※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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やっと書きたかったところまで来ました。


その28 最強の神父

 ルオン・ママの絶品ホットサンドにするか、マアエモ・ママのハムエッグにサラダ添えをおかずにしたオミソシルとゴハンにするか、ブリのテリヤキをおかずにしたオミソシルとゴハンにするか大いに悩んだ朝食を終えれば8時だった。

 

「なんでお前たちは、そこまで食うものにこだわるのだ? 日本でいう餓鬼にでも取り憑かれているのか?」

「そりゃないだろ、アルトリア。この子たちは少食だし。これって好みと気分なのかなぁ」

 

 セイバーと父だけど、気分ですよ。

 

「パミ、セイバーを頼みます」

「わかりました」

 

 そう言って三組に別れて家を出たのが9時だった。

 拠点の家はミトとマアエモ・ママがお留守番。パミはルオン・ママと舞弥さんとで、セイバーをビューティ・サロンへ放り込む。

 その後王様にセイバーを預けたら、お買い物を済ませて真っ直ぐ家に帰る。安全を取るなら容姿が異なるミトと、私そっくりなパミを入れ替えるべきだけれど、これは私の方へ追跡者の目が集中しているかどうかの確認もあった。

 そのために私は父が家の前に回してくれたGT-Rに乗り込むやいなや霊脈と回路を繋ぎ、誰にでもわかるくらい魔力を発散していた。

 ドラゴンの肝で神秘が増強された宝具が、炉心となってギュンギュン廻っている。街中に住み着き、ゴミを漁っているカラスが一斉に逃げ出した。

 なぜカラスやネコの使い魔が昔から重宝されて来たのかと言うと、ときどき魔術回路持ちが居るからだ。

 使役しやすいネズミなどは、強力な術者にごっそりと奪われてしまう弱点がある。だけど魔術回路を同調したネコやカラスは絶対に裏切らない。術者の忠実な下僕となるのだ。

 魔方陣の中で生贄となる小動物の血を抜き、ネコやカラスに飲ませるのも回路を同調させるパスを開くためだ。そして現代の日本にはカラスとネコがやたら多い。

 ただ、逃げ出したところを見ると、あの中に回路持ちはいない。魔力を嫌なものとして本能的に避けるのは、生物として正しい姿だから。

 ちなみに中世の頃、ある黒ネコの子孫がやたら流行った。その子孫は高い確率で回路持ちだったのだ。特に女性の経血を餌に混ぜると効率が良かった。魔女と黒ネコのイメージはここからだ。

 クルマがなかなか発進しない。ケースを抱えた父が、迷っているのだ。

 

「どうしたの?」

「いや……。トランクに全部入れるのはどうなのかなと」

 

 サブマシンガンくらいは、すぐに使える場所に置きたかったのだろう。だけどここは日本だ。しかも人目のある朝。それが父を逡巡させたのだ。

 

「日のあるうちに動くって、こういうことなんだね?」

「これがそっくり相手にも当てはまります。どうぞ、マシンガンをこちらに。宝具に取り込みますから」

「それ、絶対に反則だよ……」

 

 いくつかを預かると、やがて出発した。時間は9時過ぎ。

 テンプルの長い長い階段の前には参拝やお墓参りの人がクルマを置ける広場がある。そこに到着したのが9時30分。この駐車場横に小さなお店があり、和菓子の他にお花や線香も扱っていた。

 

「あれは?」

「ああ、のれんの文字? あれは『名物・だんご』って書いてある。ここはお供えにも使える団子が有名らしい」

「へぇ~」

 

 並行世界でも見ているのに、初めて知った。帰りに買って帰ろうかな。

 階段をずんずん登っていくと、大声で言い争っている人たちがいた。

 

「だから、なんともない」

「何ともない奴が、今頃起きて来るものか。誤魔化しているようだが、顔の腫れは消えておらんぞ? 昨日何があった?」

「決して悪いことじゃない。言ってみれば人助けだ。けど説明している時間がないんだよ、親父殿」

「まったく、こやつは。しからば戻ってからきっちり話せ」

「わかった。学園から戻ったら話すよ。今はそれで勘弁してくれ」

 

 そういってあの茶色い学生服のお兄さんが階段を走って降りていった。

 

「これは……お恥ずかしいところを」

「いえ、ご住職の息子さんですか?」

「ええ、当寺の跡取りですが、子どもの頃からやんちゃでしてな。またいつものように弱い者いじめの仲裁にでも入り、庇って殴られでもしたのでしょう」

「ほぅ。ですが虐められていた人からすれば、彼は正義の味方でしょう」

「そんな体裁の良いものではありません。暴力に暴力で応えれば、暴力の連鎖は止まりません。そう折檻しましたら、今度は殴られ屋のような真似事を。ああやって翌朝はケロッと学校に行きますので、丈夫なのが取り柄ですかな」

「良い息子さんじゃないですか」

 

 それが学園生時代の零観さんだった。

 挨拶を交わした住職さんが山門に戻っても、父は階段下を見詰めていた。

 

「行こうか、エルヴァ」

「もう、良いの?」

「ああ。少し眩しくてね」

「ふ~ん。あれだけ皆んなから憧れられた、男爵様がそういうことを言うんだ?」

「ハハ……そっか、そうだよね」

「そうですよ。憧れたのはカスケイドだけではありません。その叩き上げられた実力は本物です。もう、魔術師殺しとは違うんでしょう?」

「……そうだね。その通りだ。さぁ、行こうか」

「はい」

 

 私は横道に入るやいなやSA61を抱え、父にはキャリコを渡した。

 

「気配があるの?」

「いえ、念のためです。それに居るとすればアサシンさんたちでしょうし」

「時臣が?」

「御三家の一角で、この地のセカンド・オーナーでもあります。なので見張りくらいは出しているでしょう」

「そりゃそうだね。君が助力を断ったものだから、一切手を出さないものと思い込んでいたよ」

「それはないですよ。それと、本当に危ないのは森へ向かう途中です」

「だね」

 

 いつもの鍾乳洞を進み、大聖杯のある場所まで行った。

 

「どう?」

「魔法使いの話してくれた通りです。かなり魔力が減っています。調べるだけ調べたら、さっさと霊脈と切り離してしまいましょう」

「気を付けるんだよ?」

 

 本当なら閉じたいところだけれど、こればかりはイリヤスフィールが居ないと難しい。姉の成長を待つのもいいが、母はできるのだろうか? この辺りも、今後は調べないといけない。

 霊脈と大聖杯は20分ほどで切り離せた。そのときの調べで、英霊召喚が行われた痕跡があった。ただ、かなり特殊な召喚方法だったようで、クラスなどは読めなかった。

 

「予想の通りでした。召喚されています」

「例の裏技?」

「はい。かなり研究されていますね。クラスが読めません」

「それだけの隠蔽や偽装を掛けられているって事か……」

「はい。ともあれ、切り離しと停止はしましたから。ますます、森へ向かう途中は危険です」

「サーヴァントの魔力が持たない?」

「可能性ですよ? それなりの礼装はあると思いますから」

「そうだね。楽観視は危険だ。セイバーが居ないけど大丈夫なんだね?」

「はい。宝具がありますから」

 

 そうして私たちは山を下った。お店の横の駐車場を利用したのは、爆弾などを仕掛けられないためだ。お礼代わりにお店でお団子を買った。

 それでも父はボンネットを開けたり、下を覗いたりしていた。安全を確認したところで、私たちは出発した。

 

「この緑色のはなに?」

「草だんごだよ。よもぎって草が使われているんだ。そこのあんこに付けて食べるんだね」

「へぇ~。あ、苦いのに甘い。これ、良いかも」

「君はそういうのが好きなのか。ところで、ショットガンはある?」

「ルオン・ママの予備があります」

「何? レミントン?」

「いえ、ベネリのM3です。12ゲージのシリンダー・チョークですから、スラッグも撃てます」

「良いね。セミオートのポンプ・アクションか。弾は、どれどれ……#4(ナンバー・フォー)? 珍しいバックショットを使うんだね?」

 

 注)鹿など中型動物用のバックショットにはいくつか種類があり、大きな粒が入ったものから0000(フォー・オート)、000(トリプル・オート、トリプル・ガット/日本で言うトリプル・オー・バック)、00(ダブル・オート/ダブル・オー・バック)、0(ワン・オート)、#1(ナンバー・ワン)、#2(ナンバー・ツー)、#3(ナンバー・スリー)、#4(ナンバー・フォー)となる。

 通常は000や00がよく使われるが、野犬や狐には#1~#4なども使われる。ただし日本ではまず見ない弾である。

 

「それもある種の魔弾なんですね。中のペレットは破壊された戦車などから集めて鋳なおした鉄です」

「何の効果があるの?」

「戦場で散った戦士の怨念を抽出して増幅してあります。ですから中ると傷の治りが遅く、掠るだけで意識を奪います。よほど頑強な相手でも数分は竦(すく)みますね」

「呪いだね?」

「はい。#4なのは直撃を避け、手足から効果が出るようにです」

「手足の1~2本は奪っても殺さないためか。しかし、面白い効果だ」

「ですからスラッグ弾は渡せません」

「まぁ、それは仕方ないか。君と家族であるためにも、そこは理解するよ」

「甘いと思われますか?」

「魔術師としてはね。けれどその誓いは、今までのアインツベルンの犠牲者となった人々へ捧げたものだろう? そういうあり方も良いと思うよ。ただ、アイリやイリヤ、そして君を守るため……どうしても仕方なかった場合は許して欲しい」

「……その時はそっぽを向きます。どうかご自分の身を守る際も戸惑わないで下さい」

「ありがとう。できる限り期待に沿うよう頑張るよ」

 

 あの1年は本当に無駄ではなかった。父とはここまで話せるようになった。それは大きな前進だった。問題は母とママたちだろうか。仲良くしてくれると良いのだけれど……。

 

「そう仰って下さるのなら、アサルト・ライフルも貸し出しますよ」

 

 そう言って私はマガジンに装填済みのアサルト・ライフルを出した。

 

「これは……HK33?」

「はい。それのカービンモデルでHK33Kです。5.56mmなら、これとHK53がご用意できますよ」

 

 そして5.56mmの予備マガジンと弾薬も預けた。

 

「また、特殊なのを……。僕の記憶違いじゃなけければ、HK53はもっとコンパクトな方だよね?」

「はい、サブマシンガンなみの大きさしかないアサルト・ライフルです」

「都市部での移動や、防御戦には向いているか。ならHK33Kでも十分だ。こいつを借りるよ。これも乳母の?」

「いいえ、私のです。レンジで数回撃っただけの新品同様ですよ」

「レストを使ってだね?」

「はい。どこかに委託しないと撃てません」

「だろうね。普通に撃てるとか言われると、僕の血って何だと思ってしまうよ」

「フフフ……」

「ハハハ……」

 

 ズガーン!

 そうやって民家が消え森に近づいたところで、グレネードが飛んで来た。投擲でなく発射機に拠る擲弾だ。

 クルマは強化してあるが、完全に取り囲まれている。

 

「不味いな。あんな物を密輸できるのか……」

「ママたちほどではないにせよ、空間固定の魔術が使えるなら、バッグの中にランチャーくらいは入りますよ」

「バイクまで運べるんだものね? けれどああいう特殊なのは、君の家くらいと思い込んでいたよ」

「執行者やハンターのリストに載るような者は、魔術師としては二流です」

「そうかも知れないね。さてどうする?」

「討って出るのを待っているのでしょう。さりとていくら強化を掛けても、このままクルマだと厳しいですね。幸いこの辺りの地形は把握していますから、良いタイミングで跳びましょうか?」

「じゃ、後ろから掃射だね」

「はい。それも宝具でお手伝いします」

 

 トランクにあるケースを意識して、四発目のグレネードが爆発するタイミングで父を掴んで跳んだ。見事、相手の真後ろだ。

 HK33Kのセーフティを外した父は、隙かさずマガジンを軽くしていった。私のお手伝いは弾道をズラし、相手の両腕を殺す事にあった。

 

「自分の思っているところとは違う場所に中ると違和感が大きいね?」

 

 なんてことを言うが、おそらく初めて触る銃なのに、父の狙いはどの弾も相手の胸だった。

 スコープなしのカービンでこの集弾はすごい。

 

「そこは我慢して下さい。あ、別働隊が動いています。第二陣かな?」

「この形だと挟撃にはならない。そっちに向かって突破しよう」

 

 父の案に間違いはない。だけどそれは困難を極めた。予想以上に人員が多いのだ。要はグレネードは誘いで、二陣が本命だったのだ。

これまでも数多く狙われた私だけれど、それを尽(ことごと)く躱せたのは転移の魔術があってこそだった。

 だけど、こんな風に咄嗟になると計算式が複雑になる。特に第三者を伴っている場合は。だからといって、父の存在を疎ましく感じることはなかった。

 これしきのことはブリテンでも経験済みだ。戦争も紛争も暗殺未遂も味わっている。私たちはそんなのを何度も潜り抜けて来た男爵と騎士なのだ。

 

「こっちだ」

 

息を切らせて走っていると、突然横合いから声がかかった。

 

「あなたは……?」

「父の命で手助けに来た。言峰綺礼だ」

「信じて良いのか?」

 

 父も私も、その突如現れた人物に疑問を呈しながら、森への道を走った。

 

「ああ。本当は父の命というより遠坂時臣氏からの依頼だ」

「時臣が?」

「そうだ。しかし、我ら親子もユグドミレニアには腹を立てている。こうも聖堂教会に食い込んでいたとは……」

「金か?」

「いや、聖杯だ。聖杯を用いて天国への門を開くとな」

「それを信じてしまった奴が居た訳か……」

 

 彼は、あの心臓が呪いの泥で置き換わった神父ではなかった。大きな悩み、自身がなぜこの世に産まれたのかという疑問────それらを重く受け止めつつも、正しく前に進もうという強い意志を持ち合わせていた。

 視力のないこの眼だと、それは青白く猛烈に輝いて感じられた。まるでセイバーのようだ。

 

 10本の指の間に、それぞれ四本の礼装を挟んだ神父はおもむろに振り返り、そこから八本の剣を発射した。代行者が使う奇蹟、『黒鍵』だ。

 指に挟んだのは剣の柄の部分であって、刃は奇蹟によってもたらされる。私たちの言葉でいうと、毛色の異なる魔術でしかない。けれど、魔術基盤からして別ものだというのは、発射された刃でわかる。

 それ等、八本の剣は敵の太腿を『いつもの練習』のように当たり前に貫き、相手を足止めさせた。

 

「黒鍵だからエチュード(練習曲)?」

「貴様はアインツベルンの11代目だったな。幼さに似合わぬ天才だと聞いてはいたが、この緊迫した状況でショパンと掛けて来るのか……」

「And did those feet in ancient time, Walk upon England's mountains green?」

「すかした声で聖歌を歌うな!」

「EL&Pも歌っていましたし、イギリスでは第二の国歌ですよ? ハモンドとミニ・ムーグの両弾き、カッコいいと思いませんか?」

「いや、私は『展覧会の絵』の方が好きだ」

 

 カインとアベル#9(悪の教典#9)じゃないんだ?

 

「じゃ、ジェスロ・タルなら、何が好き?」

「マニアックなところを……。『パッション・プレイ』だな」

 

 おお、『Thick as a Brick(ジェラルドの汚れなき世界)』でなく、『A Passion Play』を。こいつも間違いなくマニアだ。それもかなりの好き者と見た。

 

「神父。ロックに抒情性とフルートを持ち込んだのはイアン・アンダーソンですが、私はピーター・ガブリエルのファンです」

「あの演劇性と歌詞は認めるがな。やはりイアンだろう。あの声が私は好きだ」

 

 この人、女声もいけるんじゃ……?

 

「HeartのThese Dreamsなんてどう思います?」

「なるほど、貴様には姉が居たのだったな。それなら、私はフリートウッド・マックの『ドリームス』を選ぼう」

 

 なんと。この人は……。父は首を振るばかりだが、私と神父は深いところでわかりあえた。

 

「何より貴様が年を経れば、スティーヴィーだろうに?」

 

 ピーター・ガブリエルは私のアイドルで、スティーヴィー・ニックスは憧れだった。特にリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスがフリートウッド・マックに参加する前の、『バッキンガム&ニックス』というアルバムは愛聴盤だった。

 その中の『Landslide(地すべり)』という曲は知る人ぞ知る名曲だ。きっとこいつはその歌も知っているし、私がファンなのも今の会話で察している。言峰綺礼、恐るべしだ。

 そういや、トキオミさんが話していた。ここの彼は、父親と深く話し合い悩みを解決したって。

 

「音楽が好きなんですか?」

「ああ、クラシックでもジャズでもなんでも聞くぞ」

「オーネット・コールマンとか?」

「おお。貴様も?」

 

 やっぱり。視野が広いんだ。誰もが知らなくとも、残る音楽というのはある。それは耳に優しくないかも知れない。天上の調べでなく、ギリギリガリガリと不快な音かも知れない。

 だけどそれを聞いて満足できる人がいるなら、それはそれで正しいのだ。そしてそれを個人で追求し楽しむことに、なんら問題はない。

 こういう例は音楽だけでなく料理などにも言える。悩み事の多い人は、結局自分の中が狭いタイプだと思う。

 

「フリージャズも聞きますし、電化マイルスも好きですよ」

「何と! 何が好きだ?」

「パンゲアやアガルタなどです」

「今度、泰山で麻婆を奢ろう」

 

 そう言い残して振り向いた彼は、追い掛けて来る敵を殲滅に向かった。疾風のように速い。そしてちらりと見えたその戦いぶりは、まさに戦闘マシーンだった。

 私も空手を習っているので、有段者の動きの素晴らしさは知っているし、現役最強の代行者の戦いも生で見た経験がある。だけど、この神父はなにかが違っていた。

 強いのは強い。それなのに動きに無駄がなさすぎて、迫力に欠ける印象があるのだ。

悪く言えば拳に若さがない。なのに相手は面白いようにバタバタと倒れていく。

 

「強い……」

 

父の漏らしたつぶやきに同感だった。ああ……この人は拳法を極めている。あまりに追求しすぎて、見掛けによらず早くも円熟期を迎えているのだ。こんな人もいるんだ……。

 そしてケロッとした顔で、先を進む私たちに追いつき、また音楽の話をしてくる。ときどき、後ろへ向かって銃をぶっ放している父が呆れていた。

 なんとか追手を巻けた私たちは森の中に逃げ込めた。ここでブリテンで取り込んでいたセローを出し、藪の中に隠してあったCBRやマグナを回収し、セローに予備のガソリンを給油した。

 

「取り敢えず、館で休憩しましょう」

「そうだね」

 

 操縦は父と神父だ。面白そうなので、私は言峰神父の後ろに乗った。

 

「操縦できたんだ?」

「ああ、10代の頃からなんでもやったからな」

「迷って?」

「遠坂氏か……。そうだ。私は長年悩んでいた。私の存在にどんな意味があるのだろうと」

「産まれついて使命がある王様や救世主でもない限り、誰しもがゼロ・スタートですよ。意味なんて最初からありません。なにを成したかで、初めて意味が出てくるのですから」

「ほぅ……父と同じことを言うのだな」

「では、お父様とは別のアドヴァイスを。マイノリティーだからと恥じる必要はありません。他人には理解されぬ趣味や嗜好も、第三者に迷惑を掛けなければ別段問題ありません。そのガタイでキャソックの下がブラジャーとパンティーだったとしても」

「そんな趣味は持ち合わせておらん!」

「ウソです。下着女装で信者に説教を垂れることがあなたの求める愉悦だと、魂が私に告白しています」

「どんな告白だ!?」

「そういうことですよ?」

「何がだ?」

「他人の不幸は蜜の味。悼んだフリ、同情や哀惜の表情が完璧ならば。内心で何を思おうが自由です。それを生涯隠し通せば、あなたの『勝ち』です」

「ククククク……クハハハッ! そうか隠し通せば『勝ち』か」

「そうです。お父様の願いもそれですよ」

「そうだな。その通りだ」

 

 これをきっかけに、彼とはレコードやCDを貸し借りしたり、食事をともにする仲になった。今現在も彼は、自らの道を探している。だけどその顔は悩み人のそれでなく、冒険者の顔だ。どの山に登ろうか、どの河を降ろうかと悩んでいる。

 冬木(言峰)教会所属の神父としての立場は変わらないが、第八秘蹟会からは外れ、代行者も辞めてしまった。もっと楽しいと感じられることが、私の周りに多いからだ。

 ビグスク(ビッグ・スクーター)で檀家回りをされるお坊様が多い冬木で、後の彼はハ◯レーを駆る神父として有名になった。

 

 その面白いことだけど……。

 館に出る少し手前の小さな開けた場所で、一人の男が待っていた。

 

「待っていたぞ、衛宮切嗣」

 

 のそりと私たちの前に後ろで手を組んで立ちふさがるキャソックの男は、先日の世界と同じアラフォーの神父だった。

 

「あいつは……誰だ?」

「並行世界での、10年後の君ってところだろう」

「ほぅ、私なのか。理由は?」

 

 神父の疑問に答えたのは私だ。

 

「セイバーのカンですが、聖杯の釜底が抜けていて他の世界の大聖杯と繋がっているのではないかと。ですから相手はすでに死んでいると思われます。遠慮なくハメ技でもキメ技でも」

「何をすればそんな面白い目に遭うのだ?」

「誰かの恨みを買うような真似を仕出かしたのでしょう」

「遊びが過ぎたという感じか」

 

 若い方の神父は眉根を寄せた。

 

「あれって聖杯がマスターというか、中のアンリ・マユの下僕みたいなものかな?」

 

 相手の神父はギルガメッシュと切れているハズだから、父の推測で正しいと思う。

 

「ええ。操り人形ですね」

「なるほど。ちょうど試したいことがあったのだ」

 

 そう言うやいなや、そばに居た神父の姿が消えた。

 

「どこに行った?」

「自然と一体になった感じですね。確かエンキョウだったかな」

『圏境(けんきょう)だ』

 

 声がどこから聞こえるのかもわからない。このアサシン並みの気配遮断を、人の領域で獲得できるものなのか。相手の男も構えているが、神父がどこに行ったのか皆目わからないようだ。

 

「フン!」

 

 一瞬、心臓に肘が入った姿が見えた。だけど後は見えない。そこで宝具を少し発動した。見えた、見えた。相手の真横に立ち、槍を繰り出すかのように拳を打ち出した。

 空気は裂かれない。猛烈な早さの拳を、柔らかく包み込み相手に何も感じさせていない。見事、その拳は肝臓を破壊した。だけど相手もさるもので、瞬時に距離を取り構えを取り直している。その間、コンマ数秒のことだ。

 

「あの神父が、マスターだったら恐ろしいな……」

「若い方?」

「うん。相手の方なら確実に勝つ方法がある。例えそれが10年前であったとしてもね。けれど、若い方の彼……。彼は強い。それこそ狙撃か爆殺しか思い浮かばないよ」

 

 父の意見ももっともだと思った。それくらい神父は強い。蹴りが胃の腑をえぐり、膝を砕き、腕を叩き折る。拳は耳を裂き、アゴを叩き、内蔵を次々と破壊している。

 なのにすでに死んでいる相手は倒れず、戦う意志を失わない。

 

「どうだ? 言峰綺礼よ。自身が自らの拳で壊れていくさまは? 顔が笑っているぞ? それが愉悦だ」

『おっと。拳に出たか。まだまだ修行が足りんな』

「何ッ? き、貴様!?」

『受け入れている。自分が歪んだ願望を持つことを否定しない。そしてそれを求めつつ、神への祈りを貫くのだ』

 

 そこから男はサンドバッグだった。

 

『これでも死なんか……愉悦どころか惨めで憐れみさえ感じる』

 

 最後は黒鍵で首を切り落とした。ああするしか止まらない、哀れな操り人形。

 やっと見えた神父は、動かなくなった相手に聖句を捧げ十字を結んだ。

 

「エルヴァ、釜の底だけではないね? おそらくそれだけでは、こんな風に何かが出てくる可能性なんてない。もしかして英霊召喚に失敗してるんじゃ?」

「そうなのでしょうか……?」




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