【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
大声を張り上げながら、身を捻って直撃を回避し、代わりにそのままの勢いでロンダートのようにゴロゴロと側転とバク転を繰り返して、屋上から路地の下に……
―――消えず、そのまま隣の建物まで跳ねたと思ったら、壁を蹴って隣の建物の上まで跳んで跳ねて、再び戻ってきた。
流星のように舞い降りたそれが―――私と彼女の劇的な出会いだった。
*******
「―――ぅ……ん……」
ゆったりと重い瞼を持ち上げると、天井から刺すような光が一瞬、視界を奪う。
目を押さえてのろのろと、まるでゾンビのようにベッドの上を這って移動して端から身体を落とすように降りる。
久しぶりに昔の夢を見た気がする。懐かしい夢、思い出の夢。
―――もう戻ることができない夢。
「――行って来るね、エミ」
写真立てを手に取り軽く触れる程度のキスを一つ。ガラス張りの向こうではありし日々の残影に紛れて、ぎこちない笑顔で微笑んでいる少女がいた。
轟音を立てて突き刺さり、地面ごと複数の敵車輛を薙ぎ払う
『黒森峰フラッグ車、行動不能!!よって、聖グロリアーナの勝利!!!』
黒森峰のティーガーⅠを打ち砕き、減速に失敗してなだらかな斜面を滑り落ちていくクロムウェルMarkⅧ。
「―――約束、護ってくれたわね」
電光掲示板に映る「WINNER」の文字と、観客とグロリアーナの生徒たちの称賛と歓喜の声を受けて輝いて見える私のクロムウェル。
私では果たせなかった夢は、彼女たちがかなえてくれた。
チームテントで勝利の余韻に浸っている皆の横をすり抜けるようにして、戦車のいる場所へ。
鎮座しているのは傾斜を滑り落ちて複数の擦過傷を残すわたしのクロムウェル。
今回の戦いの立役者。
「――よくがんばったね」
車体を撫でてぽつりとつぶやくと、思わず目頭も熱くなる。
―――おかえりなさい。がんばったね。ありがとう。
浮かんだ言葉を頭の中で祈る言葉に変えていく。言葉には出さず、はらはらと落ちる涙と一緒に飲み込んで、ただ車体を撫でていた―――。
*******
「―――さて、何のご褒美がいいかなぁ……?」
一人で自室に戻って考える。はてさてどのような“ご褒美”をあの子が喜ぶか?
トレーニング器具?お高い珈琲豆?それとも……?
色々と考えようとしてはたと気づく。
私はあの子のことをあまりにも知らない ということに。
プライベートに突っ込んだことに対して私はあの子のことを気にかけながらも、どこか一歩引いていた。それはダージリンへの気兼ねであったり、あの子への配慮だったり、色々な理由やしがらみがあってのことだけれど――とにかくあの子のこまごまとした個人的な趣味・嗜好について私は余りにも知らな過ぎた。
なので手っ取り早く人を使う。これは高等部に上がってから特に身に染みて勉強になった処世術である。
かといってダージリンに頼るようではいけない。彼女にとってあの子はライバルであり相棒である。あの子への敵愾心と信頼が彼女を強くする原動力になりえる。
そんな状況に上級生が有無を言わさず詳細な情報を嗅ぎまわっているとしたら?邪推すればきりがない。下手をするとそれがグロリアーナを空中分解させる一手になりかねない。
なので頼むべきはアッサム――!!諜報部に所属していてあの子をエージェントとして使っている彼女だからこそ詳細なデータを持っている――!!
……この時の選択が、きっと私の世界を大幅に塗り替える最後の選択肢だったのだろうと、今はそう思える。
********* Earl grey for Emi
――月――日
黒森峰相手に勝利し、みぽりんの捲土重来を果たした!――はずだった。
いやおかしいんだよなんでだよエリカもまぽりんもみぽりんを認めたし
周囲の連中の色眼鏡も叩き割ったじゃん。黒森峰に戻っていいはずじゃん。
【悲報】みぽりんはグロリアーナで戦車道を続けるそうです【みほえり?】
開幕DAT落ちしそうな脳内タイトルが頭に浮かんだ件。や●夫スレかな?
――月――日
みぽりんの依存症にも似た崇拝の感情が背中からグッサグサ刺さってくる件。
やめてくださいしんでしまいます(土下座)
みほエリのロードへ続くと信じてグロリアーナに勧誘したダージリンにさすダジ!!して感謝を内心で示しつつ突っ走ってきたこのロードは、未だゴールにたどり着くことはない回り道だったらしい。
最低でもあと1年、高校生最後の夏にもう一度エリカとみぽりんがぶつかり合って今度こそお互いの健闘をたたえ合ってみほエリのフラグを強固なものにするまではどうにかこうにかみぽりんのメンタルを維持して行かなければならないのだが――そろそろ胃袋の方が心配になってくる俺である。
――月――日
なんかアッサムとパイセンがやたらと甲斐甲斐しく接してくるようになった。
怖いです(震え声)
――月――日
どういうことなの?()
******* Emi for Earl grey
「―――事実なのね?」
「報告書を書いた医師の腕が鈍らでない限りは」
ページ数にして凡そ数枚の報告書をデスクの上に置いて、私は思わず険しい声色を漏らしていた。目の前で報告書を提出した少女――アッサムの顔色はやや青白く、気分悪そうにしている。
無理もないとは思う。私も今現在の自分の表情を鏡で見れば、血の気を失ったような色をしているはずだから。
―――天翔エミの肉体におけるレポート。
先日、聖グロリアーナと大洗女子の決勝戦を行った後で体調不良により入院の憂き目に遭ったエミの様子に、アッサムが気をまわして詳細な分析のための調査を行った結果報告書だ。
これに拠るならば―――天翔エミの余命は、良く保ったとしてあと15年。
希望的観測に拠るものなので、実質はあと10年保てば御の字だと書かれている。
それほどまでに肉体がボロボロに酷使されており、原因不明の異常を抱えていると書き記されていた。
あの子の異常なまでの身体能力は、己の寿命を削って作り上げたもので、本人の望む望まざるにかかわらず、人体の限界を越えたハイペースで成長=老化を進めている。故に死因は『老衰』、テロメアの死滅は現代医学ではどうすることもできない不治の病と言えるものだった。
報告書を破り捨てて結果が無かったことになるのならば、喜んで打ち棄てて炎にくべていただろう。それほどまでに理不尽で、到底呑み込めない内容だった。
「―――本人には?」
「まだ伝えていません」
アッサムの手が、全身が震えているのがわかる。
余命宣告を告げるなどというシンプルに精神にくる行為を行う側も、それを強要する側も、心が痛くてたまらない。
報告書の内容を再度読み直す。
天翔エミの体調不良が始まったのは――凡そ3年前。つまり中等部2年生のころ。
ダージリンが彼女を強く意識し始めた時期であり。
私がアールグレイの冠名を高等部で正式に受けた時期であり。
―――私が、
もしも、の話を考えると妄想は止まらなくなる。
もしも、エミと出会わなかったら。
もしも、あの時私の夢を語らなかったら。
もしも、私が自分で夢をかなえていたら―――
―――天翔エミはここまでの無理を自分に強いなかったのではないだろうか?
「―――アッサム」
努めて冷静に声を掛けようとした結果、冷たい声色になったらしい。アッサムがびくりと震える様子が見えた。
私は手元に残った報告書をそのまま、部屋の隅にあるシュレッダーに放り込み、細切れに刻んで、さらにもう一度紙片をシュレッダーに放り込んだ。
「この話は他言無用よ。誰にも漏らしてはダメ」
「―――しかし!!」
涙をにじませているアッサムに視線を向ける。私の決意を受け取ってくれたのかはわからない。けれどアッサムは神妙な顔で俯き「わかりました」と折れてくれた。
「それと―――エミについてなんだけど」
******** >> Others
「天翔エミには、お話をしていきませんの?」
ダージリンがそう言うと、「別にいいのよ」と答えて背を向けて去っていくアールグレイ。
その様子に違和感を感じたダージリンは、しばらくその場で思案していたが
「――やっぱり見送りは必要よね……?」
そう考えて、エミの部屋まで向かうことにした。
エミの部屋のドアをノックしたダージリンはエミからの反応が無いことを訝しみ、ドアノブを回す。内鍵はかかっておらずドアノブがあっさりと回り―――
―――殺風景な天翔エミの部屋は、本来いるはずの主人が不在のまま、より殺風景な部屋に変貌を遂げていた。
備え付けの寝具と、かろうじてコーヒーミルだけが残っているもはや空き部屋と言っていいその光景にしばらく放心状態だったダージリンは、正気を取り戻して数秒――思案の後に、ある“可能性”に、気づいた。
「―――何を考えてるんですかアールグレイ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
怒号交じりの絶叫でアールグレイの名前を叫ぶダージリンが、2年ぶりに寮内に響き渡った―――。
********
「―――あの、アールグレイパイセ……先輩?」
「うん?何かなぁ?」
航空機、しかもファーストクラス並みのVIP待遇の席に“縛り付けられた”俺は、身動きが唯一出来る首だけを動かし、目のまえでシャリシャリと林檎を剥いているアールグレイパイセンに話しかける。
パイセンが英国留学から一時帰国して始まった『聖グロリアーナを巻き込んだ大学選抜戦(劇場版の展開)による大洗学園艦問題』、その後始末が終わってパイセンが再度渡英する前日の夜。なんか部屋にやってきたパイセンと珈琲飲んで―――
―――で、今この状況である。ちなみに飛行機に乗るまではトランクケースに入れられてゴロゴロ運ばれてたらしい。俺その時クスリで眠らされてたらしいんで知らんけど(事案)
「―――何でこんな状況なんでしょうか?っていうか私、今年まだ半年残ってるんで、留年の危険が―――」
「あぁ大丈夫。紅茶の園に話は通してあるから。公欠扱いで単位の融通もできるし、在籍した扱いで卒業もできるわ」
―――何で?(震え)
え?いや、何で?!俺が何をしたというのか!?むしろ俺アールグレイパイセンに被害が行くようなことあんまりしてなくね!?ダージリンが相手ならまだわかるよ!?何でパイセン!?
「あの、先輩……私先輩に何かしましたか?」
おそるおそる尋ねる俺の口に、1/8にカットされたリンゴがねじ込まれる。
ニコニコと笑顔のままのパイセンがどうしようもなく恐ろしく感じる―――何だこの恐怖は――――!?
「何かした?――――しいて言えば何もしてないわね。感謝しかないわ」
「じゃあ何でこんな仕打ちを!?」
ギシギシと縛り付けられた座席を軋ませて暴れる俺の肩にそっと手を置いて、首筋に手を滑らせる。背筋にゾクゾクとした感覚が走ると同時に、どうしようもない根源的な恐怖が先立ち、俺の身体を竦ませる。
「―――欧州にね、留学ついでにツテを当たって海外の凄腕の医者でもあたろうかと思って」
「―――――――――――は?」
間の抜けた声を上げる俺から目線を顔ごと背けて、パイセンは窓の外の方を向く。
「―――詳しく話すと面倒だから軽く掻い摘んで話すけど――」
若干歯切れ悪そうな様子でパイセンは話し始めた。
俺の身体のこと。
このままだと俺があと10年くらいで死ぬこと。
それを日本の医術でどうこうするのは不可能なこと。
「―――はー……」
体格や筋肉の比に関係ない怪力の秘密は命を削ってましたという事だろうか?とはいえ、俺の感想としては「草w」一択なのだが。
そもそもが転生して戦車道を始めた時からみほエリを見るためだけにまい進してきた人生。みほエリを見ることが叶わない時は潔く人生からピロシキすると心に刻んでいたものだ。今更残り人生がどうとか言われても「あ、そうなんですか」としか言いようがない。後は余生を静かに過ごしながらみほエリの芽が芽吹くかどうかを観察し続けること―――それが我が望み。と言ったところだった。
むしろ寿命で死ぬことが確定しているのだから遠慮なく命を賭けることができると内心で歓声を上げていたくらいだ。が、その発言をする空気じゃない。そのくらい俺でもわかる。
しかし、俺のそんな内心を抑えての静かな態度は、パイセンをはじめとした一部の方々には違う形に映ったらしい。
「まぁ、大船に乗ったつもりで任せなさい!日本の医学で無理だったからって諦めたりしたらアールグレイの名が廃るってものよ!医療技術は海外の方が本場だろうし―――だから、自暴自棄になるんじゃないの!」
「―――いや、別にそういうわけでは――――」
どうやら神妙な顔をして思案してた俺の様子は状況に諦観して絶望してるように映ったようだ。勘違いここに極まれりと言えよう。
どう説明したものかと思っていた俺の鼻先に指が付きつけられ、「拒否権はありません。私は誰?言ってみなさい」とパイセン。
―――――あ、これ勝てないやつだ(悟り)
どうあがいてもパイセンが俺を逃がすつもりがないことを悟り、がっくりとうなだれ、長い長い溜息を吐く。
俺の様子に勝利を確信したか、パイセンは渾身のどや顔をして見せる。
「さぁて、じゃあ行きましょうか。あ、お代はいらないわよ。私がオゴるから。支払いは伸びた人生の分を私に還元してもらいまーす」
「―――それ、意味なくないですかね?」
俺のツッコミに、パイセンはニッと満面の笑顔を見せる。
「意味ならあるわ
―――――――――――――私が楽しい!!!」
―――ああ、多分今後大人しく死ねなかった場合パイセンにずっと振り回されるんだろうなぁ。
いや生き残ったらみほエリの進展を遠巻きに見てニヤニヤして過ごすのは余生として最初から決めてたことなんで別にそれが英国だろうと日本だろうとスタンスは変わらないからいいんだけども。
――あれ?知り合いがいきなり目の前で衰弱して死んでいくのを目の当たりにしてみぽりんが曇らないはずがないよな?俺は今英国で過ごすことになるから若干の喪失感はあるだろうがみぽりんはすでに独り立ちできるくらい立ち直ってるし、それはそれとしてエリカが後釜に座って本来のみほエリを成すのは確定事項だよな?
そう考えたらこの拉致というのは――――アリかナシかで言うとアリどころか大正義じゃね??(提案→承認まで1秒)
「――じゃあお任せしますよ、先輩。その代わり―――定期的に日本の戦車道の―――みほやダージリンのこと、調べて教えてください」
「任せなさい。私を誰だと思ってるの?」
胸を張って答えるパイセンを尻目に窓の外に拡がる空の景色に視線を飛ばした。
異国の地ってのも悪くはない。ちょっとみほエリが遠いけども、退屈はしないだろう。どう考えてもパイセンがそうさせてくれない(確信)
パイセンなら曇り散らすこともなく、切り替えもスムーズにできるだろうし、後を看取る役目として申し分ないだろうしな!!!
>> ???
「アールグレイ様」
「その名前でよばないで。私にはもう、そんな資格何てどこにもない」
海の見える丘の上にぽつんとひとつ立っている質素なお墓の前で、座り込むアールグレイへと後ろからかかった声に、アールグレイは冷たい声でそう返した。
「いいえ、誰が否定しても、冠名を返上したとしても、あなたはアールグレイ様なのです。聖グロリアーナの誇り高き冠名を賜った―――」
「違うッッ!!!」
強い否定の声に、圧されるように数歩後ろに下がる女性。手にしたカップの中身が揺れて水音を立てた。
「――天翔エミのことであれば、アッサムから聞きました。あの子もショックを受けています。心を病んでしまって通院している有り様ではありますが……」
「アッサムのことも、エミのことも、あなたたちのことも、全部私が悪いのよ―――」
ぽつりぽつりと、悔恨のように重苦しい声で言葉を漏らしていく。
「天翔エミがいなければグロリアーナは覇者になれなかった。アレは貴女だけの責任では――」
「違うのよ!!あれは時代や環境が悪かったとか、そういう問題じゃない!!あの子がなすすべなく死んでしまったのは―――何もかも私があの子と出会ったからで
――――全部、全部私が悪いの――――
だからお願いよ――――ダージリン……わたしを、許さないで――――!!」
嗚咽交じりになった言葉はそれでも後ろに佇んだままのダージリンの耳朶を打つように響き
ダージリンは―――静かにその場を後にするしかなかった。
次回更新(お相手)
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ダージリン
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アッサム
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舎弟ヒップ
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パイセン
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本編やって、やくめでしょ?
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聖グロ以外の学園艦