※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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トンプソン・センター・アームズ社のコンテンダーは、センター・コンテンダーが正式名称で、元の社名はK.W.トンプソン・ツール社でした。
銃の販売戦略で社名を製品名に変えたんですね。
1967年の発売当初は.22 LR、.22 WMR(ウィンチェスター・マグナム・リムファイアー)、.22 Hornet、.38 Specialなどの口径が揃えられました。
殆どが22口径というのに驚かされます。単発のシングルアクションで22口径。
これでは狩猟にも使えません。この何を考えて造られたのかわからないところがどうにも好きになれない理由です。
ただ、この会社は銃身を簡単に交換でき、様々な弾薬を一つの銃で楽しめる点に重きを置く会社でもありますので、アメリカにたくさんある単発ライフルや単発ショットガンを作るガレージ・ファクトリーとは少し異なるようです。
そのユニークさを買われたのか、現在はスミス&ウェッソンの子会社になっていますね。
(アメリカ南部では銃器会社のCMがTVでがんがん流れ、スポンサーになっている冠番組もあります。ただしケーブルTVの方が多いと思います)
そして70年代に入り、.357や.44のマグナムに対応、ここからマニアに周知されていったようです。
その他諸々は皆さんご存知だと思います。

そこでこんな事を考えたことはありませんか?
もし自分が衛宮切嗣に持たせるなら、何をチョイスする? と。

私なら、そうですね。原作寄りに考えたならレミントンXP-100の7mm-08レミントンでしょうか。これなら300mまで届きます。
あのナタリアさんが.30-06を選んだ理由を想像すると何とも不思議です。



76、コンテンダー

 子供達が庭で雪合戦をしている。そこにはイリヤさんの声も混じっていた。その歓声を聞いてやっと先輩は柔和な顔になった。

 

「大聖杯を置換する事で第二魔法に到達していたとは。それは大聖杯があれば、根源を知らずともどこにでも行けるという事です」

 

 私は頷いた。条件が揃っているのだ。

 第四次から年数が経ち、ある程度ターゲット先の魔力が溜まっている事。その大聖杯にユスティーツァ様という回路が使われている事。そしてこちらにアインツベルンが無くとも、あの巨大な鍾乳洞があり、魔力を用意できるのなら。

 そして魔術師の誰しもが捨て去った『置換魔術』を使う者であるなら。そんな裏技が使えてしまう。その特異なまでの奇跡的な条件が、ここでは揃っていたのだ。

 

「先生の弟子として、また一人の魔法使いとしてダリウスを滅ぼします」

 

 これはプライドの問題ではない。禁忌的な意味だ。捨てておくとクロちゃんやイリヤちゃんの世界までが、抑止の動く範囲に入ってしまう。

 そうならないために私は先生から厳しく教えられている。抑止を招かない手順や手続きなどをだ。ここまで好き勝手にしてきたエインズワースは、その『世界のシステム』がわかっていない。

 わかっていて無視しているなら、それもまた必然的な滅びの要因だ。

 

「エルヴァちゃんに期待するしかありませんね」

 

 子供達への説明に関してだ。誰だって『とある世界』が滅ぶと知れば、どうにかならないかと足掻くし悩む。まして一度でも関わってしまえば。その引導を渡す役がこちらにあるのだとなれば殊更だろう。

 前回、イリヤちゃんもクロエちゃんも深く傷付いた。それでも納得してくれた。それはあの子達が何かを得るためには、別の何かが対価として必要だと学んだからだ。

 きっと今回も乗り越えられるだろう。それは褐色の先輩やイリヤさんが導いているからだ。

 だけど、並行世界のイリヤちゃんとクロちゃんはどうだろうか? きっと深く深く傷付くだろう。それでも乗り越えなければならない。

 そしてそのフォローの言葉をきちんと言える子は、エルヴァちゃんだろうと先輩は話しているのだ。私としてはクロエちゃんもイリヤちゃんも話せると思っている。イリヤさんや褐色の先輩が支えるなら。

 

「はぁ~~~。どいつもこいつも……」

「え?」

「エルヴァが城を破壊した理由ですよ。城の中で刻印を見た? それがセイバー? 魔術師でもないのに?」

「あ」

「そうです。それって工房ですよ? 潜り込んだのはイリヤさんで、見付かったかして、きっと怪我をされたのでしょう」

「それで!?」

「ええ。逃れるチャンスを作ったのだと。怪我も霊核を痛めるほどではなかったようですが、後で診てあげましょう」

 

 そして道場から出た先輩は中庭で子供達と遊ぶイリヤさんに声を掛けた。

 

「少し良いですか?」

「ハァ……。バレちゃったか。お願い、エルヴァを叱らないであげて」

「彼女は元こそ私の一部でしたが、今は私の妹でもあります。叱る時は叱ります。ですが、今回は違うでしょう?」

「違うわね。ギルガメッシュの拘束を解いたのは私よ。そこの見張りが凛とルヴィアだったわ」

「その下腹部の怪我はその時に?」

「ええ、凛の宝石。並行世界だけど、バーサーカーを一度は殺しただけはあるわね」

「治るのに3~4日は掛かりますね。エルヴァだと」

「え?」

「ソイヤッ!」

 

 バチコ~~ン! 先輩は思いっ切りイリヤさんのお腹を叩いた。

 

「痛い! 何するの!?」

 

 だけど先輩は後ろ手をひらひらさせて母屋に戻った。

 

「イリヤさん、それもう治っていますよ」

「へ?」

 

 呆気にとられキョトンとするイリヤさんを残して私も母屋に戻った。煮物のいい匂いがする。前を歩く先輩がこんな事を言った。

 

「確かに雪が積もっても今は夏です。南京にオクラとナスの煮物は夏らしく、冷めても美味しいと私も思います。だけど、お鍋でしょう? これだけ寒けりゃ?」

 

 セイバーさん二人とモードレッドさんはコタツに入ってミカンを剥いていた。

 

「どうぞ。父手ずから剥いたミカンです」

「有り難き幸せ。けど、冬はコタツに入ってミカンだって意味がわかったぜ」

「それは良かった」

「ああ、それにメシが無茶苦茶ウメぇ。日本って凄いな」

 

 それはシロウさんの腕もありますから。

 

「シロウ、昆布茶を頂けますか?」

「君はあれを……?」

「こっちのセイバーは飲むんだよ。アーチャーが好きだから。ついでにあの『シロウ』はオレでなくアーチャーの事な」

「な!?」

 

 驚く新参のアーチャーさん。世界は広いんです。

 そしてその向こうでは凛さんとルヴィアが、凛さんとルヴィアを正座させて叱っていた。え? 意味不明?

 もう少し詳しく言うと、ぬいぐるみから意識を戻された(魂でなく自我意識だけだった)メイド姿の二人が、私達の方の凛さんとルヴィアから叱られているのだ。

 そしてそれを見る私も遠坂凜だった。

 

「げぇ~、まだ私が居るの!?」

「ミストレスになんて口を利きますの?」

「彼女は私達の師匠で、本物の魔法使いよ。口の利き方に気を付けなさい」

 

 叱られている二人は俯きながらも横目でブチブチ言っていた。

 

『何故トオサカごときが魔法を? フザケていますの?』

『何が魔法使いよ。何なのあの服。あれでも高校生? 中学生じゃないの?』

 

 二人はルビーとサファイアで思いっ切り頭を引っ叩かれた。お二人、ほどほどに。

 

「まだまだ経験も浅く、物事を知らないからイガミあえるのでしょう。せめて遠坂の刻印とユスティーツァ様を模した回路は奪い返さないと」

 

 褐色の先輩だ。そろそろ子供達やあの二人にも現実を教えてあげなきゃ。そこへランスロットさんが飛び込んで来た。

 

「ランサー殿とバゼット殿が戻られましたぞ」

 

 先輩は全員を居間に呼んだ。

 

 

 旧家に相応しい大きな座卓にコタツをくっつけ、その長くなった辺の真ん中に先輩が座った。

 先輩の正面には美遊ちゃんとお兄さん、そしてメイド姿の凛さんとルヴィアにクロちゃんとイリヤちゃんだ。

 先輩の横には褐色先輩と私とエルマ。そしてエルヴァちゃんとクロエちゃんにイリヤちゃんとイリヤさん。ギルガメッシュとシロウさんは審判のように左右の短辺側に座っている。

 その他のアーチャーさん達は壁にもたれたり空いた場所に座って、気ままに話を聞く体制だ。

 

 先輩はまずイリヤちゃんのルビーを使って壁に前回の映像を写した。中にはおチビちゃんのルビーが録画していた映像もある。

 城に突入した目的や中田さんの存在、イリヤちゃんと衛宮さんが担った役割、冬木だけでない隣接市に卸売市場の品揃えや物価、気象の変化によって今後予想される危機、そしてその後に来る破滅を説明された。

 

「そしてここはその映像の世界より破滅が近いです。前回は2~3年と予想しましたが、ここは1年も保たないでしょう」

 大きな目を更に大きくして驚くクロちゃんとイリヤちゃん。あちらの美遊ちゃんもお兄さんと先輩の顔を行ったり来たりしている。

 そこで手を上げたのがエルヴァちゃんだ。

 

「お姉様。もしかせずともここは剪定事象の世界で、剪定がとっくに確定した世界ですか?」

「はい、残念ながら」

「なら、仕方ありませんね」

 

 ここで抗議したのは姉妹の方のイリヤちゃんだ。

 

「そんな簡単に……この世界の人が消えちゃうんだよ?」

「イリヤ。悲しい事は悲しい。辛い事は辛い。誰だってそれは同じです。だから誰しもがそんな思いをしないよう手を打つ訳です。でも、ここは大人達が誰も手を打たなかった。だからこうなってしまったのです。それに『世界』が決定した事柄を覆すチカラは、その世界内で生きる私達にはありません。一度経験したのでしょう? 私だって、どうにかならないかと思います。でも、もう無理なんですよ……」

 

 イリヤちゃんはクロエちゃんにしがみついて泣いた。

 

「ゴメンね、エルヴァ。この子も頭ではわかってんのよ。けどね……」

「いいえ。それが普通の……人としての当たり前の感覚です」

「ありがとう」

 

 イリヤちゃんを抱きながら、空いた手をエルヴァちゃんに伸ばすクロエちゃん。エルヴァちゃんはそれをしっかりと握り返した。

 これが先輩の話していた『エルヴァちゃんへの期待』だ。

 案の定、もう一人のイリヤちゃんは声も出せず静かに泣いていた。そして英霊のイリヤさんがそんなイリヤちゃんとクロちゃんの姉妹を優しく抱きしめた。

 二人はイリヤさんの胸で思いっ切り泣いていた。

 

「ミユ。強くなりましたね?」

 

 そっと背中から腕を回し、不安になっているだろう美遊ちゃんの心を静かに支えるルヴィア。それを見たメイド姿のルヴィアは顔を赤らめ、自身の美遊ちゃんに何かを囁いていた。

 あちらの美遊ちゃんは涙を流しながらも、その言葉で真っ直ぐに前を見ていた。

 場が一旦落ち着いたところで先輩が切り出した。

 

「それで今回もパンドラを斃します。その役を……モードレッドさんに」

「よし来た! 任せとけ!」

「ただし、クラレントは封印。こちらの指定した剣を握って頂きます」

「それでなきゃ、斬り斃せない訳か。わかったぜ」

「あと二つ」

「何だ?」

「その剣でパンドラを刺したり斬ったりせず、確実に首を斬り落として下さい」

「一振りで決めろって事か。まぁ、やるしかないならやるだけだ。それで、後の一つは?」

「残る一つは、その剣でパンドラ以外斬ってはなりません」

 

 ここで黙って話を聞いていたギルガメシュに笑みが零れた。それは先輩に課せられた試練だったのだろう。だから敢えて使える条件を彼は黙っていた。

 けれど先輩はそれをわかっていた。選定の剣の大本である『原罪(メロダック)』。本来それを抜くチャンスは一度しか無い。そして抜いた者はその使命を全うしなければならない。

 いつか先輩が話してくれたのだ。

 

『凜、選定の剣とは神々が現れると同時に現れた『世界』の一部です。神が人にとって必ずしも善ではないように、その剣もある種の呪いであり、またある種の願望器なのですね』

 

 モードレッドさんがそれを使えば、おそらく選定の剣を抜くチャンスは永劫やって来ない。だけどこのモードレッドさんにはそんな機会は必要ないだろう。

 エルヴァちゃんがキラキラした目でモードレッドさんを見詰めている。その期待に応えられないような人ではない。

 

「他の者を斬っちゃならねぇってのは、その剣にそれだけのモノがあるからだな?」

「そうですね。ある種のお清めであり、必要な手順だと考えて下さい」

「で、その剣は?」

「乗り込む時に渡します」

「わかった」

 

 ここで抗議の声を上げたのが二人のセイバーさん達だ。

 

「エル、待って下さい。そうすると敵の真っ只中であの子は?」

「そうです。何の武器も持たずにあれだけの敵の中を往けと?」

「父上、それでもやるしかねぇよ。それが正しい手順なら。それと弓のウマいエルが城を崩したろ? あれでパンドラとかいう奴の行方は不明だ。先行してアサシン達が探ってくれるにせよ、そこは魔術師の工房に違いねぇ。となると、逆に考えればこの状況が却ってオレ達の動きをわかり難くしてくれる」

 

 どこまでも楽観主義なモードレッドさんに呆れる父親達。

 

「モードレッド。浅い付き合いだが、任せな。オレとランスロットで、敵をお前に近付けさせねぇからよ」

「そうですとも」

 

 ランサーさんの力強い言葉に同意するランスロットさん。この時、先輩の腹は決まったようだ。

 

「凛にルヴィアは凜とともに、異界化しているであろう城内部の術を解除。二人の士郎クンもそれをサポート。子供達とセイバー二人は彼女達を護って下さい」

「はい!」

「そしてエルヴァとエルマ、それとイリヤさんにアーチャーさん達は私とともに。こちらはモードレッドを工房へ送るために陽動と誘導に動きます。要は撹乱です」

 

 先輩はアーチャーさん達を連れて行く事にした。これはアラヤの目から守るという意味でもある。そしてガイア側のイリヤさんをも。

 つまり今回の先輩はそれだけ本気なのだ。

 

「私達は!?」

 

 メイドの凛さんとルヴィアだ。

 

「敵の手に簡単に落ちる者を、あなたは信用して使えますの?」

「クッ……」

 

 ルヴィアがルヴィアを睨みながら言い放った。キツい……。

 

「そこで意地でも連れて行けと言えないなら、『遠坂凛』をヤメなさい。あなたはたまたま同じ名だった三流よ」

 

 あちらの凛さんは凛さんを睨みつつも、『連れて行って下さい』と頭を下げた。こうなると早い。あちらのルヴィアも同じく頭を下げた。

 

「だいたい決まったようですね。では、晩ご飯の後に決めに行きましょう」

 

 皆さんは力強い声で先輩に返した。

 

 そこから晩ご飯まで自由時間となったのだけど。

 

「アーチャーさん」

「何だ?」

「ゼロインを取りたいので標的になって下さい」

「ハァ?」

 

 先輩は5番目のアーチャーさんに的になれと言ったのだ。英霊なら死なないからと。

 

「待て! 確かに7.62mmのNATO弾程度ではダメージが皆無だ。だが、その前に君のライフルにはスコープが付いていない。それでゼロインとはどういう意味だ?」

「チッ」

 

 私達の間では先輩が盲目なのは周知の事実だった。それでも先輩には宝具を通じた心眼がある。

 そして銃身の熱し具合、空気の流れ、気圧、気温、弾薬の量と弾頭の重さ、それらをすべて感知して、弾を唯一相手の急所に向かうルートに乗せるのだ。

 ちなみにゼロインとは、山なりを描く弾道とスコープから視認できる標的との交点を一致させる事と、その作業を指す。

 弾は火薬の燃焼に拠って銃身から飛んで行くのだが、山なりだから近距離と遠距離の二点でスコープの延長線と交点を結ぶ。ライフルはこの二点で目標に中るように合わせる。

 例えば30mで近距離の交点を通り、150mで遠距離の交点を通る弾があるのなら、最初は近距離側を合わせ、次いで遠距離側を合わせていく。スコープのクリックで合わしきれない場合は、スコープとライフルの間にシムを挟んだりもする。そしてゼロインは長距離移動や輸送した場合、一度分解し再度組み立て直した場合、弾薬を変更した場合、前回のゼロイン時と気温が7度以上異なる場合、緯度が極端に変わる場合、標高が450m以上変わる場合は必ず行うものなのだ。

 だけどそれはスコープがあっての話だ。

 

「『チッ』ってなんだ、『チッ』って。何を試そうと考えていた?」

「いえ、概念刻印を破壊する魔弾が英霊に中たればどうなるのかなと」

「おかしなものを試そうとしないでくれ!」

「はぁ……お兄ちゃんとは違うなぁ。お兄ちゃんなら進んで実験台になってくれるのに」

 

 事実だ。あの兄のアーチャーさんは妹のアイデアが世のためになると信じて、どんな実験にでも飛び込む。

 令呪の効力は何万キロ離れれば失われるのか、マスターとサーヴァントはどのくらい離れて行動できるのか、高度何万キロの落下に耐えられるのか、眼球や金的はどのくらいの口径の弾まで耐えられるのか。

 先輩は全部試したし、調べ終えていた。あのゲイ・ボルクの最大到達距離も、エクスカリバーの最大拡散角、ベルレフォーンの最大速度と保持エネルギーも全部だ。

 だから先輩はゲイ・ボルクを恐れない。セイバーさんとの距離と角度で、エクスカリバーの影響がない範囲を瞬時に見極められる。

 そしてアルトリア先生の竹刀を尽く躱す身体能力を持っている。更にコンニャクのように身体が柔らかいので、言峰さんの攻撃も全部躱すのだ。

 だけどそんな先輩は父である切嗣小父様の血なのか、銃器、中でもライフル射撃が一番好きだった。

 

 先輩の構えるH&K SR9は木製のサムホール・ストックでない精密射撃用のSR9Tだ。レンジではより精密射撃に向いたSR9TCを使われている。

 庭の隅でライフルを構えた先輩は、道場の側に立っている樹の枯れ葉を撃った。そして四散して飛び散る枯れ葉の小片を次々に撃った。相変わらず巧い。

 

「ちょ!? どこで何を撃ってるんだ!」

 

 ここの衛宮さんが文句を言う。だけど隣近所からの苦情も通報もなければ、パトカーのサイレンも集まらない。それがこの世界の異様さだった。

 

「そうだ。ちょっと来てくれ」

 

 そう言って衛宮さんは私と先輩を土蔵に連れて行った。

 

「これなんだけど」

 

 それは特注のトンプソン・コンテンダーと弾薬の余りだった。

 衛宮さんが解析して仕分けたのだろう。弾薬は綺麗にグループ分けされていた。

 

「こちらの20数発が切り札の起源弾で、こちらの数が多い方が通常の.30-06スプリングフィールド弾ですね」

 

 それが何かと、次の言葉を待つ先輩。

 

「いや……そこまで知っているのに何とも思わないのか?」

「今更何を? 仕出かした事はどうしようもありません。それに私は父が殺した相手を全部調べました。それは父でなくとも誰かに殺されて当然の……エインズワースのような人を人とも思わない、堕ちた魔術師ばかりでした。一切の例外なくです」

「それは本当か?」

「だから驚く前に不安なら自分で行動して調べなさいよ。まぁ、この世界だと難しいだろうとは思いますが」

 

 先輩は第四次の最中に人を使って全部調べたそうである。そこに一抹の大義がなければ『親子』として認められないと。そして調べた結果を見て、心底安堵したそうだ。

 何故なら全員、『衛宮切嗣』が動かずともハンターが狙って当然の相手ばかりで、7割が協会から追われる封印指定対象者で、残り3割が教会の代行者に狙われていたからだ。

 それを聞いた衛宮さんもホッとしていた。ここも同じだとは限らないけれど、少なからず希望は持てる。

 

「それを聞いて、ここを去る決心が付いたよ」

 

 先輩は衛宮さんが持つ、コンテンダーの木箱と弾薬の紙箱を指して言った。

 

「形見なのは重々承知ですが、これは法に触れます。まして新しい世界で必要ですか?」

「どういう意味だろう?」

「生活費の足しになればと思います。買い取りましょうか?」

「そうだな……少し考えさせてくれ」

「わかりました。それと必要な家財道具や衣類を荷造りして下さい。全部私の宝具に取り込みますから」

「わかった。あっちの俺にも聞いていて、片付け掛かっていたところだ」

 

 そう残して衛宮さんはコンテンダーを抱えて母屋に戻った。

 

「先輩、もう一人の衛宮さんの時は買い取っていなかったでしょう? どうして今回?」

「彼にはルヴィアが居ます。だからですよ」

 

 なるほど。

 

「アダムの肋骨とはイヴの事ですしね」

 

 ああ……先輩のお名前の頭文字は、エルヴァ・フォン・アインツベルンでE.V.Eだった。

 

「それと私はコンテンダーに思い入れがありません」

「そうなんですか? でも、小父様の礼装ですよ?」

「そうかも知れませんが、私にとっての父の愛銃はベレッタの92FSです。米軍が採用しているのだから良い銃なのだと当時は思っていましたが、あれほどガタガタで中らない銃だとは」

 

 そこまで酷くはないが、バレルブッシングが緩いので、後退したスライドが毎回元の位置に戻るとは限らない。それ故に軍用とは思えないほど的から外れる時がある。

 裏返せばそれだけ各パーツの噛み合わせにゆとりがあるので、悪環境でも動作不良を起こしにくい。ジャムしない信頼性だけは高いという、結構偏った銃なのだ。

 だからあの銃を名銃だと持ち上げるのは、実情も知らず実機にも触れられない人に多い。先輩は3挺買って、3挺ともテキサスのレンジで投げ捨てた。

 許可を貰って拾い上げ、1挺は私、1挺はルヴィアに、もう1挺は会長に手渡した。

 スライドの破損より、この命中率の方が大問題なのにメディアはほとんど報じなかった。メディアとハリウッドは、東西の物知らずなインテリばかりだから銃をわかっていないとは先輩の弁だ。

 

「とは言え、父の92FSは改造品でしてね。ブッシュ部分がカスタムパーツで固められ、サプレッサーを取り付けできる銃身に替えてありました」

 

 サプレッサーを取り付けると、その重さで銃身がブッシュと当たり命中率が上がるそうだ。

 1挺3千ドルから4千ドルはする、カスタム1911はこのブッシュが意外と緩い。その分、すべてのパーツがタイトで隙間がない。だからスライドは毎回元の位置に戻り、銃身を決まった場所で固定してくれる。

 特に競技向けに造られたマッチ・モデルはそうで、軍用の1911や市販の1911を改造しても届かない命中率なのだそうだ。

 ショートリコイルのティルトバレルは優れたメカニズムだけど、ブッシュが甘いと命中率が下がる。この泣きどころを精度を上げることによって潰しているのが1911のカスタム・ガンなのだ。

 そんな1911カスタムをたくさんお持ちなのが、ルヴィアの執事であるオーギュストさんである。この趣味は弟子のルヴィアの、友人のルヴィアのオーギュストさんのどちらもお持ちだった。

 

 だけどこの二人のオーギュストさんは決定的に異なる点があった。方や大の寅さん好きで、もう片方はネコ大好き人間だった。

 基本は同じなのに、微妙に違う。その違いの出どころは機会と触れ合いにあった。

 実のところ、私の友人のオーギュストさんも寅さん好きだ。だけど彼はルヴィアに付いて日本に来てしばらく経った頃、散歩の途中で棄てられた子猫を拾った。その子猫を手始めに、オーギュストさんは現在5匹もネコを飼っている。

 その原動力と言うか、後押しをしたのが先輩や会長の妹さんである末っ子の美遊ちゃんだ。あの子は大の動物好きで、犬を3匹とネコを7匹も飼っていた。どの仔も殺処分待ちや事故に遭った仔だ。

 最初に飼い始めたのは小母様だったと言う。そして美遊ちゃんが3歳になった頃。イリヤ会長に手を引かれて散歩していた美遊ちゃんが、突然会長の手を引いて未遠大橋の下に行ったのだ。

 そこには大橋の上でクルマに轢かれたのか、傷だらけで血みどろのサビ猫が居たそうだ。そしてそのネコはお腹がパンパンだった。

 ネコは美遊ちゃんを見て一声鳴き、会長達の見守る中で子猫を5匹も産んだ。託されたと理解した美遊ちゃんは、10歳も年上のイリヤ会長に一歩も引かず、出産した全部をタオルで包んで会長のバッグに押し込んだ。

 堪らないのは猫嫌いの会長だ。脂汗で半泣きになりながら、出産後事切れた母猫を埋め、子猫を家まで連れ帰ったそうだ。当時はビルの完成間近で、家はまだ武家屋敷だった頃だ。

 その武家屋敷には既にネコが12匹も居た。後々、どの仔も不妊処理をして里親を探して引き渡したそうだが、今もその頃の仔やその子供が7匹も居る。

 そして3匹居る犬のうち1匹は、ペットショップで売れ残った心臓に病気を抱えた子犬だった。幼稚園の年中さんの頃だそうだが、これまた美遊ちゃんは動かなかった。

 何とかなだめて連れ帰れば、コツコツ貯めていた貯金箱を割って、買って欲しいと泣いて訴えられたそうだ。そこで困った会長は先輩に相談した。

 三人でペットショップに行けば、そのキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルはケージの中から美遊ちゃんの差し出した手を舐めていた。

 先輩の診立てでは、この犬種に多い僧帽弁閉鎖不全症を発症していたそうだ。価格はそれなりなので、幼稚園児の貯金箱では絶対に足りない。

 そこで先輩は、『この子の一生を見てあげること』『死ぬまで友達でいてあげること』『朝夕の散歩も自分で行うこと』、この3つを約束した上で子犬を買ってあげたそうだ。

 勿論、先輩の事だから病気を理由に半額以下にまけさせ、家に連れ帰った後は本気で魔術医療を施した。だから今も元気だし、美遊ちゃんの良き友人だったりする。

 そんな救われない小さな命を大切にする美遊ちゃんを、ご両親や先輩に会長も、そして私もルヴィアも可愛がっていた。だから、それを知ったオーギュストさんも子猫を見捨てられなかったのだ。

 美遊ちゃんが猫に会いに遊びに来ると、オーギュストさんは途端に好々爺に変貌する。お菓子を用意していたりして、あの二人は年の離れた友人でもあった。

 自分で気付いて欲しいと敢えて黙っているが、弟子のルヴィアの美遊ちゃんも動物好きそうだ。そしてルヴィアも。もっと話し合えば今より素敵な『姉妹』になれると私は思う。

 

 肩慣らしの試射を終えた先輩は大きなライフルを宝具に仕舞い、P2000を出した。マガジンを抜いてスライドを引き、薬室に残った弾も抜かれた。

 そして別のマガジンを取り出し装填した。

 

 バン! バン、バン、バン! バン! バン!

 

 最初は両手だったのが右腕1本に変わり、最後は左腕1本だった。やっぱり左の方が命中精度が高い。先輩は元々左利きなのだ。私もP22を出して撃ってみた。

 

 パン! パン! パン!

 

 22口径なので音が軽い。そして左右どちらでも命中率は変わらない。満足だった。こんな風に撃てるようになるまで、今まで何発撃ったか憶えていない。

 だから私のガンドは命中率100%だ。P22は95%くらいだけれど。

 

 拍手が聞こえたので振り向けば、弟子の凛さんとルヴィアだった。その横に叱られていた二人が驚いた顔で立っていた。

 魔術師の私が何故銃を撃つのか、その理由を凛さんとルヴィアから聞いたのだろう。驚いてはいたが、その目には光があった。

 凛さんとルヴィアが弟子を持つのはまだ早い。だけれど世界を超えた友人は増えて欲しいと思う。それが胸にあれば自分を励ませる。自分自身には負けられないと。

 そしてそれはあちらにも言える。私が指導する事は無いし、懇願されても弟子には取れない。でも、出会った事が刺激となり、自分を省みて才能を伸ばして行けるなら。

 

 夕飯の声が掛かった頃は辺りが真っ暗だった。暗視と保温の魔術を使っていたとは言え、この寒空でマガジン5本分は撃ち過ぎた。10×5で50発だ。つまり弾薬一箱分だ。

 それでも仕上げに、私のP99を出して頂き、3発撃ってみた。そして美味しい夕飯を頂いたのだった。




次回は戦闘篇かな。

追記。
コンテンダー以前に『主人公が持つに相応しい』銃で有名だったのが『Mare's Leg』です。
ドラマ『Wanted Dead or Alive(拳銃無宿)』の中で、賞金稼ぎの主人公ジョッシュ・ランダル(若かりしマックィーン)が持っていた、ソードオフされたウィンチェスターM1892です。
勿論レバー・アクション・ライフルです。時代考証的には西部に無法者が多かった時代だとM1873が正しいらしいですが、あのクリっと回して装填(スピンコック)する姿はT2のシュワちゃんより遥かに前の時代です。
どうやらこの銃はマックィーンのアイデアらしいですが、アメリカでは未だに人気があります。
動画サイトで『Mare's Leg History』と検索すればかっこいいスピンコックが見られます。
なおシュワちゃんが使ったのはM1887というレバー・アクション・ショットガンです。
これでスピンコックすると確実にジャムります。それでなくともジャムが多く、天才ジョン・ブローニングが、ショット・シェルでのレバーはヤメろと警告していた銃でした。
その反省からポンプ・アクションへと移行したのです。
1911は1911年。1892は1892年。わずか20年でこの変化です。それもこれもジョン・ブローニングが居てこそでした。
図面とアイデアスケッチしか残さなかったダヴィンチよりも、完全作動しその後の歴史を変えてしまったブローニングは正に天才でした。
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