※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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45、バーサーカー

 新都の公園を歩いていた。例の跡地では無い。繁華街から少し外れたところにある公園だ。

 

「お腹いっぱ~い」

「当たり前でしょう。晩ご飯もしっかり食べたのに、夜鳴きそばが食べたいだなんて」

「だって、あんなの初めてだもの」

 

 それは軽トラックの荷台を改装してあるラーメン屋さんだった。桜の花も夏の雲も見せてあげられるが、さすがのお母様も夜鳴きそばは知らないだろう。実に美味しそうに食べてらっしゃった。

 昔は人が引く屋台だった。あれは5年生頃だったか。まだ武家屋敷に住んでいた頃だ。夜中にトイレに行って、水を飲みに台所へ行けば、小さな電灯の下で、お父さんがタバコを吸っていたのだ。

 お父さんは時々夜中に起きて、あんな風にぼんやりしている事があった。私は仕事が溜まったり、プロジェクトが進まないと眠れなくなる。

 けれど、お父さんの場合はその声や、顔や、場面が浮かんで眠れなくなるのだ。戦場での事や仕事上での事でなく、魔術師殺しをしていた時に、意図せず巻き込んで死んでしまった人達の事を思い出して。

 お父さんも私もストレス性の不眠症だが、お父さんの場合はフラッシュバックもあったのだと思う。だから気分転換に甘えてみた。ラーメンを食べたいと言ったのだ。

 そして寝ているお母様や姉さんを置いて、二人でクルマに乗って新都まで行った。その時にあの軽トラックの夜鳴きそばを食べたのだった。

 そんな事を話したら、連れてけ連れてけと煩い煩い。私には肩車された記憶が無いと言えば、その後の10年が私には無かったと返されるのは必然だったので、仕方なくここまで歩いたのだった。

 ま、あの顔を見られたのなら一杯600円は安いか。味的にはイマイチで精々400円だと思うが、屋台は営業効率が悪く、雨天を除けば月20日営業が限度だ。

 ラーメン屋の場合、採算が取れるラインは1日百杯と言われる。これは屋台でも同じだ。

 600円の100杯で6万円。掛ける20日として120万。半額が水道やガスや原価に消える。更にロスや気候の変化に拠る売れ方の変化を考えれば、月三十万利益が出れば良い方だろう。

 精々400円とケチを付けたが、思い出はプライスレスだ。何とか頑張ってこの平成の世を生き残って欲しい。

 新都のこの界隈には、この手の軽トラ屋台が時々出る。深夜は先程のようなラーメン屋であり、昼間の駅前通りには、石焼き芋や天津甘栗の屋台も出る。夏はソフトクリームやわらび餅。マウント深山にもある、スーパー・トヨエツの本店も新都の商店街にあった。

 その商店街では焼き鳥やおでん屋があるし、トヨエツ前ではベビーカステラの屋台が時々出ていた。あの商店街はマウント深山より広くて長い。昼間に連れて来てあげたら喜ぶだろう。

 

 公園での小休止を終えて暫く歩くと駅前のバス通りに出た。高架下のお店が店仕舞いを終えていた。あそこには煮込みがあって、すじ肉とこんにゃく、頼めば大根や人参、豆腐なども出て来る。

 あの店は知る人ぞ知る名店で、煮込みは絶品だった。値段も安く、コップ酒は250円くらいだ。仕事帰りの人でいつも満席だった。

 ちなみにエルは煮込みが大好きで、齢16にして東京五大煮込みを全店制覇しているほどの煮込みフリークなのだった。地元ではあの高架下が一番と定め、オジサン方に交ざってフラリと入っていた。

 銀髪で外人のお姉ちゃんが一人で入って、煮込みとコップ酒を注文する姿は異常だが誰も気に留めない。

 立ち食いうどんだと気恥ずかしいクセに、こういう店は平気だし、暗示や記憶消去をバンバン掛けるのだ。その体験や記憶を私も持っているのが、正直悲しいところだ。

 東京の修学旅行では、浅草の日にホッピー通りに行き、先生である姉のアルトリアに義兄のアーチャーと三人ではしご酒を楽しんでいた。勿論自由散策の時間だし、姉に代わって学生の監視は使い魔にさせていた。

 これには理由があって、実は自由散策を巫女の姉と入れ替わってあげていたのだ。あの姉は今横を歩く姉と同じで学生経験が無い。

 だから制服を貸して、ホテルから入れ替わっていたのだった。これは初等部時代からやっていて、何度かエルは遠足などを休んでいた。

 小さな姉も学生経験は皆無だが、年齢を誤魔化せば初等部からやり直せる。本人はせめて中等部からにしてくれと、来春の編入試験に向けて勉強している。それでも6歳年齢を誤魔化すのだから、かなりのものだ。

 そして例のカード騒動でやって来たエルは、その巫女の姉を連れて来なかった。座の問題は礼装で解決できるが、よく大人しく待ってくれていたものだ。

 横の姉なんか、絶対に私と離れないだろう。それだけ、巫女の姉も成長したのだと思う。

 アルトリア姉さんと同じく、子供の頃からお世話になった姉だ。もう一度逢いたいなぁ。

 

「エルヴァ?」

「はい、魔力の高まりですね。使い魔もキャッチしています。このお馴染みの波長。片方はランサーで間違いないですね。そのランサーが誰かと交戦しています。行ってみますか?」

 

 そして現場に行き、転身の上で結界の中に侵入した。物影から覗くとランサーと異様なバーサーカーが戦っていた。

 まず衣類を何一つ身に付けていない。だけど腰から下は黒豹のような毛で覆われ、ズボンを履いているように見える。

 鍛え上げられた上半身は岩のようにゴツゴツしていて、アルさんのような筋肉とは別物だ。色も鉛色を通り越して黒に近い。耳は尖り髪はたてがみのようだ。爪も獣のように尖り、目の光は狂人でなく獣のそれ。

 

「あのバーサーカーは何?」

「キメラ召喚です。ヘラクレスと同時に、人々の心に眠る獣性や、真逆の信仰を得た想像上の悪魔の概念を被せていますね」

「そんな事ができるの?」

「この召喚方法は昔からありますよ。第一次があっさり終わったのは、これがあったからとも聞いています。問題は制御するにはとんでもない精神力と膨大な魔力が必要なところですね。たぶん、ホムンクルスを二百体ほど直列に繋いで魔力を得ているのだと。敏捷だけでランサーを上回っていますよ」

 

 ランサーの敏捷性はやはり高い。踏み出すステップも早いが、スピードアップした穂先は完全に見えない。

 彼の凄さは即トップスピードに切り替えられる、強靭な太ももやハムストリングスといった筋肉を持つ点と、急激な方向転換に悲鳴を上げない膝や足首の靭帯にある。

 右に左に足場を変え攻撃に転じるが、速さが軽さに堕していない。きちんと体重が乗った重みのある繰り出し方だ。鷹の目を通して観るランサーの妙技は、感嘆の溜め息しか出ないものだった。

 クー・フーリンはその生涯で何度も多対一を勝ち抜き、不利な状況を引っ繰り返し、己より強者に勝ち続けた真の武人だ。そしてその柄モノは、槍に限らず剣も弓も戦車も騎馬も扱えた。

 そんなオールマイティーさを誇るにも係わらず、彼は器用貧乏な兄と違って一級の剣士であり、超一流の槍使いでもあったのだ。

 中でも槍が有名だったのは、数多の敵を仕留めてきた恐槍ドゥバッハと必中のゲイ・ボルクの二本持ちだったからである。

 剣はクルージーン・カサドヒャン、別名『光の剣』を愛用していた。その剣と恐槍ドゥバッハの二つを持たせたならば無敵だったと伝承にある。

 ゲイ・ボルクは、影の国の主スカサハの伝説とセットで特に高名だが、本来は投擲用であり切り札でもあった。

 そんな大英雄の神速の攻撃をバーサーカーは尽く躱していた。まさに神話と神話の激突だ。

 バーサーカーの拳がソニックブームを起こしている。ランサーの繰り出す穂先が輪になった空気の渦を生み出している。両者とも音速を本当に越えているのだ。よく筋肉が断裂しないものだと思うが、そこに耐えてこそ英霊だろう。

 音速だ、光速だ、神速だとの形容詞も及ばない。実物はもっと圧倒的だ。バーサーカーの絶対的な死の暴力と対象的なまでに冷たく優美で薄ら寒い。

 私とてかろうじて見えているだけで、あれを躱す自信はまったく無い。

 速度だけでな無いのだ。次の攻撃がそんなところに来るのかという意外性。そんな槍に即反応するバーサーカーの身体能力の高さ。拳と槍のウィンブルドン、そんな訳のわからない言葉が頭に浮かんだ。

 そしてこれはギリシア神話とケルト神話のどちらが上かで勝敗が決まるのでは無い。召喚者たる魔術師が、どれだけこの聖杯戦争という儀式を熟知しているかにも懸かっている。

 

 極端だけど、言峰神父がマスターのランサーは全然怖くない。いつでも斃せる。だけどバゼットがマスターのランサーは、逃げたくなるほど怖い。同郷のマスターだと数値で現れない補正が掛かるのだ。

 これはアインツベルンが仕組んだ、遠坂・間桐潰しだった。御三家の内、アインツベルンだけは欧州に根ざす家門だ。ロシアから流れたマキリや日本の遠坂とは違う。

 東洋の英霊を喚べないのも同じ理由からだ。だけどここにメスを入れたのが遠坂時臣だった。アンリ・マユを召喚するためにアハトが召喚範囲を欧州から中東まで広げた事を何らかの方法で察したのだ。

 第四次で英雄王を喚んだのは、決してうっかりからだけではない。そして娘がアーチャーを喚べたのも。

 

 この他、幾つか気になる推論を挙げよう。

 まず、サーヴァント七騎を焚べた場合、その座標は第三魔法を得られる座標に固定されてれいた可能性がある。

 そしてその成果はアイリスフィールやイリヤスフィールがドイツの城で復活する事で成されるのだろう。でなければ、あの少人数で事に当たる理由が解せない。

 上記の事が間違いだとしても、最終的にはアインツベルンに聖杯が現れる段取りだったのは間違いない。その成果が私やクロちゃんが使える空間転移だ。

 日本の冬木からドイツまでは遠いけれど、サーヴァントを取り入れた聖杯の余剰魔力があれば可能だろう。この根拠は、私の姉も空間転移ができるところにある。

 つまりどこのイリやであっても教えさえすれば、空間転移が使える可能性が高いからだ。要は聖杯が完成すれば、小聖杯が自動で聖杯をドイツに送るのだ。

 先程は時臣の事を話したが、今度は臓硯だ。私はこの事に気付いていたと思う。だからマキリの聖杯を欲したのではないか? 

 

 話を元に戻そう。あの凶獣と化したバーサーカーだ。

『バーサーカー』は狂化と引き換えに全パラメーターが何割か上がる。弊害は魔力の消費量が大きくなる点だ。だけどあのキメラ召喚はその英霊が持つポテンシャルを最大に引き出すのみならず、生前ではあり得ない能力を与えるのだ。

 特に大きなものは勘だ。勝負勘が冴えるので、ヘラクレスのような人には効果覿面だろう。ただし貢物の魔力は通常のバーサーカーの比では無い。

 

『上等だ! 喰らえ、ゲイ・ボルク!!』

 

 使い魔が音声を伝えるが、私も姉もランサーの負けを確信した。ここで宝具を出してはいけない。

 槍の穂先はバーサーカーの心臓を貫いたが、彼はしっかりと左手を逆手にして槍を掴んでいた。そして直ぐ様蘇生。この蘇生で槍は身体の中心から左腕の方へ移動させられている。

 バーサーカーはランサーを力任せに引き寄せた。槍を突き出した体勢は身構える姿勢に変わっていたので、体重は乗っていない。だが、筋力BがA+との綱引きで勝てる筈が無い。

 引かれたランサーはバーサーカーに否応なく近付く。そこを右のカウンター・パンチが綺麗に決まった。文字通りのマッハパンチだ。ランサーはビルのシャッターと玄関を粉砕して、ロビーの奥のエレベーターを破壊した。

 

「わざと1回死にましたね?」

「あれさぁ、確か刺しボルクがランクBで、投げボルクがB+なのよ。本来ならバーサーカーの鎧は抜けない筈なの」

「ですよね。それは記憶に?」

「ええ。私の時は彼が森まで出向いて来てね。マスターだからステータスが視えるじゃない。それで、バーサーカーの敵じゃないってね。最高峰の英霊の一人だけれど、ランサーというクラスは彼には合わないわ」

 

 だろうと思う。私もクー・フーリンを選ぶなら、ライダーが無難だと思う。或いはキャスター。セイバーだと今度は槍が持てないし、ランサーだと剣が持てない。

 ゲームバランス上仕方ない事なのだと思うが、この聖杯戦争に於けるクラスの補正で一番割を食っているのがクー・フーリンだろう。

 なお、私自身はケルト神話が好きなので、クー・フーリンも好きな英雄の一人だ。その一騎当千の逸話も好きだし、彼の男らしいサバサバした性格も結構好みだったりする。

 だからいつか仲間に加えたいとさえ思っている。けれど……エルの頃から縁が無い。これはセイバーやお兄ちゃんが居たからだ。凜もそれで一度諦めたからなぁ。チャンスがあれば……。

 

 うん? エレベーターの残骸が動いた。一瞬意識が飛んだのだろう、ふらつくランサーが瓦礫の中から現れた。ああ、ああいう立ち上がり方はマズイ。

 案の定、そんなランサーをバーサーカーは左手に握った槍で力任せに横薙ぎにした。横方向へ逆くの字に身体が曲がり、血反吐を撒き散らし再び吹っ飛んでいくランサー。

 あの魔性の豪槍がボキリと折れた。これは初めて見た。あれも折れるのか……。

 悲惨なのはランサーだ。彼は無残にも右肘から腕が千切れ、肋骨が飛び出ていた。後は殴る蹴るの繰り返し。挙句の果てにランサーの足首を掴んで振り回し、地面に何度も叩きつけた。

 この状態で光の粒子にならないランサーも凄い。地面に空いたクレーターの中で、バーサーカーがランサーを蹴り上げた。今度は別のビルの外壁に突き刺さった。生きてるのか……? 

 

「うわ~。蹴られて吹っ飛んでったよ」

「ボコボコですよね。槍を真っ先に折るのは戦術的には間違っていませんが、この差は……」

 

 何とも恐ろしい。このバーサーカーは、最初から武器を何一つ持っておらず、己の肉体一つで戦っているのだから。ランサーを追ってビルの外壁をよじ登る姿は、まるで映画のキ○グコ○グだ。

 仮にアルさんが居たら、その絵はサ○ダ対ガ○ラだろうか。それはそれで物悲しいが、どっちにせよこの圧倒的パワーは人間サイズのゴ○ラが街中で暴れているようなものだった。

 その憤怒の顔は、村一つの信仰しか持たない大○神では無い。あんな風になっても信仰が夏の夜空に輝き、映画やアニメにまでなっているヘラクレスそのものなのだった。

 

「ギルガメッシュが居ないなら、誰も勝てないよ? どうするの?」

「そのための同盟です。最悪は出ますけれど、今は観察ですね。あ、ランサーが霊体化しました」

「うわぁ! 怒ってる、怒ってる!」

 

 ランサーが消えたので暴れているのだ。ウソッ!? ビルを引っこ抜いた!? 

 

「エルヴァ? バーサーカーは無敵だね……?」

「どこの甲児クンですか。そんな、マジ○ガーは無敵だね、みたいな口調で言わないで下さい」

「でも、昔は私もパイルダーオンしてたんだよ?」

「フランケンみたいなのに跨る、北斗の方を思い浮かべました」

「失礼な!」

「あ、バゼットも撤退しましたね。今夜はこれで終わりでしょう。ああ……あの子達がマスターですね。見て下さい」

 

 少女二人がバーサーカーを宥めていた。モ○ラかよ? 

 

「うん。でもそこまで子供じゃないね。14~15歳くらいに見えるなぁ」

「無理矢理成長させたのでしょう。実年齢は8~9歳くらいだと。しかし異様なラインですね」

「ライン? 何が?」

「う~ん、バーサーカーとのパスです。代表として出て来ているのがあの子達で、他にもマスターが複数居る感じです」

「そっか、そういう方法があるんだ?」

「ええ。二人もこちらに気付いてますが、敢えて無視していますね」

「どうして?」

「あの子達も大聖杯を探査しているのでしょう。こちらが無関係だと理解しているからだと思いますよ。ですが二度目は無いでしょうね。今回見逃してくれるのは、通りすがりの目撃者でなく結界に侵入して来た者だからです。つまり神秘を知っていて、使える者だからと」

「黙って消えろって事ね?」

「ええ。結界に侵入できるなら、観光では無いだろう? 今がどういう時期かわかっているだろうと」

「そういう事だね」

 

 結界から出て、深山町まで戻って来た。

 

「あんなの倒せるの?」

「『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』で、5~6コ。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)で4~5コ。姉さんの『偽・螺旋剣(カラドボルⅡ)』で1~2コ。他にも手はありますし、どうにかなるでしょう。何れにせよ、あんな風にされたアルさんは見たくありません」

「だよね? 私も嫌。何かとても腹が立つ。エルヴァ、絶対に彼を座に還してあげましょう?」

「ええ」

 

 そう話している矢先に辻の先で真っ黒な霧がボワッと浮かび、ヒュッと収束して消えた。

 見事なコントロールだ。私達を襲おうとするアンリ・マユの本能を地脈に還したのだ。アンリ・マユに飲まれず、影響を全部ライダーに押し着せているのかも知れない。となると、今夜あたりどこかで誰かが……。

 だけど聖杯を欲している訳では無いだろうに。欠片も取り出せるだけの知識や実力もあると思うのだが。もしかして既に取り出していて、何らかの方法で臓硯に? 

 

「エルヴァ、戻ろう。危ないよ?」

「そうですね。今夜は切り上げましょう」

 

 そうして私達は遠坂の屋敷に戻った。セイバーとランスロットさんも程なく戻った。凛とアーチャーはその1時間後だった。居間に全員が集まったが、先生とエルマだけが居なかった。

 

「収穫はありましたか?」

 

 疲れた顔で首を振る凛。

 

「そちらは何か?」

「バーサーカーとランサーの戦いを見ました」

「一方的。ランサーがボコボコだったわ」

 

 驚く一同。どういうバーサーカーでどういう戦い方をしていたかを話せば、二度三度と驚く。怪物とか化け物とかの括りでは無い。

 英雄なら化け物に勝てるというファンタジーの方程式を覆す、トーホーやツブラヤの怪獣のようなルールを無視した存在。あの召喚は反則だった。

 

「獣性を呼び覚まし、悪魔憑きにしている? 間違いないんですね?」

「間違いありません」

「わかりました。アーチャー?」

「何かね?」

「イリヤ先輩や衛宮君達と共闘するわよ」

「どうしてもかね?」

 

 赤いサーヴァントは壁にもたれ、腕を組んでいた。

 

「じゃ、しなくて済む方法を開陳してみて。言っておくけど彼女達の手を借りるのは最後の最後、冬木が危ない場合よ。そこはセカンド・オーナーとして見極め時を誤らないわ。けれど、現段階で借りれば審査は無条件で強制終了なの」

「斃せば良かろう?」

 

 組んだ腕の人差し指が上がる。ああ、わかった。わかってしまった。それはそうなるだろう。マスターがイリヤじゃない。この情報だけで彼には十分だった。問題は……。

 

「おそらく作戦の立案者はアハトではありません」

「うん?」

「立案者はイリヤスフィールの妹。マスターも並列に繋いだイリヤスフィールの妹達です」

「何! 並列?」

「ええ、並列です。ですから一人や二人殺しても、バーサーカーは斃れません。また一人に押し付ければ、無理が祟り短命にならざるを得ませんが、二十人、三十人と並列化すればできる事は増えます。令呪も解除キーと発動キーだけを覚えておいて、外部の意識無きホムンクルスに持たせる事が可能です。そもそもあのバーサーカーは、おそらく二百体近いホムンクルスを直列に繋いで運用しているはずですよ。斃すには日を置かず一気に斃し切りませんと、一日で『十二の試練(ゴッド・ハンド)』は復活です」

「どうしてそれがわかる?」

「マスターの並列化は初めて見ましたが、ホムンクルスの直列化は並行世界で見ています」

「そうか。君の知識の中には前例があったのか……。そして立案者は君みたいな奴か?」

「そのようですね」

 

 皆んなが黙ったところで、マスターの凛が声を上げた。

 

「アーチャー、あなたの宝具って何?」

「観念したら?」

 

 そう言ったのは姉だった。

 

「ふむ。固有結界だ。無限に剣を内包した世界だ」

「それはそれで驚きの魔術だけど、単なる剣でしょう?」

「リン、違うわ。同調開始(トレース・オン)──」

 

 そうして姉は『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』を投影した。

 

「こういう宝具の剣が無数にあるのよ。でもさ、リン。私がマスターだった時で、筋力A+、耐久A、敏捷A、魔力A、幸運B、宝具Aで、その宝具が『十二の試練(ゴッド・ハンド)』と言ってさ、生命のストックが11もあるのよ。しかも一度受けた攻撃は耐性が付いて、次回から大幅に威力をダウン、ほとんどが無効化されるの。そしてエルヴァが言うように日にちが開けば、失った分のストックが復活するわ。おまけに戦闘続行A、心眼(偽)B、勇猛A+、神性Aよ。たぶん幸運や神性は大幅に落ちていると思うけど、戦闘続行と心眼(偽)は上がってると思う。心眼は真じゃないかな」

「何、その反則は?! つまりそれらのパラメーターがもっと上がっていると言うの?」

 

 素っ頓狂な声を上げるマスターの凛。さすがにお嬢様の仮面も剥がれ落ちた。

 

「間違いなく。だから凛、アーチャーを責めないであげて。私の知るバーサーカーなら、あなたの魔力次第で彼には勝算があったと思うの。けれど固有結界持ちだとわかっているなら、展開する前に倒される可能性があるわ。詠唱に時間が掛かるからね。その弱点に繋がるから能力を暈していたのよ」

「う~~ッ。じゃ、あなた、あなたは彼の真名を知っているの?」

「知っているわ。あなた以外は全員知っている。けれど、それも課題だと思うわよ?」

「ヒントは無いの?」

「そうね。なら……パラメーターの低さは知名度補正が無いからよ」

「知名度補正? つまり信仰が浅い……? 英霊は過去の英雄……。だ~~ッ! わかった! あなた、未来の英霊なんだ? そして時計塔にでも通っていて、この第五次聖杯戦争の事を知っていた。それでしょ?」

「私が答えるのかね?」

「私が答えましょう。ほぼ正解ですよ。同乗開始(パイルダー・オン)──」

 

 私の方は『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を投影した。アーチャーには不可能な投影だ。だから彼は目を剥いていた。

 対してセイバーやランスロットさんには何度か見せていたので、素知らぬ顔を決め込んでくれていた。

 

「わかった。あなたは何百年も過ぎた後の並行世界から来たんだ? イリヤさんの子孫ね? そっかぁ、イリヤ先輩もとんでもない隠し玉を持っているわね。投影じゃなく固有結界か……」

 

 実はこの辺は間違っていても審査の対象にならない。先生が重要視しているのは、セカンド・オーナーとしての決断であり、必ず生き残る事だったのだ。

 何故なら、この凛には離婚していても両親が健在だし、妹とも会おうと思えば何時でも会える。まずはオーナーとして冬木を守り通し、早く聖杯戦争を終える事。そして避難している店子を呼び戻し、通常の運営を取り戻す事こそが、今の地位を譲ってくれた父親に対する恩返しであり、先生が掲げている魔導師の姿だったからだ。

 聖杯戦争などというビッグイベントを経験しても──その中で、後の人生に対する指針となる切っ掛けや、ヒントが得られたとしても──魔法使いなんてものには、乱れた生活の中で到れるものでは無い。

 縁を大切にするとは、人間関係が円滑で不安がないという事だ。平穏な心があってこそ、真理や根源は近付くのだ。

 そしてその前に宝石剣を造らなければならない。この凛は私の方の凛とは違い、設計図は理解していた。足りないのは原材料費の捻出だけだったのだ。1本造るのに、三十億から百億は掛かる。これもあったので、通常運営に戻させたかったのだ。

 つまり先生は彼女を買っていた。それもかなり高く。魔法使いの凜は勿論、あちらのルヴィアでも簡単にたどり着く答え。才能はあるのに、それが見えていないところが歯がゆかったのだ。

 

「同乗開始とは何だ?」

「呪文も詠唱も自己埋没できて、術が行使できるのなら何でも良いのです。ちちんぷいぷいでもオッペケペーでも、お経やコーランの一節でもありですよ。ちなみに私が自己埋没する時の呪文はこれです。『愛 尼 煩悩 魔 僧都』」

「き、君な!?」

 

 アーチャーさんは怒るが、呪文なんてそんなものだ。あ! 

 

「凛! ルヴィア! そこの窓を開けなさい!」

「はい!」

「はい!」

 

 そして私は再度転身してフェイルノートを構え、バルムンクを射た。紫電を放つ矢は窓枠を抜けてから加速を増し、遠坂の敷地を出た瞬間にソニックブームを撒き散らした。直線で800メートルくらい先だけれど。うん、手応えあり。

 

「なんつう格好よ? それ、アーチャーのマネ?」

「真似と言えば私の方だけど、この子の方がフレッシュなのよ」

「フレッシュって。夜道で会えば露出狂よ」

 

 慌てて転身したので、クロちゃんみたいにお腹が出ていたのだ。

 

「凛の結界を壊さずに抜けて、敷地を越えてから音速を超えるのか。どんな魔力の込め方だ。ターゲットは誰だ?」

「たぶん、ライダーです」

「何ッ?」

「呑み込まれて黒化しているのか。そこは謎ですが。何れにせよ手応えはありましたが、復活すると思います」

「そうか。それで今の剣は?」

「愛知剣」

「は?」

 

 このジョークを理解しないとは。身近な愛を知らず、赤の他人と家族ごっこに勤しんで来ただけはある。

 最後はその家族も捨て……。この人も妹分をその手に掛けたのだろうか? 

 

「元は『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』ですよ。ペガサスを射る場合はこれに限ります」

「バルムンク……。宝玉の中の神代のエーテルはどうした?」

「まぁ、適当に」

「適当言うな。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』といい、これといい。どうしてそう楽々と創り出せるのだ?」

「言っておきますが、私のは溢れ物でなく、本物の投影魔術ですから」

「投影……?」

 

 私が何か言おうとしたら、私の方の凛が早かった。

 

「魔力の無駄遣いという認識は改めた方が良いわよ。達人はここまでできるんだから」

 

 こめかみをピクピクさせた家主の凛。

 

「わかった……。アーチャー、わたしの部屋に来て?」

「了解した」

 

 家主の彼女は何かに気付いたのか。

 

 

「まずいなぁ。一番話し合いの難しそうな陣営が、そんな化け物を召喚していたなんて。間桐は間桐で訳がわからないし」

「ふむ、そうだな」

「で、どう? バーサーカーと戦える?」

「むぅ。こうやって情報を得れば、共闘を選択するしか手はあるまいな」

「マスターが並列接続で、しかもイリヤ先輩の妹達って。嫌になる情報よね?」

「まったくだ。そこでつかぬ事を尋ねるが、君とそのイリヤ先輩とやらはそんなに仲が良いのかね?」

「ええ。お互いに先生の弟子だっていうのもあるけれど、子供の頃からの友人なのよ」

「世話になったり?」

「そうね。わたしは誕生日の関係で早生まれなの。2月3日だから、同学年の中では誕生日が遅いのよね。そして4月15日が誕生日の衛宮君とは1年近く離れているし、11月20日のイリヤ先輩に至っては1年半離れているわ。それで、妹のように可愛がって貰えて、料理やら裁縫やら色々教わったわ。姉弟子と言うより、わたしにとっては姉的存在なのよ」

「そうか……。そこまで……。警戒するあまり要らぬ進言をしてしまった。すまない」

「ううん。わたしの身を案じてでしょう? それはわかるから。でさ……わたしはね、衛宮君の魔術を知ってるのよ」

「やはり、君は聡明だな」

「世界に祈っちゃった?」

「そうだな」

「という事は、あなたの生前、傍にイリヤ先輩は居らず、バーサーカーのマスターだった。どう?」

「正解だ」

「衛宮君ね、子供の頃ひどかったのよ。心的外傷後ストレス障害で。あなたの周りには、心療内科やカウンセリングを勧める人が居なかったのね?」

「あいつは……?」

「そう。イリヤ先輩が真っ先に気付いて。まだ存命だった小父様を動かして、何度も何度もお医者に通ったそうよ」

「そうだったのか……」

「実はさ。わたし、聖杯なんてどうでも良いのよ」

「どういう意味だ?」

「こんなバカバカしい事を早く終わらせたいの。あ、勘違いしないでね? それは逃げたいからじゃないのよ? セカンド・オーナーだから責任は当然あるし、義務もある。でもね、人様に迷惑を掛けて、サーヴァント七騎を焚べて、開いた穴の先が根源だなんて、そんなに簡単に信じられる? そこは世界の外ではあっても『英霊の座』でしょう? 根源とは座標が違う気がするんだけど。アカシックレコードなんていってもね、こちらが欲しいのは電話帳の目次じゃなく……言ってみれば緊急連絡先なのよ。何々さんの座は何々番地の何番だなんて情報は要らないの。どう? わたしは間違ってる?」

「いや、何とも言えんが……君が正しい気がする」

「そう、ありがとう。それでさ、後数年で宝石剣の材料費が工面できるの。それを作成してしまえば、22~23歳までに根源に行く自信があるわ。その方法も数種考えてあるの。だからね、早く終わらせたいのよ」

「君はそこまでの人だったのだな。だが根源を得て、魔法使いになれたとして何をするのかね?」

「あなたみたいな、イリヤ先輩が身近に居ない衛宮君を救けられるわ。それにバーサーカーのマスターのイリヤ先輩や、間桐の養子となった妹を。並行世界の悲しい妹の事は先生に伺っていたの」

「そうか……。君には敵わんよ、遠坂」

「バ、バ、バカ! いきなり遠坂って呼ぶな!」

「そこで叱られるのか……」

「それでさ。なんであの二人はあなたみたいな能力が使えるの?」

「わからん。私にもそこが謎だ」

「やっぱり、わかんないか。何か関係があるのかな? 課題じゃないだろうけど疑問だわ」

「そうだな……。イリヤの方は私と関係あると思えるが、それもどうだろうな。エルヴァの方は純粋な投影魔術らしいが」

「そこよね。桁外れな魔力を持つと、ありきたりな魔術が変貌するのかしら?」

「かも知れんな。そして似ているようだが私とはかなり違う」

「それは?」

「あり方や、その他にも色々とな。が、目に見えるもので取り上げるのなら、先程の弓だ」

「同じじゃ無いの?」

「違う。咄嗟に解析してあった。投影するから見てみたまえ。同調開始(トレース・オン)──」

「この、あなたの投影したのと、さっきの彼女のと違うの? 同じにしか見えないわ」

「中身も結構違うが……わかりやすいのがここだ。この矢を番える部分。ここが私のは左側にある」

「それが?」

「これは想像だが、彼女は弓道をやっているのではないか? というのは射た後に弓が弓返りしていたからだ」

「わかんないけど、という事は並行世界で弓道部の部員だったり?」

「かも知れんな。何れにせよ彼女は未来の人間では無いだろう。イリヤと……何らかの関係がある最近の人間だと思う」

「そうね。そうかも」

 

 

 家主の凛が従者と部屋に戻った後、エルマが先生との話を終えて居間にやって来た。さぁ、寝ようかという段で、エルヴァがお茶を振る舞ってくれた。

 こんな夜中にと思ったが、カフェインは入っていないらしい。どれどれと一口含むと鼻腔を爽やかな香りが抜けていく。はぁ~と溜め息が思わず出た。

 何だと聞けば、クスミティーのビークールだと缶を見せてくれた。これは初めてだった。エルヴァの説明ではクスミティーはロシアのお茶で、ビークールはカフェインフリーのアロマ茶なのだそうだ。

 妊婦さんやこんな深夜に飲むのに適しているらしい。

 

「これ、意外とイケるわね?」

「ハーブティーを下手に作るより、お手軽で美味しいですから。この他にもレモングラスが効いたデトックスや、ルイボス茶のBBデトックス、そこにパインの風味を足したようなブルーデトックスなどハーブティーやフレーバーティーが多いメーカーです。日本にも輸入されていますので、簡単に手に入りますよ」

「ここのアナスタシアがよろしいのですわ。昨年出たサンクトぺテルブルクの風味も良いですわね」

「サンクトペテルブルク建都三百年記念で発売された、アールグレイにキャラメルやバニラのエッセンスを……」

「そう、それですわ。さっぱりしたお菓子に合いますのよ。おかきの素焼きで試されると中々ですわよ」

 

 ルヴィアが意外と詳しい。けど、おかきって。だけど先生まで頷いている。

 

「この会社がサンクトぺテルブルクにあって、スオミのお隣ですのよ」

 

 ああ、なるほど。つまりフィンランドにも出回っていると。フランスのマリアージュ・フレールやジャンナッツにフォション、ドイツのロンネフェルト、英国のフォートナム&メイソンにウェッジウッドやウィッタードなどは試した経験があるが、ロシアのクスミティーは名前こそ知っていても初体験だった。結構気に入った。色々あるみたいだから新規開拓する気になった。

 

「フランスならベッジュマン&バートン、ラデュレ。英国ならハロッズ、アーマッドティー。この辺りも試されると良いですわよ?」

 

 さすが生粋のお嬢様は詳しい。ベッジュマン&バートンやラデュレなんてかなりの高級茶だ。そういや名前は知っていてもハロッズのお茶は飲んだ試しがない。

 

「ハロッズは高級デパートとして知られますが、元は紅茶商でしたのよ。朝はNo.14、午後はNo.18。倫敦に居たのですから、どこかで口につけていると思いますわよ?」

「かも知れないけど、記憶に無いなぁ」

 

 トートバッグは持っているし、ベアも誰かから貰った記憶がある。けれど手元にはない。借りていた部屋をエーデルフェルトの人が片付けてくれ、それらの荷物が家に届いたのが先日だ。まだ梱包の中なのだった。

 そんな事を話しながらベッドに潜り込んだ。セイバーがお休みなさいと電灯を消してくれた。

 

 

 翌28日、水曜日の朝。私達が居間に降りると、家主は制服に着替えてお茶を楽しんでいた。

 

「今日も学園に?」

「ええ。休んでも良いですが、意地というか拘りで。ここまで優等生を通して来たんですから、行けるところまで行こうと。アーチャーが霊体化して着いて来てくれますから心配は要りませんよ」

「イリヤさんや衛宮君は昨日から休んでいるらしいけれど?」

「今日はイリヤ先輩が登校されるそうなので、軽い打ち合わせはしたいところです」

「わかった。気を付けてね」

「ええ。ありがとうございます」

 

 彼女も以前の私と同じく、朝食をあまり食べない人らしい。お茶を飲み干せば赤いコートを羽織って出て行った。良いな、あのコート。ヴェルデにあるのかしら? 

 思わず玄関を出て、後ろ姿を追ってしまった。同じ遠坂凛のはずだけど、オーラがあるっていうか、絵になる人だ。師匠の凜とはまた違う魅力のある人なのよね。

 昨夜ランサーがボコボコにされたらしいし、ライダー陣営の動きがまだ見えない。アインツベルンは夜しか出ないだろうが、ライダーは不明だ。くれぐれも気を付けて欲しい。

 そんな事を考えながら家に入れば、廊下の電話が鳴った。この家の電話なので出て良いのか迷ったが、メモを片手に出てみた。

 

「ハロー、ミス・トオサカ? バゼットです」

「バゼットさん? どうされました?」

 

 声が深刻だったので聞き漏らすまいと受話器を強く耳に当てた。

 早朝、日の出前にベッドで回復に務めていたはずのランサーが忽然と消え、バゼットの令呪も消えたという。

 

「喰われましたね」

 

 受話器を置くと、エルヴァがそう言った。

 

「それと、私やアサシンが感知した範囲ですが、この冬木に潜伏していた魔術師や代行者に傭兵、総勢47人が消えました。その中には病院に入っていた言峰神父も含まれます」

 

 エルマの報告に驚く私とルヴィア。あの徹底した隠蔽を知っているだけに呆れたのだ。これは御三家や魔術協会、そして聖堂教会の思惑が一致していないからだと思う。

 そして情報屋から流れる情報で集った、一山当てたいフリーランスの魔術師の存在や、起死回生を望む組織からはみ出た者達の存在。エルやエルヴァから教えられた者達が、この冬木に入り込んでいたのだ。

 

「なっ?! これだけ大きな儀式だから、嗅ぎ付けている者が居るとは思っていたけど。そんなにも居たの?」

「思った以上に情報が外に出ていますわね? となると第四次聖杯戦争後の処理が甘かったのでは?」

「以前も話しましたが、それを狩っていたのが間桐臓硯です。やっと意味がわかりました」

 

 1月上旬の冬木とその近隣で起きた子供の失踪事件は、アトラム・ガリアスタの配下の者の犯行だった。

 そして今回のこれは失踪者が全員外部から来た者か、或いは長年冬木に住み着いているどこかの協会か教会のスパイだったのだ。間桐に拠る粛清だ。

 

「こういう存在を知らないところが遠坂よね……」

 

 自らの反省を込めて、思わず呟いたのだが。

 

「リン、イリヤさんとシェロに連絡を」

 

 ルヴィアの言う通りだ。マスターは、相手のマスターやサーヴァントから狙われるだけでは無い。聖杯に釣られたり、サーヴァントの存在に目を奪われた者が令呪を奪いに来るのだ。

 特に組織が怖い。一人が無理でも何十人も魔力を送れば、儀式の終結関係無しに、サーヴァントを維持できる。現象となった彼、彼女らは歩く兵器なのだから。

 

「迷いますわね。エーデルフェルトと連絡を取るべきかどうか」

 

 確かに。ここの凛とルヴィアは仲が良いとは聞いている。あちらも大師父の流れを汲む宝石魔術師なら、並行世界の私達をすんなり受け入れられるだろう。だけど……勝手に動いて良いものなのか? 

 私は迷いながら衛宮君の家に電話を掛けた。うっかり美遊の家の電話番号に掛けちゃったのだが、何の問題もなく衛宮君に継った。こういうのは変わらないらしい。

 

「もしもし、衛宮さんのお宅ですか?」

『はい、そうですが。あの……?』

「申し遅れましたが、私は遠坂の家に逗留している試験官です」

『あ、はい。姉から聞いています』

「よく聞いて下さい。昨夜、この聖杯戦争を嗅ぎ付けていた外部の魔術師達が軒並み消されました」

『え? 誰がやったかわかりますか?』

「犯行は間桐の者だと思われますが、同じ事を考える他の者が居ないとも限りません。また、マスター権を奪おうとする者が、まだ残っている可能性もあります。付きましては、一時の感情で動かず、お姉様とよくご相談の上で行動して下さい」

『そういう奴らが動いていると姉が話していました。もしかして失踪者って、そういう事ですか?』

「はい。こちらの調べでは普通の市民に被害者は出ていません。また、これは儀式隠蔽の一環だとも取れます」

『嫌な隠蔽ですね。仕方ないとは思いますが……』

 

 彼は大きな溜め息を吐いた。彼とてわかっているのだ。この方法が良いとは言えない。けれど一般市民に被害が無いのは大きい。電話を切った私は再びエルヴァ達に向き直った。

 

「今代の間桐は手強いですね。失踪者の処理はともかく、目の付け所が違います」

「聖杯の汚染は知っているのでしょう? 真意は何だろう?」

「エルマが話してくれたように、無事に終えたいのではありませんこと? 襲わせるのも、儀式の隠蔽と魔力補給を兼ねてだと」

「エルヴァも同じ考えなの?」

「ええ。ルヴィアと同意見です。それに魔術師は世間知らずが多いです。霊脈に縛られる場合もありますが、新天地で心機一転とは中々行かないのですよ。ですが、その人は身体さえどうにかなれば、また維持できる工房が用意できるなら、冬木から出たいと願っている気がします。つまり、聖杯戦争を今回で永久に終わらせたいのだと」

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