投稿が超絶遅くなってしまって申し訳ございませんでした。
朝、俺は教室の扉を開けると同時に全てを悟り、一周回って冷静になる。
頭の中がクリアになる感覚は、そう、アレだ。過去に一度、マコトに無駄知識を叩き込まれてたせいでテスト勉強ができずに挑んだ期末テストの最終問題が分からずに大幅に点を落として赤点になりかけた時に近い気がする。
思い出しただけで少し腹が立つが今は置いておこう。
俺はカフェ(という名のメイド喫茶もどき)に改造されていた教室を再度グルリと見回す。
最近になってようやく改造された教室にも慣れて来たというのに、という気持ちが湧き上がってくるがそれで現実が変わる訳でもない。
変に否定せず受け止めてどうしていくかを考えて行かなければいけないだろう。
深くため息を吐いた後に俺は呆れの感情を一切隠すことなく言葉に乗せて口から吐き出す。
「何で教室にベッドがあってお前らはナース服(ミニスカ)を着ているんだ・・・」
「え~? せんせ~、そんな事も分からないの?」
「分からないというよりも分かりたくない。場合によっては怒らないから昨日と今日の間に何があったかを説明して欲しいんだが」
「改造してもらいました☆」
俺の問いに答えたのが早川なのはやはりと言うべきだろうか。
前回もそうだったのもあり完全に予想通りと言うか想定内と言うか・・・。
こういった行動力は何処から出てきているのか、そして考えたくないのがその金の出所がどこからなのだろうか。
もしも親御さんが出しているのなら流石に甘やかしすぎな気がする。
「はぁ・・・。んで、なんで病院風にしたんだ?」
「決まっているじゃん☆」
桃知はスッと流れるように机に腰掛けてパンツを脱ぐと、そのまま秘部をこちらに見せつけて来た。
もはや俺に感じる事の出来る感情は『無』である。下手に反応してもそれに味を占めさせて助長させてしまうだけだ。
それを理解しつつも生徒の将来の為に教えて育てるのが仕事であるので、無になりつつもしっかりと脳は最適解を求めて思考する。
ただ、脳が最適解を出すよりも桃知が言葉を続ける方が早かった。
「ここにぃ、せんせーのおっきいソレで、びゅー♡ びゅー♡ って濃厚なお薬w
「今すぐに授業準備に入らないと今日の宿題の量を倍にするぞ」
咄嗟に出た言葉だったが、桃知は顔を真っ青にして机から転がるように降りるとドタバタとしながらランドセルの中から教科書とノートを取り出す。
パンツを履き忘れているせいで大分恥ずかしい事になってしまっているが、本人がそれに気づいた様子はない。
その姿に軽くため息を吐きながら教壇に立つ。
そして、そこでようやく気が付いたのだが、桃知と早川はナース服を着ているのに対し、暗視だけはいつも通りの格好なのだ。
いつもなら二人に無理矢理着替えさせられたりしているのだが、本日は魔の手から逃れられたようだ。
それを確認しながら俺は朝に校長から聞かされた事を伝える。
「あ~、来月に運動会があるが『特別支援学級M』は参加不可との事だ。これについて何か不満不変はあるか?」
「ないで~す」
「茜さんと同じです」
「わ、私も・・・」
三人の言葉を聞いて俺は少し校長の様子を思い出す。
もはやバーコードですらなくなっている頭にもっさりとした髭を生やしたパッと見は厳つい人なのだが、この三人に関する事になると縮こまって小動物状態になってしまう。
本日も小動物の様に小さくなりながら聞かされたのは昨年あった悲劇。
子供の応援に来ていた家族の男性陣が突然いなくなり教職員が慌てて探した所、学校の端にある倉庫で三人に絞り枯らされた姿で発見されたという。
学校側も保護者側も事を大きくしたくなかった為に表沙汰にはならなかったが、かなり大きな問題となり特に家庭内での夫の地位が地の底まで落ちたとかなんとか。
そう言った事もあり学校側としては不参加としておとなしくしていて欲しいのだ。
それに関して俺は同意するし、前科がある以上は警戒をしないといけないのも確かだろう。ただ、全面的に良しとする訳ではない。
運動会だけではないが、学校行事の思い出とはとても貴重で大切な物だ。人との関りや競い合い、そして目標を目指して突き進むという行為は何にも代え難い尊い物になる。
それでも参加させたくないと渋る校長を相手に何も言わず『了解』を決め込むほど俺は教員としてのプライドがない訳ではない。
「まあ、運動会不参加と言ってもアレはアレで教育の一環―――つまりは総合学習の一つである為それを風邪などの致し方ない理由を抜きに休ませてしまうのも学校と言うシステムとしては宜しくないという話になったので運動会の日は特別授業を行う事になった」
「拒否しますっっっ!!!」
「病欠を除いての拒否は不可とします」
「あ~、いてててて。きゅ、急にお腹がぁ~」
「運動会は来月だから今の内に体調管理とかをしておけな。あと、その言い訳は苦しいし今すべきではない」
お腹が痛いと言うならせめて運動会当日にしろ。いや、それを推し進める訳ではないが。
こう変な所へ回す知恵ややる気をもう少し学業に向けて欲しい―――待て、これを思うのはこれで何度目だ?
桃知たちが何かをするたびに俺は『学業に~』と考えている気がする。
「とりあえず、今は何をするか未定だから決定次第伝えるからな。―――それじゃあ、一時間目の授業を始めるぞ」
▼▼▼▼
昼休み。俺は教室でパソコンを開き一時間目~四時間目の授業で行った内容と、三人の様子や理解具合を纏める。
こうやってデータとして纏めておくことで今後の動きをより明確にするのだ。
俺も昔、そうやって教わった経験から来た受け売りなのだが。
しばらく画面とにらめっこしていると、桃知が声を掛けて来た。
「ねぇねぇ、せんせーはさぁ、なんでそんなに勉強に力を入れるの? こんな小難しくってさ、つまらないじゃん」
「その意見を突っぱねる事はしない。だけどさ、勉強って『知る面白さ』が分かるとどんどんのめり込める物なんだぞ」
受け売りだ。
「ふ~ん、よくわかんないや。これが面白いって感覚」
「だったら少し騙されたと思って少し頑張ってみよう。ひらめいた瞬間ってのは言葉に出来ない程いいもんだぞ」
「・・・・・・じゃあさ、頑張る代わりに勝負をしようよ」
「勝負?」
「嘘はつかないよ、その楽しさってのを知れたならしっかりと勉強をしてあげる。ただし、ダメだったらアタシのいう事をなんでも聞いてもらうからね!」
「前、テストで高得点とったらいうこと聞けって自分で言った事を忘れたのか?」
「ありゃ? そんな事、あったっけ?」
「・・・・・・・・・」
つい反射的に頭を抱えてしまった。
これは、アレだ。宣言した後すぐに『あんな事』をしたのもあってすっかり忘れてしまったのだろう。
欲望に忠実すぎるのも難点か・・・。
俺は右手で頭を抑えながら空いている左手で『桃知の行動倫理の欲望割合は高と思われる』と打ち込んでおく。
そんな俺を無視して桃知はどこか楽しそうに腕に抱き着いて来た。
「ふふ~、せんせーはおとな何だから約束はしっかりと守ってね」
「前にも言ったが、俺に出来る範囲でだぞ」
「じゃあ、せっく、
「性行為は却下とする」
「ぶーぶー、それはズルだ~」
「明日の宿題の量を増やされたいか?」
「何でもないです」
このやり取りも何度目か分からなくなってきた。
ただ、ため息を吐いてしまう様なこんなやり取りを心のどこかで楽しんでしまっている自分がいる事に呆れてしまう。
俺は駄目な人間だな。君からの受け売りだけでここまで来て、君から受け取った言葉を支えにしている。
きっと君は俺を恨んではいないだろう、そんな気がする。ただ、恨んでくれた方が残される側からすれば楽なんだが。
▼▼▼▼
目の前のプリントを眺めながら頭を悩ませる。
難しい問題ばかりで一問進むたびに止まっては悩み、一問進んでは止まって呻る。
勉強は苦手で、理解が困難で、どれだけ眺めても答えが浮かんで来ない。
どうすればいいのかと悩んでいると一人の少女が隣の席に座り、こちらの方をジッと見て来た。
そちらの方へと視線を向けると、いつものようにニコニコとした笑顔を浮かべている春香ちゃんの顔が視界に映る。
『また詰まってるの?』
『・・・うん』
『君は要領だけは良いのに分かるまでに時間が掛かるからね~。・・・しょ~がない、私が一肌脱いで進ぜよう』
彼女はそう言うと自分のランドセルからノートを取り出して俺プリントを少し机の横に寄せてスペースを確保してからそこに白紙のページを開いてそこにプリントの内容をサラサラと書き写して行く。
そして、俺が分からなかった点をまるで全て分かっている様に分かりやすく説明をしてくれた。
それもあってか先ほどまであんなに分からなかった問題を簡単に解く事ができた。
『でき、た』
『ふっふ~、良い顔してるね。どう? 「理解する」って感覚、気持ちいいでしょ?』
『うん、何かスッキリする。・・・でも、またこうやって詰まっちゃうのかな』
『君は少し考え過ぎな所があるだけどそれでも大丈夫だよ。勉強って君が今感じている「知る面白さ」が分かるとどんどんのめり込める物なんだから。すぐにでも私が教わる立場になっちゃうだろうなぁ。まあ、絶対そうはならないけど』
『?』
『私、先生になるんだ。色々な子ども達と出会って、色々な事を教えたいんだ』
そう言って笑う春香ちゃんの顔はとても眩しく、輝いて見えた。
俺がその姿に見とれていると、春香ちゃんはその笑顔のままで言葉を続ける。
『匠くんはさ、将来何になりたいの?』
『う~ん、まだ決まってないな。もっと大人になったら決めて行こうと思うよ』
『そっか、お互いに夢を叶えられると良いね』
『うん。・・・俺はどうか分からないけど、春香ちゃんはきっととってもいい先生になれるよ』
そう返すと同時にガンッと頭に後方から衝撃が走る。
『痛い!!』
『ちょっとアンタァ、私の妹をなぁに口説いているのさぁ』
『痛いっ! 痛い痛い痛いっっ!! 髪がっ、ハゲちゃうっ!!!』
『ちょ、お姉ちゃん!? やめ、離して!! 匠くんの頭がツルツルになっちゃうっ!!』
『春香~。可愛い可愛い妹に悪ぅい虫が付かない様にしてあげるからね~。オラ、ハゲて非モテ野郎になれゴルァ』
『あがががががががががが』
俺の髪を掴み思いっきり引っ張るのは春香ちゃんの姉の『春実』ちゃんだ。
春実ちゃんはいつもこのように暴力を振るってくる。何と言ったか、そう、所謂シスコンと言われる存在で春香ちゃんと会話をしている異性に対しては敵意を向けてくる。
ただし、直接攻撃を受けるのは俺だけである。
何か頭部からブチブチといった音が聞こえてきているが、それは気のせいと感じたい。