何処かに寝かされているらしいと体の向きや肌に触れる物の感触で知り、同時に人の声で意識が浮上する。怒りに満ちたその声は、いつも傍にいた大切な人の声。
「どういう事!?ナミにこんな、大怪我させるなんて!協定を破るつもりなの!?」
「落ち着きなさい。そんなつもりは無いわ。確かに今回の件は此方の落ち度だと認めるけれど、無事に生きている内に回収したでしょう」
「なんですって……?何処が〝無事〟なのよ!!私は「自分の立場を、貴女はもう少し理解した方が良いんじゃないかしら?」」
そんな会話に、泣きそうになる。ロビンは……やっぱりロビンだった。
何も変わらないし、私の知っていた知識の通りに動いていただけだと確信できた。ロビンの声は怒ってるけど、無事なのも分かったから……今はもう、それだけでいい。
怪我とかしてないみたいだし、虐められたりもしてないみたい。ロビンを害されてないのなら、もうそれだけでいい。
「ロビン……無事で、良かった」
「ナミ!?わかる?意識はあるの?」
私の声に即座に反応して、手を握るロビンの手が震えている。つらそうなロビンを抱きしめたいのに、腕が上手く動かない。
そんなにつらそうな顔しないで、ロビンが無事で本当に良かったと思っているのだから。それを伝えたくて必死で声を出そうとしたら、代わりに出たのは咳で……ロビンが優しい手つきで私の体を動かして背中を摩ってくれる。
その時に痛みが走り、どうやら背中にも傷があるらしいと認識する。それにロビンも気付いたようで、即座にその手が動きを止めると震える声で私の名を呼んで居るのが聞こえた。
「ロビン、1緒に……帰りましょう。大好きよ、ロビン」
「……っ!ナミ……」
私、ちゃんと笑えているかな。声を出すのも、正直つらいけど、ロビンと早く1緒に帰りたいから、皆が待ってるからと思って頑張って伝える。
その時ロビンが、ごめんなさいと言ったのを聞いた直後に私の意識は暗転した。多分ロビンに何かされたんだと思う。
ロビンの悲しい決意は、ウソップのそれと同じように固い決意で……簡単には変えられそうもないと、私はそこに来て漸く理解する事が出来た。それでもね、私はロビンを諦めない。
だって私に何かをした時、ロビンの瞳は泣いていたから。その心が嘆いているのを、確かに聴いたから。
そんな私が次に目覚めた時、目の前にはチョッパーがいた。意味が分からなくて体を起こそうとしたら、即座に気付いたチョッパーに飛び付かれてベッドに押し戻されてしまったけれど。
「ナミっ!良かった、本当に……良かった!」
「チョッパー、私どうしてここに?」
「ナミが夜中になっても帰らなくて心配してたら、明け方そこの岩場に倒れていたんだ!だから、慌てて運んで来て治療したんだけど……何があったんだ?」
「それは……」
どう言えばいい?
突然ルッチさんに襲われて犯されて、その仲間に助けられました。彼等はロビンを拐った誘拐犯で、正体はCP9ですって……言えるかそんな事!
窓の外に視線を向ければ日が高い事が確認出来る。傾き的には10時または14時って所ね。
服は診察着になっているから、治療の為に着替えさせてくれたのかなとチョッパーに視線を向けた。そして、私の武器はと思って視線を巡らせると、チョッパーが何かに気づいた様子で可愛い足音をたてながら移動して、布に包まれた物を差し出して来る。
包を開ければ中からは私の武器が揃って出て来て、あの時の約束を思い出す。カクさん達がCP9だと、言わなければ良いのよね?
武器を強く抱き締めて、私はチョッパーにお礼を言いつつ皆を呼ぶように頼む。その事によりチョッパーは何かを感じたのか、即座に呼びに行ってくれた。
状況は掴めないけど、大丈夫。約束を違える事無く、必要な情報を伝える手段ならあるわ。
これでも1応小説家として生きてるのよ。覚えてない所は、勝手に書き足して出版してるのだから、話を作る事には慣れているの。
おかしくない話の流れを脳内で作り出した所で、3人がチョッパーと共に入って来た。そして、私を見て1瞬言葉を失った。
……どうやら私が認識してるより、随分酷い状態みたいね。さて、何処まで通用するかしら。
「急に呼び立ててゴメンね。話があって、来てもらったの」
「その怪我の話ですか?」
「それも、含めてよ」
サンジ君の問いに答えてから、チョッパーに視線を向ける。確認しておきたい事があるから。
「私が、倒れていた時、近くに誰かいた?」
「誰も居なかったぞ」
「なら、先に誰かに治療された痕跡は?」
「簡易的な止血とかはされてた。なんでだ?」
だいたい何があったのかと話の流れは見えた。本当に私を殺す事は、彼等に出来ないらしい。
「順をおって話すわ。だから聞いて」
私の言葉に、全員の視線が集まるのが見なくても分かる。それに少し笑ってから、真実を織り交ぜた作り話を始めた。
まずウソップのところへ行き、話したけど決闘の決意は固くて諦めてホテルを出た事を話して、それから帰り際にロビンを見掛けて追い掛けた所で、仮面を付けた奴らに攻撃されて見失ったのだと話す。それから捕まり、意識が朦朧としてた所で、ロビンが現れて逃がしてくれたようだと伝える。
その後は意識が曖昧で、状況は掴めないけど、恐らくロビンは理由があって仮面の男達と行動を共にしているのだろうと思うと言えば、ルフィがそっと近付いて来た。それに視線を向けると、ルフィが私を抱き締めて来て、その腕が妙に震えている事に気付く。
「ルフィ?」
「……俺が、ナミに1人にしてくれなんて言ったから……ごめんな、ナミ」
「バァカ!違うわよ。ルフィは悪くない。相手が六式使いだと思わなかった、私のミスよ」
腕を必死になって持ち上げようとしたら、チョッパーに動かすなよと叱られてしまった。だから抱きしめ返せないけど、私はルフィにこんな事で傷つかないで欲しい。
私の事で、苦しまないで欲しい。ルフィには、自由に楽しく笑っていて欲しいから。
「海軍の中には将校と呼ばれる人達が居るの。その人達はその肩書きに見合う技術をある程度身に付けているのよ。それが六式と覇気」
そう言ってから六式と覇気について説明すると、前に覇気について軽く話してあったからか三強は試したいと試したいと言い出した。その為に、動けない私を甲板までチョッパーが運んでくれた。
ゾロが即座にサマーベッドを用意しているなと思ったら、チョッパーは迷う事も無く私をそこに降ろした。そこへサンジ君が飲み物を運んでくれる。
ありがとうと言って受取り、それから私の移動手段である剃について、説明する。皆それは見た事はあったからなのか、口頭で説明すれば理解して貰えた。
それを進化させれば空をも移動出来て、それを月歩と言うのだと話せば納得して貰えた。その月歩を使える程になれば、嵐脚と呼ばれる鎌鼬を発生させる技術も身に付いてる筈だけど、何故か私には出来ないのよねと言えばルフィに頭を撫でられてしまった。
「ナミが、攻撃を基本できねェの分かってるから、気にしなくていい」
妙に優しいその視線と声に、なんでだろうと思う。でもルフィはその先何か言うでもなく、甲板で軽く運動してから足を動かし……こんなかなと言いながら剃で移動して見せた。
……何だろう、私の努力って、何だったんだろう。え?
普通は見て、知って、やってみたら出来たとかそんな感じのものじゃないと思うんだけど。身に付けるのに、私結構苦労したんだけど!?
「……出来たな」
「便利そうだな、俺も少し後でやれるように試してみるか」
サンジ君がそう言うのに対して、ゾロはできるようになったら少し修行の相手になれと言い出す。敵の移動速度に対応できるようになりたいとかなんとか。
……やだわ、コイツら。強いし心強いけど、物凄く悔しい。
それから鉄塊と指銃について話せば、鉄塊は出来るよなと私にルフィが聞いてくるので、首を横に振る。だって、私のそれは覇気だから。
そこで覇気についてもう1度……今度は詳しく話をしたら、全員が何故か納得した様子で声を揃えた。
「「「「ナミは武装色の覇気で、防御しかできねェんだな」」」」
「どうして分かるのよ!?1応、武器に纏わせたりは出来るけど、長時間やるには体力がね……」
覇気はどれを使うにしても体力を消耗するのよと話せば、ルフィとゾロがナミは体力ねェから的な言葉を口にして、サンジ君とチョッパーがお前らと1緒にするなと怒ってくれた。それから3人が甲板で六式と覇気を使えるようになりたいと訓練を始めたのを眺めながら、チョッパーに鎮痛剤を頼んだのに何故か違う薬を差し出された。
「今のナミには、こっちだろ。傷跡も含めて俺、綺麗に治してやるから……まずはこれ飲んでくれ」
それがピル系の物だと分かり、流石はお医者さんねと思う。泣きそうな顔を見せるチョッパーに、ありがとうと言ってそれに従ったけど、直後に鎮痛剤は渡さねェぞと言われる。
「どうして?」
「鎮痛剤ってのは、痛みの感覚を麻痺させるだけで治す訳じゃねェんだ。でも、痛みが無くなったらナミ動くだろ。そうしたら治るの遅くなるから、使わせねェ」
「そんな!」
「ナミの荷物に、モルヒネを見付けたし、他にも厄介なのいくつも見付けた。……使わせたくねェよ、医者としても、仲間としても……。劇薬ってのは、効果が高いから言われる訳じゃ無くて、副作用が強いから言われるんだ!たから、無闇に使って欲しくねェよ!」
モルヒネは骨を溶かす。だから本来それと同時に骨粗鬆症の薬も飲む必要があって、それに伴い胃薬も併用する必要がある。
それでも骨が溶けるのを防ぎきれず、ビタミンやカルシウムも摂取させられるけど……と言う事は知っている。その上中毒性が高くて、使い続ければ無くては生きられない程になってしまう事も多い薬だ。
私は知ってて使っているのよ。そうしなければ、捕まってしまった後、2度と日の目なんて見られないから。
「動けないと、逃げられないでしょ?」
「わかってる!緊急時は仕方ねェよ!でも今は、緊急時じゃねェ。ゆっくり休めんだからさ。俺もいる、ルフィ達もいる。だから……薬に、頼らないでくれよ……」
泣きながらチョッパーに言われてしまえば、それに逆らう手段を私は持ち合わせていない。可愛くて、優しくて、優秀な船医をこれ以上傷付けない為に、私はそれを了承する。
今はもう、私は〝独り〟じゃない。護ってくれる仲間がいる。
必要な時の他は薬に頼らなくても、休んでいていいと言ってくれる人がいる。動けないのならば守ってやると笑ってくれる人がいる。
それがどれ程尊く貴重な事か、温かく優しい彼等にはきっと分からないのだろうと思いながら、私は修行なのか遊びなのか分からない行動を繰り返す彼らを見て笑う。早くこの幸福な陽だまりに、今は離れている2人が帰ってきてくれる事を願いながら、2人が居ない事で胸に空いてしまったような気がする隙間を、どうしたらいいだろうかと考える。
それから間もなくしてサンジ君は中に入って行って、ルフィとゾロだけが妙な動きを続けているのが見える。その直後に漂い始めた香りで、どうやらあの時点では14時では無く10時だったらしいと知り、空を見上げる。
空は憎い程に澄み渡り、いつもと変わらない様相を呈している。今のところ、天候に異常は感じられない。
おはようございます。太陽光が敵にしか思えない今日この頃です。