※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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47、VS.アーチャー

 1月30日、金曜日。深夜の校庭で私は遠坂先輩と対峙した。間桐慎の配列で。しかし、遊びにかまけ過ぎた。慎の服が無いのだ。泣く泣く私は制服で向かった。この格好で学園に来たのは入学式以来? 

 

「間桐さん。挑戦状は良いけれど、サーヴァントは?」

「既に来ています」

「下足室のロッカーに、可愛いレターセットが入っているからドキッとしたわよ?」

 

 ミツバチに運ばせたのだけど、アイツ、どんな封筒に入れたのだ? 

 

「少しは喜んで頂こうかなと」

「十分、効果はあったわよ。男の子からなら何度かあったけれど、女の子からは珍しいからね」

 

 やっぱり、モテモテだ。けれど、今どきでも手紙なんて書く男の子って居るんだなぁ。メアドを交換してメールで告白ならわかるけれど。

 ああ、相手がこの人だからだ。この人だから手紙に意味が出る。本当なら会って直接告白する方が効果は高いだろう。咄嗟の事に慌てると、うんと返事をしてくれそうな人だから。

 けれど、この人の魅力は容姿や頭脳の明晰さだけではない。本当の魅力は他人の誠意に真摯に応対するところなのだ。他人の気持ちを無碍に出来ない優しさ。それは魔術師としては致命的な弱さだと判断する人が多いと思う。だけどそれがこの人の強さに繋がっているのだと私は知っている。

 一言で言ってしまえば、要は何事にも手を抜けない性格なのだ。他人との接触を避ける人なのに、真剣な相手には真剣に応えてしまう。なので、フラれた男性からの悪口が一切無い。告白して玉砕してスッキリしたという人ばかりだった。

 そんな素敵な先輩に私は今から挑む。今夜の先輩は隙きがない。

 

「アーチャー!」

「承知した!」

 

 赤き英霊が、曲剣を持って迫って来た。グルカのククリナイフ? 

 東洋人っぽい顔付きだけど、この聖杯戦争で東洋の英霊は喚べない。近くて中近東までだ。となるとアラブの戦士だろうか。衣類の意匠がところどころ東洋風だけど、シルクロードからアラブに出た英雄だろう。あの辺りの戦士は騎馬も弓もナイフも得意だ。

 

「ランサー!」

 

 私に迫る曲剣の最初の一手をガチンと弾く赤い槍。

 

「何でランサー!? 本当にランサーなの? 敗退したんじゃ?」

 

 呆けてる先輩は校庭の通用門を背にしていた。既に私の蟲が各所に着いている。陽動の第一波を躱す先輩。本命の第二波と第三波が挟撃する。

 

「Funf,Drei,Der Riese und brennt das ein Ende──!」

 

 凄い。宝石一発で全滅だ。宝石に比べると、こちらの元手は知れている。けれどあそこまで育てようと思えば、それなりに手間が掛かるのに。それに私にとっての使い魔は、醜いけれどペットなのだ。今ではブサ可愛いとまで思っている。

 だから地中の地蟲に襲わせた。殺しはしない。少し足を齧って貰う程度だ。

 

「Stark!」

 

 強化の魔術程度で一々叫ぶ? 

 あ、齧りに行った蟲が弾かれてる。握り込んだ宝石で、ここまで強化できるのか。さすがだなぁ、遠坂先輩は。

 そして無闇にこちらへ近寄ろうとせず、注意深くガンドの構えを取っている。その姿がまるで彫像のようだ。私にガンドは無意味だけれど、あの気迫の籠もった姿には心底憧れる。

 だから、私も負けずに見詰め返した。スレンダーな容姿に白く端正な細面。夜だと、あの宝石のような青い瞳がはっきり見えない。それでも真っ直ぐに私を見ている事はわかる。

 強くて格好良くて美しい──それを一言で表すならば──そう、凛々しいだ。本当に名前通りの人だ。対する私の名は慎。慎ましい──遠坂先輩が陽向の人なら、私は日陰者だ。

 手は幾らでもあるけれど、これ以上は生死に関わる。だから、私はランサーを下げた。

 

「どうしたの。降伏?」

「いいえ、評価を下さい」

「え?」

「私は使えますか?」

 

 赤い英霊が先輩の背後で睨んでいる。

 

「開始前の手紙は受け取っています。その返事ですよ」

「今頃? 挑戦状まで出しておいて」

「そうでもしないと先輩に会う勇気が出ませんでした。先輩はイリヤスフィール先輩と組んでいるでしょう?」

「それで?」

「そこに私も入れて下さい」

「どうして今頃?」

「私は御三家の一角である、間桐の当主です。聖杯の汚染を知っていても、こうして大聖杯は令呪を配り生贄を求めて来ます。あのブッ壊れた聖杯は、いつまでもいつまでも間桐を呪います。それは遠坂も同じですよね?」

「そうよ。だから手紙を出したの。終わらせられないかどうか、あなたと協議したいって」

「けれど、その場にアインツベルンが居ないと。勝手に壊せば、イリヤスフィール先輩が狙われます。あの心優しい姉弟を巻き込んではいけません」

「あなた……?」

「もっと話す必要があると思います。お互いが知らない情報もあると思います。それでも、私も今回で終わらせたいと望んでいる事、そして遠坂先輩やイリヤスフィール先輩、衛宮先輩に無事乗り切って欲しいと願っている事、これだけは信じて下さい」

「間桐さん……」

「遠坂先輩。私、先輩が好きです。強くて凛々しく、前を見続けるあなたが。また、お話して下さい」

 

 そうして私は群体を解いてその場から離脱した。あ、制服脱ぎ捨てだ……。後でミツバチに取りに行かそう。

 

 

「な、な、何なのよ、あの子!?」

「君な、顔が真っ赤だぞ?」

「だ~っ! わかってる! けど……」

「事情はわからんが、今回の事は実力を見て欲しかっただけなのだろうと推測できるな?」

「ええ……。そのようね」

「と同時に、これをチャンスとして、君に告白していったと」

「ち、ち、ち、違う! あ、あ、憧れてくれているだけでしょう?!」

「どうかな。結構本気のような気もしたが」

「な!? な、な、何をニヤニヤしてんのよ、アンタは!」

 

 良いコンビだ。前衛にも回れるアーチャーって良いなぁ。けど先輩、壁に耳あり障子に目ありですよ。「愛しています」まで言っときゃ良かったかな? 

 とは言え、早くこの場を離れないと。正直、ランサーの闘争本能を抑えるのがキツい。それは裏返せば、それだけの相手だったという事だ。

 ステータスのパラメータは低いのに、結局ランサーの攻撃を凌ぎきった。弾かれた剣の数は全部で27本。

 黒い剣だけでなく白い剣もあった。頭の隅のデータベースはあの剣が『干将莫耶』だと叫んでいるが、中華剣(中国剣)は薙刀の形状やククリナイフの形状が流れるまでは直刃の直刀だったはず。映画などに出る曲がった剣は中華刀(中国刀/柳葉刀)と言い、まさにその流れを継承したものだ。

 しかし『干将莫耶』は春秋戦国時代の逸話だ。時代が全然違う。どういう事だ? 何よりあれは投影魔術か? だけど投影であの強度はあり得ない。実に面白いサーヴァントだ。

 

 

 家主の凛がツンツンしながら帰って来た。

 

「どうせ見てたんでしょう?」

「凛、あなたを愛している」

 

 真面目な顔でエルヴァが言った。私と同じ顔の家主はとたん赤くなり、同じくセイバーも赤くなり、赤いサーヴァントは口をぽかんと開けていた。

 

「ダメよ、凛。エルヴァは私のものだから」

 

 そう言って、英霊である姉の方はエルヴァを引き寄せ、抱きしめ、キスをした。

 

「な、な、何をやってんのよ!? あんたらは!?」

「挨拶ですよ。それで確かに見ていましたが、どうされます?」

「話し合う余地はある。けれど、聖堂教会や魔術協会の者を襲っているのはあの子だと確信できた。あの子は大聖杯に何かしているの?」

「何もしていないと思いますよ。やっているのは、前回の小聖杯の欠片を臓器に埋めて、間桐の聖杯として流用しているのだと。つまりランサーの魂はアインツベルンの小聖杯に行かず、彼女が持っているのでしょう」

「な!? そんな事をして身体が持つの?」

「自分の臓器とは限りませんよ?」

「でも、アンリ・マユの呪いが!」

「そこも制御する方法を編み出してあるようですね」

「お姉様、となるとあちらは三騎持ちですか?」

「ランサーは黒化によって弱体化していますがそうなりますね」

 

 って事は、斃されたサーヴァントは全部間桐のものになるって事だ。なんて裏技を使うのだ……。

 ここまでするのが聖杯戦争なのかというルヴィアの言葉を思い出した。ルヴィアの顔も青い。

 

「凛。次に会う時は彼女の『真の願い』を聞き出してみて下さい」

「『真の願い』?」

「ええ。間桐慎の『真の願い』です。そしてイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと衛宮士郎の、凛さん自身の、未だ名も知らぬアインツベルンのマスター達の、更にはそれぞれが従えるサーヴァントの『真の願い』を」

 

 それを知れと言うのかエルヴァは。そんなのを調べて理解しろと言うのか。

 家主の少女はエルヴァを睨みつつ嘆息した。そして寝ると一言残して寝室に向かった。私とルヴィアは呆然とするしか無かった。

 

「ですが、リン。世界を越えて介入するとはそういう事なのではありませんこと?」

 

 こういう時にこの友人は再起動が早い。

 

「『真の願い』とは聖杯に託すような願いでなく、参加した動機となり得る『願い』の事だと思われますわ。きっとそこを知る事が重要なのだと思われますわね」

「そうね、その通りだわ。ではどうやって知るのか。その手段よね?」

「ええ、その通りです。リン、以前エルさんに聞きました。マスターとサーヴァントは、その繋がったパスで、双方が相手の記憶を夢として視る場合があると。エルヴァさんやエルマなら、そのパスに介入できるのでは?」

「あの多眼蟲でなく?」

「いい線を突いていますが不正解です。答えはカレイドですよ。足りなければ他所から持って来る。ここは遠坂ですよ?」

「ああっ! そうか、ここにもルビーが……」

「ですが、それがどうしてルビーにできますの?」

「この世界の事はわからなくとも、並行世界の事はルビーなら読み取れます。そこから推測するのです。そしてそれが宝石剣のもう一つの使い方でもあるのですよ。これに気付けるかどうかですね」

 

 わかった。エルヴァからは言えないけれど、私やルヴィアが助言する分にはOKなんだった。

 ただ、話していいラインとダメなラインはあると思う。そこの見極めだ。どうする? そんなのを聞いて教えてくれるか? 地下の工房に籠もりっぱなしの先生に尋ねるか? 

 いや、違う。私達を審査する先生に聞いてしまえば、師匠の面目丸潰れだ。そこを考えるのが私とルヴィアの役目であり課題だ。考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。考えろ、考えろ。考えろ、考えろ。そうだ! 

 

「リン! どちらへ?!」

「工房!」

「ミストレスに尋ねるのは失点ですわよ!」

「違う! ルビーは工房の中に置いてある箱に収めてあるのよ! それを開けて私が契約する!」

「リン!」

 

 私は走った。居間から階段を駆け下り工房へ。

 

「先生!」

「どうしたの?」

「彼女と私の違い! 私は……私は、ルビーの元マスターです!」

「あらあら。箱はそこよ」

「はい! 開けシュバインオーグ! 我は我の望む場所へ、我は我の望む法を! Sesam,offne dich!」

 

 そして私は先生とルヴィアの見守る前で転身してしまった。良かったの? これで? 

 

 

 散々着せ替え人形よろしく遊ばれたけれど、等価交換でルビーはきちんと情報を私の頭に流してくれた。勿論、ルヴィアの宝石を飲んで、彼女にも情報が渡るようにした。

 色んなパターンの聖杯戦争を知り、私とルヴィアは怒り、悲しみ、悔しがり、そして僅かばかりの希望に涙した。そしてエルヴァやエルマが、今まで断片的にではあるけれど、私達にわかりやすい情報を渡してくれていた事にも気付けた。

 いきなり全部では余りにも規模が大きく、複雑怪奇に人間模様が絡むこの儀式を理解できない。そう考えての情報制限だったのだ。ここまで知ると、確かに第三者への説明が難しい。

 並行世界で過去の私と同じ、無知な自分に話す場合──結局エルヴァやエルマのような話し方にならざるを得ない。となると桜の全部を知っている師匠は、あのお風呂でどれだけつらい思いに堪えて私に話していたのかも理解できた。

 屋敷の中での異様な魔力に気付いて、凛が工房にやって来た。

 

「なんつう格好を? え? ルビーをどうして?」

 

 私はメイド服をアレンジしたような、赤いショートドレスで胸を張った。頭のカチューシャは猫耳だ。しかも黒猫。エプロンも黒。

 そしてルビーを通して視た、並行世界の主だった出来事や各マスターとサーヴァントの願いを凛に話した。

 先生は止めなかった。むしろずっと私の姿にニコニコしていた。そうだ、並行世界広しと言えど、いい年こいてルビーと契約したのは、私を含めた私側の方の遠坂凛だけなのだ。

 つまりカードを追い掛けていた側だ。ルビーはサービスのつもりなのか、そちらの並行世界も幾つか見せていてくれた。

 対する目の前の凛はサーヴァントを従え、生死の狭間で活路を拓く人なのだ。未熟でも一所懸命に事に当たり、衛宮君を導き、精一杯イリヤや桜を救けようとしている。

 言峰神父に刺される私……。アーチャーの正体を知り、衛宮君と恋仲になる私……。暴走する桜を何としても止めようと、悲壮な決意を固める私……。

 同じ遠坂凛でも生きる世界が違う。生活する世界が違う。吸う空気も匂いも違う。これも適材適所だ。ルヴィアにしてもサファイアがあれば転身していただろう。同じ宝石魔術師だけど、私とルヴィアにはこれも手段としてあるのだ。

 倫敦の大師父が選んでくれたのは、この覚悟を見たかったからかも知れない。

 

「ルビー。この件が終わるまであなたを借りる事にした。等価交換でヌードでなければ、ウェディングドレスでもナース服でも着てあげるから、皆んなを守るチカラを貸しなさい。わかった?」

『わかりました~。ルビーちゃんとしては凛さん違いも問題ナッシングです。じゃんじゃん行きましょう!』

「うわ~。こんな私が居たんだ……」

「凛。少なからずこの子は、あなたができない事をやってのけたわ。対価に腕の一本や二本と軽く言う男性が居るけど、この子は女の子のプライドを捨ててでも、あなたを手伝いたいと行動で示したの。呆れる前にあなたも行動で示しなさい」

「はい……」

 

 

 1月27日から30日日までの5日間は、セイバーに竹刀で剣筋を、キャスターからは魔術を見て貰っていた。

 

『シロウ、良く鍛えている。しかし……』

『坊や。特異な魔術は良いけれど、それ以外はホントからっきしね?』

 

 はい、才能が無いのはわかっています…………。姉貴は言った。

 

『この子の才能は受験勉強に必須な五教科でなく、言ってみれば技術家庭一点特化型なのよ。家事や炊事が得意で、解析魔術で構造の把握が早いから、家電の取り扱いや修理が上手だしね。キャスター、結界の穴の空け方とかディスペルの仕方とか、そういうのを教えてあげて。今やっている、そんな基礎魔術を真剣に教えても幼稚園レベルが、精々小学校低学年レベルに上がる程度よ。セイバーも見切りと生き残る方法だけを教えてあげて。真っ当な剣士の真似事なんて士郎には絶対に無理だから』

 

 なに気に酷い。けど、技術家庭一点特化型とはうまい言い方だ。それでキャスターもセイバーもわかってくれたのだから。

 そして1月31日の土曜日。朝から遠坂達がやって来たんだ。訪れたのは、遠坂とエルヴァさん。そして遠坂の評価をするもう一人の遠坂とエーデルフェルトさんだった。

 そしてそして、俺の知る遠坂以外は皆んなメイド服だった。なんでさ? 

 思わず玄関先で呆けてしまった。けど、姉貴は眉一つ動かさず、四人を家に上げた。

 

「イリヤ先輩。朝の早くからすみません」

「構わないわ。どうしたの?」

「漸くサーヴァントが折れてくれて、こうして会えるようになりました。そしてこの1週間で見えなかった物が見えて来ました。それをご報告方々、ご相談したく参じました」

「そう、わかったわ」

 

 実のところ姉貴は、前回エルヴァさんが訪れた日以外はきちんと登校していて、校内で遠坂と何度も話し合っていたそうだ。たぶん使い魔を通してだろうけど。

 それでも今日こうやって訪れてくれたのは事態が動き始めたのもあるけれど、遠坂が新たな情報を得た事で、この聖杯戦争をどう終わらせるのかが見えて来たので相談したかったからだと話してくれた。

 難しい話らしく、俺にはセイバーと稽古をしていろと姉貴は言った。文句を言おうとしたら、エルヴァさんが稽古を見せてくれと言って来た。少し恥ずかしいが、断る理由は無い。

 道場は別棟なので、中庭に出てからでないと行けない。ツッカケを履いて、向かう途中の中庭で言われたんだ。よっぽど俺はむくれた顔をしていたんだろう。

 

「察しなさいな。君に聞かせたくない事柄も含まれるのだと。世の中、綺麗事だけではありませんよ?」

「まぁ、そうだろうなとは思うけど。でも、いつまでも子供扱いなのはどうなんだって」

「あのですね。あなたはイリヤスフィールさんの弟であって親ではありませんよ? 同じ家族でも教えたくない事もありますよ」

「あ、親父の事でなく、姉貴のお袋さんの事とか?」

「概ねそんなところです」

 

 なるほど、姉貴のお袋さんか。これは確かに聞けない。

 そして道場で準備運動をしようとしたら、エルヴァさんがいつの間にか長袖の体操服姿になっていた。学園の女子用体操服だ。色が青という事は姉貴と同じ3年生用だ。どうやって着替えたかと聞けば魔術だという。そんな事もできるんだ? 

 セイバーの見守る中で黙々と柔軟運動と準備運動を済ます俺達。この人、かなり鍛えている。身体の柔らかさが尋常じゃないし、腕立てや腹筋運動で俺と変わらないペースで俺と同じ回数を楽々こなしていた。俺の息が荒くなる中でこの人は涼しい顔だ。

 

「竹刀を持ってセイバーと向き合うんだ。それでどう攻撃を躱すかを学んでいる」

「なるほど」

 

 例を示そうとしたら先に出るからと制され、しっかり見ていてくれと言われた。セイバーも訝しんでいたが、エルヴァさんの構えを見て納得していた。

 

「彼女から? かなりの腕ですね」

 

 そうか。エルヴァさんはあちらのセイバーから学んでいたのか。確かに構えが様になっていると思えた。

 

「それに士郎クンには、息を整える時間が必要です」

「確かに」

 

 この時の俺はハァーハァーゼーゼーと汗がダラダラだった。なんで腕立て百回、腹筋二百回で根を上げないんだ? 

 楽々付いてくるエルヴァさんにムキになった俺がバカなんだけど。おまけに気づかわれて……。

 

「では、行きます」

 

 そして床がバンッと鳴った。飛び込むために踏み込んだ音だろう。当然セイバーは後方に躱すか、竹刀で受けて……。

 あれ? セイバーはどこだ? って言うか、エルヴァさんはどこだ? 

 バシッという音で二人が見えた。鍔迫り合いで向かい合っている。そして押し合って離れた。今度はセイバーが踏み込んだ。

 見えない。見えない中で、ババババババッって剣道ではまず聞かない音が道場に響いた。

 

「イテテテ。負けました」

「何を言って。こちらも小手を2回、面を1回食らっています」

「その面は首を捻っていました。有効打にはなりません。それに私は袈裟斬りにされています」

「お互い鎧なら、あれは浅い。よくぞここまで。何年学んだのですか?」

「10年です」

「10年も……」

「その理由は後でお話します。今度は士郎クンとやらせて下さい」

「怪我をさせぬように頼みます」

「はい」

 

 それで息の整った俺は、竹刀を取ってエルヴァさんと向かい合った。礼を交わし蹲踞の姿勢から始まった。踏み込んだエルヴァさんが沈み込んだ。以前の俺なら消えたと思ったろう。

 それでも、え? っと視線はそれを自然に追ってしまう。そして伸び上がって逆袈裟に来た。

 それを躱そうと一歩後ろに下がれば。下がる距離を読み誤ったのか逆袈裟から、胴と小手を入れらた。おまけに何故か面まで入れられていたんだ。

 

「シロウ、彼女は空間を跳ばせるようだ。私もそれで入れられた。今の彼女の動きは私との前半の焼き直しです。それもシロウ向けにゆっくりとした」

「え~!」

 

 面も小手も痛くない。防具は着けていないが、痛くない当て方をしてくれていたのだ。そこだけで上手い人だと感心してしまう。

 なのに空間を跳ばすとか……そんな事までやっていたのか。俺には究極の一が無いとセイバーは話していた。彼女はその一を持った人なのだろうか。

 小休止の合間、エルヴァさんは俺と向き合って正座した。肌の色が違うだけで姉貴と同じ顔だ。なのでここまで近づいてもセイバーほど緊張しない。

 姉貴と同じアーモンド型の大きな眼。違いは姉貴ほどツリ眼じゃないところ。

 こんな近くで真正面に座れば、姉貴なら叱られるような錯覚を覚えるところだ。けど、エルヴァさんはとても柔和な顔をしている。

 この人の笑顔は人を安心させる効果がある。子供の頃の姉貴の無垢な笑顔が好きだったけれど、こういうのも良いなと思った。

 

「士郎クン。セイバーは騎士を束ねる長でした。剣術、槍術、騎乗に優れ、用兵にも定評があり、戦略や軍略にも長けた人です。そんな人と互角に戦える人なぞ早々にはいません」

 

 その通りだと思う気持ちと、何か他の方法がありはしないかと思う気持ちが起きる。

 

「今、目の前にある戦いに生き残れなければ意味はありませんが、料理と同じく完成形を明確にイメージし、火加減や調味料を加えるタイミングや手順を知らねば同じ料理はできません。その腕を得て、今度は素材の吟味ですよね? セイバーや私が醤油を入れたからと、慌てて醤油を入れてももう遅い。料理は千差万別です。同じ料理で勝てないなら違う料理を出せば良い。相手が一品しか作らないなら、二品三品と出せば良い。勝とうと考える前に負けない方法を考えなさいな。でなければ、いつまでたっても下手なままですよ?」

 

 この言葉は俺の考え方や物の見方を大きく変えた。実感できたのはもっと後だけれど、ストンと腑に落ちた。

 

「もう一度、お願いできますか?」

 

 そうセイバーに申し出るエルヴァさん。今度は素手だった。

 

「む? 武器は持たず?」

「はい。お願いします」

 

 そして空手のような構えを取った。この人、有段者だ。間違いない。蹴りや突きを紙一重で躱すセイバー。だけど……。耳や肘といった身体の端には当たっている? 

 動きがどんどん早くなる。きっと俺のために暗黙の了解で遅く動いていたのだと思う。その制限を解いたのは間違いなくセイバーからだ。

 エルヴァさんは、そこから不思議な拳法に変化していって……段々とコマを飛ばしたように、残像だけしか見えない。俺は意識して目を魔術で強化した。それで漸く少しだけ視えて来た。

 エルヴァさんのラッシュのような突きを右に躱すセイバー。そこで一瞬右側へ崩れたように見えるがあれは誘いだ。案の定、誘われたエルヴァさんが左の回し蹴りを入れようとした。

 その上段の回し蹴りを沈んで躱し、バネとなったセイバーが狙いすましたように逆袈裟でエルヴァさんに迫る。だけど、それは決まらなくて……セイバーが投げられた!? 

 そしてエルヴァさんは顔面に寸止めした。剣の英霊に素手で勝ったのか……? 

 

「これが私の弱点ですか?」

 

 エルヴァさんに助け起こされたセイバーが、爽やかな顔で尋ねた。

 

「そうです。それを知るためにわざと負けて下さった?」

「いえいえ。知りたかったのは事実だが、意表を突かれたのも事実です。これがあなたの話した違う料理ですか?」

「の、内の一つです。投げ技は柔道の横車です。捨身技は初見の相手だと決まりやすいものですが、あなたには魔力放出があるでしょうに?」

「だからこそですよ。あなたもそれが使えると直感が訴えるので、どうしようも無かったのです」

「そうでしたか。では、格下の私に付き合って下さったお礼に、私なりの解説を士郎クン向けに致しますね」

「お願いします」

 

 再びエルヴァさんが俺の前に座った。少々息が荒れていたけれど、話す内に整った。凄いスタミナと回復力だ。

 

「士郎クン。千年二千年と経てば格闘技も変化しますよね? 特に大きく変わるのは柄モノ、即ち武器です。剣は拳銃となり、槍はアサルトライフルになり、弓はボルトアクションのライフルとなりました。現代のミサイルは大陸を越えて他国を襲えます。対するセイバーの時代は、神秘が巷に溢れていた時代です。それでも海を超えて、相手の城を落とす宝具は無かったと思います。そしてなまじ剣や槍があって、また長けた達人が多かったので近接格闘が発達しませんでした。これがギリシア系のパンクラチオンを学んでいた英霊だと変わって来ますが、騎士だからこそ本格的な超近接格闘術、要は格闘技が決まりやすいとも言えるのですね」

「なるほど」

「ただ勘違いしないで下さいね。セイバーは私が何をするのかを見るために本気ではありませんでした」

「だろうな。けど、ああも簡単に投げられるものなのか?」

 

 ちらりとセイバーを見れば笑っていた。気分を害するかなと戸惑いのあった質問なのに。だけどそこにキモがあるのだと思えた。

 

「英霊と言えど、構造は人体のそれと同じです。胴があり手足と頭があり、体重移動の仕方も常人と同じで、何ら変わりありません。要は梃子の原理ですよ。自らが支点となり、相手の荷重ベクトルを決められるなら、投げられない人体は存在しないのです。問題は支点の強度です。通常の柔道や合気道の試合でも、体重があり体の大きな者を投げる支点となれば負荷は大きいものです」

 

 確かに。

 

「まして相手が英霊ともなれば、本気で蹴飛ばされたら骨は折れ内蔵破裂間違いなしです。ですが何度も言いますが、英霊も人体と同じ構造である点は見逃してはなりません。関節を極められれば痛いですし、動けません。何故ならある種の特別な技量を持たない限り、関節は反対には回らないからです。勿論、押さえ付ける膂力と、霊体化して逃げられない魔術がこちらには必要となりますが」

「う~ん……」

 

 俺が首を捻っていたら、エルヴァさんがイタズラっ子な顔をしていた。

 

「種明かしすれば、セイバーには優れた直感があるのを私は事前に知っており、そこを利用させて頂いたのですよ」

 

 と言うと? 

 

「肘やふくらはぎから魔力放出して、突きや蹴りを加速していたのです。それを見てセイバーは様子見から転じて、一気に決めに来たのです。そこを出会い頭的に、一回こっきりのワンチャンス狙いです。当然次はありません。また、それを許すセイバーではないでしょう」

「ふぅ~~~」

 

 大きな溜め息はセイバーから。

 

「我々というか、私の存在をよく研究している」

「姉のお陰です」

「姉とは? 彼女の事ですか?」

「いえ。彼女とは別のセイバーが私の姉なのですよ。8歳から17歳までその姉から、剣を学んで来ました。それ以外に空手や柔道に合気道を道場に通い学びました。そんな姉に勝つために何度も何度も挑みました。その方法を初見のあなたに」

「なるほど。その効果はありましたね。その、あなたの姉は第四次以降も残られたのですか?」

「はい、大切な家族です。そしてあちらの世界で第五次は起きていません」

 

 そうか。エルヴァさんの世界では聖杯戦争を失くす事に成功したんだ。だからこの人が来たのか。

 そしてエルヴァさんはもう一度俺に向き直った。

 

「イリヤスフィールさんから、セイバーとこういう練習をしろと言われたのですか?」

「ああ、そうだよ」

「それは何故だかわかりますか?」

「わかる。万一の場合でも生き残って欲しいからだ」

「なら、倒さなくても良いでしょう? 逃げ切って生き残れば勝ちですよ? 全騎揃って約1週間が経ちました。残り1週間から10日、長引いて2週間。その間を逃げ延びれば、想像を絶する暴力も自然と座に帰ります。相手にはタイムリミットがあり、常に魔力を得なければ存在できないのです。だからこそ、マスターが狙われるのですから。そこも頭に入れておきましょう」

 

 その通りだ。中学生頃の俺なら、街の人はどうなるんだと猛烈に反対したであろう考え方。だけど俺は気付いてしまっていた。中学生頃の子供じゃない。

 姉貴が居なくなる事に俺が耐えられないように、俺が居なくなれば姉貴が耐えられない。きっとこれは誰だって同じだと思う。身近な人が居なくなるなんて考えられない。だからこそ、俺はエルヴァさんに聞きたかった。

 

「エルヴァさん、言いたい事はわかる。けど、街の人の被害は食い止めたい。どうすれば?」

 

 するとエルヴァさんは、奇想天外な事を教えてくれた。

 

「戦争を壊すと良いですよ」

「壊す?」

「ええ、壊します。具体的にはこの降霊儀式を公にしてしまうのです」

「いや、ちょっと! それだと姉貴や俺が協会や教会に狙われるぞ?」

「方法ですよ。やり方です。デジカメでサーヴァントを撮影して、被害状況も撮影して、プロキシサーバを通してネットの掲示板に貼れば良いのです。魔術協会がIPアドレスを追って君を探せると思いますか? 絶対に無理だと断言しますよ。そして、でっかい鍋で怪しげなものをグツグツ煮込んでいるような輩が、現代も生き残っていてこんな薄気味悪い事をしているのだと晒し者にしてやれば良いのです」

 

 驚いたのは俺だけじゃない。セイバーもだ。

 

「それは神秘の秘匿を侵す行為だ」

「その通りです。するとどうなります?」

「どうとは?」

「魔術協会に限らず、神秘を現代も護り続けている者達が、聖杯戦争を無かったものにしますよ。遠坂も間桐もアインツベルンも滅ぼされるでしょうね。文字通り、聖杯戦争は永遠に消えます」

 

 これは……。無茶苦茶だけど、確かに被害は最小だ。俺には思い付かないし、仮に知っていても選択できない。だけどこれも一つの方法だ。戦争という枠を、儀式の枠を壊すのか。

 

「だけど、俺と姉貴は遠坂とも友達だ。あいつを陥れるような真似はしたくない」

「それが正解です。お姉さんを守りたい、友達を守りたい、街の人々を守りたい。何も間違っていませんよ。ですがそれぞれの優先順位を考えつつ、確実に手を打たねばなりません。お姉さんは士郎クンが傍に居てくれれば安心されます。遠坂さんは精神的な同盟状態であるだけでなく、相互に使い魔を交換し、緊急連絡を取れるようにすれば大丈夫です。では街の人達は?」

「それだよ。街の人達はどうなる?」

「サーヴァントが襲えないようにすれば良いと思いますよ?」

「どうやって?」

「ですからデジカメです。今度はネットに流さず、通報すれば良いのですよ。怪しげな格好をした外人が夜道で何かをしようとしていると。怖いから夜間の警戒をお願いしますと警察に駆け込めば良いのです。こうなると遠坂さんも安全です。警戒対象はコスプレした外人なのですから。しかも、本当に一般人に被害が出て、犯行が確認されれば? 警官が増員され、あちこちで検問されます」

 

 俺は唖然とした。

 

「そして警官に犠牲者が出れば? どこの国の警察も、身内の弔い合戦となれば本気で動きますよ。教会の監督役が泣き出すでしょうね。何故なら聖堂教会が抑えられる政治家や官僚、そしてマスコミにも限度があるからです。国会で取り上げられれば終わりですよ。そうなると魔術協会も聖堂教会も保身に走り、マスターを始末に掛かります」

 

 そうだ。個別だとサーヴァントのチカラは怖い。だけど大きな組織が動けば、困るのはマスターなのだ。そのマスターを動けなくする発想。

 

「それに冬木は中世のヨーロッパみたいな、街と街の間は何もない辺鄙な田舎ではありません。聖杯戦争が始まった頃の200年前とは違います。円蔵山も冬木山もどんどん宅地開発され、隣接市との行き来も便利になりました。わかりますか? 神秘の秘匿を優先するからこそ、誰も冬木の市民に手を出せないのですよ。死徒に襲われ、死都となった街──これも現代の、特に日本のような新幹線に乗れば東京駅からどこまでが東京なのだと思うような、住宅の密集した国土では起こり得ない事象なのです。また現代に於ける神秘は、目撃者の携帯カメラで撮影され、ネットに流されるリスクを常に抱えています。もし流れれば、協会や教会が動く前に政府が動きますから。何故なら先進国の官僚には一定数の神秘を知る者が必ず居るからです」

「本当に?」

「ええ。魔術師の家の後継ぎからあぶれた、次男や三男などですよ。魔術師も時の為政者とは縁が切れません。それもまた神秘の秘匿のためです。ですがサーヴァントが暴れるこんな大掛かりな儀式が、議事録の残る国会の予算委員会で言及されてしまえば誤魔化せません。マスターとサーヴァントを消し、大聖杯を破壊して埋める以外に方法が無いのです。だからこそ、社会的に締め上げてしまえばマスターは動けません」

 

 俺もセイバーも唖然とした。きっとこの人は強い。セイバーに勝つとか、そういうのじゃない。元々のベクトルが違う。あるゲームがあれば、やり込んで上手くなるタイプじゃない。プログラムを解析して穴を見付けるタイプだ。

 もしかしたらこの聖杯戦争という大降霊術の、穴というか根幹に関わる部分を、知っているか知り抜いているのだ。

 瞳を見れば姉貴より少し色褪せた、朱色に近い赤い瞳だ。だけどその面立ちは姉貴と本当に似ている。肌の色が同じなら姉貴そのものだ。本当は双子なんじゃないか? ふと、そういう風に思った。

 それはともかくこういう発想ができるのなら、この人なりの信じられない作戦や戦略が生まれるのは想像に難くないし、むしろ必然だろう。

 俺もこんな風に大きく全体を見なければ。エルヴァさんの言葉に、頭を捻りつつも俺は頷くばかりだった。いや、この捻るっていうのは疑っているわけでも、否定の気持ちでもないんだ。そのあまりな奇想天外さに、そんなのありかよって驚いたからなんだ。

 

「ある剣の型をお見せします。キミの発想に役立つかも知れませんので」

 

 驚きが漸く引きつつあった俺に、エルヴァさんがそんな事を言った。一体何を? 

 

「同乗開始(パイルダー・オン)──」

 

 なんとエルヴァさんは、俺とは異なる呪文で二本の剣を投影した。そんなひょいひょいと投影魔術ができるものなのか? おまけにランクは低いがあれは宝具だ。間違いない。人が宝具なんて投影できるのか? 

 そんな俺の疑問を余所に、その二本の剣を手にして色々な型を見せてくれた。ゆっくりと確実に。

 エルヴァさんは型を取りながら、セイバーと話していた。どんな内容なのか俺の耳には入らなかった。何故なら俺は剣に目を、心を奪われていたからだ。

 その剣は手の延長だった。左手に握った黒い剣には亀裂紋様が、右手に持った白い剣には水波紋様があった。この人にはそぐわない無骨な剣だ。けれど俺の目には──あれこそが俺が振るうべき剣だと映った。

 やがて型が終わった。

 

「エルヴァさん、その剣は?」

「干将莫耶。二本一対の夫婦剣です。これは人を斬るためのものでなく、守るべき人を護り、その人を活かす剣です。わかりますか? 活かすは自らの人生を生きるという意味と、才能を活かすという意味の両方が掛かっています」

 

 とても難しい事を話している筈なのに、何故か俺はそれが正しいのだと思った。あの剣を握れば姉貴を守れる。

 だけどそれだけじゃない。姉貴の良いところを活かすんだ。魔術を使える時間稼ぎ。それはセイバーやキャスターにも当て嵌まる。

 上手く言葉にはできないけど、俺は俺のやるべき事が見えた気がした。

 

 

「アーサー。今日もマウント深山へ?」

「ええ。昼間からどこかのマスターが接触して来ないとも限りません。また、マトウとアインツベルンに誤解させるためでもあります」

「そこは理解できますが。私がアサシンとは……」

「どんな大義名分があろうとも、我々騎士も殺戮者に他ならない。まして、エルやエルマの運用が上手いので、彼らは我々以上に役立っています。正直、悔しいですがね」

「昔も情報は重要でした。あんな、当たるか外れるかもわからぬ占いでも皆んなは信じていました。となれば、正確な情報が重要な現代ではもっとでしょうね」

「ええ」

 

 そうして私と卿とイリヤは、武家屋敷までマスター達を送った後、実体化してマウント深山まで歩いたのです。

 かつてのシロウの家と同じ家から出た振りをするのは、道場での鍛錬でここ数日屋敷から出ないセイバーと混同させるためでした。

 こうしてどこかの陣営が私をセイバーだと誤解してくれれば、霊体化できない彼女の不利を誤魔化せます。またランスロットをアサシンと誤認してくれれば、エルマが従えたアサシンの存在も隠せます。

 そしてポイントはイリヤの存在でしょう。彼女が私達と行動をともにする事で、シロウとイリヤスフィールの安全度は飛躍的に高まるのです。

 これはマスターであるエルからの受け売りですが、世にはデミ・サーヴァントや疑似サーヴァントという英霊を憑依させる法があるそうです。例えそれが不可能であっても、我々はカードのチカラで能力が得られる事を知っています。

 そして不思議な事に似たような事を考える者は、先端を行けば行くほど増えて来るものなのです。ある特定の行動パターンや思考法にハマると言いますか。これは剣技などでも言える事です。

 となれば、優れた魔術師ほど引っ掛かるものなのだそうですよ。あれはイリヤスフィールが何らかの方法で英霊のチカラを降ろしているのではないかと。例えそうでないと疑っても、疑う段階で二の足を踏みます。

 そうなれば、必然的にイリヤスフィールの安全度は高まります。毎度の事ですが、マスターの深慮遠謀には驚かされますね。

 また遠坂の敷地から半径三百メートル以内に、他者の使い魔は居ないそうです。これはエミヤの家も同じ。勿論、範囲内にエルの使い魔とアサシンは存在していますよ。

 情報はその内容も重要ですが、扱い方も重要でしょう。使い魔の駆除もアサシンの活躍によるものですが、ある特定の界隈の使い魔は敢えて見逃されています。特にマウント深山のような誰しもが集う中立地帯では。

 そこでこそ誤解を生じさせるチャンスがあるのです。火曜日から私達三人はこうやって、シロウやイリヤスフィールのメモを片手に、食材の買い出しに度々出ていたのです。

 

「アーサー! あれは何ですか?」

「む? あれは確か、子供達に人気がある……」

「以前食べた、たい焼きや回転焼きと似たような趣ですね?」

「ええ。チャレンジしましょうか」

 

 お店の人に尋ねたところ、それはベビーカステラという食べ物だそうです。以前は卵のようなカタチだったそうですが、最近はこのようなカタチの方が売れるらしい。

 まぁ、そうでしょうね。母親に連れられた子供達が『アン○ンマン買って~』とか『ド○えもん~』と叫んでいますから。7個で二百円。14個で四百円。21個で六百円、28個で八百円、35個で千円。そうか、7の倍数ですか。鉄板の型の都合でしょう。

 

「アーサー、28個に騙されてはいけません。お得なのは21個か35個ですよ。また、7個や14個は最悪です。あれでは多く支払う羽目になる」

「卿よ、だからあなたは無給のバカと言われていたのですよ」

「どういう意味ですか!?」

「アグラヴェインが、あなたに給金を支払うのが馬鹿らしいと零していたのです。休めというのに勝手に出て来るわ、城の補修を頼めば人件費を考えず人を集めて来るわ。無給とは無休にも掛かっている事をお忘れなく」

「王よ! 私は良かれと思った事を口にしたまで! どうしてそこまで言われねばならないのか! 本当に人の心がわからぬ人だ!」

「それを言いますか! それをここで言いますか!」

「ランスロット。よ~く見て」

「何ですか、イリヤ?」

「7の2倍が14、3倍が21、4倍が28、5倍が35よ。そして二百円の2倍が四百円、3倍が六百円、4倍が八百円、5倍が千円よ。どれも一緒だから、自分のお腹に合わせて好きなのを買えば良いのよ」

 

 ええ。イリヤの説明通りです。

 

「嘘です! 同じのハズが無い!」

 

 この頑固者は~! 

 

「小父さん、バカだ~」

「うわぁ~、この小父さん掛け算できないんだ~」

「幼稚園でも習うのに~」

「こ、これ、マー君ダメ。ごめんなさい」

 

 ナイスアシストです。しかし、昨今ではこんな幼い子まで……。

 

「卿よ。これが真実です」

「あ~~~~っ!」

「これっ! 服を脱ごうとするな! この近隣だと山を越えないと森はない!」

 

 結局イリヤが二千二百円支払い、私とランスロット卿に35個入りを買ってくれました。それを公園のベンチで、もそもそ食べる私達。

 

「キャメロットって毎日楽しかっただろうね?」

「イリヤの目からはそう見えますか?」

「うん。言い争っていても仲が良いんだなって。ランスロットにしても騙されまいと気を使ってでしょう?」

「ええ、そこはわかっています。しかしこうも数字に弱いとなると……」

「倫敦でもモードレッド相手にエルのセイバーが凄かったんだってね?」

「ええ。私はあれを見て学びました。遠慮なく話すべきだと」

「アーサー……。すみませんでした。不肖、このランスロット、50の手習いですが九九を覚えます。お誓い致します」

「卿よ……」

「何で手習いとか九九とかの言葉が……。ってかランスロットって50代なの?」

「ええ、享年はそうですよ。英霊となったので、見た目は息子と変わらなくなりましたが孫も居ましたからね」

「そっか。息子さんがガラハッドだっけ?」

「そうです。私の名を譲りました。私も本名はガラハッドですよ。ランスロットは湖の乙女ヴィヴィアンから贈られた名です」

「そうなんだ?」

 

 フフ……。余りにもイリヤが自然体なのでランスロット卿も気が抜けて。ここまで話す卿は珍しい。

 

「アーサー!」

 

 む? 何だ、この気配は? 

 

「イリヤ、下がって!」

「敵? あ!」

 

 公園の入り口から三人の少女が現れた。どの子も同じ顔だ。年の頃は14~15歳だろうか? 

 

「あなた方はアインツベルンの?」

「はい。Aナンバーです。私はアデーレ・フォン・アインツベルン」

「私はアガーテ・フォン・アインツベルン」

「私はアリーナ・フォン・アインツベルンですわ。そちらのお姉様は何者ですか?」

「英霊並みの魔力がある。いえ、英霊ですね」

「なのにアデーレやアリーナに感じるような繋がりを感じる」

「イリヤスフィールお姉様とも波長が似ている」

「あのお姉様は出て来ません。どうしてですか?」

「私達は嫌われているのだと」

「そんな悲しい事を言わないで、アガーテ」

 

 もはや、この段階で誰が誰だかわからない。私の目から見れば全員エルやエルの姉のイリヤやエルマだ。けれどAナンバーの意味はわかった。アインツベルンはアルファベット順に名前や序列、順番を決める傾向にある。

 この三人はAで始まる名前なので、並列化したマスターの中でも上位存在なのだろう。もしかするとあちらの計画の立案者かも知れない。当然この段で私はマスターのエルに念話を送っている。

 

「ええと? アデーレにアガーテにアリーナね? 可愛いわぁ。今、おいくつ?」

 

 ランスロットを押しのけてイリヤが前に出た。イリヤの質問ではにかむ少女達。

 

「レディーに年齢は……」

「う~ん……」

「良いじゃないの。9歳ですよ」

「あらら。そっか、バーサーカーを支える魔力量を増やすために成長促進されたのね?」

「成長促進させた、ですね」

「これは私達全員の意思です。イリヤスフィールお姉様には、こんな妹が居たのだと知ってもらえれば十分です」

「消える覚悟なんだね? でもさ、ここの大聖杯は汚染されているよ?」

「汚染は事実ですが、根源には行けます。と言いましても使うつもりはありません」

「どういう事?」

「全員で、大聖杯の術式を持ち帰ります」

「そして汚染されていない土地で、汚染されない方法や、英霊を使わずに済む方法を考えます」

「第三者を呼び込まないと開催できない時点でおかしいですよ、この儀式は」

「じゃ、あなた達は……?」

「私達には、戦う意味はありません。ですが、アーデルハイトお姉様にバーサーカーを召喚させたアハトには意味があります」

「もしかして、何かの枷があるの?」

「…………」

 

 その最初の召喚者がアーデルハイトなのだろう。そしておそらくは人質に取られている。私はマスターから聞いていた。アーデルハイトという名は古高ドイツ語から来ていて、高貴な姿という意味があり、これを名付けられるアインツベルンは特別なのだと。

 また、マスターの大本であるエルは、スイスのハイジ村の近くで育った。アーデルハイトの愛称がハイジであるとも教わっていた。だからなのか、エルは偽名でアルファベットを変えるだけでなく、アーデルハイトを名乗る場合もあったと。この関連性は不明だが、人質がこの世界でのイリヤスフィールにとってのエルではない事を祈るばかりだ。

 

「そのアーデルハイトって誰なの?」

「その前に、あなたの名をお聞かせ下さい」

「そうね。私の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。こことは異なる並行世界で森羅の守護者となった者よ」

「ああ……。あなたもイリヤスフィールお姉様でしたか」

「それがガイアの守護者に……。私達が囚われるとすればそちら側になりますからね」

「では、お答えします。アーデルハイトは私達の姉です。正確にはイリヤスフィールお姉様と同じ卵子から産まれた存在です」

「今のところは三つ子でよろしいのかしら?」

「私はお姉様から七つ子だと聞いているわ」

「アリーナ、それは分割した卵子の数よ。稼働中なのはイリヤスフィールお姉様に、ノイントの家に養子に出たお姉様と、アーデルハイトお姉様の三人だけなのよ」

 

 ここにもエルが居る!? マスターも驚いているのが伝わる。何か質問したいが、ここはイリヤに任せる他はない。

 

「素敵な人なの?」

「はい。お美しくて、優しくて。大切なお姉様です」

「そう、良いわね。じゃ、あなた達はその方を取り戻すために戦うの?」

「戦うより持って帰る方が重要です」

「はい。この人数で来たのもその意味の方が大きいです」

「余命とかは大丈夫なの?」

「5~6年は寿命が縮んだと思いますが、一人頭の5年が10人なら五十年。20人なら百年分の魔力と等価交換です」

 

 なるほど。延命処置は終わっているようだ。イリヤも私も少しホッとする。

 

「そのアーデルハイトさんの立案ね? そっかその人は、あなた達も護ろうと。だから何としても大聖杯を……。解体するの?」

「ある程度は必要ですね。永久にここの聖杯戦争は失われますが」

「それよ。それをここのイリヤスフィールや、遠坂に話せば。聖杯戦争は終わるわ」

 

 確かに。事はそう単純では無いだろうが、道は見えたと言えるでしょう。

 

「それで、小聖杯はどうなっているの?」

「聖杯とは別の礼装を持って来ています。斃れたサーヴァントはそこで魔力を奪われ、バーサーカーや私達に回り、魂だけが座に帰ります。大聖杯は起動しません」

「益々良い! アーデルハイトは天才ね?」

「当然です。私達のお姉様ですから」

「そう、そうよね? それであなた達は別の卵子からなのね?」

「はい。ご存知だと思いますが、母であるアイリスフィールから取り出された108個あった卵子の54番目と81番目と最後の卵子を分割して生み出されました」

「全部3の倍数……ってか27の倍数ね? やっぱり3ていう数字に意味があるの?」

「私達を構成する魔術回路のせいかも知れませんが、そこに縛られる傾向にあります。最初のお姉様方が3番目ですし、ドイツに残られた9番目のお姉様方も優秀ですよ。18番目と36番目と45番目は凍結されたままですが」

「魔力の帯び方に何か法則性があるのかしら? 18も36も45も、3の倍数でない別の数字で割れるしね。けど、イリヤスフィールや遠坂との話し合いは考えておいて」

「わかりました」

「ですが、マキリが黙っているかどうかですね」

「今度、会う時はイリヤスフィールお姉様と会わせて下さい」

「わかったわ。そうやって友好的なら、必ず会わせてあげるから。それと、ちょっと待ってて」

 

 そう言ってイリヤは駆け出した。

 

「お姉様?」

「少し待ってあげて下さい。きっと、お土産を用意しに走ったのですよ」

「おみやげ?」

「なんですか?」

「甘い食べ物ですよ」

 

 程なくイリヤが戻って来ました。35個入りを3袋も抱えて。それを一人ずつに持たせてあげるところがイリヤです。

 

「35個入りだから、持って帰っても一人1個か2個はあると思うよ。何人居るのか知らないけれど、百人も居ないでしょう?」

「うわぁ~」

「ありがとうございます。私達は全員で81人です」

「甘い匂い。美味しそう」

 

 そうして公園から三人の少女は笑顔で去って行ったのでした。私達は買い物を済ませると食材をエミヤに届け、トオサカに戻りマスターが戻るまで待機しました。

 

「81人も妹が……。絶対に名前を覚えられないわ」

「そもそも見分けが付きません」

「そこはわかるんだけどね」

「そうでしたね。あなたはわかっていたようだ。それは?」

「自然の触覚だからよ。あなた達が感じる方法以外でも人を見ているの。エルヴァから聞いてない? 魂の色を視るとか」

「ああ……。聞いていました」

「だけど、ベビーカステラがあんなにウケるとは。まだまだ子供だね?」

「だそうですよ、ランスロット」

「そういう王も全部食べきっていたでしょう?」

「ええ……。我が身が浅ましいです」

「あの少女達の笑顔……。あの食べ物はあの子達にこそ相応しい。ああ……グィネヴィアの事もそうだ! 私は何一つ直っていない!」

「ランスロットって『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』の余波でさ、手に取ったものが無意識で美人に見えたり、美味しそうに見えたりするんじゃないの? 『無窮の武練』の後押しがあるのか、料理センスがあるってエルヴァが言ってたし」

「はっ!? そ、それは確かに……」

「カーボネックのエレインさんはダメだったの?」

「可愛い女性でしたよ。ですが私はその頃からグィネヴィアを……」

「それ、エルヴァが掌握の魔術じゃないかって」

「ランスロット、それだ。貴公はモルガン・ル・フェイに。エレインを呪っていたのもモルガンだ」

「ああ……。しかし、王の前で失礼ですが、あの恋は本物だと」

「ええ、切っ掛けが掌握だったと。こうなるとアストラットのエレインも呪われていたのやも知れぬな?」

「そうですね。そうか! これはあなたに聖杯を掴ませず、王国を滅ぼすための深謀遠慮だった?」

「ええ、私もそう思います。ですが卿よ。終わった事だ。全ては終わった事です。私はモードレッドと酒が呑めて楽しかった」

「ええ、あちらのアーチャー殿から聞きました。私も参加したかったですね」

「なら、二人とも。反省の後は楽しまなきゃ」

「イリヤ。その通りですね」

「ええ」

 

 騎士は真面目過ぎて困るわねと思うイリヤの血の半分は衛宮切嗣だった。あの父にセイバーは合わなかっただろう。と同時にシロウやエルヴァには合うと思えた。自分にしてみても、セイバーやランスロットと居れば安心できるし楽しいと思える。ましてエルヴァとは言わずもがなだ。出会った瞬間から妹としか思えなかった。相性は重要だなと本当に思う。

 それだけに公園で出会ったバーサーカーのマスター達に共感できた。あの子達も妹だ。何としてでも聖杯戦争を終わらせて、ドイツへ無事に帰してあげたい。きっとこの気持ちはエルヴァもわかってくれるはずだ。

 

 騎士達もバカではない。あらぬ事を話しながらも、イリヤが少女達への共感度を急激に高めていた事に気付いていた。

 そしてあのバーサーカーの状態は、押し付けられた足枷ではないかと考えた。大聖杯の術式を持ち帰る事が第一義なのに、冬木の街を犠牲にしてでも第三魔法への道をアハトなる者が捨て切れぬが故の苦肉の策が、アーデルハイトの人質なのかと行き着いた。

 アルさんと親しまれるヘラクレスの心と願いを知った。きっとあのバーサーカーも同じだ。聖杯戦争の真の目的と我々の立場も理解した。だからこそエルヴァの声があればドイツにも行こう。その妄執をこそ剣の錆にしてやろう。そう決意したのだった。

 

 

 イリヤスフィールと凛達の会談が終わった。遠坂までの帰路で、当然私は凛の後ろで霊体化している。バス停でエルヴァが別れ、一人新都に向かった。

 

「彼女、どうして新都に一人で?」

「中古のバイクを手に入れていて、それの納車整備? それが終わったそうだから、引き取りに行ったのよ」

「バイク? バイクなんてどうするの?」

「ミス・トオサカ? アインツベルンの森は、歩くには苦労するほど広いのですわ」

「ああ、あの城があるっていう森? まさか一人で乗り込むつもり?」

「そりゃ当然、英霊三体を霊体化させて行くでしょうよ」

「そりゃ、そうよね。何か情報を得たのかしら?」

「たぶん。情報の僅かな断片から最適解を弾き出して、思い付いたら即行動よ。生半可じゃ着いて行けないわよ?」

 

 

 時計塔での大立ち回りを聞いて驚かされた。そして彼女の大本が持つという宝具にも。

 あのゲート・オブ・バビロンを六つも七つも持っていて、それで円卓の騎士を、上下前後左右を囲み降伏させたという。そんなのに勝てるやつなど居るか! 

 あのギルガメッシュまでもが降伏したと、異世界の凛がいう。信じられん。そして常時百貌という百人ものアサシンを使い、情報を探り、吟味し、セイバーと別の私が彼女の傍に控えるという。ありえん。

 更には後ろにヘラクレスまでもが居るという。そしてそのヘラクレスは化け物のように強いと、あちらの凛が力説している。史上最強のアーチャーだと断言までしていた。

 

「何よりさ、エルってあのクー・フーリンとほとんど互角に戦っていたのよ? それにセイバーを空間転移させて、一撃離脱でライダーの首を落とすし。マスターとして最高でしょう。それと似たような事をエルヴァもできるからね」

 

 この自慢話に耳を傾ける理由は、道場で汗を流す衛宮士郎を見たからだ。腕はまだまだだが、竹刀を二刀流にしていた。セイバーと衛宮士郎との会話からエルヴァの入れ知恵だとわかったが、奴は柔軟な考え方をしていた。

 

『セイバーの剣は最高級の松阪牛か神戸牛のステーキだ。マスターの俺ができる事なんて、ソースをどうするか付け合せの野菜をどうするのかくらいのものだ。だけど、俺がトンカツとか作れたら、相手の腹はパンパンだ。敵に勝つってそういう事なのかなって』

 

 敵に勝つでテキとカツか? そのダジャレはともかく、セイバーの補助として何か出来ないかと考える方向性は正しい。前に出ようとする愚かな思考では無い。

 やはりあいつは違うと再度確信した。もうこれは魔法使いのリンに相談するしか無いのだろう。その前にこの戦いを無事に終決させねばならないが。

 

 

 遠坂の屋敷に戻ると、セイバー達がマウント深山に近い公園で出会った三人の少女の事を話してくれた。もはやこれはしがらみの問題であって、各々の思惑は一致していると感じた。だから森へか……。

 

「だからバイクなの? けど、いつ注文していたの?」

「そういう先を視る目が、彼女にはあるのよ」

「私も行った方が良いのかな……?」

「アーチャーに背負われるか抱えられて行くなら良いけど、歩きだから一緒に歩いてなんて言えば馬鹿にされるわよ?」

 

 そこで私はカーチェイスの事や、外部から参入しようとする勢力の事を話した。

 

「ああ、そっか。聖杯目当てだけでなく、令呪を奪ってサーヴァントを連れ帰ろうとする奴も……」

「むしろ、組織や国家だとそちらの方のメリットが大きいわ。近代兵器の通じない存在なんだもの。それを排除するのは、本来セカンド・オーナーの仕事よね? けど、何故か冬木ではそれを間桐が行っていたのだと思う。長い歴史の中でそうなったんだろうね。それでこのところの失踪事件よ」

「間桐さんか……。わかった。エルヴァの動きも読めた。三者鼎談だわ。場所はホテルの会議室でも借りようか」

 

 そして家主の凛は間桐慎なる人物へ連絡を取るべく、地下の工房へ向かった。間桐とのホットラインがあるのだという。普通に電話を掛ければ良いのに。

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