いやぁ、気が付けば五月の半ばを過ぎて、気温も熱くなってきていますね。
えー、はい。
投稿が大幅に遅れて申し訳ございませんでした。
い、言い訳を、言い訳をさせて下さい。
今までは基本的にゲームに現を抜かして執筆をサボっていた事が主な原因でしたが、今回ばかりは違うんです。
まず初めに、いきなり襲い掛かってきた激しい腹痛・嘔吐感・倦怠感が一週間以上続き、食事はロクにできていないのにトイレには数時間単位で籠り、会社から帰ればすぐに寝るような生活。
それが終わったら次は咳が止まらず若干の熱が出る始末。コロナではありませんでしたが、それでも早く寝て体を休ませなければいけない状況が続き、先週終わり辺りにようやく復活したのです。
つまるところ、今回はサボりではなく『病欠』です。
ですが、この作品を読んで下さっている数少ない読者の皆様を待たせてしまったのも事実。
今後は体調に気を使って執筆活動をしていく所存ですので、ゆっくり投稿を待っていただけるとありがたいです・・・。
「次の授業は自習を行う」
俺は授業終了のチャイムが鳴り終わると共にそう宣言する。
スケジュールでは国語をする予定であったが、休みの間に調整をして何とか時間を空けた。
理由は当然、早川と面談する為だ。
「・・・・・・それと、早川」
俺が名前を呼ぶと、ビクリッと早川の肩が震えた。
「あー・・・、ちょっと面談したいから付いてきてくれないか?」
「・・・・・・はい」
早川は、か細い声で返事をして席から立ち上がる。
桃知と暗視がどこか心配そうな表情を浮かべているので俺は平静を取り繕って伝える。
「明日、明後日はお前たちとも面談する予定だからそのつもりでいてくれ。自習中は何をしていても良いがトイレ以外で教室から出ないように」
「はーい・・・」
「んっ・・・」
ジト目になりならも返事をする早川と、コクコクと首を縦に振る暗視。
俺はそっと二人から目を逸らすと、軽く深呼吸をしてから教室の扉を開き廊下に出る。
早川は無言で俺の後を付いてきているが、その表情はどこか暗く視線は下を向いている。
面談室へと入り対面するように座る。
まっすぐ早川を見つめる俺と対照的に、早川は視線を下げて体を小さくしてしまっている。
ごくり、と唾を飲む。
俺が今からやろうとしている行為は教師としての行動とは言えないだろう。『俺』という個人として早川に向き合う、そんな行為だ。
重々しい口を開き、言葉を発する。
「俺の過去について調べていたらしいな」
瞬間、早川の肩が大きく震え、その後細かい振動を繰り返す。
俺はできるだけ優しい声で問い掛ける。
「なあ、早川。どうしてそんな事を・・・、」
「知りたかったんです」
言い終わるよりも前に早川が答えた。
「先生の事が知りたかった。教師としての強い拘り、意地でも教師でいようとしている姿勢、私たちをまっすぐ見て受け止めようとしてくれる真剣さ、時折見せる優しい笑顔とそこにちらつく影のようなもの・・・・・・それが知りたかったんです」
「なんでまた、そんな事を・・・?」
「重なったんです」
早川の言ったその言葉の意味が分からなかった。
『重なる』、という事は俺の行動・言動の何かに既視感を持っていたのだろうか。
無言のまま次の言葉を待つこと数秒。嫌に長く感じた沈黙の中で早川が語り始めた。
「私、過去に誘拐されたことがあるんです」
「・・・・・・知ってる」
マコトから聞かされた事だ。
二年前に発生し、表沙汰になることが無かった事件。
早川のご両親も、警察も、結局事件の真相は知らないままで終わったという謎だらけの事件。
分かっている事は、『
「以前、お話しした私を救ってくれたヒーロー・・・あの人は笑顔でした。柔らかくて、優しい笑顔で私を安心させくれました」
「・・・そうか」
「会った事も、関わった事も、何の繋がりもなかったのに私を助ける為に必死で、体を張って戦ってくれました。それこそ、物語の中で戦う本物の
早川は少し唾を飲み込んでから話を続ける。
「あの時の私にとって、あの人の笑顔は太陽のように思えました。でも、その輝きには影がありました。・・・暖かいのに、どこか無理して作っているような辛そうな笑顔。・・・・・・先生の笑顔もそうでした」
ドクン、と心臓が音を鳴らす。
俺は深い深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
ここからだ。早川の『理由』が俺の中に踏み込んで来る。
「私たちに向けてくれた笑顔。他の教師の方々と違いまっすぐ私たちを見てくれていた瞳。そこにあの人と同じような影を見ました。暗く、重く、冷たい影。だから、知りたくなったんです。その影の正体を」
「それで、俺の過去を調べたのか」
「・・・・・・はい。それで、知りました。なんで先生が教師を目指したのか。なんで『教師』という立場に強く固執しているのか。先生に付きまとっている女性の事も含めて・・・」
「そうか・・・」
また沈黙が訪れた。
早川はとても辛そうな、今にも泣きそうな表情をしている。
ダメだ。これじゃダメなんだ。
生き残ってしまった俺が、生きる事の出来なかった“彼女”がしたかった事を、できなくなってしまった事をちゃんとこなさなきゃいけないのに。
俺は勢いよく頭を下げる。額が机に当たって嫌な音を立てた。
「すまない。そんなに気を使わせていた事に、そんなに悩ませてしまっていた事に気付かなくって。早川の事を、もっと、・・・ちゃんと見ていなくて、本当に申し訳ないっ!」
「な、なんで先生が謝るんですか!!?」
ガタッ、と音を立てて早川が席方立ち上がる。
その表情はどこか驚いているようで、どこか困惑しているようで、俺がなんで頭を下げたのかが分からない様子だった。
だから、俺はハッキリとその言葉を表に出す。
「お前の・・・お前たちの担任だからだ」
まだ、この言葉には一線が引かれている。
俺はここから一歩前へと踏み出さなければいけない。教師としてだけでなく、一人の人間として成長するためにも。
だから、俺は言葉を続ける。
「一度でも教鞭を執って、お前たちに『先生』として見てもらったんだ。だったら、俺はそれに応える義務がある。お前たちを受け止める責任がある。・・・『教員』としての使命だけじゃない。人として『次』に繋げるために。少しでも良い方向へ導くために」
早川の目をまっすぐ見ながらそう宣言する。
視線を逸らしたりはしない。受け止めて、受け入れる。
もちろん限度はあるが、俺の可能な限りはいくらでも抱き留める。
それができないのなら俺は“彼女”に顔向けができなくなる。
ジッ、と早川の顔を見つめる。早川は目を丸くして驚いた表情を浮かべていたが、すぐにその表情が柔らかくなった。
「ふふっ、先生ってやっぱりどこかズレてますね・・・。やっぱり、先生は先生ですね」
「こ、これでも結構真剣に考えたんだが・・・」
失敗したか、と思い内心焦っていると、早川が上目遣いで聞いてきた。
「・・・・・・先生、受け止めてくれるんですよね?」
どこか妖艶な笑顔を浮かべながら早川は不敵にそう言った。
俺はゴクリと唾を飲み込み、深く息を吐いてから静かに答える。
「俺に、可能な事ならな・・・」
▼▼▼▼
『自習』。一文字変えれば『自由』。
小・中・高のどこでも教師の目がない自習時間とは実質的な自由時間である。
騒いだりせずに教室内に留まるのであれば学習なんぞすっぽかす者が大半と言っても過言ではないだろう。
そんな自習を命じられ、茜と波奉は教室で気ままな時間を過ごす―――なんて事はない。
「ね~、はっちゃん。そっちはどんな感じ~?」
「ひ、ひゃ、一〇〇個突破・・・したところ」
「こっちも同じ感じ~」
二人は携帯ゲームに視線を向けたまま軽く言葉を交わす。
画面内では自転車に乗ったプレイヤーキャラが同じところをぐるぐると走り回っている。
「ね、ねぇ・・・、茜ちゃん・・・。大丈夫かな?」
「大丈夫って、何が?」
「じ、自習終わり、までにさ・・・。色違いのテッ〇ード出る、かな・・・?」
「出るじゃない。出すの」
「でも、その・・・確率的にさ・・・・・・」
「出るまでやれば実質一〇〇パーセント」
「確率論が壊れちゃってるよぉ・・・」
真顔でとんでもない事を言う茜と、その発言を聞いて波奉は涙目になる。
いつも通りの、悪く言えばくだらない、良く言えば仲が良いからこそできるそんな会話だが、今日はいつもと違って言葉に覇気がない。
それもそのはず、普段はここにいる友人がいないのだ。しかも、今は担任教師と二人っきり。
いったい何が起こっているのかと考えるだけで思考がぐちゃぐちゃになる。
二人は現状、欲求不満なのだ。
今までなら、赴任してきた教職員は一週間と経たずに誘惑に負け、都合の良い性処理道具として使い潰していたのに、現在の担任教師は強情で固くなで浮ついた所もなく、もんもんと発散できない欲求だけが溜まり続けている。
嫌な考えが浮かぶ。
もしも、もしも今この場にいない友人が抜け駆けをしているのだとしたら、そう考えるだけで胸がムカムカとする。
ムスッ、とした表情の茜とは対照的に、波奉はどこか落ち着いた表情をしている。
「せ、先生と優歌ちゃんの事が心配なのは、わ、分かる、けどさ・・・。優歌ちゃんの事、一番よく知ってるのは、茜ちゃん、だよね・・・?」
「そう、だけど・・・」
「そ、そそ、それなら、さ。信じて、待ってようよ」
ぎこちない、それでいて優しい友人の笑顔に茜も毒気を抜かれる。
「うん。・・・ありがとね、はっちゃん」
「えへへ・・・」
「それじゃ、孵化作業に戻ろっか」
「・・・・・・少し休まない?」
「今休んだでしょ? 何言ってるの??」
「短い雑談は休んだとは言わないよぉ~~」
茜の発言に、普段のどもり口調はどこへやら、波奉は涙目で休憩を要求する。
二人はその後も雑談を続けながら友人と担任の帰りを待つ。
不安が完全に消えた訳ではないが、友人を信じていつも通りの時間を過ごすのだった。