後々手直しするかも。
「サクソン人ってヴァイキングみたいなものよね?」
「ブリテンに進攻したアングル人、ジュート人、サクソン人といったゲルマン系を指してアングロ・サクソン人だからね。ヴァイキングは9世紀から11世紀の北方ゲルマン系なので同じ民族よ」
「お祖父様はケルト系だけど、私らって養子だからゲルマン系になるのかな?」
「いや、母親がホムンクルスなんだからさ。父親の血で言うならヤマト系かヤヨイ系?」
「だから鼻が低いの?」
「子どもだからよ。29番は高いじゃない」
「願望が入ってんじゃないの?」
私たち3人は、ブリテンの船に揺られてそんなことを話していた。
「イカ釣り船より小さいな」
「つ~か、シロウとやら、貴様は手伝わんのだろ? なんで着いて来た?」
「うん? 釣りがしたかったんだ」
シロウさんは本当に釣りをしていた。それも投影されたカーボンロッドとルアーで、次々と魚を釣り上げている。
こちらの船の騎士たちはアーサー王が乗っているので遠慮しているが、並走している船の騎士たちは大声でまくし立てていた。
それはもう名人級だった。魚群の上を走っているとかではない。ひっきりなしに釣れていて、いれぐい状態なのだ。タラが多いけれどアジやサバもあった。
「この熱帯魚みたいなカタチのはなに?」
「これはポムフレット。日本で言うマナガツオだ。旬を外しているけれど、ブリテンでは珍しいよ。もっと南で釣れる高級魚だからな」
シロウさんが神経締めして血を抜いた魚を、宝具へ次々と取り込む私。既に3~40匹は取り込んでいる。
「おっと、来た。シー・ブリームだ」
これは知ってる。タイだ。
「こんなもんでいいかな。今夜は刺し身を引いてやるからな」
「おお! フナモリ~」
「やっと舟盛りと宝船を間違えなくなったか」
失礼な。私も少しは成長しているのだ。
「さ、頑張って敵を降伏させろよ。オレは沖漬けを仕込みながら眺めているから」
クソぉ~~~! 絶対それで一杯やるつもりだろう? 大王も勝ったとばかり、シロウさんが造った刺し身やシチリンで炙った塩サバを肴にして既にお酒を引っ掛けている。
シチリンとは白亜紀以降の地層から掘り出される珪藻の化石、ダイアトマイトから作られている。ブリテンにはなかったけれど、ピクトの人たちが住む地域では僅かながらダイアトマイトが採れた。
そして炭だ。今はピクトの人たちが炭や墨を作っている。焼き窯もできたそうだから陶磁器もそのうち普及するだろう。これらはママたちが指導にあたった職人が、命を帯びた騎士とピクトへ行って再度指導した成果だ。
29番と83番が魔方陣を船のデッキに描き始めた。相手の船団から旗艦を探すのだ。
「ああ、これね」
「この椅子でふんぞり返っているやつ?」
「みたいね」
早速、セイバーとアーサー王を跳ばした。次の瞬間、二人は敵の王を脇に抱えて現れた。すぐさまガンドをぶち当て、針金で縛り上げた。
その姿を空の上に魔術で描き出した。相手の船団から大騒ぎが起きた。すかさずマーリンの魔術で翻訳を掛けた、アーサー王の大音声が轟いた。当然、降伏を迫っているのだ。
この瞬間、予め決めていた数名の騎士を跳ばし、他の船の船長も拐った。勝敗は数十分も掛からずに決した。
船団を引き連れ港へ帰ったアーサー王は、港の出城でサクソンの王たちを宴でもてなし、コンコンと農業の重要さを説いた。
「狩りで獲物を狙うばかりの時代は終わった。真に臣民が大切ならば、飢えぬよう国土を見直し農業を発展させよ。そこにたまの肉や魚だ。この穀物を植え育てる方法や調理の方法を伝授するので、地域の人々に教えるが良い。わからなければ我が国より使者を出す」
王たちは実際にそれを食し味付けの見事さに目を丸くしていた。
「それでも逆らうならこうだ」
数人の騎士が木製の大きな窓を開いた。ドンッという大音声を残して、港から少し離れた位置にあった標的船に大穴が空いて沈んでいく。
この時代にはなかった大砲の威力に、サクソンの王たちは度肝を抜かれ震えていた。そしてブリテンの指導のもとで共存共栄を目指すとあっさり誓った。
領土を奪って広げるのでなく、文化を広げ交易相手を増やす。アーサー王の名声はこれを機に広がり方が加速したのだった。
数日後、海辺の街からケイ卿の村へ戻った私たちは、急いでお湯を沸かしてオフロに入った。作っておいて良かったよ、浴槽。だけどトイレだけは屋外の小屋でボットンだ。発酵させて堆肥にするため、魔術で浄化していないのでクサイ。
それでも今のブリテンは、着実に進んでいる。西欧の中世頃より一部では発達していた。
お風呂から上がって外に出てみると、ちょうど父が城から帰ってきた。
海戦に行かなかった負傷兵やケイ卿とともに居残っていた父は、鍛冶屋で作らせている鉄砲を視察していたのだ。
「いかがでしたか? サー・エミア」
「ちょっ!? 『サー』なんて付けないでよ。それでなくとも遠坂の目が怖いのに」
魔術使いの『魔術師殺し』が、ここでは名実ともに貴族に列せられている。ロードなんて名誉称号だとタカを括っているけれど、トオサカはランスロットさんの説明できちんと理解していた。
少しでも人の手と新しい技術や知恵が欲しい今のブリテンでは、その『魔術師殺し』に至るまでのサヴァイバル知識や技能が高く評価されていた。
今の父は『ナイト』から『男爵』になっていたのだ。これがトオサカならレッドバロンだ。
セイバーの入れ知恵だと思うけど、その御蔭で父はどんどん変わっていった。貴人とまでは言わないが、称号を汚さぬよう、人として真面目に暮らしている。また、プロ気質がもともとある人なので仕事も熱心だ。
なので今は舞弥さんの他に数人の部下を持っていたし、アーサー王から馬を下賜されてもいた。今もその馬で城から帰ってきたのだ。乗馬は私やママたちが教えたのだけれど、意外とすんなり覚えた。馬の質が高いのも良かった。
「まだ、恥ずかしいですか? 娘としては鼻が高いですけど」
「そう言ってもらえると嬉しいけどね。ガラじゃないよ」
「でも、仕事が終わって疲れた人の顔ではありませんよ?」
「ああ、確かに。毎日が充実しているね。意外だけど、僕はこういう生活の方が向いているのかな?」
「そうですね。レクリエーションとしてのキャンプでなく、生きるためのアウトドア……そういうのに向いているのだと思います」
「そうだね。子どもの頃、島暮らしだったから。それでだと思う。エルヴァたちも馴染んでいるね?」
「私たちは仕事の都合で過酷な土地に行くことも多いですから。慣れです」
「逞しいな。帰ったらイリヤを鍛えてあげて」
「フフフ……わかりました」
きっかけは29番だと思う。誰にも臆さず会話する能力は私にもあるけど、父に一番なついていたのが彼女なのだ。
そして父は私たち三人を平等に扱っていた。それはここに居ない姉の代わりでなく、真実の親が子に見せる態度だった。お祖父様やママ以外から、29番が叩かれたのだ。
ホイホイと村の男に着いていこうとした彼女が悪いのだけど、それは性的な悪意からでなく、その男性の母親が臥せっていたので診てもらいたかっただけの話だった。
たまたまママたちがおらず、成人したように見える彼女に声が掛かっただけだった。それでも父は怒った。29番を年頃の娘を案じる父親として叱ったのだ。
それが私は嬉しかった。そしてそれは83番も29番も一緒だった。
「お父さん、私たちの残り湯だけどお風呂が温かいよ? 温め直してあげるから入る?」
「そうだなぁ。じゃ、お風呂を呼ばれようか」
そして83番は着替えを持った父の手をひき、『私たちの小屋』に入った。
「あの子、また一緒に入るつもりだわ」
「良いじゃないですか」
「あんたたちは見た目が子どもだからね。私なんてこの見た目のお陰で叩かれたのよ?」
「もう~。歳上ぶったり、子どもの姿が良いとかうるさいですね」
「私もあなたの一部なの。ただ、自分に素直なだけよ。ママたちのためってわかるけど、いつまでも小屋が別なのはどうなの?」
「そこはね。それに父も性欲はあるでしょうし、舞弥さんとそういう関係なのも知っているでしょう?」
「そこよね。帰って母親や姉には話せないわね?」
「お祖父様で慣れてしまった私たちがヘンなのかも」
「慣れてるなら察してよ」
「なにを?」
「私って、19歳設定でしょう? 溜まってんのよ」
「へ?」
「男が欲しいとまでは言わないけれど、あんたたちと同じ部屋だと……わかるでしょう?」
「あ~……」
これはちょっと予想外だった。ママたちは暗黙の了解で自己処理をしてると思う。もしかしたら、そういう仲かも知れないけれど。また、アインツベルンにはその手の小道具が豊富にあった。
私自身が性産業にも商品を展開しているので、その手のものを開発したりしている。実際、小学校1年と2年のバカンス期間中に、子ども用のナニを付けて生活していた。
自分の家の窓枠に立って、外に向かって立ちションしたのはいい思い出だ。オシッコで虹が出るって初めて知った。
「ここの前にもブランコが欲しいなぁ」
「作れば良いじゃん。手伝うよ?」
「でも、いつか帰ると思うと……」
「そうね。けどさ、スイスにもいつ帰れるか」
「あ、そっか。ドイツか日本の可能性が高いのか……」
「あの人も私たちに付くんでしょう?」
「誰のこと?」
「シロウさん。キッチンを専用にしてさ、あの人に料理を教われば」
「商品開発に役立つ!」
「そうそう」
「なるほど。今夜別口でエーテルを出しましょうか?」
「お願い! 中身は私を分割して。開発中のアレも貸して!」
29番は父の心配を他所に、既に精神的非処女だった。エーテル体なのでどんな風にでも出力できてしまう。今の彼女は処女だったと思うのだけど。そうとう溜まってたんだ?
「同室でしないで下さいね」
「テントを貸して。結界を張るから」
「部屋の中で張るんですか? 入るところを見れば、今からかってまるわかりでしょう?」
「そこは見逃して……。ママたちに知られるわけにはいかないし」
「もう~。83番とさっさと寝よう」
「そうそう。子どもは早寝が一番よ」
こんな性格だけど、私は結構29番が好きだった。後でわかったことだが、彼女の性格は後年に出会った、巫女のイリヤに似ていた。そんな彼女だから、希望通りドイツで暮らすことを許可したのだ。
そしてここも巫女のイリヤと似ていて、とても鋭いところがあった。そこを期待しての欧州担当だ。そして私の代わりに本部のデスクに通うのは83番の役目となった。
ときどき私と入れ替わっているけれど、1年の大半は彼女が仕事を進めている。霊脈調整もほとんどが83番で、真冬のロシアへお兄ちゃんや巫女のイリヤと走っているのは29番が多い。
他にドイツには31番と59番が暮らしていて、彼女たちは少しメイクをして髪型を変えて子会社で働いている。
「戻ってリセットされるなら、髪を切ろうかなぁ」
「え~。あなたじゃなくなるような気がするからダメ。そういうのはエーテル体の私たちにさせなさいよ」
「それこそ、え~だよ。いつから反対派に?」
「この件に関して。けどさ……こんな状態なのに反対派を誰一人として出さないのね?」
こういうのが鋭いのだ。顔を覗き込んできたので、そっぽを向いたら頬を突かれた。
「反対するっていうのは、正直で嘘がつけず、融通がきかないって面でもありますから」
「論理的におかしいから反対するだけでしょう? 実際、きちんとした理由がある場合がほとんどだし。ふ~ん、あなた。誰を想像して話していたの?」
それは彼女に指摘されずとも、47番のことだ。私は47番を重宝していた。真っ直ぐに異を唱える彼女は、確かにもう一人の私だ。だけど……父が選ぶ国がもし日本なら?
『日本での生活に一番向いている人格は?』
こう自問自答すると、真っ先に47番が浮かぶ。日本の道路でよく見掛けた手による合図や、サンキュー・ハザード。ああいう譲り合い精神に一番馴染むのはきっと47番だ。
「ま、色々お手本になる子だよね?」
「そうですね。姉や母と接するときは47番を見習わないと……」
「そうそう」
後年、47番が漂流したと察知した29番は、泣きながら国際電話で探しにいけと私を急かした。83番も31番も59番も涙声だった。
だからルビーが別のルビーから連絡を受けていると、おチビちゃんに聞いたときは飛び上がって喜んだ。さすがだ。ルビー同士で連絡を付けるとは。
内心大慌てだったと思う。それなのに会ってみると結構落ち着いていて、『家族』を護りたいという思いがひしひしと伝わった。
それと同じだ。このときの私は父をなんとしてでも母や姉のもとに帰したい、ロードやトオサカにウェイバーにシンイチを無事に家族のもとへ帰したいと考えていた。
そしてそれはセイバーも、ランサーたちも同じだった。
だからなのかランサーは己を更に鍛えようと、円卓の騎士に百人組手を申し込んでいた。そしてその日がやって来た。春のお祭りの日だった。
「総掛かりか?」
「まさか。一人ずつだ。それとも貴公の精鋭には一人で百人同時に相手できる者がいるのか?」
「いや、おらんだろう。だがなぁ、仮にも英霊だぞ? 騎士の中には後々英霊となる者もいようが、今はまだ只人よ。そこはズルくないか?」
「そこだ。これは円卓の鼻っ柱を折るためのデモンストレーションだ。実はランサーの力量なら百人総掛かりでも勝つと私は睨んでいる。だからこそ、敢えて一人ずつ相手にするのだ」
「うん?」
「神懸って強い者より、一対一で戦って力量差を知る方が効果が高いのだ」
「おう……負けた後のやる気か?」
「そうだ。調子づかせるのもいかんが、腐らせてもいかん。回復の芽を残さんとな。人とは難しいものだ。大王を尊敬するよ」
「そう考えると、余は臣下に恵まれておったんじゃなぁ」
「そういうことだ。そもそもそちらはあの時代の文化の中心だ。豊富な人材が国にも多かったと思うが、優秀な者がそちらの国に集っていた。それは国が栄え豊かだったからだ。このブリテンもそういう国に変わって行かねばならん。優れていれば古株の騎士を追い越せるとな」
「ああ。その第一歩が貴様のマスターであったか」
「そこもあるし、肩書があると人はその地位に相応しい行動を取るようになる。あの者にも父親らしくなって欲しいからな。でなければエルやイリヤたちが困る。国家を率いていても……自分の国だけで精一杯だ。それを全国家まるごと平和にしたいだなんて、普通願うか? そもそも個人でやろうとすることか?」
「そこよなぁ。それをアーサー王に?」
「もちろん話したし諭しもした。ブリテンは豪族の作った国だ。エルの言葉を借りれば典型的な同族会社だ。一般社員はどれだけ功績を上げても部長止まりだとな」
「なんじゃ。娘っ子に教えを請うたか? で、本当の答えは?」
「大王の考えに近い。やるなら植え替えだそうだ。つまり古株をどんどん他国へ指導という名目で出せと」
「その地、その地の王にはできんから指導官といったところか?」
「そうだ、言ってみれば文化の伝道師だ。そこでこそ活きる者も出るだろうし、腐る者もいよう。が、腐ったなら新たな者と交代させるだけだ。時代についていけん者は、そのまま帰らんでいい。人道的なリストラだろう?」
「はぁ~~。しがらみを切るには上手い方法よな。余もしがらみで泣かされたからな。王の娘から連絡はあったのか?」
「あった。ランスロットを捕まえ和解したそうだ。そしてブリテンのために諸国を二人で巡るそうだ。マケドニアやローマに向かうらしいぞ?」
「そうか、楽しみではないか」
「ああ。あちらの王も笑っていたよ。むしろやっと笑える余裕が出たと言うべきか」
「アルトリアよ。お主もよく笑うようになったぞ? 娘っ子のお陰かの?」
「ああ、エルのお陰だろうなぁ。こんなところまで来るとは夢にも思わなかったからな。付き合わせて申し訳なく思う」
「いや、それは良い。余も学ぶことが多いでな。それに坊主も坊主の師も良い顔になったわ」
「ああ。ウェイバーは逞しくなったな。シンイチは一層美人になっているが……」
「あれはあれで良いのかも知れんと思うようになった。あれも強さの裏返しよ」
「かもな。おっと始まったな」
「娘っ子たちは?」
「どこかで見ているだろう」
二人がアーサー王の席の横でそんなことを話していたとはつゆ程も知らず、私たちはランサーを応援していた。
「いけ~! ディルムッド!」
「その顔を思い出したら、夜も眠れなくなるくらいやっつけちゃえ!」
クッ……。その声援はなかろう。どんな魔貌だ。しかし、今の自分が生前の自分とどう違うのかがよく分かる。彼らもよく鍛えられた見事な腕前だ。
だが、遅い。どこまでも遅い。その右からの払いは受けずに懐に入って石突きで倒す。むせる騎士。なんとも手応えがなくアッサリだ。
この国へ武者修行に来ている他国の騎士ならまだしも、円卓の何人かも倒してしまった。気分転換になればと受けた百人組手だが、これっていかにも私らしく墓穴を掘っていないか?
ちらりとセイバーたちの方を見れば……セイバーと大王は笑っており、アーサー王はこめかみがピクピクしている。
「次は俺だぁ~~~~!」
擦れ違いざまに、みぞおちへ一撃。擦れ違って背中から一撃。そのまま相手は砂の上を滑っていった。
「かの騎士は赤枝のディルムッド・オディナだったな? 円卓とここまで差があるのか……?」
「いや、アーサー。円卓は十分強い。きっと私が率いた騎士たちより、あなたの騎士は強いだろう。だが、これが人を超えし英霊のチカラなのだ。だからこの勝負を進言したのだ」
「同族やそれに連なる縁故の騎士が多いので、人間関係が閉塞している────そのようなところから吹き出た不満が反乱となる……で、あったな。確かにそこはあなたの指摘通りだと思った。そこに風穴を開けるには、古参の騎士たちの鼻っ柱を折る必要があるとの意見にも賛成した。しかし……これは鼻だけでなく精神も折れるぞ?」
「それで良いんだよ、アーサー。年老いた古株の騎士は、自らの意志で引退を選んで欲しい。家に帰れば子どころか孫までいる騎士が多すぎるのが、ブリテンのネックだったのだ。ウーサーの時代から仕え、国のために尽くしてくれた彼らに、やはり私も辞めろとは言えなかった。そして重鎮である彼ら一人一人に多くの同族同門がついている。これらがまた、自分たちの当主を、更には自分たちを重用しろと不平を述べる。それを城の外での寝泊まりから始まって、食堂で叩き上げた若い騎士はどう思う? 他国から来たにも関わらず、自らの才だけで上り詰めたランスロットはそんな彼らの希望の星だったのだ。ここを知らねば。そしてモードレッドはそんな若い騎士の不満や、年月を経ても昇進できない中堅騎士の不満を知っていたのだ」
「昇進できないとはなんだ? それは武功を立てれば考慮しているぞ?」
「そこだ。古参の騎士の一門が忖度したり駆け引きに使っていたのだ。『武勲には食料でもって応える』……家族の多い騎士には嬉しいぞ? そうやって彼らは一時の食料で出世を売ったのだ」
「アグラヴェインか!」
「そうだ。それをランスロットとモードレッドは知っていた。その不満が最後の最後でカムランへと至ったのだ。アーサー、人が国家を営むなら国家もまた人だ。血液が流れず、細胞が入れ替わらねば老いていくのだ」
「……読めてきたぞ。こうして騎士たちが変われば、ランスロットもモードレッドも戻りやすい。また、不満を溜めキャメロットを去った優秀な騎士の復帰もあり得る」
「そうだ。そして今はピクトの腕自慢も増えている。やがてはもっと他国の者も増えるだろう。そうやって国は変わらねばならん」
「アルトリア……。ありがとう。あなたに感謝を……」
「私は失敗した者だ。だからこそ、あなたには成功して欲しい。おっと全員倒してしまったな。どうだ? 行くか、アーサー?」
「私が出て負ければ大事だぞ?」
「だから鎧を貸せ。エルが全員に幻術を掛ける」
「アルトリア……?」
「フフン……言ったろう? あなたには成功して欲しいと」
全員倒してしまったが良いのか……? 主やトオサカが使い魔で見ておられるのは知っている。その意味で良いところを見せらられたと思う。が、これは不味くないか?
む、次の騎士? いや……あれは、王……? 違う、セイバーだ。そういうことか……。
「おお! 魅せる、魅せよるのぅ……」
「かれこれ半時は続いておりますな、大王」
「おお、マーリン。アーサーの通訳は要らんぞ? 顔を見ればわかるでな」
「ですな」
勝敗はオレが先に根をあげた。理事から魔力を送られるセイバーのチカラは無尽蔵だった。私とて今はソラウ様や理事からでなく、ケイネス様自らの魔力を頂戴している。そこに報いたかった。
しかし、その魔力量の差はいかんともしがたい。
〈ランサー、ご苦労。見事に負けたな?〉
〈こ、これはケイネス様。お恥ずかしいところを……〉
〈よい、見事な勝負だった。赤枝の一番槍は伊達ではなかった。それにサーヴァントは総合力だ。私とランサー、理事とセイバー……その力量差だ。決してお前が弱いわけではない〉
〈ケイネス様……〉
なんと高貴な精神をお持ちなのだろう。オレはケイネス様が主で良かった……。
勝負という名のレクリエーションが終わった。今回のイベントは春のお祭りを兼ねていたのだ。闘技場から移動してお城の前の広場に行けば、シロウさんの指導で作られた春野菜のシチューが皆んなに振る舞われる。
「なんのシチュー?」
「肉は熟成させたイノシシだ。それをイノシシの骨でとったスープで煮込んでいる。コンソメと香辛料は持ち込みだけど、野菜も肉もここのものだ。芋が多めなのは芋煮や豚汁をイメージしてだな」
これがかなりオイシいのだ。今日集った近隣の村人は、皆んな作り方をマーリンさんを通してシロウさんに尋ねていた。堪りかねてセイバーがレシピを看板にしたくらいだ。
サラマンダーのサランもバキバキとイノシシの骨を齧っていた。
見渡せば、普段娯楽の少ない主婦や子どもが多い。年若い娘たちも、精一杯着飾って騎士の目を引いていた。ランサーの後ろを50人くらいのお姉さんが着いて歩いている。
「これは魔貌ではないな。純粋に貴公の活躍にしびれている」
「やめてくれ、セイバー」
「強い男とは、自分を守ってくれる男のことだ。本能で惚れられるのは仕方ないだろう?」
「……そこはわからんでもないが」
そこへ大男が人をかき分けやって来た。
「よぉ、良い戦いだったな?」
「ライダー。最後は負けたよ」
「あれで良いんだ。勝ったのはアーサー王よ。そして若者たちはアーサー王に並ばんとする貴様に憧れる。帰るまで貴様が教練にあたれば、なお良い」
「それは……セイバーの計算!?」
「そうよ。観戦中にすべて種明かしされてな。当然貴様のマスターも知っていたようだぞ?」
「奴は学者肌なタイプに多い気難しさと繊細さを併せ持つが、政治にも通じている。最初から相談していたのだ」
「セイバー……」
「良いマスターだな?」
「……ああ。ケイネス様は最高のマスターだ」
この会話を立ち聞きしていた私はセイバーに舌を巻いた。これが国を滅ぼしてしまった人の考え方? どれだけ彼女はその悔しさを溜めに溜めていたのだろう。
そしてそのバネは大きく弾け、こんなカタチで表れた。私は心底セイバーを尊敬した。
切嗣は領地を持たない男爵になりました。
そういう爵位がこの時代にあったかどうかは知りませんが、列侯に叙せられたのはセイバーの深い意図があってです。
次回は夏の思い出かな?