それに近づいて行く。目的地は先に換金所へとの事になったのは、これだけの宝に囲まれていては身動きが取れないからと言うのが大きい。
それに黄金の状態では前金として払う時に、足元を見られるリスクがある。これだけ純度の高い黄金だけど、それは鑑定技術のない奴らには分からないもの。
貸ブル屋にて情報収集をしつつ、観光を楽しみながら換金所へ向かう事になればルフィとウソップは水水肉という食べ物に夢中になる。ヤガラちゃんの好物だと聞いたので、ルフィの乗っているヤガラちゃんと私とウソップの乗っているヤガラちゃんに1個ずつあげて欲しいと店主に頼んでお金を支払えば、店主がヤガラちゃんに優しいお客さんだねと笑った。
「ナミ!俺にも優しくしろ!」
「ルフィちゃん、はい、水水肉ですよ。あーんして」
五月蝿いからと水水肉を追加で1個購入して幼子に言うような言葉をルフィに向ければ、素直に口を開けられたのでどうやらこれで合っていたらしいと知る。ルフィの中では、ご飯くれる人イコール優しいなのかしらと考えて呆れそうになりながらも笑う。
「ナミ、ルフィ、俺様も居るって事、忘れてねェか?」
「覚えてるけど?……あ、ウソップもあーんして欲しいの?」
「……遠慮しとく」
ウソップは疲れたようにそんな言葉を返して、自らのお小遣いで買った肉を食べる。そして、美味い美味いと喜ぶから、良かったわねと笑いながらヤガラちゃんに移動を頼む。
途中仮面を付けた人達が多く闊歩しているのを見れば、確かにこれなら悪い事をするのもやりやすそうねと苦笑してしまう。ロビンがお面を付けてるCP9の後ろを歩いている姿を思い出して、けれどこれでは犯人が分かる筈もない。
何か犯人に繋がる特徴的な物があればと1瞬考えて、観光客も多いこの島であの姿では難し過ぎると判断した。水水肉のお店は点在しているようで、見つける度に追加購入して食べているルフィに、やはり半額しか渡さないのは正解よねと思えば自然と溜息がもれる。
「それ、2週間分だから今全て食べ尽くしても追加は無いわよ」
「そうだった!今日だけで食い尽くすところだったよ!教えてくれてありがとう、ナミ!」
「どういたしまして」
ルフィに返事をしつつ、私も折角だから自分用に水水肉を買って食べてみる。これまでに食べた事の無いタイプの肉で、美味しいし柔らかいけど、油の塊って感じでも無いから素敵だわと思う。
鶏皮のように柔らかいし、プルプルしていてコラーゲンと言えば聞こえはいいけどみたいなものだと思っていたので、これは嬉しい誤算。読んでた時、食べてみたいと思っていた事を今更思い出した。
それでも半分も食べれば私には十分だったので、残りをルフィにあげれば大喜びで、その笑顔が可愛いと思っていたらウソップにだからお前らはと叱られてしまった。……でも、ルフィが可愛いのがいけないと思いませんか?
そんな感じで楽しくも賑やかに観光を楽しみつつ進めば、エレベーターがあると言う。水を用いてのエレベーターとは面白い。
日本にあった機械式のそれとは違うけれど、嗚呼……鼠のキャラクターで有名なテーマパークに、似たようなシステムのお化け屋敷があったわねとかどうでもいい事を思い出す。エレベーターを出て先に進めば人集りが見えて来て、どうやら造船所はいつでも大人気らしいと知る。
正確には船大工が人気なのだろうけれど、強くて若くて手に職を持っているとなれば確かに普通ならば優良物件かも知れないわ。街の人達から見れば、船大工は誇りなのだろう。
それが伝わる信頼と尊敬の篭った声と眼差しに、ルフィは盛り上がる。きっとそれならいい奴らに違いないと言ってルフィとウソップは嬉しそうにしている。
仲間にするつもり満々のルフィだからこそ、評判のいい船大工と言うのは有難いのだろう。でもまず先に、換金所へ向かわなくてはとルフィを促す。
換金所へ入れば量の事も有り個室へと案内されたけれど、ルフィとウソップの反応から何も知らないカモだと判断されたようで、随分と馬鹿げた金額を提示された。それなのにも関わらず、ルフィとウソップは大騒ぎで、勝手にサインしようとするからそれを手で弾き飛ばす。
その瞬間、ルフィとウソップは私の顔を見てから顔色を変えて黙り、店員も無言で私の顔を凝視した。さぁ……ここからが私のお仕事よ。
「……私が言いたいことは三つ」
私の計算では7億の価値がある。その為に、私はノラの中には砂金1粒だって残さずに回収してきたのだから。
悠然と微笑む私に、店員……鑑定士は汗を流す。顎をその汗が伝い落ちるのを眺めて、私は小首を傾げるとゆっくりと狩りを開始した。
さぁ、ここからが私がこの1味にいる意味に繋がる時間よ。1味の為にも、稼がせて頂きますか。
泥棒技術だけではお金にならない。泥棒猫の2つ名がどういうものか、とくとご覧あれ。
こんばんは。
この流れでお分かりかと思いますが、筆者の性格は歪んでます(笑)