私はムシャクシャしていた。
一つ。緊急だったとは言え、楽しんでいた47番を呼び出してしまった。そのことで彼女にこっ酷く叱られたのだ。
もちろん謝ったし、代わりに31番の思考と瞬時に入れ替えてある。それでも怒るので再び31番と入れ替えた。
二つ。シンイチ・マトウがああいう人物とは夢にも思わなかった点。そして彼の言葉により、父の二つ名が悪い方へ独り歩きしていることがわかった。
本来それを避けての別行動だったのが、裏目に出ている。ママたちと違いあの父は裏目を引くタイプだ。今後の関係を考えなきゃ……。
三つ。そんな気分だったので、煽ってきてエアをプシュプシュ鳴らしながら幅寄せしてきたダンプの、後輪二軸の内側二輪と、こちらとは反対側の四輪に前側一輪を同爆してやった。そのことをセイバーにコンコンと説教されているのが今だ。
31番を身代わりにして意識を内面に沈めて逃げようとしたら、残っている全員から押し出された。裏切り者どもめ。
『聞いているのか!? 事故にならず済んで良かったが、万一のことがあったらどうするのだ?!』
『任意保険に入っているでしょうに。入ってなけりゃ道路を走る資格なしです。それにタイヤは1本4~5万ですから7本で交換工賃含めて35~40万。一杯3万なら、一日5往復で三日もあれば稼げますよ。これに懲りてバイクを煽るような危険走行もしなくなるでしょう』
『アホか!!』
『幅寄せして接触しかかったんですよ!?』
こんな風に30分は叱られていた。ムシャクシャする。
私の気持ちを知ってか知らずか、目の前で割り込んで客を拾おうと急停止したタクシーを華麗にかわすセイバー。今のはウマかった。
ママたちでもあの反応は厳しいと思う。ここが英霊であり、日本の道路事情に即対応できるところが聖杯の知識……? いや、セイバーだからなのだと思う。
なにかムシャクシャしていた気分が消えた。そのくらい華麗なテクニックだった。ただしフレームからかなりイヤな音が聞こえた。
最初に私が感じたのは急激な前方G。前にいるセイバーの背中にヘルメットが押し付けられて、次にお尻が浮いて飛んで行きそうになった。
フロントに荷重が行き過ぎて後輪が浮いているのだ。この状態でセイバーは右足を放り投げ、車体を右に倒し込んだ。外足の左膝がタクシーの右後ろに当たり掛かっている。
ここまではママたちでもできると思う。けれどこの次が無理だ。追い越し車線は別の車が来ている。そこで彼女はアクセルを入れるのでなく戻し、ハイサイドを誘発したのだ。
当然右に倒し込んだバイクは、急激なグリップで左に飛んで行こうとする。それを利用し車体を道路に沿った直進に向け、魔力噴射で左にそれ以上行かないよう見えないGを加えた。
この時にフレームがミシッといって、フロントサスが捻れたようになった。でも、暴れるフロントは0.5秒くらいで収まったと思う。
後で点検しないとわからないけど、フレームが歪んだ気がする。と同時にシェイクされまくった私は吐き気を覚える前に心底感心していた。
と同時に楽しかった。それで気分が晴れたのだ。だってこの頃の私は身長制限に引っ掛かって、乗れないローラーコースターばかりだったから。
それで今夜のヤドだけど、そこは冬木の西で今は東隣の街にいる。ここからだと駅前から冬木大橋を走る国道に乗らないと冬木市を横断できない。
『なにかイヤな予感がします』
『だな。私の直感もそう知らせている。だが、走らねば旅館には行けないぞ?』
『ですね。行くしかありません』
だけどなんのアクシデントもなく冬木市を出てしまった。ヤドの駐車場でバイクを止めた私たちは、しばらく首をひねって見つめ合った。
ここは県庁所在地、つまり街中にある天然温泉で、源泉かけ流しだという。沸かし直しでなく地中からこのお湯が熱いまま湧いているとか。
街中なので温泉街の風情はないそうだが、お風呂に入ってご飯を食べて眠るだけだからこれで良いのかも。ヤドそのものに不満はなかったし。
それと料理も良かった。ママたちが特別に頼んでいたらしく、白イカと呼ばれるケンサキイカとモサエビの刺し身、それとアマダイの昆布締め、ノドグロという高級魚の焼き物とアマダイのウロコ焼き、子持ちガレイのニモノ、親ガニのミソシルなんかがあった。
シメのデザートは特産物のナシだ。どれもこれも私の口に合ったのか、とてもオイシく感じた。
「お嬢様は和食の方が合うみたいだね?」
「意外な発見だわ。これはしっかり研究しないと」
「マアエモならイケるよ」
ママたちがそんなことを話していた。父に連絡を入れたのはこの後だ。やはり特別なことはなかったらしいが、こちらの報告に驚いていた。
『その間桐慎一という少年の言葉を全部鵜呑みにはできないけど、遠坂の弟子という情報は大きいね。ほとんどのことに辻褄が合う。それにこちらの入手した登校中の写真も、長髪を後ろでくくっている姿だ。そういう変装のために、普段から伸ばしている可能性は高いね。元の顔は阻害認識である程度ごまかせるだろうし。遠坂の娘が年相応なら十分だろう。どうも君みたいなタイプに思えるね』
そこだ。自分みたいだから怖かったのだ。
そして────。ランサーと29番は、私とセイバーが首をひねっている頃に戻って来た。が、47番が83番を探しに残ったという。
お風呂で念話を送れば大丈夫との返事だった。だけど心配なので、切り上げてタクシーで帰って来いと伝えていた。ランサーはロードから私を護れと言われているので、優先順位的に29番を連れて戻る他はなかったようだ。
そして食事の間、もう一度念話を送ったけれど今度は返事が来ない。やっと届いた返事は、それらしい男を見付けたので二人で後を追うという内容だった。
父と舞弥さんはもとよりママたちにも内緒なので、セイバーとともに外湯へ入りに行くと残して、私たちは冬木に向かった。
場所は新都の駅前から少し離れた裏通り。そこの雑居ビルだった。ビルの前で47番が待っていた。
「どうしたの?」
「若い男が塾帰りの子供二人を連れ込んだの! それをどうしてか、あなた達が来る前に遠坂の娘が追い掛けてきて。急いで! さっき入っちゃったのよ。場所は地下の潰れたお店!」
「わかった! 83番は?」
「念話で伝える。私もあっちの応援に行くから!」
そう言って47番は駅前の方に走って行った。
灯りのない階段を静かに下りると、誰かのイタズラかお店の扉が蝶番から壊されていた。暗い中をそ~っと覗くと、奥で蝋燭の明かりが揺らめいていた。男の陰が天井に写っている。
暗すぎて座標が掴めない。壁に手を当て構造解析した。それでなんとかわかったけれど、そこに女の子のくぐもった呻き声が響いた。
私はセイバーとともに男の真ん前に転移した。状況を即座に判断し、セイバーが男を殴った。チカラは弱めたみたいだけれど、3回転くらいして積み上げられた埃っぽいテーブルをなぎ倒していた。
「セイバー! 逃げられないよう、その男の足の腱を切れ!」
セイバーは迷いなく私のオーダーを遂行した。だってお腹からナイフを生やして呻いていたのは、あのトオサカの娘だったからだ。
私は血みどろのナイフを抜いて、瞬時に止血と回復・修復の魔術を使った。
そこへそっちは制圧できたかと念話が届いた。大丈夫だと返事を返したら、ほどなく47番と83番が小さな女の子を抱えて来た。
「その子、この子の妹じゃない。どうしたの?」
「家から追い掛けて来たみたい」
「幼稚園くらいの子が?」
「バスや電車に乗り馴れているんだと思う」
「いつ気付いたの?」
「あなたが使い魔をこの子達の家に忍ばせたでしょう? それで姉の方が抜け出した後、この子が追い掛けて。一本違いの電車だったみたいだけど、場所はわかっていたみたい」
ようはこうだ。このお姉ちゃんは万一のための携帯電話を母親から渡されていた。そこにこの子の友人から緊急電話が入ったのだ。
同じ塾の友達が誘拐されたから救けて欲しいと。それを聞いた姉は母親がお風呂に入っている間に家を飛び出した。そこを姉好きな妹が追い掛けてきたらしい。
83番が眠らせたらしいが、思念や記憶を読んでいてくれた。そしてアサシンに囲まれたから、空間転移で逃げていたという。
しまった。83番はシンイチのことやアサシンのことを知らない。けれどこれは仕方ないか。今夜は遅いし、姉ともども明日帰してあげるしかないだろう。
私は男を縛って意識を戻した。
「Dinanzi a me non fuor cose create se non etterne, e io etterno duro. Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate. 汝、これよりその罪を未来永劫贖うべし。その死後を世界に捧げよ」
廃墟のお店が輝き、世界のなにかが男の前に現れた。
「……わかりました。誓います……」
光は男を祝福し、輝きでもって男を包み消えていった。残された男は父に電話を入れ警察に渡してもらおうと考えていた。だけどそこにもっと高位の、霊圧が高い男性が現れた。
「なにをやっている、お前達は!? なっ!? リンにイリヤだと!? それにイリヤがどうしてこんな、二人も三人も……って、その子はサクラかッ!?」
少し赤みがかった白髪の男は、そんなことを言って私たちをまじまじと見た。そして奥にいたセイバーに気付いた────。
「セ、セイバーッ……。そ、その姿は……?」
「アーチャーだと!?」
「え~~~~~~っ! こいつがギルガメシュ!?」
セイバーは私たちを背後にして男性の前に立った。もちろん剣を抜いている。
「貴様、守護者か? ならば、この世界を護るためにも貴様を斬るッ!」
「ま、待て! オレは守護者でも敵でもない! キャスターの……」
「キャスターだと!?」
「セイバーッ! 落ち着いて。この男性は話があるみたいですよ。そしてこちらの事情を知りたがっています」
男性は私の意を汲んで、両手を上げた。セイバーは男性の喉元に剣を突き付け質問した。
トオサカの娘に対する治療はほぼ終えたけれど、どこかで休ませてあげたい。なので私は父たちをビルの前まで呼び出し、47番と83番にトオサカの娘たちを運ばせた。
再び意識を奪った男は、舞弥さんに頼んだ。これは私の直感だった。
「貴様は何者だ? アーチャーではないのか?」
「遠坂凛のサーヴァントを指して言ってるのなら違う。オレはリンとともに正義の味方を貫き通した衛宮士郎だ」
セイバーの目がこれ以上ないくらい大きく見開かれた。やっぱり……この男性と父を、今の段階で会わせてはならない。すべての事情が明らかになった後でないと。
「貴様が……貴方が……シロウだと言うのか……。フ、フフ……ハハッ、ハハハハハハハハ……!」
セイバーはひとしきり笑った。それはとても悲しい響きのある笑いだった。
「……そうか。飲み込めたぞ。あの少年にはそれだけの可能性があったのだな? しかし、願いの遠さに諦める者も、道半ばで挫折する者も居たのだろう。挫折して守護者に堕ちた者がアーチャーか?」
「逆だ。守護の契約を世界と結んだから、袋小路に入って絶望したんだ」
「ほぅ。となると貴公は真っ当に?」
「ああ。死後、世界の方からスカウトが来た。オレもリンも正英霊だよ。ちなみにリンがキャスターで、オレはその宝具となっている。リンはゼルリッチ翁に続く第二魔法の使い手だ。だからこうして並行世界を巡って聖杯戦争を止めたりしている。セイバー、お前はそうして反転しても、まだ聖杯を求めるのか?」
「いや。私は最初から聖杯なぞ求めていない」
「え?」
「貴公が様々居たように、私もそうなのだろう。私がこうして召喚に応じるのは、正しい答えを求めてだ」
「正しい答え……?」
「そうだ。私は私の不徳から王国を潰してしまった。そこは仕方ない。やり直しなんてできるものではないからな。だが、存続できる方法はなかったか? 正しい方法はなかったか? それを知りたいと思ったのだ。それを知らんことにはおちおち寝ておれんだろう?」
「ああ……失礼した。そういうセイバーだったのか……。だけど……」
「うむ……。この姿は罪の証だ。貴公がシロウであるならマキリに行ったサクラは知っているか?」
「ああ……」
「そのサクラ……アンリ・マユに支配されかかった彼女に私は飲まれた。……そして、かつてのマスターであった少年を斬り、サクラとライダーをもろとも斬った。それが私の罪だ」
「なっ!?」
「暴走するアンリ・マユの陰は街の人々を襲っていた。何百人もの人々が食われたのだ。それは第四次の被害と変わらなかった。それを知っても自害もできぬ新たなマスター。それを止める術(すべ)を持たぬ……殺す決断ができぬかつてのマスター。少年を失い呆然とするその時しかチャンスはなかった」
「そ、そうか……苦渋の決断だったんだな……」
「同情は要らん。罪は罪だ。だが、アンリ・マユが過去の亡霊なら、我々サーヴァントも過去の亡霊だ。現代を生きる人々の生命を奪うことは許さん」
私はこの時、やっとセイバーが未来の……第五次聖杯戦争を秘密にしていた意味がわかった。彼女はやっぱりアーサー王だった。
「だが、ここには希望がある。さきほどのリンとサクラを見たか? あの二人は仲睦まじくバスで学び舎に通っていた。そしてここでのマキリの少年は、あの二人を陰から護っていた」
「シンジが?」
「いや。名はシンイチと言ったぞ? 少女と見紛うばかりの美しい少年だ」
「どういうことだろう……?」
「マキリには息子が二人いるそうだ。他の世界がどうなのかは知らんが」
「ここは兄貴が居るってことか!?」
「納得したか?」
「では、この子たちは?」
そこで私は47番と83番を自分に戻した。
「私の魔術です。私はイリヤとは双子の妹。エルヴァ・フォン・アインツベルンです。聖杯の汚染を知り、この無意味な儀式を終えさせるべく父やセイバーと冬木に来ました。現在の目的は他陣営の説得で、最終目的は大聖杯の永久停止です」
「そうか、良かった……。止めに来てくれたんだ、ありがとう、ありがとう……」
男性は私の手を握りブンブン振った。
「痛い、痛い! 肩が抜ける!」
「ああ! ゴメン!」
これが私とシロウさんの出会いだった。シロウさんはキャスターに必ず伝えると残して帰った。
「残るはギルガメシュですね」
「そうだな。が、道は見えたと言えるだろう。城に全員集められるか?」
「そうですね。その方が早いですね」
私は冬木兵庫県説をとっていますが、九州説の場合はどこを想定しているのでしょう?
肥後蘇山という弓もあるし、竹弓の里、熊本かなと思っても海は西で北ではありません。
それに街の中央を貫く川は二本ですしね。
それとFateは原作のお二人が石ノ森先生に影響を受けたとの話があります。
改造され人とかけ離れても人を信じ、人々を守ろうとするサイボーグ戦士や仮面ライダー。
生み出した者の勝手さや人としての脆さに、生み出された者が振り回されたり共感したりする、キカイダーやロボット刑事。
組織を破壊すべく内部に入り、逆に取り込まれ首領なっていた変身忍者嵐の父。
こういうのに衛宮切嗣やアーチャーの原点が垣間見えます。
ストーリーの救われ無さは、HF以上です。特に変身忍者嵐なんて最悪です。
ついに倒した敵の首領は敵に殺されたはずの自分の父で、その首領を護っていたオオカミ少年達は自分の弟たちだった。最悪です。
ですが、その少年向けとは言い難いストーリーと、繊細な絵柄で、後世の少女漫画家に絶大な影響を残したのが石ノ森先生でした。