※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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48、アインツベルンの森

 エルヴァは気分が乗っていた。バイクにはそこまで興味なかったが、後々アインツベルンの森へ向かう必要性から中古のオフロードを1台手に入れる事は決めていた。そしてバイク屋を覗けば、赤い最初期型のカ○サキKLX250SRが目に飛び込んだのだった。

 走行距離は5千キロ・メートル台。ところどころ擦り傷はあるが、解析すれば故障もなくメンテナンスもちゃんとされていた。確か赤い外装は93年モデルだから、11年前のバイクだ。

 店のおじさんに尋ねれば、オフロード好きの人が3台も4台も維持できないからと手放したらしい。それで走行距離が短いのだと言う。値札は25万。新車が当時45万程度だったから安いかも。

 それで倫敦へ向かう時に用意した偽造の身分証明書や免許証、適当に作ったハンコを持参して手続きしたのが1月の21日だった。その週の後半にメットやグローブや衣類などを揃えておいた。

 この闘う4ストは車体番号を見ずともわかる。あのMR-Sに手を入れてエルに売ったイルマの愛車だった。歴史の違いでこうなったのだ。

 彼女は98年頃に中古で手に入れたと話していたので、前オーナーは二人目だったのだろう。その後メンテばかりでほとんど乗らなかったのだと思う。

 セルもバッテリーもない、徹底的な軽量化で車重はたったの123キロしかない。乾燥重量は109キロだ。

 問題は885ミリものシート高を身長153センチの小柄な女の子が乗れるのかどうかだったが、エルはこれより高いバイクに平気で乗っていた。だから引き取った帰り道に不安はなかった。

 エンデューロ・レーサーのKLX250Rに保安部品を付けただけの街道レーサーなだけあって、エンジン始動にコツは要るが、チョークを引っ張り、上死点を足の裏で感じて軽くキックすれば一発で掛かる。

 これもエルがヤマハのSR400を持っているから得られた知識だ。

 信号待ちではお尻半分ズラさないとつま先が地面に付かないが、別に怖くもなかった。

 ギアを落とし、アクセルを煽ってクラッチを繋げば、30馬力のパワーは軽く倒立サスのフロントを持ち上げる。遠坂の屋敷へ向かう上り坂はウィリーしながら登った。

 屋根の上のアーチャーが興味を持ったのか、敷地に入ると降りて来た。

 

「君はクルマだけだなくバイクも操縦するのか?」

「その他無免ですが、ユンボでもバスでも操縦できますよ。緊急移動手段を様々持っていれば、お得な事は多いです」

「まったくだな。ところで、凛は合格できそうかね?」

「内緒ですが、今のところ問題ありません。先生とは相談されました?」

「いや、まだだ。彼女は一体私をどうするつもりなのだ?」

「そうですね……。あなたは新たに座を得た、5番目のアーチャーなのです。1番目は摩耗により座が消滅しました。2番目もかなり摩耗が進んでいますが、ほぼ最後の一分霊が、私やエルの義兄となります。そして3番目は自分殺しを数回達成していますが、今だに消えません」

「な、何!? 達成した私が居るのか?」

「ええ。並行世界とは本当に広くて複雑です。この世界のイリヤスフィールさんにシンパシーを幾ら感じても、彼女は私の姉ではありません。私の姉のイリヤはただ一人です」

「まぁ、言わんとする事はわかるが」

「なら、その先も考えて下さい。正義の味方を目指す少年が居たとしても、それはあなたの過去ではありません。あなたの歴史はあなたの死で終わったのですから。つまり、世界を越えれば別人です。パラドックスは起きません」

「そうだろうとは考えていた」

「それと贖罪の意識はあなたが背負うものであり、少年に負わせるものでもありません。罪の多寡はともかく、あなたが誰かを手に掛けた事を今も後悔するのなら、その罪を背負うのはあなただけです。あなたが取るべき正しい方法は、己の轍を踏むな、世界の詐欺に引っ掛かるなというアドヴァイスですよ」

「それで止まれば苦労はせん」

「病気を放ったらかして拗らせたからですね。それはともかく、キッチンで話した通りです。今後のあなたは凛の従者として、無事にこの儀式を終えさせる事です。それを無事達成すれば、先生は私との料理勝負で勝った場合に与える予定だった特典をあなたに用意しますよ」

「それは一体何だ?」

「あなたは英霊になって日が浅いのです。ですからあなたと似たタイプとはまだ統合されていません。つまりあなたの座に居るのは、今のところあなただけなのです。これは4番目もそうでした。わかりますか? 本体をまるごと再召喚して座にダミーを置くのです。それを先生にして貰えばあなたは自由です。あ、自由と言っても仕事はありますよ?」

「何の仕事だ?」

「第四次に行って、冬木に災害を起こさせない。完璧な衛宮士郎殺しです」

「あ!」

「魔法使いと組むとはそういう事ですよ?」

「あ、あ……」

「という事で、悪いようには致しませんから、あなたは凛との契約完了後は私の方へ就職しなさいな」

「むむむぅ……。承知した……」

 

 先生には連れ帰る意思は無かったと思うが、私には兄でない彼が必要だった。何故なら凜が巣立ち、エルと組んで世界を巡る今、先生は私との契約を望んだからだ。そうとなると先生の期待に沿うために、私には戦力の増強が必要だった。

 先生の宝具は確かに夫であるエミヤシロウだが、あの人は使いどころの難しい宝具でもあった。すべての威力が大き過ぎるのだ。となれば、エミヤシロウには及ばないが、アーチャーという英霊は使い勝手がほどほどに良かった。

 今回の私の目的は、兄でないアーチャーを手中に収める事にあった。それを特典として参加を了承したのだ。魔力はエルマが送れば問題ないだろう。

 

 屋内に入るとキッチンから良い香りが漂って来た。なんと珍しくも先生が料理を作っていたのだ。正確には下拵えだが。弟子の凛と孫弟子の凛には餃子のあんを包ませていた。ルヴィアはせっせと野菜を切っている。見たところ春巻きの具だ。そして先生はエビの皮剥きをしていたので、こちらはエビチリだろう。今夜は中華料理だ。

 

「エルヴァ、仕上げはあなたと手分けするから。それと油淋鶏の下拵えをお願いするわ」

「わかりました。他は何をお作りに?」

「プラス酢豚よ。男性比率が低いから回鍋肉や青椒肉絲はパス。麻婆豆腐は個人的にパス。ピーナッツを用意したから」

「ああ、ピーナッツ入りの酢豚ですね。わかりました」

 

 酢豚には様々な作り方があり、入れる野菜も多種多様だ。ピーマン・タマネギ・ニンジンなどの定番野菜に、タケノコやキクラゲ、干しシイタケを戻したものやキュウリなどの季節を感じさせる食材や食感が変化するものを入れる場合もある。

 私の場合は後者の変化技でピーナッツを使う場合があった。カシューナッツで無いので固いのが難点だが、これも生を茹でるなりして柔らかくする方法はある。

 また、基本となる豚肉の唐揚げをミルフィーユにしたり、甘酢あんを黒酢あんにする場合もあった。よし、下拵えに掛かろう。

 

「先生、豚バラでなく豚こまですか?」

「ええ、経済的にね。その分、カロリーが多くなるわ。あなたの裁量で良いから、丸めるなり重ねるなりして使ってみて」

 

 ふむ。白い脂をちぎって、麩を芯にするとカロリーを抑えられるな。油淋鶏は胸肉か。先にこっちを下味に付けて寝かさないと。

 

「先生、まさか?」

「うん。凛は知らないだろうけど、彼女は和食だけじゃないわよ。一番の得意料理が中華だから」

「え~!」

「ああ、でも安心しなさい。ここは家庭用コンロしかないから、そこまで差が出ないわ。むしろ下拵えの丁寧さや手順を観る方が勉強になるわよ」

「それで油淋鶏や酢豚を?」

「そう。トマトと卵の炒めものなんて単純な料理から、魚の姿煮まで食材さえ手に入れば何でも作れるのよ。それなりの厨房も必要だけど。中華料理の良くないところは、凝りだすと専用の厨房が必要なところだわ」

「確かに、そうかも」

「それとこの子は見た目通り西欧料理も得意なのよ」

「本当に料理が好きなんですね?」

「そうそう。好きこそものの上手なれよ。それと凛。そろそろ使いを出しなさい。エスコートは……そうね。セイバーとアーチャーに」

 

 大魔導師は遠坂邸にイリヤスフィール・士郎姉弟と、セイバー・キャスターの四名を大魔導師の名を以て招待しろと宣言したのだった。

 

 

「という訳で、お迎えに参上致しました」

「急ですね。イリヤスフィール、シロウ、如何致しましょう?」

「お伺いするわ。少し準備しますのでお待ち頂けますか?」

「勿論ですとも」

 

 そうしてイリヤスフィールは私室に向かったのだが。

 

「キャスター?」

「師匠が我が名を以て招待すると仰っているのよ。騎士の誓いみたいなものね。この感覚は私もわかるし、あなたもわかるはず。問題というか予測が外れたというか、私としてはエルヴァというあの子が動くと思っていたの。つまり事態はそれだけ早く動いているのよ、セイバー」

「ですね」

 

 そうだ。安全面で危惧したのではない。この先どうなるのかという見えぬ状況を危惧していたのだ。

 召喚時期が早かったのもあるが、聖杯の汚染が明確な今回は誰しもが水面下で動き、戦いらしき戦いがバーサーカーVSランサー戦以外起きていないのが原因だった。

 通常の私なら敵を探しに打って出るべきだと進言したと思うが、マスターたるシロウは姉のイリヤスフィールと同じく思慮深い少年だった。

 ましてこの度の招待者は、イリヤスフィールの師であり、ある意味黒幕とも言える魔法使いの招待だ。情報を得るチャンスと見做す他は無いだろう。そんな事を考えているとイリヤスフィールが戻った。

 

「士郎! 何をやっているの! ご招待なのよ? ちゃんとした服装に着替えなさい!」

「え? 姉貴はそれでドレスなの?」

「もう~。スーツを買ってあげたでしょう? 直ぐに着替える!」

「は、はい!」

 

 そして我がマスターのシロウが着替える間に、イリヤスフィールはタクシーなるものを喚んでいた。

 

「マスター、それはどういう衣装なの?」

「パーティ・ドレスって服よ。今日みたいな食事のお呼ばれ程度なら十分ね。これ以上格が上のお招きや催し物なら、もっと格上のドレスが必要だけど」

「なるほど。現代も昔と変わらないわね。けれど、良く似合っていてよ。マスターは可愛いわ」

「ありがとう。王女様に褒められると嬉しいわ」

 

 タクシーが来ると同時にシロウの着替えが終わった。

 

「ふん、馬子にも衣装とはよく言ったものだ」

「だよな? 全然似合わないと自分で思うから」

「アーチャー、ガスの元栓を。縁側の戸締まりは?」

「既に済ませてある」

「あんた、悪いな?」

「さぁ、出るぞ。最後の戸締まりはお前だろう?」

「ああ」

 

 あの赤いサーヴァントは何でしょうか? シロウに嫌味を直ぐに吐く。

 ところがシロウが若いのにできた人物で、アーチャーの嫌味を軽く流すのですね。そこをあちらのセイバーが気付いているのか、アーチャーに仕事を振るのです。

 ここまでなら、わからなくもない。問題は指示を与えられる前に、ある程度済ませている点だ。何故、この家の事にそこまで詳しいのだ? まったく謎の人物だ。

 やがてシロウが着替え終えたので、私達は玄関を出た。タクシーとやらが既に待っていた。マスター達と一緒に乗り込むのは私だけで、キャスターや、もう一人の私やアーチャーは霊体化した。やはり彼女は霊体化できたのだ。つまりカムランでの死を受け入れたという事だ。当たり前の事なのに今さなながら驚く。

 程なく目的地へ到着した我々は、赤い外壁の館へ入った。

 

「うっお、遠坂……」

「どういう挨拶よ。ああ、ドレスで髪をアップにしているから?」

「ああ、似合うな。見惚れてしまったよ」

「ふふん。衛宮君もスーツ、似合うじゃない」

「いやぁ、どうかな? 借りてきた猫みたいな気分だ」

「ダークブラウンのスーツに青いシャツ、レジメンタルストライプのネクタイはグレー系ね。良いじゃない。それ、イリヤ先輩の見立て?」

「ええ。どうかしら?」

「良いと思います。活動的で遊び心があって、けれどきちんと決まっていて。他にも?」

「他はネイビーブルーのリクルートスーツよ。士郎、子供扱いされるのが嫌なら、こういうのをきちんとできる男にならないと」

「面目ない……」

 

 ここで驚いたのが迎えてくれた試験官の方々のドレスだ。私には何がどうとかわからないが、全員が黒いドレスだったのだ。お葬式? 

 

「リトル・ブラック・ドレスと言って、現代では冠婚葬祭いずれにも合うとされ、レディなら持っていて当然のドレスなのだそうですよ」

 

 そう教えてくれた、もう一人のアーサー王もリトル・ブラック・ドレスで、これはあちらのイリヤスフィールやエルヴァに、試験官の両名も同じだった。

 またまたランスロット卿にも驚かされた。彼は黒い上下に襟が立った白いシャツを着ており、そこに黒い蝶のようなタイを締めていた。

 あれが正式なスタイルだとアーチャーが教えてくれましたが、かの騎士がここまで現代に溶け込むとは。まぁ、元々器用な人ではありましたが。

 

『ドレスで中華鍋か?』

『言わないで下さい。私だって嫌ですよ。大体、ドレスコードを決めてましたっけ?』

『だな? まぁ、それが大魔導師の格なのだろう』

『そうですね。あ~もう、ドレスが臭くなる』

『エプロンをしていてもこれはなぁ……。この胸肉を揚げるだけだろう? 私がやろうか?』

『いえ、あなたは餃子に集中して下さい』

『私は春巻きを揚げつつお姉様を見守ります』

『君は、見守るだけか?』

『ええ。あの料理はお姉様が直々にと、先生からのご指名ですからね。それとアーチャーさん、その餃子は焼いてはいけませんよ?』

『何? もしかして水餃子か? しかし、焼いてくれと頼まれたのだぞ?』

『それはこちらのバットの薔薇餃子です。先程のは普通の形の焼餃子で正解でしたけど。バットごとに異なるんですよ。よく見て下さい。こっちの水餃子用と、形だけでなく皮が違うでしょう?』

『ああ、本当だな。こういう包み方もあるのか。そうか、水餃子と焼餃子が交互に』

 

 ああ、この席は厨房が近いのか。エルヴァとエルマ、それにアーチャーの会話が耳に届いた。

 しかし、私の脳が送る次の行動は早く大皿に残った、あのギョウザなるものを5~6個は確保しろという命令だった。そしてその命令は抑え難き私の衝動と合致していた。しかし直感は待てという。何故だ? 

 

「中華料理は美味ではありますが、冷めると脂が固まり、味が激変します。次の焼き上がりを待つのが正解ですよ、ランスロット」

「さすがはアーサー。このランスロット、また罠にハマるところでした」

「水餃子もあるからね。楽しみにしておいて」

「おお!」

 

 く、くぅ~~~~! 箸での鍔迫り合いには勝ったが、私は私自身に負けるのか? 

 卿よ、その憐れむような視線はなんだ? お前だからブリテンは滅んだのだとでも言いたいのか!? 

 

「こ、このエビチリ、ウマい! 辛いとか酸っぱいとか、そんな単純な味じゃない! セイバーも食べてみろ!」

「む! これは?」

 

 少し機嫌を害していたが、シロウから薦められるままに頬張れば、これは……辛さの奥にある深みが、私のような者にも感じられる。どういう事だ? 

 

「殻を剥いてワタを取るのは同じ。塩や片栗粉で揉んだ後に、卵白やお酒で揉んだりもね。大事なのは、エビを炒める前に塩もみした剥いた殻を炒めて、エビに香りを移す事なのよ。そして炒め終わったエビを取り出して、ネギや豆板醤や鷹の爪を加えて、ソースにまで香りを移すの。最後にさっきのエビを入れて、お好みの量のケチャップを混ぜて完成よ」

「ああ、中華にも、さしすせそみたいなのがあるんだ?」

「そりゃ勿論あるわよ? そして、それはどんな事でも言えるからね。魔術でも勉強でも人生でも。成功するって事はそういう事だから、覚えておきなさい」

 

 大魔導師からシロウへの助言ですが、確かに。そしてこれは本人の姿勢にも関係する。

 そんな事はわかっていると軽く考えるタイプなのか、これは重要な事だと重く受け止め、心に留め置くタイプなのか、その違いは大きいだろう。それくらい単純でありきたりな言葉でもって彼女は話している。

 

『な! バカ! ヤメろ!』

『ぬおおおぉぉ~~~っ! 『エクスカリバー~~~~ッ(約束された美食の一皿)!!!!』』

 

「な、何だ、キッチンから?」

 

 シロウの戸惑いを他所に出て来た料理はギョウザとハルマキの追加に、ユーリンチーなる料理でした。

 

「こ、これは!? 何たる美味!!」

「こら、アルトリア! どう見ても、この人数では一人二切れまでだ!」

「ちょっ、セイバー取り過ぎ」、

「誠、人の心がわからぬ王よ……」

「うぅぅ……」

 

 私はやってしまったようだ……。

 

『アーチャー! 私、頑張ったから! もう、もう、ゴールして良いよね!?』

『何を言っとるのだ!? 次は酢豚だ! 後少しだ、頑張れ!』

『エルヴァお姉様頑張って!』

『くう~、聖杯は遠い。お腹空いた……』

『気合を入れろ、ほら』

『むむぅ~。この美味さ、この享楽! これこそが我ら全員の心象風景なのだ! 見よ、我が料理を! 肉体が滅び、魂が霧散しようとも、子々孫々に伝えられ広く数多に語られるだろう! このレシピこそは我が至宝! 『王の食卓(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり~~~~!』

『よし、その意気だ!』

 

 ちょっ! どこかで聞いたようなセリフを。

 

『よく頑張った、それを持って二人とも行って来い。片付けはしておこう』

 

 そしてエルヴァとエルマは、スブタという新しい料理を持って席についた。エルヴァは座る瞬間ベルレフォーンとか言っていた。何だろうか? 

 あちらのアーサーが甲斐甲斐しく料理を小皿にとり、エルヴァに渡している姿が印象的だ。そしてスブタなるものを食した時、私は……。

 

「アーサー、眠っているのですか?」

「寝ておらん! あまりの美味に感極まり、瞼を閉じただけだ!」

 

 何ですか、ランスロット卿は。しかし、これは……手が込んでいて美味だ。

 

「こういう中華みたいな方がセイバーには合うのかな?」

「インパクトがあってわかりやすい味だしね。和食も良いけど、たまには中華も美味しいよね?」

「うん、それはわかる。俺、見直したよ、中華料理を。こんなのを食べられて良かった」

 

 姉弟の言葉がすべてですね。私も食べられて良かった。シロウやイリヤスフィールの料理も美味だが、これはこれで良い。ああ、現代とはかくも面白いものなのか。

 やがて美味なる至宝の時間は終わりを告げ、食後のお茶を頂いていると大魔導師からこのような言葉が出た。

 

「アーチャー! お茶、蒸らし過ぎ!」

 

 …………。

 

「コホン。明日、間桐マコトを伴って、ここに居る全員でアインツベルンの森へ向かいます。そこで大聖杯解体の協議を行います」

「先生、私は先行しますので」

「了解。イリヤと二人?」

「ん~。セイバー、ランスロットさん。先生がお二人を借りたいそうです」

 

 今の会話のどこに二人を借りるなんて話があったのです? 

 

「エル、くれぐれも無茶をせぬよう」

「マスター、お土産を持って行かれた方がよろしいでしょう」

 

 な?! 

 

「あ、あなた方は自分のマスターを守らないのですか?」

「相手がサーヴァントであるならマスターの敵にはなりませんよ、アーサー」

「ええ、卿の言う通りだ。大丈夫ですよ」

 

 サーヴァントであるなら敵にならない? 道場の一件で私は確かに彼女の実力は認めた。また、シロウへの的確な助言や啓示は見事とも思えた。だが、英霊という存在を甘く見過ぎではないか? 

 

「セイバー、わからない?」

「キャスター。あなたにはわかりますか?」

「あちらのセイバーとランスロットという騎士は、サーヴァントじゃ無いのよ。英霊の分霊をそのまま召喚しているの。ここの方法みたいにクラスという枠に囚われていない。その分、クラススキルの恩恵は無いみたいに感じるけれど。けど逆に言えば、枠に囚われず最高の状態で現界させられて、魔力さえあれば宝具でも何でも座から用意できる可能性もあるわ」

「それはそれで優れた召喚方法なのだと思いますが、それが何か?」

「サーヴァントは大聖杯を通して召喚されているでしょう? 彼女はその大聖杯を設置したアインツベルンよ? マスターとのパスの在り方や、大聖杯との繋がり。きっとこういうところに私達が知らない弱点があるんだわ。だから『サーヴァント(召使い)』なのよ」

「では?」

「私達にどうこうは無いでしょう。今更。つまり一人で行かせられる理由よ。半英霊なのに人でもある。そしてここまで感動できる料理が作れる。という事はよ? 超一流の魔術師でもあるのよ、きっと」

 

 料理と魔術には関連性があるのだとキャスターは言う。そうなのか。

 

「だから一人でも安心できるのよ。並行世界のマスターの妹らしいけれど、どういう人生を歩んだらああなるのかしら?」

 

 何故か頭の中に岩の剣を抜いた、あの日の自分の姿が浮かんだ。きっと彼女は何かがあって、岩の剣では無いだろうが心の剣を抜いたのだ。それは何だったのか。マスターの姉に良く似た褐色の少女に、私は思いを馳せた。

 

 

 〈エルマ様。長髪の女性サーヴァントとマスターは本日も新都でショッピングの後、食べ歩きをしておりました〉

 〈エルマ様。例の男性サーヴァントとマスターはこの屋敷を双眼鏡で覗いておりますな〉

 〈そのまま監視して下さい。間桐邸からは誰か出ましたか? 〉

 〈こちら間桐邸前。誰も出ておりません〉

 〈下水道の地下水路も。しかし、今日は例の羽虫が多いですな〉

 〈その羽虫を何人かに追わせて下さい〉

 〈承知しました。やはりアレですか? 〉

 〈十中八九〉

 

 

 翌2月の1日。1台のバイクが海浜公園前の国道を西に抜け、右手に見える海水浴場が終わるところで、左手を走るJRの踏切を越えて林の中に入った。やがて林は森となり、まばらだった樹々が鬱蒼と茂り影を濃くする。蔦や蔓に木の根が、操縦者を大地にキスさせるべくタイヤを取ろうとするが、少女は巧みに自然のトラップを躱し森深くへ入って行った。

 

「結界で監視はされてるけど、何の抵抗もないね?」

「でしょう? 姉さんが居る事で先触れだとわかるからですよ。何よりセイバーとランスロットさんがすんなり残ってくれたのは大きいですね」

「そうだね。私達二人なら身内みたいなものだし。あれ~~? 本当に見えて来た!」

「北側からだと、意外と近いですよ」

「この入り方を、どうして知ってたの?」

「言峰神父がお母様を襲うルートですよ。二百年前は国道もJRもなく、街道は未遠川沿いに南へ走って円蔵山を迂回して森へ入るルートしかありませんでした。それが年月が過ぎ道路ができて、海岸線まであった森が削られ。冬木に来ないアハトがバカだとしか」

「ああ……」

 

 城の前でバイクを停めるとワーワーキャーキャーと騒がしい。何だろうと思いつつ、スタンドを出しエンジンを止めれば7~8歳くらいの子供が五~六人走ってきて、私達の後ろに隠れた。向こうから三人のメイドと姉らしき子が追い掛けて来た。

 

『べ~』

『コラ! ちゃんと着替えないとアーデルハイトお姉様に嫌われて、イリヤスフィールお姉様に笑われるわよ!』

 

 当然だけれど、ドイツ語だ。こちらが唖然としていたらメイドが気付いた。

 

『お嬢様。既にお二人お見えです』

『え?』

 

 とても恐縮して謝られた。背の低い妹達を追い掛けていて、こちらに気付かなかったとか。まぁ、同族であるし、ある意味姉妹だしなぁ。黙って立っているだけなら気配は同じだろう。

 そして信じられないだろうけど、私達が居ても当然と思えるくらい、それだけ姉妹が多いのだとわかってしまった。かく言う私も、大勢の家族に包まれるような、妙な安心感を覚えていた。

 どの子もおチビちゃんやクロエちゃんと同じだ。共感度や思い入れこそ異なるが、血を分けた妹だと感じる。メイドの案内で城内の2階にあるサロンに入った。暫くするとお茶が運ばれ、三人の少女がやって来た。

 名はブリギッテにブリュンヒルトにブリュンヒルデというらしい。先日姉さんがマウント深山で会ったアデーレにアガーテにアリーナとは違って、Bナンバーだと紹介された。

 中心となって話しているのはブリュンヒルトだった。彼女の名でワルキューレの乙女より、ラインハルト・フォン・ローエングラムを先に思い起こす私は日本在住のスイス人だ。自分でも変だと思うが。

 

「一体全体、何人居るの?」

「全部で81人ですよ。下は6歳から上は9歳。9歳はほとんど私どものような容姿ですね。これがAナンバーからZナンバーまで54人です」

「それが54番目の卵子なの?」

「そうです」

 

 別に狙った訳では無いだろうが、54番目の受精卵は最低でも54分割されたらしい。3番目の卵子では無いので、イリヤスフィールや自分とは微妙に顔付きが異なっている。(54-3)/12=4と余り3。単純計算だが、自然分娩なら4歳下の妹達だ。

 

「ナンバーと言っても、序列と言うより名前ですか?」

「基本はそうですが、役目の違いもあります。妹達は81番目と最後の卵子からです」

 

 アインツベルンには良質な魂を自然に帰さず、保管しておく保管器があった。鋳造した肉体に魂を宿す場合、赤子に宿るような自然降霊を促す場合より、保管器にストックしてある魂を再利用する方がリスクは低い。誰だって後継者にサイコパスや人格破綻者を据えたくは無いのだ。

 そして自らの姉や、ここのイリヤスフィールに妹達は、アハトの持つ保管器からの流用だ。対する私というよりエルは、ノインのお祖父様の家が二千年にも渡って蒐集した、良質な魂の一つが使われていた。きっとその序列には、これらのような事柄も含まれるのだろう。

 しかし……81番目なら6と余り少々、最後の卵子だと8というよりほぼ9だ。それぞれ6歳下と9歳下の妹か。毎日のお風呂や食事が気になるところだ。朝のトイレなんて戦争ではないか? 

 そもそも私がおチビちゃんやクロエちゃんを振り切ってエーデルフェルトで部屋を借りている理由が、そのトイレの問題があったからだ。オシメは要らないし、トイレも大丈夫だろうけど、食事の時は年長者が大変だろうね。

 81人なんて学校で例えるなら2クラスから3クラスだ。年長者をある程度成長促進させたのは、これもあったのだろうなぁ。

 

「その81人にアーデルハイトは入りますか?」

「入りません。現在この館に来ている姉妹は81人、メイドが12人です」

 

 メイドが12人。これは納得だ。

 

「本国にはバーサーカー用の電池にされたメイドが居ると思いますが、何人か死んだりは?」

「今のところは誰も。耐用年数は落ちていますが。それに強制はしていません。アーデルハイトお姉様の呼び掛けに、全員が志願してくれました」

 

 なるほど。全員均等にリスクを負っているのか。アーデルハイトという見知らぬ姉妹の智慧と慈愛に驚かされる。ここでは力技でゴリ押しせず、大聖杯の解体と術式を持って帰るという、彼女達の主張を通させる事が正解だろう。

 本国で管理されれば、盗難のリスクも減る。と言うのは、工房の奥でユスティーツァ様の回路は分割して保管され、ヘヴンズ・フィールは他の方法と比較検討されるのが目に見えているからだ。

 そして何らかの方法を見付けるまでに百年は掛かるだろう。となれば、盗難の憂き目にあって亜種聖杯戦争が起こるような、最悪の未来も潰せる訳だ。そのためのこの子達だろうし。

 もしかしたら、アーデルハイトはアハトから工房を継ぐ確約を取っていたのかも知れない。つまりアハトの引退、イコール工房の跡継ぎだ。

 第三魔法を諦める事は無いが、成果の出ない儀式は終わらせる。実に合理的だ。案外と餌になる、アハトの首を縦に振らせる対案、即ち新たな儀式か術式を提示している可能性もある。

 厳密には9代目アインツベルンでは無いが、彼女もまたノイントを名乗るのかも知れない。何故そう楽観的に考えたかと言うと、バーサーカーを座に還す術式も既に用意してあると聞けたからだった。

 

 となれば、いよいよ間桐慎の問題だけになる。想像の範疇だが、彼女の真の狙いは妹達かメイドの誰かを持ち帰る事だろう。彼女は聖杯戦争でなく、アインツベルンが冬木に来る日を待っていたのだ。47人の粛清は儀式の主催者側としては正しい行為だが、私にはあれすら陽動に思える。

 そしてメインのサーヴァントはペルセウスに違いない。メドゥーサの方は予備、或いは偽臣の書を持つマスターのボディガードだ。あのマスターの女の子は何かの実験だろう。性格や人格のバリエーションを広げつつ、マコトが夢見る理想の女の子の在り方があの子なのではないだろうか? 

 メドゥーサは大聖杯の汚染があったが故に喚び出せたサーヴァントだ。それを宛てがうのは些か疑問だが、何某かのシンパシーを感じたからだと思う。だけど、アインツベルンはヘラクレスをバーサーカーに据えた。

 ここからマコトの計算が狂ったのだろう。つまりペルセウスはヘラクレスとの戦いを拒否したのだ。神代の人でも曾孫との戦いは嫌だと思う。

 ましてやペルセウスは正調な英霊だ。単なるサーヴァントでなく、年長者としてマスターを導ける存在だ。本当は凛のようなタイプが喚び出すべき英霊だ。暗躍を是とするマコトとは根本的に合わないだろう。だから代理マスターを立て、陽動などペルセウスが納得できる範囲で動かしているのだ。

 また、マコトにはそれで十分だったと思う。彼女は真実天才なのだと私は睨んでいる。アンリ・マユの触手をここまで制御できる者に、今まで出会った経験が無い。作られた魔術師とは軽々に言えない。彼女の臥薪嘗胆の日々は、桜ちゃんの事を知っている身としては想像に難くない。よく自我を保てるものだと畏敬の念すら覚える。

 既にマコトが持つ、幾つかの擬態パターンは把握していた。そして擬態して彼女や彼女の周囲に居る者達が何をしているのかも。他人を傷付けず、魔力を得、それをストックする。そんな事を彼女は学校を休んでまで行っていたのだ。

 それが魔道と言えばそれまでだけど……。エルの一部だった頃、その探究心と好奇心から種々の痴態を演じた身としては、彼女の在り方は十分に理解できるものだった。

 

 やがて新たな来客があった事をメイドから告げられた。先生達だ。既に森の樹々とは接続済みだった。エルマや姉のイリヤも接続済みだ。そしてエルマはアサシンの侵入経路を作り待機させていた。外部からの妨害を完全に防ぐのだ。そしてそれはこの会談を平和裏に終わらせるためだった。

 

「突然押しかけてしまって悪いわね」

「いいえ。この地に来てあなたの存在を知れば、決して無碍にはできません。むしろお会いできた事が当家にとっては末代までの栄誉です」

 

 そうして大きなテーブルの真向かいに横並びで座る、同じ顔の少女が先生に応対した。

 自己紹介では中央の三人がアデーレにアガーテにアリーナ。その両隣、右の二人がブリュンヒルトにブリュンヒルデ。左の子はブリギッテと紹介された。

 対して真向かいに座る私達は中央が先生で右に私とマコトとエルマ、左が凛とイリヤスフィールさんに士郎クンだった。士郎クンは何も発言できないだろう。姉のイリヤスフィールさんともども、姉ソックリな六人の顔を見て固まっていたから。

 また、この大きな楕円形のテーブルの空いた短い側の席に、凛とルヴィアやセイバー達が座った。試験官の二人に付いては、あくまでも役目上の付き添いで発言権は無いとした。

 しかし凛は根性が座っている。ここまで転身姿でステッキを握ってやって来たらしい。万一の事を考えれば当然とも言えるが、何か新しい境地に至ったようだ。更にサーヴァントは大筋の話が纏まった時点で、各々の希望や要望を聴取する事となった。

 

「では、当家で決まった、このヘブンズ・フィールに対しての見解を発表します」

 

 ゴクリと唾を飲んだのは誰だったか。

 

「大聖杯の解体、並びに汚染された中身の浄化、これらをすべて行った上でアインツベルンは龍洞などを遠坂に返却し、この地を去ります。よって二百年以上にも渡る関係を返却の後、解消させて頂きます」

 

 それは聖杯戦争の永久停止宣言だった。受け止める子孫の顔は意外にも清々しかった。

 

「そもそも、この術式が根源に向いていなかったと思うのよ、私は」

「と言いますと?」

「サーヴァントの魂が座に還るのはわかる。けど、それはアカシックレコードの英霊のページよね? 根源とはアドレスが違うんじゃないの?」

 

 凛の見解は私も考えていた事だ。向かいの六人は意外な顔をする子も居れば、さもありなんと頷く子も居た。この辺は解釈の難しい部分だから、アインツベルンでも意見がわかれるだろう。

 そもそも根源という概念ですら、人によって受け止め方が異なる。向かう=行くと解釈し、行けば帰る事が叶わぬと言う人もいれば、触れると表現して何かを得て帰ってこれる可能性があると解釈する人もいる。後者の帰った人が魔法使いだとも。そして私はその後者の考え方だった。

 また、ページやアドレスという表現も良くわかる。一を得れば全部わかるとは本当なのか。凝縮されて一に見えるだけで、近寄れば緻密に細分され、触れた部分の僅かなモノしか得られないのではないか? 

 そしてアプローチの仕方も千差万別で、大掛かりな儀式を行わずとも座して得る事が可能なのは、魔法使いの凜が証明してしまった。

 そして何も根源から得られるモノは魔法と限らず、真理と呼ばれる知識の場合もあるのではないかと私は考えている。何を求め、どういうアプローチで得るのか。アドレスだけでなく、そこも関係していると私は思う。

 

「その術式は全部持って帰られるのですか?」

 

 マコトの発言だ。根源と魔法の事を考えていたので、一瞬ギョッとした。

 

「マキリが施した令呪の部分は取り外しが難しいです。当家で永久に封印致しますが、信用できませんか?」

「ならば、等価交換を望みます」

「それは? 可能ならばご用意できる限りのものをご用意致しますよ」

 

 マキリの末裔は立ち上がって朗々と希望を述べた。

 

「では、アインツベルンが持つ、鋳造技術……」

 

 どよめく六人。カマかけだろうが大胆だな。

 

「……それは無理と思いますので、無垢の素体を譲って下さい。そしてそれを研究する許可を下さい」

 

 そこが無難だ。良い落としどころだと思う。

 

「わかりました。素体をご用意致します」

 

 ホッとするマコトに代わり、私が手を挙げた。

 

「その素体には、妊娠機能を付与して下さい。世界こそ違いますが、このエルヴァ・フォン・アインツベルンが第11代目アインツベルンとしてお願い致します」

 

 再びどよめく六人。

 

「あなたは11代目のアインツベルンだったのですか?」

「ええ。まさにその妊娠機能の等価交換として9代目の家に養子に出されたのが私です」

「この方、見た目が違うのにエルヴァお姉様の同位体なの?」

「同名の別人だと思っていました。アーデルハイトお姉様も驚かれるでしょうね」

「わかりました。現時点での確約は私どもには無理ですが、本国のアーデルハイトと相談の上、返事を差し上げます」

「おそらく、こちらが無理でも、そちらの方がご協力下さりますよ、マキリの人」

「ああ……はい、わかりました」

 

 ここで森からサーヴァントの気配が消えたとエルマが念話で知らせてくれた。あちらはアサシンからだ。やはりペルセウスを潜ませていたらしい。彼は確か被った者の姿を消すマントか兜を持っていた。気配までは完全に消せないだろうが、やはりという感じだ。

 私が見咎めると、イタズラが見付かった子供のように舌を出した。そして凛は何も望まなかった。彼女らしいと言えば彼女らしいか。

 次に各サーヴァントの希望を聴取した。当然、私の仲間である英霊は除外だ。キャスターであるメディアさんは、イリヤスフィールの処遇に付いて尋ねた。

 

「マスターを狙うのかしら?」

「いいえ。イリヤスフィールお姉様は既に自由です。こちらとしては弟さんともども、何故令呪が宿るのかと運命を呪ったくらいです。そっと幸せに暮らして欲しい。それがアーデルハイトお姉様や私どもの願いでしたから」

 

 それを聞いたイリヤスフィールさんは泣いていた。私もエルマや姉も貰い泣きしてしまった。この子達はやはり妹だ。

 次のセイバーは面白い事を話した。

 

「私は、実は未だ死を迎えていません。それでもここで姉弟を見守って行きたいと思います。何か手はありませんか?」

 

 それに答えたのは先生だった。と言うか答えられる魔術師は誰も居ないだろう。

 

「セイバー。一度カムランに戻って死を受け入れ、世界との契約を破棄しなさい。その後で座に囚われる前のあなたを攫ってここに連れて来てあげるわ。そうして受肉化のクスリをエルヴァから譲って貰いなさい。それであなたは第二の生を得られる」

 

 大魔導師ならではの大胆な発言だった。当然セイバーは立ち上がって先生に感謝の言葉を述べた。

 

「まぁ、弟子のイリヤが可愛いのもあるけれど。だけどセイバー、対価は頂くわよ?」

「それは、どのような?」

「今後は弟子の凛とともに、私を手伝って。エルヴァ達も仲間だから」

「何をされるのです?」

「並行世界の第四次や第五次に行って、悲劇に合いそうなマスターやサーヴァントを救うのよ」

 

 そこで私のセイバーが語った。

 

「私があなたにしたように、あなたも別のあなたに」

「おお……」

 

 発言権が無いのだと窘められなかった。そしてここでマコトが再び発言した。

 

「実はライダーは二人居ます」

 

 ギョッとしたのは、姉弟とアインツベルンの六人だけだった。

 

「そのお二人の願いは?」

「一人は受肉して、現在一緒に行動している私の傀儡とともに暮らす事です。私はその願いを叶えてあげたいと考えています」

 

 傀儡という言葉を使っているが、たぶん独立性がかなり高く設定してあるのだと思う。私は当初、マコトはこの街を出るものだと思っていたが、出るのはライダーとそのマスターなのだ。

 魔道にどっぷり浸かった自分ではない、ごく普通に暮らすもう一人の自分。その存在があるだけで、どこまでも突き進める。心の安全装置というかショックアブソーバーというか、そういう存在を作る事で精神の均衡を図っているのだろう。

 もっと深い理由もあるのかも知れないが、何れにせよ私は、間桐マコトが私の知る間桐慎二と同じ精神性を持っていると確信した。と言うか、私は彼女が気に入った。ここにはまた遊びに来よう。

 

「では、もう一人は?」

「バーサーカーが還るのを見届ければ、座に還るそうです。彼はペルセウスですから」

 

 マコトも正英霊は誤魔化し切れなかったのだろう。そして何も望まず去ろうとする潔さ。話せる機会があるのなら、話してみたい相手だった。

 

「では、そちらのアーチャーは?」

 

 話を振られて困った顔をする褐色の英霊。

 

「私は……」

「私を手伝いなさい、アーチャー。永遠にこき使ってあげるから。そしてあなたのお望み通り、あなたに至るメを潰して回りましょう」

「そうだな。そうエルヴァに言われていたのだった。今後もよろしく頼む、マスター」

「ええ」

 

 これが凛に課せられた最後の課題だった。アーチャーの救済。凛はそれを見事に果たしたのだ。先に私が答えをアーチャーに出した事は問題では無い。凛の口からプランを述べないと意味は無いのだ。

 そして凛を守るために、この忠義者は受肉を拒む。つまり凛はサーヴァントを己の魔力だけで支えなければならないのだ。だけどそれも宝石剣があれば解決する。彼女ならきっと大丈夫だ。私の従者には出来なかったが、今後も一緒に仕事をする事になるので問題はない。

 この後、六人は魔術協会や聖堂教会にも手を回すと確約してくれた。ヤバそうな監督者は臨時の監督なので、解体に向けては別の者が来るだろうとの事だった。事後の事はまだまだたくさんあるが、これにて一件落着だろう。

 

「なぁ、姉貴。あの遠坂のサーヴァント。あいつ何者だろう?」

「さぁ。士郎や私とは関係のない、見知らぬ英霊よ」

「そっか。なぁ、あいつはアーチャーだろ? アサシンはどこだ? ライダーが二人いるから喚ばれなかったのかな?」

 

 まさにそこを狙ったのだけど、無意味なところで勘が良いのが衛宮士郎だ。だけど我が妹のエルマは素知らぬ顔をしていた。後でアインツベルンの六人には話さなければならないだろうけど。




どの家も呪われてますね。
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