・・・・・・あれ? 前回投稿から一か月以上経過してる・・・?
オイオイ、ディアルガよ。流石に悪戯が過ぎるんじゃあないか?
あの後、春実さんが居なくなったのを確認してから俺は家を出て書店へと向かった。っといっても居なくなったのが確認できるまでに太陽が天高く昇ってしまったのだが…。
駐車場へと降りて車(一〇円傷アリ)に乗り込むと駅近くにある大きな書店へと向かう。
駅前の書店は大きなビルの二階から四階に店舗を構えており、ここら辺では一番大きく品揃えもいい。
ビル地下の駐車場に車を止めると、エレベーターを無視して階段に向かう。
俺は普段から高層階にでも行かない限りは基本的に階段を利用することで多少なりと運動をするようにしている。
まあ、運動と言っても階段の上り下りくらいしかできていないのが現状だが。
一階のスーパーを横目に二階へと足を向けると踊り場に設置されている簡易的なベンチに誰かが座っていた。
そこのベンチは書店で買い物をした本好きが家まで我慢できず買ってすぐに読むために利用していることがあるので特に珍しい光景でもない。ベンチの隣には自販機があることもあってより人が留まりやすい状態になっている。なので、最初は読書好きが座っているのだと思っていたがどこか様子が違う。
まず第一に、踊り場に設置されている二つある電灯の一つが消えており、薄暗いせいで人影を上手く視認できていなかった。
第二に、そこに座っている人間の大半が読書を目的とした愛読家であり、今回もそうであるという前提で見てしまっていた。
第三に、俺は基本的に『一般常識』の中で物事を考える凡人ということだ。
少し疑問に思いながらも別段意識を向ける事無く階段を上るとベンチに座っておる人物が本を読んでいないことにようやく気づいた。
そうなると疲れて休んでいるか体調が優れず動けなくなってしまっている可能性が浮上してくる。
浮上してくると次に顔を出すのは心配する気持ちであり、ベンチに座っている人物に目を向けると、
「何やってんだお前」
反射的にそう呟いていた。
俺の声を聴いた人物―――桃知は鳩が豆鉄砲を食らったようなぽかん顔でこちらに石船を向けた。
自身の陰部を弄りながら、だが。
俺が現れたことに思考が追い付いていないのか動かなくなった―――いや、陰部を弄っている指以外が動かなくなった桃知を前に深くため息をついてしまう。
というかこの状況は客観的に見たら完全に事案だ。第三者に見つかって通報でもされたら確実に逮捕される。言い訳なんて通じるはずのない状況になってしまっている。
どうしたものかと思考を巡らせていると一早く桃知が反応を示した。
「な、なな、なななななななんで先生がここに!!!?」
「・・・・・・書店へ買い物にな。あと、こういった不特定多数の人が訪れるような場所でそんなことをしているんじゃない」
「不特定多数の人が来るかもだから興奮するの」
「公然わいせつ罪」
「・・・? なにそれ?」
「よーし分かった。今度の社会の授業内容は『法律』についてやるかぁ。小難しい言葉がずらずら並ぶけどしっかりと記憶してテストに備えるんだぞ」
「待って! 待ってぇ! ごめ、ごめんなさい! ちょっとふざけただけだからぁ!」
「飛びつこうとしてくるな。せめて愛液で濡れた手を何とかしてからにしなさい」
「これ拭いたら飛びついていいの?」
「いいというよりも諦めた」
俺の言葉に桃知は飛びつこうとするのを止めて愛液で濡れていない方の手をこちらに向けてきた。
「ん」
「・・・どうした?」
「付いて来て。何度か軽くイってるからちゃんと歩けるのか分からない」
「さっきまで飛びつこうとしていた人間のセリフじゃないな」
「それはそれ~、これはこれ~」
「ハァ・・・」
随分と調子のいい奴だと思う。
こっちの事情とかをお構いなしに振り回そうとするその姿勢は、一周回って子供らしさが伺えて、それがどこか微笑ましく思えてしまっている自分は感覚がマヒしているのだろう。
俺は桃知と手をつなぐと一階のトイレに向かう。
トイレは階段のすぐ近くにあるので、踊り場を降りるとすぐに到着する。
「ほら、早く手とかを洗ってきなさい」
「ぶ~ぶ~、中まで付いて来てよ~」
「事案になるからダメ」
「トイレでいいことしようよ~」
「アウト」
「ちぇ~」
桃知は項垂れてブツブツと文句を言いながらトイレに姿を消した。
そうして一分少々で手をびちょびちょに濡らしたままの桃知が出てきた。
「・・・ハンカチは?」
「多分、家に忘れた」
「しょうがないか・・・。俺のを使いなさい」
「ハンカチよりもパンツの方が・・・って無言で去ろうとしないでぇ!!」
反省していないようなので無視して俺は書店へと向かった。
▼▼▼▼
書店の本棚にずらりと並べられた参考書を眺める。
家にある複数の参考書の最新版も発売されており試しに中を開いて数ページほどペラペラと見てみると、やはりと言うべきか一部の内容が変わっており授業内容の参考になりそうだと思う。
本来、教職員は決まったカリキュラムを教科書に沿うように調整しつつ教鞭を取るのが基本となる。だが、教科書のみだとカバーしきれない部分も多くあり、教科書の内容を踏襲しつつこういった参考書を基にした問題を作るのも必要になる場合がある。
教職員の中には教科書の中身だけで全てを完結できる人もいるが、俺はまだそこまですることはできない。―――いや、正確に言うならば自信がないのだ。
幼少期は勉強が大の苦手でよくテストで低い点を取っていた身としては、それから一〇年以上が経過して教員という職に就けていても心のどこかで心配が浮かんでくる。
俺が参考書に頼る傾向にあるのはやはりそういった所が関係しているのだろう。
幾つか見繕っていると横から袖をグイグイと引っ張られた。
「無視するのは酷くない?」
「・・・・・・」
「ねぇ~、参考書なんて選んでる暇があるならイ・イ・コ・ト♡ しようよぉ」
「・・・・・・」
「ちょぉお! 無言でレジの方に行かないでよ!!」
無視無視。
公共の場で騒ぐ趣味はないし、こんな所で相手したら通報される危険すらあるんだ。
流石にリスクが大きすぎる。万が一にも警察に来られたら言い訳が付かないし客観的に見れば俺が犯罪者でしかない。
残念なことに俺は警察官に囲まれて鉄格子の中に入る趣味はないのだ。
幾つかの参考書を購入して書店から出る。
桃知はいつの間にかどこかに行ってしまったらしく気が付いたら目の届く範囲からはいなくなっていた。
周りから変な誤解を受ける可能性がなくなったことに安心する反面、何かやらかさないかが心配で仕方がない。
教師としてはさっきしていた事を含めて心配ではあるのだが、流石に生徒のプライベートに深く干渉するのもあまりよろしくない。
俺は書店を後にすると地下駐車場に降りて車のカギを開くと、そのまま車に乗って、
「うぉう!!!」
いつの間にか助手席に乗り込んでいた桃知の姿に驚きそんな声を上げてしまった。
「なんで勝手に乗り込んできているんだ」
「このままホテルへゴー!!」
「えっと、お前の住所は・・・」
「お父さんとお母さんに挨拶は速いんじゃないかなぁ?」
「阿保か。送り届けるんだよ。ここで叩き下ろしてもいいが、さっきみたいに公然であんなことをし続ける可能性があるヤツが丁度乗り込んできたんだ。このまま保護者の下に送り届ける」
「今ここで大きな声出したら大変なのは先生じゃないの~?」
「それは確かにそうだな。・・・それで、騒ぐのか?」
「・・・・・・騒がない」
俺の問いに桃知は不貞腐れたように呟くと大人しくシートベルトをつけた。
それを確認してからキーを回して俺は車を発進させる。
「安全運転でお願いね~」
「当たり前だ。危険運手を好んでする人間はいないぞ」
「だよね~」
桃知はケラケラと楽しそうに笑う。
休日の昼近くという事もあってか道は混んでおり、思ったよりも進みが悪い。
信号を通ってから次の信号に付くまでに一〇分程掛ってしまっている。
「先生~、お腹空いたぁ~」
「渋滞してるんだ。文句言わないでくれ」
「ぶーぶー。・・・・・・そうだ、あそこにコンビニあるしそこに寄れない?」
「そうだな・・・。その方がよさそうだ」
俺はそう答えるとウィンカーを点灯させてコンビニの駐車場に入り、丁度空いていた入り口近くに止める。
車を降りて店内に入る。コンビニもかなり混んでいており、レジでは店員が複数人の客を相手に商品をレジスターに読み込ませている。
レジに並んでいる若者たちの会話内容から察するに彼らはこのコンビニのすぐ近くにある予備校や塾に通っている学生又は受験生のようだ。
通りで駐車場の車は少ないのに店内の客の量が多かった訳だ。
桃知は少し目を離した隙においしい水とナポリタンを持っていた。
俺はウーロン茶とおにぎりを適当に三つ掴みレジに並んでいる行列の最後尾に立つ。
「えっと、今何円くらい持っていたっけなぁ・・・」
「俺が出すよ」
「え? う~ん、流石にそれは悪い気がするよ」
「これくらいは気にしなくてもいいぞ」
「う~、何か貸しばっか作ってる気分だよぉ・・・」
「貸しって・・・。俺は担任だぞ? 生徒の面倒を見るのは当然だし、」
「うぅ~~~。・・・よし、わかった。今度私の体を好きなようにめちゃくt、「真面目に授業に取り組んで欲しいと俺は思うな」
人が大勢いる所での爆弾発言に俺は今まで以上に素早く言葉を被せて何とか最後まで言わせる事無く発言を潰す。
今の瞬間、俺の中に新たな目標が生まれたようだ。
『桃知が変なことを言う前に即座にそれを潰す』というある種、義務と言ってもいいだろう目標が。
今度、アナウンサーがどうやってあれだけ素早く正確に良い活舌でスラスラと言葉を出せているのか、その練習法などを調べておこう。そして練習しよう。
俺の返答に桃知はブツブツと文句を言っているが、こんな人が大勢いる場でとんでもない発言をしようとしたコイツが悪い。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ~」
会計を終えて桃知のナポリタンをレンジで温めて貰い、店員さんのそんな言葉を背にコンビニを出る。
車に戻り、俺たちはそれぞれ食事をする。
コンビニの商品は健康に悪いとよく言われる。確かに塩分多めだったりと長期的に見れば健康に悪いのは確かだが、手早く済むという利点が中々に良いのだ。
「ふぅ~、ごちそうさま~」
「食べ終わったか。じゃあゴミはこの袋の中に・・・って、オイオイ。口の周りケチャップだらけだぞ」
「むぐ・・・。んむむ・・・。ぶへ、ちょっと先生~、口拭くなら一声かけてよ~」
「かけたつもりだったんだが・・・」
「ぶ~ぶ~、先生の言葉足らず朴念仁鈍感童貞~」
「酷い言われようだな・・・。ハァ、ほら、さっさとシートベルト付けろ。いつまでも止まっている訳にはいかないからな」
「は~い」
桃知は素直にシートベルトをつける。
それを確認してからエンジンキーを回し、駐車場から出て桃知の家に向かう。
渋滞はそこまで解消されていなかったがそれでも先ほどよりは良くなっているように感じる。
「~♪」
隣で桃知がめちゃくちゃ聞き覚えのある戦闘BGM(記憶が正しければ第四世代のヤツ)を楽しそうに口で奏でている。
なぜそれをチョイスしたのかよく分からないが変に聞くのも野暮だろう、と思い俺は何も言わずに運転に意識を向けるのだった。