秋になり、約束の1年が過ぎた。数々の知識や知恵を纏めた資料や、今までしたためた思いつきなどを清書したノートなどをマーリンさんに預けた。
お別れ会の食事は、この時代のブリテンとは思えないほど豪華だった。
セイバーの手を取ってアーサー王は何度も頭を下げていた。もちろん大王やランサーさんにアサシンさんにも。けれどランスロットさんとの会話は少なかった。
「貴公の働きは存分に承知している。並行世界であることも理解している。なのに……すまない」
「いえ、王よ。私の方こそ感謝しております。多少なりとも罪滅ぼしができた気が致します……」
「そうか。達者でな」
「はい」
カスケイドは父にしがみついて泣いていた。
「もう、もう、会えないのか!?」
「すまない、カスケイド。今までありがとう。ブリテンは君に任せるよ」
「ああ、わかった。任せてくれ……」
シロウさんも自分に置き換えたのか、涙が光っていた。
城を出ても円卓の騎士やピクトの騎士が見送ってくれた。
そして城から離れかなり進んだところで、ある方角から声が届いた。
「待て~~! 待ってくれ~~~!」
近づく馬を操るのは白銀の鎧をまとった騎士と、真っ黒な鎧の騎士だった。
「ま、間に合った……はぁ~~」
モードレッドとランスロット卿だった。
「黙って消えようとしやがって。せめて挨拶くらいさせろ」
「どうしてわかったんですか?」
「新しい仲間に、腕の立つ魔術師がいるんだ。そいつに見張らせといたのさ」
そうしてモードレッドは私たち一人一人を抱きしめ、サーヴァントと握手を交わし、セイバーに誓いを立てていた。
「守備は?」
「3年だ。ガリアの王を数人口説き落とした。農家も付いている。他の土地でも何人かの王と話しを進めている最中だ。だからあと3年で大きく動くと思う」
「そうか……。よくやった。モードレッドよ、世界を変えろ」
「ああ!」
そしてモードレッドとランスロット卿の見送りで、私たちはアインツベルンの森へ帰ったのだった。
ママたち、私たち、父にトオサカに、ロードとシンイチ。そしてウェイバーの合計10人。
セイバーに大王、ランサーさんにランスロット卿、そしてアサシンさんたちの合計5人。私たちを一人と数えるなら、それは奇しくも13人だった。
黄金の王とシロウさんに魔法使いは、道を示しただけで帰りから居なかった。
樹々が変化しなんとなく空気が和風な感じがすれば、そこはブリテンでなく日本だった。そんな匂いも空気感もありはしないのだけど、戻ったという感覚は明確にあった。
なぜなら森の樹々と、樹々が織りなす結界が『馴染む』からだ。そして目の前には、城と言うには小振りな大きさの館があった。以前見た円筒の塔がくっついたデザイン。それは間違いなく冬木のアインツベルン城だ。
「ここに出てくるんだ?」
「どうする、休んでいく?」
ミトが寒さに震え上がっている。それを察した父がコートの中に包んでいた。
どうやらここは冬だ。衣類を揃えないといけない。それに父もトオサカも皆んな、最初に着ていた服だ。あちらで洗濯してしまってあったものだ。
「待って、ミト、パミ。お城に人の気配とサーヴァントの気配がある」
「え?」
そこに父が。
「静かに。舞弥」
「はい」
父がなにを言っているのかすぐに分かった。10代後半くらいのお兄さんとお姉さんが樹に登って窓からお城に入ろうとしているのだ。
「あれは……まさか」
トオサカのつぶやき。お姉さんは、あの魔法使いに似ていた。
「やられたな。ここは元の世界ではない。第五次の世界だ」
そう言うやいなや、セイバーはランサーさんを伴って二人を樹から降ろした。
「セ、セイバー……? え、ええ!? お、親父にイリヤの姉妹……?」
「おおおおお父様!?」
この会話中、アサシンさんが分裂してお城の中に潜入している。
「落ち着きなさい。大体の事情は察した。だけど、今の段階でお互い悠長に情報交換する時間はあるかな?」
「いや……。俺たちはサーヴァントを失って……イリヤに協力を求めに。けど中で戦闘の気配が……」
父に状況を話そうとする、あの夢で見たお兄さん。
「わかった。時臣?」
「ああ、アサシンからの報告があったよ。アーチャーとバーサーカーが交戦中だ。君の夢が正しいなら、バーサーカーはヘラクレス。そしてアーチャーは第四次から残ったギルガメッシュだ」
「あ、あいつってギルガメッシュなの?」
こうやって並ぶと魔法使いのキャスターより、お姉さんの方が父親似に思える。
「時間的猶予はないと見た。セイバー、バーサーカー、行ってくれるか?」
「いや待て、切嗣君。ライダーに宝具で突っ込ませ、バーサーカーのマスターを拾うんだ。さもないと……」
トオサカはウェイバーとライダーを見た。
「世界違いのお前さんの娘か……わかった。娘っ子、あいつの宝具を頼めるか?」
これは等価交換だ。私はうなずき、父も不承不承うなずいた。戦車に乗ったのはライダーとウェイバーに私だ。
「どこから入れる!?」
「正面玄関に!」
大王の叫びにトオサカが答えた。玄関側には舞弥さんが待機していて、突入口を示していた。
AAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie~~~!!
大きな木の扉をぶち破ったら、髪をおろし現代の服を纏った高慢ちきそうな王が居た。
「なに!? ライダーだと!?」
大王は予定通り、呆然としているここの姉をひっつかんで戦車を反転させた。
「おのれ!」
雨あられと宝具が襲うが、全部私が取り込んだ。神牛を捕らえようとする鎖も頂き、ゲートを固定し、中の宝具を吸い上げた。
「簒奪者だと!? おのれ~~~!」
そこへランサーさんが飛び込んできた。ゲイ・ジャルグで肩を突き、横薙ぎのゲイ・ボウで腹を裂いた。不治の傷だ。
「ランサーさん、殺さないで!」
「なぜだ!」
「そいつの宝具を全部奪う!」
「な!?」
そして5分掛からずすべてを奪った。その間に皆んなが駆けつけた。
「イリヤ!」
「そ、その声は……キリツグ!?」
姉は両目から血を流していた。目を潰されているのだ。治癒の魔術は掛けているけど、元に戻すには材料が必要だ。霊体化した大きなバーサーカーが心配そうにしている。
「説明は後だ。どこか話せる場所はあるかい?」
「なら、俺の家に行こう」
お兄さんの提案で私たちは腸をぶち撒けている、瀕死のサーヴァントを置いて森から出ることにした。
「お、おのれ~~~……」
「あの黄金の王と同じとは思えんな?」
大王の感想はセイバーを除けば皆んな同じだった。
「惨めだな? 介錯するのも穢らわしい」
セイバーが吐き捨てるようにつぶやいた。そこで物陰から逃げようとしたあの茶色い服を着た、青髪のお兄さんをアサシンさんが捕らえた。
「慎二か……」
シンイチがかぶりを振った。ランスロットさんがそのお兄さんを殴って気絶させ肩に担いだ。
「ここが第五次の世界なら、桜ちゃんが危ない。この聖杯戦争がどこまで進んでいるのかわからないけど……」
「慎一君、焦るな。取り敢えずは彼の家に行き、現況確認だ」
「はい」
トオサカの言葉で頭を冷やすシンイチ。私たちは今度こそ森を歩いて街に出た。ただしお兄さんたちの言う東南側からでなく、国道に近い北側からだ。
そこからバスに乗ってお兄さんの家に近いバス停で降りた。支払いで一応硬貨は使えたが、紙幣は怪しい。なぜならここは10年先の未来だから。
想像しうる限り、お兄さんの経済状態はそんなによくないだろう。となると食費諸々をどうにか調達しないと。
「お父さん、舞弥さん。日本にアハトが持っている口座はありませんか?」
「当面の資金か。わかった、残っていないか確認させよう。舞弥?」
「はい。合流は例の武家屋敷?」
「この道ならそうだろう。携帯のバッテリーはあちらでとっくに切れている。取り敢えずはエルか慎一君の使い魔を」
「わかりました」
使い魔は私のを預けた。その後、お兄さんの家に皆んなで入った。あの忍者屋敷だ。
「武家屋敷な」
セイバーのツッコミだ。私たちはイリヤをママたちに頼んで別室で休ませた。タタミのリビングでお兄さんが紅茶を出してくれたがマズい。
けどタタミにホコリはなかった。
「セイバー、その姿は? それにその子たちは?」
「どこから話すべきか」
お兄さんの質問に逡巡するセイバー。そこを父が代わった。
「この子たちは僕の娘だ。そして、君と僕に接点はない。別室のイリヤは、間違いなくここの僕の娘だろう」
「え?」
「僕の名は衛宮切嗣ではあるけれど、こことは異なる並行世界の衛宮切嗣なんだよ」
「あ! お父様もそういうこと? どういう奇跡!?」
「その奇跡の出どころは今はおいて欲しい。ともかく僕たちは君たちの知る人とは別人であること、君たちがかなり危険な状況下に置かれていることを僕たちが理解していること、そしてそんな君たちを救ける用意があることを知って欲しい。それでだ。何があった?」
そこからお兄さんとお姉さんがポツポツと語りだした。
「つまりセイバーはキャスターに奪われ、アーチャーは君たちを裏切ってキャスターの陣営に付いたと?」
「……そうだ」
「あのバカ……」
そこでセイバーが言った。
「バカは死んでも治らん」
「どういう?」
「ここでの聖杯戦争が始まって何日目だ? 自分のサーヴァントの過去くらい、夢で見てないか?」
「…………」
「そうだ。奴の真名は『エミヤシロウ』だ。『世界』に祈り守護者となった。そしてそのことを後悔し、矛盾を作らんと自分殺しを企んでいる」
お兄さんとお姉さんが目を剥いた。だけど驚きは一瞬だった。そのアーチャーが何者であるかをお姉さんは気付いていて、お兄さんは薄々察していたようだ。
「そんなことをしても、『世界』との契約なんて切れるものではあるまいに。それともまさか、その契約解除を聖杯に願う積りなのか」
「聖杯に願うものなどないって言ってたけど……」
「ま、それはそうだろう。その汚染された聖杯の泥で街が焼け、生き残ったのが『エミヤシロウ』だからな」
「う……」
「汚染?」
「第三次でアインツベルンが喚んだのはアンリ・マユだった。実際はその悪名を着せられた贄の儀式で死んだ亡霊だ。ただその亡霊が逆の……悪性の信仰を背負っていて、そいつが聖杯を汚染したんだ」
「あの新都の大火災って……」
「そういうことだ」
ロードとウェイバーにはトオサカが説明していた。アサシンさんたちは教会や各陣営を調べに出ている。ここでの監督役がコトミネだと知っているからだ。
そして魔法使いの意図も明白。この世界での……サーヴァント以外の参加者全員を救けろという意味だ。
『死者が生者に仇なすなどおかしい』
セイバーの言葉だ。そしてきっとキャスターは、どこからともなく現れた私たちの存在を知ってパニックになっている。このままだと拠点を替えられる可能性が高い。
と言っても、そこまで考えてのアサシンさんたちなのだけど。
「ランサー? アサシンからの一報が入った。今のマキリは先代と少女しかいない。シンイチとランスロットを伴ってサクラという子を救って来い。内臓に寄生されている可能性が高いので、こちらは心霊治療の準備をしておく」
「承知しました」
ロードの命令だ。この部分は早口の英語なので、お姉さんに理解できたかは不明だ。
「まずは引き算だ」
そう言って父はチラシの裏にサラサラとペンを走らせた。
セイバー/衛宮士郎
アーチャー/遠坂凛
ランサー/言峰綺礼
ライダー/不明
バーサーカー/イリヤ
アサシン/キャスター
キャスター/葛木
ギルガメッシュ/間桐慎二
「これで間違いないね?」
「ああ、これで間違いないはずだ」
「では僕の推論を話そう。これは前回の第四次から繋がっている」
「それは?」
「このギルガメッシュは、言峰綺礼のサーヴァントで受肉している」
「受肉?」
「10年前から残っているってこと?」
「そうだ。召喚者は君の父親、遠坂時臣で間違いない」
「じゃ……」
「この言峰綺礼に殺され、奪われたんだろう」
「いや、あのギルガメッシュは私の知る王ではない。結託していたと見るべきだよ、切嗣君。つまりここでは璃正さんがおらず、綺礼の持つ悩みを解決していなかったのだろう」
セイバーの通訳で渋い顔をしたのはロードだ。私たちは既に全部を知っていた。ただリセイが生きていたとしても、私たちの世界のように早くから悩みを解決できていたかどうかは不明だった。
ともかく悩みを抱えたままのキレイは危険人物だった。そして彼は生者に仇なす死人でもあった。
「すると慎二は?」
「魔術回路がないのにマスターになれるはずがないだろう? 君たちを惑わすためのカモフラージュだよ」
「え? じゃ、ライダーのマスターは?」
「時臣、ボケてるのか、この子?」
「切嗣君、言ってくれるな。どう考えても桜だろう?」
「え~!」
「な、なんで桜がマスターなんだ? だってあいつは普通のやつで……」
「彼もボケてるね?」
「はぁ……。君は知らなかったんだね? 間桐桜の旧姓は遠坂だ。彼女の実の妹だよ」
「今の育った顔がそうとう違うのかな? 小さい頃はそっくりだったんだけれど……」
お姉さんは、顔が真っ赤になったり青くなったり忙しかった。
ここでママたちがイリヤを連れてやって来た。
「横になって考えていたんだけど。キリツグは並行世界のキリツグね?」
「そうだよ」
父は並行世界の姉に優しかった。その胸中は理解できる。聖杯として無茶な調整を受けてしまって……。私と7~8センチくらいしか身長が変わらないのだ。
「ここはどこ?」
「衛宮士郎の家だ。ここの僕が彼に残したんだろう」
「そっか……やっぱりキリツグは死んでいるんだ……」
「恨んでいるんだね?」
「ッ……!」
「僕の方では、アイリもイリヤも元気だ。彼女たちを救えた。この子たちのお陰で」
「そうだわ。メイド以外の触覚を感じるわ。誰?」
「イリヤの妹だ。僕も知らなかったんだ。9代目の家に養子に出ていてね。日本へ立つ前に出会って。そしてアイリたちの聖杯を封印してもらって、聖杯戦争を止めるために乳母のメイドたちとこの子とで向かった」
「そ、それが10年前?」
「いや。僕のイリヤもこの子もまだ8歳だ。そして僕たちは君たちが思うより10歳は若い。そしてあちらの聖杯戦争はまだ終わっていない。キャスターの罠というか……ともかくこうやって世界を巡っている」
「そうなんだ……。ねぇ? どうしてキリツグは帰ってきてくれなかったと思う?」
「人類からあらゆる争いを失くそうとして……けれどそれはどうしても無理で……最後は聖杯に祈るしかないと冬木に来たんだろう。だけど祈るべき聖杯が妻で、次があるなら娘が聖杯だ。後戻りのできない戦い。きっとこれが人類が流す最後の血にしようと心を鬼にしたことだろう。なのに汚染された聖杯は、街を焼いて罪のない犠牲者を生み出してしまった。その罪に耐えられなかったんじゃないかな。そして母親を犠牲にした道が間違っていたと認めてしまったから、君に合わす顔がなかった。たぶん、遅ればせながら迎えに行ったと思う。でもその頃は聖杯の汚染で身体を蝕まれていて、あのドイツの結界を抜けなかったんだろう」
父は自分に置き換えて、心情を明確に話した。姉の目の上に巻いた包帯が涙で滲んでいる。
「バカなキリツグ……」
「そうだね。バカだったんだよ。冬木に来る前、この子に言われたよ」
「なんて?」
「妻や娘を愛しているなら、器を別に用意しろとアハトに言えって」
「そんなの言えるわけ……」
「けど、アイリとイリヤの聖杯を封印してくれたのはこの子だよ。第11代アインツベルン総裁のこの子がね」
おずおずと、見えもしない私の方に感覚だけで顔を向けた姉が尋ねてきた。
「そっちが10年前なら、8歳なんだよね……?」
「ドイツ語か英語で話しかけてあげて」
姉はドイツ語に切り替えてくれた。
「はい。分割された卵子が別々に受精され、一つは母の胎内に戻され、一つは9代目に渡され培養槽で育ちました。それが私です。ドイツのお城で会うまで、私は両親がいることも、双子であることも知りませんでした」
「双子なんだ? じゃ、この他の人の気配は?」
「彼女たちは私の魔術で作った私の分身です」
「そんなこともできるんだね」
「材料さえあれば、あなたの目も治せますよ。そしてアハトを止めます。あなたはアインツベルンの人形ではありません。何騎か取り込んでいるようですが、それも封印処置します。ここで義理の弟さんと生きて下さい」
「弟!? そっか、シロウは弟になるんだ?」
「お姉ちゃんなのでしょう? 守護者になったりしないよう見守ってあげて下さい」
「え? 守護者? どういうこと?」
「アーチャーの真名が『エミヤシロウ』なんですよ」
「ええッ!?」
「驚く前に切り分けて考えましょう。この儀式はまず根源には行けません」
「どうして?」
「繋がるのが英霊の座だからです。仮にアカシックレコードに届いても、それは住所録ですよ。どこに第三魔法があるのかのアドレスがわかれば良いほうです。根拠はこの大聖杯にそのアドレスが刻まれていないからです」
「ええ~~っ!」
「そしてこの儀式は、『世界』が守護者を紛れ込ませるほど危険なものでもあるのです」
「聖杯がカタチをなしたら、『世界』が動くってこと?」
「そうです。どちらにせよ根源には行けない儀式なんですよ。そんなものに命を懸けたり、使命を感じるなんて無駄ですよ」
「ああ……」
こうやって私は姉に知りうる限りの情報を話してあげた。その間、父はお兄さんと日本語で話していた。内容はたぶん『正義の味方』の否定だろう。
ただし単刀直入には話さず、心的外傷後ストレス障害のことから話していたようだ。気付いたセイバーが途中から訳してくれた。
「ごく普通に考えてごらん。君の養父はきっとその道が間違っていたと後悔した。だから『期間限定』だと言ったんだ。だけど幼い君はそれを引き継ぐと言った。それはね、親としては嬉しいだろう。だけどその僕は、これだけは言わなきゃイケなかった。変革は緩やかに。何世代掛けても、周りの人から変えていく気持ちでってね」
「え?」
「わからないかい? 何も『正義の味方』が君だけである必要はないだろう? 一人じゃできないことも二人三人と増えればどうだい? あのス◯パーマンも地球の裏側の面倒は見てくれない。アメリカの、それも限定された地域のヒーローだ。怪獣は日本にしか来ないのかい? シ◯ッカーは日本でしか暗躍しないのかい?」
「何のことを……?」
「だから、地球の裏側で泣いている人まで救けたいと願うなら、組織が必要なんだ。そして一番手っ取り早いのは、政治なんだよ。それでも取りこぼされる人はいる。だって政治家も地域限定だからね。ならどうする?」
「え~と……?」
「君や僕みたいなバカが、この広い世界には100人はいるだろう。それを探せと言っているんだ。そして子や孫の世代になれば? 1000人にはなるかな? この子どもに繋ぐという行為が魔術師だよねぇ。士郎君?」
「あ、はい……」
「『正義の味方』に憧れるのはいい。亡き父親の夢を叶えたいと願うのもいい。だけど君の父親が正しかったかどうか、君の信じる正義が正しいかどうかは常に考えなさい。それは巡り巡って誰かの悲劇になるかも知れないから」
「どういう意味ですか?」
「君が今にも死にそうな子どもを救けたとしよう。幼い命を未来に繋げられた……素晴らしいことだよね?」
「はい」
「だけど、その子が真っ直ぐ育つかどうかは別物だ。近い未来、通り魔殺人をするような人間になるかも知れない」
「そんなの……誰にもわかるわけがない!」
「だけど、守護者になった彼は、『世界』にとって都合の悪い事象をなかったことにするために大勢の人を殺めている。それが嫌で彼は守護者から抜け出したいと望むようになった。死後を願ったのは、他でもない自分自身なのにね?」
「う……」
「わかるかい? 彼もちっぽけだけど、僕も君もちっぽけなんだ。そこを忘れちゃいけない」
「だから仲間……?」
「そうだね。間違っていたら諌めてくれる、正しいことなら一緒になってやってくれる仲間。そういう子なんだろう、彼女は?」
そっか、お兄さんはお姉さんを……。父も口が回るようになったなぁ。だけどトオサカはめっちゃイヤな顔をしていた。並行世界ですよ?
「僕の年齢でも何が正しいかなんてわからない。結局自分の中の狭い常識と良識で判断しているだけだ。君が絶対の正義だと言い切る自信があるかい?」
「そ、それは……」
「悩むだろう? だからさ。それが見えてくるまで学校に通い社会経験を積みなさい。焦る必要はない。君の時間は有限だ。ヨボヨボになってしまえば『正義の味方』もお終いだ。だけど組織だてられたなら? 五世代くらい経って君と志を同じくする者が1万人になったら? 積み木は一番下の土台が肝心なんだ。焦らず正しい場所に君という積み木を置くだけで良いんだよ」
これは全部私が父に言ったことだった。この1年、父とは何度も討論した。そのことは無駄ではなかった。商売をやればわかること。会社の一つでも持てばわかること。国を率いて王となればわかること。
自分が狭いから見えていない。そこを父は理解してくれたのだ。だけど、日本で暮らすようになっても公共料金や保険を理解しなかった。
それでお祖父様名義の会社に務めるサラリーマンにして、税金や年金に社会保険を給料からの天引きにした。人を殺さないだけで今までと変わりないあんな仕事だと、普通なら個人事業主で個別契約だけど、そうは行かなかったのだ。
『正義を語る前に社会常識を学べ』
この点では、まだお兄さんの方が偉い。申告はむちゃくちゃでも払うものは払っていたようだから。
まぁ、そこはともかく、ここのセイバーを取り返しに行くことは決まった。それはアサシンたちからの報告でキャスターが教会に移動したことが判明したからだ。
トオサカはお姉さんに宝石をいくつか渡していた。
「教会も霊脈の上に建っている。魔術師のサーヴァントなら半日あればそれなりの陣地を作るだろう。そこで対魔力の高いこちらのセイバーを先頭に攻め込むのがベストだ。だけど陣地が地下の礼拝堂なら入口が狭いので突入が難しい」
トオサカの見解だった。そこにロードが入った。
「ハーウェイ理事。図面だけで行けそうかね?」
「使い魔で視覚情報が得られれば行けますけれど……」
「『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』で『遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』を行えるのならば、あるいは……だな」
「教会がむちゃくちゃになって、そのクズキという人が死にますよ。パミとミトを跳ばすかなぁ」
そこで声を上げたのがお姉さんだった。
「その空間転移、私に掛けて。キャスターをぶん殴る!」
「おい、遠坂?」
たしなめるお兄さん。だけど……。
「リンはそれで良い。一瞬のチャンスさえものにしてくれれば後は私がやる。いいな? キリツグ、エル?」
セイバーがやる気満々だった。
「0.5秒も差をつけずにランサーさんが破魔の槍で補佐してくれるのなら」
「どうだ、ランサー。行けるか?」
「誰に聞いている。よろしいでしょうか、ケイネス様?」
「お前は、我が成果として時計塔に連れ帰る積もりだ。五体満足で帰ってこい」
「はい!」
そんな風に決まってしまった。そこで宝石を分けてもらっているのだ。
「バーサーカーも連れて行って!」
「ダメです。魔力を少しでも傷の回復に回さないと。あなたの聖杯戦争は終わりました。そこを理解して下さい」
するとバーサーカーが庭で現界して吠えた。
「う~ん……」
「エル、魔力を分けてやれ。狂化されていても彼は一級の戦士だ」
「そうですね……では、彼をお借りします」
「お願い」
バーサーカーがスッと霊体化して私についた。
「ここは僕たちとライダーが守る。慎一君が戻ればここに引き留めるよ」
「お願いします」
そうして私たちはトオサカの家によってから教会に向かった。寄り道の理由はコートだった。小さな頃の衣類が残っていると言ってくれたのだ。
その申し出はありがたかった。体温を上げてもいいけれど、今は魔力を温存したかったからだ。
日はとっくに暮れていた。バスがまだ残っていたのはラッキーだ。交差点のバス停でバスを降り、目に入ったパン屋さんでパンを買った。
「食べてから出れば良かったな?」
「私もお腹すいた。衛宮君、私たちも少し食べよう?」
「そうだな。遠坂は何が良い?」
「そうねぇ……」
私は迷わずホットドッグを買った。そして皆んなでむしゃむしゃと食べながら夜道を進んだ。教会へ続く坂を登ると、そこに槍を抱えた飄々としたサーヴァントが立っていた。
「チッ。道理でお前さんたちに会わないはずだ。助っ人がいたのか。ちっと数のバランスが悪いだろう? 姿を見せろや」
「口の減らん男だ」
「何ッ!? セイバーだと!?」
そして私は空間転移で青い変な奴の口にホットドッグを押し込んだ。あのお店のは、マスタードが辛いんだよ。
「ブハッ、ガハッ! 何をしやがった!?」
「それは熱々に焼いた犬のな……」
「何ッ! て、て前ぇ……」
私はポケットからワルサーTPを抜いた。1年ぶり? 弾はまだたっぷり残っている。
「ケッ、そんなもんが効くかよ」
スライドが後退し薬莢が跳んだ。そして銃口から出た弾は、22口径のロングライフルだけではなかった。弾を避けて跳ぶとみた場所にバーサーカーを跳ばしたのだ。
反対側にはランサーが『必滅の黄槍』を構えている。
岩のような無骨な大剣は青い男を両断した。剣は予め取り込んであった。だから刃を5本に増やして加速したのだ。それでもそのうちの一つしか通らなかったのだから、あの男も大した英霊だ。
「誰だったの?」
「クー・フーリンだ」
「それで熱々の犬って……?」
「あいつは魔術師でもあるからな。エルの魔術とフェイントを誤魔化すためだ」
お兄さんたちが日本語でなにか話していた。
「遠坂、あのちっこい子が……」
「ええ……お父様が言ってた。天才だって……」
金色の粒子を踏んで教会の前に行くと、双剣を構えた赤い男がいた。セイバーが前に出た。
「エミヤシロウ。自分殺しはさせんぞ?」
「お前は誰だ!?」
「アルトリア・ペンドラゴン。私もまたセイバーだ。その腐った性根を叩き直してやる」
ズバンッ!
そんな音を残してアーチャーの右腕がくるくると宙を舞う。バーサーカーが悲しげに空を見上げた。
「な、なぜだ……。君はどこから現れた……」
「並行世界からだ。ちなみに私のマスターはキリツグだ。顔を会わせたくないだろう? だから座に帰れ」
「奴は……会ったのか?」
「ああ、会った。一人でやるな、仲間を増やせと諭されていた。時間は掛かるだろうが、お前の轍は踏ませんよ」
「……そうか」
背中からエクスカリバーが生えた男は、なぜか満足そうな顔で光に変わった。
『リン……すまん』
「親子揃ってくだらん言葉を残すな」
「なっ?」
「ちょっと、セイバー?」
「英霊は朝日に照らされ消え行く夜露のようなものだ。あいつも私も既に死んだ亡霊だ。この時代の、この時間に喚び出された現象なんだよ。そんな現象にいちいち感傷を懐くな。生きているお前たちが前を向かんでどうする?」
「……ええ。行くわよ!」
日本語はわからないけど、少しうつむいていたお姉さんがしっかりと前を見た。その顔はとても凛々しかった。
地下に降りる階段の前で骸骨が踊っている。知ってる。これは竜牙兵だ。
「やって、エルヴァ!」
「はい!」
私はお姉さんとお兄さんを跳ばした。竜牙兵を蹴散らしたセイバーが、階段を駆け下りてランサーも続いた。階段は途中に踊り場があり、そこから下が見えた。
セイバーがふらついていて、ランサーが男性を捕らえていた。キャスターは祭壇の奥でノビている。何があったの?
バーサーカーが雄叫びをあげて白いドレスを着た、ここのセイバーの戒めを解いた。ダメだ。魔力が切れかかっているみたい。
「お姉さん! あなたがセイバーと再契約して!」
「あ、そっか。その手があった」
「危ない、遠坂!」
立ち上がったキャスターがお姉さんを刺そうとした。それを咄嗟にかばうお兄さん。
だけどバーサーカーの方が速い。思いっきりぶん殴ったら、キャスターが破裂した。まるで電車に撥ねられた人のようだ。内圧が急激に上がって皮膚が持たなかったのだ。
ランサーにアーチャーもキャスターも、こちらが1年前に用意した別の器に吸収された。え? アーチャーとキャスター……?
「やられた~~! あいつら、身代わりの生贄で形代だ! あんの魔法使いめ~~~!」
次回は謎解きと、セイバー対セイバー・ライダー組の問答です。
こうじゃないだろ! もっと熱いものを!
わかります。けれどこれはそういうお話です。