後にFate/Apocryphaを知って固有名詞を入れ替えたという感じです。
帝都のあれとも繋がるのですが、やるなら二・二六絡みでしょう。でなければ舞台を東京に移す意味がわかりません。
ニンジャヤシキを出発する頃、辺りは暗くなっていた。デンシンバシラの古びたライトが明滅している。電球換えなさいよ。
『忍者屋敷でなく武家屋敷な』
『え~~。トム・クルーズも乗っていたのに』
『誰だそれ? それに乗るってなんだ?』
『カタナよりニンジャかなって』
『意味がやっとわかった。独り連想ゲームに巻き込むな』
『じゃ、セイバーはどっちが好きなの?』
『どっちがどっちはわからんが、あれが良いな』
国道ですれ違うバイク指差すセイバー。相手の操縦者が気付いてピースしてきたので思わずピースを返した。
それは昨年出たカ◯サキの、ZX-9R(B型)だった。北米ではこの前に出たZZR-1100もニンジャだけれど、ユーロ圏の人にとってはZX-9RこそがGPZ900R・Ninjaの再来だった。
そして当然ながら、9Rのペットネームもニンジャだ。日本では後に『ユメタマ』と呼ばれるバイクの最初期型だった。
面白いことに日本人にはサイドステッカーの書体が、『ZX』が『ユメ』に『9R』が『タマ』と読めてしまうらしい。そこから9R全体を『ユメタマ』、B型なら『Bタマ』、次のC型なら『Cタマ』と呼称されるに至った。
私はこれのフランス版が結構好きだった。フランスへの輸出仕様はライトが二つで、正面から見て左は四角いのに、右は真ん丸なのだ。
このフランス版はスイスでもよく走っていて、その非対称なライトがとてもカッコよく思えた。たぶんヤ◯ハ以外で当時、一番好きだったバイクだ。
そもそも『トップガン』は、私が生まれた頃の映画だ。ニンジャはGPZでなくZXというイメージが強い。トム・クルーズにしても、『ア・フュー・グッドメン』のイケメン弁護士のイメージだ。
You can't handle the truth!────。この映画からの有名なセリフだ。こういうセリフの引用が大好物な私だった。
I'm going to make him an offer he can't refuse────。私はお祖父様の操り人形ではない。だから私に敵対するなら『決して断れない要求を突き付ける』だけだ。
You've got to ask yourself one question:'Do I feel lucky?'Well, do ya, punk?────。魔術は七発目でも八発目でも弾が用意できる。
Here's looking at you, kid────。May the Force be with you────。乾杯して幸運を祈り合う仲になっても、光るナイフはその首を掻き切る用意がある。
『それが魔術師だ』────。そう教えてくれたのも敵だった。
だから、『ザクではないのだよ、ザクでは』────。スイスでフランス版を見かけるたんびにこんなことをつぶやく私は、おバカなエルヴァと友人に言われていた。
ちなみにママたちは、それはもう『ホ◯ダであるべし』『ス◯キ以外認めない』と言い切る原理主義者だ。しかも、鋳造したお祖父様は、なにをプログラムしてインストールしたのだと呆れるくらいにバイクに詳しい。
例えばマアエモ・ママは体格的な事情から、普段は600cc以下に乗っていることが多いのだけど、オン・オフ、4スト・2スト、空冷・水冷の見境なしだった。
スイスでの愛車はCB750だったけれど、ホーネット600が出たらすぐに乗り換えていた。
だけど400ccが多い日本で暮らすようになったら、CB400スーパーフォアやCB400フォア(旧車風の97年に出たバイク)なんかを手に入れていた。
中でもスティード600のエンジンパーツを組み込んだVRXロードスターは、600ccで車検を取り直し、かなり長い間乗っていたと思う。不人気車だけれど味のあるバイクだったみたい。
対するルオン・ママはかなり変わった人で、カタナは眺めるもので乗るものではないと言うような人だった。一応、1100を持っていたと思うけれど、乗っているのは確かに見た覚えがない。
ではなにに乗っていたのかというと、SV650の前がGSF1200やGSX-R1100で、随分と油っ濃い人だったのだ。
それと並行して往年のGT-550(ラムエアシステム!)のエンジンを、ショップのフレームに積んで乗っていた。のどかなアルプスの山々にこだまする3本チャンバーの爆音と、美しい景色を曇らせる白煙。
私の2スト好きはこの人のせいだ。そんな個性的な二人なのに、作戦行動となると認めたり妥協したりできる。
ルオン・ママも一応は900RRを認め、セローは二人の妥協点だった。きっと故障は織り込み済みで、GSX-R750のSPRは日本に来る前からエージェントに発注していたのだろう。
そういうママたちが私の乳母だった。
隣の県に入り、山間部へバイクを進めると本日のヤドがある温泉郷に入った。パンフレットのヤドに行くとGSX-R750とCBR900RRが止まっていた。
その横に私たちもバイクを止めて、建物の中に入った。思ったより規模の小さなヤドだ。全部で10室くらいしかないそうだ。
その代わり、全室源泉かけ流しの露天風呂があるみたい。
今夜、ランサーはいない。明後日に備えてロードの警護に戻ってもらったのだ。正解だった。ランサーの部屋が取れなかったらしいから。
明日の予定は買い出しと、聖堂教会の件と聖杯戦争停戦の旨を言峰親子に話すことだ。もちろん先触れの連絡はママたちから入れてもらっているし、トオサカ、マトウからも入れてもらってある。
そんな風に着々と下準備は進んでいる。今日はオイシいご飯を食べて、お風呂に入って眠るだけだ。なのに案内された部屋に入ると、先にいたママたちの顔がとても深刻そうだった。
「お嬢様……。スイスに帰りましょう」
「え?」
「マアエモは、お嬢様に万一のことがあれば生きていけません……」
「ど、どうしたの?」
そこでルオン・ママがお祖父様のエージェントが用意したであろう資料を見せてくれた。それはアハトのアインツベルンが知る由もない、アルトゥル・フォン・アインツベルンに係る話だった。
私が養子になるもっともっと昔。1936年のことだ。ナチスの台頭により第二次世界大戦の足音はそこかしこに響き、世界中の人々が不安を抱いていた頃でもある。
そんな1936年2月に冬木で第三次聖杯戦争が始まった。戦いの舞台は冬木を飛び出し、あちこちでサーヴァントの戦闘が行われた。やがて遠方だと戒厳令下の帝都にまで移った。
最初から仕組まれていたのだ。御三家以外の四陣営は裏で手を組んでいた。サーヴァントを冬木外でも使役できる礼装を用意もしていた。
青年将校たちを洗脳し、二・二六事件まで引き起こした。裏で手を引いたのは、当時ナチスと組んでいたダーニック・プレストーン・ユグドミレニアだ。
目的は冬木の大聖杯強奪。だけどアハトはこの動きを掴んでいなかったらしい。そこでお祖父様の命を受けたアルトゥルお兄様が、10数人の戦闘用ホムンクルスや魔術得化型ホムンクルスを引き連れ大聖杯を守った。
これは神秘の拡散を防ぐ意味だけではない。大聖杯の術式にはアハトだけでなく、フュンフト様やゼクスト様の術式も使われていたからだ。
5代目フュンフト様は9代目ノイントであるお祖父様の祖父で、初代エアスト様の直系でもある。つまり座標の定まらぬ失敗法ではあるけれど、運良く根源に座標が定まれば『第三魔法』だけは持ち帰れる可能性があったのだ。
だからアハトは固執したし、お祖父様もアルトゥルお兄様に命じたのだ。
だけど他の二家は陽動に乗せられ、肝心のアインツベルンはアンリ・マユで早々に敗退しサーヴァントがいない。冬木はもぬけの殻だった。
孤軍奮闘するアルトゥルお兄様に助っ人が現れたのは実に10日後。当時のトオサカ当主と若きリセイ神父だった。そしてトオサカ当主に冬木へ戻れと諫言したのは、マトウ一族のマトウ中尉だった。
また、マトウ中尉はゾウケンにも連絡を入れており、これによりなんとか大聖杯は守れた。けれど中尉はユグドミレニアの手で殺され、アルトゥルお兄様もスイスに5歳の娘を残したままお亡くなりになった。
私はその非業の死を知っていた。お祖父様の哀しみを知っていた。だから10代目ツェーントをアルトゥルお兄様にお贈りし、11代目エルフトを名乗っているのだ。
結局、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアはお兄様が倒したが、その一族の誰か、その亡霊の残滓が聖堂教会の一部と手を組んでいると資料にはあった。
マアエモ・ママの不安はもっともだ。だけど、誰が誰にケンカを売ったかを教えてやるべきだ。
「マアエモ、ルオン! 第11代エルフトが宣言する! これよりは当家の戦いである!」
「お嬢様、まずはお鼻をかんで下さい」
勢い込んで立ち上がって話したら、鼻水がプッと出た。セイバーはお腹を抱えて笑っている。失礼な。
「ともかくこの資料を父やトオサカにもファックスして下さい。それでコトミネ親子の背後は洗えましたか?」
「はい、こちらに」
親は第八秘蹟会所属。ここは納得だ。だけど息子は第八秘蹟会の中の代行者?
「この代行者って本来の組織だった部門はないのですか?」
「この場合は部門というより役職と解釈されます」
「はい、本来の部門は埋葬機関です。ただそちらはS級揃いで、A級やB級が別の会派や組織に配属されるようですね」
「なるほど。それで息子は待機要員か現地特派員のような?」
「父親の後押しもあったのかも知れません」
「かなり親子の年齢が離れていますから、目に入れても痛くないという感じでしょうね」
「入るわけないし、そんなことわざはユーロにありません」
とうとう大笑いするセイバーと、ここで大浴場に向かった。ヒノキのお風呂だ。いい匂いとは思わないけど、サウナっぽいこの香りはイヤではない。
「そうか。亡くなった義兄はそのときの戦いで?」
「刺し違えではありませんけれど、そのときに負った傷が元で。リセイ神父の紹介で、3ヶ月くらい聖堂教会の息が掛かった病院に入院されていたそうです。ですが最愛の奥様を亡くされ、後を追うように……」
「娘がいたそうだな? その者は? エルの姪だろう? 年齢的にはかなり逆転しているだろうが」
「そうですね。そこもあります。お祖父様をお父様と呼べないのは。それと……秘密ですよ? アルトゥルお兄様の奥様は、元メイドのホムンクルスだったのです。そしてそんなお二人の間に生まれたのが、年上の姪になるエルヴァです」
「え?」
「人とホムンクルスのハーフ。初めての実例でした。ですから多機能不全で僅か5歳で……。私の名はその人から譲り受けたものなのです」
「そうだったのか」
「お祖父様にとても懐く可愛い子だったそうです。亡きアルトゥルお兄様の血を引いた子です。それこそ大切に大切に。ですが夢も希望もなく可愛い盛りの5歳で。そこでお祖父様は、その子の魂を保管器に納めました。いつか孫を復活させようと」
「しかし、それはできたとしてもどうなのだ?」
「はい。お祖父様もそこに思い至り、その魂を近年稀に見る最上の素体に使いました。それがマアエモ・ママだったのです。鋳型は聖杯の礎となったユスティーツア様を改良したもの。つまりアハトが改良したのが実母であり、お祖父様が改良したのがマアエモ・ママです。言ってみれば異父姉妹のようなものですね」
「ああ……。だからお前の乳母なのか?」
「いえ。今は私もお祖父様の愛情を知っていますが、アハトから受精卵を譲られたところで使いみちなんて知れています。地下の培養槽にいた頃は数多くある実験素体の一つでしかありませんでした。そんな中で私に親身に声を掛けてくれたのが、工房付きの助手だったルオン・ママだったのです。だからあの人を第二乳母に指名したんですよ」
「色々あったんだな?」
「誰しもそうですよ。生命とはそう簡単なものではありません。千や万の奇跡を積み重ねてこの世に生まれ、慈しまれ見守られ、学習を重ねて大人になるのです。ですから軽々に他者の生命を奪うのは賛同できません」
「……耳に痛いな。それも8歳の子に言われるのか」
「賛同しかねるだけで、自分の理想を押し付けたりはしませんよ。ましてあなたの時代と現代は違います」
「本当に賢いな」
お風呂での会話は浴場を出ればピタリと止んだ。食事の場にはママたちがいるからだ。
この夜、二人のママは珍しくお酒も頼んでいた。それだけ私のことが心配なのだ。だからこそ、トオサカのアサシンが欲しいと思った。
翌日の未明。
障子から感じる外の様子はまだ暗い。それでもムクリと起き、丹前の合わせを直しつつ部屋を出た。袂(たもと)には財布を入れてある。
出会ってここ1週間程度の少女を思った。召喚者(マスター)の実娘。かつて体験した第四次や第五次では知る由もなかった存在。
あの最強のバーサーカーのマスターだったイリヤスフィールの実妹。その身に宿すは聖杯ではなく宝具。どちらも別名、あるいはその性能を指して『ラインの黄金』というらしい。
母であるアイリスフィールも、姉であるイリヤスフィールにも、線の細い今にも消えそうな儚さがあったが、この少女にそれはない。
年相応の幼い無邪気さはあるが、思考は大人のそれを軽く凌駕し、智慧もあれば行動力も高い。1500年も前に生きた私などは驚かされることばかりだ。
あの日────。
私は少女との別れを覚悟した。ギルガメッシュと刺し違えても必ず倒すと決心していたのだ────。
だが、結果はそうならなかった。あの雨あられと降り注ぐ、千を超え万に届かんばかりの宝具を少女は取り込み、相手に叩きつけたのだ。
更に私を掴んで空間転移し固有結界から脱出した。信じられぬ置き土産を相手に押し付けて。その是非や私の感情を脇に置いた場合の結果はどうだ?
後でじわじわと理解できる。星の数ほどの宝具を持つ相手。固有結界などという大魔術を操る魔術師。そしてあの場には、そんな魔術師を宝具として持つ魔法使いが控えていた。
ギルガメッシュを斬ったところで、相手はまだ二人残っていた。過去に囚われ頭に血が昇っていた私は、そこを失念していたのだ。
そもそも英霊の宝具を取り込めたり、己がものとできる宝具────その存在があり得ない。だけど、そんなあり得ない宝具を少女は使いこなし、我が身も自身も救った。
あれは何かを取り込む蔵ではない。その側面もあると思うが────。
基本、我々サーヴァントもサーヴァントが持つ宝具も、歴史の深さや信仰の広さを拭い去れば、少々堅牢に編まれたエーテルでしかない。
そのエーテルが帯びる魔力そのものを奪えば? 残るは綻びるのを待つばかりのエーテルと霊魂だけだ。
つまりセイバーというクラスを得た私は、アルトリア・ペンドラゴンという霊魂が時と場所を越えて召喚され、エーテルで仮初めの肉体を得る際に、信仰や魔力を糊として強度を出しているだけなのだと思う。
そんなバカなことがと言いたいが、そういうことを研究し続いてきた家が、ノイント老の家であり、その結実した姿がエルなのではないか?
かつて神話の時代────。その原型を神々はライン川に沈めて封印したという。人の手に渡してはならぬ、神と言えど悪しき心を持つ者に渡してはならぬと。
その宝具、『ラインの黄金』が発動されたから『裁定者』と『調停者』とその『宝具』が検分に現れた。その正体がギルガメッシュと、魔法を得、英霊に至ったリン、そして彼女の宝具となったシロウだった。
それですら途轍もない、どうすればいいのだと思い悩むのが必定であろうに、少女はそれを捨て置き、敵を仇敵の残党と、残党と手を組む聖堂教会の一部と見定めた。
物事が既に聖杯戦争から離れている。この視野の広さに切り替えの速さはなんだろうか? これが現代に必要なものだと言うなら、誰しもが王になる資質がある。きっとこれこそが時の、歴史の────1500年の差なのだろう。
「ふ~~」
「おはようございます。セイバーってタバコを吸うのですか?」
しまった。見つかったか。先日キリツグと話している時に、いたたまれぬ気持ちから、ついつい1本求め初めてタバコを吸ったのだ。
今、袂に納めてあるこれは、昨夜宿で買い求めたものだ。この少女は律儀にも、小遣いと称して真新しい財布とともに私に幾ばくかの小銭を渡してくれていた。
きっと飲料や菓子などを買えという意味なのだと思う。確かに飲料を買ったりもしていたが、昨夜の私はとうとうタバコとライターを買ってしまった。
ただし館内は禁煙なので、こうして表の灰皿が備え付けられたベンチで、誰も来ぬことを確認してから吸っている。が、少女は起きてきてしまった。
「それで心のもやもやが晴れるなら」
そう言い残して少女は煙の届かぬ距離で、朝の空気を満喫していた。子供サイズの丹前と下駄で軽い体操を始めている。王になる前────岩の剣を抜く前にみてあげていた村の子供たちを思い出す。
────やがて成人し城へ登った彼らは、騎士として頭角を現す者もいたし、戦場で散る者もいた────。
この少女を散らせてはいけない。かつて散らせてしまったアイリスフィールを、散る運命だったイリヤスフィールを────世界は異なれどこの少女は救っている。
いや、このまま行けばシロウの夢にあった災害は起きないし、『エミヤシロウ』そのものが生まれない。リンもサクラも仲の良い姉妹のままだ。
あのライダーが夢見た世界は、私が望む世界でもあった。だからこそ貴女を斬らねばならなかった。罪深き私は他者を斬ることでしか物事が解決できない。
ならばこそ────。
だからこそ────私は、不滅の剣となりてこの少女を護り切らねばならない。
「エル!」
「はい?」
「風呂に入ろう。朝風呂だ、付き合え」
「はぁ?」
「部屋の露天風呂。まだだったろう?」
そうして私は少女を小脇に抱え、部屋に戻った。ジタバタ暴れていたが、ひん剥いて二人で風呂に飛び込んでやった。
だけど、並んで肩まで浸かると朝の涼しさでしんと冷えた身体がポカポカと温まる。なのに、首から上は冷気にさらされ頭が冷える。
だからだろう。少女はこんなことを言った。
「魔術ってなんだと思います?」
「火をつけたり水を流したり……。なにも道具がなかった、いや、大掛かりな機械がなかった時代にとっての重要なチカラだった」
「便利ですよね。では、なぜ秘匿する必要があるのかわかりますか?」
ここは難しい。通常なら広く知れ渡ると神秘が拡散し薄まる。そうなると大魔術は使えなくなり、やがては小さな魔術も使えなくなるからだ、と答えるのが正解だろうか。
ただ為政者の立場としては、民の生活が少しでも便利になればとの願いを抱かざるを得ない。だがこれは昔からそうなのだが、使える者がやたら少ない。なので独占しようとする悪しき者もほとんどいなかった。
「魔力とは神秘という言葉で言い換えたエネルギーの一種なんです。通常の人々には存在すら疑わしい、未知なるエネルギーです。そしてどんなエネルギーも、枯渇の問題と自然破壊の問題がセットになります」
「枯渇はわからなくもないが、自然破壊とは?」
「霊脈は川の流れと同じです。いいえ、このホシにとってのもう一つの血管に等しいと思います。それをこの冬木ではダムのように堰き止め、下流へ行き渡るはずのエネルギーを止めているわけです。そして止めたマナでもってあなた方のような発電所そのものとも言える存在を召喚している。たぶんですけれど、この術式だと60年分の投資で4千年分に等しいリターンが望めるでしょう。根源を目指さなければ、その魔力でなにが成せるか。きっと最初にこの術式の根幹を描いた人は、そこから先にある輝ける未来を夢見たのだと思います。セイバーたちを犠牲にして」
「む……」
「ですが本体は座にあって、召喚されるのは一分霊でしかないわけです。そこから人類のためだ、人々のためなのだと口説くつもりだったのでしょうか?」
そういう風に言われると、乗るやつが出てきそうだ。
「ですが、大聖杯の釜程度の容量でもアンリ・マユの僅かな汚染が致命的でした。そこらの池にトリカブトの毒を数滴垂らしてもそこまで汚染されませんよ。そこが魔力の怖いところなのですね」
確かにそうだ。
「そしてロードとのお話を覚えていますか? サーヴァントのアルトリア・ペンドラゴンを魔力に戻しても、その魔力はセイバーの形質をある期間は保ち続けると思われます。つまり悪しき……セイバーという意味ではありませんよ? その悪しきサーヴァントの魔力は、どちらにせよ汚染の可能性があるわけです」
「それは聖杯と関係なくエネルギーとして見た場合だな?」
「はい、その通りです。願いを祈らずとも、汚染の可能性は避けられないのです。それに堰き止めるということは、堆積するものもあるわけです。また逆流するものも。それって核より酷いわけですよ。この観点から、あの魔法使いを論破してやろうと思います」
私はキャスターを気の毒に思った。
誤字ありましたらお知らせ下さると幸いです。