気が付けば年を跨ぎ、2024年も終わりが見えてくる頃になりましたね。
え~~~、単純明快な言い訳をさせて下さい。
第一に、短編ばっかり書いてました。
第二に、友人の小説(賞に応募するらしい。二作品の誤字脱字のチェック及び読みづらい点や不明点の指摘及び修正命令)の手伝いばかりしてました。
第三に、コロナに感染してぶっ倒れてました。
等々の事情があり気が付けばこんなに時間が流れていました。
今後もまた遅くなるかもしれませんが、ゆっくり待っていただけるとありがたいです。
対面座位、というものがある。
向かい合い、体を合わせて座る密着度の高い座位。
性行為では双方がお互いの体温を感じつつ、体位では同時にやりにくい乳吸い等の行為がやりやすくなる。・・・らしい。
俺自身、そういった経験はなく、知識として持っているだけなので断言をする事はできない。
さて、なんで俺がこんな事を言い出したのかと言えば答えは単純明快である。
「んっ、先生・・・♡」
「胸に顔を埋めながら艶めかしい声を出すな」
現在、椅子に座っている俺の上に向き合うような形で早川が座っているのだ。
『可能な事なら受け止める』、と言った手前、対面座位を要求されてそれを『いかがわしい行為である』と断定して突っぱねる事が俺にはできなかった。
俺は、俺の胸に顔を埋めている早川を見下ろしながら、その背中に手をまわしてそっと抱きしめる。
「・・・抱擁されると落ち着きますね」
「そうか。・・・それならよかった」
何の時間だ、と心の中で自分に問いかける。
長い会話はない。基本的にお互い無言でくっついている。
早川の体温を体で感じつつ、その頭を優しく撫でる。柔らかくて、サラサラとした手触りの髪の毛。
昔、実家にいた猫もこんな手触りだった事を思い出す。
俺が生まれる前から家にいて、高校入学前に静かに眠っていったアイツも、よく抱っこをせがんでこんな風に胸に顔を埋めて喉を鳴らしていた。
早川の姿が何故か在りし日の光景と重なり、つい懐かしい気分になった。
「・・・先生」
早川が上目遣いでこちらを見てくる。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです・・・」
恥ずかしそうに視線を逸らす早川に俺は問い掛ける。
「何でもない訳ないだろ? ちゃんと言葉で言ってくれないと分からないぞ」
正直に言って、後の展開を知っていたのなら俺は別の言葉を選んでいただろう。
しかし、後悔先に立たずとはよく言ったもので、一度した選択をやり直せるのはゲームか友人間でのお遊び将棋くらいだろう。
俺の問いに、早川は潤んだ瞳で、媚びるような可愛らしい声で、その言葉を紡ぐ。
「キス、して下さい・・・。それ以上は望みませんから。それ以上の事はしませんから・・・」
正直に言って、彼女らと関わる中でどこまでを一線として引いておくか、そこに関して深く考えていなかった。
冷静に考えれば、生徒とこれだけ密着して抱き合うという行為だってアウトかセーフで問われたなら確実にアウトだ。
この学校がそれを、いや、それ以上の行為を黙認していようともだ。
だが、それでいいのだろうか。
俺は早川の過去を聞いた。早川の抱えている物を、一〇〇パーセントでないにしろ知ったんだ。
しかも、だ。今までに幾度となく唇を合わせてはいる。――――無理やり襲われたと言った方が正確だが・・・。
優柔不断、と言われそうだが、それでも迷うし悩む。
一度大きく呼吸をする。ゆっくりと、深く、長く。
そうして心を落ち着かせてから、俺は答える。
「・・・わかった。ただ、それだけだからな」
俺の言葉を聞いた早川が妖艶に微笑んだ。
▼▼▼▼
とある教室で教師と生徒がお互いの唇を合わせる。
バードキスと呼ばれる種類の物であり、軽く唇を合わせ、離してもすぐにまた合わせる。
何度それを繰り返しただろうか。不意に、優歌が上目遣いで月城を見ながら呟くように言う。
「先生・・・、舌出してください」
「・・・舌?」
「あっかんべー、のべーです」
月城は困惑しながらも舌を出した。瞬間、優歌が月城の舌をぱくりと食んだ。
そして、まるで母乳を飲む子牛のようにちゅうちゅうと吸い付く。
「
「ん~、んっ。んちゅぅ・・・」
驚愕する月城を他所に、優歌はじっくりと舌を味わう。
「ちゅ、ちゅぱっ♡ ん、ちゅぷ、ちゅ・・・♡♡」
吸い付き、舌を絡める。
月城も優歌の動きに合わせて舌を絡めた。
どれほどの時間、そうしていただろうか。長くとも数分だろうが、その数分が長く、濃く感じられる程にじっくりとお互いの舌を絡めて味わった。
舌を放すと、つつーっと唾液が橋を作る。
月城の瞳に映る優歌の表情はトロンッと蕩けており、完全に雄を受け入れる雌の顔になっていた。
数秒程、見つめ合った後に早川は体を丸め、月城の胸に顔を埋めながら言う。
「先生、これから私が言う事は、なんでもない独り言です。なんの意味もない独り言です。ですので、聞かなかった事にしてください」
それは前置きだ。これから吐露する心情を、それを吐き出すことの恥ずかしさを少しでも隠すための言葉だ。
「私は、先生の事が好きです。この好きという気持ちが『恋愛』なのか『愛情』なのか『性欲』由来の物なのかはまだ判別できませんが、それでも、『好き』と言う気持ちだけは本物です。・・・最初は、先生と“あの人”の笑顔を重ねていました。ずっと会いに来てくれない“あの人”の代わりとして先生を見ていました。でも、先生は優しかった。そんな私にも、優しく接してくれました」
きゅっと袖を掴む手に力が入る。
「・・・誘拐事件以降、お父様も、お母様も、御爺様も、どこかよそよそしくなりました。同じように見えても、違和感はずっと有りました。・・・溝が、距離が、壁が、有ったんです・・・・・・」
声が震えている。いや、声だけでなくその幼い体も震えている。
「腫物を扱うように接されて、いつも気を使われて、でも、先生は違いました。普通に接してくれました。ただ、生徒と教師という関係だったとしても、普通に接してくれたのです。・・・最初は戸惑いました。最初はどうせすぐに今まで来た教師連中みたいになるだろうと思っていました。・・・でも、違いました。先生はずっと先生でした」
ゆっくりと、早川が顔を上げて月城の方を見る。
目尻に涙を溜め、恥ずかしそうでどこか心細そうな表情を浮かべている。
月城はそんな早川をそっと抱きしめる。
「んっ・・・。先生は、ずっと先生なのでしょうね。でも、それでも・・・今だけはこのままでいさせてください・・・」
寂しそうな声音だった。悲しそうな声音だった。
月城は静かに息を吐いて、ゆっくりと吸い込み、それから答える。
「そう、だな・・・。俺は教師だ。だから、ここにいる限りはお前の・・・お前たちの味方だし、可能な限り力を貸す。辛い事があれば相談に乗るし、一緒に解決する方法だって考えるさ。もう、一人で抱え込まなくて良い。卒業まで後一年半以上もある。その間に、早川の心のしこりを取り除けるように頑張るよ」
「あの、先生・・・。もう一度最後の言葉を言ってくれませんか?」
「え? あぁ・・・、早川の心のしこりを取り除けるように頑張るよ」
「・・・『早川でシコれるように頑張るよ』?」
「このタイミングでそんな事を言えるって事は、多少なりとも落ち着いたって判断して良いか?」
月城のツッコミに早川はクスクスと笑う。そしてぐっと体を伸ばして月城にキスをした。
「ふふ、そう判断してください♡」
「そう判断させて貰うよ。・・・もう一人で抱え込むんじゃないぞ、それだけは約束してくれ」
「分かりました」
優歌はどこかあざとくウインクをしながらそう答えた。
その姿に多少なりと安心感を覚えた月城は静かに息を吐いて気持ちを整えてから言う。
「ほら、桃知と暗視を待たせているんだ。早く教室に戻るぞ」
「ちょっと待ってください。マジックペンか何かありませんか?」
「・・・? いや、ここにはないが」
「ちぇ~、あれば正の字を幾つか太ももに書いたのに・・・」
「アホ」
バッサリとそう言われても優歌の表情は変わらなかった。
楽しそうで、嬉しそうで、どこか満足気な笑顔には付き物なんてなかった。
▽
「出ない」
「出ないね」
「二人も戻ってこない」
「来ないね」
小さなゲーム画面に視線を向けながら二人の少女が静かに呟く。
画面内ではボックスを埋めている非理想個体が機械的に「にがす」を選択され、消えて行っている。
「なぁんでこれだけ卵割ったのに色違い出ないのよぉ!!!!!」
「ねぇ、そもそもさ。・・・理想個体は生まれてるんだからそれでいいんじゃないかな・・・?」
「色違い出した時のエフェクトで時間稼げるから理想個体程度じゃ意味ないの」
「わ~TODする気だぁ・・・」
火力優先の即効型だった友人が変な方向へと進もうとしている事に波奉は軽く引いているが、茜はそれを気にすることなく7番道路を自転車で走り続ける。
波奉はその姿を見ながら小さく呟くように言う。
「ね、ねぇ。茜ちゃんはなんで最近になって個体値厳選とかをするようになったの・・・?」
「んえ? あ~~~、勝つため、かなぁ・・・?」
突然の問いに茜は少し言葉を詰まらせながらもそう返した。
ただ、波奉は少し含みのあるその言い方に疑問を覚え、茜の顔をじっと見つめる。
最初こそ、何でもないようにしていた茜だが、ずっと見つめられていたせいか段々とバツが悪そうに顔をしかめて渋々と言った様子で言う。
「先生にさ、私ずっと負けっぱなしじゃん・・・。だから、どんな方法でも先生に勝ちたくて・・・。それで、勝ったら告白、しようと思ってて・・・」
「・・・・・・は?」
友人の言い出したまさかの言葉に波奉は普段では絶対に出さないような声を出す。
しかし、茜は友人の発する空気の温度が下がった事に気が付いていないようで少しだけ顔を赤くしながら言葉を続ける。
「負けてばかりで、つい拗ねて・・・。格好悪いじゃん。だから、勝って、私は凄いんだぞって姿を見せたいというかなんというか・・・」
「ね、ねぇ・・・ひ、一つ言っていい・・・?」
「え、なに?」
波奉はなるべく冷静に装いながらハッキリと言い切る。
「TOD勝利って高感度減らすだけだと思うよ」
茜が凍った。ピシっと凍り付いた。
「・・・・・・そうかな?」
「そうだよ」
一刀両断である。あまりにも見事な一太刀に茜は椅子から転げ落ちて床へ大の字になって寝そべる。
そして、数秒の沈黙の後に静かに言った。
「時間無駄にした」
「それ、私のセリフ」
またも一刀両断されるのであった。