「ロード。わざわざロビーまで。お出迎えありがとうございます」
「何を仰います、ハーウェイ理事」
私たちはにこやかに握手を交わした。その後、連れ立って最上階のフロアーに登った。
「ロード、お見事です。魔術師同士の戦いであるなら、あなたは完璧です」
「理事、忌憚なく仰って下さい。私に足りないものを」
ランサーは私の正体を知ったからかおとなしかった。ロードの後ろで静かに佇んでいる。
一方ソラウさんは期待を込めた視線で微笑んでいた。昔からの知り合いで、優しいお姉さんだ。どちらも良家の子女なので、背負うものや守らなければならないものが多い。兄のプラムさんともども仲が良いのだった。
そんなソラウさんが新進気鋭のロードと婚約された事を私は喜んだ。プレゼントも贈っている。それだけにこんな未来ある人が、このような殺し合いの儀式に参加した点が腑に落ちなかった。
だけどなんとなくわかった。ロードはソラウさんを真剣に愛しているのだ。けど、素直に言えないのだろう。だから『箔』が欲しかったのだと思う。背中を押すなにかが欲しかったのだ。
「ソラウさんに『愛している、君しか居ない』と言える勇気?」
「ば、なッ!? り、理事……それは……」
「栄光あるロードが原点を見失ってはいけません。ね、ソラウさん?」
「ケイネス、女はいつも待っているのよ。あなたがロードである事よりも、あなたと私との……家庭を守っていける人なのかどうか、それを知りたいの。あなたを飾るものなんてこれ以上必要ないわ。エルヴァ理事の仰る通りよ」
「ぅ~ん……」
このくらいで良いかな?
「ではロード、戦略的な面を話しましょう」
「は、はい」
「このホテルの宿泊客や従業員を全員避難させて、ロードたちだけに避難警報が届かないようにします」
「あ! 爆破?」
「諸葛孔明が泣いて馬謖を斬ったのは、高所に陣を敷いて手酷い敗北を招いたからです。昔からそれだけしかない高所に陣を構えるのは愚策でした。兵站を押さえられ、兵糧攻めに会えば? それよりもこの日本の街の特徴です」
「と、言いますと?」
「欧州のそれとは違い、街の隣もまた街です。どこまでも建物が続く姿は、むしろ倫敦に近い。ならゲリラ戦こそが、この聖杯戦争に於ける肝所では?」
「む……ですが……」
「そこですよ。プライドを棄ててでも、聖杯を獲ろうとする者が参加するのがこの儀式です。ロード、オリンピックならあなたの金メダルは間違いありません。ですがこれは殴り合いの殺し合いです。こんなものに勝ってもソラウさんは嬉しくありません」
「あ……」
ロードはソラウさんを見た。ソラウさんもロードを見つめてうなずいた。
「ロードを失えば時計塔の大損失です。何より私はどうソラウさんを慰めればいいのか。そんな方法はありはしないのですよ、ロード?」
「ハーウェイ理事……。このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが間違っておりました」
「すみません。こんな小娘が生意気な事をロードに……」
「……いえ」
ここからが本番だ。
「ですが、私はここでロードに出会えて幸運でした」
「そうです。あなたがなぜ? サーヴァントがいるという事は参加されて?」
「私の名はエルヴァ・ハーウェイですが、魔術師名は……ロード、エルヴァ・フォン・アインツベルンです」
「え? あ、ああっ!」
「そうです。一族の……分家と言えばいいのか。その家がこの『ヘヴンズ・フィール』という儀式の首謀者です。それを知ったのがつい最近でした。そして実態を知るにつけ、この醜悪な失敗法の全貌が見えて来ました。このままではこの街、いえ、この世界が抑止に狙われ、剪定対象となり見棄てられます。それは絶対に避けねばなりません。それが私がここにいる理由です」
「一体全体、なにがこの儀式にあるというのですッ!?」
よしっ、食いついた。後は淡々と事実を述べるだけだ。
「ロード、この儀式の目的から話します」
「貯蔵魔力量にもよるでしょうが、願望器として……」
「それが違うのです。この儀式は昨夜も少し話しましたが、御三家の誰かが根源に向かうための儀式なのです。この儀式はアインツベルン・マトウ・トオサカの共同事業でした。ですからこの御三家以外の四陣営は絶対に勝てぬよう仕組まれているのです」
「なっ!?」
「考えてもみて下さい。なぜこれほど大掛かりな魔術儀式に他者を参加させるのかを」
「エルヴァ理事、生贄ってことかしら?」
「ソラウさんの仰る通りです」
「ケイネス?」
「待て、ソラウ。それでも理事が参加された理由だよ。よもやご自分が根源に行こうと画策されてのことではないだろう。それ故に私にこうして話してくださるのだから。まずはそこを聞こう」
こうやって頭の冷えたロードほどキレる人はいない。
「ありがとうございます。ロードに感謝を。この儀式は見立て儀式の一種で、等価交換の原則を破壊する儀式なのです」
「等価交換の原則を破壊……?」
「はい。必要なのは魔術師ではありません。サーヴァントの方です。彼らを倒し、その神秘が持ちうる魔力を小さな器……小聖杯といいますが、その一箇所に留めおくのです。そして全騎揃ったところでこの魔力を大聖杯に一気に流し込みます。すると世界の外への孔が開きます。この孔を固定し、英霊たちの帰る座標に繋げるわけです。つまり我々は、この冬木の霊脈が集める電力を利用し、発電所そのものを七つ集める役を担わされているのです」
「そしてその発電力でもって根源に向かうと……。確かに等価交換を逸脱していますな……。しかし、繋がるのは英霊の座では?」
「そこです。それが失敗法である理由の一つです。そしてもう一つの理由が、大聖杯が汚染されてしまう可能性がある点です」
「汚染……。もしかしてですが、英霊以外の何かを召喚する事も可能だと……?」
「その通りです。なんと第三次聖杯戦争で分家が喚び出したのが、アンリ・マユ……」
「し、神霊……?」
「……の、汚名や悪名を被せられて贄となった青年の亡霊でした」
「む? そうか! 無色透明であるからこそ、そのスケープ・ゴートとなった亡霊が担う信仰に染められるのか……。となると、真っ当な英霊であったとしても、悪しき側面が召喚され敗退すれば……。これですなっ?!」
「その通りです。つまり英霊を喚び出す時点で、染まる可能性は否めないのです。そして願望器としての機能です」
「ああ……。ただでさえ根源に向かえば抑止の発動を招きかねない……。その上で勝者の願いが歪んでいれば……。いや、どんな手を使っても聖杯を獲ろうとする者が、聖人君子であるはずもないっ! ハーウェイ理事、あなたのことだ。証拠がお有りなのか?」
「はい。こちらをご覧下さい」
そうして私はリュックから、きっちりと栓をした試験管を取り出した。
ロードは白手袋をしている。その上でハンカチを取り出し、ハンカチでその試験管を受け取った。そして幾つかの礼装や魔術装置をソラウさんにセットしてもらい、分析を掛けた。
「お恥ずかしい話です」
「いえ。この件で理事を失脚に追い込むような真似は致しませんよ。私の愚かな選択でアーチボルト家を壊すところでした。あなたの言葉がなければ……背筋が凍る思いです」
「エルヴァ理事……ありがとう」
「いいえ。ソラウさんの悲しむ姿は見たくありませんから」
「それで理事、この後は?」
「トオサカとマトウとの直談判です。そこに道筋を付けてから、他の陣営にも話をと考えています」
「ならば、理事。アーチボルトは降ります。それでもし良ければ、ランサーを使って下さい」
「え?」
「ランサー、貴様は忠節を通したいと言ったな?」
「はい」
イケメンが直立不動で答えた。
「ではこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが命じる。今より理事も主と認め、お護りするのだ」
セイバーが先に頭を下げた。だから私も彼女と並んで頭を下げた。
少し目をつむったランサーは、目を開くと『はい』と返事をした。何かワケありのようだ。
会談を無事終えた私たちは、お昼ごはんを食べにバイクで走った。ランサーの話を聞きたかったので、街から少しだけ出る。ただ、魔力の問題があるので、ソラウさんの分のパスを私に繋ぎ替えてある。
道交法はきちんと守っているけど、この速度について来れるランサーはさすがだ。もちろん霊体化してもらっている。やがて目的の場所についた。
ランサーには郊外に出る前に買った、洋服を渡し、藪の中で着替えてもらった。
「似合いますね?」
「うむ。美男子ぶりに拍車が掛かったな」
「からかわんでくれ……セイバー」
ポッと頬を染めるイケメン。
「しかし、ここは? 田舎の一軒家にしか見えんが?」
「鍋料理の店だそうだ。ほれ、看板が……『シシ肉』だと……? エル、貴様謀ったのか?」
セイバーが怖い顔をしている。どうして?
「なにがですか? 意味がわかりません。なにが気に障ったのです?」
「あれだ! あの看板には『シシ肉』とある! あれは獅子のことであろう?」
「ライオンじゃありません! ネコ科を食べる先進国はありませんから。シシとはイノシシのシシです」
「あ、イノシシか……」
「イノシシ……」
イケメンがなぜか落ち込んだ。どうしたの?
「エル、ぼたんってなんだ?」
「さぁ?」
そこで駐車場から老夫妻がやって来た。
「婆さん、ここだよ」
「はい、はい。ぼたん鍋なんて久しぶりですね」
「そうじゃなぁ」
ピンときた私はセイバーに質問してもらった。
「わかったぞ、エル。イノシシの肉を皿に盛り付けると、ボタンという花のように見えるそうだ。また、殺生をして生き物の肉をみだりに食ってはならんという宗教上の理由があって、隠語の意味もあるそうだ。シカはモミジで、ウマはサクラというらしい。それでエル、この店はその全部が食べられるそうだ」
「へぇ~~!」
「ここはそれが全部あるのか?」
「ああ。ウマは入る数が少ないので、日によってない場合もあるようだ。が、シカはあるだろう」
「なら、俺はシカにする」
「へ?」
「知らないのか? 俺はディルムッド・オディナだ。イノシシで命を落としたのだ」
「すみません。フィニアンサイクルは親指を噛む人以外あまり興味がないので、読み飛ばしていました。それに普通はアルスターの方を読みますでしょう?」
「泣きそうだ……」
そう言いつつ、この人は一人でモミジ鍋を平らげ、ご飯を大盛りで2杯食べていた。
「あ~……食った食った……」
私はセイバーからぼたん鍋を分けてもらい、シシ肉も二切れしか食べていない。後はご飯とピクルスだ。それなのに支払いは私だぞ?
けれど色々聞けた。真面目にやっているつもりなのに悪い方へ悪い方へ行ってしまう、運と人との関わり。だから少し助言した。大したことではない。
現代で一番嫌われるのは、自分のポリシーを他人に押し付けることだと。マスターが押し付けるならイヤだと言えばいい。私だってサーヴァントが押し付けてきたらイヤだと言う。
けれど現実はなかなかそうは言えないしできない。それはしがらみがあるからだ。ケイネス先生はそのしがらみを誰よりも知っているし、辛かったり悔しい思いをしている。だからあなたを私に預けたのだと教えてあげた。
なんとなくそうなのかなと察するだけで、実際どんなトラブルがあったのかは知らないけれど、現代に於ける人間模様としがらみを知らないのに、ランサーが生きていた時代のモラルや生き方を先生に押し付けても相互理解は遠いと思う。
だから魅惑のホクロに関する彼の言い分も叱った。そんな無責任な言い方でなく、こうこうこうだからどうすれば良いのかと先生に真っ先に相談しないあなたが不味いと。世渡り下手すぎだ。
そんなホクロは災厄を呼び込む呪いでしかない。それに対して生来の呪いだと軽く言ってしまえば、それがいつのどんな時代であったとしても、人と人との関わりを壊すだけだと。
「やはり現代は違うのか……」
「それはそうでしょう。今も昔も変わらないなら、人類はちっとも進んでいないってことですよ?」
「そうだな……」
イケメンは憂いを帯びてもイケメンだ。けれど頭の固さをほぐし、柔軟な思考を得ないと。彼はどこまで行っても武術家であって、戦略家でも政治家でもない。
人は経験した範囲外のことなんかなかなか想像もつかないし、理解できないものだ。人を雇い給料を支払う立場にならないと、経営者の考えはわからないのと一緒だ。
フィオナ騎士団一と謳われた最強の戦士は、フィン・マックールの苦悩は理解できない。結局そういうことだと思う。
ここで私のmova NⅢに父からのコールがあった。
「エルヴァです」
『切嗣だ。舞弥からの連絡だが、間桐が更地になっている』
「え? とっくに降りてどこかへ行った?」
『いや、そこは不明だ。現住所と家族構成はなんとか調べがついたが、不動産関係は遠坂のアンテナに掛かりそうだったので手間取った。そしてここが謎なんだが、父親の間桐鶴野と二人の息子……小学生しか家族がいないんだ』
「どういう意味ですか?」
『僕の以前の調べでは当主こそ間桐鶴野だが、それは名ばかりで本当の魔術師は間桐臓硯ただ一人だったんだ。つまり動産や不動産を動かして不労収入を回しているだけで……』
「魔術師ではなかった?」
『ああ、枯れていく家だったんだ。鶴野の弟に雁夜という者が居るが、彼は現在海外だ』
「では、御三家なのに参戦していない……? もしくは……?」
『こう言っちゃなんだが、誰しもが君みたいに早熟とは限らないだろう? 上が4年生で下が1年生だ。普通に考えてありえない』
「確かに……自分でも例外中の例外と思いますから」
『ま、可能性の芽を潰しても仕方ない。一応、二人の息子も調べてみるよ』
「お願いします。それでアサシン陣営はどうなりました?」
『相手が教会なだけに調べづらいところだけど、セイバーの話と合致しない点が多すぎる』
「と言うと?」
『セイバーが気を付けろと言った言峰綺礼だよ。監督役の父親を真面目に手伝っているだけにしか見えないんだ。生活も趣味もかなりオープンでね。こいつは中国拳法を学んでいるんだが、奴はその道場へ週に3回定期的に通っている。鍛錬にも熱心らしい。そしてその道場からの帰りに、必ず泰山の麻婆豆腐を食べに入っている。ありえないだろう?』
「足がつくとかのレベルじゃない……」
『そう。裏の顔もあるだろうと調べれば、代行者だった。だけどそれも極東のスポット人員だ』
「現地の特派員みたいな?」
『そういう事だ。何より遠坂との接点がない。つまりは限りなくシロなんだよ』
「わかりました。こちらでも調べてみます。何かわかりましたら連絡を入れます」
ここで私はセイバーに冬木へ戻るようお願いした。地脈から霊脈を追ってもいいけど……。
「トオサカの家の近隣に。できれば見渡せる場所がいいです」
「山に登るか。ランサーは霊体化して付いてきてくれ」
「承知した」
深山町の洋館街を見下ろすようにしてバイクは坂をぐんぐん登る。つづら折りを登り切れば広い駐車場があった。端の方でバイクが止まるや否や、私は飛び降りてコイン式双眼鏡が立っているところまで走った。
ランサーが実体化して私を追い越した。目の前に黒い甲冑姿の騎士が現れたのだ。
二槍で騎士が振るう大剣を巧みに弾くランサー。そこに武装したセイバーがロケットのように魔力噴射して飛び込んできた!
「また貴様かランスロット! 先も見通せぬバカは引っ込んでいろ!」
セイバーには抑えるだけで倒すなと念話で指示して、私は双眼鏡のところまで空間転移した。
この展望台は崖の上にある。断層だ。つまり地脈の真上だ。柵のある縁まで行くと、むき出しの地脈が見える。ここは冬木の街が一望できて、なおかつ真下の洋館がトオサカだ。
こういう場所があったのか。この崖を崩したらトオサカを潰せると思ったけれど、今は関係ない。セイバーとランサーが私の背中を護っている気配がする。彼女らに応えるためにも、このチャンスを確実にものにする。
地面に手を付き、霊脈をたどり大聖杯の外周を掴んだ。そこから進み召喚システムを読んだ。アンリ・マユが潜む『釜』を避け、次に令呪システムを読んだ。
「わかった!」
なにがわかったかと言うと、トオサカのやっていることだ。二騎、喚んでいたのだ。だから、父からの報告みたいになる。キレイ・コトミネは関係なかったのだ。
どうしてそうなったのかはわからないけど、これが世界の違いなのだと思う。
セイバーたちの方を振り向くと、周りがアサシンだらけだった。ガントリーの上にいたあの英霊……分身が宝具なのかも。
その軍団の中央で黒い甲冑が指揮官のようにこちらを見ている。いや、兜で顔も目も見えないけれど、こちらをじっと見ているのはわかる。
あいつはなんだ? ステータスを読み取るとバーサーカーとなっていた。なのに理性だけでなく知性も感じる。こちらを観察しているかのようだ。マスターに目を貸しているのか、私だけを見ていた。
30人くらいいるアサシンは誰もが腕や太もも、脇腹、胸など、どこかに切り傷があって血だらけだった。セイバーとランサーが、私を護りつつ『殺さない』というオーダーを守ってくれた結果だろう。
私はセイバーとランサーもろともバイクにまで空間転移した。瞬時にセイバーはエンジンを掛けた。ヘルメットのあごひもをシメたのは山を降りきって落ち着いてからだ。
私たちはつづら折りを曲がりながら降りなければならないが、英霊は────まして霊体化できる彼らなら最短距離で真っ直ぐ走ってこれる。
なのに誰も追って来なかった。しんがりを努めてくれたランサーも追手は居ないという。
慌てていたから深山町と反対に降りてしまった。自動販売機の並ぶ無人の何だ?
「精米所だな。お米に付いている糠などを取り除く機械のようだ」
裏手の目立たないところにバイクを止めたセイバーが教えてくれた。ヌカがなんなのかわからないけど。
もう一度追手が掛かっていないことを確認してから、私は自動販売機を見た。リュックから財布を出せば、お札しか入っていない。
「あ~!」
「どうした?」
「お財布にコインがありません」
「おちつけ。この自動販売機は千円札が使える。これだ、この青い札をここに入れるんだ」
「ホントだ、動いた」
「なにが飲みたい?」
「これ」
「コーヒーか? ああ、この機械はカップコーヒーだ。ホットとアイスがあるな。ホットだと砂糖とミルクが増減できて、アイスだとシロップとミルクが増減できるようだ。どうする?」
「アイスって? アイスクリームでも浮かんでいたり?」
「それはコーヒーフロートだ」
時々、時代にそぐわないおかしな発言あるけれど、セイバーが得ている聖杯の知識は、基本日本の文化に即していた。
私とセイバーとの会話が噛み合わないのは、欧州にアイスコーヒーというものがなかったからだ。それが日本独自のものだとわかったのは、ランサーが教えてくれたからだった。
「なぜ、貴公がそれを知っている?」
「俺もソラウ様に教えていただいたのだ。ホテルのメニューにあって、やはり珍しがられてな。物は試しと……」
「なるほど。それでもって貴公は無意識に主の怒りに触れていると……」
「どういう意味だ、セイバー?」
「だから、物は試しでソラウとラウンジか喫茶ルームに行ったのだろう? ルームサービスでも頼めたろうに。つまりボディ・ガードという名目でデートに誘われているのだ」
「そんなつもりは毛頭ないぞ!?」
私はため息をついた。
「セイバー、ここのソラウさんはあなたの知るソラウさんとは異なります。退屈だからホテル内で行える小さな冒険を楽しんだだけです。それと退屈なんだというエルメロイ先生へのアピールですよ。けれどそういう機微がわかるほど、あの先生には女性経験がありません。まず間違いなくロードはチェリーです」
「嘘だろ!? 8歳の子供に言われるあいつに同情するぞ!」
「そうです。そんな風に魔道と後進育成に一途な方なのですよ、セイバー。かつては神童とまでいわれ、魔道における数々の発明をなされ、10代前半で講師になり、20歳になってロードですよ。今は5年目だったと思います。それでこんな子供なのに理事になった私をあれこれと気遣って下さり、現在に至ると言いますか……」
「そうだったのか」
「らしいぞ、セイバー。あの埠頭の後、主にコンコンとお教えいただいた。ハーウェイ理事をそこらの子供と思うな。魔道にも経済にも明るく、私のような一芸に偏った人間ではないぞ……と。おまけにソラウ様には、ハーウェイ殿を悪しざまに放言したことを咎められてな」
「ほぅ?」
「このような短期間の関係でなければ、ハーウェイ殿と話す機会を与えるのにと言われていたのだ」
「それで貴公は昼間、あんなに感激していたのか?」
「そうだ。ケイネス殿も俺にチャンスをくれたのだと思う。お二人の安全を思えば、このような儀式なら降りられるのも致し方ない。それにハーウェイ殿に付くことは、お二人の意向であり俺にとってのチャンスとも思えたのだ。ついでにセイバー、貴公に興味が湧いたのもある。貴公はこの儀式を経験しているのか?」
「隠しても仕方ない。その通りだ」
「その時はどうだったのだ?」
そしてセイバーはランサーに以前体験した第四次の話をした。ランサー陣営以外を端折ろうとするセイバーに、私は念話でマトウとトオサカで起きたことも話すよう指示した。
その理由はこの話をマトウの蟲が聞いていることに気づいていたからだ。マトウ、即ちマキリ。それは同じ蟲使いの私が知らないはずのない、有名な蟲使いの家だった。
と言っても私の知るマキリは、200年以上も前の欧州のマキリだ。消息不明になっていたのは日本に来て、こんな儀式をやっていたからだったのかとその時に気づいた。
並行世界の父の所業は何度聞いても吐き気を催す。話すセイバーも聞いているランサーもイヤな気分しかしないだろう。だけど、だからこそ、この儀式を一人の脱落者も出さず終えなければならない。
「それで先程のバーサーカーらしからぬバーサーカーと、多数いたアサシンはどの陣営かわかるか?」
「どうやらセイバーの経験とは違ってトオサカのようですね」
セイバーは唖然としていた。
少し不思議なエルメロイが生き残るお話です。