夕食後、私達はクレーターに向かった。
荷物は以前と同じく、電灯から鍋まで一切合切宝具に押し込んだ。ブレーカーを落とし、最期の戸締まりをしたら子供達はここの美遊を励ましていた。
お風呂に入り、しっかりと食事を摂ったバゼットも元気だ。ブリーフィングに居なかったので簡単な説明をすれば、進んでエルやエルヴァとともに動くと言ってくれた。そして今、私達の横を歩いている。
先頭は戦闘服を着込み、ライフルを背負ったエルで、その横を礼装姿になり弓を握ったエルヴァが歩いている。そのエルヴァの横には、同じく弓を握ったエルマが歩いているが、髪が緑色になり頭の上にケモノ耳が生えていた。
「それって何?」
「アーチャーで、アタランテだそうです。夜目が効いて脚も早くなるみたいですね。転身とスペック・チェックは終わっていますが、訓練にも使った事はありません」
「じゃ、ぶっつけ本番なの?」
「そうです。でも、使うのは最初の攻撃だけですよ? 後は戦いの流れを見てカードを変えます。近接になったらイリヤちゃんに期待ですね」
今回、私達のイリヤと美遊はそれぞれカードを7枚持っていた。エルが新しく揃えてくれていたのだ。そしてもう一人のイリヤと美遊には、以前の3枚ずつのカードを預けた。ただし、イリヤのセイバーのカードだけは交換している。
悔しい事に、二人の集めたカードはあの赤毛と金髪が回収し奪われていたのだ。エルが用意していなかったら大変だった。
「魅せてくれよ。オレのカードを使うんだからな?」
「え~」
そんなのカードの本人に言われたらビックリだ。
「気負わせてどうすんだ。オレは気にしねぇから遠慮なく使いな」
ほんの少し前『紛い者』って怒ってなかったっけ? けれど彼は本当に気にしていないらしく、二人の美遊の頭をワシャワシャと撫でていた。
「イリヤちゃんが、『いつも友達を助けてくれてありがとう』とお礼を言ったらしいです。それを知って、あの二人も」
エルマの声だけど、なるほど納得。やがて私達はクレーターの縁に着いた。
「では、この剣を」
「おお。預かるぜ」
あれって鞘もあるんだ? へぇ~。
「来ましたね」
「お~お~、わらわらと。楽しみだねぇ」
暗闇のクレーターにたくさんの眼光だけが光っている。
「エルヴァ」
「はい……む~~~!」
そしてエルは皆んなの見ている前でエルヴァにキスをした。エルヴァがむせている。
「ガハッ、ゲホッ……な、何を飲ませ……甘くてヌルヌルして気持ち悪い……ゲェ~~」
「バナナで包んだ礼装です。起動するのに口移しが必要でした。これで、もう回路が悲鳴を上げる事はありませんよ」
「え? そんなのを作っていたのですか?」
「当たり前です。あなたは、もはや姉妹や友人といった多く人が待つ大切な存在なのです。絶対に死なせませんから」
エルヴァだけでなくエルマもイリヤもクロエもイリヤさんも……そして私とルヴィアも頭を下げた。この変人はこういう事をする奴だった。
「ですけど、何故バナナ?」
「気持ち悪いだろうなと思って」
「死ねよ!」
「礼装というか、あれはクスリでもありますが、直で飲む方がヤバイです。だから見せなかったのですから」
「呪いのような?」
「聖杯の汚染した泥をジョッキで一気飲みする方がマシかも」
「呪い返しで回路に防壁を?」
「そのポジティヴな解釈があなたから出て来るとは」
エルヴァはエルを驚いたような顔で眺めていた。そして二人が、二人にしかわからない事を話している間に、崖の下の黒化英霊は無数に集まっていた。
前回と同じく、ここから城は見えない。あの隠蔽の魔術は自動発動のようだ。『見立て』ではないけれど、クレーターの中央にあるわけだから『円環の結界』は張りやすい。そして周りの風景を『置換』して置き換えているのだろう。
そんな以前は考えるゆとりもなかった事を、今回冷静に分析している私。眼下の黒化英霊はきっと千や2千ではきかない。だからエルがやる事がわかっていたし、次に彼女達がやる事もわかっていた。
「フハハハ。見ろ、英雄の成れの果てがゴミのようだ」
セイバーに叱られていた。けれど予測通り、エルは『王の財宝』で黒化英霊を囲んだ。このマナのほとんどない世界で。
「お姉さん、幾つ持っているの? これは反則だよ……」
同意する。ギルガメッシュ、あなたが正しいわ。
そして悠々と崖下に降りたら、射出口の隙間から名々が銃や矢でテーマを決めて腕を磨いた。ランサーは槍で十人抜きを披露して、美遊達にせめて二枚抜きはやってみろと教えていた。
弓隊はエルヴァをお手本として、二人の衛宮君にクロエとクロ、そしてイリヤ達とイリヤさんにエルマが練習していた。衛宮君達の弓を投影したのはアーチャー達だ。
この二人は投影こそすれ、指導はしなかった。私達の方のアーチャーはエルヴァの腕を買っていたし、もう一人のアーチャーは興味津々といった風情でエルヴァを見詰めていた。
セイバーと話し肯きあったりしているから、アルトリアさん辺りから腕前くらいは耳にしていたのだろう。
そして私とルヴィアは師匠の指導の下、銃とガンドを練習した。当然、それを見ていた、ここの私とルヴィアもガンドを使いはじめた。
「マナが薄いから回路はもっと絞って。後でバテますよ。刻印へ回る魔力を最小にする気持ちで。これは中てる練習であって、威力は必要ありませんから」
「「はい!」」
「「はい!」」
師匠のアドヴァイスに返事は四つだ。それも二つずつ声がかぶってる。
ズガーン! ズガーン!
響くのはエルヴァのライフルだ。そして皆んなが目を剥いた。魔弾だろうか。何と、被弾した黒化英霊が師匠のガンドのように霧散するのだ。あれだと本物の英霊にも効果がありそう。
後ろでランスロットとバゼットがヒソヒソ話している。そんな中でモードレッドだけは剣に手を預け、静かに目を瞑っていた。
「行きます!」
黒化英霊が私達を囲むように新たに現れたのだ。そしてそれは崖上にも。退路は完全に絶たれた。だけどそれがエルの作戦だった。
次の瞬間には私達全員が塔が全壊した城の、城壁に空いた大穴の前に立っていた。アサシンが目印となる礼装をここいらに隠してくれていたのだ。いよいよここからが作戦の本番だ。
モードレッドの両脇を固めるランサーとランスロット。ライフルを仕舞い、マシンガンを構えるエル。宝石を握って、探査を掛ける私達。
やはり内部は内部で置換魔術のオンパレードだった。パンドラは地下工房と考えるのがセオリーだけど、ここまで空間を変化させられるならどこに居るのかまったく不明だ。
だけどエルヴァがある矢を壁に放てば、刺さった箇所から何十mかが元の姿を現した。
「その矢は、ゲイ・ジャルグか!」
どっちのアーチャーかわからないけど、その声に反応してもう一人のアーチャーと衛宮君達が矢を放った。遅れてクロエとクロが同じように矢を放った。
イリヤさんはクロエとクロに、その矢の投影方法みたいなのを指導していた。美遊達が辺りを警戒している。二人のセイバーとバゼットは、そんな子供達を囲むようにして護衛していた。
建物の中に入ったのに空は抜けるように青い。今は夜だぞ? それなのに刺さった矢から同心円で場内の壁や階段が見えている。何とも言えない虫食いな景色だ。
少し進むと後ろが騒がしい。外の黒化英霊がこちらに来たようだ。
「気にしなくて結構です。囲っていた『王の財宝』の範囲を広げ、増援ごと囲ってほとんど殲滅しました。あれはそこから漏れた一部です。む? 全宝具連続発射用意(全砲門開け)。撃てっ(シュートッ)!!!!!」
「お姉さんは強欲すぎだよ。六つじゃなく七つも?」
「正確には七つ半、それと半端なのが三から四はありますね」
「つまり10人以上の大人版の僕を斃したってこと?」
「はい。『我以外の我は要らぬ。ましてや歪んだ悦びを求めるような輩は。殲滅して奪い取れ』と」
「……ま、まぁ、好きにして……」
この時、エルと彼女のセイバーは念話で話していたのだろう。
前回とは違い、下を目指して階段を下っていく私達。探査係が先頭で、中団にモードレッド達、殿がエル達なのだけど……エルヴァの前の階段を歩いているのはエルマ? あの子、危ないわよ?
「おっと」
城全体が崩れているので、ところどころ瓦礫が転がっているのだ。つまずいて転けそうになった。しかも階段の下は変な洞窟みたいになってるし。何でこんなに天井が低いのよ。置換魔術なのだろうけど。
「凛さん、気を付けて」
「ありがとう」
よろめいた私を支えてくれたのは、鎧姿のエルマだった。あれ? じゃ先頭って誰?
「お姉様!?」
「どうしたの?」
「エルヴァお姉様が消えました!」
消えた?
「リン、エルヴァさんが消えましたわ!?」
いや、私は見てなかったが。拐われた……?
「ようやく君達を捕らえられたよ。縦に長くなるとは、まだまだ甘いな。さて君達はこの『三〇一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティ)』に耐えられるかな?」
ふ~ん、氷の結界か。エルはどこ吹く風でタバコを……?
「タバコはヤメなさい!」
「シガー・チョコです。寒いところでは糖分が重要です。お一つ、いかが?」
それで私もチョコを頂いた。
「いつまでその余裕が続くかな……? ここは完全に封鎖されている…………つ、つまり酸素もここにあるだけだ。はぁ……はぁ……。残り4分も……無いぞ……?」
そう言ってるダリウスが一番苦しそうなのは何故?
「バカめ。このタバコはシガー型酸素供給装置だ! アインツベルンの技術は宇宙ゥウゥ一ィイイイィィィ!」
そしてエルは酸素の薄い結界内にもう一つの結界を張った。そしてダリウスを取り出したレミントンのモデル700で撃った。ジャキンジャキンとせわしなくボルトを操作するエル。氷に落ちた薬莢がキーンと響いた。
ダリウスが血を吐いて呻いている。薬莢は.30-06スプリングフィールドだ!?
「あなた、まさか!?」
「装填した全弾、起源弾です。そして次はこれ」
700の次はイサカのモデル37。それの20ゲージだ。
ズガーン! ガシャン、ズガーン! ダリウスの腹に次々食い込む、こちらも魔弾のライフルド・スラッグ。トドメに顔面に2発撃ち込んだ。起源弾で刻印がぐちゃぐちゃになったところにトドメのスラッグだ。
青く透き通った氷に血が広がる。そしてダリウスのグチャグチャな顔が、傷のないジュリアンに変わって行った。5分はとっくに過ぎている。
エルはジュリアンを掴み私の腰を掴むと転移した。私は元々5分近く息を止められるし、エルが私に酸素を送ってくれていた。
そしてあの宝具クラスの結界をものともしない彼女の宝具と転移魔術。この転移は今の私にはできない。だけど彼女のスペックは知っている。あの結界こそがダリウスの敗因だった。
「狙い通りに行きましたね?」
「思ったより呆気ないですね。気を緩めず進みましょう」
皆んなが心配して駆け寄る中で、私達はそんな事を話していた。この二人が囮になる作戦は、エルがキスで送ってきたものだ。だから彼女も私も必要以上に宝具を使った。チカラを見せ付けるためだ。
そしてランサー以外は誰もその能力を見せていなかった。
ジュリアンを宝具に取り込んだエルは、再び私達の先頭を歩いた。
「やっぱり可怪しい! 最後列は誰なの!?」
凛の叫びで後ろを振り向けば……エル? いや……あれは……。それは、英霊の能力を持たなかった頃の────肌の白い私だった。
皆んなにはエルにしか見えないだろうが、私にはわかる。宝具で出力された、エーテル体の私。47番と呼ばれていた頃の私だ。
そしてそれは人形でもあった。操っているのはエルだ。分割思考で違う動きをさせているだけで、フィルターも無ければ分離独立するほどの自由もない。どこまでも人形だ。
となると、それはエルとも言えるのだけど、それでもあれのモデルは私だと確信した。もっと言えば、今の私をお手本にして、分割思考が演技しているのだ。
器用だ。エルだった頃、同じような事をしていた記憶があるのに。それでも分離した今は、とんでもなく器用だと思った。
廊下に仕込まれたカードからチラホラと黒化英霊が現れるが、仲間の誰かが斃していく。その数が一気増えたのは3階分くらい降りた先だった。
エルは士郎クン二人と、それぞれの美遊ちゃんを下がらせた。士郎クンが士郎クンに肩を貸している。この世界の士郎クンが真っ先にへばったのだ。
そしてダメージは、ここの凛とルヴィアにも。探査でかなり宝石を消費したようだ。だというのにこちらの凛とルヴィアは宝石剣を握り、無限に魔力を得ている。
その姿にシビレない宝石魔術師は居ないだろう。師匠の凜に至っては宝石剣だけでなく、未知のガンドで階段を塞ぐ黒化英霊を瞬殺している。
「あの並行世界の私達……」
「ええ……ここで音を上げる訳には行きませんわね……」
何かが伝わったようだ。
そこから先は混戦だった。クラレントを握るイリヤちゃんと、エクスカリバーを握るイリヤちゃん。その背中を絶対に守るぞと干将莫耶を無尽に振るうクロエちゃんとクロちゃん。
同じく干将莫耶を握る私の背中には、クラレントを握るエルヴァ? カードを作っちゃったの? まさか?
「お祖父様との合作でしょうね。あの子のカードも用意してありましたが、断られたのであれっと思えば」
士郎クン達は、美遊ちゃん達とセイバー達に任せている。アーチャーさん達も的確に黒化英霊を分散させ、セイバー達が動きやすい場を作っていた。エルマは遊軍として動き、今はアサシンなのか確実に黒化英霊を一人ずつ仕留めている。
「お姉様! 私が! 私がお姉様をお護りします! 見て下さい! 私の活躍を! お姉様~~~!」
〈エルマ殿はカードに飲まれ掛かっておらんか?〉
〈ああ……あの『狂信者』だからなぁ……〉
何のカードだよ!?
「クロッ!」
気を緩めたクロちゃんに黒化英霊が群がったのが見えた。救けに走れば、バゼットさんが相手を叩きのめしていた。本気のこの人ほど怖い人は居ない。
そしてそのクロちゃんが引いた分、イリヤちゃんに黒化英霊が。それを蹴散らすエルマ。今度は剣士だ。
「済みません、お姉様の活躍の場を奪ってしまって……」
どうしてそんなに済まなさそうにしているの!? って言うか、こんな混戦なんだからお互いの相対位置がわかってれば良いの! 一々私に声を掛けなくても……! 一体全体、エルはどんなカードをエルマに与えたの!?
「シンクロ率が高いなぁ。これは良いデータが取れました」
「エルマは実験台なのか!?」
「こうしてアインツベルンは発展していくのです」
最悪だ、この女!
「フハハハ。そうだ、良いぞぉ。もっと見せろ。もっと、もっとだ、サンプルどもよ!」
どこの悪党だ……。けれどこんな事を言いつつ、エルマや凜達に部分的結界を張って相手の攻撃を防いでいたりする。本当に器用だ。
「ピンポイントバリアの次はダイダロス・アタックですね?」
知りませんよ! ってか、相手の剣をヒョイヒョイ避けながら語り掛けないで! こっちは忙しいんですから!
彼女を怒らせる積りは無かった。それは誓って本当。
だけど口は思い立った事を直ぐに吐く。それは常に並行世界の過去や未来が頭の中に浮かぶからだ。
元々夢見がちで自分が生きているのか死んでいるのか、いや、そもそも生命なのかさえ疑問に感じていた。子供の頃、母という存在と痛みを共有せず、培養槽で育ったからだと思っていた。
幼稚園で友人ができてもどこか遠い存在だった。仲良くもなれた。今もメールをやり取りするスイス時代の幼馴染みも居る。それでもその友人と付き合っているのは自分でなく、別の誰かのような気がしていた。
自分は自分でない。エルヴァ・ハーウェイという成功を約束された少女の役を演じているだけだ。そんな事は無いと否定しながら、その疑問を拭い去れない自分も長い間一緒だった。
だから私という存在を抱きしめてくれるマアエモ・ママとルオン・ママ、そしてお祖父様は大切な存在だった。と同時に、そんなだからあの三人の期待を裏切る真似はできないと強くと強く思っている。
自分という存在が生命だとは感じ辛かったのもあるが、それだから腕を切り落とせたのだ。痛みは怖くない。期待を裏切る方が怖い。失望されるのはもっと怖い。
そんな強迫観念にも似た思いを懐いて幼少期を過ごした。
そして私はそんな人に話せない内面を仮想的な自分に語り掛けていた。相談相手はいつしか人形になり、エーテル体になった。1番から20番までが表に出れないのは、私自身だからだ。
ミトもパミもこんな私を知っている。だけど知らないだろう事、知らせていない事もあった。
知識としての性を知ったのはもっと早かったが、今のあの子達くらいだろうか。そこにある快感を知り、好奇心からもう一人の自分を作った。
1番から20番、そして元から備わっていたであろう81番から100番は使わなかった。その頃の私は46番まで思考を作り出していた。
幼い性を貪るように確かめあったあの記憶をエルヴァは持っていない。私は元々嗜虐性の高いタイプだ。だから反対派の彼女を選んだ。だからこそ、その記憶を持たせられない。
だけどこうして活き活きと、決められたレールの上だった人生からスッポリと脱出したのがよりによって彼女だったとは。最近の私は落ち着いている。それだけ成長したのかも知れないけれど、エルヴァが普通に生きて生活を楽しんでいると想像するだけで幸せだった。
だから、彼女の胸から剣が生えた時、私は自分を棄ててしまった。
しまった。空間転移できる魔術師の黒化英霊だ。
「お姉様! お姉様!」
ああ、刺された胸が熱い……。血が抜けていくのがわかる。心音が弱まるのがわかる。
私は力の入らない手でエルマに行けと示した。ここは戦場だ。黒化英霊はまだまだいる。気を抜かないで……皆んな……。
マスターの危機に気付かない私ではない。だけどエルからの念話は『私に構わず陣形を乱すな。妹達を守って』だった。魔力は十分残っている。
なのにいつも流れて来ていた、あの潤沢な魔力が弱々しくなり……やがて来なくなった……。
「うおおおおおおおおッ!!!!!!」
私ではない。後ろに居たエルの分身と、先頭に居るマスターの元のエルだ。その先頭のエルが、叫んだ後に長い長い詠唱に入った。それは呪文なのか? まるで呪詛のようだ。
だけどそれには構っていられない。私は託された私の役をまっとうするだけだ。彼女の妹達や友人達を守る!
そして世界は反転し、馬が嘶(いなな)き、鎧の音が辺りに響いた。
「者ども~~~~! 掛かれ~~~~~~っ!」
先頭の馬。そこで剣を抜き指揮を取っているのは私か? あの黒き騎士はランスロット卿。後ろにはガラハッド卿までも。
「アーサー! こ、これは!?」
「わかりません。ああ、ガウェイン卿もアグラヴェイン卿にガヘリス卿、ガレス卿も!」
「彼の息子のフローレンス卿にロヴェル卿、それにガングラン卿までが居ます! あ、あちらには ケイ卿にベディヴィエール卿、それにグリフレット卿にルーカン卿だ!」
「ああ。後ろにはペリノア王とロット王が見守っている。 ペレアス卿も居るしボールス王とボールス卿も居る。ああ……トリスタン卿もパーシヴァル卿も居る……皆んな、皆んな、円卓が揃っている……」
「……ええ。王よ、負けていられませんぞ!」
「そうとも、卿よ。我らも往くぞ!」
マスター? エル?
しまった、エルヴァが刺されたようだ。それに拠ってエルが暴走している?
「アーチャー! シロウ!」
「こ、これは固有結界なのか?」
「それにしては何か違和感が。世界が変わったという点では固有結界だとも言えるが、違うような気もする」
「その違和感は正解だ。こいつは召喚だ。世界を丸ごと召喚したんだ。理想郷を丸ごと」
ああ、ガウェイン卿もアグラヴェイン卿にガヘリス卿、そしてガレス卿も居る。ロット王が彼らを見守っている。その横はペリノア王か! ケイ卿にベディヴィエール卿、ボールス王とボールス卿も。トリスタン卿もパーシヴァル卿も!
「父上! 行って来い! 王もランスロット卿もガラハッド卿も。フローレンスにロヴェルにガングランも居る」
「ええ、あなたの甥だ。グリフレット卿にルーカン卿も居る……」
在りし日の円卓以上だ。年齢と世代が異なるのに皆んな揃って、血気盛んな顔で進軍している。私はアーチャーやシロウに後を託し前に進んだ。
「理想郷を召喚?」
「そんな魔術を誰が? いや、エルなのだろうが。何があった?」
「エルヴァが刺されたようだ。それでだろうな」
黒化英霊が全滅した後に世界は元に戻った。凛やルヴィアの下へ行けばエルがエルヴァを膝に抱き、イリヤやエルマに子供達が泣いていた。まさか……?
「エルヴァ!?」
私は駆け寄った。彼女はこんな私を気に掛けてくれる数少ない仲間であり友人であり、姉であり妹であった。だから私は……。
「大丈夫、大丈夫よ。アーチャー?」
なんだ? 私は……。
「アーチャー? アーチャー?」
パシッ!
「戻りなさい! シロウ!」
あ……。
「す、済まない。大丈夫とは?」
「さっきの世界へ行った事でエルヴァの心音が戻ったの。とても濃密なマナのある場所だったわ。どこだったんだろう?」
「見ていなかったのか? 馬がたくさん居たろう? 円卓の騎士達も」
「それは見たけど、場所よ」
「その意味か……ブリテンの『理想郷』だろうか」
ガハッ、ゲホッ。
「「お姉様!」」
「「お姉ちゃん!」」
突然エルヴァが血を吐いた。息を吹き返したのだ。良かった。だが……?
「イリヤさんと子供達はここに残って下さい。エルヴァを頼みます。セイバーもお願いします」
「彼女はわかりますが、私もですか?」
「目の前が工房です。この気配はあの時のパンドラと同じです。後はモードレッドとランサーと私でどうにかなります」
結界と封印を解いたエルが、モードレッドとランサーを引き連れ中に入った。出て来たのは数分後だ。
「お待たせしました。こちらへ」
「わかった」
今度はエルと金髪の少年が入った。次に出て来たのは金色の王だけだった。
「エルはどうした!?」
「騒ぐな、騎士王。中で眠らせた。此度(こたび)の対価は少々大きいが、あの者なら何ら問題は無いであろう」
青年となったギルガメッシュは続けてこう言った。
「疾く急げ。裁定は下った」
そうして私達は凜の手引きで再び世界を渡った。
イリヤとクロの世界に戻ってもエルが目覚めない。何故だ? あの男に何をされた? そしてあそこはどうなった?
「エルお姉ちゃんはどうしたの?」
子供達がエルの寝かされた部屋を訪れ、エルマに断られている。ここはこの世界のルヴィアの家だ。私達は現在そこに滞在させて貰っている。
だが、エルが一向に目覚めない。かれこれ三日はこの状態だ。
「エルマ。誰と誰?」
「クロエちゃんとイリヤちゃん、それとエルヴァちゃんにアーチャーさんです」
「なら、こちらに」
そしてエルヴァは三人と私を凜の部屋へ案内した。
「先輩は現在、対価を支払っている最中です」
こういう時に真っ先に声を上げるのがクロエだ。
「何の?」
「あなた達のお姉ちゃんである……エルヴァ先輩を救った対価です」
そうではないかと思っていた。因果関係は不明だが、彼女はあの大魔術を使って、おそらくは一度死んだエルヴァを救ったのだ。あんな魔術は知らないし、どうして救かったのかも不明だ。
だけどこれだけはわかった。それはかなり大きな対価を必要とする魔術だったのだろう。そして彼女は今、その昏睡の中でその対価を支払っているのだと。
「彼女は一体何を……?」
エルヴァでもわからんか。
「『理想郷』を召喚したらしいが……いまいちわからん。その魔術も、君が救かった理由も……だ」
「聞きました。二人のセイバーの証言とランスロットさんのお話も。在りし日のブリテンそのもので、でも時代の違う人々が一同に介し……皆さんで黒化英霊を斃して下さったのだと。そして騎士達は誰一人サーヴァントでも英霊でも無かったと。これは、モードレッドもランスロットさんも同じ証言で、ランサーは本物の『理想郷』に違いないとまで言い切っていました」
「少なからず、本物を知っているのはあの男くらいのものだろう。となるとあれは本物だったと解釈せざるを得ん。そしてここは又聞きだが、まるで君に『全て遠き理想郷(アヴァロン)』が使われたのかのごとく、傷が塞がり……」
「……蘇生した。私もその話を聞き、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の中に封印された『理想郷』を召喚したのだろうかと考えました。ですが、そんな文献や伝承を見た覚えも、そんな魔術を聞いた覚えもありません。そもそも二人のセイバーが、鞘はそういう固有結界のような世界が喚べる代物ではないと話しています」
「だろうな。あれはあれで凄いのだが、五重の……完全なる護りを得られる結界宝具であって、そんな異世界を召喚できるものではない。夢で見るというならまだわからなくもないが……君達は何か思い当たるか?」
私ばかり話しても仕方がない。子供達の考えも訊いてみた。
「何か大きな、でも誰も知らない魔術が使われたってこと?」
「そうだ。それをエルが行った。そしてその対価に今も眠りに就いている」
「なら……わからないわ」
「私も」
「『理想郷』という概念を見立て召喚した?」
小さい方のエルヴァだ。
「何だって? 概念の見立て召喚?」
『違います、エルヴァ様。エル様は自分の持つ理想を対価に、戦士が眠り再び目覚める『自分の描く理想郷』を召喚したのだと思われます』
その声はエルヴァの握るステッキが発していた。
後日、少し変えるかも知れません。