自分なりに描いた救済ですが、いかがでしょうか。
「炉心をタービンだと言われました」
「ああ、それ。私自身も炉心を持っていますが、それを過給器のように感じていたのでそう話したことがあったんですよ」
「最初は何のことかわかりませんでしたが、第四次で充てがわれたバイクで例えられ理解できました」
「コンニャクフレームにキャブターボ。キャスター角の寝たドラッガーでツインターボって、イカれてますね?」
「あなた方は全然異なるバイクを用意されたそうですね?」
「ええ。フルカウルですが、思ったより小さく取り回ししやすいバイクです。車重も軽いですし」
「しかしライダーと対抗しようと思えば」
「こちらは戦いでなく、最初から話し合いが前提でしたから。誰もいない大きく開けた道路は走らず、峠道や市街地の道路ばかりです。それも日のあるうちに。夜は冬木から離れて温泉宿を転々としていました」
「戦わない前提ならそれは有効ですね?」
「はい。裏返せば現代の聖杯戦争は、自ずと都市戦にならざるを得ない。この儀式が200年も前の古いものだった証拠です。そこからも破綻しているのですよ。時代の変遷と儀式の内容が合わなくなっています。今後はカメラやビデオに撮影され、インターネットに流れたりするのでしょう。そこもあって四次で絶対に終わらせるべきだと判断したのです。ここではキャスターがわかっているタイプだったので助かりました。ですがあの男性を助けられなかったのは残念です」
あの男性は攻撃力が高く、取り押さえようとしたセイバーに一撃を入れていた。結局ランサーさんが抑えたのだが、目を離した隙きに暴れたので、バーサーカーが殴ったのだ。
「致し方ありません。ところでもう一つ疑問が。私は何故受肉できたのか?」
「カムランの丘で瀕死状態で生きているのは、あなたの本体です。そこも言ってみれば限定された座です。つまりあなたは分霊となった生霊なのですね。本来なら座で統合させて……つまり、死を受け入れてから再召喚して受肉の順なのでしょう。ですが今回は聖杯を閉じることが優先されましたので。裏返せば、あなたと同じ記憶や体験を持ったアルトリア・ペンドラゴンは残ったままです。いつとは言えませんが、その別のあなたも必ず救けます。お約束致しますよ」
「むぅ……ありがたく思うが、難しい話ですね?」
「そうですか? 私どものセイバーで例えればわかりやすいと思います。あそこまで実直な人は移ろいません。まして聖杯を求めていないので、座に眠るのはあの人だけでしょう。ところが移ろうタイプで聖杯をなんとしても手に入れると願うタイプなら」
「分霊がより多くなる」
「そうです。そして文明の残った並行世界の数だけ、アーサー王伝説は広まっていると予測されます。それはゲルマン人の大移動が、端緒は様々あれど食糧問題に絡んだ必然だからです。これがヘラクレスやもっと古いギルガメッシュともなれば、分岐する前の元の世界の数しかいないと察せられますが、あなたのような物語から英霊に奉られる人は、今後も増えるばかりです。考えようによっては『世界』の優しさなのかなぁ」
「優しい? どういう意味です?」
「気を悪くせず聞いて欲しいのですが、生きて歴史を刻んだ人が死後英霊となって、こき使われることが減るからです」
「その分を私のような者が……。それは余りにも余りだ……」
「確かに円卓はそういう意味でお気の毒です。こちらのランスロットさんも嘆いていましたからね。今後は救って道を正してあげても、創作である点は話さないで欲しいと懇願されました」
「ああ……彼の所業を考えれば……。そう願うのも当然です。私からもお願いしたい。別の私に会ったのなら、実在しないとは言わないであげて欲しい」
これだけの人でも相当堪えたようだ。
そろそろ朝ごはんだと、私たちはリビングへ移動した。すると父やトオサカが古新聞を片っ端からチェックしていた。
「何ですか? 何をやって?」
「ここは10年後だろ? それで色々調べているんだってさ」
未来の知識はあまり仕入れない方が良いと思うのだけど、どうなのかなぁ?
やがて制服に着替えたシロウさんやリンさんが現れた。サクラさんとイリヤスフィールも。サクラさんはあと数日、ガクエンとやらを休むことになっている。
「あれ? セイバーは?」
「キッチンですよ」
シンイチが教えてくれた。セイバーはエプロンを付けて、ママたちの料理を手伝っていたのだ。
「まさか、あなたは料理が?」
「無茶言うな。出来上がりを盛り付けているだけだ」
そんなことはない。実はセイバー、あの1年間、暇さえあればママたちから料理だけでなく家事なども習っていたのだ。影響を受けたとは、バイクだけでなくこういう部分もあった。
アヒルの玉子のオムレツくらいならちゃんと作れていたのでかなり上達したと思う。そのニッカリとした照れ笑いは、あのモードレッドにそっくりだった。
食後、サクラさんやイリヤスフィールの容態を診たあと、私たちとアルトリアさんにセイバーはお買い物に出掛けた。服はルビーでどうとでも変えられるので便利だ。
新都に行ってプラプラしていると、偶然前をウェイバーとシンイチが歩いていた。この二人は思った以上に仲がいい。ロードを挟んでいつしか仲良くなっていたのだ。
ロードは時計塔進学の際は後見人になると、トオサカに申し出るくらいシンイチの才能に惚れていた。その歴然とした差に反発していたウェイバーだけど、大王や私たちと触れ合ううちに変わった。
こうして背中を見れば、未来のエルメロイ教室を引っ張る、優秀な講師と学生だ。ゲームセンターやアニメショップに入るのは目に見えているけど。飢えてたものね。
そして私たち女の子もファッションに飢えていた。まして今はルビーのお陰で高校生くらいの姿だ。背が思ったより低いけれど、出るところは出ている。パミには悪いが、ミトと散々服を選んだ。
と言ってもパミは元々お嬢様な私そのものなので、かっちりした服装しかしない。今もネクタイにブレザーとチェックスカート、そして厚いコートだ。
セイバーはパンツルックに革ジャンで、アルトリアさんはブラウスにリボン、そしてロングのスカートだった。
「これですか? リンに頂きました」
なるほど。けれど毎日同じ服なのはなぜ? リンさんは同じものばかり、そんなに持っているの?
「いよぉ~」
大王だ。
「良いとこで会ったわ。坊主に逃げられてしまって困っとったのだ」
単に面倒臭がられただけだ。この人が街に出る理由は、ゲームか雑誌、そして何かワイルドな衣類に関してだ。今回目指すは、Tシャツのプリント屋なのは明白だった。
「店がわからん。この辺だと思うのだが……」
「大王、この地図だと、そこの狭い路地を入った先ですよ」
「なぬ? そんなネズミの通るような先と申すか?」
「はい」
それでぞろぞろと着いて行ったら、1枚のTシャツを取り出して、この手形をこれとこの色のTシャツにプリントしてくれと頼んでいた。
合計5枚。1枚3千円だから1万5千円だ。Tシャツに印刷手数料に税込みだから安いのかな?
何のプリントだって? 『ヘラクレス』の手形。ちなみにその黒い色はアンリ・マユでなく墨だ。いっとき私に付いていた彼に、大王が拝み倒したのだ。
言葉も通じないバーサーカーに『余はあなたのファンなのだ。せめて手形の一つでもくれんか』と。
「これ、バックプリント?」
「うむ。胸には世界地図だ」
「これだと、背中をバチコ~ンだね! キャハハハ!」
「小僧、世界を取れと励まされた気になるから?」
「ちょい待て。そう言われると余がまるで坊主ではないか……」
「なに言ってるの? アキレウスより強いと言われたヘラクレスの手形だよ? 男の中の男が背負うに相応しいものでしょう?」
「そうだ。そう考えたからこその背中なのだ。わかっとるくせにからかうでない」
そう言って大王は手をひらひらさせて次の目的地に向かった。私たちとは別行動だ。本当に世間を満喫している。視界の隅でセイバーとアルトリアさんが話し込んでいた。
「あの……?」
「なんだ?」
「彼はこんなにわかりやすいタイプでしたか?」
「ああ、それな。この1年の時間もあるが、大王の野望にはエルのバックアップが必要だ。それでだよ。スポンサーには逆らえんだろう?」
「はぁ……?」
「あのな。ロケットで宇宙に行くとなれば、それなりの訓練や勉学が必要だし、それなりの機関に入らねばならん。その支援をするとエルが確約しているのさ。国籍から始まって大学入試に必要な書類諸々。それでだよ」
「ほぅ。それであなたも?」
「別件だがな。教師向きと言われて良いように乗せられている。業腹だが、こちらは高校生からやり直しだろう」
「シロウやリンのような!?」
「この見た目だ。実年齢がどうこうより、現代の社会を一から学ぶには手っ取り早いと考えたのだ」
「あなたもあのような姿を?」
「は?」
場所はいつの間にやら新都のアーケード街だった。そこには地域の学生衣料を扱うお店があった。トルソーが着ている茶色い服は、リンさんと同じものだった。
そこで私たちは気付いた。ここのショーウインドウには小学校の制服がない。というかあの茶色い子どもを、今まで見なかったのだ。
「パミ、これって」
「うん。世界の違いだと思う。ここのガクエンはきっと小学校がないんだよ」
「やっぱり。そういうのってあるんだなぁ。お父さん、私も通わせてくれるかなぁ」
「ミトは中身こそ8歳だけど、その姿で小学校はないよ。どうするの?」
あら? 私に戻る気なし? まぁ、ミトは受肉しちゃったから仕方ないけれど。そうだ。この機会に前々から考えていたことを話そう。
「ドイツのマンハイム近郊に土地があります。そこに家を建てましょう。それで、二人はそちらで暮らしていただけませんか?」
ミトだけなら不安だけれど、パミが一緒なら無茶はしないと思う。元々仕事が頼めるほどの子たちだし。
「となると、仕事は私たちで?」
「ええ。ときどき私も行きますし、他の子も行かせますよ。これから事業がもっと増えるので、ミトにはその大人の姿でしかできないことをやって欲しいです」
「そうですよね。そうなると学校は難しいか……。家庭教師を雇っても良いですか?」
「ええ、良いですよ」
これはパミからミトへ知識や経験の記憶を流すという意味だ。もちろん、私からも流してあげる。
「今は難しいですが、他にも考えてある手があります。それでもミトは日本が良いですか?」
「う~ん……」
「ミト? 私も一緒に行きますから。やっぱりその身体の大きさは、偽装には良くても私生活には支障がありますよ」
「わかった。パミの言う通りだね。じゃ、エルヴァ。あれを買ってくれるのなら」
今後は自宅学習だというのに制服が欲しいというミト。今から勉強するぞという気分を引き出すためだとかいう。わかるようなわからないような。
「カタチからとも言いますから。用意してあげて下さい」
結局はご機嫌取りだけど、私が日本で暮らすなら誰かをドイツの事業所に置かないといけない。このことは何度も話し合っていた。
そんな矢先のミトの受肉だったのだ。必然、彼女に白羽の矢が立つ。本人もその覚悟はあったと思うけれど、1年間も外に出していたので、私や父と離れるのが嫌なのだ。
その気持ちはわかるし、何より向こうで誂えると私のポケットマネーだけど、ここで揃えるならアハトの口座からだ。よし、と三人勇んで入ったら在学証明か学生証が必要だと断られた。
随分と格の高い学校なのかな? まぁ御三家の内、二家の子弟が通っているわけだしそうなのかも。諦めて踵を返そうとしたら、後ろからお店の人がこんなことを言った。
「私学は無理だけど、公立用ので校章が入っていないタイプなら良いよ。外人さんだから、次は日本にいつ来れるかわからないんでしょう?」
セイバー、アルトリアさん、私、ミト、パミ。ああ、この五人は確かに外国人だ。あ、コスプレ好きの海外旅行者と思われたのか……。
このときの私は、それならそれで良いかと軽く考えた。きっとこの日が、コスプレ好きになった最初の日だと思う。
それで私とミトはどこかのセーラー服をデザイン違いで手に入れた。ミトのは2本の赤いラインが襟と袖に入っていて、赤いタイを襟に通す。
私が選んだのは白い3本のラインが、襟と袖にあり、白いタイを襟の下で結ぶカタチだった。これもミトへの餞別だ。
パミはどこかの小学校の体操服を手に入れていた。なんで体操服かというと、ここらの小学校は制服などが決まっていないので体操服で過ごす学校が多いからだとか。
家に帰ると私たちは早速箱を開けてみた。もちろん留守番していた、イリヤスフィールにも体操服のお土産がある。
「え~。私こっちがいい」
「こっちは最小サイズが140なんです。杖を貸しますから、後で着替えましょうか?」
「そうか、その手があるんだね」
服を箱から取り出して、ミトが固まっている。
「どうしたの?」
「パミって、これの着方がわかる?」
「下から頭を通すだけでしょう?」
「こんな厚くて伸びない生地で?」
脇のファスナーを上げて、胸元の鍵ホックやスナップを外してから着るのだと、広げてみれば案外わかるものだ。けれど、悩む人は悩むだろうね。
何よりミトはお店の中をキョロキョロしていて、私しか試着をやっていなかったし。
スカーフ結びを知っているのでタイには悩まなかったが、ミトの方には輪っかがある。あちらはあそこに通すのが正解なのだろう。
膝丈のスカートを穿いて、襟やタイを整える。髪型は片側だけ少し編んでみた。ああ、袖のホックを留める前に髪を整えるべきだった。生地が伸びないから、腕を曲げてあげると袖口がきつくなるのだ。
鏡を見ると印象通りカッチリしている。ワイシャツにネクタイとは異なるカッチリさだ。なのに、大きな襟がとても可愛いし首周りも楽。
だけどこんなに動きにくい服だとは思わなかった。サイズがピッタリすぎなのかも。だけど大きいとダボッとして、絶対にシルエットが崩れる。お互いの姿を見比べてそういった辺りを確認した。
胸の三角部分の違いやラインの違いが面白い。
「こういうので学校が違うとか、学年が違うとか区別するのかな?」
「かもね」
そうして着替え終えた私たちを見て、セイバーが言った。
「やっぱり、お前たちみたいな少女だと似合うな。私もアルトリアにそれを借りるか」
「え? あなたがこれを?」
「何が言いたい」
アルトリアさんを睨むセイバーだけど、以前の第五次では着ていたビジョンがある。ここでようやく話が繋がった私だ。
つまり男性のシロウさんが、女性サーヴァントの服装に迷いリンさんに相談した。その結果、普段使われていない服がセイバーに回ってきた訳だ。
霊体化できないのだから、カバーストーリーも大変だったろう。
「はい。キリツグを頼って日本に来たことになっています。聖杯戦争が佳境となり遠ざけられていますが、この家にはサクラ以外にもう一人女性が出入りをしています。確かシロウの後見人で姉代わりの人です」
「名はタイガ。タイガ・フジムラよ」
そう付け加えてくれたイリヤスフィールはブルマ姿だった。着替えた私たちは、連れ立って父やロードの居る部屋に行った。
「な!? 皆んな、どうしたの?」
最初は驚いていたが、父は目を細めて喜んだ。
「父親を喜ばせようと……。良いな、切嗣君は。うちの凛なんて……君の息子に夜這いだよ……」
「ま、待て、時臣! なぜ杖を握る?」
「我が娘に手を出す男の火葬は苛烈なるべし!」
「何言ってんだ!? と言うか、彼は僕の息子ではないし、彼女も君の娘ではない! 並行世界だ!」
「わかっている、わかっているとも。だがわかっていても、この怒りのやり場に困るのだ」
そしてトオサカさんはザブトンを杖でポスポス突いていた。妙にカワイイ。
「ちっとも優雅ではないぞ、トオサカ」
「言わないで欲しい、ロード。無様なのは理解している。しかし凛の召喚するサーヴァントまでが彼だぞ?」
「そこはなぁ……」
父は他人事だった。実際ここのシロウさんや、英霊のシロウさんと打ち解けても、それ以外のエミヤシロウは預かり知らぬ存在だ。
「しかし、ソラウとの子が女の子だったら良いなとついつい思ってしまう」
「はい、女の子は可愛いですよ。私もグラニアとの間に女の子がいましたが、あの子といたら和みました」
「ランサーは息子4人に娘が1人だったか?」
「はい。オェングスの孫にあたりますから、どの子も知恵者でした。主とソラウ様のお子ならもっとでしょう」
「そ、そうかね?」
ランサーさんも口が回るようになったなぁ。
「それで、なんでイリヤは体操服なの?」
「身体が小さいから、あっちのサイズがないんだって。悔しいな」
「聖杯も封印したし回路の調整も終わったそうだから、これからどんどん伸びるよ」
「うん……でも、ガッコウに行くならシロウと一緒が良いな……」
「あ~……後1年しかないのか。少し厳しいね?」
「わかってるんだよ? 中学生くらいからやり直した方が自分のためになるって……」
「やっぱりお姉ちゃんだね。それが正しいと僕も思うな。イリヤにはこれからたくさんの時間がある。大人になってしまえば、3~4年のズレなんてないようなものさ。それで君もアイリと繋がっているのなら、君が学校に通う元気な姿を見せてあげよう」
「そうだね」
このあと、イリヤスフィールやパミにも杖を握ってもらい、服を交換したりした。父はカメラがないことを悔しがっていた。
その後お茶を頂きながら、私は黄金の王への対価を考えていた。
そもそも、あの黄金の王様がわざわざドイツに行く理由がない。あるとすればシロウさんや魔法使いから、頭を下げられたからだと思う。
だけどその程度で動くような人だろうか? セイバーにもアルトリアさんにも聞いたが、その理由は終ぞわからなかった。
リビングのザブトンでぼんやりしていたら、いつの間にか私だけだった。ママたちがマコトと一緒にお買い物に出たのは知っていたけれど、他の子が出ていったのを知らない。
「どこに行ったの?」
〈道場だ。運動を兼ねた軽い遊びをしている。来るか?〉
セイバーだ。考え事をしていたので声を掛けなかったのだろう。だけど予感があったので断った。その予感の人はおずおずとリビングにやって来た。
「あの……」
「はい?」
「あの……その……」
「外国人に話しかけにくいのはわかりますが、それでは何も伝わりませんよ?」
「あ、ごめんなさい。お、お礼を言いたかったんです……」
この短い会話で、私はサクラさんが負った心の傷が、かなり深いのだろうと理解できてしまった。最初のキーは姉でなく、私かも知れないなぁ。
「サクラさんって中学生ですか?」
「いえ……高校生ですよ。1年生です」
「へぇ。学校はどちら?」
「遠坂先輩……いえ、姉さんと同じです」
「リンさんと。良いなぁ。あの学校の服って可愛いですよね?」
「そうですか? ブラウスのデザインが変わっているので、似合う人と似合わない人の差が大きいような気がします」
「そうなんですか」
「はい。姉さんのような人でないと……」
ああ、この人にとってのリンさんがどういう立ち位置なのかが見えて来た。憧れだったんだろうなぁ。
「そちらも似合いますね?」
「へ?」
あ、セーラー服のままだった。
「それ、日本の学校のですよね? どうしてそんな服を?」
「元々カチッとした服装が好きなのと、今日出かけた新都でこういう衣料を扱うお店を偶然見付けて。それでですよ」
「じゃ、そのお店で?」
「はい。ははぁ~ん、何となくわかりましたよ。普通は他所の学校のなんて買ったり着たりしない。それが日本人の中にある常識ですね?」
「ええ。でも普通はそうじゃないですか?」
「ですけど、こういう家の中や海外で着るなら? その学校や生徒さんにも迷惑は掛かりませんよ?」
「あ、そうお店の人に話して?」
「そうです。けれど、リンさんと同じのは断られました。証明書が必要だと言われて」
「あ~、学園のを扱ってるあそこか。生徒手帳か在学証明書ですね。転売防止だと聞いています」
「転売?」
「はい。その……穂群原の制服って、結構人気があるみたいで……」
「ふ~ん」
「私も中学はセーラーでしたけど、これって冬木市内の学校ではありませんね」
「そうなんですか?」
「はい。この近隣でセーラーの高校はありませんし、中学ならラインが2本ですから。3本のそれは隣の市かな」
「へぇ~」
結構詳しいな。
「そうだ。エルヴァさんって身長おいくつですか?」
「120……」
「120?」
「あ、いえ。きちんと測ったことがなくて」
そうだよ。サクラさんは元の私を見ていないんだった。
「少し立ってみて下さい」
そういって柱のところに立たされた。私の頭の上に手のひらを当て、今度は手を動かさず自分がそこに立った。
「2センチくらいしか変わりませんね。胸も……これならいけるかな?」
「はい?」
そして彼女は私の手をひいて自分の部屋に向かった。部屋の壁には、リンさんと同じ服が掛けられていた。
「こんなの前にありました?」
「姉さんに頼んで持ってきてもらったんですよ」
サクラさんの衣類や、日常生活に必要な品々を持ってきたのはシンイチとランスロットさんとリンさんだ。
私の知る情報だと、リンさんは回収に立ちあっただけで、地下にある蟲蔵とも呼ばれる工房は知らないままだ。真相をできる限り教えず、リンさんに負担を負わせないことがトキオミさんの考えだった。
正直甘いと思うけれど、敢えて何も言わなかった。体内に蟲が巣食っていたというだけで、あの人は顔が真っ青だった。身籠った胎児までが、内臓とともに食われていたと知ったときは死にそうな顔をしていた。
そんな蟲に食われたなんて、サクラさんの哀しい記憶もできる限り操作したし、内臓も元に戻した。術後、リンさんは大粒の涙を流して喜んでくれていた。
そのときに思ったのだ。あの人は魔術師が考える魔術師からはズレているけれど、そういうのに縛られない、もっと大きなものを得られる人なのかもと。
「良かったら着てみませんか?」
お言葉に甘えて、サクラさんの制服を試させていただいた。ブラウスの袖に腕を通したとき、襟よりも袖口のデザインが変わっていると思った。第一ボタンはこんなに上で、隠しボタンになっているんだ?
黒いスカートを穿き、茶色いベストを羽織って、金色の模様が入ったワインレッドのリボンを結ぶ。肩の部分や襟元をサクラさんが整えてくれた。
「うわぁ~、似合う。姉さん以外でこんなに似合う人って初めて」
たぶん、首の長さと顔の小ささだと思う。ルビーで転身したときに思ったのだ。ミトもそうだけど、未来の私って首が長くて顔が小さい。
リンさんも日本人とは思えないほど首が長く顔が小さい。そんな二人が似合うと言うなら、それはデザイナーがモデル体型の人しか想定していなかった証拠だ。
自分の知る海外の高校生はもっと腰が張って、お尻が大きい。逆に日本人なら、もっと首が短く顔が全体的に大きく平べったい。人種の違いといえばそれまでだけど、日本の雑誌のモデルに外国人やハーフが多いのはどうなのかなと思う。
その落差を、この服をデザインした人はわかっていないのだ。憧れることと、その服が似合うかどうかは別だと思うのだけど。
十分満足したので脱ごうとしたら、そのままでとサクラさんが言った。
「ん?」
そして私の正面に立ち、襟をすっとなぞった。
「姉さんや先輩が驚くだろうなって」
そして片目をつむった。ある意味、サクラさんの願望だな。こういう……襟が左右対称になっているか、リボンが曲がっていないか、それをリンさんに整えて欲しかったんだ。普通の姉妹のように。
このいたずらっ子のような明るさは、記憶の封印が功を奏した訳ではない。精神に緩衝材を入れたのだ。言ってみれば迂回路だ。嫌な記憶が消えた訳ではないが、今のサクラさんは、あたかもガラスの向こうを見るかのように遠くに感じていることだろう。
それは記憶の消去があまり良くないと、体験的に私が学んでいたからだ。
人の記憶とはいい加減なものだ。忘れてはいけないことを忘れる場合があるし、忘れたいことはずっと覚えていたりする。それはある種の取捨選択だと思う。
全部が全部とは言わないが、忘れてしまうものは大概どうでもいいことだ。そして忘れたいのに忘れられないことは、教訓であり啓示である場合が多いと思う。
サクラさんとリンさんは離れていた間の11年間を忘れてはならない。それがあるから絆は深まる。それが私の考えだった。そして嗜虐の精神は被虐の裏返しでもある。こんな可愛いいたずらから、変わっていけるなら良いじゃないか。
むしろこの程度で済むと判断してしまうほど、当時の私は幼く、サクラさんはタフだった。
承諾した私に満足した彼女はキッチンに目をやり、こんなことをつぶやいた。
「早く先輩と一緒にお弁当を作りたいな……」
今までずっと一緒に作って来たのだという。料理も全部一から教わったと。
「最初はおにぎりすら握れなくて。ご飯が空気を含むようにかき混ぜて、手水を付けて優しく握るんだって。けど、それは先輩が男の人で女の私より握力が強いからなんですよ。その違いが最初はわからなくて、私のは毎回ボロボロで……」
サクラさんの『先輩』の『輩』は独特のニュアンスがある。イントネーションではない。思いが詰まっているのだ。文字にするなら『先パイ』といったところか。
若干、美化や神聖視が強すぎる気がしないでもないけれど、恋ってそういうものなのだろう。ふと、シンイチの顔と、ブリテンで偶然見てしまった可愛いポコチンを思い浮かべてしまった。どっちもツルンとしていて……。
「エルヴァさん? 顔が赤いですよ?」
「へ?」
ルビーで転身してから、精神年齢が上がった自覚はあるけれど、これじゃ彼氏を求めるハイティーンの女の人だ。この服を着ているせいかな?
そこからサクラさんによるお弁当談義を聞いていた。実際に作るのでなく、お弁当の効能と言うか利便性についてだ。
「お米は冷めても、炊き方と詰め方次第で美味しく頂けます。難しいのはおかずですね。冷めても脂が固まらず、煮汁などがこぼれないおかず。そうなると種類が限られて、レーパートリーも少なくなりがちです。そういうときに先輩は、サラッと新しいアイデアを披露してくれるんです」
「へぇ~」
シロウさん、やるなぁ。
「うわ! エルヴァ、ずるい!」
「リンと同じだよね。どうしたの、それ?」
「わかった。サクラさんのでしょう?」
道場からミトやパミが帰ってきた。うるさいな。
「私が美人で可愛いからと、特別に貸していただいたの。汚すとマズいから回すのはなしね」
「同じ顔でしょ!」
ミトは条件反射的に言い返したけれど、パミは空気を読んでいる。私はサクラさんに耳打ちし、イリヤスフィールの手をひいて私たちの部屋へ向かった。
「なに? なに?」
「実はサクラさんは、今の私の姿をエルヴァだと思っています」
「あ、ずっとその格好だものね」
「はい。そこでルビーを貸しますので、今の私くらいに転身してみて下さい。それでこの制服を。このあとシロウさんたちが帰ってきたら……。ね?」
「面白そう!」
それでイリヤスフィールさんが高校生になって、私は元の姿に戻った。もちろん服は子ども用だ。
「エルヴァ? ずっと私、あなたの真似をしなきゃなんないのね?」
「そうです。ボロを出さないように。並行世界の双子だからできる裏技ですよ」
「ねぇ? この世界にエルヴァっていないのかな?」
「わかりません。もし……ノイントのお祖父様に会う機会があれば、お尋ねになってみて下さい」
たぶん、居ないだろう。凍結された受精卵のままか、培養槽の中で死んでいると思う。それはとても悲しいことだけど、私はここに居る。そのことだけは間違いない。
だから私は、架空の存在だとしても自分がしっかりあるセイバーが好きだし、立ち直ったアルトリアさんが偉いと思うのだ。
また私が握るなら、ルビーは最大出力を発揮できる。あの杖の魔力なら、私たち全員を衣類のみならず肉体を含む転身をさせることが十分に可能だ。
それを知りつつ私だけが元に戻ったのは、シロウさんとリンさんに驚きは与えても、必要以上に混乱はさせたくなかったからだ。イタズラやサプライズというものは、笑顔で終わる範囲がベストなのだ。
「あ、そうだ」
準備を終えてリビングに行けば、ママたちが帰っていた。
「イリヤスフィール様。ルビーをお嬢様から?」
「エルヴァじゃないってわかるんだ……」
私はママにウインクした。
「きっとあなたのセラやリーゼリットもわかると思いますよ」
「ありがとう。でも、あの子たちは……」
「魔法使いが、途方に暮れる二人をお城で回収していました。死んでいませんよ。納戸の横の空き部屋で眠らせています。再調整もお嬢様方が終えています。食い扶持が増えるのと、場所がないので本当に眠ってもらっているだけで……」
「ホ、ホントに?!」
「はい。お礼はお嬢様方にお願いします」
大きくなったイリヤスフィールに、泣き顔で抱きしめられた。サクラさんの制服がシワになるぞ?
ナンドという空き部屋で再起動の詠唱を教えてあげた。私たちが去った後に再起動して欲しいとお願いしたのだ。だって今ここでメイドがさらに増えたら、シロウさんたちがパニックになる。
「ママたちの家事スキルをある程度植えていますから、以前より高性能になっていると思います。和食の作れるセラですよ」
「へぇ~~!」
ママたちは、なぜ急に和食を作れるようになったのか。それは新都で料理本を買い漁り、1年掛けてドイツ語に翻訳しつつ学んだからだ。
食材も調味料もない中で、二人は英霊のシロウさんから要点を何度も聞き、頭の中でシミュレーションしていたのだ。
「セラもそういうところがあるよ」
「基本性能が高いんですね」
「でも、お爺様が言うには失敗作なんだって」
「え?」
このときに私はアハトが壊れていることを確信した。ホムンクルスとは人が作り出したものではあるが、その理想は神の似姿だという。
だけど究極の姿は人そのものであるべきだと私は思う。間違いも侵す、失敗もする。それでも反省し、次こそはと頑張れて、人を羨んだり貶めたりしないし、悪い心は持たない。
ある意味、人としての理想。何かを超絶した神でなく、正しくてお手本にしたい人。お祖父様が鋳造したママたちはそういう人たちだった。だから私の理想のホムンクルス像もママたちになる。
セラというこの人も、そんな思いを込めて再調整した。リーゼリットの方はイリヤスフィールが生きている間は連動して生きるだろう。
ただし知性はこれ以上望めない。またその怪力のため、一日の活動時間が極端に短い。
生命力を食い潰さず能力を上げるには、消費カロリーか睡眠時間などを対価に差し出すしかない。今の私にはイリヤスフィールに連動させて寿命を伸ばす以外できなかった。
そんな悔しい思いを少し話したら、『ありがとう』と頭を撫でてくれた。おこがましいけれど、この人を救けられて良かったと思った。
「ただいまぁ~」
遠くから声が聞こえた。
「シロウたちが帰ってきたよ。行こう、エルヴァ!」
そして私は並行世界の姉に腕をひかれて皆んなの元へ戻った。
「え? エルちゃん? なんで学園の制服?」
「士郎、この子……イリヤだわ。こっちの小さい方がエルよ。イリヤはここまで小さくないもの」
「パミとは思わないの?」
「それも疑った。けど、私は五大属性持ちよ? エーテルはわかるって」
「さすがはリンさん」
「じゃ、この子はイリヤ……?」
「どう、シロウ? お姉ちゃんって呼んでもいいよ」
「あ、いや……」
「『普段はイリヤな。けど改まった席と胸の中では『姉さん』と呼ぶよ』……照れてもこれくらいサラッと言えないと」
「エルちゃん、厳しいな……けど、そうだな。姉さん、似合うな?」
「ありがとう、シロウ!」
「ちょ、ちょっと離れよう。その姿で抱きつくのはマズい」
この間、私はリンさんの手を握っていた。一瞬ピクッとしていたけど、凸凹な姉弟の姿を見て笑っていた。
「これって、桜の?」
「正解です。しかもこのイタズラの提案者もサクラさんです」
「ありがとう……。まだまだだとは思うけど、あの子も馴染もうと……」
「お料理を一緒に作ってあげて下さい。お弁当作りは『愛しの先パイ』限定らしいですが」
「プッ……。けど、そうね。あなたに誓うわ。姉妹としてやり直す。そして絶対に時間を取り戻す」
「はい」
それを廊下の角から覗いていた人たちがいた。
「切嗣君、あの子は良いなぁ。本当に君の血が流れているの?」
「父親が東洋人だと知ってショックだったそうだ。そして僕の来歴を知って……」
「この1年を無駄にせぬようにな。君は既に男爵で魔術師殺しではないのだから。理事を悲しませてくれるなよ」
「わかってるよ、ロード」
「頼むよ切嗣君。私もロードや理事を頼って貴族主義派に入るんだから」
なお、いつの間にか魔術師でなく、ピアニストとしての『遠坂桜』の後見人に私が指名されていた。つまりパトロンになれってことらしい。
気付いたのは、冬木で暮らすようになって1年が過ぎた初等部の4年のことだ。毎月私の口座から『遠坂桜』へ5万円引き落とされていた。どうも父とトキオミさんの密約らしく未だに真相が聞けてない。
その夜はフェアウェルパーティーだった。ダイニングを兼ねたいつものリビング(居間)で、予備のローテーブル(座卓)を出した。そうしないと大量のお料理が並べられないのだ。
ママたちだけでなく、シロウさんにリンさんやサクラさんまでが料理を作っていた。サクラさんはリンさんが誘ったのだ。作っている間、二人とも顔が真っ赤だった。
会話は少ないけれど、距離は確実に縮まっていると思った。頑張れ、リンさん、サクラさん。私たちは異なる世界で応援するしかない。
翌朝、ガクエンに向かうシロウさんたちと家を出た。お別れを言って、私たちは円蔵山を登った。リンさんはトオサカさんに抱きついて泣いていた。シロウさんは父と握手していた。
いつもの鍾乳洞への脇道を入ると、入り口で英霊のシロウさんが待っていた。シロウさんの案内で中を進めば、途中で空間が変化した。
大聖杯へ続く鍾乳洞が、二つ目の広場に行くくらいの距離で目映いばかりの大広間になったのだ。大理石ではない。鍾乳石か何かを削り出したかのようなマーブル模様のタイルが床一杯に敷き詰められ、ところどころ宝石が嵌め込まれている。
だけど色の組み合わせがウマいのか、雅やかではあっても下品ではない。そして正面には階段があり、ブリテンにはなかった玉座があった。そこに金色の王と魔法使いが待っていた。
ここは謁見の間らしい。
「皆のもの大儀である」
「王よ、今回はいったい?」
「うむ。我ら三人の贄という意味もあったが、他にも理由はある」
「説明を請うても宜しいでしょうか?」
「許す。まずは個々のマスターに問いたい。自身の未来を賭けて、異なる世界の自身を救けられるか?」
「つまり、私であれば並行世界の遠坂時臣を救うということですか?」
「そうだ、時臣。それができるかと訊いている」
「妻や娘たちを置いては……」
「で、あろうな。では、それが根源に至る機会とあらば?」
「それでもです。私は家族とともにありたい」
「良い返事だ。時臣、我はそれが聞きたかった。召喚の頃より良き顔になったな?」
「恐れ入ります」
「しかし、エルヴァがお前の娘を引き込むだろう。いや、自ら飛び込む」
「え?」
「お前たちが5代掛けても至れぬその先に、凜は届くやも知れぬ。その覚悟は持てたか?」
「王よ……」
トキオミさんは泣いていた。金色の王は次に父を見た。
「切嗣と言ったか?」
「……ああ」
パミが肘打ちをかました。
「は、はい!」
「あらたな娘を得て、どうであった?」
「考えさせられ……ました。色々と……」
「フン。お前はまだその者のすべてが視えておらぬ。だが、迷うな。お前はただ信じておればよい」
「……わかりました……」
次に王は、何か言いたそうな大王を目で制し、ロードに声を掛けた。
「お前は視えておるな? その者との出会いが運命を変えたのだと」
「その通りです」
「今のままで良い。お前の段で世の瑣末事を消してやるがよい」
「わかりました」
時計塔のことだと思う。ここで魔法使いが声を上げた。
「時計塔へ戻られるときは私も伺います」
「はい……わかりました」
きっと上へ下への大騒ぎになるだろう。ロードがランサーさんを連れ帰った功績が霞むくらいに。だけどこれは時計塔と言うより、魔術協会や聖堂教会を黙らせるためでもあるのだ。そしてセイバーたちの安泰が保証される。
「覇王には権利をくれてやろう」
横目で吐き捨てるかのように呟く金色の王。
「王は二人と要らぬ。早々にこのホシから出て失せよ」
「受肉すればそのつもりだわい。で、何をくれるんじゃ?」
そこで金色の王は天井を指差した。
「この世のすべては我の庭だ。どこなりと自由に征け。そして、好きに名を付けるがよい」
「無駄な争いを避けるための精一杯の譲歩のつもりなのよ。この言い様で」
「クハハハ! 名付けの権利がもらえるなら目を瞑ろうではないか」
昔の人は名付けとかそういうのにうるさい。そういうギリギリの譲歩が読めない大王ではない。
だけど金色の王の目に、ウェイバーやシンイチ、ランサーさんにアサシンさん、そしてランスロットさんは写っていなかった。いや、視界にあったことは認識していると思う。けれど気が急いていたのだ。
「セイバー」
「なんだ?」
「我の妻となれ」
「お前もか!?」
「どういう意味だ? 我より先に求婚した者がおるのか? クッ……許せん。我が直々に成敗してくれる」
「お前だ! 並行世界の!」
「戯けたことを抜かすな、セイバー。娘と我以外の誰が貴様の輝きに気付ける?」
なにか勘違いがありそう。
「何が言いたい? 伝わらんぞ、きちんと話せ」
「鈍い女よ。では教えてやろう。貴様は実在せぬ存在。しかしそれを知っても己の心は曲げず、己を貫き通した。そのあり方を愛でることに異論はあるまい、娘よ」
私は大きくうなずいた。
「見よ。娘も我らの婚儀を祝福しておる」
「賢いのはわかりますが、AからいきなりZに飛ばないで下さい! 間のBからYも話しましょうよ?」
「友も娘も同じことを……」
セイバーがかぶりを振った。
「お前、バカな方の英雄王より話を飛ばすな?」
「ほぅ。泥の傀儡に気付いたか」
はい? どういうこと?
〈エル、今まで出会った英雄王とこいつは違うと話してきただろう? どうやら……その違いがどこから来るのかが見えるかもな〉
セイバーからの念話だ。そこで魔法使いと目が合った。
〈座よ。この王様は、座で眠る本体の中心領域から出た分霊なの。ギルガメシュの伝承を調べてごらんなさい。暴君より賢王の逸話の方が多いのよ? それだけに、暴君とも言える分霊を嫌っているの。そして『世界』からの、面倒な仕事をそいつらに押し付けてるのよ。本当に大問題が起きそうなときは、自分で動くの。今回のことはそれだけのことだったのよ? あなたという存在は〉
ウソ!?
〈嘘じゃないわよ。それとセイバーが気に入ったのは本当みたい。これはかなり本気だと思う〉
え~!
〈滅びの美学を押し付けられるよりマシでしょう? まずは一回デートでも……〉
これを全部セイバーに中継した。
「わかった。ギルガメッシュよ、しかし私はお前という者がまだよくわからん。ついては元の世界に戻ってから、メシでも食いに行かんか? そこで話を聞かせてくれ」
たぶん全員が、金色の王の小さなガッツポーズを見たと思う。
「リンよ! 買い取るなら、どこのレストランが良い?! 疾く教えよ!」
この人……私の勘違いじゃなければ、もしかしたら『素』のナンパに初めて成功したんじゃ……。
〈やはり大王のときと違ったか。自分を王であるとか、王の決定であるとか言わなかったものな? 確かに過去の地位を偉そうに語られても虚しいだけだ。そもそも、こちらが何も求めておらんからな〉
こんな風にセイバーも『素』だ。つまりゼロ・スタートだ。う~ん……。
次こそ元の世界に。