「ふぅ~。やっと一段落だ」
「お疲れだな、アーサー。これを飲め。疲れが取れるぞ?」
「マーリン……。これは薬草をエールで割ったのか?」
「うむ」
「いただこう。はぁ~、自国内とはいえ戦は戦だ。人材が減った分、今後が大変だ……」
「そうだな。子供たちが大きくなるまで、10年20年先を見越した戦略が必要だ」
「ところで、ずっと雲隠れしているつもりだと思ったのだが?」
「……うむ。あまり人の世……歴史に関わりたくない」
「だが、あの者たちは平気で関わって来たぞ? たぶん、あの者たちの介入がなければ、私とモードレッドは相打ちで斃れ、このいっときの時間すらなかったはずだ。だいたい自分が自分に会うか? そんな体験を持つ者がいるか?」
「おらんな。だから重い腰を上げたのさ」
「誰よりも人が好きなのに……。大魔術師も因果だな?」
「今回はその上の魔法使いが関わっていると思われる。どういう意図かは不明だが、もう少しブリテンのために動いてみよう」
「ああ、頼む。それであの者たちは? どうせ、お前とつるんでいるのだろう?」
「つるむと言うか、助けられたのでな。場所はケイ卿の家の納屋だ」
「そうか。匿ってやってくれ」
「私が手を出さずとも、見事な結界だ。あれに感づく騎士はおらんよ。一応ケイ卿には頭を下げた。アーサーからも頼む」
「わかった。話は通しておく」
初夏のジャガイモに秋のサツマイモ。冬のニンジン、ダイコン、ハクサイにキャベツ。そしてホウレンソウ。パンが白く柔らかい小麦に、ジャムの様々な作り方。サーモンや獣肉の見たこともない調理法。
アーサー。私はあの者たちから、これらを学んでいる。3年だ。来年収穫した芋を種芋にして、更に畑を増やす。そこから国土全部に行き渡る種芋を作る。食料の問題は任せてくれ。
「セイバー、本当に良かったのですか?」
「構わん。マアエモ、この罪は私が全部かぶる」
「けれど、歴史の修正力が働くかも」
「だろうな。この時代にジャガイモなんてなかったからな。だが、キャスターはそれをさせたいのではないか?」
「そうでしょうか……」
「あのポテトフライを食べるモードレッドとランスロットの顔を見ろ。あれが罪を犯した者の顔か?」
セイバーはモードレッドさんにランスロットさんと言ったけれど、その先にこの国の人々の笑顔を見ている。それはお嬢様の目線と同じだ。
持って来たジャガイモやサツマイモを種芋にして、ホームセンターで私が買った野菜の種子を植えていく。季節が巡ればこの国はどんどん変わるだろう。
それは本当に良いことなの? 歴史を変えてしまって良いの? それでお嬢様が危険な目に会わない?
私はマーリンさんに食事を出したことを後悔していた。
まさか食べて美味しいと褒めつつ、食材を見せてくれと言われるとは。そして彼は芋や野菜を一瞥しただけで、栄養価や有用性の高さを認識してしまった。
後は雪崩のように植え方や育て方、収穫時期などを聞き出されてしまった。
「そう湿気た顔をするでない。お前さんは善意で動いただけで、その謎を察したあの魔術師がウワテだっただけだ」
「大王……」
「それにここはセイバーの過去ではない。王も騎士も民も、今という現代を生きておる。我らが見知らぬ過去に移動しただけだ。そこで未来の穀物を教えたからと、果たして歴史の改変と言えるかどうか。だろう? ならば笑え。母であるお前が笑わねば、可愛い娘が心配するぞ?」
「……はい」
なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。今ここに居るのは私とセイバー、そしてモードレッドさんにランスロットさん、大王にウェイバー様の六人だった。
キリツグ様にトオサカ様、エルメロイ様は外のテントで話し込まれている。それはやはり来た道を引き返そうにも、見えない壁に阻まれ、元の森に戻れないとわかったからだ。
帰れないのだろうか。お館様にもう会えないのだろうか。そんなことはないとお嬢様は仰られる。ここでの役目が済めば必ず元の時代に戻れると。
お嬢様を疑うわけではないが、今はそれを信じるほかはない。だけどいつもは楽しいはずの家事をこなしても、私の心は晴れなかった。
ランサーさんとルオンはキノコやベリーを探しに出ていた。お嬢様方にシンイチ様もそちらだ。
こんな見知らぬ大昔の世界に来てしまって……。なのに三人のお嬢様は全然不安になったりしていないし、落ち込んだりもしていない。
ルオンの言う通りで、私は考えすぎなんだろうか。だけど、なんとしても無事にお嬢様には元の世界に戻っていただかないと。
大王の言った娘……。お嬢様が自分の子……。もしそれが真実なら、これほど嬉しいことはない。お嬢様の本当の母親とは会ったけれど、ほとんど会話らしい会話はしていない。
『いまさら会ってどうなるの?』……。ああ……本当だ。会わなければよかった。その存在を知らないままがよかった。お嬢様は私の希望だ。
それがもし……今後はお姉様やキリツグ様と暮らされるとなってしまったら……。実の母の方が良いと言われてしまったら……私は生きていけない……。
「ランサー、これは食べられるの?」
「それは毒がある。こっちの青いのは食べられるぞ」
「青いのなんて、いかにも毒を持っていそうだけど?」
「青いのはボリータですよ、お嬢様。現代のイギリスにもあります」
「へぇ~、マッシュルームしかない国だと思ったら、色々あるんだね~」
私たち三人は、キノコ狩りに来ていた。他にルオン・ママとシンイチがいる。ランサーさんが護衛兼通訳だ。29番は好奇心が旺盛なのかランサーさんにあれこれ尋ねていた。
というのは事前情報だとこの森に流れる川で、ヤマメやイワナが釣れるからだ。ご多分に漏れず、ランサーさんも戦場で食材を調達する術に長けていて、ベリーやキノコ以外の知識も豊富だった。
そんな風に散策して小一時間は過ぎた頃に、この中で唯一英語が話せないシンイチが、真っ白い大きなキノコの群生を発見した。駆け寄るとそれはパフボールだった。
彼はそれを指差して何かを叫んでいた。それを見て、本体が頭の上で大きな丸印を作った。この大きな白いキノコは毒がない食用で、現代でも食べられている。これだけあれば十分だ。
野生のマッシュルームもベリーも、すでにカゴいっぱいだった。この森も村の一部ではあるけれど集落から離れているので、近隣の住民は穫りに来ないらしい。
この時代の一般住民は、ライ麦や大麦の粥か、それらで作ったカチコチなパンと、ネギを効かせたカブやパースニップのスープを食べていた。
そこにプラスして川魚か山菜やキノコの何かだ。海の魚貝類は沿岸部の限られた人たちしか食べられなかった。処理の仕方も未発達だし、流通が未熟だったからだ。これは時代が時代なだけに、どこの国も同じだろう。
岩塩は貴重なので味付けはまったくないか、少量の酢を使う場合がほとんどだ。それでも民が温かいものを温かいうちに食べられた時代でもあった。
これが中世に下ると塩の流通こそマシになったが、王侯貴族の権力が強まり、領主の提供するカマドでパンを焼かせていた。このときにカマド使用料を取っていた。それを税金以外の収入源としていたのだ。あくどいが、これは麦の流通量を見ていた部分もあったという。
水車小屋の製粉所はその村を預かる騎士や領主が営んでいた。これも麦の流通を見ていた部分があるだろう。だけどこれまた領主たちが使用料を取っていた。こんな風に二重三重にお金かそれに見合う食料を搾り取られるので、民の大部分はいつまで経っても小作農だった。
そうなると領主のもとに馳せ参じる必要性が高かった。それはカマドやウスのような税に繋がる場合もあれば、軍事あるいはそれに絡む戸籍確認的な意味を持つ場合もあった。
こんな風に人々は『無駄なこと』に時間を取られる生活が長らく続いた。おそらく英国での産業革命は起こるべくして起きた出来事だ。
そして搾取のターゲットは植民地の人々となった。
欧州の歴史は侵略と戦争の繰り返しだ。他国との戦闘とは、領土の奪い合いであった。すなわち獲物が多く生息し、野生の果実や豆、キノコなどが穫れる土地の奪い合いだ。
だから牧畜以外これといった農業も漁業も発達しなかった。また、生粋のゲルマン人ほど食事に頓着しない傾向が強かったのもある。きっと人種的に舌が弱いのだ。
あるいは、肉以外の旨味を感じにくい脳を持っているとも言い代えられるだろうか。
そして麦を挽く水車。あの集落のあるここら一帯はケイ卿がその管理者だった。そのケイ卿も今は家に戻り静養していた。
旧家屋だった農具倉庫を黙って借りていることを私たちは魔術で隠蔽しているのだけど、ケイ卿は魔術剣士でもあったのでバレるのは時間の問題だった。
そこをセイバーさんに言われたのか、マーリンさんがうまく話を通してくれていた。なので、アーサー王の出方を待っているのか、ケイ卿は今のところ静観してくれている。
「この後、どうするの?」
29番が本体にそんなことを聞いた。
「戸籍を作り、司法・立法・行政の三権分立が飲み込めるところまで王や側近に知識を与え、農作・酪農・海産を奨励し富国強兵の道筋を付けます。それがキャスターの望みでしょう?」
本体はとんでもないことをサラリと返した。そして……。
「この未熟な専制君主制が家父長制論を得たとしても、このような島国では他国からの不当介入は避けられません。ならば自由経済による資本主義へと先んじて変化を付けるべきでしょう。となると国家は立憲君主制に移行するほかないわけです。それも何百年後かには立憲民主制に変化するのでしょう。そこまで見据えた政治体制を作れるかどうかですね」
そんな先の先のことを、ベリーを摘み食いしながら話していたのだ。当然ランサーさんには意味不明だろう。だけど彼なりに思うところがあったのか、その顔は意気高揚としていて気力が漲(みなぎ)っていた。
きっと他国であっても、一つの国が再生するかもしれないと思えるから嬉しいのだろう。
「ここに来て、学ぶことが多いな」
「どういう意味で?」
「俺の時代とも数百年は隔たっているだろう? だから余計にわかると言うか。こういう小道を整備している騎士を見てな……」
ああ、なるほど。この時代以降の騎士って闘う家来というより、肉体労働を伴う国家公務員だものね。身体を鍛えたり、戦闘訓練をする日もあるみたいだけど、普段の騎士は道路整備や灌漑工事に水車の手入れをしている場合が多いとセイバーさんに聞いていた。
またこれを怠ると人々の生活が不便になる。何でもかんでもマーリンさんの魔術に頼れないしね。
「農民や牧童にしてもそうだ。俺の国より進んでいる。主の時代だと、隔たりが大きすぎて実感が湧かなかったのだ。だからこそだろうな。自分の忠心が偏っていたというのも、少しずつだが理解できて来ている」
なるほど。間を飛ばせば見えないものが、ここで間の時代を見たから理解が深まったと。頭だけでなく実感としてわかったようだ。それはきっと、ランサーさんにとって良いことだと思う。
「ライダーさんは受肉のクスリを飲んで残ると話されていますが、あなたはどうされますか?」
「主と相談したのだが、ハーウェイ理事の邪魔にならぬのなら残って色々教えて頂きたいと考えている。結局俺もセイバーと同じで、正しい答えが知りたかっただけなのだな。それなのに今度こそはと、やり直しを求めてしまった。そこが主に対する押しつけとなるとも気付かず」
ちゃんとロードと話しあったようだ。今のこの人に迷いはない。
狭いテントの中で僕たちは話し合っていた。ロード、遠坂、舞弥、そして僕の四人だ。
「謎解きと言うより、課題だな。それを解けば何か動きがあるのだろう」
「となると、歴史的にはピクト人かサクソン人の侵略ですね。ロード?」
「うむ。アーサー王伝説には欠かせない要素だ」
「サクソン?」
「アングロ・サクソンの語源の一つだよ、衛宮君。他にアングル人やジュート人がある。どれもゲルマン系だよ」
「ゲルマン人の大移動のことだ。東方からフン人などが西欧に入り、ゲルマン人が押し出されたのだよ。これにより土着のケルト人が滅亡、あるいはウェールズやコーンウォールに追いやられた。アーサー王伝説とは、そのケルト人をまとめ上げ侵略者と戦った者を美化した物語だ」
「待ってくれ、ロード。ではアーサー王とは?」
「実在しない架空の存在だよ。人々の信仰が座を持たせるに至った、歴史なき英霊なのだ」
「では、ここはなんだ? 現実ではないのか?」
「ある種の幻想空間だろう。理想郷とは言わんが、我々の知る歴史とは何の関係もない架空の世界だ。簡単に言えばそのアーサー王の伝承を忠実になぞった…………キャスターが創り出した世界なのだろう」
何だって?
「距離を変とは思わなかったかい?」
「距離?」
「丘を越えただけで、キャメロットに近い村ってことはないだろう? カムランの丘とあまりにも近すぎる。そこをロードと私は最初から疑っていた」
「君の娘、ハーウェイ理事も同じ見解だ。ここはある種の固有結界の中とも言えるだろう。真相はまだ謎だが。しかし、戦場のカンか、セイバーはライダーに助力を願った。この先、大きく事が動くと見て間違いない」
もう、僕なんかでは対処できない話になっている。僕はあの子が心配で飛び込んだ。だけどあの子は迷いなくここに自分で入ったという。
最初はセイバーに巻き込まれたと思っていたが、そうではなかった。あの子はキャスターの罠だと知りつつここへ来たんだ。
そしてそこに、もっと大きな意味があるのだとも話していた。その意味が何なのかは謎だ。だけれど、あの子はそれに当たろうとしている。
またセイバーも意識してか、無意識なのか、あの子の意向に沿うように動いている気がする。表面上のことでなく、もっと奥深いものがある。
つまり侵略者はかならず来る。それに対処した後、何かが起きる。そこで起きることこそが本命だとロードは説明してくれた。
だけど引っ掛かる。
「でも、セイバーの召喚には聖剣の鞘を触媒にしたんだ。あれは一体……」
「偽物とは言わないが…………。このような世界からこぼれ落ちたものかも知れんな。架空の物語の世界。それは人々の信仰であり想念の産物だ。我々の現実世界と寄り添い、何かのきっかけでそこに入ったり出たりできるとしたら?」
「どういうことですか、ロード?」
「君の分野だよ、トオサカ。数多ある並行世界というタペストリー。その隙間隙間に、このような想念世界が自然発生するのではないかね? つまりここも世界の外なわけだ。これにより根源と英霊の座は別物だと理解できる」
「ということは、ここもある種の座であると?」
「英霊本体を納める座とは別だろう。むしろ英霊が座に入るときに置き去りにした、人らしさと言うべきか」
「ああ、残滓的な。だから戦場であったり日常的な生活が見られたり……」
「うむ。こうだとは断定できんが、ここにこそ異世界へ渡ったり、それこそトオサカが求める第二魔法への道…………そのヒントがあるように思える」
「なるほどですね」
何がなるほどなのか、僕にはちんぷんかんぷんだった。だけどこれは腰を落ち着け、なるようになるまで待つしかないと気持ちを改めることができた。
それから三日後、部下を引き連れたケイ卿とマーリンの迎えで僕たちはキャメロット城に入った。
「なんでオレが女の格好なんてしなきゃなんねぇんだ?」
「本気で言ってます?」
「わかってるよ。ってか独り言だろ? 父上もいちいち訳すなよ」
「意思疎通は大切だぞ?」
「まぁ、そうだけどよ……」
マアエモ・ママの服を着て髪をおろしたモードレッドは、正体を隠すことを自覚しているのに文句をずっと言い続けた。『なんで女の格好』、このセリフに驚かされる。
セイバーそっくりの女の子そのものだろうに。たまたまトイレで出くわして、溝をまたいでしゃがんでいるのも見たぞ、私は。残っていたのも大でなく濡れた後だったし。
城ではどうしていたのだろう? 溝は男性用、女性用と分けていた。その女性用には、ママたちのや私の排泄物がすぐ溜まる。
お互い口には出さないけれど、人のはクサイ。特にモードレッドのはクサイ。肉ばっかり食べるからだ。そして羊皮紙が高級で紙なんてなかった時代だ。
お尻を拭いているのか、お前は? 真相は謎だし、知りたいとも思わなかった。けれど、ママのスカートとパーカーを着て、サイドを編み込んだ彼女はセイバーにない明るさがあって可愛いと思った。
マーリンが先頭で、後ろからケイ卿というアーサー王の兄にあたる人が付いている。ちゃらい雰囲気があるけれど、この人も魔術師だった。
日中だというのに明かり取りの窓から外れると、石造りの廊下は薄暗かった。
やがて一同は食堂のように机の並んだ広間に出た。正面の火の入っていない暖炉の前に横長のテーブルがあって、そこでアーサー王が待っていた。
私たちはその正面の、何列か縦に並んだテーブルの、真ん中の列に座らさせられた。王に近い特等席なのだろう。木のテーブルの中央に、これまた木をくり抜いて作った器があって果物が盛られていた。
それをモードレッドが一つ取ってかぶりついた。
「これってそういうものなの、セイバー?」
「ああ。好きに取って食べていい」
「赤い絨毯が左右にあって、王冠を被った王様が高い玉座に座っているって……」
「そんなイメージも、中世の頃のものだ。天井が高い建築なんてこの時代には無理だろう? 私もあいつも、しょせんは蛮族の親玉で、キャメロットも山城とそう変わらんよ」
セイバーはあごで王を指していた。
「ここは食堂兼会議室であり、雑談室で、ついでに言うと下級騎士の寝床だ。あの暖炉の横の扉。あの奥に小会議室があって、そこに円卓がある。あれだけは立派な作りだ。そして円卓とは王を交えた13人の意味もあれば、この食堂に席のある中級騎士までを含める場合もあるし、ここや廊下で雑魚寝をする下級騎士までを含む場合もある」
私がへ? と思っていると、父がこんなことを言った。
「なんだか、一家って感じだね?」
「その通りだ。ランサーの時代と大きく変わらんだろう。上級騎士は若い騎士を自宅で寝泊まりさせているし、中級騎士はこの城の周囲で寝泊まりする若い騎士の面倒をみていたりする。領地のない……家を継ぐ必要のない若者は、商人や農民とは別に第三の道としてこういう城に入れぬ騎士から始めている。むしろ……私より5~6百年は昔の人なのに、兵卒を引き連れ東征できたライダーに驚かされるがな」
皆んなが一斉にライダーを見た。
「老人が多すぎる。若い者がたび重なる戦役で減っているのだろう? まずは混血を恐れず、ブリテンに忠を尽くす若者を育てんとな」
「では、侵略もチャンスだと?」
「然り。捕らえて同化させよ。国とは王という柱があってこそだ。そこが曲がらず折れなければ、民が大きく入れ替わろうと変わりはせん。そばに仕える知恵者に老人が多いとこの国のようになる。若い、日の出の国を見よ。国を統べるに、守りに入ってはいかん。討って出て領土を巻き上げる気概を持たんと」
「耳に痛いな。が、マケドニアのような南方の肥沃な土地ではないしなぁ。備蓄にも限度がある。ジリ貧なんだよ」
「そこは理解するが、弱気ではいかんぞ?」
「私の国は終わったのだ。正面の王に言ってやれ」
「そうであった」
私たちがそんな風に果物で談笑しているのを見守っていた王が声を上げた。
「どうも私たちと言語が異なるようだ。しかし、もう一人の私とランスロット卿の通訳があればどうにかなるだろう。そこで相談だ。先日の戦いで当方が疲弊していると踏んだ北方のピクトどもが、大挙して南下しているとの報が入った────」
言葉を区切った王は、全員の顔を見てから続けた。
「英霊にそのマスター諸君。あなた方のあり方や本来の時代や世界のことなども、マーリンの報告である程度は理解しているつもりだ。それをわかった上で敢えて言う。相談というかお願いなのだが……。どうかブリテンにチカラを貸してはくれないか?」
これを聞きニヤリとしたのはセイバーと、認識阻害の魔術を掛けた上に変装のヒゲを蓄えたバーサーカーだ。だけどライダーはこんなことを言った。
「見返りは?」
「おいッ! 空気、読めよ! アーサー王を助けるんだぞ?」
「そりゃ、お主の国のもとでもあるしな。余も手伝うことに異は唱えんよ。が、それはそれ、これはこれだ。まずは報酬が何であるかだ。ここは大切だぞ?」
するとアーサー王は面白い返し方をした。
「なにもない国だが、子々孫々にまで伝えよう。アレキサンダー大王は、ブリテンの味方で救世主であったと」
「乗った! それで十分よ! 我が権勢の西は、これでブリテンにまで広まった。坊主もしかと伝えよ」
「なんだよ、それ!?」
大王はガハハと笑うだけだった。けど、わかるよ。最初の一個しか売れなかったとしても、販路図が広がると嬉しいもの。そこからいかに浸透させて定番商品に持っていけるかだから。
「ブーディカ像の横にイスカンダルの像が建ったりして」
「ベーカー街がアレックス街とかになったり?」
「ビッグアイが大王車輪とか」
「嬉しいことを言いよるのう」
「それで良いのかよっ!」
「ここは坊主の世界ではない。なら、それで十分じゃろうが」
皆んなふんふんとうなずいていた。お金はあの世に持っていけないが、名声は残る。歴史書に、ブリテンの窮地にイスカンダル大王が、もう一人のアーサー王とともに現れて国を救けた……なぁんて書かれたら面白いじゃないか。
そこから別室に案内されしばらく待機した。そして今度は円卓に招かれた。騎士も入っての軍事会議だ。
「貴公、ご遠慮願いたい。そこはランスロット卿の席である」
「あ……失礼」
バーサーカーがカッコいい騎士に叱られていた。そんな面白いシーンをアーサー王の席に座って解説するセイバー。
「半数近い者がおらんのだ。席は自由にせよ。重要なのは形式や格式ではない。戦略と戦術だ」
そう言いつつ王はセイバーの横に座った。反対の横にはバーサーカーが座り直した。大王はその真正面、13番目の席と言われる場所に遠慮なく座った。
「地図を持てい! そして兵卒・軍馬・倉庫にある武具の種類と数を教えよ。糧食の備蓄、これまでの戦略や相手の取ってきた戦法もだ」
続きは出張から戻った後日に。