※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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いよいよ18歳未満お断りの話になってきました。


66、とある世界の第五次聖杯戦争

 28日の午前10時半。私達は衛宮の家に居た。この時は師匠も同席していたし、アーチャーもセイバーにも同行して貰った。アーチャーの顔を見て驚く衛宮君。

 でもそれは一瞬の事で、すぐに素の顔に戻った。だって、ここの衛宮君はほとんどアーチャーと変わらないくらいに背が高く伸び、顔付きも精悍だった。

 何より腕も太く、胸板に至ってはアーチャー以上かも。エメラルドグリーンのポロシャツがパッツンパッツンだ。座卓を挟んで座っているのだが、彼の横には赤子を抱いた凛さんが居た。

 

「昨日は悪かった。友人達と久方振りだったもので。君達の事はそちらの凜ちゃんから伺っている。話せない事もあるけれど、話せる範囲は話すから、何でも質問してくれ」

 

 凜ちゃんとは呼んでいるが、師匠が魔法使いとわかっているので、衛宮さん(そう呼んで然るべきだろう。こうして会ってみると衛宮君は失礼だった)と凛さんは、師匠に一目置いている態度がありありとあった。

 

「まず、大聖杯はどうなりましたか?」

「それは私が話すわ。間桐を眷属にした事も理由としてあるけれど、セカンド・オーナーとしてあんな汚れた聖杯は許せない。その事を当時中学生だった凜やエルとともに、ここのアインツベルンに訴えて、聖杯解体の方向で纏まったの。現段階で二割ほど解体が進んでいてね。霊脈からも切り離されているから安全よ。この後3年ほど掛けて、ゆっくりと解体ね。術式なんかも盗難に会わないよう、アインツベルン側で人員を派遣してくれているし。中の呪いは釜を解体する時に凜が虚空へ送ってくれる手筈なのよ」

 

 本当はセカンド・オーナーの自分がするべき事だと、ぼやきながら教えてくれた。赤い髪の赤ちゃんはベビー服から察するに女の子だ。

 

「可愛らしいですね? お名前は?」

「綾芽(あやめ)、綾芽っていうのよ」

 

 5月15日生まれなので、誕生花のアヤメから漢字を替えて名付けたそうだ。花言葉は『気まぐれ』だったかな? この子もイリヤスフィールさんっぽい子になるのかしら?

 私はピンクのシクラメンで花言葉は『恥ずかしがり』。桜はアリッサムで花言葉は『仲直り』だ。意外と当っているから困る。

 

「では、ここでの第五次聖杯戦争はどんな具合でしたか?」

 

 この質問は師匠に清書したメモを見せ、私達なりの考察を添えた事で許可されたものだ。

 そこから衛宮さんの回想が始まった。

 

「どこから話そうかと考えていたけど、話すなら養父との出会いからかな。かれこれ10数年前の事だ。その日が第四次聖杯戦争の終結だった。当時10歳だった姉貴は巫女になるための修行で神社へ行っていた。その帰りにあの火災で燃える家を呆然と見ていた俺を発見した。どうやって10歳の子供がそんなところまで来れたのかは後で説明する。ともかく姉貴は俺の手を引いて、火のない場所まで連れて行ってくれた。そこで生存者を探し求め……疲れで倒れていた親父と出会ったんだ」

 

 なんと!? 救けられたのでなく、救けたの?!

 

「そこから何がどうなったのか。気付いたのは病院で、隣のベッドには姉貴が居たんだ。そこへ包帯グルグル巻きの親父が現れて、一緒に来ないかって誘われた。最初はミイラが話し掛けてるのかって怖かったな。そこで姉貴が親父と何か話して俺達は親父に引き取られた。結局5年後に親父は死ぬんだけど、それまでに色んな事を教わったし、色んな事をさせて貰えた。剣道に柔道に空手に弓道……。やりたいと思った事は何でも。後でわかった事だけど、姉貴は全部知っていたんだな。それで俺に強く生きて欲しいと願って、そういう事ができる環境を親父とともに作ってくれていたんだ。記憶? 勿論あるよ。ああ、そういう災害で記憶を失う人も居るよな? だけど、俺も姉貴も実の親の事も覚えているし墓もちゃんとある。と言っても、7歳までだったしなぁ。両親の記憶は曖昧だな。姉貴から聞かされて、ああ、そうだったよなって思い出す程度だ。それで……やがて親父が亡くなる数日前だったと思う……。親父が俺達を自分の部屋に呼んで……そこで聖杯戦争の事を話してくれた。最後は俺達に土下座までしていたよ。そしてどうして聖杯なんてモノが欲しかったのかも話してくれた。遺言はドイツに残した娘さんの事だった。それで何か手がかりはないかと四方八方手を尽くしていると、魔術協会が指名するセカンド・オーナーという存在に行き当たったんだ。そこからだよ、凛との付き合いは」

 

 それでセカンド・オーナーたる、当時中学1年生だった凛さんと聖杯戦争の真実を話し合い、後見人の言峰綺礼の目を盗んでは魔術を教え教わる仲になったそうだ。

 そしてそれはマンツーマンの師弟でなく、志保さんも交えた情報交換と情報共有を当たり前にできる、同志による同盟に近い関係だったという。

 何故なら衛宮さんの師匠は、凛さんでなく志保さんで、何より基盤も系統も全然西欧魔術と関係ない。なのでこの同盟に何ら足枷になるような問題が何一つなかったのだ。

 だからここの衛宮さんの使う魔術は、他の世界の衛宮君とはかなり異なるらしい。それがどういったものなのかは話してくれなかったけれど。まぁ、これは当たり前だろう。

 そんな関係が続いた中学2年の頃には、凛さんも神父が父親を殺した事を知っており、雌伏の時を耐え忍んでいたという。これは亡くなる前の衛宮の小父様の予想とは異なり、後5年ほどで第五次聖杯戦争が始まると志保さんが気付けたからだ。

 また両親の居ない凛さんを志保さんが気遣い、とてもお世話になったのだと凛さんは話してくれた。出産の時も倫敦まで訪れてくれ、実の姉とともにお世話になったという。

 

「だから志保さんは私にとっても姉さんなの」

 

 桜さんの異変にも逸早く気付いていたのが志保さんだという。

 桜さんが中学2年生の頃には、既に心臓から臓硯を取り除いていたそうだ。その方法が、ちょっと私じゃ思いつかない方法だった。

 

「心臓に潜伏していた臓硯を発見したのも姉貴だし、それを呪い殺したのも姉貴なんだ。姉貴はマスターじゃないけど、東洋の神秘にはやたら詳しかった」

 

 呪い殺す……。そんな事ができる人が、この世には居るのは知っている。黒魔術はエルやエルヴァが使う呪術より劣るのかも知れないけれど、術者の腕が良ければそれなりに高い効果があるのは事実だ。だけどそれを心臓に巣食う蟲に行えるのが志保さんの術か。何とも凄まじい。

 

「姉貴は巫女として超一流だった。神秘に対して天才肌なんだな。魔術師としての素養も、俺なんか足元にも及ばないレベルだ」

 

 衛宮さんの魔術回路が27本なら、志保さんは81本あるそうだ。これはエルやエルヴァと同じだ。

 そしてその異能は、一度見たものなら自らの裡(うち)なる『蔵』に収め、自由自在に取り出せるというものだった。この『蔵』を人の目に触れさせる現象が固有結界なのだろう。

 師匠が言うには、これはエルが持つ『ラインの黄金』の原典の内の一つらしい。つまりこういう異能は昔からあったのだ。

 

「姉貴は龍脈をたどって大聖杯の位置を正確に掴んでいた。それを何年も掛けてハッキングしてもいたんだ。1月の終わり頃には教会が持っている霊基盤より正確に、何のクラスのサーヴァントが召喚され、どこに潜伏しているかまでがわかっていたくらいだ。だから水面下で手を組んでいた桜をこちらの家に招き入れたんだよ。それで聖杯戦争だけど……。式神を12体使って、ランサーを学園の校庭に釘付け、凛のセイバーに斬らせた」

 

 式神で陽動して影縫いみたいな事をしたらしい。堪らないわね。

 

「ああ、ついでに言っとくと慎二が爺ちゃんと思ってたのは、この式神の擬態だ。実際の臓硯は先程も話した通り、桜が中2の頃には駆除していたからな」

 

 何だそれって感じだ。

 式神は本来陰陽師が使役する使い魔を指す。有名な安倍晴明なんかは、十二神将を使役していたとも言われている。

 衛宮さんや志保さんのそれも似たようなものらしいのだが、志保さんはそれとは別にサーヴァントというか英霊も真っ青な存在が憑いているのだそうだ。

 

「姉貴も十二神将が使えるんだけど、普段は俺と同じような付喪神みたいなのを使っている。だけどそれを全部引っ込めると金剛力士が喚べるんだ。バーサーカーを引き裂いて9回殺したからな。あれはイリヤが可哀想だった」

 

 十二神将も金剛力士も仏教の守護者だ。そして志保さんは神社の巫女だ。遠坂神社を創建したのは平安時代の陰陽師・遠坂時貞だが、この人の秘術がこちらの世界では志保さんまで受け継がれていたのだ。これは師匠の世界も同じだった。

 ではヘラクレスは金剛力士に劣るのかというとそうではない。この地の裏返しの五芒星による結界、この中限定の話だ。だけどサーヴァントが戦うのも、この冬木を覆う結界内だ。

 こんな術者が冬木に居たなんて私は知らなかった。ルヴィアは少し聞いていたらしいが、その話を聞いた時はちんぷんかんぷんだったという。

 

「この無銘っていうのとアサシンのマスターは?」

「アサシンのマスターは本当に不明だ。協会とは関係ない第三者だったと思う。倒したのは俺のサーヴァントだった」

「それがこの無銘って人ですのよね? これは一体誰ですの?」

「ごめん。彼女との約束で誰にも話せないんだよ」

「私も司郎から真名は聞いていないわ」

 

 この時だ、メモの衛宮さんの名前が違っている事に気付いたのは。『士郎』でなく『司郎』。清書した方は私が書いたのだが、元のトロンメルが書いた方にはしっかり『司郎』とあった。

 これは志保さんも居る訳だし、本来の本名を衛宮さんが憶えていたからこその差異だろう。

 いつものうっかりと言えばそれまでだけど、問題はそれに気付いた時に、釣られて別な事にも気付いたのだ。それが『彼女』という代名詞だった。

 それこそ勘だけど、その『彼女』は『イリヤ』さんではないのか? 彼女なら大聖杯に残った記録も書き換えられるような気がする。

 最悪の発想だけど、もし……それが未来からやって来たエルヴァなら……?

 それは無いか。あったらエルも師匠も黙っては居ないだろう。だけどこの謎こそが、師匠の投げ掛ける問題のような気がする。

 でも、どっちみち『イリヤ』さんだったとしても質問はタブーだ。なら訊くとしたら別の角度から。

 

「エルの事はご存知なんですよね?」

「ああ。エルちゃんなぁ、知ってるよ。本名はエルヴァ・フォン・アインツベルン。強烈な子だった。忘れたくても忘れられないよ」

「夢に見て魘(うな)されるレベルよ。こっちは性根を据えて命懸けだってのに、スポーツのイベントみたいに聖杯戦争を楽しんでいるんだもの。敵が50騎くらい居ないとつまらないとか言い出すし」

「ギルガメッシュをあんな風にしちまうんだから、無理もないか。あの子も姉貴と同じ先祖返りなんだろうな。姉貴がちょいと教えただけで式神を軽々使えたし」

 

 エルヴァも遠坂も衛宮さんも、皆んな未遠の血を引いていて、志保さんとエルは特にそれが顕著なのだそうだ。

 この時、ルヴィアは露骨に衛宮さんとアーチャーの顔を見比べていた。今更アーチャーにどうこうでなく、志保さん、或いは衛宮さんの、性別が逆転した並行世界を思い浮かべていたのだと思う。

 それは私も同じだ。エルヴァやエルと出会ってから、そういう馬鹿げた事もあるのかなって思えるようになった。そしてそれが魔術の発想にとても役に立つのだ。

 

「司郎、綾芽にミルクをあげて寝かしつけてくるわ」

「ああ、ご苦労さま。お茶をいれといてやるよ。何が良い?」

「アイスティー」

「わかった」

 

 ここでアーチャーが立ち上がった。

 

「衛宮司郎、水は冷やしてあるのか?」

「ああ、冷蔵庫にある。氷もあるからな。急ぎの入れ方だろう?」

「そうだ。茶葉はアールグレイか?」

「いや、子供を生んでからベルガモットのフレバーがキツイらしい。ここんところはスリランカのディンブラだよ」

「ほぅ……。ん? 私を知っているのか……?」

「いや、エルの兄貴の方だ」

「そうか」

「後で娘を抱いてくれるか?」

「お、お、おま……。恐ろしい事を言わんでくれ…………」

 

 男性二人で狭くなったキッチンからそんな事が聞こえた。それを聞いてほっこりする私達だった。

 

「ダメ。ミルクは飲んだけど、全然寝ないわ」

「やっぱりか」

 

 凛さんが綾芽ちゃんを抱えて帰って来た。ん? 奥にキッチンなんて……あ、ミルクって母乳か。

 

「ま、無理もないだろ。英霊が二人も居るんだから」

 

 え?

 

「ああ、この子な。母親がこんなだから、魔力の多い方が落ち着くみたいで」

「それもあったのか? 私に抱けと言ったのは?」

「うん。何もからかった訳じゃないぞ?」

「そうか」

「ランスロットに抱いて欲しかったわ」

 

 ここで素っ頓狂な声を上げさせられたのはセイバーだ。

 

「そうだ。そっちのあなたもセイバーなのよね? 何でセーラー服なのか謎だけど、良かったら抱いてあげて」

「え~~っ!」

 

 それでおっかなびっくりセイバーが綾芽ちゃんを抱いた。とても良い顔だった。交代で私やルヴィアも抱いたのだが、ルヴィアの時はおっぱいというか胸に吸い付いて、そこで眠ってしまったのだ。

 金髪の友人は、とても赤ちゃんが欲しそうな顔だった。たぶん、私もだろうけど。

 

「お昼は皆んなも食べて行くだろう?」

 

 誘われるまま、食べて行く事になったのだが。どうも凛さんは出産後から食欲があまり無いらしい。おまけに昨日は衛宮さんも飲み過ぎたようだ。

 とは言え大切な授乳期なのでカルシウムは摂っておきたいと、乳製品は口にしているそうだ。

 そこでルヴィアとともに、エルヴァから教えて貰ったチーズと卵のお粥(リゾット)を土鍋で作ってみた。冷房をガンガン利かせれば、お代わりまでしてくれた。

 

「いや~、ありがとう。美味しかったわ。こういう料理ができる自分が居るとは思わなかったわねぇ」

「凛、お前じゃないんだから。中華と和食だけって事は無いだろ?」

「そうね。こうやって見て食べれば、これも問題なく作れるでしょう。けど、こういう発想が私には無いからね。ルヴィアも上手だし、大したものだわ」

「こちらの私はどのような?」

「ベビー用品は結構贈ってくれたりするのよ。でも家庭的な面があまりない子だからね。一族を率いて大変なのはわかるけどさ。そろそろ良い相手を見付けなさいよとは思うわね」

 

 口振りから察するに当主になっているのか。

 

「あなたは日本に留学しているのよね?」

「ええ。ですからガクショクも利用しますし、スシだけでなくサシミもニザカナも大丈夫ですわよ」

「でも一番ハマっているのはカレーなのよね?」

「リン、言わないで下さいまし」

「フフ……カレーが好きなの?」

「はい。本格的なものより日本式のカレーライスが。それとラーメンと水ようかんですわね」

「う~ん……。そういうのにハマっちゃうタイプだったとは……。けど、高校生のルヴィアか。こんな頃から知り合っていれば、もっと仲良くなれたのかしら?」

 

 まだまだ意地の張り合いをされているのだろう。私とルヴィアは苦笑するばかりだった。

 なお、セイバーの分だけ別のお鍋で炊いて、鶏肉なんかも入れてあげた。それをほとんど一人で食べていたんだけれど。

 そんなセイバーに凛さんが言った。

 

「私、あなたの国がだいたいわかった」

「はい?」

「アルスターかブリテン、もしくはその近辺でしょう?」

「な、何故……?」

「いやね。私のサーヴァントが、あの湖の騎士・ランスロットだったから。彼もよく食べたのよ」

「ほぅ……。その騎士は何故召喚に応じたのでしょう?」

「それもちゃんと聞いてるわよ。アーサー王に謝りたかったんだって。最初は裁かれたかったと話していたけど、いい歳したオッサンがそんな構ってちゃんだと王様も困るわよって話してあげたわね」

「そうでしたか……」

「うん? 真名は聞かないけど、あなたも円卓……って事は無いわよね。女の子だし」

 

 そんな事は無いです。良い線突いています。私の知ってる限り、円卓は女性が三人も居ましたから。な~んて事は、口が裂けても言えない。

 けれど、セイバーの正体は話さない方が良いだろう。だってややこしいもの。

 そんなタイミングで表の道路から大声が聞こえた。

 

『貴様ァ~~! またうっかりか! どこまで呪われておるのだ!』

『これは擁護できんぞ、凜。2006年とは呆れるな』

 

 あの声……。

 

「リン、女性の声はセイバーさんで、男性の声はまさか……?」

「さ、裁定者……?」

 

「ギルガメッシュだと!?」

「なっ?!」

 

 アーチャーとセイバーが立ち上がって武装し、玄関に向かった。

 私とルヴィアは衛宮さんを制して、凛さんと赤ちゃんを守るべく宝石で結界を張ろうとした。だけど師匠が私の腕を掴み首を振った。

 

「師匠?」

「ルヴィアも衛宮さんも聞いて下さい。敵ではありません。まず間違いなく、妹弟子のうっかりミスです」

 

 そう言い残して師匠は玄関に向かった。

 暫くして師匠が一行を連れて戻って来た。一人は私服だけどピカピカとゴージャスな、あの王だった。怯える凛さんが抱く赤ちゃんを見て相好を崩している。

 

「ほぅ、フェイカー……では無いな。その者との子か。なかなか可愛いではないか。ハハハハハハ、我を見て笑っておるわ」

 

 めっちゃ上機嫌だった。綾芽ちゃんが起きちゃったぞ? けれど綾芽ちゃんはケラケラ笑っている。

 

「眠っていたのに……」

「たわけ。昼は全力で遊んでやらんか。さすれば夜泣きもせん」

 

 本当かよ?

 そして……対する女性は色素の抜けたような髪と肌を持ち、瞳の色は金色で、この暑い中を真っ黒なフリフリブラウスとスカートでキメている……どう見てもセイバーだった。

 いわゆるゴスロリってジャンルの服装だ。けれどその、ビスク・ドールのような面立ちにとても似合っていた。

 その色白で髪の色素も薄いセイバーっぽい人が、こちらのセイバーに声を掛けた。

 

「セイバーとな……? なるほど。貴様は妹と分かたれた、新たなる妹の従者か?」

「新たなる……それはエルヴァの事ですか?」

「そうだ。ここには居らんようだが、当たらずとも遠からずだったわけだな、凜?」

 

 そう言われて師匠の後ろで縮こまっているのは、また別の私だった。つまり今ここに私が四人も居るのだ。

 

「あ、あんた達は?」

 

 殴り込みではないとわかって、衛宮さんが恐る恐る尋ねた。師匠が話そうとしたら、それを制してゴスロリのセイバーが話し始めた。

 

「恐れる必要はない。その赤子をあやしている者は我が夫だ。無碍に狼藉を働くような男ではない」

「夫……!?」

 

 皆んなが驚く。セイバーなんて口をぽかんと開けたままだ。

 

「私はエルヴァの姉だ。夏休みを利用して、剥離したというもう一人の妹に会いに来たのだ」

 

 そういう事か。確かエルヴァが話していた。一番上の姉が元セイバーだったって。セイバーもそれは聞いていたみたいで少し落ち着いた。

 だけど、どうしてこんな色素の抜けたような……?

 

「そこで妹弟子の方の凜に移動を頼んだのだが、呆れた事に違う世界だ。ま、それは魔法使いの凜から座標を再確認すれば大丈夫だろう。して、そこのルヴィアと凛よ。貴様達は?」

「……そ、その剥離したエルヴァの世界の者です……」

 

 金色の目がめっちゃ怖い。だってニコリともしないんだもの。

 

「ああ、凜の弟子か。そう萎縮するな。世界は異なれど、こう見えても私は穂群原学園の英語教師だ。お前達の師である凜も私の教え子だぞ? 取って食いはせんから安心しろ」

 

 先生!? そうだ、確かそんな事を聞いていた気がする。

 

「あの……? もしやイリヤスフィールさんの?」

「ああ、双子のな。私は二人の姉であり、チビどもの姉でもある。あいつらが世話になったそうだな? 礼を言おう。ついでに言うと1・2年の頃はイリヤの担任で、3年はイリヤとエルヴァの担任だ。……やかましい、お前は!」

 

 後ろで英雄王が、とうとう凛さんから綾芽ちゃんを奪い取り、あやしながら大笑いしていたのだ。

 

「赤子が驚くであろうが、アルトリア。大声を出すな」

「それはすまなかった。が、話も大切。縁側にでも場所を移すか。アーチャー、これは茶請けだ。よろしく頼む」

 

 そう言ってアルトリアさんはアーチャーに大きな紙袋を渡した。中は間違いなく回転焼きかたい焼きの類だ。

 

「セイバーも来い。それとシロウにリンよ。安心していい。その男は貴様たちの知る男では無い。本体に限りなく近い、本物の英雄王だ。些末な事で一々キレたりはせん。でなければ世界を手中になぞできるものでは無い。だろう?」

 

 そうして私達は衛宮さんご夫妻に赤ちゃん、それと英雄王を居間に残して縁側に向かった。アーチャーはキッチンでお茶の準備だろう。

 そして縁側に着くとアルトリアさんは私とルヴィアにこう言った。

 

「妹の分身が世話になっている。改めて礼を言おう。大まかな事はイリヤやエルから聞いている。チビどもの元の世界と近い並行世界らしいが、時計塔の事をよく解決できたな?」

「そこはお二人のチカラですわ」

「はい。エルやエルヴァが居てこそでした」

「そうか。役に立てたのなら良かった。エルは10年鍛えたが、エルヴァはそれを受け継いでいるか?」

 

 ここでずいっと前に出たのがセイバーだ。

 

「ご安心下さい。あなたの剣と思いを、マスターは決して忘れていません」

「そうか……」

 

 この時、アルトリアさんはほんの少し微笑んだ。

 

「あいつは幸せそうか?」

「はい。キリツグやアイリスフィールからも娘として迎えられ、家族仲も大変良い。シロウやイリヤスフィール達の善き姉です」

「そうか。そちらでは剣道でなく弓道を選んだと聞いている。腕はどうだ?」

「神懸って上手いと言っておこう」

 

 そう言ってアーチャーがお茶の入った湯呑を載せたお盆を抱えて現れた。

 

「愚弟の成分が入ったのは吉だったか。いや、そちらのクロの心根だろうか」

 

 アルトリアさんは皆んなにお茶を薦めた。お皿には回転焼きが山盛りだ。一つ取ってモッキュモッキュと食べる。不思議だ。セイバーと食べ方が全然違う。

 それにセイバーと雰囲気までが全然違う。けれど、エルヴァの事をとても大切に考えているようだ。その姿を見て、私とルヴィアは何とも言えない暖かな気持ちを胸に抱いた。

 そこで座標か何かを間違えたらしい、師匠の妹弟子を見た。以前チラッと聞いていた、先生の弟子の一人だ。確か4番目のアーチャーのマスターだったと思う。

 うっかりミスは手痛いが、一人でアーチャーを支えている実力は本物だろう。

 

「そちらのアーチャーはどうしたんですか?」

「あいつはこっちのセイバーと一緒にシロウさんのお店よ」

「なるほど」

 

 確か、シロウさんがお店を任せていると聞いていた。けど話はわかっているものとして端折って来る。こういうところが私だなぁ。

 

「だけどお兄さんの方のアーチャーは、今海外ね」

「海外?」

「うん、倫敦。あなたの師匠のお姉さんに会いにね」

「へ?」

「桜の事で悩んでいるのは聞いているわ。その手掛かりを探しに行ってるのよ」

「あ……」

「頑張ってね。応援しているから」

 

 並行世界の自分から励まされた。なんと不思議な体験だろう。でも嬉しかった。なおこの人と、まだ会っていないもう一人の姉弟子だ、数年後に居酒屋で私を思いっきり笑ってくれたのは。

 師匠が凜(この人も名前が禾の方だ)さんと手を繋いでいる。座標のやり取りをしているらしい。ここに来てから私とルヴィアは、師匠からこの座標の読み方を教わっているのでタイムリーな出来事だった。

 

「あれ? これミスでなく座の風ですね」

「やっぱり。凜、この辺り可怪しいわよね?」

 

 ん? って事は……ここって元の世界と近い?

 

「お隣ですよ。ですから凜さんは間違っていません。流されて隣に入ったんです」

 

 なんと隣の世界だった。

 

「師匠の元の世界ってどの辺りにあるんですか?」

「こことまったく逆で、座の風が吹かないところですね。ただ下の枝というか……世界同士の交点となるような世界なので、時々不思議な事があります。例えば先輩のご実家にある蔵書ですね。そこのアーサー王伝説には、男性王の伝承というか妹さんの伝承がきちんと載っています」

 

 妹の伝承? どういう意味……?

 

「わからんか? 私やセイバーが王にならなかった伝承だ」

 

 あ!

 

「そんな伝承が残っているんですか?」

「ああ。兄王が存命だった世界の伝承だ。彼女は年頃になり、 ガリアに嫁いだそうだぞ?」

 

 ガリアとは今のフランスの事だ。

 

「セイバー、ジャンヌ・ダルクは案外とその者の子孫だったりしてな?」

「ですが、あのキャスターの妄言は……?」

「とは言い切れん面もあったと思うぞ? あいつが知るジャンヌには、我らの面影があったのではないか?」

「ああ!」

 

 何だかよくわからないけれど、セイバーは納得していた。けれど、私とルヴィアは首を捻った。

 

「という事は、そのキャスターは男性王が居た世界出身という事ですの?」

「良い質問だ。英霊の座ではその者の生涯すべてのみならず、あり方の似た並行世界の者達も入るという。なので混ざりあってしまう。悪鬼として召喚されるあの者は、ガリアに渡った我々の世界で吊るされた────そう考えるのが一番妥当だ。即ち、真っ当な英雄としてのあの者も、また存在するわけだ」

 

 なるほど。その場合のアーサー王はセイバーなわけね。

 

「ジャンヌにしてもそうだ。私達より千年近い後世の人物だから、世界の立てた代役が残す影響も顕著なのだろう」

「つまり女性王の場合はそれっぽい人がジャンヌ・ダルクだったと?」

「どういう事? セイバー?」

「あのキャスターが後年悪鬼となったのは、あの者の敬愛するジャンヌ・ダルクが火刑にあったからだと知りました。その敬愛の度合です。代役ならそこまでの信頼関係がなかったのかも……と」

 

 なるほど。セイバーもエルヴァに教えられているのか、色々知っているみたいだ。

 アルトリアさんがセイバーに応えた。

 

「そういう事だ。何より言ってみれば、我らの存在こそが兄王の代役だからな。そしてここからが問題なのだが、ガリアに嫁いだ我々が子をなし、天寿を全うしたであろう事は想像に難くない。が、輪廻に戻った彼女はどうなったのかだ。わかるか? 一国の王になるほどの魂なのだ」

 

 転生後の新たな人生でも、英霊に至るほどの何かを成す? 極端だけど、アルトリアさんはそう言っているのだ。何より彼女は、あのエルの姉だ。こちらの知らない情報を色々持っているのかも知れない。でも何を言いたいのだろう?

 

「あなたは何を?」

「転生しても真っ当に生き、再び輪廻に戻るのならば何も言わぬ。が、私の妹は一度夢で見ているのだ。王であった我々のうちの誰かが、聖杯を諦め世界との契約を切り、輪廻に組み込まれ……再び世界と契約する姿を」

 

 は? 最初のはまだわかる。フランスに渡ったから王になったわけではない。なので偉業はなさなかっただろうから、輪廻に組み込まれてもおかしくはないだろう。

 だけど後の話はヘンだ。聖杯を諦めた、これはいい。だけど、その時に世界との契約を切れるのか? アーサー王という名声を、世界は見逃してくれるのだろうか?

何より2回目の契約なんて……。

 

「そんなの、世界が見逃してくれるんですか?」

 

 思わず口に出してしまった。

 

「普通は見逃してはくれんだろう。だが1回目なら振り切れる可能性はあるのだろう」

 

では2回目は?

 

「それは見逃されんだろう。何より1回目にしても、王国の歴史は受け入れられたとしても、己のワガママで生者であるシロウやリンに迷惑を掛けている事実は覆せない。過去の亡霊が未来ある若者を惑わせたのだ。私はこれを罪と考えている」

 

 この時、アルトリアさんはアーチャーをちらりと見た。そうか、そう考えるセイバーも居るのか……。

 

「そう神妙な顔をするな。戯言だ。ところでセイバー、その竹刀袋の中には何が入っている?」

「え? ああ……エルに持たされたものですが」

「ああ、お前もエルヴァをエルと呼ぶのか」

「はい、そう呼んでくれと言われましたので。それで中身は剣だと思います」

 

 堂々と剣を持って歩いてたの?

 

「見せてくれないか」

「はい、どうぞ」

 

 そうしてセイバーは紺色に近い濃い紫色の袋の中から、別の黄色い袋に包まれたものを取り出した。

 

「何だろうか?」

「出してみるから鑑定しろ、アーチャー」

 

 アルトリアさんは袋を受け取ると中の物を取り出した。それは鞘付きの日本刀だった。それを『失礼』と一言残し、ポケットから取り出したハンカチを口に挟み、鞘から刀を抜いた。

 これは口からの湿った息を刀身に当てないためなのだとか。

 

「これはもしや?」

 

 アーチャーが疑問を含んだ声を上げた。

 刀身を眺めていたアルトリアさんが刀を鞘に収めた。納めるという字の方が正しい気がする。それくらい迫力のある刀だった。

 

「ああ。エルは何本か本物の日本刀を持っている。清麿、直胤など新々刀も多いが、助広、真改、仙台国包などの新刀も数多く持っていてな。その中でもこれは比較的新しいものだ。アーチャー以外は知らんだろうが、刀匠小林○宏が古刀を目指し、何本か作刀した昭和期のもので、いわゆる『斬鉄剣』だ。アニメで有名になったあれのモデルとなった刀だよ」

「ああ……。切先の焼幅が広く、刃区(はまち/根元の方)は狭い五の目(ぐのめ)の刃文と何層にも折り重なった板目肌が特徴だとは聞いていたが、このスッキリと引き締まった匂(におい/刃文の出来)は見事だ。鋩子(ぼうし/切先)のそれは現代刀だが、これが『斬鉄剣』か……。おまけにこれはその概念や存在を、更に高度に強化して投影してある。宝具の域には至らんだろうが、セイバーの腕なら大抵のものは切れるだろうな」

「そういう事だ。さすがにアーチャーにはわかるか」

「いや……。これ程の出来の本物を持っている事にも驚かされるが、しかしこの投影がありえん……」

「お前も料理が好きなら、包丁の鋼材に白紙や青紙などがあるのは知っているだろう……」

 

※※※※※※※※

 

 美鋼という言葉がある。これは日本刀を造る素材の『玉鋼』の中でも特に不純物元素の含有量が極めて低い、銀色に輝くものを指している。

 砂鉄を低温でじっくり熱し、含有される不純物を流しつつ純度を高めながら造る塊は、鉄釜などに使われる和銑(わずく)と異なり何度も何度も熱せられ粗鋼の塊(鉧/けら)から玉鋼となる。

 その玉鋼で炭素の含有量が1~1.5パーセントとされる。これより含有量の低い鋼も重要な存在で、約0.7パーセントなら左下鉄、0.1~0.3パーセントで包丁鉄と呼ばれる。これら炭素含有量の違いが強度や靭性の違いとなっている。

 それを刃となる刃金、刀身の芯となる心金、側面の側金、峰となる棟金(これゆえに峰打ちとは別に棟打ちという言葉もある)、これら四箇所(四方詰めの場合。これ以外の組み合わせ方もある)を鍛接し何段階も踏まえて日本刀は造られているのだ。

 また、ナイフはステンレス鋼などの合金を削り出して造るだけだが、包丁や鉈といった日本の刃物(打刃物)は軟鉄に鋼を鍛接して造る。言ってみれば日本刀の簡易版だ。

 このように鍛接したものを『霞』という。これはきめ細かい砥石で研いでも軟鉄部分が鏡面にならず霞むからだ。ただしこれは主に和包丁での呼び方だ。

 普通の家庭用包丁は軟鉄で鋼を挟めば『三枚打ち』、軟鉄に切り込みを入れて鋼をそこに押し込めば『割り込み』といい、以上のような刃物を『合わせ』という。

 どんなに謳い文句が凄かろうと割り込みは割り込みで、研いでいる内に刃がなくなり三枚打ちのように最後まで使えない。勿論、鍛接せず鋼だけの包丁もある。東南アジアから流れてくる安物がそうなのだが、それは鋼の材質が良くないので例外だ。

 そのような安物とは別に、まるまるの白1鋼や青1鋼を使った包丁が和包丁には存在し、そちらを『本焼き』という。

 これも焼入れの時に水を使うか油を使うかで大きく二つに別れている。前者を『水本焼き』、後者を『本焼き』という。柳刃で前者だと、15万~50万はする。

 そしてその硬度が高過ぎるが故に、欠けやすく折れやすい。例えば冬場、前日の仕事明けに研ぎを忘れたからと、翌朝早く研ごうと冷たい水を掛けただけで包丁がピシリと割れる場合もあるのだ。

 その音をして包丁が鳴くと言うのだが、泣きたいのは包丁人の方だろう。それだけの内部応力が掛かった包丁は扱いが難しい。だから『水本焼き』は職人の華であると同時に、後進指導にあたる親方が持つものともされるのだ。

 けれど、丁寧に扱えば切れ味は抜群だ。しかも鍛接ではないので軟鉄がない。つまり裏すきを作り直せるなら、研いで研いで小さくなった包丁を、とことん最後まで使い切れるのが特徴となる。

 

 これらの鋼が現代では、炭素鋼の場合ほぼ日立金属の安来鋼(やすきはがね)と決まっている。ステンレスなどは炭素鋼にクロムを多く含ませ、耐食性を高めた合金である。

 対する炭素鋼は鉄と炭素が主なので耐食性が低い。だから錆びに弱い。けれど切れ味は高くなる。安来鋼はその昔たたら場で造られていた玉鋼を現代的に製法を見直し、より不純物を取り除いたものだ。

 そしてこの安来鋼(炭素鋼)には成分や添加物の違いで幾種類かある。それはSK5号、SK3号、黄紙鋸材、黄紙3号、黄紙2号B鋼、黄紙2号A鋼、白紙鋸材、白紙3号、白紙2号B鋼、白紙2号A鋼、白紙1号B鋼、白紙1号A鋼、青紙2号B鋼、青紙2号A鋼、青紙1号B鋼、青紙1号A鋼だ。

 SK鋼は工具用鋼材で、鋼のベースとなる鋼材だ。黄紙はそこから不純物を取り除いたものなのだが、不純物はやや残りかなり柔らかい。価格も安く戦後の包丁に多かった鋼材だが、現在はあまり普及していない。

 白紙はそこから更に不純物を取り除いたものだが、硬く研ぎにくい。そのため炭素含有量の少ない順から3号~1号に分かれる。BよりもAの方が含有量が多い。一番多い1号A鋼にもなると、硬すぎて一般家庭では使いづらい包丁となる。

 しかし柳刃は『霞』の白1や『本焼き』の白2に限るという料理人も居るくらいの切れ味を誇っている。

 青紙は白紙にクロムやタングステンを加えたもので、切れ味の持続性(長切れ)が特徴となる。これも2号と1号があり、それぞれにB鋼とA鋼がある。1号は硬く研ぎづらい。なので青2の包丁が最高と言われている。

 ところが白1や青2の包丁を求めても、カタログにも値札にもB鋼かA鋼かは書かれていない。それがB鋼かA鋼かを明かしてくれるのは販売店次第だ。

 だが同じ鋼材で同じ号数なら、B鋼かA鋼かは切れ味を確認してもわからないという。何故なら切れ味を決めるファクターは、鍛造技術と研ぎの方が大きいからだ。

 しかし人工砥石が発達するにつけて、刃こぼれしやすい白1や青1の上を行く、刃こぼれしづらく長切れする青紙スーパーなるものも出ている。が、自分で研げる職人は避ける傾向にあるようだ。

 この他、安来鋼には銀紙(不銹鋼)の5号、3号、1号というステンレス鋼もあるが、こちらは福井の武生特殊鋼のV金などと同じく、明確に炭素鋼とは区別されている。

 それは錆びづらい代わりに、炭素鋼より研ぎづらいからだ。とは言え昨今の砥石だと意外と研げるので、レモンなど酸のある柑橘系を切るために1本は持っていたい包丁でもある。

 そして研ぎづらいとは、刃付けが難しいという事でもある。長切れが望め、刃こぼれしづらい、最上の刃付けはハマグリ刃とされるが、それが行いにくいという意味である。

 

 だからエルやイリヤは、大魔道士の夫であるシロウから、最初に銀寿を薦められた。これの135mmの出刃、180mmの刺し身(柳刃)、165mmの薄刃の三本から料理の修行が始まったのである。

 そこから身体が大きくなるにつけ、もっと大きな出刃やもっと長い刺し身(柳刃)などを買い足し、高等部に上がる際に自分の好きな包丁を揃えろと許可が出たのだ。

 だから包丁の研ぎはもちろんのこと、砥石の手入れも全部叩き込まれていた。

 

 ────しかしながら、投影となればこれらの苦労が一切合切消し飛ぶ。

 最高の鋼材とその組み合わせ方や鍛え方を知り、最上の刃付けを知ってさえいれば。そしてその強度の強化だけでなく、切れ味という概念の強化、持続性という時間の強化が行えるのならば。

 

 裏返せば、鋼材を知らず、刃付けを知らず、研ぎをわかっていなければ良い刃物を投影できない。

 創造の理念を鑑定し、基本骨子を想定し、構成材質を複製し、製作技術を模倣し、成長にいたる経験(憑依経験)に共感し、蓄積年月を再現する能力があっても、自らが経験し腕を磨いてきた『担い手』には劣る。

 その事を誰よりも理解していたのがシロウなのだ。だからこそ彼は、エルとイリヤを教えるに当たって手を抜かなかった。二人とも飲食店での勤務経験が無いので調理師免許は取れないが、シロウの判断では十分合格レベルだった。

 

※※※※※※※※

 

「……そしてその鍛造方法や適切な温度も。妹は『土』の娘だ。あいつは鋼を知り抜いている。そこはセイバーのエルも同じなのだろう。しかし……あちらのエルはお前にその刀を預けるのか。そこが私との違いだろうか?」

「あなたも何か?」

「ああ。四段を取った時に、三尺の同田貫を贈ってくれてな。通常は二尺三寸から二尺五寸が多いので、私のそれはかなり珍しい。しかも同田貫上野介一派の正国の本物だ。第二次世界大戦後アメリカに渡っていたものだそうだ。噂に違わず甲切り(兜切り)もできるが、私はこの刀でアルミでなく鋳鉄のエンジンブロックを斬った。そんな剛刀を祝いとしてくれたんだ」

「良い刀をお持ちなのですね?」

「いや。尺は珍しいが、しょせんは数打物だ。美術品としての価値は低い。それに、切れ味抜群と言っても魔力が通っているわけでもない。そんな硬い物ばかり切っていれば刃こぼれどころか腰が伸びる(反りが失くなる)。またいつかは折れるだろう。だから、お前には投影なのかなと。とは言え同田貫でないのはどういう意味だろうとも思ったのだ」

「意味はわかりませんが、あなたと私を別と考えているのでは?」

「そういう事なのだろうな」

 

 きっとそこなのだろう。エルヴァの中では姉であるアルトリアさんと、セイバーは完全な別人なのだ。その同何とかの切れ味はアルトリアさんそのものなのがろう。そしてセイバーのこれは同じ切れ味でも方向性が異なるのだと思う。投影品というところからも、何となくそれが伺えるような気がする。

 

「セイバー。その刀を使うと不味いが、竹刀で腕を見せて貰えないか?」

「同じでは?」

「クク……私は剣道四段、居合道三段だ。剣道は学園時代に個人で全国優勝していて、大学では団体で2位、個人で優勝している。そして今は学園の剣道部顧問だ。1500年前の剣の弱点と、お前の悪いクセを教えやろう」

 

 この言葉でセイバーにも火が着いた。道場に移動した私達は、師匠が中心となって建物全体に結界を張って強化を掛けた。

 

「ギル、赤子はどうした?」

「遊び飽いて眠っておる。リンを残させたので安心せよ、アルトリア」

「そうか」

 

 使用許可をお願いするために居間に声を掛けていたのだ。するとギルガメッシュと衛宮さんも見学に来た。黄金の王はその宝具の蔵から、アルトリアさんの道着を出した。

 そしてアルトリアさんはセイバーの腕を引き別室に行った。どうやら予備もあったようで、戻った二人は道着姿だった。ただ防具は着けていない。

 しゃがんで挨拶(蹲踞)するのを知らないセイバーを咎めず、試合は始まった。と同時に開始0.5秒でアルトリアさんが1本入れた。それは小手だった。

 別れた後の再戦は、流れるように逆の小手から胴に入れた。2本先取でアルトリアさんの勝ちだ。

 

「魔力放出が真価を発揮するのは行動に移ってからだ。構えている間はその放出がない。そして強化を伴わん加速は意外と初動が鈍いものなのだ。おまけに最高出力になるまでのタイムラグもある。その弱点を自分でも気付いているが故の仰々しい籠手だった。そしてそれは私が鎧を纏っても同じだ」

「そこが我が弱点だと?」

「一番わかりやすいのはな。他にもあるが、まずはそこだ。円卓やその配下の騎士どもは誤魔化せても、自分自身と当たればそうは行かない。私自身がこれをセイバーに教えられたのだ」

「え?」

「こちらのエルのセイバーの事だ。あいつは我々の中でも特に剣技に秀でている。同じアルトリアでも全然違うのさ」

 

 ここで師匠が話した。

 

「先輩のセイバーさんが仰ってましたよ? 『アルトリアと私の力量は変わらない』って。もしあるなら、その後の経験ですよ。アルトリア先生は10年の体験と、幾つかの世界を巡った経験、先輩のセイバーさんは召喚から日が浅いとはいえ、その僅かな期間で私達と様々な世界を巡っています。一方、セイバーさんは日の浅さもあれば、世界を巡っての戦いも数回でしょう? そこだと思いますよ。ご自分がいらっしゃらないのに、あなただけを送り出したのは」

 

 その辺だろうな。私もそう思う。何よりアルトリアさんは自分を研究している。きっとエルのセイバーも、そういう知識などが与えられているのだろう。

 

「エルが?」

「はい。ですからその刀はタンクでもあるわけです。アーチャーさんなら魔力に戻して、セイバーさんに魔力供給源として転用できますから」

「あ……。そういう?」

 

 なるほど。魔力に戻せるのか。

 

「そしてあの衣装だ。幾ら15~16にしか見えんとしても、中学生みたいなセーラー服はないだろう? だが、そのような格好で軽々と竹刀袋を持てば、誰も中身を真剣だとは思わん。また、身分を隠すのにも都合がいい。時代を越えた外国人から、日本の事情に疎い留学生に格下げされる。そこを考えてそういう、どこの生徒ともつかぬ姿をさせているのだろう」

 

 これは納得だ。セーラー服はある特定の年齢を象徴するのみならず、所属する背景をも連想させる。そしてこれは相対する人が抱くかもしれない疑念を打ち消す効果がある。

 おまけに今は夏休み。真っ昼間から学生が出歩いても、誰も授業はどうしたとは思わない。むしろ稽古場からの帰りなのか、休日でも制服とは真面目な子だなと思うだけだ。

 

「だけど、竹刀だけ持ち歩くのは変ではないの?」

「先程、居間にセイバーのものらしきリュックがあった。あれを必ず背負えと言われているだろう?」

「はい。エルからそう言われています」

「剣道をやっている者なら気付くと思う。入っているのは替えの下着や衣類だと思うが、あのリュックは防具入れなんだよ。昔みたいな防具袋は背負うのもままならんから、最近はああいうのやキャリーになったタイプも増えているんだ」

 

 ああ、そういう事か。ルヴィアも私も感心するばかりだ。以前こういうので、エルヴァをどこのインタースクールだと思ってしまった事もあった。情報の結界……そこまで大袈裟にいう事ではないのかもしれないが、実にウマい。

 セイバーもなるほどという顔をしている。が、アーチャーは気付いていたようだ。複雑な顔をしているが。

 

「ギル、餌付けは止めろ」

 

 実はセイバーの周りには、食べ終えた器がたくさん並んでいた。あんみつ、黒蜜のところてん、わらび餅にかき氷。

 アルトリアさんのおやつだったのかどうかは不明だが、先程からせっせとセイバーに例の宝物庫から取り出して渡していたのだ。

 私達も涼感たっぷりな、カットフルーツがぎっしり詰まったアイスバーを手渡されていた。パパイヤにグレープフルーツ、キューイに白桃、スイカにブドウ。凄く凝った贅沢なアイスキャンディーだ。

 

「フ……。それはシロウお手製の氷菓子である。心して食すが良い」

 

 おにぎりが宝具となるあの人の、汗で排出されるビタミンを補う見事なスイーツ。2本目は先がイチゴ、真ん中がブルーベリー、最後がラズベリーと三色になったヨーグルト味のアイスバーだった。

 衛宮さんも感心しながら食べていたが、2本預かって凛さんに渡しに母屋に戻った。アーチャーの目が見開かれっぱなしだ。そっか、このアーチャーはシロウさんと会っていないんだった。

 

「ここの者が下がった故に問おう。凜よ、この者達への課題が難し過ぎんか?」

 

 ギルガメッシュの発言だけど、その冷徹な瞳の中に慈愛の色がある。あの裁定者ともどこか違う。確か師匠のお父様が召喚した元サーヴァントで、座の本体と限りなく近い存在だと聞いていた。

 

「どうやら二つまでは解いていそうですよ?」

「ほぅ?」

 

 一つ目は、敢えてそうしたであろう情報の無さから成り立っていて、師匠がここの誰の謎を課題として出そうとしていたのかだ。答えは衛宮司郎さんで間違いない。

 二つ目は、きっと衛宮さんが召喚したであろうサーヴァントの事だ。

 

「師匠。皆さんの前でルヴィアと相談させて下さい」

「反応を見ながら修正ですか?」

「いいえ。散りばめられた謎は絞れました。一つ目の答えは衛宮司郎さん、そして二つ目は彼が召喚したサーヴァントについてだと思います。その先ですよね?」

「はい」

 

 師匠はニッコリと笑顔で返事をくれた。

 

「ルヴィア。師匠は私達なら解けると踏んでくれたの。ヒントはエルヴァやクロエの存在。どう?」

「英霊の能力……。それの剽窃か憑依か。ともかくそういう事ですわね?」

「ええ。では誰の能力を引っ張ったのか、そして誰の身にそれを降ろしたのかよ」

「能力はアーチャーさんでしょう。ただし遠い遠い未来の……すべての英霊エミヤが解放された後の概念的存在となったアーチャーさん。それを英霊と呼んでもいいのかどうかは測りかねますが。そして降りたと言いますか、降ろしたのはシェロではなくシホさんでは?」

「そう、だから『彼女』なのよね。英霊が女性だっだわけではない。能力を得て戦ったのが女性だった」

「ええ。エルヴァさんと同じく、それだと思いますわ」

 

 この時師匠は本当にいい顔で笑っていた。

 

「いかがですか、師匠?」

「僅か数日で……。お見事、ほぼ満点ですよ。カードの存在を知り、その能力を自分の身に降ろせる存在との出会い……これまでの体験がすべて三つ目の問題へのヒントでした。人を器と見做し、神霊や精霊の能力の一部をその枠に降ろす疑似サーヴァントですと、英霊の意識が人の意識と混ざり合い不具合を起こす可能性があります。そこを逆手に取って、人と英霊を融合させつつ、人格は人のものだけを残す場合はデミ・サーヴァントと言います。ですが志保さんの場合は、デミ・サーヴァント召喚のような融合という方法を取らず、限りなく疑似サーヴァント召喚に近い方法で自分の身に英霊の能力を降ろしていました。これはカードに拠る夢幻召喚(インストール)とほぼ同じです。霊媒体質の巫女であり、優れた陰陽師であり、聖杯戦争という英霊を降ろしやすい期間であったからこそ可能だった事ですね。ここが冬木であった事は言うまでもありません」

 

 オーギュストさんと、エル達の兄であるアーチャーはとても仲が良かった。なのでかなり込み入った話もしていたらしい。そこからルヴィアが得られた情報、それが今回大きく役立ったのだ。

 

「またルヴィアの言葉にあった、『英霊エミヤが解放された後の概念的存在となったアーチャーさん』は中々の考察です。ですが座への繋がり方が、あの城の黒化英霊のように中途半端だったから引っ張っれたとも言えますよね? あれを直接見て体験したから生まれた発想だと思いますが、今後もそこを突き詰めて下さい」

「「はい」」

 

 私とルヴィアは同時に返事をした。私達は合格したのだ。

 

「神秘の世界に於けるマネタリー・セオリー(金融理論/貨幣理論)も、海底の霊地や呪体鉱山の開発で新しいマネタリー・セオリーが必要となっています。でなければ魔術師の社会は供給過多でデフレとなり、霊地などこれまでの資産が値崩れを起こすからです。当然ルヴィアのお父様は手を打っていると思います。が、これを更に推し進め、エーデルフェルトや遠坂が中央銀行になる気持ちで学んで下さい。要はその神秘は明かせずとも、増えるばかりの手形を表の経済に流通させれば、全世界で一般人の貯蓄は増えます。実は神秘的にも経済的にも、これが一番世界が安定する近道なんですよ」

 

『増えるばかりの手形』とは、簡単に言えば借用書であり、魔術師同士で通じるギアス付きの小切手のようなものだ。勿論現金で売買する可能性もゼロではないが、普通はあり得ない。

 ちなみに表の世界で流通している一番有名な借用書は現金、つまりお札だ。日本の場合なら日本銀行券である。これはスーパーなど小売店で少額の買い物をする時には便利だが、高額取引をする場合は嵩張るし不便なものだ。

 なので人々は小切手や振込、或いはカードを利用する。それは現金が動いているのではない。Aの口座からBの口座へ、数字が動いているだけなのだ。

 そしてその数字は政府が発行する国債や、政府が民間業者への支払いで利用する政府小切手などで発生する。これが巡り巡って人々の懐に入り貯蓄を増やす。対する政府は国債や政府小切手の発行で、日本銀行への借金が嵩む。

 もっと詳しく書くと、私が100万円A銀行に預ければ、その1パーセントの1万円だけを日本銀行にA銀行が預ける事で、A銀行は第三者に99万円貸す権利が与えられる。

 その第三者が自分のB銀行に預ければ、1パーセントの9900円を日本銀行に預ける事でB銀行は98万100円を新たな第三者に貸せるのだ。

 元のお金は100万だが、この段階でそれぞれの通帳の金額を足せば297万100円にもなっている。つまり197万100円は通帳を飾る数字でしかないのだ。それは、誰かの財産は誰かの借金でなりたっていると言い表せるだろう。

 そして借金を返せば、自分の借金だけでなく、銀行から同等のお金(数字)を消して(相殺)しまう。一見等価交換に見えるが、そこには金利が付くので、当然等価交換ではない。

 だから金融の世界では借金がある方が正しい行為と見做される。これをして信用創造という。お金はこうして生まれて来るのだ。つまり市場に流通している現金と口座の金額は乖離が大きいものなのだ。

 ここを踏まえて政府の借金を考えると、それは名目上の数字だけで、日本政府が連結子会社の日本銀行から付け替えているだけで実は借金でも何でもないのだとわかる。要は政府の借金≠国民の借金だ。

 これを解き明かしている理論が後のMMTなのだ。師匠のこれは、世の経済理論より15年は早い話なのだった。

 そして師匠はこのような理論を神秘の世界にも持ち込めるようにし、エーデルフェルトや遠坂が日銀のような立場になれと言ったのだ。

 私も個人事業主として社長をやっている。その際に経済の本は色々読んだし学んだ。だから師匠の言いたい事は概ね理解できた。ルヴィアと手を組んでそれを更に推し進め、真の遠坂の復興を目指せと言ってくれているのだ。

 だけどこの時の私は、言いたいことは概ねわかっても、理論は半分程度しか理解できていなかった。だから具体的に何をすれば良いのかサッパリだった。

 元の世界に帰って、ルヴィアやエルヴァに教えて貰って残りを理解したというか。

 

「そのノウハウはそちらの先輩(エルヴァ)に訊いて下さっても構いませんし、こちらの先輩(エル)を講師として派遣しても構いません。ともかく魔術的には修行中だとしても、経済的にはお二人がどの世界の同位体より先を行っているのですから」

 

 嬉しい言葉だ。神秘を秘匿し拡散を防ぐとは、神秘を極端なまでにハイパーインフレ状態に置く事だ。そして次々と開発される霊地や呪体鉱山は、神秘のデフレーションを起こさない。

 それは結局、売買相手も魔術師に限定されるからだ。更に霊地ともなればおいそれと買えるものではない。長期に渡って高値安定が保証された不動産なのだ。

 となると現金に換金はしづらいが、資産として手形や小切手が回せる。

 これはどういう事かと言うと、今も昔も魔術師の世界は長年に渡って管理制度があったので、表向きは変動相場制に倣っていても、金本位制ならぬ霊地を担保に保証される手形などをオーナーが発行する霊地本位制が成り立っていた事を指す。

 要はそれを推し進め、表の世界まで波及効果が出るくらい使い倒せという事だ。どのみちその数字は、政府や中央銀行の当座預金の桁を増やすだけで、庶民に回る頃は公共投資などへ名目が変わる。

 そして需要と供給のバランスが崩れる程でもない。それは私達魔術師が極端に少ないからだ。また、この方法だと庶民には神秘が拡散しない。

 だけど神秘の一端を知る国家は、確実に好景気になるだろう。つまりメディアにすっぱ抜かれず国民が知る由もない財政出動となるのだ。

 これは一般人に価値のない呪体や礼装などでは行えない事業だ。霊地だからできて、霊地だからこそ価値が認められる事であった。だから政府からの霊地調整や霊脈調整の仕事が入る。これもまた一つの信用創造なのだった。

 そしてエルは、彼女の世界に於ける霊地調整の第一人者である。つまり突き詰めれば師匠の世界でのエルのように、私達の世界ではエーデルフェルトがある程度世界の金融を牛耳られる可能性があるのだ。

 これまでの表の経済はユダヤ人社会が握っていた。だけど新しい資本と金融理論でエーデルフェルトがそこに割って入れる。そうとなれば魔術協会そのものが、こちらの顔色を伺うようになる。これはそういう話だったのだ。

 横のルヴィアは私より経済に強い。なので話を理解し顔が紅潮していた。

 

 この時、師匠の横で座っていた妹弟子の凜さんは首を振って溜め息を吐いていた。最初の世界……元の世界ではセカンド・オーナーであり、それなりの資産を持っていたのだ。だけどこの人も、エルヴァと同じく資産ゼロからやり直している。

 だけど私はその溜め息をネガティブなマイナス思考でなく、その程度はわかっていて当たり前だという、驕りのないプラス思考から出たものだと感じられた。

 そこをやはりわかっているのか、ギルガメッシュもそれを茶化さず、ただ無表情に私達を眺めていた。そして視線を師匠に移すとこう言った。

 

「飽いた。凜よ、当初の目的地へ疾く案内せよ」

「アルトリア先生?」

「はぁ~……。ギル?」

「なんだ?」

「エルは八割方目録を書き上げたぞ?」

「何っ!? おのれ~~!」

「遊んでばかりいるからだ。己の蔵に何が入っているか見当もつかんとは……」

 

 あ、そういう……。

 

「24時間だ。それ以上は譲らん」

「むむぅ~。アルトリアよ、48時間寄越せ」

「まぁ、良いだろう」

 

 そうして私達が戻るのは二日後と決まった。




いずれこの世界の第五次を番外編で書きたいです。
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