イライラする。
先行するバイクは舞弥で、クルマの僕の隣には遠坂時臣だ。そして後部座席には間桐慎一とロード・エルメロイ。別にこれは良い。彼らに何の不満もない。
何よりこのメンツが顔を揃えられたことは、これまでの手が上手く行った証だ。
だけどエルヴァからもマアエモやルオンからも連絡がないんだ。もう何度彼女たちの携帯にコールしたかわからない。だというのに返事は一向に返って来ない。
そもそもの発端はエルヴァと休戦協定を結び、彼女を見守っていたランサーが、彼女たちの足取りが掴めなくなったことをロード・エルメロイに報告したことから始まった。
森の入口までは見届けていたそうだ。これはアサシンも同じだし、間桐慎一の使い魔も森に入った途端に消えたことを確認していた。
先に言っておくが、これらは疑心暗鬼からの行動でなく、明日の確認の意味が強かったと思う。そこは僕も理解している。もう我々が戦う意味はないからね。
なので僕もこうして正体を晒している。舞弥の存在もエルヴァとの関係も一応話した。
『悪名高き魔術師殺しが、まさか理事の父親だったとは……。この情報は私の方も秘匿するが、ミスター・エミア。君も理事の脚を引っ張る真似はしてくれるなよ』
なんて、エルメロイから釘を刺された。エミヤとエミアの発音違いはともかく、ロードがあの子に随分肩入れしていることに驚かされる。それだけの才能と実績があってのことなのだろう。
だから彼らのことは信じよう。あの子の未来のためにもロードとの関係は保って欲しい。またどうやらエルヴァは慎一君を気に入っていたらしいことを、遠坂もベルベットも口を揃えて証言していた。
ロードにしてみたらベルベットに言いたいことがあったと思うが、事態が事態なので怒りを抑えてくれている。ただしライダーとともに上空から周囲を警戒しろと命令していたけれど。
『推察するに、キャスターの罠に掛かったのだと思われる。これにアーチャーも加担している可能性も考えられる。ミスター・トオサカ。取り敢えず令呪でもってアーチャーの手綱を引き締めることが先決だろう』
そうロードが進言した時の遠坂の顔。こいつ、絶対にサーヴァントを御せていない。
二騎も支えているところはさすがだと思うけれど、どうにもこうにも、どこか抜けたところがあるのは気のせいではないだろう。
「衛宮君、大丈夫かい?」
「……ああ。すまない」
お前のアーチャーで困っているんだとは言わなかった。そんな太古の王と現代人がわかりあえるはずがない。そう考えなかったのか? そういう疑問はあるが、何故か僕の意識にアーチャーは容疑者として登らなかった。
犯人は絶対にキャスターだ。この確信だけが強くある。理由はわからない。だけどこの手のカンは外れた試しがない。
「運転、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
焦っていたつもりはなかった。内心はそれどころではなかったけれど、法定速度は守っていた。こういうときほど冷静であるべきだ。
なのに道路の中央で黄色い帯があるにも関わらず、後ろの二代目セルシオがクラクションを鳴らして煽って来ていた。その姿がミラーに写っていたので少しおかしな態度に出たのだと思う。
そして先に行かせようと端に寄せ徐行すると、追い越したクルマが、僕たちの前を塞ぐようにしてクルマを止めた。ドアが開き、頭の悪そうな男たちが降りて来た。
「ランサー、排除しろ」
「バーサーカー、逃走できないようクルマを破壊しろ」
「アサシン、男たちをそこらの樹に括り付けておきなさい」
「遠坂、これも命令してくれ。背後に誰かいるかを聞き出せと」
「わかった」
まぁ、聖堂教会とは思わないが────マアエモから聞いていた、ユグドミレニアの息が掛かったやくざ者の可能性はある。もしそうなら後々、そこに挨拶に伺う必要も出てくるからね。
森の入口になる、鉄の門扉の前で舞弥が待っていた。
「バイクは?」
「そこの藪の中に。お嬢様方のCBRなどが隠してあります」
「なるほど。ここでオフロードに乗り換えて……」
予備のオフロード・バイクが一台残っているが、この人数なので僕たちは歩いて行かなければならない。ほどなくライダーも降りてきた。戦車は一旦天に返された。
「なんだ。まだ二台残っておるではないか」
「一台は私のです。それにアメリカンでこの森は走れませんよ」
舞弥が乗ってきたのは、日本へ先に入っていた彼女の脚だ。
「そう固いことを言うな」
「固いとか柔らかいとかではありません。そんな森の中を走るようにはできていないのです。それにそのマグナは買って数ヶ月の私物です」
おや? 舞弥がこんな執着心を見せるなんて。だけど無理もないか。聖杯を取るための戦いでなく、聖杯を出現させないための活動へ目的が変わっている。
当然、今ままで温めていたプランも道具も用なしだった。そんな中で見つけられた楽しみなのだろう。僕も変わったが、舞弥も変わった。
今は、もう一人の娘のことが心配で堪らない。アイリとイリヤを救ってくれた娘が。
「ではあちらの細いのなら良いか?」
「切嗣?」
「構わない。予備のガソリンも渡そう。その代わり先行して調べてくれるか?」
ライダーとしての感性なのか、この男の嗜好なのか。いや後者だな。どうも無類の新しもの好きのようだ。
「ライダー、バイクなんて操縦できるのか?」
「任せい、坊主。余はライダーのクラスを得て現界しておるのだぞ? 先程から操縦方法は頭にバンバン流れておるわ」
聖杯の知識か。
「こいつはホ◯ダのVツインマグナ。昨年の6月に出た250ccのバイクらしい。形式名はMC29でエンジンはMC15Eだ。3型のVTから使われたMC08の改良版だ」
「はぁ?」
「つまり現行のゼルビスと同じエンジンだと言うとる。それを低速向けに改良してあるんじゃな」
「聖杯の知識って、おかしくないか?」
僕もそう思うし、ロードも遠坂も同じ気持ちだろう。きっと二人の乳母が更新したんだと思うけれど。
「じゃ、あっちのオフロードは?」
「あいつはヤ◯ハのセローよ。形式名は4JG3。なんと10周年記念の限定車らしいぞ? 排気量は223cc。この4JGからリアのブレーキがドラムからディスクになって、より完成度が高まったそうだ」
やっぱりおかしい。だけど……。
「ライダー、もしかして分解整備なんかの知識も?」
「おお、入ってきておるぞ。工具さえあれば、整備書なしで腰上まで分解できるらしい」
なんてマニアックな。
「だから、余計なものが仕掛けられておらんかどうかひと目でわかる」
そういうことか。抜かりがない。では行くぞと、ライダーは後ろにベルベットを乗せて走っていった。ノーヘルで。まぁ、私有地だしね。僕たちも中に入り門扉を閉めた。
「時臣師。僕の使い魔がライダーを見失いました」
そう慎一君が報告してきたのは5分も経ったかどうかのタイミングだった。
ロードが懐から試験管を出し、中から水銀の礼装を地面に垂らした。それがどこに入っていたんだと思うほどの大きさとなり、ズルズルと僕たちの前を進んでいった。
僕も舞弥も銃を出し、遠坂はステッキとは別に、幾つかの宝石を握りこんでいた。当然、サーヴァントたちも僕たちを囲むように陣形を整えた。
ランサーが先頭で、バーサーカーが後ろ。左右にアサシンが数人だ。
そこから15分ほど進んだときだった。
「待ちたまえ」
ロードだった。
「シンイチ。使い魔をその先に投げ込んでくれたまえ」
ロードの言葉で、慎一君は視覚共有した使い魔を投げ込んだ。
「あ! パスが切れました」
「やはりな。その先は異界に続いている。きっと理事はその中だ。ライダーたちも出てこない。どうするね?」
「行こう」
僕は即答だった。
「キャスターの罠だぞ?」
「それでもだ」
僕は気にぜず進んだ。すると森はなにも変わらなかった。振り向けばロードたちがいない。それだけだ。そして目の前にライダーたちがいた。
「待ってくれていたの?」
「空が違うんだ」
ベルベットの言葉で上空を見上げれば、そこには幻想種が飛翔していた。
「魔術師殺しも人の親か。なにも調べず飛び込むとは……」
「異界? いや、異世界?」
「うむ。時間を越えた並行世界といったところだな。バーサーカーがブリテンだと言っている。あれがワイバーンだな」
声に振り向けばロードも遠坂も来ていた。慎一君も舞弥もいる。うなずきあった僕たちは、ともかく奥へ進んだ。
だけど城のある広場に出ないで森を抜けてしまった。時間にして約1時間だ。こんなに狭い森じゃない。そして抜け出た先に、煙が立ち込めていた。
「この匂いは……」
「人を焼いているな」
遺体かなにかを焼いているようだ。ただ、その煙の立ち込め方から一つや二つじゃないのだとわかる。
「戦場後だ。ここで戦があったのだろうて」
「その処理中ってこと?」
「うむ。坊主は皆と後で来い。余がひとっ走り見てこよう」
「オレも行こう」
そうしてここまでバイクを押していたライダーがエンジンを掛け、ランサーとともに丘を登って行った。もちろんランサーは駆け足だ。
僕たちが丘を登り切ると、数人の騎士とランサーが話していた。その後ろでライダーがおとなしく待っている。
「シンイチ。揉め事になるかも知れませんが、私が通訳に参りましょうか?」
「どういうこと?」
「ここはアーサー王終焉の地、カムランの丘に間違いありません。あの騎士たちにも見覚えがあります」
「それはマズいなぁ」
「バーサーカー、しばらく様子を見るべきだろう。ランサーが辛うじて意思疎通できている。シンイチはあの音声を拾えるかね?」
「羽虫を飛ばします」
ロードからそう言われた慎一君が使い魔を飛ばした。ロードの通訳は僕か遠坂だ。そしてバーサーカーが訳してくれる内容はこうだった。
昨日までここで国を割る戦いがあった。そして反乱軍の首魁と王が一騎打ちした。そこに鉄の馬に跨ったもう一人の王が仲間とともに現れ、首魁と王の闘いを止め戦を鎮めた。
そしてその仲間たちが我々怪我人を治癒し、遺体を運ばせ、昨夕から燃やしているのだ。
「セイバーと乳母たちだな。となるとエルヴァも一緒だろう。あの子たちはどこに?」
「それはわかりませんが、いっそ斬られるのを覚悟でキャメロットに行くべきか……」
「バーサーカー、焦らないで。この分ならあの子たちは大丈夫だよ。時臣師、ロード。ここのマナを分析して頂けませんか? もしかしたら魔力残滓で追えるかも」
「ふむ、良い案だ。時代が時代なだけにマナが濃密だが、ここまで来ると返って現代魔術の痕跡がわかりやすい。何より乳母の二人はアインツベルンのホムンクルスだろう? 残滓に特徴があるので、微弱でも追いやすい」
そうしてロードは懐から何かアンプルのようなものを取り出して、それを試験管の中に入れた。透明な液体が紫色に変色する。その変色した液体を、ロードは自らの礼装である大きな水銀の塊に振り掛けた。
するとすぐさま反応が出て、水銀が丘を越え森とは反対にある林の中に入っていった。僕たちはそれを追った。再び小一時間も歩いた先に家屋が点在する集落があった。
人工的に植えられたであろう樹々で囲われた、親族だけで暮らしているかのような小さな集落。その中央にある家ではなく、水銀はそこを通り越した先で止まった。
「ここだな。結界があるが、私の目は誤魔化せん。中に小屋がある」
宝石をまぶたに当てた遠坂も声を上げた。
「確かに。小屋の前にライダーと同じバイクが並んで止まっているよ」
残念ながら僕や舞弥にベルベットの目では見えない。かなり高度な魔術のようだ。
「本当に結界が?」
「あるとも。これがハーウェイ理事の実力だよ」
「ハーウェイ理事……? なッ!? まさかあのアインツベルンのチビが?」
「ウェイバー・ベルベット君。君に対する怒りを鎮めて金銭で解決しなさいと、私に君の助命を願ったのは理事なのだがね?」
「え? あ……あわわ……」
彼はエルヴァに何かやらかしたらしい。
「けれど、これは学生には見えないですよ、ロード。そもそもこのレベルですと我々でも入れないのでは?」
「確かにトオサカの言う通りだ。さてどうしたものか……」
「主よ。オレのゲイ・ジャルグで」
「破魔の槍か。しかし、魔術回路と連動のタイプだとマズい。礼装と連動するタイプなら、後で謝りそれこそ金銭でどうにかできると思うが……」
ロードは娘の身を本当に案じてくれている。
「あ!」
「どうしたの、慎一君?」
「時臣師、あれを見て下さい。あっちの小道から」
「な!? 幻想種だと?」
「サラマンダーだよ、トオサカ。あんな巨大なものが生息しているとは……」
チロチロと火を吐きながら、ワニのように大きなトカゲがのしのしと歩いてきた。そして我々を一瞥すると、振り返りもせずあるところから忽然と消えた。
正確に言い表すなら入っていった、だろう。ここで初めて僕やベルベットは目の前に結界があることを理解できたんだ。しばらく経つと、空間からにょきっと出て来た女の腕に引っ張られた。
「ここから入れる。後に続いてくれ」
セイバーだった。見えない壁をすり抜けると、エルヴァたちが居た。思わず抱きしめたら────。
「あの……私は83番です。エルヴァならママたちや29番と小屋の中ですよ」
そんなことを言われてしまった。そうだった。あの子はこんな分身みたいな魔術を使えたんだった。僕の驚きを尻目に、セイバーは次々と他の仲間を結界の中に引き入れていた。
「対魔力のスキルか。それは術者にダメージを与えんのかね?」
「ああ、大丈夫だ。私と私が身に帯びたものだけが、魔術をキャンセルする。あの子はこういう実験に余念がない」
「さすがはハーウェイ理事だな」
ロードとセイバーだ。これで全員が結界の中に入った。
「どうしてこんな結界を?」
「我々の異端ぶりで近隣の住民を驚かせたくないのと……」
「……モードレッドを匿って、ですか?」
僕とセイバーの間に割って入ったのはバーサーカーだった。
「スマン、キリツグ。こいつと先に話をせねば、問題が大き過ぎる」
「問題って?」
「シンイチ、良いか?」
「はい。良いね、バーサーカー?」
「ええ」
「ならば……。バーサーカーの真名はランスロット卿だ」
知らなかったのはたぶん舞弥と僕だけだった。だけど全員がこうやってあらためて名を聞けば、何が問題なのかが一発でわかる。
「お尋ね者か」
「当然そうなる。異世界の別人では通らないだろう」
そうか、丘の前でマズいと話していた意味がやっとわかった。
「なので貴公はこの結界の中でおとなしくしていてくれ。モードレッドにも話してあるが、あいつもピリピリしている。貴公の歴史は私の知る歴史とは異なるやも知れん。貴公との一騎打ちで怪我を負ったガウェインは、やはり既に死んでいた。それは仕方ないと納得できても、ガレスの件をあいつは赦していない」
ガレスとはロット王の末息子である。歳の離れた兄にガウェイン卿、アグラヴェイン卿、ガヘリス卿がいる。モードレッド卿はこの家に養子として出ていたので、ガウェイン卿やアグラヴェイン卿、ガヘリス卿とは仲の良い兄弟だった。
ではガレス卿はといえば、母親とともに兄たちと離れて暮らしていたので、キャメロットに登城した頃は弟であることを明かさず、ケイ卿の下で料理人だったそうだ。
このときに付いたあだ名が『ボーマン(白く美しい手)』だった。それがロット王の末息子と知れ、そこで晴れて騎士となったという。
そして頭の固いガウェイン卿やアグラヴェイン卿、ガヘリス卿と違い、かなり柔軟かつ高潔な性格の人物だったらしい。そしてその高潔さを愛したのがガウェイン卿であり、ランスロット卿であった。
それが、王妃との不倫を知ったモードレッドがアグラヴェイン卿に相談したことから、ランスロット卿の台頭を苦々しく感じていたアグラヴェイン卿とガヘリス卿との『ランスロット追い落とし』作戦へと繋がった。
何のことはない。すべてはボタンの掛け違いだ。セイバーはここの王も自分と同じく女だったという。つまり王妃に負い目があった。その負い目が王妃を遠ざけ、ランスロット卿との逢い引きを赦してしまったのだ。
そして長兄ガウェインは、アグラヴェインやガヘリスにとっては自慢の兄だった。また、モードレッドにしてもガウェインを尊敬するのみならず、ランスロットの技量も認めていた。
そこで知った不倫話。それは追い落としでなく、対処できない情報を知ってしまったからどうしようという相談だったのだ。
だけど兄と並び立たんとするランスロット卿を苦々しく感じていたアグラヴェインとガヘリスは、このスキャンダルを暴露しようとした。
ところがその密談を知ったランスロットがねじ込んで、アグラヴェインとガヘリスのみならず、そこにたまたま居た、『追い落とし作戦』とは何の関係もないガレスまでも斬ってしまった。
そこから王国の崩壊が始まったのだ。
「不倫はスキャンダルであって、金銭、あるいは罰則で解決できる問題です。むしろ高貴であるべき騎士の模範であるガウェイン卿の身内から、王に絡む醜聞を暴露したとなると、ロット王の一族全員が『仲間を売る人間』と見なされます。本当ならモードレッドから聞いたときに、長兄を呼び、王と密談すべきだったのです。そうやって猶予を与えれば、王も離婚するなり、ランスロット卿と王妃を逃すなり、他の者を黙らせる手が打てたと思います」
そんな風に83番という娘が解説してくれた。
「とうぜんその場合、ランスロット卿は王に賠償金を支払わなければなりません」
「それはいかほどですか?」
「司法・立法・行政が曖昧だから……。私たちの感覚で言えば500万ユーロくらいでしょうか」
日本円で6億くらいだ。王妃となればそんなところだろう。
「ですけど、1500年分の延滞料もエルヴァなら付けてきますよ」
「至極公平であるな。奪うなら奪い返される覚悟も必要だ」
ライダーが賛同の意を示した。ウェイバーも慎一君もうなずいている。
「妻に手を出す相手には、遠坂の魔術を死後の手土産に贈ってやろう」
時臣の言葉にうなずく僕とロード。そしてロードはランサーを睨み付けた。何があった? まさか現在進行形?
「モードレッドとじっくり話します」
バーサーカーはそう決意を語った。
「てめェ……!」
小屋の扉を開けると少女が飛び出てきた。羽交い締めにしている、別の少女が引きずられている。その後ろから二人の乳母を伴ってエルヴァが出て来た。
「セイバー、通訳をお願いします」
「ああ」
そこからエルヴァの話が始まった。小屋の中は農具が多く、この人数だと全員が中に入れないらしい。なのであの子はテントや寝袋を出してくれた。
それを僕と舞弥、そして乳母たちで建てた。そこらにある丸太を椅子にして、皆んながエルヴァを囲んだ。
「モードレッド。どうして長兄であるガウェイン卿に相談しなかったのですか?」
「探したけど、いなかったんだよ」
「では、最初はガウェイン卿に相談するつもりだった?」
「そりゃそうだろ。ロット王の家督を継ぐ兄だぞ。ガウェインを通じて王に自覚を持って欲しかった。あなたの一挙手一投足で国は引っ繰り返ると」
「それを最後まで自覚しなかったから謀反を?」
「元々、謀反の芽はあったんだ。それをそっくり叩くチャンスを伺っていたんだよ。けど、とことんまで嫌われて……オレの言葉なんて届きゃしない」
これにはセイバーも驚いていた。
「埋伏の毒を自発的に行っていたと?」
「ああ。けどよ……どうでもいい」
エルヴァがセイバーに尋ねた。
「もしかして、死んだ騎士のほとんどが反乱軍ですか?」
「ああ、ここではそうだった。怪我を負っていたガウェイン卿以外の主だった者は生きている。私の場合と大違いだが、そうか。貴公の影働きがあってか……。わかった、モードレッド。貴公の心はアーサーを叩きのめしてでも伝えてやる」
「ち、父上……」
「お前の父はキャメロットだろうが」
「いや、オレはあんたが良い」
「私は既に死んでいる。ブリテンを滅ぼしてしまった愚王だ。お前には明日がある。跡を継がずとも、お前なら自分の王国を持てるかも知れん。先日も話してくれたろう? 私も賛成だ。旅に出て世界を見ろ。だよな、ライダー?」
「おう。男子(おのこ)は、旅に出て己の小ささを知るが良い。そこからだ」
男子って……。セイバーも女性なら、モードレッドも女の子じゃないか。おまけにガレス卿も女の子で、お互いその秘密を知っていたので特に仲が良かったそうだ。
それを斬っちゃったのか。そりゃ恨まれるだろう。色々こじれているなぁ。だけどそのほつれ目を一つ一つ丁寧に解き明かすエルヴァ。
もちろんセイバーの通訳と援護があってだけど、最後はバーサーカーが『自分の本当の王』に賠償することで納得してしまった。
そしてそれをセイバーが少しづつ預かり預金するらしい。
「どうやって残るの、エルヴァ?」
「当家に霊を受肉化させるクスリがあります。それを飲めば」
「おう! なら、余にもそれをくれい」
「どうするのだ、ライダー?」
「お前さんとの話の答えだ。余は宇宙を征服する!」
「はぁ?」
「じゃから、今の世では無理なのだろう? ならば誰もおらん宇宙へ行く」
要はパイロットになると言っているのだと、皆んなが飲み込むまでに少し時間が掛かった。だけど一度理解するとセイバーは満面の笑みだった。
「さすがは征服王。そう来たか。では私も語ろう。私は戦乱の世に生まれ、人としての幸福を知らない。それが故に民の幸福を追求できなかった。よって、そのクスリでもって受肉し、エルヴァを通して幸福を知ろうと思う」
そう言ってセイバーはエルヴァの頭を撫でていた。その気持ちは僕と近かった。自らの幸福を知らず、自らの家族を犠牲にする人間に、他者を幸福にできるはずがない。
僕はドイツに残したアイリとイリヤを思った。そしてできるならエルヴァも引き取って、家族として暮らしたいと思った。
「今、城にはマーリンが登っている。彼がアーサー王との仲介をしてくれる手筈だ。また、ピクトどもがこの戦いを知ったらしい。近いうちに戦いがあるだろう。そこで征服王よ。討伐を手伝ってはもらえんか?」
「魔力をどうにかしてくれるなら、手伝えんこともないぞ?」
それは何か奥の手があるという意味だった。
次回か次々回にはサーヴァントに暴れてもらいます。