※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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食事

 揚げ物の匂いがする。今の状況を鑑みると、サンジ君の事だから外で食べる事を考慮してくれてるのかな。

 もしも室内用だとしても、これなら皆が喜んで食べる事は出来るわよね。脳裏に浮かぶ手抜き料理でそう思ってチョッパーに声を掛ける。

 

 「チョッパー、サンジ君に伝えて欲しい事があるの。お願いできる?」

 「おぅ!任せろ!」

 「魚が多いのと、野菜食べさせたいから、ピーマンの肉詰め方式で魚詰めてって」

 「分かった!伝えて来るよ」

 

 飛び出したチョッパーを見送って、平和な光景に笑み崩れる自分を感じる。この後ウソップやロビンの事があるのは分かってるけど、それでもこの1瞬の幸せは幸せとして甘受していたい。

 

 「ナミすァーん!魚でもできるのォー?」

 「調理中にごめんね。ピーマンやパプリカを縦に切って中身を取る。それから玉ねぎ、人参をみじん切りにしたものを炒めて、それに魚の身が崩れてる物と、チーズを加えて混ぜたら、それを詰めるの。魚は生でも最悪いけるものを使ってね」

 「それをオーブンで焼けば良いんですね」

 「そう。それなら外とかで手で直接食べるって時にも、室内で食べる時にも使えるでしょ。今回はどうするの?」

 「あの様子ですし、甲板でと思ってますよ。ナミさんにも動かずに食事して貰いたいですから」

 

 サンジ君の気遣いにありがとうと言葉を返しつつ、本当なら種も刻んで混ぜ込んで欲しいけど、そこはサンジ君に任せようと思っている事を追加で伝える。それから過去に思いを馳せて小さく笑った私は、サンジ君の背を見送った。

 日本で作ってた時は魚の缶詰使ってたし、ミキサーで種を砕いてそれも混ぜたのよね。お弁当にも便利だし、肉だと胃に重いって時にも魚だと楽だし、オーブントースターで作れて手軽だったから、作る事が多かったのよ。

 見た目華やかにしたい時には、パプリカで彩り増せるのも魅力だったわね。面倒だから基本的にはピーマンと赤ピーマンで作ってたけど、人が来る時はパプリカも使った気がするわ……なんか、懐かしい。

 栄養は種の所に多く含まれてるから無駄にしたく無かったし、生ゴミも出ないから便利でね……。嫌でも野菜を1緒に摂取させられるって意味では、ルフィとか野菜嫌いには良いアイテムなのよ。

 ご飯炊く時に缶詰の残りの汁を炊飯器に1緒に入れて、味付きのご飯にしたりもしたわね。無駄も無くて栄養も豊富だからって言ってたけど、実際は楽したくてやってた手抜き料理。

 それをサンジ君が作ると魔法かって言いたくなるようなものに進化させてくれるんだから、本当に天才と凡人の差を痛感させられるわ。ロールキャベツならぬ青梗菜の鮭包とかも作ったわねと、どうでもいい事を思い出す。

 キャベツだと巻くのにひと手間あるけど、青梗菜はそれが無いからとか、そんな理由で。昨日作った肉の間に挟む物を軽く茹でた法蓮草にするなら、豚バラでも十分出来るけど、揚げ物は油の後処理が面倒でそんなに作らなかったなぁ。

 

 「おォーい、ナミさァん!聞いてます?」

 「ごめん、何も聞いてなかったわ。どうしたの?」

 「食事用意出来ましたよって」

 

 神か。貴方は神かサンジ君!

 視線を向ければ串揚げが2種類と、今話したばかりのピーマンの魚詰めが数種類並んでいて、ルフィが大喜びしているのを眺める。串揚げをそれぞれ近くに持ってきてくれたので、それを食べれば片方は南瓜と豚肉で、もう片方はカジキとジャガイモだと気付く。

 肉がひとつも無いと弱るルフィを想っての事だと分かれば、その優しさについ笑ってしまう。魚も使えるだけ使っている様子から、傷ませてしまう事も無さそうで少しホッとする。

 

 「サンジ君は、本当に優しい」

 「ナミさん程じゃありませんよ。……体は、痛みますか?」

 「そうね、薬が無いと食事するのも大変な程度には」

 

 クスクスと笑いながら答えれば、サンジ君が心配そうに私を見てきたので、ピーマンの魚詰めもお願いと笑いかける。それによりサンジ君が各種持ってきてくれるから、美味しいわーと1人感動しながらそれを摘む。

 

 「お味は?」

 「あの雑な説明でこんなに美味しく作ってくれるとは思わなかったわ。ルフィに野菜食べさせたくてこれ迄に色々やったけど、サンジ君にはかなわないわね」

 「俺としては、流石は宝玉だと昨日の豚紫蘇揚げで思いましたけどね」

 「煽てても何も出ないわよ」

 

 笑う私にサンジ君は、笑ってくれるだけでも充分ご褒美ですなんて嘯く。だからそれに対して、騙されないわよーと言いながら、今度チョッパーの為に簡単なお菓子でも作ろうかと考えて、レシピ本にしておくに止めようと思う。

 サンジ君に作って貰った方が絶対安全で美味しいもの。面倒でいつもホットケーキミックスに頼ってたあちらでの自分を振り返り、小麦粉と砂糖等を用いてホットケーキミックス擬きを先に用意してあるのを前提としたレシピ本にしようと決める。

 

 「まァた、1人の世界に入ってますね?」

 「レシピ本、描きたいなって思って。次はお菓子系で」

 「……お待ちしてます、宝玉先生!」

 「止めて!サンジ君に期待されたら、立つ瀬なくなるから止めて!」

 

 焦る私にルフィが楽しそうだなと言って近付いてくるから、今の話を簡単にするとルフィは想像したらしく楽しみだと涎を落としそうな勢いで言う。……ま、真面目に頑張ります。

 こんな事になるのなら、もう少し真面目に料理をしておけば良かったと今更に悔やんでしまう。そんな中で、ルフィ達用に置かれたお皿が空になりそうなのをサンジ君に伝える。

 それにより大皿に串揚げが積まれた物と、魚詰めの積まれたものが出て来た。まだあったのかと驚く私の目の前で、ルフィ達がお皿に飛びつくのを眺める。

 ……見てるだけでお腹いっぱいだわ。見る間に無くなる食べ物を見ていたら、少し胸焼けがしている。

 騒ぐ程のものでも無いからと、静かにお茶を飲んで誤魔化す私。けれどチョッパーは、そんな私に気付いてお腹を擦りながら近付いてくる。

 

 「ナミ、どうした?」

 「なんでもないわ。チョッパーはもう食べなくて良いの?」

 「ルフィに付き合ってたら、破裂しちまうよ!」

 「あー……いつもの調子で作っちまったから、少し多いんだよな。まァ、ルフィが喰うか」

 

 サンジ君の言葉を聞いて、視線を向けるとバツが悪そうに視線を反らして煙を吐き出すから手招きして耳元でそっと問い掛ける。ロビンとウソップがいるつもりで作ったのなら、そりゃ少し多くなるわよねと思いながら。

 

 「それ、少しタッパーに入れとくとかできる?」

 「え?」

 「……どちらにしても、今夜でしょ。だから」

 「ナミさん……。そう、ですね。アイツ、魚好きだから……」

 「えぇ……そうね。サンジ君〝私からのお願い〟を聞いてくれる?」

 

 私の言葉の意味を正確に理解したらしいサンジ君が、困ったような顔で頷いた。サンジ君は〝私からのお願い〟だから仕方無く残しておいてくれたのだと言い訳が出来る。

 そうしなければサンジ君はどうしたって〝決闘〟の言葉の重みを理解しているから、何かしたくてもどうにも身動きが取れないだろう事もわかる。だからどうか、逃げ道を作る事位はさせて欲しい。

 何も出来ない私だけど、何もしなくていいとは思えないから。私は、今の私に出来る精一杯の事はしようと思う。

 何も出来ないから何もしないでは、存在する意味どころか資格も無い。何も出来ないけど、精一杯出来る事を探して足掻く位は、だからこそやらせて欲しい。

 

 「……ナミ、顔色悪いな。少し、休むか?」

 「今は、ここに居たいわ」

 

 心配してくれるチョッパーの声に答えたら、チョッパーは何かを感じ取った様子で分かったと言って甲板で休めるように調えてくれる。それからそっと私の手を握ると、可愛く笑った。

 

 「……傍で護ってるから!俺、ナミの傍に居るから、安心して寝てくれよ!」

 

 その笑顔が眩しくて、その言葉が嬉しくて、泣きそうになるのを堪える為に手で目元を隠すと、眩しいか?なんて言ってアイマスク持ってくるよと動き出すチョッパーに、笑ってしまう。そんなやり取りを見聞きしていたのか、食事を終えたルフィが寄ってきて私の隣に立つ。

 

 「チョッパーが帰るまでは、その役目譲ってくれよ。必ず守ってやるから!」

 「ルフィ……甘やかさないで。そんな事されたら、私1人で立てなくなりそう」

 「バッカだなァナミは!ナミが立てなくなったら、俺がナミを抱えて移動してやる!だから、大丈夫だ!怖がらずに寄り掛かれよ」

 

 そのルフィの真っ直ぐな気持ちに、私は頷く事で答える。声を出したら、泣いてしまいそうだったから。

 たった1日の間に色々な事が起きすぎて、私にはそれを受け止めきれないで居る。それにより、1人になるのが不安なんだと……そんな弱い自分が確かに存在している。

 

 「……ルフィ」

 「ん?」

 「眠るまでで良いから、そばにいて」

 「ンなもん、当然だろ。ナミが眠ってからも、誰かしら傍に居るから安心しろよ。だから少し休め。な?」

 「うん」

 

 答えつつ眼を閉じると、肉体は疲れていたのか素直に眠りに落ちて行く。その時ルフィの手が、私の頭を優しく撫でてくれるのを感じた。

 その手付きが優しくて温かいから、私はそれに少し泣きそうになる。私はルフィに、いつも守られてばかりいる。

 そうして眠ったナミの頭を撫でながら、ルフィは静かに眼を伏せる。ロビンの事、ウソップの事、メリーの事、それらが重なり余裕のない今……傷だらけの愛しい女をどうしたらこれ以上傷付けずに居られるのか、その明確な答えが見えて来ない。

 指の隙間から大切なものがこぼれ落ちて行くような感覚に襲われて、けれどもそれを取り戻す手段が分からねェ。ただ、今この瞬間だけでも俺はナミの事を守りたい。

 1人で眠る事が苦手なナミだからこそ、今この瞬間の眠りだけでも穏やかであってくれと祈る。元々苦手だったのに、再会してからは極端に眠れなくなっているナミを心配するなと言われても無理がある。

 ビビの時はナミが守る側だった。だがロビンにそれが変わってから、ナミは安心したように眠るようになったし、ロビンがいねェと眠れないならと、ロビンが見張りの時は俺が傍にいた。

 それにより気付く。ナミは、護ってくれると信じられる相手の傍でなければ安眠できないんだと。

 そこまで無条件にナミが信頼出来ている相手が、突然消えたんだ。それに……昼間メリーに1人で残した後、ナミから知らねェ臭いがした。

 1人になる事に怯えるそれは、こうなれば寧ろ正しい。そして、頼ってくれた事が、甘えてくれた事が本当に嬉しいんだ。

 ロビンを見掛けたからと追い掛けた先で何があったのか、聞かなくても分かる程に衰弱しているナミを、これ以上苦しめたくないと心からルフィは思いつつ、ナミを発見してからの事を思い出す。血塗れで岩場に倒れている姿を見た時、心臓が止まるかと思う程の衝撃を受けた。

 着ていた物は、恐らくロビンの趣味だろうと言うのは理解出来たが、そのロビンの姿も無かった。触れる事さえ躊躇う程の大怪我で、意識無く倒れているナミはそのまま消えちまうんじゃねェのかと不安になる程。

 チョッパーが必死でナミを治療しているのを、何も出来ずに待つその間の険悪さは恐ろしいものがあった。その原因の大半は己であった事も自覚している。

 ゾロもサンジも気が気ではなく、どうして1人で行かせたのか、何があったのかと己を全員が責めていた事は間違いない。それぞれがナミを想っているからこそ、誰かを責めるのではなく己を責めたんだろうと言う事を全員分かっている。

 その場で誰かを責めれば、きっとナミは悲しむと、全員よく分かっていて、だからといってナミが悪い筈もねェから。治療が終わり、暫くして目覚めたナミの包帯に塗れた姿に誰もが声を失う中で、ナミが語ったロビンの事。

 ロビンは何があってあんなにも大切にしていたナミの傍を離れたのか。依存と呼んで差し違い無さそうなそれを間近で見てきたからこそ、理解出来ねェ。

 そんな暗い記憶に飲まれかけた時、ナミの手が少し動きそっとルフィの手を握る。そして、ふにゃりと笑った。

 幸せそうに、安心したように笑うそれに、ルフィは漸くいつもの自分を取り戻せた気がした。これから待ち受ける事は、この先〝船長〟としてやって行く為には、避けては通れない所だと思うから、ルフィは決意する。

 どれ程それが痛みを伴う決断となろうとも、ナミが泣こうとも、引き返すような事だけはしないと。守りたいものと、守るべきものと、失いたくないものと、失えないもの。

 似ているようで全く違うそれらを何1つ失わずに進み続ける事は無理なのだと知っている。知っているけど、足掻きたい。

 やっぱり俺は、何も失いたくなんかねェから。その為に俺は、強くなったんだ。

 そんなルフィを見て、ナミの元に戻れなくなっているチョッパーがいた。そこへサンジはそっと飲み物を差し出して、少し待ってやれと声を掛けて去って行く。

 そんな全員の行動を眺めながら、自分の気持ちを昇華する為か、それともルーティーンなのか、ゾロはストイックにダンベルを持ち上げるなどのトレーニングを続ける。サンジはそんなゾロにナミが時々作るスポーツドリンクのような物を用意して、近くに置くと何かあったら呼べと言って船内へと戻る。

 僅かな時間だけど、きっと彼等にとってこれは大切なひと時だったのだろう。甲板にはいつもと同じように、海風が吹き抜けて行った。




更新頻度、この位なら大丈夫そうですよね?
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