0005、2月1日の朝。衛宮邸。
今朝、桜が来なかった。来れないなら来れないと、必ず電話を入れてくれる奴だ。だから、寝不足気味の藤ねえの言葉に驚いた。
「士郎! 大変よぉ~! 昨日の夜に桜ちゃんの家が崩落したの!」
何だって!?
「藤ねえ! それで桜や慎二は!?」
バカな。崩落って何だ? 崖の上の一軒家じゃ無いぞ?
「それがわからないのよ。今も消防署と警察が捜しているんだけど……」
「そんな……。そうだ、どこかに避難してたり?」
「そう思いたいけれど……。これからショベルカーやクレーン車が入るらしいわ。大きな家だから……」
藤ねえは誰かから聞いて、早朝から桜の家に向かったらしい。携帯電話で撮影した画像を見せて貰えば、本当に家が失くなっていた。
これだと崩落と言うより崩壊だ。藤ねえ、言葉を間違ってるぞ。けど、それだけ動揺しているんだ。そしてそれは俺も同じだった。よく火事にならなかったものだと思う……。
だけどここを掘り返そうと思えば何日かかる? クソッ!
「士郎? 焦っちゃ駄目よ? 心配だけど、こんなのどうする事もできない。ただ無事を祈るしか無いわ」
「何もできないのか!? 何かないか?」
「うん、何かしてあげたいよね? でもね、士郎が行っても邪魔になるだけだよ」
ぅう……その通りだ……。だけど、だけど……。桜……慎二……。俺は気がヘンになりそうだった。
やがて呻いている俺を置いて、朝練のある藤ねえが出て行こうとした。
「士郎、玄関に手紙が挟まってるよ?」
「え?」
その手紙にはイニシャルだけで、フルネームは無かった。だけど文面から察するに、亡くなったオヤジの知り合いらしい。
昨夜遅くに冬木に入ったので、声を掛けるのを遠慮したそうだ。オヤジの仏前に手を合わせたいと書かれてあった。
「切嗣さんの知り合い?」
「みたいだ。手を合わせたいって事は、オヤジが死んだことは知っているって事か……」
「みたいね。ならさ、今日は休みなさい。その人と行き違いになってもアレだし、何より桜ちゃんの事で連絡があるかも」
「そうだよな」
「はぁ~。こんな事なら士郎に携帯を持たせるべきだったね」
「だよな。俺もいらないって考えてたし」
そしてスクーターに跨る藤ねえを見送って家に入った。
さすがの藤ねえも茶碗一杯しか食べなかった。俺は半分も喉が通らなかった。
片付けを終え、居間の畳の上で仰向けになり、両腕を頭の後ろで組んだ。何が正義の味方だ……。
俺はゴロゴロしているだけじゃないか。何か、何かできないか? 俺にできる何かがきっとあるはずだ。だけどそんなものが思い浮かぶはずもなく。
それで手持ち豚さ……もとい、手持ち無沙汰を誤魔化すために掃除をしていたら、9時ジャストにお客がやって来た。
お客は男性一人と女性三人。女性が全員外人でしかも美人ばっかりなのも驚いたが、後ろに立つ男性に俺は少しちびりそうになった。
「じ、爺さん……」
「はじめまして。君が弟の養子の士郎君かな?」
「お、弟?」
「ああ、双子なんだ。切嗣は僕の弟だよ。僕の名は衛宮矩嗣(のりつぐ)。言っておくが電車の乗り継ぎで覚えるなよ?」
「そ、それは……」
「クク……冗談さ」
居間に案内してお茶を出した。その後仏間へ。仏壇でお焼香している時に背中が震えていた……。悼んでくれているのか。
落ち着いたところで、居間に戻った。そこでもう一度自己紹介してくれた。
「こっちの銀髪の二人は僕の娘でね。姉の名はイリヤスフィール、妹の名はエルマだ」
ペコリと頭を下げてくれた二人は、とんでもない美人だった。それが娘って事は奥さんも美人だったのかな? けど、外人さんなんだな。
「そしてこっちの金髪の子は境界記録帯(ゴーストライナー)だよ。わかるかな? いわゆる英霊だ」
金髪のこれまた綺麗な女の子。
「え、英霊?」
「うん。過去の英雄。国を守ったとか、人々を救ったとか、数々の武功を立てたとか、居るだろう? そういう物語に出て来るような英雄。そんな過去の英雄の行いが伝承や物語となって、人々の信仰を得る。それによって死後の英雄は英霊という、人類とは異なる存在となる。そういう英霊をね。令呪という鎖で繋いで相争わせる、魔術儀式があるんだ」
「え?」
「七騎の英霊のコピ──―それをサーヴァントと言うんだけど──それを召喚して戦い、それらサーヴァントの持つ望外な魔力を燃料にして、大掛かりな魔術用の炉を回すんだ。そして根源への道を創る。それが『聖杯戦争』という儀式なんだよ。ああ、それと聖杯と言ってもあの聖杯じゃない。願望器の側面もあるので、そう呼称されるだけだ。争うのは根源に行けるのが一人だけだからだ。弟はかつてそれに参加していた」
何だって!? 爺さんが?!
「そう、参加していたんだ。そして炉に不具合があって、根源に行けるはずの孔からこの世を呪う泥が墜ちて来た。十年前の災害はそれが原因だ。弟が君を引き取ったのは贖罪の意識があったからだろう」
「え……?」
「鈍いな? 勝者は衛宮切嗣。街を焼いたのは、弟だと言っているんだ」
そんな……あの火災が、爺さんのせいだって言うのか……?
「君の本当の家族や、ご近所の人達を殺したのは衛宮切嗣だ。まぁ、炉が汚染されていた事を、あいつは知らなかった。だから一方的に責められない部分はある。何より、サーヴァント五~六騎分の魔力があれば、炉は願望器のような働きもする。また、そう喧伝されてもいたからね。あいつはそれで世界平和を成し遂げたかったのだろう」
ああ……。
「欠陥には気付かなかったのか……」
「みたいだね。そして泥の呪いを浴びた事で日に日に身体が弱り、最期を迎えた。今更だけど、僕が何故ここに来たのかを話そう」
そうだ。親父に兄が居たなんて初耳だ。何故今頃?
「もう察しているだろうけれど、僕も魔術師だ。そしてこの冬木で再び聖杯戦争が起きる事がわかってしまった。何もなければ本当に今更だ。君を驚ろかす必要もないし、真相を知らせる必要もない。君は君の人生を歩めば良いだけだった。だけど、あの悪夢のような儀式が再び始まろうとしている。だから、それを知らせたくて来たんだよ。仮にも君は僕の甥だ。みすみす死ぬような目にあって欲しくないからね」
「あ、あの……矩嗣さん」
「伯父さんでも良いよ。で、何かな?」
「その儀式だけど、止められないのか?」
「なるほど。僕と同じ考えか。君は戦力になるのかい?」
「体は一応鍛えている」
「ふ~ん……素手で英霊に勝てると?」
「それはやってみないとわからない」
「そんな考えじゃ、確実に死ぬ」
矩嗣さんはとても厳しい目で俺を睨んだ。
「英霊のコピーと言っても、サーヴァントは人類を遥かに越えた存在だ。その実力は大凡(おおよそ)一人で戦闘機一機分や戦車一台分の破壊力がある。わかっているのかい? ヘラクレスやアキレウスといった英雄と戦って勝つ必要があるんだよ? それも生身の生前じゃない。人々の信仰を得て人類以上、精霊に近い存在となっているんだ」
ヘラクレスやアキレウス……。やっと俺の中でサーヴァントという存在がストンと腑に落ちた。
「勝つ方法が何かあると思えるの?」
「いや……。けど、話し合う事はできないのかな?」
「そんな呑気に構えていたら殺されるよ。サーヴァントが召喚に応じる理由は様々だろうけれど、召喚者となる魔術師は、まず間違いなく、この降霊術でカタチを成すであろう聖杯を欲している。つまりは願望器か、もしくは根源へ至る道。そしてその召喚者がこの儀式を邪魔立てする者を見逃すと思う? 前回は十年前。それが第四次だった。通常はそれが60年の間隔を空けて開催される」
60年!? じゃ、一回目から何年経ってるんだ?
「そして前回、弟が中途半端に炉を壊したので開催が早まった。これを好機と見る参加者は多いだろう。サーヴァントという絶対的な暴力に対抗するには、サーヴァントをこちらも召喚する他は無い。だけどこの金髪の彼女を召喚した事で七騎揃った。もう、サーヴァントを喚べないんだよ」
そういう事か……。
「その人は?」
「君を信用しない訳じゃないけど、まだ未熟そうだ。暗示一つでホイホイと正体をバラしそうなので教えられないな」
「うッ……」
「それで君はどんな魔術が使えるの?」
「えと……。強化と解析……」
「相手を焼いたり凍らせたりはできない訳だね? じゃ、身体強化での肉弾戦か?」
「身体強化なんてできない……」
「何だそれ? 手段もないのに戦おうと? つまり君は、考えれば何か方法が見つかると思っているんだね?」
「ああ、絶対にあるはずだ」
「あのさ。思うのも考えるのも自由だ。けれど、方法なき願いは妄想だ。やってみないとわからない? バカを言っちゃいけないよ。サーヴァントは無理だから、仮に相手はマスターの魔術師だとしよう。それでも皆んな、君よりもベテランの魔術師ばかりだ。中には武術や武道を何年も学んでいたり、軍隊やそれに類する機関で近代的な格闘術を長年に渡って鍛えてきた者も居るだろう。そしてこの十年を無為に生きていない。確実に勝つための十年を過ごしている。断言するよ。絶対にそんな考えじゃ死ぬ」
「一夜漬けで、オール満点を取った経験がありますか?」
エルマと呼ばれた女の子が、日本語でそんな事を言って来た。
「何の練習もしていない人が高跳びで、いきなり2メートルも跳べますか? そしてこの戦争はオリンピック級に跳べる者同士の戦いですよ? 2メートル40センチから競技が始まると思って下さい」
「うん、エルマの言う通りだ。良く考えてご覧? 察するに君は、本当に危険なところで弟に救けられたのだと思う。そしてたぶん、弟の遺志を継いでいるのだとも思う。憧れるのも、同じ道を歩むのも自由だ。だけど、向いているかどうかは別だよ? 君の本来の才能はもっと別な方向で活かされ、その方がより多くの人の役に立つのかも知れない。そこは良く考えるべきだ」
そうかも知れない。だけど俺は正義に味方に……。
「君の夢が弟と同じなら、結論は人々の助けとなる事だろう? 方法なんて相手に応じて何千何万とある。言ってみれば、君一人で60億人もの人々に個別対応するなんて不可能なんだよ。それに今ここでこうやって話している間にも、地上のどこかで誰かが理不尽な目に遭っているだろう。地球の裏側の事にどう対処する? 志を同じくする者を集めて組織立てても、少数対大多数だ。難しいぞ?」
ぅう……うううぅ……。
「君の夢や願いは否定しないよ。僕も弟と同じで、誰も泣かずに済む世界を夢見ている。けど、弟もまずは家族を守るべきだったんだ……。家族を犠牲にして願う事では無いからね」
家族……?
「まさか……。親父には家族があったのか?」
「ああ。奥さんと娘さんが居た。奥さんはもう亡くなったけれど、娘さんはまだ生きている。ウチの上の子と同じ名前だ。たぶん、今回の聖杯戦争にマスターとして参加して来るだろう。父親を奪った君を殺しに」
「え? なんで……」
「奥さんの実家はアインツベルン。この聖杯戦争という馬鹿げた儀式を始めた御三家の一角だ。そして奥さんはこの聖杯戦争の鍵となる小聖杯だった。こう考えてくれ。根源へ向かうための孔を開ける大釜を沸騰させるには、サーヴァントという七本の炭が要る。五本や六本では足りないんだ。そしてその炭を確実に燃やすための火熾し器が必要となる。それが小聖杯なんだよ。そしてアインツベルンは、小聖杯が襲われても自分で逃げられるように人の皮と人格を与えた。それが君の義理の姉、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの母親だ」
つまり……爺さんは自分の夢のために、その人を犠牲にした……?
「おまけに弟は身体が弱ったからだと思うが、娘を引き取りに行ってない。残された子供はどう思う?」
そして……俺という存在。その子供が俺を恨むのは当然か……。
「だけど、親父は……どうしてその家からこの儀式に……?」
「傭兵として雇われたのさ。だけど勝ち上がっても聖杯は呪いの泥を吐き出すだけだった。要は第三次聖杯戦争で喚んではいけない悪鬼を喚んでしまい、聖杯が狂ったんだ」
「な、何を召喚したんだろう……?」
「アンリ・マユ」
何だ?
「善神アフラ・マズダと対になる、悪神だよ。中東の古い……ゾロアスター教に残る神だ」
「対極の存在じゃないか……」
「本当のところは、その名を冠せられたスケープゴートの亡霊だ。だけど、その亡霊が背負う呪いや怨念が、炉を汚染してしまった。もう、この冬木の聖杯は歪んだ方法でしか願いを叶えない。そんなモノが願いを叶えると弟は信じてしまった。だから話すなら、そこからだろうね」
ああ、なるほど。そこを説けば。娘さんと話し合う余地があるかも。あれ? これってヒントか?
もしかして矩嗣さんって厳しい事を言うけれど、根は優しい人なのか?
「これも話しておこう。君の立場だ」
「……立場?」
「ああ。ここで衛宮の表札を掲げて何年だい?」
「じ、十年です……」
「なら……。この地に根ざす魔術師は、衛宮が魔術師で聖杯戦争に関係していた事を知っている」
あ……。そうだ、そうなってしまう。
「御三家って言いましたよね……? 後の二つは?」
「この地のセカンド・オーナーである遠坂家、そしてロシアから流れ流れて日本に腰を下ろしたマキリ、即ち間桐家だ」
「遠坂に間桐だって!?」
そんな馬鹿な……。
「君、まさかと思うけれどスパイを家に上げたりしてないよね? もしそうなら協力は諦めてくれ。そこまでの間抜けと組んで危うい橋を渡りたくないんでね」
俺は頭に血が上った。だけど……。
「感情でしかものが言えないなら、本当に見捨てる。何故なら物事に冷静に対処できない人間に、他者を救うなんて不可能だからだ。つまり、君の夢や願いも嘘っぱちって事だ」
うぅぅぅ……。
「どっちだ? それとも両方か? どっちを家に上げた?」
「間桐です……」
「あそこは四人家族だ。大魔術師の間桐臓硯、当主の間桐鶴野、そして息子の間桐慎二、養子の間桐桜が居る」
桜が養子!?
「一番ヤバいのは間桐桜だ。この子は二重スパイの可能性もある」
「どういう事だ!?」
「間桐は水の家系なんだが、魔術師としてはもう枯れ果てているんだ。息子の間桐慎二なんて魔術回路が無いから、なりたくても魔術師になれない。それ故に相当歪んだ性格になったらしい。あいつは妹を虐待するカスだ」
それで慎二は……。じゃ、桜は?
「間桐桜の旧姓は遠坂だ。遠坂家六代目当主の遠坂凛の実妹だよ。魔術師の家では一子相伝が当たり前とされている。だから、後継ぎから外された兄弟姉妹はその才能の芽を潰されて、一生飼い殺しになるのが普通だ。だけど彼女は養子に出された。つまり、それだけ潰すには惜しい才能があったという事さ。要はこの度の聖杯戦争での間桐のマスターが間桐桜で、遠坂家のマスターが遠坂凛なんだよ。親もよくやるよね? 姉妹で殺しあうのかな?」
この時、俺は沸騰した。
「そ、そんな事はさせない!!」
「どうやって? 二重スパイもこなせる妹との話し合いは難しいぞ? 君が怒れば怒るほど、彼女の恐ろしいまでの手腕がわかるね。いや、強要した間桐臓硯、或いは遠坂凛の支配力かな?」
待て、どういう意味だ? いや、どうして桜がスパイという前提で話すんだ?
「君の事は調べ尽くしてある。毎日毎日、君に取り入ろうと間桐桜がここに通っていた事も調べてあったんだ。普通、同じ部活の先輩が怪我をしたからと、退部に至る遠因に義兄が絡んでいたからと、朝っぱらから女の子が男性の一人住まいの家に通うか? そこを疑問に感じないなら、君は頭がヘンだ」
うッ……。
「仮に間桐が一般家庭だったとしても、年頃の娘を男一人の家には通わせないよ。そこからもスパイだってわかるだろう? ついでに言えば、君は朝っぱらから女を家に連れ込む誑し(たらし)だと、ご近所で噂されている事だろう」
え……? そう……なるのか……。
「高校生にもなってそんな事も理解できないのか? 呆れるね。だから、君の目を覚まさせるべく、先に間桐を滅ぼした」
なっ!? あれは……、桜の家が崩壊したのは……?
「なぁ、君は何を目指している? 僕は弟の家族を守りたいだけだ。兄としてね。僕が間違っているとでも? なら、この十年の間に君は間桐を懐柔するなり、遠坂に声を掛けるなり、幾らでも手を打つチャンスがあったよね?」
「でも……知らなかったんだ!」
「聞こうとしなかった──知ろうとしなかったんじゃないか? 弟から魔術を習ったんだろう? 弟はどこで魔術を覚えたんだ? 誰に習ったと思う? それで弟は何をしようと考えていた? 聞こうと思えば幾らでもあるだろう? そこから弟の情報がもっと手に入ったかも知れない。君を魔道に引き込みたくなかった弟の考えはわかる。でもね。自分の死期を悟ったなら話すべきだった。それが君を護る事に繋がるんだから。弟も視野狭窄のバカだけど、君も大概だな? ところでバイクの免許は持っている?」
バイク? 何だろう?
「いえ、持っていません」
「じゃ、クルマの運転はできる?」
「できません。それにクルマの免許が取れる年齢に達していません」
「今まで何をしていたの? 怪我人を運んだり、遠くの仲間と連絡を取ったり、案内したり、色々できるだろう? あのね、緊急事態に於ける善行の場合は、特例で免許の有無を問われないんだ。知らなかった? 身体を鍛えていた? 薄っぺらい。具体的な事は何一つ考えていないんじゃないか?」
そんな事は……ない……と言い切れないのか……。
「君は料理ができるのかい?」
「あ、はい。自炊していますから……」
「なら、何を作る場合でも段取りと下拵えが必要だよね? 君は出来上がった料理の見本に憧れているだけで、何もしていないも同然だ。ボケッと見ているだけの奴が正義を語るなよと、君と弟の二人に言いたいね」
ううぅ……。
「口だけなら要らない。表面しか見ないバカも要らない。そんな奴に、こっちが救かる道だと手を引かれても信じられない。だろう?」
俺は、俺は…………。
「衛宮さん、間桐桜の事は安心して下さい。彼女に魔道の辛さを押し付けた臓硯は滅ぼしました。彼女を虐待した、ちっぽけなプライドだけの兄は捕らえています。そして間桐桜は私が介抱して、徐々に健康を取り戻していますよ」
え?
「間桐の家は蟲使いだ。あの子の体内に巣食う蟲は殲滅した。まだまだ安静は必要だけど、1年以内に健康を取り戻せる。もしこの意味がわからず、僕に文句を言いたいのなら……。悪い事は言わない、正義の味方は諦めろ。向いていない」
あ、ああぁぁぁ…………。
「次の僕のターゲットは遠坂だけど君はどうする? 本当なら御三家全部を滅ぼすべきだろうけど、さすがに僕も弟が世話になった家は滅ぼしたくない。どうする? こんなバカげた儀式を永久に終わらせるにはどうするべきだ?」
俺には何も思い浮かばなかった……。いや、遠坂だ……遠坂と話せないか?
「遠坂と話せば……」
「ああ、信頼関係があれば、その意見も間違いじゃないけれど。君や弟は、セカンド・オーナーに居住料や霊脈使用料を毎年支払っていたのかな? それと、盆暮れにお中元やお歳暮を贈っている?」
え?
「……何ですか、それ?」
「あのねぇ。要は霊脈の大家がこの冬木だと遠坂家なんだ。モグリでもない限り、魔術師は大概どこかの魔術協会に所属する。その魔術協会が認める霊脈の所有権を持っているのが、この地では遠坂家なんだよ。そして居住料や霊脈使用料は、霊脈の通った土地で暮らすのなら、魔術師や魔術使いが必ず支払わなければならないものなんだ」
「…………」
「その顔は何にもしてこなかったって顔だね。黙って暮らして来たのなら、バレた時が怖いよ?」
「知らなかったんだ!」
「僕に言っても仕方ないだろう? 六代目の当主に会って、事情を真摯に話して延滞料込みで支払うしか無いだろうね。それをして、初めてこの儀式について話し合えると思った方が良い。まぁ、10億も行かないと思うよ?」
「じ、10億……。そんなお金はありません……」
「ならどうする? 君は向こうから見れば、遠坂の土地に勝手に住み着いたモグリの魔術師か魔術使いだ。十中八九殺されるか、記憶を消されて冬木から追い出されるだろう」
「そんな……」
「相手は代々二百年にも渡って、こんなバカげた殺し合いの儀式を行ってきた家だ。君が話しに行けば、運が良ければ記憶を消されて引っ越し開始だ。運が悪ければ……確実な死だよ」
「そんな簡単に!」
「娘のイタズラにも気づかず……。下半身丸出しで何を言ってるの?」
なッ!?
「嘘だぁ~~~~~~~~~ッ!!!!!!」
俺はズボンとパンツを脱いでいた。それも綺麗に折り畳んである。
「それ、言っとくけど君が自分で脱いで、いそいそと畳んでいたんだよ? サーヴァントの名前を教えられないと言ったのは、君が何の疑問も持たずにズボンを脱いだからだ。悪いけれど、もう見なかったフリをして家に籠もっていなさい。君は戦力にならない。弟も何を考えていたんだか……」
そして矩嗣さん達は帰った。帰ってしまった。俺はパンツとズボンを穿きながら泣いていた。
残酷ですがイリヤの父の切嗣ならこう言わざるを得ないと思います。
第五次の士郎は第四次の災害だけでなく、あそこでも運を使い切っていますよね?
参加させない、ターニングポイントにさせない。並行世界ですが親として厳しくあたればこうなるのかなと。