※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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74、妹

 翌日の深夜1時、私達は再び世界を飛んだ。前回もそうだけど、これは師匠や私の魔力が一番高まる時間だからだ。さすがの師匠もこの人数となると、細々した点から見詰め直さないと辛いそうだ。

 そして杖の補助もあり、私達は同じ場所に出現した。

 

「うわぁ、廃屋だ」

 

 エルの言葉を待つまでもなく、ここは遠坂が滅んだ世界。黒く沈み窓ガラスが何枚も割れている家を見て、私は気持ちを引き締め直した。

 

「アーチャー達も手伝ってくれ。ガラスを投影するんで、はめ直していくぞ」

「ガラス切りは?」

「それも投影してやるよ」

「何故貴様はそんな物まで投影できるのだ?」

「何事も経験だよ」

 

 外装の修理はアーチャー達やシロウさんに任せて、私達女性陣は中の掃除を始めた。

 ここは深山町の一番外れでもあるので、クレーターの影響は皆無だ。それでもガスや水道に電気は怪しい。だとしてもこの真冬のような気候だとテント泊よりマシなので、当初から仮の宿と考えていたのだ。

 明日朝一番に一応衛宮邸を確認に、アーチャーとアサシンが走る事になっている。既に大方のアサシンは街に散会した。そのついでにあまり意味はないが日付けなどの確認だ。

 小さなエルヴァが、夜中なのに星のない遠い空を眺めている。

 

「何か見えるの?」

 

 それに気付いたイリヤが声を掛けた。

 

「イリヤ、あそこに大きなボックスが浮かんでいます」

「あ~、あれだ。パンドラの箱だよ」

「ああ、あれが。ではあの真下に敵が?」

「そうなるね」

 

 玄関周りの枯れた雑草をむしっていた私は、二人を家に押し込んだ。防寒対策バッチリでも外は寒い。何より子供は少しでも寝かせてあげないと。

 そして私は玄関前のお向かいさんを見た。電気が点いている。つまりこの辺のライフラインはまだ生きているって事だ。それでも武家屋敷の並ぶ側の方がガスなどを即使える可能性が高い。

 それはここの家人が居なくなって10年は過ぎていると察せられるからだ。ガスや水道の開栓は手続きが必要だし、電気はブレーカーを上げれば一時的に仕えても、ここまで放置されていたのだから漏電が怖い。

 とにかく夜風が入らない状態になったところで、エルがアンティークな石油ストーブと寝袋を出してくれたので、それで部屋を暖かくしてから眠りに就いた。

 

「このストーブは?」

「ああ、以前オレが使っていたのを譲ったんだ。手入れさえすれば何年でも使えるからな」

「これは良さそうですね。冬用に買いましょうか」

「なんつう製品だ?」

「アラジンのブルーフレームだよ。これとフジカのハイペットなんかがアウトドア向きだ。薪ストーブも良いんだけど、ああいう街中だと、石油の方が便利だよ」

「そうだな。エルヴァのところは薪の暖炉とストーブだけど、あそこは薪の方が安いって言ってたな」

「ほぅ。あなたも色々と調べているのですね?」

「まぁな。知らねぇより知っていた方が特な事は多いからな。一酸化炭素中毒が怖いから、最後に消してやるよ」

「では朝方に私が着けましょう」

 

 そんな会話が子守唄だった。

 

 朝方、目が覚めたので顔を洗いに洗面所に行ったら水が出ない。慌ててキッチンに行けば流しの上にポリタンクが設置されてあった。

 うっかりだ。昨夜聞いていたのに。お手洗いも今朝はポリタンクの水を流していた。今回は物価が高いのも予測済みなので食料なども持ち込みだった。

 

「やっとこいつが日の目を見る……」

 

 衛宮君は感慨深げに持参したアウトドア用コンロに火を着けていた。魔術でお湯を沸かしたりする方が楽なのに。

 

「難しいトコだな。ここまでマナが薄いと、オドを無駄に消費してしまう。後々の事を考えればコンロが正解かも」

「ええ。城では魔力切れでミストレスの足を引っ張るばかりでしたのよ」

 

 あらま。そこまで酷いのか……。

 

 トーストと紅茶だけの朝食を済ませた私達はアーチャーの報告を待っていた。

 ちなみにそのトーストはエルの持ち込みだけれど、ルオンという彼女のもう一人の乳母が焼いた自家製らしい。ふんわりと柔らかく、バターの旨味と香りが素晴らしい。こんな美味しい食パンが自家製だなんて。サラダも玉子もないのに大満足だった。

 

「エルお姉ちゃんって、毎日こんなに美味しいパンを食べているの?」

 

 こっちの世界のイリヤだ。美遊の事を心配そうにしていたのに、それはそれこれはこれなのね……。

 

「いいえ。毎朝パン食なのはお母様ですね。私と姉さんはご飯党ですから。今時分はアジの干物と納豆に玉子が多いです」

「その見た目で!?」

 

 この子が驚くのも無理はないか。エルは変人だ。これは間違いない。それでもって『ご飯』となるとエルだけでなく、あのイリヤさんもエルヴァも異常なまでの執念を発揮するのだ。

 やがてアーチャーが帰って来た。

 

「どうだった?」

「やはり口座からの自動引き落としなのだろう。ガスも水道も電気も使える」

「じゃ、拠点をあっちに変更ね」

 

 寝袋やストーブを片付けて、私達は外へ出た。例のごとく、エルは迷彩柄の戦闘服だ。

 

「あれもある種の礼装です。私達も道中、注意しませんと」

 

 エルマの言葉で私もルヴィアも服の中で転身した。子供達も同じように服の中で転身する。だけど、小さなエルヴァは言われる前からやっていた。さすがだわ。

 

 何かを感知したランサーが槍を構え、他の英霊はそれぞれの剣を構えた。

 通りの向こうに、赤毛のちびっこいのと金髪の女が立っていた。赤毛は右腕だけが異様に大きい。そして金髪は黄金の鎧姿だった。

 

「ランサーさん。そいつらは人形です。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

「よし、一番槍は頂いた」

 

 そうやって声だけが残った。さっきまで側にいた姿はかき消え、次に赤毛の肥大した右腕が宙を舞い、金髪の両足がズタボロになっていた。

 

「英霊、舐めんなっ! 嘘っぱちの紛い者が!」

 

 ランサーは本気で怒っていた。相手が声を上げる暇も与えない。カードで能力を借りただけの者と、自らが研鑽しそのチカラを得て英霊にまでなった者との違い。その差は圧倒的だった。

 カードを使ってエルマがワルキューレになった。信じられないが七人に分裂している。そして全員が馬に跨り、その馬が空を駆けた。

 

「モードレッド!」

「おう!」

 

「セイバー! ランサー!」

「はい!」

「おう!」

 

 小さなエルヴァとエルは自らのサーヴァントとランサーを上空の馬に跳ばした。後ろに乗らせたのだ。

 

「一体、どうしたの?」

「エルマが金髪の思念を読んだみたいです。それで美遊ちゃんの居場所を掴んだようですね」

 

 エルヴァより決断が早いって……あの二人は……。

 

「エルヴァ、私と凜はギルガメッシュを探します。あなたはランスロットさんや士郎クンとともにここの士郎クンを捜索。アサシンが先に数名潜り込んでいます。彼らの指示を聞いて進んで下さい」

「わかりました。行きましょう、士郎クン、ランスロットさん」

「お待ち下さい」

 

 小さなエルヴァだった。

 

「お姉様、これをお使い下さい」

 

 あのロシアのノヴォシビルスクで買い取った、ヴァシリーサ・ミクリシナが使ったとされる弓だ。

 そっか。修理が済んだのか。

 そしてその弓を受け取ったエルヴァは力強く頷いた。

 

「これも現代に残る宝具ですね。フフ……私みたいなタイプしか使えない代物ですよ」

 

 エルヴァは小さなエルヴァを抱いてお礼を言った。そして彼女達は駆け出した。次にエルは私達を見た。

 

「凛とルヴィアは子供達を引き連れ、エルマ達を空から援護して下さい。遠方からの魔力弾だけで結構です」

 

 偶然なのか狙ったのか。セイバーは対魔力が高いし、おそらくはモードレッドもだ。いや、万一でもエルマが何かしているだろう。

 

「お、お前達はナニモンだ!?」

 

 腕を切り落とされた赤毛が吠えた。その傷口をエルが蹴った!?

 

「気色の悪いゾンビ人形どもめ」

 

 そう言って彼女は赤毛と金髪の意識を完全に奪い宝具に取り込んだ。催眠ではない、糸が切れたように相手は意識を失ったのだ。

 

「以前の人形をかなり調べられたのでは?」

「人形師に渡していたのよ?」

「ですから宝具に取り込み、解析データだけを先に取って」

「つまりスキャンだけ先にやったと?」

「そう、そういう能力もあると思いますのよ」

 

 転身して空を飛んでいる私達は、そんな事を話していた。クロとクロエは私たちで抱えている。

 

 

 

「我々の役目は?」

「アラヤに取り込まれぬようお兄ちゃんを置いてきたのになぁ。セイバーが行くなら私もと付いて来るのは理解しますが、正直残って欲しかったですね」

「それで君は……?」

 

 先輩は世界を渡る前に、そこから飛ぶであろう並行世界には連れて行けないとアーチャーさんに話していたのだ。だけどアーチャーさんはセイバーさんを思ってここまで来てしまった。

 もう一人のアーチャーさんは凛さんやルヴィアが話してあるようで、こちらに残る事に不満を懐いていないようだ。だけど、本当の問題はそこじゃない。

 私達はまだ中田さんのような人とは会えていないし、この世界の準守護者に誰が選ばれたのかも不明なままなのだ。

 

「なら、私が動くしかない訳ですよ」

 

 先輩はボソリとそう漏らした後、一緒に行動してくれとアーチャーさん達に話した。

 

 衛宮の家まで行くには深山町を縦断する形になる。そして途中、敵の本拠地である大きなクレーターを迂回しなければならない。

 そして崖の縁から、顕になった敵の城がキレイに見える。案の定、真横には大穴が空いていた。おまけに火も上がっていた。

 元マウント・深山の辺りまで来れば、よりハッキリ見えた。先輩が魔力を送るセイバーさんは、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を体力が持つ限り放てる。

 しかも今回は城の攻略を念頭に置いていたので、その一閃は礼装の併用で三筋から五筋に増える。そんなのが上空から襲うのだ。

 あれは爆撃ではない。衛星から撃たれた殺戮兵器だ。

 

「皆さん、無事そうですね?」

「ああ。しかし、上空からあの剣は反則だな」

「エルが前々から話していた事が理解できるよな」

「それはどういう?」

「戦闘機に重火器が積めないのと似たようなもので、エクスカリバー・クラスの宝具を放てるライダーもまず居ないのさ。オレの知る限り、この攻撃を上回るライダーはラムセス2世だけだ。召喚の判定次第だけど次点が英雄王だな」

 

 歴代のローマ皇帝や、ブーディカのような逸話がある人はライダーで召喚されやすい。空を翔けたなんて伝承がない限り地上限定だろうけど、それでもその機動力と信仰から来る宝具は馬鹿にできない。

 典型的なのは第四次で喚ばれたイスカンダル大王だ。稀代の戦略・軍略家であり、宝具も凄まじいが、単騎だと実は使い勝手の悪い人とも言える。

 と言うのは、大王個人の武功や武勲を聞かないからだ。これはローマ皇帝にも通じるが、大軍を率いて戦略を練る姿の方が似つかわしい。

 つまりウェイバー先生を生き残らせた彼の、その戦場勘や戦略眼こそが宝具を上回る……スペックで見えて来ない真の実力なのだ。

 そして先輩は────マーケティングという大王とはまったく異なる視点から、似たような結果を導き出す人だった。何せ先輩の後見人の一人がそのイスカンダル大王なのだから。

 

「そこでライダーと、セイバーやランサーのドッキングか?」

「そういう事。何よりクー・フーリンってのが良い。槍も剣も超一流だけど、あいつは弓も戦車も巧いんだよ。マスターがマトモなら、あれほど怖いやつは居ないよ」

 

 先輩は私の妹弟子である凜さんの妹、桜さんのライダーにライフル射撃を教え、礼装の爆弾を空からバラ撒かした人だ。とある第四次でキャスターの枠を取った先輩は、そこにライダーさんを据え、自らがマスターを名乗ったのだ。

 埠頭に全騎揃い踏みとなり膠着する中で、現れた英雄王は当然王の格を糺さんとした。そこで先輩は『貴様を王に据えた記憶はない』と言い切ったのだ。

 そして激怒する王の財が雨あられと襲い来るのだが、あの世界の父が令呪を切るまでに実に2/3もの財を奪い取ったのだ。

 しかも先輩は埠頭から帰るその時に遠坂を爆撃し、間桐へ逃げ込んでから転移したのだ。あまりの電光石火ぶりに他陣営は翻弄され状況が飲み込めていなかった。

 だって、先輩の転移先は冬木ハイアット・ホテルの最上階だったから。

 

 先輩に第二魔法は使えない。だから世界を渡る能力はない。なのにその転移魔術は、世の大魔術師が使ってきたこれまでの空間転移術とは異なっていた。

 世界の狭間から狭間を縫って跳んでいるのだ。だから瞬間移動を越えた、あたかも時間が逆転したかのような跳躍が可能となる。

 そしてそれは異世界からの侵入にも等しいので、どんなに堅固(ケンゴ)で堅牢な結界も抜けてしまう。霊体を跳ね返す結界も関係ない。その空間にいきなり出現するから、結界が反応しないのだ。

 それはあたかも私や先生が世界を渡った後と似ていた。そしてその根幹である、一時的に身を置く異世界を『極小泡沫世界(極小泡沫空間)』という。

 これは私達第二魔法使いが求めていた、『他の世界に悪影響を及ぼさない、安心して宝石剣を繋げられる魔力タンク』だったのだ。

 それも大魔導師である先生より確実に大きな、『人も通れる』大きさのものを発生させていたのだ。そしてこの術を扱うには第一魔法の一部が必要となる。

 それはそうだろう。新たな世界をそこに発生させているのだから。これが先輩が過去、抑止に狙われた理由だ。そしてその抑止はガイアとアラヤの両方から来た。

 それを避けるために先生は1年間も先輩方を疎開させたそうである。あいにく私はその疎開先を知らないが、おそらく並行世界のどこかで、なおかつ戻った時に時間経過が起きないように設定してあったのだと思う。

 生身の人間が抑止に狙われる。それはなんて恐ろしい事だろう。なのに先輩はそれを何とも思っていない。先生の方が口を酸っぱくして無茶をするなと言い付けるくらいだ。

 シロウさんがこういう仕事に毎回来るのも、先輩を案じてだった。シロウさんご本人もそうだし、先生も先輩を案じていた。

 

『あの子は凜とは違う意味で弟子であり、同志なのよ』

 

 先生には私のような魔法使いを目指す弟子が大勢いらっしゃる。それとは別に、魔術だけを教えている弟子もいらっしゃる。そしてそのどちらにも属さない、同じ神秘を追求する同志としての友人もいらっしゃる。

 その代表が『間桐凜』さんな訳だけど、先輩もそこに並ぶ人なのだ。だから『私が動くしかない』という言葉に、それを知るシロウさんは私以上に反応していた。

 

「あのお店が臭いなぁ」

「確かに。単なる豚骨の臭さじゃ無いな」

「と言うか、この刺激臭は泰山のアレではないか?」

「私もそう判じるがな。おっと人が出て来たぞ?」

「出し殻の豚骨を店先のゴミ箱に放り込むんじゃねぇ!」

「それで臭いのかぁ」

「だ~~っ! その前にあの男はどう見ても言峰だろうが!」

「何なのだ、コイツラは……」

 

 新顔のアーチャーさんはまだわかっていないようだ。先輩のボケにツッコむのでなく、ボケ返すのがシロウさんだというのに。

 特にこういう極端に緊張が強いられる場面ではそうだ。

 

「そこを行く者達。旨いラーメンを食べていかんか?」

「自信アリですか?」

「ああ。私が長の年月を掛けて完成した究極のスープだ。どうだ?」

「こういう臭いお店ほど美味しい場合もあります。入ってみますか?」

「怪しいとは思わんのか!?」

「『虎穴に入らずんば虎児を得ず』。この二人はそれを体現している。どんな死地も平気で飛び込むからな」

「そ、そうなのか……」

 

 アーチャーさんが振り向いて『どう思う?』と無言の質問を投げ掛けてきた。当然私も無言で頷いた。

 

「では空いている席に座ってしばし待て。すぐさま特製ラーメン5丁を作るからな」

 

 グツグツと茹だった大釜で麺を湯がく男。

 

「飲食店なのですから、後ろ髪をもう少し揃えなさいよ」

 

 怖いものなしの先輩はコップに水を注ぎつつ、そんな事を言った。

 

「そうしたいのは山々だが、理髪店も失くなって久しい。自分で刈り込んでいるが足りないか。さぁ、待たせた。ラーメン5丁上がりだ」

「おお!」

「へぇ~」

「うっ、これは……」

「麻婆あんかけラーメン……?」

 

 そして一口食べた先輩は。

 

「やっぱり泰山系の味だ。塩分をもっと控えてコクが出る豆板醤と甜麺醤をチョイスしないと」

「そうだな。ラー油だけで味を決めようと思うとこうなる。確かにスープは豚骨の力強さがこの麻婆と合うし、麺もスープに絡みやすい良いものなのに。惜しいな」

「辛さと痛さしか感じんのだが……」

「店主、この麺は手打ちか?」

「そうだ。毎朝私が打っている」

「ほぅ、やるな。私がラーメン屋なら仕入れたいくらいの麺だ」

「貴様、目が高いな。麻婆あんを増量してやろう」

 

 そうして私達の方のアーチャーさんの鉢には、溢れんばかりの麻婆が盛られた。

 

「ああ、アルトリアに食べさせてやりたい……」

「何故だ? 何故そうなる?! ただ辛いだけではないか!?」

「青いなお前。この唐辛子はな、七種類くらい混ぜてあって、辛さの奥にコクと旨味が出るようになっているんだ。ただ豆板醤と甜麺醤のチョイスが甘いのと、花椒の麻辣味が少ない点がどうかなと思う」

「跋さんから学び、私独自に考え出した『追い唐辛子』を見破るとは。貴様ら、やるな?」

「わかるさ。大将、替え玉を頼む。その二玉目があんたの狙いだろう?」

「フ……替え玉はサービスだ」

「可怪しいだろうが!? 何でこれに替え玉まで?」

 

 シロウさんは茹で上がった替え玉を鉢に投入した。

 

「ほら、最初のより細麺で縮れも強い。そして薄まったスープにこの酢を入れるんだ」

「うむ。キツく感じた最初の刺激が、このまろやかさを知る事でアレはアレで美味しかったのだと未知なる領域を教えてくれる。好き嫌いは分かれるだろうが、その心意気は好ましく思うな」

「だろう? 自分好みの味だけでものを語っちゃいけない。こういうのもあるんだ。そこがわからないと万人に向けた料理は作れない」

「だな」

「う~む。実に気持ちの良い客だ」

 

 隣のアーチャーさんは天を仰いだ。だけどマイノリティーな一を救うってそういう事ですよ? そもそもその救われたマイノリティーな存在だったのが出発点でしょう?

 

「オジさん、替え玉半玉ってできますか?」

「凜、私と半分こにしましょう」

「そうですね」

「皿を別けてやろう」

 

 支払いは先輩で、一杯1600円だった。替え玉は一玉300円。シメて税別8900円だ。先輩はスッと1万円札を手渡した。

 

「ここまで衰退した状況で良心価格ですね」

「この狂った環境でも気持ちを引き締めて生きて欲しい。そういう願いで店を開いている」

「そうでしたか……ご馳走様でした。寒さが吹き飛びましたよ」

「そうか。また来るが良い」

 

 お釣りを受け取った先輩はニコニコしていた。表に出ても上機嫌だ。それはここの神父が求道者としてマトモだったからだ。

 

「聖堂教会は残っていたんですね?」

「いいえ。教会は教会ですが、聖堂教会とは別の神秘担当の組織です。ここではそういう発展の仕方しかできなかったのでしょうね。やはり彼はエインズワースを見張っていました。それでもそんな中で、人々のためにと考えていた訳です。そんな神聖な精神から来る精神防壁なので、ここまでしか読めませんでした」

「そうか。それは仕方ないか。オレもあそこまでラー油を追求した言峰に会ったのは初めてだ」

「『追い鰹』ならぬ『追い唐辛子』などという言葉は初めて聞いたぞ」

「ああ。陳皮に八角、桂皮に太葱・生姜を漬けた菜種油を熱し、そこに数滴のゴマ油。紹興酒で練った数種類の唐辛子。練るなら桂花陳酒だし、花椒が極端に少ないところが痛い。敢えて四川から離れたかったのかも知れんが」

「私はそうなのだろうと思うがな。泰山も四川の黒い麻婆でなく赤いラー油の効いた麻婆だ。敬意を払っているのではないか?」

「そうだな。何かがあってあの味を引き継いだ、そして独自の工夫を加えて店を開いている。それはそれで立派だ」

「だな」

 

 隣を歩く新参のアーチャーさんは首を振った。

 

 

 

「ルヴィア~、何時まで飛ぶの~?」

「エルマが突破口を開いてからですわ」

「降ろしてよ、リン! もう良いから」

「ダメよ。もう少しタイミングを見てから。それでエルマの馬の背に飛び乗って貰うからね」

「馬に?」

「そう。ランサーやセイバー達と先陣を切るのよ。私達とイリヤ達はその時の妨害を防ぐの。わかった?」

 

 そうして私達はエルマとランサーやセイバーの攻撃をしばらく眺めていた。塔の窓にドレス姿のここの美遊が居た。そしてかなり驚いた顔で空を翔ぶ美遊やイリヤ達を見詰めていた。

 城が大きく揺れた。もう一人のセイバーの宝具だ。下にエルヴァ達が見える。この時、エインズワースの飛翔型使い魔が私達を襲ったが、エルヴァが全部弓矢で撃墜してくれた。

 

「その矢はオレの『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』だろ!? アイツだけは~~~」

 

 ランサーが吠えてる。一度完敗しているだけに怒っているのかなと思えば、結構嬉しそうだ。これはケルト系だからなのか、彼という英雄がそうなのか、一度認めた相手にはとことん肩入れするところがある。

 モードレッドと気質が似ているのだ。そのモードレッドが塔の壁を崩した。

 

「今よ! クロ! クロエ!」

「うん!」

「よし!」

 

 分身なのか本体なのか不明なエルマの後ろに飛び乗った二人は、エルマ達とともに塔へ突入した。そしてクロとクロエが美遊を抱えて転移した。

 だけど転移した先に茨のような網が広がり、三人の子供達を捕らえた。

 

「クロ! ミユ!」

「クロお姉ちゃん! 美遊!」

 

 叫ぶイリヤ達も私も信じられないものを見た。エルヴァだ。あの小さなエルヴァが空間転移を阻む網の中に現れ、次の瞬間には四人で地面に降り立ったのだ。

 それもエルヴァの後ろに。あの茨はマジックキャンセルしていた。そういう概念なのか術式が込められているのに、あのエルヴァはそこを突き破ったのだ。

 

「どういう魔術よ!?」

「わかりませんが、マルガリータさんと似たような、私どもの知る系統とは異なるのではありませんこと?」

「そうなのかしら……?」

 

 私とルヴィアは首をひねるばかりだった。

 そんな矢先、エルヴァは宝具級の矢を次から次へと宝具の弓で放った。ものの数十秒で城の塔という塔が消え、城の上半分が完全に破壊されたのだ。

 

「お姉様、めっちゃ怒ってる!」

「こ、怖ぇ~~~」

「アイツが本気になるとああなのか……?」

 

 ランサーもモードレッドも引いていた。だけどこれが陽動となったようで、セイバーがここの衛宮君を背負って駆け出て来た。遅れて衛宮君も出て来て、殿(しんがり)のランスロットさんは似たような全身黒い鎧の女と斬り結んでいた。

 セイバーは衛宮君達をエルヴァに預けると、ランスロットさんの応援に走った。剣が一閃して女騎士の首が飛んだ。そして兜が外れた首が地面に転がった。

 

「桜……。桜ァ~~~~~!!!!!!」

 

 師匠にもルヴィアからも聞かされていた。だから知っていた。とっくに命を落とし、敵の人形になっていた事も、それを見せまいと、直感でエルがあの日私を城の中に行かせなかった事も。

 その事に感謝もしたし、恨み言も言わなかった。あれは桜じゃない。桜はもう死んでいる。そもそも私の妹の桜ではない。全部全部わかっているのに……それでも叫ばずにはいられなかった。

 

『並行世界って残酷なんですよ。それでも追求するのが第二魔法使いなんです』

 

 あのお風呂と同じだ。師匠もこんな思いを何度も体験し乗り越えて来たんだ。涙が流れるのは止められなかったけれど、転がった桜の首はしっかりと瞼に焼き付けた。

 こんな悲しい末路を迎えないために。

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