私は涙を強引に拭って止めると、息を大きく吸い込んで指示を飛ばす。こいつらだけに任せてたら何日あったって、荷物は纏まらないもの。
「サンジ君、今から泊まれる宿を探して来て!倉庫付きで借りられたら良いけど、無理ならそれぞれ2人部屋で6部屋借りて各自の物をそこに運び込む形にするわよ!」
私声に皆の視線が集まる。だから私は言葉を続ける。
「共有の物は泊まる予定の人が居ない所に運び込むから、そのつもりで!もし、ロビンが帰って来たら私と同室で使えば良いから、1つは完全に倉庫扱いにする予定でいてね!」
「は、はい!ただ、お金は……」
「この時間だもの、夜ご飯つかないんだからある程度交渉して値切って!その分の予算は後で計算して捻出するわ」
「分かりました」
サンジ君が飛び出したのを確認して、私はゾロに蜜柑の木を傷付けないように気を付けながら抜くように指示を出してから、ルフィに男部屋にある私物を纏めておくように言う。動き出した皆を見て、私も自分の部屋に向かい行動を開始する。
自分の荷物をササッと纏めると、続いて本を詰めて行く。部屋にあった本を詰め終わる頃、ゾロが蜜柑の木を抜き終えたと言いに来た。
それを受けて私物を纏めておくように言えば、はいよと言ってゾロは即座に男部屋へ向かうので、その背中に向かって蜜柑の木の件についてお礼を言う。その言葉に対して振り向く事はなく、ゾロは片手を軽く上げる形で応えてくれた。
タオル等の共有の物を詰めて行くと、その途中でサンジ君が帰って来て宿が取れましたと言うので、それに笑顔でお礼を伝える。その流れでルフィの様子を見れば、どうやらルフィの荷物は纏め終わってると分かった。
ならば次の作業に入らなければと思い、ルフィにはルフィの荷物を、サンジ君には蜜柑の木をその宿に運んで欲しいと頼む。サンジ君はそれが道案内兼ねてると分かったのか、即座に動いてくれた。
その中でルフィもまた、文句も言わずに動き出した。私が共有の物を詰め終わる頃、ゾロも荷物を詰め終わったと言う。
なので私はゾロに、纏め終わっている荷物を甲板に運ぶように指示してから、船内の掃除を始めた。普段動かさない家具の隙間は埃の巣窟なのだ。
その途中で2人が帰って来たので、サンジ君にはサンジ君の私物を片付けて貰うように言って、ルフィにはゾロと共に荷物運びを頼む。
ゾロとルフィの2人が色の違う箱に入った荷物を運んでくれてる間に、私はキッチンにある食材を詰め込んで行く。そうしていたらチョッパーが帰って来たので、チョッパーにも私物を片付けるように言って作業の続きを行う。
そうして指示を飛ばしつつ無心で動き続ければ、瞬く間に荷物はメリーから運び出されて、それぞれの荷物がそれぞれの場所へ運ばれた。1応ササッと掃除もして、皆に気付かれないようにメリーに話し掛ける。
「メリー……今までありがとう。ウソップのこと、お願いね」
メリーからの返事は無かったけれど、伝えるだけは伝えたかった。私は今自分がどこへ向かっているのかも分からずに、ただ溺れないように足掻いているような、そんな心持ちでいる。
メリーにはサンジ君がタッパーに詰めていた食料と、私からのメモだけを残して全員で立ち去る。最後に見収めるように、ガランとしたメリーを見ていていたら、泣きそうになってしまい慌ててその場を後にする事となった。
夜中の移動である為に他の宿泊客に迷惑となるかと思ったけど、1階が酒場になっているタイプだったようで、それ程気にしなくても良さそうなのは助かった。実際そのお陰か各部屋がツインとは言えダブルベッドしかない、本来ならば連れ込み系の宿泊施設だと分かれば、これはチョッパーにはキツイかなと少し考える。
それでもこの時間に宿を取れる所となれば、致し方ないかと思う。最悪新たな船を手に入れるまでずっとこの宿を利用する形になるのだから、宿の人とはそれなりの関係も築いておきたいけど、どうしたものかなと少し思う。
少しのお金を持って酒場に降りると、何故か視線が集まるのが分かった。そして、連れ込み系の宿から女が出て来ればそりゃ目立つかと思う。
「マスター、それぞれの部屋にこれ用意して届けて欲しいのよ。お願い出来る?」
言いながら少し多目に包んだ物を渡せば、中身をチラリと確認した店主が頷いた。それから私に座るように視線で促すから大人しく腰掛けると、温かいタオルを差し出された。
それにより、どうやらまだ目元が赤いらしいと気付いて、少し情けなくなる。ありがとうと言いながらそれを目に当てると、店主が確認するように言った。
「ハニーホットミルク、アルコール度数の高い辛口の酒、水水肉入の雑炊5人前、ブラック珈琲に砂糖とミルク別添えをここに書かれてる部屋にって事で良いのか?」
「えぇ、お願いします」
「アンタは、何もいらないのか」
「えぇ、私は大丈夫」
落ち込んでいるだろうチョッパーには、ホットミルクに蜂蜜が入った物をと考えただけ。そうする事で体温が上がるから眠りに入りやすくなるし、甘い物で少し気持ちが落ち着く筈。
特にチョッパーは甘い物が好きだから、その効果は高い筈なのよね。栄養価は高いけど胃腸に優しいから、ストレスでもし胃が弱ってても飲める筈。
ゾロは甘い物が苦手だから、辛口のお酒。アルコール度数が低いのは好まないから自然とそうなる。
寝酒だから、足りないとか言われるのを分かっていて1本にしておく。それに、朝までそれ程時間も無いから与え過ぎは良くないわ。
サンジ君はこんな時眠るとは思えないから、最後の調整はサンジ君本人にして貰いたくてブラック珈琲をお願いした。自分で味を調整出来る形にすれば、サンジ君は体調とかに合わせて上手くやるだろうと分かるから。
ルフィは食欲の権化だし、動いたから少し何か食べさせておきたい。肉ならそれだけでもと思うけど、時間を考えたらこの位が妥当かなと量も少なめでお願いしたのだ。
私は……お風呂にでも入って、素直に休もうかなと思う。傷の手当もしておかないといけないのは分かるから。
「マスター、ありがとう。騒がしくてごめんね」
「騒がしいのはいつもだから、気にしなくていい」
そう言って笑ってくれたから、私はタオルを返して部屋に戻る。部屋に戻れば当然誰も居なくて、荷物が大量に置かれているだけ。
そうなると、ウソップの私物の他には、サンジ君が用意したタッパーだけが残されたメリーに、1人でいるウソップが心配になる。今私が感じている物悲しさなんてものでは無い寂しさが、大怪我をしているウソップに襲いかかっているのだろうから。
怪我をしていたり、病気の時は心細くなる。そんな時に、今まで皆と楽しく過ごしていたその場所に1人で取り残されるという事は、思い出から目を背ける事さえ出来はしないのだから。
本とか蜜柑の木は私物扱いされ無かったようで、タオル等と1緒に共有の物として誰も居ない部屋に置かれているらしいと、部屋の中を見て気付く。そして、だからこそ、余計に私とロビンの私物の少なさが際立って見える。
それくらい私の荷物は本ばかりであり、ロビンは私物が無さ過ぎる。ロビンの荷物の入った箱にそっと触れて、ロビンの不在を痛感する。
私は稼ぐ為に書いているから、その資料とかは必要とするし、完成品も届いて増えるから本ばかりあるけど、それ以外は必要最低限しか荷物を持たないようにしてる。まぁ、変装グッツとか色々あるっちゃあるけどね。
成人1般女性の荷物としては、明らかに少ない自分の荷物。それに輪をかけて荷物のないロビン。
なんでかしらね、お互い邪魔になるかも知れない物は持ち歩かない傾向があるからだとは分かってるけど、物悲しく思えてしまうのは。まるでいつでも消えられるようにしてあるようで……そんな想像をしてしまう自分が苦しい。
ウソップとロビンを気にして動けなくなる自分の気持ちを切り替える為に、私はシャワーを浴びに行く。備え付けのシャンプーとかが無かったから、入る時自分で持ち込んだ物を使っているけど、やっぱりベルメールさんの蜜柑の香りがすると落ち着くわね。
鏡で自分の姿を確認すれば、明らかに獣に襲われた感満載な傷跡にこれは心配されるかもと思う。これ迄ならこの体に傷をつけた事に罪悪感があったと思うけど、今はもうそれが殆ど無い。
私は私として、今ここに生きている。確かに悪いなと思うけど……罪悪感に押し潰されそうな程では無いから何だか不思議な心持ちになる……。
シャワーを終えて、可能な範囲で治療しても背中だけはどうにもならない。困ったな、チョッパーの所に行くべきかしらと思った時、ノックする音が聞こえて慌てて返事をする。
「ナミ」
私を呼ぶその声がルフィのものだったから、私は慌ててタオルだけ巻いた状態でドアを開ける。ルフィはそんな私を見て、少し怒ったような顔をするからどうしたのかなと思って首を傾げた。
その瞬間に部屋に入って来たルフィが、私の体を強く抱き締めた。それにより背中が痛みを訴えるけど、離してと言う事も私には出来ない。
痛みがあろうと、苦しかろうと、ルフィに抱き締められる事は嫌だと思えないから。寧ろ、ホッとしてる自分に驚かされる位。
「ナミ、痛い時は言えよ。俺はそんなに気の回る方じゃねェんだから」
それでも私の体が痛みに反応した事に気付いたのか、ルフィはそんな事を言いながらそっとドアを閉めた。その流れで、私の体をクルリと反転させるとタオルを奪い去ってしまう。
何をしたいのかと思いながら任せていたら、呆れたような声がルフィから放たれた。いや、多分本気で呆れてるんだろうけど。
「……あのな、抵抗する事とか覚えろよ。ナミは無防備過ぎる」
「ルフィになら、何されても多分私構わないから」
「構え!馬鹿ナミ」
そう言いつつルフィは脱衣場に置いてあった薬に手を伸ばして、成程なと納得した様子を見せると背中に薬を塗り始める。痛みには耐えられるのに、ルフィの指が傷の無い所に触れる度にビクリと反応するのは止められなくて、顔が熱くなる。
「だって、ルフィは私を傷付けないでしょ。何かあって私を傷付けたり殺したりするなら、それが必要なのだと分かるから……信じてるから、ルフィになら何されても構わないの」
「ナミは、甘ェよ。俺は男で、海賊だ」
「だから?」
「え?」
「ルフィはルフィとして、ルフィのままで海賊王になる。ルフィは仲間を何より大切にするし、誰の事も下に見ない。……私はね、そんなルフィを愛してるの」
「ナミ……」
それからルフィは無言で手を動かし続けてくれた。妙に慣れた様子でルフィが私の背中に薬を塗り終えた所で、ガーゼをあてて来るから、そんな事出来るようになったのかと驚く。
「……俺もさ、ナミが居なくなってから、エースやサボと怪我したら自分のそれは自分で治療してたんだよ。でも、背中は届かねェから互いに何かあったらって約束で、練習はしてたけどよ」
そこまで言って言葉を止めたルフィは、私の体に包帯を巻き付けて行く。その手付きは驚く程優しくて、包帯を巻き終えたその上からそっと背中にキスをされたのが分かった。
「……誰も背中に怪我しなかったんだよ。でも、練習していて良かった。ナミの事、手当出来た」
「ルフィ……」
「ナミは、俺以外にもあんな格好で出迎えたりしてねェだろうな」
「……してないわよ。ルフィだったから慌てて開けたけど、後はチョッパーにだけだと思うわよ、あんな姿で対応するの」
「まァ、チョッパーならいいか。後はロビンにも駄目だからな」
「なんで?」
ルフィやチョッパーともお風呂に入るけど、それ以上にロビンとは2人でお風呂に入る事も多いのに、どうして駄目なの?
そう思ったのに、ルフィが私の事をその瞬間にドアに押し付けたから言葉を紡げ無くなる。何事!?と思ったら、ルフィが私の秘部に指をあてがい状態を調べ始める。
「ルフィ!待って、お願いせめてベッドに……」
「ドアの鍵、閉めてねェけど良いのか?」
「なっ!やだ、閉めるからちょっと止めて」
「嫌だ。今すぐナミが欲しい」
「ルフィ……?」
ルフィの様子が少しじゃなくておかしいから、私はつい眉を顰める。でも、背後にいるルフィにはそれは伝わらない。
「背中怪我してるから、後ろから抱くぞ」
「ルフィ!?」
「ドア、押さえとけよ。見られたくねェならな」
そんな言葉と共にルフィは本当に背後から私の体を好きに扱い始める。でも、そのルフィの手がいつもより熱い。
熱でもあるのか、それとも何か違う理由なのか。それが分からなくてどう対応したらいいのか分からなくなる。
そこで、、ルフィのその手が震えているから、ウソップやロビン、メリーの事で感情を持て余しているのだと気付けた。だから私はルフィに言う、普段ならこんな段階で言うなんて出来ないけど、今だけは。
「ルフィ……もう、充分だから……挿れて」
「……1応言っとくけどな、ナミ。声は、廊下に筒抜けだから頑張れよ」
「なっ!冗談でしょ!?」
「冗談じゃねェよ。……聞かせてやればいい」
「や!ルフィッ!」
その言葉に私が動揺している間に、ルフィは傷口に触れないように、負担をかけないように気を付けつつ抱き締めてくる。その腕が、体が熱くて……私は咄嗟に息を詰める。
だってそうしなければ、声を抑えられないと分かってしまったから。ルフィの熱が肌に伝わり、私はそれを感じながら暴発寸前の感情を吐き出して欲しいと思ってしまった。
でもせめて、鍵は閉めさせてと哀願してみるけど、今は聞き入れて貰えそうにない。ルフィの心が、悲痛な声で悲鳴を上げているのが、聞こえるような気がした。
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