※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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姉のアルトリアとエルとの出会いです。
番外編の第四次聖杯戦争で過去の物語となります。


第七章 [番外] 『アルトリア・E・アインツベルン』篇
その1 アインツベルンの城


 その日、小学校の授業を終えた私は、てくてくと家までの坂道を登っていた。

 9月から3年生になったし、身長もほんの少し伸びた。だけど他のクラスメイトよりかなり低い。相変わらずのチビだ。

 ここはスイスの東部、ザンクト・ガレン州のヴェルデンベルクという田舎街だ。

 駅前のブフスの街に行けばいくつかの商店はあるけれど、缶詰などでなく新鮮な食料品を手にれようと思えば、たまに広場で立つ屋外のマーケットか、橋を渡ってリヒテンシュタインのファドゥーツに行くしかない。

 振り向けばライン川が左右いっぱいに広がっている。川の向こうには夕日を帯びたリヒテンシュタインの畑が見える。坂の途中で右を見れば、センティス山やアルテンアプテュルムなどの山々が遠いところに見える。

 左側を見れば似たような屋根が二十数棟見える。その向こうの丘にはヴェルデンベルク城が建っていて、小さな村を睥睨していた。

 この村は中世の頃から残っている木造家屋ばかりで、今も人が住んでいた。全部で70人くらいかなぁ。一番古い並びには800年前の家が建っているから凄い。

 ひさしにペイントされたおまじないの絵や、2階や屋根裏の窓から吊るされた植木鉢を眺めながら、細い石畳の路地を歩けばエプロン姿のオバさんと鎧の騎士が世間話をしていそうだ。

 そんな観光地を眼下に見下ろし坂をずんずん登っていくと、今度は左手に牧場が広がる。右手にはスイス北東部の山々が折り重なっている。

 

 ンモウゥ~~~

 

「ただいまです。どうしました?」

 

 モウゥ~~

 

「お客様? ありがとう」

 

 馴染みの牛さんが来客を教えてくれた。なので坂を駆けていった。教科書とノートの入ったリュックには重力軽減の魔術を使った。

 庭の木にブランコがある。その横の小さな2階建ての小屋が私の部屋で、地上階は納屋だ。この小屋から10メートルほど先にママたちが住む家がある。

 真ん前に見覚えのあるクルマが止まっていた。庭はUターンできる広さはあるけれど、クルマが大きすぎる。

 

「ただいまです!」

「「おかえりなさい、お嬢様」」

「おかえり、チビ」

 

 やっぱりお祖父様だ。だけどママたちの様子がヘンだ。何か困った顔をしている。

 

「お祖父様! ママに何か!」

「待て待て。何にもしとらんし、想像しとるような残酷な事もせんよ。マアエモ、話してあげなさい」

 

 なんだろう。ドキドキする。

 

「なんですか、ママ?」

「お嬢様、驚かないで下さいね。お嬢様には私どもとは別に本当の親がいます」

 

 遺伝子提供者という意味だろう。それはそうだと思う。

 

「それが?」

「それが……って。マアエモ、話しておらんかったのか?」

「はい……」

「まったく。チビ、お前さんは母親こそホムンクルスじゃが、父親は人間なんじゃ」

「ウッソ! メイドに手を出した魔術師が? 禁断の恋?」

「こら、何かの見過ぎじゃ。お前は日本のアニメでも見とれ」

 

 お祖父様はゴホンと咳をされ話を続けた。

 

「それでな。その両親にお前を逢わせようと思う」

「はい? どうしていまさら?」

「たぶん、そやつらは死ぬ。この機会を逃せば二度と逢えんぞ? よく考えろ」

 

 それで渋々うなずいた。先方の家も名家だからと、きちんとした服に着替えさせられた。そして乗りなさいと、クルマの後ろのドアをお祖父様が開いた。私はママたちに挟まれて座った。

 クルマは橋を渡りリヒテンシュタインに入った。

 

「ウウ~ウウウ~ウ~ウ~」

「牛のマネか?」

「歌です! リヒテンシュタインはカリオストロの舞台ですよ!」

「何じゃそれ?」

「お嬢様は子供向けのアニメに飽きられ、最近は泥棒が主人公のアニメなどを……」

「何を観させておるんじゃ」

「でも、盗むのはヒロインの心です。お祖父様と同じですね?」

「そこまで色ボケておらんわ」

 

 でも、この頃から私は三人のお兄様以外にも兄弟姉妹がいることを知っていた。

 私はお祖父様の養子だ。一番上の兄と二番目の兄はとっくに亡くなられているけれど、オーストラリアにいらっしゃる三番目の兄は、年の離れた妹をよく可愛がってくれる。

 三番目なので名をカールという。犬と同じ名前なのは偶然だ。二番目はブルーノ、一番目はアルトゥルだ。ABCの順番で名前を付けるのはアインツベルンの伝統だった。

 だから、お祖父様は四番目の子供である私をエルヴァと名付けた。

 けれど名も与えられていない兄弟姉妹がたくさんいる。寿命でとっくに亡くなった人もいるらしいが、50人くらいいるとわかった。

 納得いかないけれど、これも仕方ないことだった。だってアインツベルンは何千年も続く名家であり、人には言えない魔術師の家だったから。

 やがてクルマはリヒテンシュタインを抜け、チロルのフェルトキルヒに入った。そこで左でなく右にクルマを進められた。山道をうねうねと走っている。窓の外はのどかな草原。角笛とヨーデルが聞こえそうだ。

 

「割り放題~ビールは別料金~」

 

 ルオン・ママだった。

 

「チビがヘンなのはルオンのせいか!?」

「濡れ衣です、旦那様。お嬢様が元からヘンなんです」

 

 言い切られたよ……。

 疲れて眠っていたら、ママに起こされた。

 

「お嬢様、着きましたよ」

「ンン~。はい、起きます」

 

 そこは銀世界でノイシュバンシュタイン城そっくりな白いお城が建っていた。

 

「どこ? ヒマラヤ?」

「何でヒマラヤなんじゃ?」

「今はまだここまで雪が積もる季節ではありません。となると眠っている間に、もっと標高か緯度の高いところに」

「お前は賢いのかバカなのかわからんな……」

「何とかと何とかは紙一重と言いますからね」

 

 またルオン・ママだ。廃棄処分にしちゃうぞ?

 城の大きな扉を抜けると、左右にママたちと同じ服装のメイドがズラ~~~っと並んだ。

 

「うわぁ~~、何人いるの?」

「200人くらいじゃろ。造れば造るだけ食い扶持が増えるっつうのに、アハトはアホじゃな」

 

 このお城のヌシはアハトというらしい。このとき、なんとなくだけど、そいつがタタリだなと思った。

 偉そうなメイドが、私たち四人を応接室のようなところへ案内してくれた。やがて髪もヒゲも着ている服も真っ白なお爺さんがやって来た。

 

「ノイント、その子か」

「ああ、儂の娘じゃ」

 

 フフンと舐め腐った態度のジジイ。後で殴ろうと決めた。けれど大人の話は長い。お茶が利いた私は先程の偉そうなメイドをトイレに案内させた。

 そこで上から目線のそいつに『ご苦労さま』と残して、ガンドをぶちアテた。ドサリと倒れるメイド。そこで『キャ~』と廊下に響く声。

 しまった。あいつも気絶させて記憶をイジらなきゃ。捕まえてみれば小さな女の子だった。無理やりこっちを向かせてみれば、思わずヘンな声が出た。

 

「お、おわっ! わ、わ、私?!」

 

 その少女の顔は私だったのだ。

 

「イリヤに乱暴しないで……」

 

 泣き声の少女は自分のことを名前で呼ぶほど幼かった。そして私の顔を見て目を丸くした。

 

「だ、誰? 誰、誰、あなた? なんでイリヤにそっくりなの?」

「さぁ? 雛形が同じなのでは?」

 

 しばし見つめ合った私たちだが、彼女が突然叫んだ。

 

「あ~~! おトイレ!」

 

 そうだった。私もだ。私たちは連れ立ってトイレに入った。

 用を足して手を洗っていると、少女が私にこう言った。

 

「あっちにオモチャがあるんだよ? 遊びにこない?」

 

 そこでうなずいた私は彼女に付いていった。メイドの件をバラされる前に記憶をイジろうと考えていたのだ。だから私は無駄な情報を与えないために、彼女に名前を話さなかった。

 

「ここだよ。ここがイリヤの部屋」

 

 プライベートなことを次々と暴露するこの少女を、内心バカではなかろうかと考えていた。そして無防備に前を歩む少女の後ろに立ったところで、真後ろから男性に声を掛けられた。

 

「君は誰だ?」

 

 振り向いた私は相手がとんでもなく驚いていることに、返って驚いた。と同時に、きちんとヒゲを剃れよとか、臭いコートだなとか思った。

 どこのアジア人だか知らないが、こういうのが城の警備なら格が知れている。両親なんてどうでもいいので、早く帰りたいなと思った。

 

「あ~、キリツグ~」

「ああ、イリヤ。お利口さんにしてたかな?」

「うん」

「それで、この子は誰?」

「知らない。でもイリヤにそっくりで面白いんだよ~。だから一緒に遊ぼうって」

「ああ、誘ってあげたんだね? 君はどこの誰だい?」

「ノイントの娘です。名はエルヴァ・フォン・アインツベルンです」

 

 私は観念してカテーシーで応えた。

 

「9代目の……。何か事前情報でもあるのかな?」

「そこの男、お嬢様から離れなさい!」

「両手を頭の後ろに組んで屈め!」

 

 拳銃を構えた二人のママだった。

 男性は苦笑いしながら、両手を頭の後ろに組んだ。

 

「固有時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)ッ!! 何ッ!?」

 

 私はイリヤという少女をさらって、空間転移した。跳躍ポイントはママたちの後ろだ。

 

「加速魔術でお嬢様を人質に取ろうなどと甘い!」

「お嬢様は11代目アインツベルンです! そんな田舎魔術が通用するものですか!」

 

 ママたちは年頃なので、私のためとわかっていても田舎暮らしが堪らなくイヤらしい。

 

「イ、イリヤを返せ!」

 

 バンッ!

 薬莢が壁にあたって跳ね返った。マアエモ・ママのPPKが火を吹いたのだ。弾は男性の足元の絨毯にめり込んだ。

 

「何だ! 何なんだ! そんな子供が11代目だって?」

 

 二発目はルオン・ママだった。この段階で私はバッグからワルサーTPを取り出し、魔術で意識を奪った少女のこめかみに銃口を当てていた。いつものTPHより小型のTPは、万一のためにいつも持ち歩いている。

 .25ACPでなく、22LRをチョイスしているのもいつも通りだ。

 

「何じゃ! 何をしておるのじゃ、お前達は!」

 

 それはなかなか戻らない私たちを探しにきた、お祖父様だった。

 お祖父様の仲裁で、誤解があったことを理解したママたちは男性に深く頭を下げた。そして男性もお祖父様に頭を下げた。

 男性の名はエミヤキリツグといい、アハトが雇った傭兵だった。来る時期、日本に渡り『ヘヴンズフィール』という大掛かりな降霊術を敢行するらしい。

 それは60年に一度のサイクルでしか行えない、条件の厳しい儀式だった。だけど後数週間で降霊術は成すという。男性も来週には降霊の場である現地へ向かうことが決まっていた。

 今はその下準備で忙しい時なのだそうだ。お祖父様とも8年ほど前からの知己であり、その儀式で必要になるであろう銃器や細々した道具を支援しているそうだ。

 

「そんなに凄い儀式なのですか?」

「ああ。お前も英霊という現象があるのを知っとるじゃろう?」

「はい。現在・過去・未来を問わず、生前大自然か人類に何らかの功績を残した英雄が死して守護、或いは抑止として祀り上げられた存在……でしたね?」

「そうじゃ。それら現象を薪として小型の器で燻ぶらせる。そして規定の数が揃えば相似形の器に移し替え一気に燃やす。それにより根源への道を開こうという儀式なんじゃ」

 

 なるほど。どこか魔力が豊富な霊地で英霊を召喚し、その英霊が持つ魔力を利用して根源に至ろうと。魔力効率的にはウマい方法だ。

 

「ですが、座標は? その器に正しい座標が刻まれていたり?」

「そこじゃよ。お前の想像通りだ」

「何人喚ぶのか知りませんが、その内の誰かの座に直結?」

「そういう事になるな」

「では、失敗法では?」

「それがそうとも言えん。その膨大な魔力は一度器から器への移動で濾過される。無色透明な魔力となるんじゃよ」

「あ! 願望器として使える?」

「ノイント老、この子は……?」

「天才じゃろ? イリヤスフィールと同じ8歳じゃ。11代目アインツベルンを名乗ったのは昨年じゃぞ?」

「な!?」

「今度は儂が責任をもって目を光らせる。この子をもう一度、イリヤスフィールとアイリスフィールに逢わせてやってくれんか?」

「と言いますと?」

「アハトとの取り引きでな。技術供与の見返りとしてこの子を引き取った。この子はお前さんとアイリスフィールの子じゃ。イリヤスフィールの双子の妹になる。じゃからアイリスフィールが消える前に……な」

「そういう事だったのか。だから、出発前にこちらへ?」

 

 私はこのとき、ものすごいショックを受けていた。だって自分の父親がこんなムサい東洋人だなんて、夢にも思っていなかったから。

 ぽか~んと放心気味の私は促されるまま、別室に連れて行かれた。そこで初めてママでない母という存在に出会った。でもストンと納得してしまった。

 だってお顔がマアエモ・ママにそっくりだったから。ただ、あちらも私の存在を知らずにいたらしく、かなり困惑されていた。

 だけど先程の女の子が駆け寄って私の手を握った。そしてブンブンと上下に振る。

 

「イリヤの妹だったのね? お名前は?」

「魔術師名はエルヴァ・フォン・アインツベルン。国家に登録している名はエルヴァ・ハーウェイです」

「え~。お名前が二つあるの?」

「エルヴァで良いですよ」

「じゃ、私はイリヤで」

 

 そして腕を引かれて寝室に案内された。お姉さんぶりたいのか、児童書のファンタジーをつっかえつっかえ読み聞かせてくれた。

 いつしか私は彼女の声を目をつむり真剣に聞いていた。と同時に分割思考で、この儀式のことも深く考えていた。何故ならあの母という人はこの儀式のために用意された器であることが、解析魔術で理解できたからだ。

 気絶していたから私が銃で脅していたことは知らないだろう。だけど一所懸命に本を読むこの子が姉なのか。私が双子……。

 お前は森の木の股から生まれたんじゃとか、工房で試験管を落っことしたら生えてきたんじゃとか、さんざん好きに言われていたけれど姉妹がいたのか。

 母に会えたことより姉に会えたことが嬉しかった。父? きっと、なにかの間違いだ。そうとなると……。

 

「ねぇ、聞いてる?」

「聞いていますよ。最初は純粋に人のためと思っていても、いつかはその願いも風化しそれまでに得たチカラに溺れる。バスチアンだけでなく人の心は弱いものですね」

「え~、読んだことがあったの?」

 

 それはエンデの『はてしない物語』だった。それの児童書を読み聞かせてくれたのだ。

 それもファンタージェンと現実がごっちゃになってワクワクする前半でなく、主人公バスチアンがファンタージェンを救ったは良いが権力欲や名声欲に溺れ、かつての仲間と戦争を起こし、破れて現実世界に戻るまでの後半だった。

 児童書でこの後半が出版されているとは。珍しい本を持っているものだ。

 

「あなたの声だと新しく読んだ気になりますね」

「エヘヘへ」

「このご本はどうされたのですか?」

「イリヤにお勉強を教えてくれている人が買って来てくれたの」

 

 教育係のメイドらしい。子供にこれを与えるとは、なかなか優秀だ。

 窓の外は真っ暗で、吹雪いていた。

 

「こんな結界を張っても、人工衛星でバレるのになぁ」

「え? なに?」

「いえ」

 

 その後すぐにお祖父様が、困り顔の母とママたちを伴ってやって来た。

 

「チビ、食事じゃぞ?」

「え? 帰らないのですか?」

「泊まりじゃ」

「学校は?」

「こやつは……」

 

 お祖父様がこんな風に言うのは、母を思ってだろう。だけど、どうせ消えていく人にいまさら何を言えばいいのか。ただ疑問があったので、食事のあとヌシに会わせて欲しいとお祖父様にお願いした。

 

 こんな結界を張った山の中なので食事は期待していなかった。だけどメイドの腕はそこそこ良いと思えた。

 白いテーブルクロスの掛かった、長い長いテーブルの隅っこにお祖父様、私、マアエモ・ママ、ルオン・ママと一列に並んで座っている。真向かいには東洋人、母という人、姉が並んでいた。

 

「これ、イヤ~」

 

 ラム肉のイェーガー・シュニッツェルだ。シュニッツェルは普通子牛の肉を使うが、筋切りがきちんとできるなら成牛でも良いし、豚肉や鶏肉でも良い。

 本場のウィーンでも子牛でない場合はきちんとそう表記されているし、他の肉でも人気がある。だけどラム肉は珍しい。だからソースが濃厚な狩人風のシュニッツェルなのか。

 そうか、あの子はラムやマトンがダメなのだろう。臭味を感じさせない十分な調理だと思うけど、一度でも変なのに当たるとずっと苦手になる場合がある。きっとそういう経験があったのかも知れない。

 

「それでお前はアハトに何を聞きたいんじゃ?」

「二つの器の内、大きい方は現地にあるのでしょう? それが無色透明でなんの問題もないかどうかです。この確認なくしてゴーサインはどうかと」

「儂と同じか」

「お祖父様も?」

「うむ。同じ消えるなら成功させてやりたいからな」

 

 やっぱりお祖父様も。

 

「遊ぼう~」

「ごめんなさい。アハト様に会わねばなりません」

「え~、お祖父様に?」

「はい」

「じゃあね、じゃあね、あとでイリヤのお部屋に来て? 一緒に眠ろう?」

「あ~……。お誘いは嬉しいですが、寝相が悪いもので」

「イリヤも同じだよ。朝起きたら、枕がなかったりするから」

 

 しっかり聞けば180度回るのでなく、ベッドから枕が落ちているだけのようだ。十分寝相が良いと思う。蹴ってケガをさせてもいけないので、自分のママがそばにいないと眠れないと言い訳をした。

 アイリスフィールさんはそれを聞いて複雑な顔をした。

 

「何を聞きたい?」

「はい。現地の器が正常であるかどうかです」

「難癖を付けるのか?」

「いえ、確認です。この城から遠隔で監視できる礼装はありませんか?」

「あるにはある」

 

 そういってアハトは地下の工房に案内してくれた。そこには『ヘヴンズ・フィール』に関するありとあらゆる資料が揃っていた。

 

「アハト、前回分の資料はどこじゃ?」

「そこの列だ。ノイント、貴様何を知っている?」

「アンリ・マユを喚んだんじゃろ?」

「知っておったか。笑うか?」

「いや。何を喚ぼうが勝手じゃろう。じゃが支援しとる儂とて無駄金は使いたくない」

 

 お祖父様が話されているあいだに、私は礼装を起動した。フユキという街にある器に繋がっているそうだ。そしてその器の中身が澱んでいることに気付いた。

 

「お祖父様! これ!」

「む! アハト、貴様!」

「待て、これも薪には変わらん。黒く油に染まっていようと燃えればいいのだ」

「確かに燃やせば同じじゃ。しかし、この街は消えるぞ? おまけに根源に向かう事が感知されるだけでも抑止の手は確実。その上にこんな事をしてみろ? その街どころかこの世界が破棄されかねんわ!」

「それでも根源に行ければ良いのだ!」

「チッ、これだからゴーレムは。壊れとるのか?」

 

 アハトは泡を飛ばしながら『根源』『第三魔法』と叫んでいた。ウルサイのでぶん殴ったら、同じタイミングでお祖父様も殴っていた。

 血反吐を撒き散らしてアハトは壁にぶつかった。マアエモ・ママとルオン・ママが手早くアハトを針金を使う錬金術で縛った。

 武器を持ったメイドが部屋に突入してきたけれど、『絶対命令権』を発動したらあっさり全員が持ち場に帰った。

 

「どうする?」

「アハトだけを止めても、この降霊術は始まっています。大本の器をどうにかしませんと」

「じゃな。停止させるだけでは足りん。一旦英霊を召喚させ、中身を空に近い状態に持って行く」

「その後に霊脈から切り離し、アンリ・マユの汚染拡大を防ぐ」

「そうじゃ。そのためには他の陣営の説得が必要となる。バックアップはしてやろう。行くか、11代目?」

「はい」

 

 そこでドサリという音が聞こえた。入り口を振り向くと、あの東洋人が膝を付いて泣いていた。

 

「どうして泣いているのです?」

「そんな……そんな……聖杯が汚染されていたなんて! バカヤロー! バカヤロー!」

「誰がバカだ!」

 

 失礼な東洋人を殴って顔面に思いっきり膝を入れてやった。強化と加速の魔術を使って。工房は血の海だった。

 

「本当に遠慮というものがないなお前は。仮にもこいつはお前と血を分けた父親じゃぞ?」

「接触してこれまでの半生や、理想と理念などを読みました。単なる思い込みの激しいテロリストではありませんか」

「身も蓋もないがそうなるな」

「どうしてこのような男にお祖父様が手を貸して?」

「完全に争いを失くし、恒久的な平和を作り出す……それはアインツベルンの悲願でもあったんじゃ」

「ご先祖様の、ですよね? ですが、それは無理でしょう?」

「現実的にはな。じゃが儂が運営しとる財団の働きを否定できるか?」

「いえ。小さなことからコツコツと。そして周りの人々を啓蒙していく。それしかないと思います」

「そうじゃ。こいつはそういう意味で性急過ぎた。じゃが、頭ごなしに否定できんかったんじゃ……」

「そうでしたか……。お祖父様、明日召喚しましょう」

「それは構わんが、令呪はこいつの腕じゃぞ?」

「切り落せば?」

「アホか!」

 

 魔術師らしい発想なのに叱られた。だけど令呪を解析した上で、英霊に魔力を送るのは私とした。なおかつ自害や特攻を命じても行使できないプロテクトを徹夜で作った。

 

 翌朝、召喚陣を敷いた礼拝堂で待機していると、お祖父様に説得された東洋人がやって来た。後ろには彼の妻が付いている。

 

「本気でやるのかい?」

「あの街が端緒となって世界が滅びても? とんだ正義の味方ですね?」

「イリヤと同じ顔でそれを言うのか……。君は……本当に11代目なんだね?」

「はい、覚悟を決めて下さい。今度は本当に世界を救うための作戦行動です」

「わかった」




次回は召喚と幾つかのエピソードです。
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