指を1本立てて、その指を言葉の途中でルフィに向けつつその流れでルフィを引き寄せると、そのまま撓垂れ掛かるようにして鑑定士を見る。ナミちゃんの肉体であるから、妖艶な美女に見えているだろうと言う事を分かっていての行為である。
「1つ……コイツは1億の賞金首」
私の言葉に対する反応で、騙せるなら億の首でも何でも気にしないという業突くさからの行為であったと分かる。私がルフィに触れると、ルフィの体がその度に揺れるから擽ったいらしいけど今は耐えて貰うしかない。
「2つ……今の鑑定に私は納得しない」
言葉と共にルフィの顎を撫でてから、そっと体を離す。鑑定士に視線を向けつつ目の前にある黄金細工を1つ手に取り、指先で弄ぶ。
「3つ……もう1度嘘をついたら、貴方の首を貰う。分かった?」
私の分かった?に合わせるようにルフィとウソップが立ち上がり、私の背後に立った。主人を背後から守るSPのようにしているけど、恐らくは私の顔を見たくないのだと思う。
そして賢明にもどちらも言葉は1切口にしないのだ。なんとも言い難い程に、わかりやすい彼等に笑ってしまう。
そうして私は微笑み外交よろしく交渉して……その詳細は割愛するが、8億ベリーの現金に黄金を化けさせた。1億ずつ入った鞄を1つずつルフィの前と後ろに取り付けさせてから、残りの6個を示して言う。
「いいこと?2人共。全員が両手に1億ずつ、合計2億持つのよ。落としたり無くしたりしたら、メリーを直せなくなるかもしれないと覚悟して!」
私の言葉に真剣な顔で2人は頷くから、ホッとしつつ視線をルフィに向け直す。大金を扱った事のない2人だから少し心配だったけど、分かってもらえて本当に良かった。
「ルフィ、美味しい食事を食べたいなら大切に扱いなさい!食材を買うのもそのお金が必要なんだからね!」
何故に船長を叱らねばならんのか。これで私の肩書きが副船長とかなら分かるんだけど、私の肩書きは頭に美少女を付けるかは自由としても〝航海士〟である。
「ま、まさか……8億になっちまうなんて!」
「ナミの脅しはコエーなー!」
そんな言葉を口にしながらもウソップは怖々と2億を持ち、ルフィは言葉とは裏腹に楽しそうに手にして両手を振り回す。それを横目に見ながら、落としたら覚悟しなさいよと言えば、ルフィの両手が動きを止めた。
「最初から7億の価値はあると踏んでたのに、アンタ達が5億で手打ちにしようとするからつい……迷惑料も合わせて貰っちゃったの」
てへっと笑えば、2人の顔色が変わる。ウソップは怯えたように、ルフィは少し心配そうに。
ウソップの反応は予想の範囲内だけど、ルフィの反応が理解出来なくてつい凝視してしまう。心配されるような発言では無かったと思うから。
「ナミは、そうやって生きてきたんだもんな。……ありがとう、これでメリーを直せるよな!」
「お金の面ではこれだけあれば直せない筈ないわ。キャラベルだから、元が安価なのもあって、それ程直すのに費用が掛かるとは思えないもの」
「メリーは、安いのか?」
ルフィからの質問に対して、どう説明するのが誤解を生じさせないだろうかと考えながら、私は言葉を脳内で組み立てる。キャラベル船についての説明をするのはこの場合ナンセンスだろうと言うのは、私にもわかるのでここは慎重に考えないと。
「そうね……古い型の船だから安いわよ。まぁ、改造する関係で新しく買った方が安くなる位の金額を取られる事は有り得ても〝お金が足りなくて直せない〟なんて事にはなり得ないわ。その為にノラの中から全て持ち出してきたんだから」
「改造する事も、可能なのか?」
「金額的な意味では問題ないわ。予定より1億多く手に入ったから、壁そのものを本棚にして耐久力を上げるとかしても大丈夫な筈よ」
ウソップからの質問に即座に答えれば、2人は本当に嬉しそうに笑った。それにより多少胸は痛むけど、嘘は言ってない。
そう〝お金的には〟問題なんて何も無いのだから。メインマストの倒れ方を考えれば、竜骨がやられてるのは間違いないし、それも前方の方がやられてる。
飛んだ時着地する衝撃を直接受ける部分なのだから、そればかりは仕方ない。……そう、仕方ないと、分かっているのよ。
黙った私の真横でルフィがお金を川に落としそうになり、ウソップと私に叱られて、ボロボロになったルフィは珍しく本気で反省した様子を見せた。けれどもどうしたってルフィに持たせるのは不安で、体に巻き付けてある分の他は私とウソップで相談して、私の体の前後に括り付ける事になった。
リュックサックを前と後ろに装着してるような感じで、誘拐事件でお馴染みの身代金が入ってそうな鞄を括り付けてるのだと思って貰えたら、わかりやすいかと思う。そんな状態で、ウソップと私は両手にもお金を持ち移動する。
そんな私達にルフィはとやかく言うけど、そんな場合では無い。こんな事になるなら、ロビンにもついてきてもらえば良かったわ。
ロビンの手数の多さと、さり気無く力持ちである事を考慮すれば最大の戦力と言えたのに。まさかルフィが、2億を川に落とそうとするとは考えていなかったのだ。
ヤガラちゃんを降りて、私達は造船所へと向かう。その間ヤガラちゃんはいい子に待っていてくれるので、私は軽くそれぞれの頭を撫でてから出発した。
ルフィは大声で入口から声をかけつつ、中に入ろうとする。それを明らかに剃での移動で目の前に現れた人に止められたルフィは、チラリと視線を私に向けて来た。
「ナミと、同じ動きだ。ウソップ、いつ使えるようになったんだ?」
「いや、それは俺じゃねェから」
「そうよ!その人四角いわ!」
そんな会話がなされている間に、ウソップ擬きが名乗りつつ用件を聞いてくる。でも、そうか……この人が、メリーはもう駄目だと言う人かと思えば、心臓が苦しいような気がした。
ストレス性の心臓負担と考えれば、今の状態もおかしくはないけど……覚悟して来たつもりだけど……苦しい。それをでも見せる訳にもいかないから、平静を装って事情を話して見れば査定に行ってくれるという。
山風の異名に相応しい動きに、ルフィとウソップは感動している。その直後に背後から聴こえてきたのは、男性の声。
振り向いて見れば美人秘書を従えた男が立っていて、この人が市長だった筈だと思い紹介状を差し出す。今回この島において彼はキーパーソンとなる筈。
「ココロさんからの紹介を受けて参りました。こちらがその紹介状です。ご確認ください」
「ンマー……。俺を、知っていたのか?」
「島に到着してすぐ、新聞等でお顔は確認させて頂きました。弱いクルーは、そういった形で役立たなければと、これでも必死なのですよ」
笑った私に秘書の人が納得した様子で頷き、成程戦えないのですか、と言いながら何かにメモをしているのが見える。そんな秘書さんに市長さんは軽い調子で問い掛ける。
それに即座に秘書が応える。その唇から紡がれるのは、ルフィ達賞金首の名前。
「〝麦藁〟のルフィ、〝海賊狩り〟のゾロ、〝悪魔の子〟ニコ・ロビン、三人の賞金首を有し、総合賞金額2億3千900万ベリー。結成は〝東の海〟現在7人組の〝麦藁の1味〟です」
その説明にウソップが動揺したけど、それよりもそれに続いた言葉に私は僅かに緊張した。だって、ルフィの纏う気配が変わったから。
「その中でも2つ名はあるのに他の情報が錯綜しているのが、そちらの女性。〝泥棒猫〟ナミ。王下七武海の〝鷹の目〟のミホークと〝天夜叉〟のドフラミンゴからの求愛を断り、未確認情報ではありますが四皇〝赤髪〟のシャンクスとその副船長に溺愛されていた〝女神ちゃん〟であると……真偽の程は?」
「ナミは、見ての通り可愛いからな。変なのに狙われやすいだけだ」
「ルフィ……」
そんな私達を見て、市長さんは自己紹介をしつつ予定を全部キャンセルしてくれた。それには確か、ロビンに対して思い入れがあったからじゃなかったかなと脳内で首を傾げる。
……ロビンの事が好きだからとか、そんな話じゃ無かった気がするけど……どうなのかな。そんな事を考えてるとは知らない市長さん……アイスバーグさんは、私達を案内してくれると言うのでそれに甘える事にした。
そんな時にルフィが秘書さん……カリファさんを怒らせた事で蹴りが飛んできたのを躱していたら、ルフィが後でそれちゃんと教えてくれなんて言い出すから頷いておく。躱すだけなら、それなりに出来る程度の見聞色の覇気なのよね。
そんな騒動の中で、ウソップはお金から手を離していたようで、変な奴らにそれを奪われそうになっているのが見えた。それに慌ててウソップに私の手持ちのお金を託して追いかけようとしたら、鳩が目の前に現れて喋った。
「俺が行く」
それにより私とルフィは動きを止めて、私はウソップに託したお金を回収する。その後変な格好の人達がフランキー1家である事を知り、ロープの人と鳩の人が揉めながらお金を取り戻して帰ってくるのを眺めた。
もしもこの時、この場にいる誰が敵で誰が味方なのかを正確に思い出せていたら、この先に待っている多くの事を回避出来たのではないかと思う。けれど、それはどうにもならないたられば論。
だから結果的には何も知らないまま、時は流れて行ったのだった。とりあえず私達は取り返してもらったお金を手に、ウソップが謝るのに対して頭を撫でながら、ちゃんとお金は持っててよ?と笑うに留める。
そんな私達の様子に、アイスバーグさんは何故か微笑ましそうな視線を向けて来た。そんな中でも、私の注目は先程から喋り続けている鳩にあるのだから笑えない。
「どうも馬鹿がご迷惑お掛けしましたね」
「また、喋った!」
ルフィは喋った事に夢中だけど、私としては言葉に合わせて動く可愛い鳩に夢中。ヤダどうしよう、本当に可愛い!
……触りたい。撫でたい。
クーちゃんとは種類が違うんだもの、当然羽の硬さとか違うよね。触りたいなぁ。
ネクタイしてる。オシャレさんだわ。
飼い主さんに頼んでみようかな。そんな浮かれ切ってる私にルフィは、少し呆れたような視線を向けてから呟く。
「そうだった。ナミって普通に動物殺せるのに、動物好きなんだった」
「人聞きの悪い言い方しないでくれる!?必要にかられて仕方なく食料として調達してるだけで、無益な殺生はしてないわよ!」
「あの鳩、美味いのかな?」
鳩の味か。日本では基本的に狩猟してはいけない鳥となってるけど、雀とは違って骨と身も分けられるし、美味しい筈。
「鳩は美味しい筈だけど、あの子を食べるのは許さないわよ」
「何でだよ!?」
「飼い主がいるし、教育されてるもの。野生の無駄に凶悪になってる鳩食べてなさいよ!」
そんな私達のやり取りの傍では、鳩の人とロープの人が喧嘩を始めていて、どっちを見ても賑やかだなと呟くように言ったアイスバーグさんの言葉が妙に響いた気がした。それから間もなくしてルフィがロープの人を宥めると、鳩の人が鳩と共に近付いてきて、自己紹介してくれた。
「はじめまして。私はナミ。ハットリ君って言うのね。……ねぇ、撫でてもいい?」
「ンマー、そのハットリは主人にしか懐かなくてな。諦め……」
アイスバーグさんの言葉が途中で止まった。手を差し出してみたら、ハットリ君が私の腕に移動してきてくれたから。
私は嬉しくなってそっとハットリ君の眉間の辺りに指を持っていき、羽の固まってるところを解してあげる。自分ではどうにもならない位置だから、大体の鳥はいつも痒がってるなんて事が多いのだ。
犬猫は足を使ってそれでも少しは毛繕いを出来るけど、鳥は嘴だけだから壁とかに擦り付ける他に頭を羽繕い出来ないのよ。だから飼い主とかに頭を撫でて欲しい、羽繕いをして欲しいと甘える事もあるの。
気持ちよさそうにしてくれる様子が、クーちゃん達とそっくりで何だか嬉しくなる。そうして私はハットリ君に癒されていたけど、周りからは変なものを見るような視線を向けられていたのだった。