※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第二部 並行世界篇   作:炭団

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どんぶりものは結構好きなのですが、いまだに花巻丼と美咲丼が何なのか不明です。
きっとご当地の海鮮丼だと思うのですが。
それと以前第一部で中華丼は日本で生まれた料理だと書きましたが、正確にはその名前が日本のオリジナルで、うま煮のあんかけ丼は中国にもあります。
あちらではご飯に何かを掛けたもの全般を『燴飯』と呼び、カレーもこの燴飯にカテゴライズされるそうです。
ただ天津飯は本当に日本のオリジナルで、白ダシが関西風、ケチャップあんが関東風と紹介しているサイトもありますね。
これ、カニカマにしないで鶏もも肉を使って中華風親子丼にすればもっと美味しいのにあまり紹介しているところはありません。
トロトロの中に固形物が入るから違和感が大きいのかな?


81、いい日旅立ち

結局凜の制限もあって、私達はエルマとアーチャーさん達が戻った時点で世界を渡った。

逗留させて頂いたルヴィアと、霊脈を貸してくれた凛に礼を言い、見送りに来てくれた人達一人一人に挨拶を交わした。子供達は寂しそうにしていたが泣く事はなかった。

何故なら時期を見てまた来る事が決まったからだ。それはここのエルヴァの存在だった。アサシン曰く見た目こそエルヴァちゃんだが、エルとは相当異なり魔術に於いては年相応で、ビジネスに於いてはまだ何も行っていないらしい。

ルヴィアの家に着いた私達は食堂に集まり、その事を検討しつつ報告会と反省会を開いた。

 

「思うに、生き残れたのは僥倖ですが……箱入り娘として育てられている可能性がありますね?」

「それは培養槽の中で何度も死に掛かったからですか?」

「はい。それだけに調整も緩やかだったのだと思われます」

 

エルの推察に私もエルヴァちゃんも頷いた。

 

「ともあれ、あなた達は明日の朝に出発でしょう? 着替えなどの準備は?」

「このままで大丈夫だよ。エルヴァに全部預けているから」

 

クロエちゃんの言葉に顔をしかめるエル。あなたもいつもそういう役だったものね。

 

「それと結果報告ですが、奪われたユスティーツァ様の魔術回路は完全に破壊されていました。これによりあの子達の世界では二度と聖杯戦争が起こせません」

 

それはある意味朗報だった。

 

「またあの世界に於ける遠坂や他家の刻印などは、全部ではありませんがアサシンがかなり回収してくれました。それらは私の方で保管させて頂きます」

「え? 遠坂のは師匠か私に」

「それが凛さん。役に立ちそうもないんです」

「どういう事ですか?」

「私達とは全然違う歴史を歩んだ遠坂なので、かなり遅れていると言うか……。凛さんは今お持ちの刻印を先輩に診て貰って改良する方が断然お得です」

 

エルが改良すれば100が120になる。だけどあの世界の刻印は40に満たなかったという。奪われたのでなく、それだけの進歩しかできなかったのだ。

魔術協会が無かった事、エインズワースが神秘を独占していた事。これらが大きく魔術の発展を妨げていたのだ。『置換魔術』に拘った弊害は大きい。

カードの開発がピークで、そればかりに頼る姿勢を作り出してしまった。だからそれ以外の魔術を疎かにするダリウスは敵にもならないとエルは言い切っていた。

 

 

 

報告会と反省会を終えると、セイバー達は裏庭に向かった。これはランサーとランスロットさんに仕事があるからだ。作業しながらでも話せるそうなので、セイバー達もモードレッドもそちらに行った。

一方、アーチャーさん達は士郎クンとともにニコさんを手伝うために厨房に入った。オーギュストさんへの報告交換を終えたルヴィアがオーギュストさんに質問していた。

 

「オーギュスト、あの駐車場にあるクルマは何ですの?」

「お嬢様方がお戻りになる前に、キリツグ様が持ち込まれた家族旅行用のクルマです。道路はまだ元に戻っておりませんし、一時的な置き場所にこちらの駐車場をお使い下さいと」

 

ト◯タ・コースターのキャンピングカーだ。左右も大きな家なので、アインツベルン家からは見えないのだが、凛の家からこちらに向かって歩いて来ると辻の奥にエーデルフェルト邸の駐車場が見えるのだ。

さすがにマイクロバスが停まっているとルヴィアでも気づく。それでこの質問となったのだ。しかも『わ』ナンバーではない。エルヴァのためにと中古だけど奮発したらしい。

 

「あれって免許は……?」

 

私は心配になってエルに尋ねた。

 

「自家用なら二種免許は必要ありませんよ。ですが、こちらのお父さんは大型免許を持っていたのですね?」

 

大型が必要なんだ? だけどイリヤちゃんが言うには、持っているそうだ。私達の父もお祖父様の仕事の都合で取らされていた。でもそれはEUの免許だ。こちらのお父さんが、日本の大型免許を取得していたとは初耳だった。

内装がファミリー向けに改造してあり、定員は29人でなく10人乗車で、6人が就寝可能だと後で知った。エルが言うにはバスコン(バスコンバージョン)のキャンピングカーは、好きな人には堪らないキャンピングカーの最高峰だそうだ。

 

「私が移動オフィスとして使っているスプリンターでも10万ユーロを越えましたから、あの大きさだと内装次第ですが1500万はしそうですね」

 

お祖父様の援助があったのかな? そうとしか思えない。でもあれなら、両親に子供三人、そこにセラとリーゼリットとママが乗れる。

 

「あなたと士郎クンを入れたらピッタリ10人ですよ。こちらのお父さんとお母様はそのお積もりだったのでは?」

 

たぶんママが勘定に入っておらず、セラとリーゼリットがお留守番でエルマと姉さんが入っていたのだと思う。だけど私と士郎クンは大会前だし、姉さんもエルマもアルバイトがある。

そんな事を考えていたら、マアエモ・ママが両親を連れてやって来た。私達は無事に戻りましたと頭を下げた。皆んなには私が一度死んだ事は秘密にして貰った。

明日からの旅行プランを子供達に笑顔で話す父。この顔を曇らせる訳には行かない。私はエルに心から感謝した。

 

 

「嘘!?」

 

突然凜が叫んだ。

 

「どうしたの、師匠?」

「どうされましたの、ミストレス?」

「誰かがゲートを潜って来ました」

「それって先生か師匠の妹弟子じゃないの?」

「いえ。感触が……」

 

そう言って凜は姉さんを見た。

 

「何で私?」

 

そしてその人達は程なく玄関に現れた。何か荷物を大量に抱えたアルさんとお兄ちゃん。そしてその後ろには。

 

「ね、姉さんと、ちぃ姉さん!?」

 

驚く私を尻目に、巫女の姉さんは姉さんを不思議そうに見詰めた。

 

「いやぁ、可能性としてそうなった私が居るとは聞いていたけど。本当に居たか」

「でも、そちらも半英霊みたいなものよね?」

「そうね。私の場合はアーチャーとバーサーカーを取り込んだ状態で大聖杯を閉じたのね。そんなところにエルが来て、聖杯を開けてくれたの。そこであの子は英霊の魂がある事に気付いて、アーチャーとバーサーカーを救ってくれたの。だけど私まであの子の宝具に取り込まれてさ。それでこうなっちゃった。元の身体が溶けて失くなっちゃったからだと思うわ」

「となると、ゲートを潜ったのはあなたの魔術?」

「そう。エルが座なので、あの子の宝具と私の小聖杯がリンクしていてね。たぶん、どこのイリヤスフィールよりも魔術が使えると思う」

 

確かにエルはゲートを潜れる。それが巫女の姉さんにも可能だったとは。

 

「へぇ~。あなた、私より珍しい存在なんじゃ?」

「かもね。ほら、イリヤも何か話しなさいな」

「う……ん……。びっくりして声が出なかったわ。あなたの存在もだけど、あの黒いエルにも」

 

黒いエルって言われたよ……。そうやって少し気落ちしているとエルが質問を投げ掛けた。

 

「どうしてこちらに?」

「このメンバーを見て感じない?」

「?」

「私もアーチャーもヘラクレスもあなたが座なのよ? 何か危険な事があったでしょう?」

 

場所は厨房に移動していて、巫女の姉さんは持参した鉄板に油を敷きはじめた。たこ焼きを焼きながら話す巫女の姉さん。姉さんもこれには驚いている。でも、あの人はそういう人ですよ。

 

「私じゃなくそこのエルヴァが危なかったのです」

「なるほど。エルヴァはエルの元一部だった。その危機を私達はエルの危機だと感じちゃったのか」

 

冷たく聞こえるかも知れないが、こういう話し方が巫女の姉さんの持ち味だった。

 

「エルとエルヴァで呼び分けているのね。そこのそれを取って」

 

その『それ』はたこ焼きなのにタコではなかった。

 

「これって牛の肉?」

「そう。牛タンのタン下とタン先。それを筋切りして柔らかく煮込んだものよ。そっちはタン中とタンカルビね。タン元はステーキで出すわ」

 

硬い部分や筋の多い部分をたこ焼きの具に? 私の記憶では刻んで甘辛く煮たコンニャクと、スジを柔らかく煮込んだ『芯』が、たこ焼きならぬ牛焼きの最後だった。知らない間にここまで進化していたのか。

姉のイリヤ曰く巫女の姉さんは『鉄板の魔術師』だった。冬木振興会の会員で、B級グルメ研究家なのだ。だけど普通の人は、牛タンブロックを買って捌き分けたりしない。

しかもこれは黒毛和牛か交雑牛の黒タンだ。乳牛(ホルスタイン)の白タンとは明らかに異なる高級食材だ。おそらく1本10万コースだと思う。

最高峰のタン元ではないにせよ、国産和牛のこれをたこ焼きの具にするのか? 牛1頭に付き1本しか取れず、その認知度の割に歩留まりの悪さが余り知られていない、牛のカマトロ。この人の発想にはいつも驚かされる。

カキが丸ごとが入ったたこ焼きや、バター醤油の効いたタラバガニが入ったたこ焼き。そして中の具が中華の肉まんの具だったり、八宝菜だったりするたい焼き。そのインパクトに今までどれほど驚かされれて来た事か。

松葉ガニのカニ味噌が具になったたこ焼きなんて食べたことある? 生地にカレー粉をまぶすのでなく、カレーで煮込まれたお肉が芯で、カレー味のキャベツが入ったたこ焼きなんて食べたことある?

この姉はそういうのを作る人なのだった。残り物リメイクやアレンジ料理に、リボーン・ベジタブルを使って。エコで財布に優しい料理、子供の喜ぶ料理、そういうのもやたら上手かった。

エルがアルさんにお兄ちゃんや巫女の姉さんを取り込んだのは4年生の終わり頃だけど、その頃からこの人は独自に料理を研究して私や姉さんを喜ばせてくれた。

 

「さぁ、出来た。この建物の裏手で英霊の気配を感じるわね。アーチャー、配達してあげて」

「わかった。この4枚分くらいで良いか?」

「そうね」

 

厨房にはどこから出したのだと思うほど本格的な、業務用たこ焼き器が設置されている。大穴3×6の18穴の5丁掛けだから一度に90個も焼ける。

通常サイズの鉄板に切り替えれば、4×7の28穴で、何と140個も焼けるのだ。この5丁掛けを置いているたこ焼き屋さんはまず無い。多いところでも4丁掛けだろう。

しかもオプションの平鉄板も揃えているので、3面を平にしてお好み焼きや焼きそばを焼きつつ、2面でたこ焼きを焼いたりできるのだ。

そんな本格的な業務用たこ焼き器をこの姉は3つも持っており、その他に動物焼き用専用台も2つ持っていた。この動物焼きは、型の名前でそう呼んでいるだけで、取っ手の付いた長細い鉄板で上下別々に焼いて途中でドッキングさせる半自動の回転焼き器の事だ。

これまたオプションの鉄板が豊富にあり、回転焼きにたい焼き、ミニたい焼き・プチたい焼き(いわゆる養殖の型だ)にベビーカステラが焼け、銅製の1枚物に替えれば手で返す回転焼き器としても使える優れものだ。

この半自動鉄板の型の中に動物の絵が入るタイプがあり、そこからヒントを得てドーナツ状のアインツベルン焼きが産まれたのだった。

このアインツベルン焼きにも天然と養殖があり、養殖はあちらでの藤村組とフルールが型を持っている。そして巫女の姉は神社のお祭りでお兄ちゃんに店を開かせ、3本バーナーで焼きムラが起き辛い1丁9個の天然型を使うのだ。

そして生地はたこ焼きやカステラでなくデニッシュで、中にカスタード・クリームが入っている。これが冬木名物のアインツベルン焼きだった。

なおフルールのだと季節のフルーツが入っていて、藤村組だと回転焼きと同じ生地になる。そこから値段の差が生まれるのだけど、型は同じなのに食感や味がお店で異なるのでそこも話題になっている。

またこの人は、白菜の重ね漬けやキャベツの丸ごと漬けなどを姉のイリヤと共同開発して地域の名産品に貢献していた。キャベツの丸ごと漬けは芯をくり抜き、中に刻んだキュウリやニンジンにリンゴなどを詰め込んだお漬物で、子供からお年寄りにまでウケていた。

 

焼き上がったたこ焼きを、器に盛っていくお兄ちゃん。空いた鉄板に新しい生地を流し込む姉さん。第二弾は私達の分だろう。

お兄ちゃんとアルさんがたこ焼きを抱えて出ていった。呆気に取られる凛とルヴィアにお父さんとお母様。だけど子供達は大喜びだ。だってあの生地はホットケーキミックスだから。

あのコロコロ・ホットケーキも真ん丸餃子も、一口オムライスに肉団子、ケーキポップに一口タルト、アヒージョにチーズフォンデュ。ミニ唐揚げにベビーカステラ、カップグラタンに白身と黄身で分けた三色オムレツ……。

たくさん色んなものを食べさせて貰ったなぁ。妹のエルヴァにたこ焼きを教えているクロエちゃんとイリヤちゃん。あのお姉さんは本当に楽しいよ。

そしてそんな子供達の中に、まるで四人目であるかのごとく馴染んでいるちぃ姉さん。5年生と溶け込める18歳は最後の記憶よりしっかりしていて、どこか中学時代の姉さんっぽくなっていた。

 

「なぁ、アイリ……」

「ね? お話には伺っていたけれど……あちらって毎日こうなのかしら?」

 

毎日こんな感じでした。私はエルと違って静かな方が好みだった。だから今の生活に満足している。でも懐かしいな。

 

「エルヴァ、元気にしてた?」

 

手の空いた巫女の姉さんが私の前に立ってそう言った。横にはちぃ姉さんも。

 

「アルトリアから聞いていたから驚きは少ないけれど」

「不思議なコトがあるんだね」

「あの英霊になった彼女があなたの姉なのね。優しそうで良かった」

「あっちのエルマって子とおチビちゃん達が妹なんだね」

 

私は二人を抱いて泣いていた。そんな私を妹達が支えてくれた。

ゆったりした午後のお茶を楽しんだ後、エルマにトロンメル、マルガリータさんを交え私達は夕飯の支度に掛かった。メインはタン元のステーキで、後は夏野菜の蒸し物やホイル焼きだ。

セイバー達は小屋の方で済ませている。あちらにはシロウさんもお兄ちゃんも居るので安心だ。鶏もも肉と卵をかなり持って行ったようなので親子丼でも作るのだろう。

お兄ちゃんは倫敦でモードレッドと会っている。なので食べさせてあげたい料理が色々あるのだと思う。そして今回のそれはきっと……炭火で皮側だけを焼き、そこから仕上げていった親子丼だ。

こうすると普通に生の鶏肉から作るより、香ばしくて美味しくなる。シロウさんのレシピだ。あれに黄身の醤油漬けを落とすと、また美味しいんだよね。そんな想像をしているとエルが尋ねてきた。

 

「時にあなたはカツ丼を完成しましたか?」

「いえ」

 

親子丼を想像し、そこから連想した質問だろう。姉のイリヤにエルが探し求めているカツ丼。それが完成したカツ丼だ。

では何をもって完成なのか? それは矛盾への挑戦だった。揚げたてのカリッ・サクッとした食感は欲しい。けれどダシを吸った柔らかさと旨味も欲しい。

そして卵はトロトロの部分と、少し凝固した部分も欲しい。こうすると卵が二度美味しいからだ。さて、あなたならどう作る?

さっと思い浮かぶのはトンカツ二種盛りの溶き卵二種盛りだ。片方はカツが浸るくらいダシを入れて煮込み、片方はカツを入れず、卵が固くなるまで煮込む。その両方をドッキングして完成。

この練習に向くのが天とじ丼だ。タレを掛ける天丼でなく、揚げたてのテンプラをご飯に並べて、とじた卵ダシを掛けて頂く方法だ。冷蔵庫の余った食材でよくかき揚げを作って試していた。

テンプラは煮込むと崩れる。だからとじたダシ卵は後から掛けるのだ。ところがこれがトンカツとなると、後掛けだけだと何とも寂しい。要はカツ煮(カツの卵とじ)の要素も欲しい訳だ。

そこで卵とじを作りご飯に掛け、揚げたてのカツを乗せて、とじより濃いめのダシと言うかタレを掛けてみた。あれだ。玉子丼に天丼を乗せた感じ。以降、そうやって作っているのだけど、それ以外の方法があるのか?

あるとすれば、親子鍋に張るダシを少なめにし、溶いた卵の半分を先に煮込み、そこにダシから半分上が出るくらいの厚さがある揚げたてのカツを乗せ、残りの卵を投入し蓋をして仕上げる方法だ。

良いお店だと、更に蓋をしたどんぶりがお客の前に並ぶまでもが調理時間だと、計算されて出て来る。ここまでは出来るのになぁ。シロウさんのあれだけは意味不明だ。

 

「それをお兄ちゃんが再現したそうです」

「嘘っ!?」

「本当です。試食しましたから」

「こ、答えは?」

「手際や火力など思い至る部分はあるでしょう? それプラス、私達の味覚ですよ。万分の一秒のとじ加減の違いがわかってしまう舌。ハイブリッドだから感覚が鋭過ぎるのですね。シロウさん曰く、今までも十分で、ちゃんと出来ていたそうです。そこにお兄ちゃんがやっと並んだだけで、もうこれは誤差の範囲で微妙な好みの差だろうと」

「そんな……」

「ですが、それを求める姿勢が重要だとも話して下さいました」

 

今どきの親子鍋には銅製やアルミ製だけでなく、テフロン加工されたものやステンレスの多層鋼まである。そして姉のイリヤも私達も、親子鍋には銅製やアルミ製に拘った。

それは卵の微妙なとじ加減がコントロールしやすいからだ。同じ意味で卵焼き器は銅製に限るという人も居るだろう。結局料理は火加減と火との距離、食材への温度の入り方なのだ。

 

「目隠して食べたら、シロウさんのも私のもお兄ちゃんのも同じでした。目に入るベチャッと見えたあの汁気に騙されていたとでも言いますか」

 

そういうものか……。マルガリータさんに出逢って焦っていたのかも。何故かそんな気がした。

 

 

 

 

「父上! これが卵なのか?!」

「どうですか。ほんの少し生寄りのこのとろみが卵の凄さですよ。美味でしょう?」

「ああ! この少し焦がした鶏も旨ぇ! クッソ! 毎日これが食えたなら、もっと戦えたのに!」

「私達を裏切っておいて、よくそんな事が言えるものですね?」

「セイバー、酒でも入ってんのか? 堅いのは抜きにしてやれよ。それっくらい旨かったって意味だろ。な?」

「さすがはクー・フーリンだ。この気持ち、わかってくれるよな?」

「父より人心掌握術に長けている気がします」

「ですね。モードレッドも学んだのでしょう」

「それでランスロットの王ってどっちのセイバーなの? わかった?」

「いえ、こればかりは未だに謎ですね」

 

ギリシアの大英雄はブリテン・アルスター組とイリヤを暖かく見守りながら、せっせと料理を作る四人の英霊を労った。

 

「まさか少年が四人も揃うとはな」

「シロウに私、4番目と5番目……」

「こうして客観的に考えると不気味だな?」

「まったくだ。向かいにも衛宮士郎、武家屋敷にも衛宮士郎だぞ、ここは」

「仲が良いのか?」

「あの二人の仲は良好だ。どちらも正義の味方を目指しておらんしな」

「ふ~ん。しかしすごい匂いだな?」

「ああ、飯盒で海南鶏飯風に鶏ガラスープでご飯を炊いた」

「中華!?」

「エルのレシピだ。このご飯の上に海鮮玉を乗せてあんを掛けるのさ」

「天津飯のアレンジ?」

「そうだ。天津炒飯というのがあるが、あれだとご飯の味が濃すぎる。そこからの発想だ。あいつのレシピには、中がピラフの洋風天津飯もあるな」

 

オレも兄であるアーチャーも中華料理を避けない。アレンジを試行錯誤する事で、新しいレシピが浮かぶ場合があるからだった。その事を最近痛感しているのが4番目で、この驚きぶりから察するに5番目はそこまで行かないようだ。

店を持つか、料理を任されるようになってこそ本当の意味での『責任』が理解できるものなんだ。客からお金を頂くとはそういう事だ。

こいつも誰かを『護りたい』『助けたい』と、戦って来たのだろう。本末転倒で矛盾した、『救けたい』という歪んだ思考は20代前半で脱却できる。

だけどそこに至るまでに歩んだ道が、『護りたい』『助けたい』にも含まれる矛盾に蓋をする。その三つはどれも『他人の危機を期待している』。ついでに都合よく自分の目の前で『災害が起きろ』と念じてもいる。

人を助けるのは人として当たり前の事と思い込もうとしているだけで、自分の欲望で他者を救うという歪んだ本質に薄々気付いている。

だから救ったり助けた『対価』を求められない。そしてこの場合の『対価』なき労働とは、ボランティア精神でも博愛主義でもなく、『後ろめたさ』から来ている。

こんな事を若い頃のオレは、リンとアルトリアから散々指摘された。

 

『対価が要らないってのはね、自分のやった事に責任が持てないアマチュアの言い訳なの。プロなら対価を求めなさい。それが相手の身体や生命の値段でもあるんだから』

 

そういう事だ。『対価』を求めないって事は、相手を安く見ている事に他ならないんだ。そして『対価』を求めるようになれば、そこには自ずと『責任』が生まれる。

アマチュアの頃には持てなかった、或いは求められなかったモノが、プロだと当たり前に求められる事。素人の頃には気付かなかった事が、玄人になれば見えて来る事。

店を開け、会社を興せ、人を雇え。僅か8歳のあの少女はそれを当たり前の事だと言い切っていた。そんな子だったから、オレも子供の頃から目を掛けていた。

だから、エルヴァが致命傷を負って途方に暮れるあの子に『理想郷に行ってマーリンに相談しろ』と言ったんだ。マーリンもあの子を気に掛けていた。

そして『理想郷への道』を教えていた。それでもってオレには現代の魔法使いでも知らない秘術の幾つか……その存在を教えてくれていた。

まさか夢魔のチカラを使ってまでして、円卓を全員揃えているとは夢にも思わなかったけど。おまけに思いっ切り若返って、以前よりちゃらけた感じがした。でも、魔力は以前以上だった。

そこに本気を見たのか、あのアーサー王もそれに応えてくれた。それをセイバー達は今後の糧にきっとできる。

何とも不思議な通過儀礼だったけれど、あれはあれで良かったのかもな。ドラゴンの肝を食った少女は、ドラゴン並みの精神力を手に入れていた。

『死者の国から帰るときは振り返るな』。こういう伝承は万国共通だと思う。そして少女は本来の前世では会わなかったエレキシュガルと今回会って加護を得た。

千年経とうが万年経とうが揺るがず曲がらない心。それはすべての英雄や英霊でも持ち得なかったものだ。そしてそれこそが間桐臓硯のような魔術師が欲していたものなのだろう。

永遠の命や物質化して永劫流離う魂。それを得て活かすには、それに見合った揺るがず曲がらない心が必要なのだと、成長して美しくなった少女に教えられた気がした。

 

 

 

蟲の餌をやり終え、そろそろベッドに入ろうかと思った頃、ドアがノックされた。姉さんかな?

 

「はい、どうぞ」

 

入って来たのはマアエモ・ママだった。

 

「ママ……」

「お休み前なのに夜分遅く失礼します。今回は無事お嬢様をお返し下さり……」

 

ママと同じだ。エルヴァちゃんがママの生きがいなのだろう。ルオン・ママの居ないここだとなおさらだ。

 

「無事にママの下へお返しできて、ホッとしました」

「お嬢様……」

 

言葉にならなくとも伝わる。そっと私の手を握るママ。

 

「旦那様はお二人がいらっしゃるのだから問題ないと。その通りでした」

「いえ、そんな……」

「お嬢様。お嬢様も私にとってはお嬢様です。何なりと仰って下さいね」

「……ママ」

 

私達は抱き合った。この温もりこそがママだ。子供の頃からおかしな私を抱きしめてくれた、優しく暖かな……。

 

「エルのところにも?」

「お礼は致しました。ですが、あちらのお嬢様には別の私が居ますでしょう? それにもう一人の乳母も。だからこそ同じ世界で暮らすお嬢様が、倫敦で知り合って以降気になっていたのです。今回、無理を申して着いて来ましたのも決してお嬢様のためだけではありません。あなたの事もあったのですよ。ですから皆さん無事で戻られた事が、マアエモには堪らなく嬉しいのでございます」

「ママ……」

 

この間、姉さんは廊下で待ちぼうけだったそうである。

 

「エルヴァ、本当に良かった……」

「はい、ご心配をお掛けしました」

 

こうしてゆっくり話せる暇も、あちらではほとんど無かった。だから万感の思いを込めてお詫びした。

 

「だけどさ。あの背の高い方のイリヤ。あの人、面白いね?」

「面白いでしょう? 私や姉のイリヤを楽しませようと、あの手この手を考えてくれて」

「その気持ちが今のエルヴァに伝わっているのね。だからあの子達はあなたが大好きなんだわ。それであの人がそんな人になれたのは…………?」

「帰りがけに座の風が吹いて、元の世界の座標が不明になってしまったのですね。それで元の世界に残してきた士郎クンや凛に会って話したいと」

「わかっちゃったら帰るの?」

「いいえ。違う世界で元気に生きているよ、幸せだよと伝えたいそうです」

「そっか……そこのシロウやリンの負担や重しにならないように……」

「同じですね?」

「え?」

「魔術師として育ったのに、周囲をそんな風に考えられるイリヤスフィール。私の知る限り巫女の姉さんと姉さん、そしてあちらの姉さん以外で知りません」

「そっか、似たタイプなんだ」

「聖杯を閉じるって、そういう事なのかも知れませんね。それにあちらは肉体が滅んでも、精神はアルさんとお兄ちゃんが護っていましたから。第三魔法だけじゃありません」

「そっか……ヘラクレスとシロウが護ってくれたんだ」

「そしてお兄ちゃんが、もうダメという時にエルが聖杯をこじ開け三人の魂を宝具に取り込んだのですね。それ以降、あの三人の座はエルになっています」

「それでなの? あの人は英霊じゃないのに英霊みたいになっているから不思議だったのよ」

 

本当に不思議な存在だ。一言で言うなら、それがアルさんの持つ神性であり、そこに作用した小聖杯が持つ神秘の深さなのだろう。

11月生まれのイリヤスフィールが持つ小聖杯は、7月生まれの姉が持つ小聖杯より完成度が高い。私もそんなに多くの並行世界存在を知っている訳では無いけれど、その中でもこの姉と巫女の姉は、完成度だけでなくポテンシャルもそれだけ高かったのだと思う。

 

「それであの子は?」

「あの子?」

「薄情だね? 小さい方のお姉さんだよ」

「ああ、ちぃ姉さん。何か気付きました?」

「うん……。こういう言い方はヘンだけど、あっちのエルやイリヤが凄すぎるのかな? そこに着いていこうとして……少し辛そうなところがあると思う」

「ですが……」

「それもわかったよ。あなた達と言うか、あの二人がそんな事を求めていないって。自分のペースで良いんだよって思っている事も。でもさ……あの子は今が……その、思春期?」

 

エルが調整し直した事で身体だけでなく、心も大きく成長している…………。

 

「そういうのをね、私は英霊になって経験を積んで気付けたと思うんだ。それで巫女さんのあの人は聖杯の中でへラクレスから学んだか、あなた達妹と触れ合うことで学んだんだと思う。ほら、あっちのおチビちゃんにクロちゃん? あの子達と触れ合って、その小さいお姉さんも急激に変わっているのよ。たぶん、そうだと思う」

 

実はそれがエルとイリヤ姉さんの狙いだったりする。って事は……。巫女の姉さんとエルのターゲットは私じゃなく……ここの姉さん……?

そうだ、そうだよ。この姉さんに会わせて、何かを感じて欲しい……そう、考えたから連れてきたんだ。巫女の姉さんは、そんなの知りませんって愛想もない顔をしていたけど、エルにイリヤ姉さん、それにアルトリア姉さん達の話を聞いて連れて来る気満々だったんだ。それが何かに通じるかもと信じて。

そうだよ、あの人こそ誰よりも人を信じるお人好しで……誰にも知られず聖杯を閉じて災厄を封じ込めた人だった。

シロウやリンの生きる街を守りたかったって……。誰よりも父に一番似た『正義の味方』だったのだ。

 

「姉さん……。お菓子作りでも何でも良い……。ちぃ姉さんに伝えたい……それで巫女の姉さんを安心させたい……」

「そうだね。一緒にやろう? 手伝うよ?」

「はい」

 

 

 

お姉様がふかふかのベッドでイリヤさんと夢の中へ旅立つ頃、私ことエルマはようやく一日を終えお風呂に向かった。脱衣場に入ると先客が居た。

凜さんに凛さん、そしてルヴィアさん達の師弟にマルガリータさんだ。

 

「エルマ、トロンメル、ご苦労さま」

 

ルヴィアさんからの労い。これは8月に入ったので、メイドの半数以上が休暇で本国へ帰ったからだ。

本来は1/3ずつ交代制で帰す段取りだったのだが、お姉様や私にトロンメル、そしてマルガリータさんがお手伝いする事で、半数交代にすれば全員のバカンスを長めできる。

それで本日は、前々から掃除や洗濯を手伝っていた私が、トロンメルにエーデルフェルトの作法と言うか段取りを教えていたのだ。

 

「ルヴィアさん。ルヴィアさんは本国でもこういうお風呂に?」

 

トロンメルからの質問だった。

 

「ホホホ……以前、エルヴァさんからも同じ質問をされましたわ。答えはNOですのよ。きっとあなたも、フィンランドの事情はご存知なのでしょう。確かにエーデルフェルトの家にも、私の家にも浴槽はございますわ。ですがそこは欧州の他の国と同じで、お湯を張って首まで浸かる習慣はありませんのよ。浴槽も低いタイプしかございませんし」

 

フィンランド=サウナの国というのは間違いない。戸建の家なら間違いなくサウナが備わっているし、都会の共同住宅(アパート)にも共用のサウナが必ず存在する。

また街に出れば、何某かの公衆サウナがどこかにある。場所に拠っては通りに面しているので、素っ裸のオジサンがクールダウンしていたりするのがフィンランドなのだ。

そしてそれはお風呂の形式こそ異なれど、昭和の頃の大衆浴場での光景とさほど変わらないのだった。テレビだったと思うのだが、お風呂で火照った身体を通りのベンチで将棋を指しながら冷やす場面があった。

そんな風にフィンランドの人の考えるサウナと日本人が考えるお風呂は立ち位置が近い。だけど毎日お風呂に入る日本人と違って、サウナは週に2~3回のものなのだ。

ではどうやって体を清潔にしているかというと、それがシャワーであり欧米式の浴槽にある訳だ。そして欧米式の浴室は体を洗うための大きな洗面台であって、排泄を行う便器と同列の存在なのだった。

 

「ですが業者と私どもの意思疎通がままならず、手違いでこのようなお風呂になりましてね。何も大きなお風呂があるのだと自慢したい訳ではございませんのよ」

 

これは嘘ではない。お姉様がお尋ねして、オーギュストさんからも証言を頂いたのだ。ルヴィアさんが欲しかったのは、従業員全員で入れる広さのサウナとクールダウンできる水槽だったのだ。

ところが建築業者はフィンランドのサウナ事情なんて知らない。それでこんな大型スパにあるような、サウナ付きのローマ風浴室になったのだ。

そして従業員用とされている小型のお風呂も、本来は小さなサウナと浴槽だけの筈だった。実はあそここそ主人であるルヴィアさんの専用で、大浴場は従業員用だったのだ。

サウナというのはストーブに火を入れて適温になるまでに、5~6時間は掛かるものなのだそうだ。そして100度などという高温でなく、60~70度の低温に3度4度と入り、白樺の枝から滲み出るアロマエキスを体に移すためにビシバシと叩きあうのがフィンランド式だった。

と言ってもこの熱気浴は、何もフィンランドだけのものではない。バルト海沿岸部やロシア西部(ロシアではバーニャというらしい)に昔からあった入浴法で、文献によると1500~1600年も前からあったそうである。

だけどサウナやロウリュという言葉はフィンランド語だし、水着など着けず真っ裸で語り合う社交場としての文化に醸造したはフィンランドだった。

 

「ロウリュも勘違いされましてね。そんな大きなサウナですと熱気が降りないと……」

 

日本人の想像するタオルをバサバサするあれは、北部ドイツの『アウフグース』という見せるためのセレモニーだ。本来のロウリュとは、ストーブで熱された焼け石に水を掛ける行為を言う。

『蒸気』や『水蒸気』という意味のホウリュと似ているが、ロウリュとは別物らしい。そしてこの時に使うアロマオイルの配合(本国の公衆サウナではまずアロマを使わないらしいけれど)や、水の入った柄杓を返す手首のスナップだけで希望通りの温度と熱気を得られるかどうか。それがホストたる鍋名人ならぬサウナ名人(ロウリュ名人)の格を決めるのだそうな。

広いサウナは温度を保ち難い。それでもゲスト(或いはメイド達)をヒュヴァー・ロウリュア(良い湯気を)と迎え、キートス(ありがとう)と掛け合って帰って頂きたい。

裸の付き合いに雇い主も使用人もない。フィンランドの旧家のお嬢様は、こんなにフランクで奥ゆかしい人だったのだ。なのに自分専用の風呂が設けられてしまった。

だからその小浴場を男性専用とし、この大浴場を女性専用に分けたのだ。

 

「それで今、ランサーさんやランスロットさんにお願いしていますのよ。庭の空いたところに薪ストーブのサウナ小屋を建てて欲しいと」

「それはサヴサウナ?」

「あら? それを知っているとは、エルマもやりますわね。ですがそこまで贅沢は申し上げませんわ。湖畔のサウナ小屋程度でよろしいのよ」

 

サヴサウナとはスモーク・サウナの事で、石を熱する薪ストーブに煙突がない大昔の方式を言う。当然、煙突がないので熱している間は一酸化炭素中毒を避けるために入室禁止だ。

入れるのは7~8時間後で、小屋の隙間や小穴から煙が全部出た後だ。そんな原始的なサウナがスモーク・サウナだった。だけど廃れたこのスモーク・サウナが近年見直され、懐古趣味的に一部で人気があった。

 

「それよりも英霊の皆さまが食事を楽しまれる時のあの火ですわ。あれを熱源に石を温められないかと」

 

なるほど。小屋を温める時間と調理時間。それぞれの時間に隔たりはあるが、熱を蓄積できる触媒があれば無駄がない。そしてそれは宝石魔術師向けの研究課題でもあった。

いや、きっとルヴィアさんの家では宝石に頼らずともその魔術があるに違いない。例えば1週間分の熱を、追い焚きせず週に1回のサウナのために取り置くなんて事も可能かも知れない。

何か色々考えているようで、ルヴィアさんはとても楽しそうな顔をしていた。だけど話に夢中になって、凜さんと凛さんがサウナからとっくに出ていた事に気付かなかった。

体を真っ赤っ赤にした私とトロンメルとルヴィアさんは、慌てて冷水に飛び込んだのだった。

 

ちなみにサウナの妖精もトントゥだ。なのにこの名を与えられたトントゥさんは、元々シャワーとビデがあれば十分というイタリア育ちの人だから、お風呂にそこまで情熱を持たない人だった。

何よりご先祖が白人的な特徴を持つベルベル人であっても、アフリカでかなり混血していたようで肌の色がとても濃い人だった。

お姉様より濃い人だとはトロンメルの意見だ。でも髪は薄茶色で瞳は銀に近い青なのでとてもエキゾチックな美人だった。そんな美人が肌の色からくるコンプレックスで、対人恐怖症を患い夢遊病になっていた。

 

『あの人こそ、サウナに入れば良いのに』

 

トロンメルの言う通りだなぁ。そんな風に私は思った。

 

「ルヴィアさん。どうしてフィンランドには辛い食べ物が無いんですか?」

「あら、鋭い質問ですわね? そうですわねぇ……結局は唐辛子など南国の食材と出会わなかったからでしょうね。だからサウナなどの文化が発達した。トロンメル、あなたが満足できる答えはそんなところでしょう?」

「そうですね。きっとそういう文化的背景を知ったから、エル様は中華料理の、それも四川料理にハマったのでしょう」

「そうかも知れませんわね」

 

私達が水風呂から上がり体を洗う頃、凜さんと凛さんは髪を洗っていた。こうやって見ると全員髪が長いので洗髪は大変だ。

ルヴィアさんなんて特にそうだろう。実はあのパーマを伸ばすと誰よりも髪が長く多いのだ。洗髪だけで30分近く掛かっている。

だけど凛さんや私にしても10分は掛かるから、お姉様がショートにしたいと時々漏らす気持ちもわかる。トロンメルが髪を伸ばしたままなら、私は切っても良いかな?

だって同じ顔だしね。それに9月からはこの子も学園だろうし。あ、でも陸上部に入るなら切るのはトロンメルかな。

 

 

 

「ん、ん~?」

「ごめんなさい。トイレに行ってました」

 

真っ暗な中で目が覚めたのは、隣で寝ていたエルヴァがお手洗いから戻った気配を感じたからだった。

 

「寝付けない?」

「いいえ。私はどこでも眠れるタイプなので」

 

お姉ちゃんと同じ事を言うエルヴァ。暑くなってから、イリヤと私はベッドでなくフローリングの床に布団を敷いて寝ていた。以前クロと床で寝ていたので、良い気分転換になるとイリヤに話した事があったのだ。

実際、ムシムシして寝付けない時に、床で眠ったらぐっすり眠れた。それで7月からこっち私達はベッドを使っていなかった。

それもあってエルヴァにベッドを譲ったんだけど、仲間はずれっぽく感じたのか私とイリヤの間に入って来た。それ以来、私達は三人で眠っている。あっちの美遊の家でもこれは同じだった。

お姉ちゃんが刺されたり、エルお姉ちゃんが眠り続けたり大変だったけれど、私達三人は励ましあったり、慰めあったりして、前より仲良くなった。

そしてエルヴァも美遊という友達ができたり、並行世界の私達に会ったりした事でとても砕けてきた。セラの料理にダメ出ししたり、パパにタバコの吸い過ぎだと注意したり。

だけどパパが吸い過ぎなのは本当で、お姉ちゃんにも時々注意されている。それにセラのダメ出しされた料理は、南ドイツの料理でスイス北東部の料理とは違っていたからだ。

味ではなく国が違うという事らしい。これが私とイリヤにはわからなくて、最初は何だろうと不思議だった。けれど食べ慣れた料理でおもてなししてくれる気持ちはわかるけれど、お味噌や醤油の味が違っていたら違和感があるでしょうとお姉ちゃんに教えられて気付けた。

そうだよね。そういうのってあるよね。実際それ以外の、毎日食べている日本の料理だと珍しがっていても美味しそうに食べていた。育ちが違うってそういう事なんだね。

こういうのを以前の私なら気付けなかった。そもそもお姉ちゃんと出会わなかったら、私は今もイリヤの中だったろうし、エルヴァという妹と出会うこともなかった。

だからお姉ちゃんが助かって本当にホッとしたし嬉しかった。

 

「クロエ。お姉様が助かって良かったね?」

「うん」

 

私達は手を繋ぎあって眠った。イリヤの寝息を聞きながら。

 

 

翌朝6時。お姉ちゃんやお兄ちゃん達のお見送りで私達は出発した。

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