※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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少し話が動きます。


その6 お好み焼きと少女たち

 セイバーの先導でヴェルデという建物に入った。色んなお店が入ったショッピング・モールだ。

 

「なにを探しているのだ?」

「日本における携行食や保存食についての本です」

 

 それをお店の人に訊ねるセイバー。案内された場所には、小さな容器に入った料理の写真や、それの作り方が載った本がたくさん並んでいた。

 ランチパックだ、これ。思ったのと少し違うけれど、パラパラめくるとどれも楽しそう。気付けばカゴに10冊くらい入っていた。

 そのランチパックの並びの横の棚。ここにお目当ての物があった。日本語は読めないけれど、絵や写真でなんとなくわかる。冷ましたご飯でオニギリというボールを作り、それを竹の皮で包む。防腐なのか抗菌なのか、あの赤いピクルスを真ん中に入れて丸めるらしい。

 ようは昔のランチパックだけれど、こういうのが知りたかったのだ。言ってみればご飯という食べ物が、この国の歴史の中でどう扱われ親しまれてきたのか。

 その本と似たような本をカゴに入れ、今度は歴史書の棚を探した。

 

「おい、セイバー!」

「ああ、ライダーだ。なぜここに?」

「こちらに気付いたようだ……」

 

 Tシャツ姿の大男が手を振っていた。両手には紙袋。先にどこかでお買い物をしてきたらしい。

 

「いよぉ~! 奇遇だな? 二人も当代の服装か。似合っとるのぅ~」

 

 一通り挨拶を交わすとランサーが尋ねた。

 

「貴様は一人なのか?」

「うむ。街へは一緒に来たんだが、余の買い物に付き合っておれんと言われてな。本屋で待ち合わせだ。坊主を見んかったか?」

 

 私は歴史書の棚を指差した。そこにグリーンのセーターを着たライダーのマスターが何かを真剣に読んでいる姿があった。

 

「なにを真剣に……」

「なにかの歴史書の英語版ですね」

 

 視力を強化すれば……。

 

「あ」

「なんじゃ?」

「アレクサンドロス3世の生涯」

「あ!」

 

 驚いたのはランサーで、『なにを読んどるんじゃ』と呆れたのはライダーだった。

 セイバーには前回の記憶があるし、私はそれ以前にエルメロイ先生がどんな聖遺物を盗まれたかを知っていた。知らない人はとことん知らないだろうけど、知っている人は知っていた。

 オークションで高額落札されたその品は、『アレキサンダー大王のマントの切れ端』だったのだ。

 

「よぉ、坊主」

「うおぅおおい! な、な なんでランサーやセイバーがいるんだ!? ってか、セイバーのマスターまで! もしかして、近くにエルメロイ先生が!?」

「落ち着け、坊主。小奴らも買い物よ。セイバーが持っとるカゴが目に入らんか?」

「あ……」

「それにこんな昼間から襲って来んわ」

「ですが、場所が場所だと安心しないように。一人でお手洗いに行くときなどは注意して下さい」

 

 別に反論のつもりはなかったけれど、つい言ってしまった。

 

「暗殺か……」

「はい。近代兵器も通用しない最強の存在も、魔力供給者を断てばどうにかなるものです。サーヴァントと離れての単独行動は感心しませんよ?」

 

 怒った顔は一瞬だった。次に彼はため息をつき、こんなことを言った。

 

「こんな小さいな子でもちゃんとわかっているんだよなぁ……。なにも知らずにこんなところまで来ちゃった僕って……」

「なんじゃ、坊主。お主は後悔しとるのか?」

「当たり前だろう? 段々とこの儀式が見えて来た。そもそもその聖杯って本当に願いがなんでも叶うのか?」

「む……」

 

 やっぱり。ライダーも疑っていたし、彼も怪しいと思っていたみたい。これが普通の感覚だと思う。それだけ情報に疎く時代感覚に合わない魔術師が多いのが現状だ。

 ロード・エルメロイは歴史と代々積み重ねて来た家系を無視した彼の論文をこき下ろしたが、それでも発想はある程度認めていた。

 ロードもなんとなくわかっているのだ。今はまだまだだけど、この人は魔術と現代社会、そして未来に於ける神秘の扱いを提唱できる人だと私なんかは思っている。

 少なからずあの論文のコピーを読んで、私はそう思ったのだ。

 こんな静かな本屋で立ち話もなんだからと、お買い物を済ませた私は彼らを喫茶店に誘った。本はロッカーに預けるフリをして、宝具に取り込んだ。隣のロッカーには大王が本日買ったゲーム機などを入れていた。

 

「良いのか? 本当におごりで?」

「ええ。たぶん学生のあなたより、自由になるお金は多いですから」

「ちっこい子にそんな風に言われると傷つくな……金持ちの家の子か。道理で。自分で稼ぐ苦労を知らないと、大きくなったら下の人から嫌われるぞ?」

 

 おや? こんな風に他人にズケズケ言うタイプだったかな? おまけにイヤミでなくこちらを心配する気持ちが伝わる。

 後でわかったことだけれど、この頃の私はどうも人が世話を焼きたくなるオーラが出ていたらしい。

 名々が好みのドリンクを注文する中で、私はクリーム・ソーダを頼んだ。メロンのフレーバーが着いた緑色のソーダに、アイスを浮かべたフロートドリンクの一種だ。

 これも欧州にはないドリンクで、普通はソーダそのものにバニラの風味を着けたドリンクをクリーム・ソーダという。それも真っ黒い、コーラが元のタイプがほとんどだ。

 だからメニューの写真を見た段階から、私はこれに決めていた。

 

「うわぁ、本当にクリームが浮かんで(フロート)いるぞ? この国の食べ物はホントにわけがわかんないな」

 

 この国の人も私たちの文化に同じことを思っているよ。英国はなにを食べてもマズいとか、ドイツはソーセージとビールだけだとか。スイスなんてチーズが主食と思われていそうだ。

 そして大王とセイバーは、巨大なパフェを頼んでいた。20分掛かると言われて出て来たそれは本当に巨大で、一つ1万円だった。

 コーヒーだけのウェイバーとランサーは呆れていたけど、王であった二人には似合うなと思った。メニューには8kgあると書かれてあったが、二人はキレイに平らげた。

 

「なぁ、お前ってなんて名前なんだ?」

「エルヴァ・ハーウェイです」

「嘘だろ? それは時計塔で一番若いって有名な理事の名だぞ?」

「フフ……でも、エルヴァは本当です。エルヴァ・フォン・アインツベルンですよ」

「ああ、なるほど。御三家の一つか……。もう昼だな。どうだ? お礼にオコノミヤキを奢ってやるから来ないか?」

「行きます! サーヴァントの分は私が払いますから! なんならライダーの分も!」

「正直助かる……」

 

 それで私たちはヴェルデからほど近いお店に入った。看板の文字が読めない。

 

「あれは『鍾馗(しょうき)』と言って……」

「マスクを付けろ!」

「プッ……確かに同じ発音だな? アニメが好きなのか?」

「はい」

 

 即座にアニメとわかった彼も大概だ。時計塔の学生にはアニメ好きが多い。そういう友人の影響だろう。そんな風に時代は変わって来たのだ。

 研究室や工房にこもるのは教授と一部旧家の学生だけで、講師もほとんどの学生も実験以外で工房には入らない。

 

「ここはモダン焼きがウマいんじゃ」

 

 そんなことをセイバーやランサーに力説する大王。

 私は他の客の大きさを見て、セイバーに四分の一くらいしか食べられないと申告した。

 すると大王がこう言った。

 

「坊主と同じじゃのう。コヤツも少食でな。そのくせ聖杯には大きくしてくれと願うというから笑えるわ」

「誰もそんなことを言ってないッ! 僕は周りを見返したいだけだ!」

「つまりは周囲が認める、大きな人間になりたいと?」

「そういうことだ。ホンに男子(おのこ)が情けない。これが余のマスターと思えば、嘆かわしいばかりだ」

「うるさいな!」

 

 仲が良いんだなぁ。見ているとなんだか楽しい。

 結局私はカキとイカのミックスモダンにした。セイバーはパフェが効いたのか、私のあまりを食べる。大王はイカとブタのモダンで、ランサーは牛すじ月見のネギ乗せだった。この人もチャレンジャーだ。

 そしてウェイバーはブタザブトンというのを頼んでいた。

 

「ザブトンってなんですか!?」

「ああ、オコノミヤキの底側にソバが入っているのがモダンヤキで、オコノミヤキの上にヤキソバが乗っているのがザブトンだよ。前に地元の学生が頼んでいたのを見て、へぇ~と思ったんだ」

 

 なるほど。他者から学ぶのは大切なことだ。後で一口欲しいと言ったら、小皿も頼んでくれた。優しいね。

 ここはお店が焼くのが基本らしいが、頼めば目の前の鉄板で自分で焼くこともできるらしい。だけど全員、オコノミヤキの焼き方なんて知らないのでお店の人に任せた。

 やがて熱々のモダンヤキが温められた鉄板に置かれていった。周りを見ると金属の小さなヘラで直接食べている人がいた。

 

「熱くないの!?」

「無理せず、切ったのを皿に乗せてハシで食べた方がいい。アオノリとカツオブシはここだ。ソースはこっちな。マヨネーズは見たらわかるか」

「自分で塗るの?!」

「そうだよ。アオノリもカツオブシも自分の好みだ」

「ファンタスティック・ジャパン!」

 

 私は両手を上げて喜んだ。

 

「エラい喜びようだな?」

「ああ、この子は食べ物にこだわりが強い。それにこういう庶民的な食べ物に興味があるようだ。さっき買った本も日本のそういう本だった」

 

 大王の感想にセイバーが答えた。

 

「ふ~ん。なんでそんなのに興味がるんだ?」

「あ~……家が食品会社を営んでいて」

「それでか。大人になったら跡を継ぐのか?」

「ま、まぁ……」

「良いんじゃないか。子供でもこれだけしっかりしているんだから」

「あれ? 親のレールがとか言わないのですか?」

「むむ……。前はそういうのを羨んだりしたけれど……。結局、それを活かすも殺すも本人次第だろ」

「……そうですね」

 

 彼のことを知ったのは偶然だ。

 以前、理事会の会議で時計塔へ行った時にエルメロイ先生の部屋に立ち寄り、机の上にあった論文が目に入って、紅茶をいれて下さる間、それをパラパラと読んでみた。

 それが彼の論文だったのだけれど、感想は────まだまだ未熟で世間知らず、血統を無視して魔術の歴史を終わらせる危ない考えだと思った。

 だけど現代社会と魔術のあり方を示唆する部分もあって、萌芽だけど才能の片鱗は感じた。その才能が確かな蕾となりつつある。男子三日会わざれば刮目して見よとはよく言ったものだ。

 ロードのような責任ある立場なら、きちんと話せば理解もされる。けれど、彼は順序立てた筋で正論を語っても反発心が先立つだろう。

 聖杯の汚染と、この戦いの無意味さ。こんな子供に言われてもピンと来ないと思う。いっそロードに……そうだよね。そういう場を設けて講義して頂こう。それが一番だ。

 ついでにその場へ他の陣営も招待する。そうだ、それが一番手っ取り早い。これならトオサカも考え直すだろう。ではどうやってトオサカを参加させる?

 

 食事を終えた私たちはお店の前でわかれた。

 

「この後どうする?」

「昨日のバス停ってわかりますか?」

「バス停って?」

「あの制服の女の子二人が降りてきたバス停ですよ」

「ああ……。走ってみればわかると思うが。どうしてだ?」

「あの二人は間違いなくトオサカの血縁者です。あの二人を使ってトオサカとの会談を申し込みます」

「誘拐でもするのか!?」

「はい?」

 

 セイバーは私と、どこかの父を重ねているの?

 

「相手は子供ですよ? あなた達のパパが危ないから、お話を聞いて欲しいってだけで十分ですよ」

「あ。連絡をつけさせるのか」

「そうですよ。聞く耳を持って頂くにしても、方法だけでなくルートも重要でしょう?」

「なるほど」

 

 その後、私たち三人は駅前に商店街を抜けつつ戻ろうとしたのだが、ここであることに閃いた。それを実行すべく何軒かの店を周り、今朝着替えた公衆トイレに人避けの結界を張って入った。

 トイレ前で待機していたランサーは、出て来た顔ぶれを見て驚いていた。それはそうだろうね。出て来たのはバイクウェアに着替えたセイバーと私、それともう一人の私と母みたいな私だったのだから。

 作戦はこうだ。私とセイバーは当初の予定通り、あの姉妹らしき二人の居場所を特定する。そしてランサーと大人の私と子供の私は、仲の良い親子として街を練り歩く。これは殺人鬼を釣るためだ。

 そう都合よく犯人と遭遇するのか? その懸念を失くすため、このエーテル体はフェロモンも芳香もキツめに出すようにした。

 なにもなければタクシーで宿まで来ればいいし、なにかあれば念話で知らせろと伝え、リュックに入れてあった札入れの方から10万円渡した。

 

「たっぷり楽しんで来なさい」

「結局、囮でしょう? ママにバレないウマい手だとは思いますけど」

「まぁまぁ、これが一番ベストよ。じゃ、ランサー? エスコートはお願いね?」

「ちょっ? 腕を絡めないでくれ」

 

 渋るランサーに魔術で分身しているだけでその子も私だと言ったら、首を捻りながら出発してくれた。三人を見送るとセイバーは大きなため息をついていた。

 

「あの分身の術をこういう風に使うとは……。大人にまでできるとは本当だったのか……」

 

 大人ってこともないかな? たぶん19歳くらいだと思うから。これは母に合わせたのだ。あの施術で母の稼働年数が9年目で、設定年齢が19歳であると判明したからだ。

 ママたちも似たようなものだから、この点に関してはアハトを責められない。

 

「それもあって口調が大人びてしまったのかも」

「そんな気がするぞ」

「仕上げはこれです」

 

 先程の公衆トイレから、私が着ていた服装で現れるまた別の私。予備セットの83番だ。

 私の分割思考はこんな風になっている。表の1番から20番は私そのものであり、常に賛成派だ。これは裏の21番から40番も基本は同じ。少し中立派に近いかな?

 裏とは思考方法の違いからそう呼んでいるのだけど、文字通り私の闇の部分を支えているセットでもある。魔術師としての私、商人としての私。冷酷な判断はこちらに聴くことが多い。

 そして表の41番から60番は反対派だ。私のイケイケな性格を論理的に抑えるという重要な役目がある。ある意味このセットが私の良心と言えるだろう。

 ただこれにも裏のセットがあって、それが61番から80番となる。21番から40番とは違って滅多に使わない。ただ、『健康のためなら死んでもいい』という極端なタイプが多いので、父のようなタイプを推し量るには参考となる。

 残る81番から100番は予備であると同時に中立派でもある。どちらの意見もわかるというタイプで、なおかつ意見の対立を調停する役割がある。だから裏のセットがない。

 それなのに周囲に流されず、自分の意見も理路整然と語れる。こんなだから、子供の私から見るとかなり大人な思考だ。これは私が生み出した1番から80番までと異なり、お祖父様の介入があって生まれた思考だと思う。

 今回、母親役は29番だ。そして子供役は47番。これは29番と47番に対するお詫びもあった。47番は先日鍾乳洞で死ぬ思いをさせた。29番は一度爆殺を食らっている。自動人形7体に囲まれ自爆されたのだ。

 気付いたと思うが、私が表に出して行動させる意識(思考)は素数ばかりだ。これは他の意見を封殺するための絶対的ルールとして施行している。

 そして私は素数の中でも7という数字にかなり懐疑的だ。1対6や2対5なら我慢できるし納得できる。けれど3対4なら惜しいし悔しい。そういう葛藤を想起させる数字だと思う。

 だから7番は外に出さない。基本メインの20番までは私そのものなので、2・3・5・7・11・13・17・19は出さないのだけど。

 でも21番から40番にある、23・29・31・37には何度も汚れ仕事をさせている。その次に重宝してるのが41番から60番の中の41・43・47・53・59だろう。

 とはいえ、反対派なのでいちいちウルサイ奴が多い。中でも47番は正論しか言わないので本当にムカつく。だけどそこにキチンとした理由があって死んでこいと言ったら、この素数の全員が手を挙げてくれる。

 だから今日は撒餌だけど、一日楽しんで欲しい。

 81番から100番の中の83・89・97は中立派の中の代表みたいなもので、取りまとめ役でもある。本来なら23~37の中の誰か、もしくは41~59の誰かに頼むはずの本当の囮、つまりルアーを買って出てくれたのだ。

 ちなみにドイツに残って姉や母の面倒を見てくれているのは、その59番と97番だ。

 

「では行って来ます。しかし、この服はオコノミヤキ臭いなぁ」

「あなたにも10万円渡してあるのですから、服を買うなり消臭スプレーを買うなりして下さい」

「はいはい」

 

 そうして彼女はランサーたちを追うべく雑踏に消えた。47番には楽しんでもらうため。29番も楽しんで欲しいけれど、同時に護衛であるランサーの足を鈍らせる役目もある。でないと83番が追いつけないからね。

 83番を見送った私たちは今度こそバイクを引き取り、あのバス停を探すべく出発した。道順は昨日と同じで、展望台から冬木を迂回するルートだ。

 

 昨日と打って変わって展望台に人が多い。駐車場に集まっているバイクの集団はツーリングだろうか。

 

『これがあの死闘を繰り返した冬木なのか?』

『聖杯戦争があったとしても、それは闇から闇の話です。一般の人は普通に日常を送っていますよ。だからこそ私たち魔術師は隠蔽を優先し、人々に迷惑が掛からぬよう動かなければならないのです』

『そうだな。そして終わらせたいものだな』

『はい』

 

 バイクを止めてヘルメットをセイバーに預けた私は、昨日バラ撒いてあった使い魔や礼装を回収した。衆目の目はバイクのそばで佇むセイバーに集まっていた。

 何人かのオジサンがセイバーに話しかけている。きっと若い女の子だからと、自分の力量も考慮せず、ありがたいライディング・テクニックでもご高説下さっているのだろう。

 こういうのをマアエモ・ママやルオン・ママで何度も見ていた。バイク乗りはいい人が多いと思う。でも、女性経験の少ない人がやたら多い。

 集団ツーリングにしても出会いを求めている裏で、社交性のなさを自覚しているからという理由が大きいように見受けられる。そんなだから女性ライダーに親切を装って近づき、自説でもって自爆する人もまた多いのだ。

 樹に登ったり草むらに潜んでいた使い魔を回収してセイバーの方へ向かえば、案の定一括されてショボンとしてる男性がいた。

 ヘルメットをかぶり、セルを一発。ブフォーンと駐車場を後にする私たちに数台のバイクが追い掛けて来たけれど、一つ目のコーナーで誰も来なくなった。

 左へ曲がる下りの急カーブを、セイバーはブレーキでの前輪荷重を済ませれば一気にハングオフし、膝どころか肘を擦らんばかりに倒し込んだ。

 もちろん私もそれに合わせて腰を落としている。ママたちで馴れているからできることだ。普通の子供は外足荷重で踏ん張るなんてできないからね。

 そして腰を浮かして次は右。今度は右膝を擦って抜けていく。直線で振り向けば誰もいなかった。

 

『風の魔術で枯れ葉を払い、キャブにはエアをガンガン送り込む。なんとも便利な魔術だな?』

『これで風王結界をバイクに使えば、何キロ出るでしょうね?』

『空気抵抗を減らして燃焼効率を上げても、路面と接地しているのは二本のタイヤだ。300km出れば良い方だろう』

 

 クレバーだな、この人は。

 

『おおっ!?』

『どうしたの?』

『いや、右300メートルほど先に見えた沢というのか? そこを登っているバイクがいたんだ』

『エンデューロかなにかの練習かな? そういう楽しみ方もありますから。この山はそういう場所もあるのかぁ』

『そういや、エルも子供用のに乗っているって聞いたな』

『はい、オフロード車ですよ。あ、見えた。やっぱりエンデューロの練習みたいですね。上手だなぁ』

『馬では脚を折りそうだし、バイクなら歩きの方が早そうな場所だな。ああいう楽しみ方もあるのか』

 

 そんなことを話しながら円蔵山を降った私たちは、昨日の精米所は飛ばしてガソリンスタンドで給油した。私のトイレ休憩があったのだ。

 森でああいう練習をすれば楽しいだろうな。けれど森に逃げ込まなきゃならないほどの状況が来ない。なのでセローはどこかで眠りっぱなしだろう。

 ああ……。ママたちならああいう沢もひょいひょいだ。セイバーにオフは難しいと踏んで森に入らないのか。なんとなくそういう気がしてきた。

 いくつかの街を抜けると、昨日のバス停があった交差点に着いた。時間もいい頃合いなのでバイクを押して、裏道に入り宝具でヘルメットと一緒に取り込んだ。これで尾行できる。

 

「こんなウェアだと目立つぞ?」

「認識阻害の魔術を掛けていますから。あ、あのバスかな?」

 

 少し早いけれど、たぶん昨日のと同じ路線のバスがやって来た。思った通り手を繋いだ姉妹が降りてきた。だけど今日は服装がお揃いじゃない。

 姉らしきツインテールの子はあの茶色い制服だけど、妹の方は……名札のデザインから察するに幼稚園だ。あれ……?

 そしてその後を付ける少女は、これまた別の学校の制服だった。昨日は黄色い帽子で私服だったのに。どういうことだ?

 

「あれ、変装して護衛しているんじゃないか? つまり姉妹にバレないように」

 

 離れたところから見ているので、昨日みたいにこっちには気付いていない。

 

「じゃ、あの妹の方はいったい?」

「そっちは変装云々でなく、単に姉と同じ格好がしたいと甘えたので、それを叶えてやった? そんな気がするなぁ」

 

 ああ、なるほど。別件だったのか。

 

「ああやって仲良く歩く……」

 

 セイバーの言葉は尻すぼみで全部は聞こえなかった。

 使い魔に後を追わせ、私たちはかなり離れて歩いた。もう一人の少女が気になったのだ。歳の頃は10歳前後。姉妹より年上に見える。こちらも美少女だ。

 

 家が判明した。4方向から囲んでいる使い魔が入った家を特定したのだ。だけど、玄関の正面側にいた1匹が突然殺された。

 最初の4匹を監視していた2匹のうちの1匹が、入った家の斜め前にある電信柱の陰から、魔術を使う少女を捉えていた。姉妹を尾行していたあの子だ。

 セイバーの言う通り。あの子は姉妹の護衛だ。

 

「セイバー、あちらの使い魔もこちらに近づいています。発見されたかどうかまではわかりませんが」

 

 防音でも防壁でもない、半径100メートルで張った探査結界。その壁を越えてきた。取り敢えず自分の使い魔は自動に切り替え、屋根裏や庭の樹木に潜ませた。

 私とセイバーは住宅街を抜けて公園に入った。するとセイバーがいきなり武装して、目の前で実体を編んだバーサーカーと切り結んだ。

 

 しまった、誘われた!

 先程の少女が追いつき、公園に入るやいなやなにかを唱えた。結界だ。防音に認識阻害。

 ここでヤル気だ。普段なら慌てない。なにも怖くない。けれどあの子は危ない。近づけば手酷い目に会う。そんな予感がひしひしとする。

 だから自分の使い魔を6方向から襲わせた。斜め前から2匹。斜め後ろと真後ろから3匹。そして頭上から1匹だ。

 ここからは防御合戦だ。足元の地面を突き破って3匹。後方から2匹。真下から1匹。地蟲が襲ってくる。だけどそれらは炎の魔術で焼き殺した。

 あちらを見れば、あちらの足元に私の使い魔が死骸となって転がっていた。カンは正しかった。かなりの腕だ。殺されるまでの映像を上空に待機していた使い魔が捉えていた。

 再生すると一瞬で干からびて死んでいる。あの子……使い魔が体内に持つ水分を奪ったのだ。これで大気中の水分も操れるならピンチだ。

 セイバーはバーサーカーとの戦いで忙しい。なら……。

 空間転移で相手の真正面に現れた47番が、期待通り後ろ回し蹴りでみぞおちを蹴りえぐった。瞬時に私も跳び、左手のナイフを首に当て、右手の銃をこめかみに当てた。

 

「降伏しろっ!」

 

 反撃はなかったけれど、キョトンとしていた。ああ、ドイツ語が通じないんだ。英語に切り替えて動くなと言ったら、映画みたいに手を頭の後ろで組んでしゃがみ込んだ。英語も通じないみたい。

 

「どうやったらバーサーカーを止められるの!?」

「落ち着いて! 気絶させるしかないですよ!」

 

 47番の助言通りだ。私は少女の意識を奪った。魔術でなく物理的に。そして針金の錬金術で縛り上げた。気絶したことで魔力供給が途絶えたのか、バーサーカーは霊体化したみたい。セイバーが駆け寄ってきた。

 

「エル、大丈夫か!」

「はい、なんとか。一点特化型なのか、あの魔術は危険でした」

 

 47番はこの間、少女の身体検査をしてくれていた。何か持っていないか探っていたのだ。

 

「え? ええ~~~~~~っ!?」

 

 47番のスクリームが耳に痛い。

 

「どうしたの?」

「こ、この子……ある!」

「へぇ。似たようなのを作ってるのかな?」

「誰しもがあなたみたいな変態じゃない!」

「なにを!」

「そうじゃなくて! この子はたぶん元から男の子ですよ!?」

 

 気付かせて、セイバーに尋問させた。こんな子供にとめっちゃ嫌そうだった。だけどキリキリ吐かせるところはセイバーだ。

 

「貴様は何者だ? まず、名を名乗れ」

「マトウ……間桐慎一……」

 

 セイバーは念話で訳してくれていた。シンイチ・マトウ……マキリの息子、長男の名だ。少女と見紛うばかりのキレイな顔、そして骨格もなにもかもが中性的な今の年齢。計算ずくだろうなぁ。

 

『どうしてトオサカの娘を護衛しているのか聞いて下さい』

 

「なぜ、遠坂の子供を護衛している?」

「僕は……。時臣師の弟子だ。それに凜ちゃんや桜ちゃんとは幼馴染みなんだ」

 

 弟子……。マキリからトオサカに? あ、でも。ゾウケンがいなければその可能性はあるのか。そして顔が知られすぎているからこその女装か……。

 4年生でしょう? あ、学校の友人に知られず、目標の少女たちにもバレなければ恥もなんでもない。目的のためならなりふり構わない。この割り切り方と早熟な考え方。これが怖かったんだ、私。

 セイバーがあることに気付いて質問した。

 

「なぜ令呪が一画しか残っていない? 誰かに譲渡したのか?」

「違う。召喚後すぐにバーサーカーの狂化を解いたんだ」

「な、なぜ?」

「真っ先にバーサーカーを喚べば、他の誰もバーサーカーを喚べない。不確定要因を排除したかった」

『その真意は!?』

「その理由はなんだ?」

「聖杯は汚染されている。この儀式を止めないと冬木が危ない。場合によっちゃ世界が危ない。だから話し合って……終わらせたいんだ!」

 

 この子、私たちと同じ考えを……?

 

「それはトオサカも同じ考えか?」

「同じだ。だけど……アインツベルンが乗ってくれるかどうか不明だった。だから、ロード・エルメロイとの話し合いがしたかった。言葉は悪いけど……あの人の権威があれば、アインツベルンも折れるかなと。でも、会談は断られた。もう降りたとか理事がどうとか……意味がわからなかった。それに、それに! 冬木にはどこが雇ったのか、『魔術師殺し』が潜伏している! もし、凜ちゃんや桜ちゃんに何かあれば……。だから僕は……」

 

 私は47番と一緒に地面に落書きしていた。聞いちゃいられない……。セイバーもアチャ~という顔で手をおでこに当てて天を仰いでいる。ダメだこりゃ。

 

 

 結局私はシンイチの心も読ませてもらい、拘束を解き手を貸して救け起こした。そして自分の名と身分を話した。

 思いっきり唖然とされたけれど、ともかくこれで、セイバー・ランサー・バーサーカー・アサシンの四陣営は組めた。ライダー陣営も声を掛ければ乗るだろう。残るはキャスターとアーチャーだ。

 

『シンイチはアーチャーを知らない?』

「アーチャーを知らないか?」

「あのお方は話が纏まる頃に出向くと言って、どこかへ行っちゃった」

「は? では召喚者は誰だ?」

「時臣師。アサシンの令呪は言峰さんが持っていたんだけれど、危険だし教会の仕事があるだろうってことで、時臣師が譲り受けて召喚したんだ。だけど二騎は厳しいみたいで諜報活動にしか運用できていない。それでも彼らはプロだよ。こちらの知りうる以上のことを彼らは調べていたからね。でも……見事だよね。アインツベルン陣営がどこにいるのか一切不明なんだから」

 

 彼は冬木中に蟲を放って私たちを探していたらしい。アサシンも同じだったそうだけど、森がもぬけの殻で途方にくれていたらしい。まさか冬木から出て温泉に浸かっているとは思わないよねぇ~。

 それに同じ郊外なら森を先に探索するのは当然だ。ママたちの作戦は、こんな風に後からその効果を思い知らされるのが毎回だ。

 

「となると残るはキャスターだな。アーチャーが最後と言うなら」

 

 そして私はシンイチに携帯電話の番号を教えた。彼の電話番号も頂いた。そして必ずこの儀式を誰の犠牲も出さずに終わらせようと誓い合って握手した。

 

 父のこと? 当然秘密です。




綺麗な綺礼でなく、臓硯が死んだことで慎一が弟子となっており、弟子枠がなかったのです。
ただ父親の璃正神父との友誼はあったので、令呪を引き取りました。

凜の冒険も城での問答もあります。
この大王は後々シャトルのパイロットになる人ですから。

追記。蹴りを入れた47番の矛盾は次回に種明かしします。
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