【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
中高一貫どころか陸から海へと一貫したエスカレーター方式を取り入れた女学院であり、そこに住まう者たちもまた、温室栽培の薔薇の如く、箱入りの華である。
そのグロリアーナの更に高嶺の花と呼ばれる存在たち、紅茶の名前を冠に戴く彼女たちが住まうハイソサイエティの極致。それが紅茶の園である。
大型の格調高いテーブルの両端に座して対峙する二名の生徒。
かたや高等部二年生筆頭、紅茶銘『ダージリン』を冠する淑女。
対するは中等部三年生、紅茶銘『オレンジペコ』を下賜されたばかりの少女。
二人とも優雅に微笑みつつ傍らに紅茶のカップを置いて談笑するような雰囲気だが、その背景には炎が揺らめき、雷が舞っている。
「では、本日の遊戯を始めましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
勝負の開始を告げるダージリンにぺこりと頭を下げるオレンジペコ。
ふたりの間の緊迫した空気と、ただ黙っているのみの俺こと天翔エミ。
「「本日の天翔エミの所有権を賭けて」」
―――だれかたすけてください(震え声)
きっかけは些細なことだった。そう―――本当に些細なことだったのだ。
「―――由々しき事態です」
テーブルに肘を乗せた碇ゲ〇ドウポーズでこちらを険しそうな瞳で睨んでいるのは、聖グロ高等部に昇級していったはずのダージリンである。
一方で、下座で被告人モードになっているのが俺こと天翔エミ。その原因となるものはダージリンの前に陳列されている。
“34点”“45点”“58点”“61点”“36点” etc……
「―――前代未聞の話なのですよ?聞いてますの?天翔エミ」
「―――ハイ」
点数を晒されている俺。証拠物件として押収されたそれらは先日返って来たテストのものである。ちなみに今回のテストの学年平均点は大体70点台前半。つまり赤点は最低でも36点。聖グロは女学院という形態であるためか、中等部からは半エスカレーターであり、中等部入学の門戸は最低限よりやや高め。とはいえ黒森峰よりは少しはマシな状況である。
黒森峰に入学するために努力してきた俺が入学できたのはそれまでの努力の結果であるのだが―――その後別に勉学に励んでいたわけではない俺はズルズルと成績を下げていき、赤点スレッスレの低空飛行を繰り返してきた。
なお、ダージリンが公にライバル宣言してきた辺りから俺に勉強を教えるようになり、若干ではあるが向上傾向にあったことだけは記しておく。
ダージリンが卒業する前の平均点は最大で70点台後半、平均点より上位であったことを鑑みて―――あれれ~おかしいぞぉ?俺に反論する余地がまるでない件。
だが俺としては勉強などほどほど以下で十分。みほエリのために生きてきたし、そのためには一応高校までの最低限の成績さえ保てるならばまぁ何も問題はないというのが俺のスタンスである以上、身が入らないのは自明の理と言えよう(逃げ口上)
俺自身の地頭がよろしくないのもある。というより勉強だけに集中ができないというのも拍車をかけていると言えよう。
―――以前に語ったことがあるかもしれない。この世には、俺だけが認識している“ミホエリウム”という元素が存在する(強弁)。
これはみほエリの供給によって増大し、俺の中で無限に浪漫を燃やし続けてくれる。ただそれだけの存在だ。ただしそれが無ければ俺は存在意義を失うと言っていい俺が俺としてあるために必要不可欠な元素なのだ。
日々みほエリと絡むことがない聖グロの日々に置いて、一日数時間のみほエリ妄想によるイメトレ(意味深)を忘れないことがミホエリウム自己供給に不可欠なため、勉強中でもみほエリについて考えて生きているのだ。そりゃ集中などできようはずもない。なにせ一日でもみほエリのことを考えることなく日を終えたならば、最悪数式が“みほ×エリ=正義”に見えてくるレベルなのだからこれは仕方のない犠牲なのだ(理論武装)
「―――教育を、始めましょう」
そう言ってダージリンは悪役さながらの口元をにやりと歪ませる笑いを見せる。どうでもいいけどゲ〇ドウポーズでその笑いは似合い過ぎていた。
*******
このダージリンの提案に「待った」を掛けたのはオレンジペコ(下賜予定:春休みに下賜確約済)だった。
―――曰く。
「先輩の勉強程度ならば問題なくお世話できます。高等部のダージリン様はご自分の学業に専念すべきかと」とのこと。
さらっとペコより下に見られている俺の学力(残当)は置いといて……ダージリンの手を煩わせることなく自分が前に出る。うんうんそれもダーペコだね!(わかるマン感)一年下のペコより勉強できない俺やばない?とは思うけど!思うけど!!
なおもう一人の候補である舎弟は学力俺以上ペコ以下だったため選考から漏れた、らしい。
そんなこんなな脳内情報整理の間もペコとダージリンの会話は続いている。会話のキャッチボールが迂遠な言い回しでキャッチボールを通り越してお互いが「私が担当します」のラリーになっているんだが……何なの……この……何なの……?
「―――では、正々堂々と」
「はい。正々堂々と、ですね」
二人の間で話がまとまったらしい。原因は俺の学力なんだが……この蚊帳の外感……悔しい……!!でも……ダーペコ感じちゃう……!!
「「どちらが
―――なんで?(素)
*******
それはいつからか始まり、いつの間にか定期的な催しになった。
ダージリンとオレンジペコはお互いにテーブルを挟んで1対1。テーブルの上には互いに5枚のカード。
初手、動いたのはダージリン。
「――We forge the chains we wear in life.*1」
「イギリスの小説家、チャールズ・ディケンズの言葉ですね」
さらりと答えたオレンジペコが、今度は一呼吸整えて返していく。
「Change before you have to.*2」
「……米国経営者、ジャック・ウェルチの言葉ね」
オレンジペコの言葉に先ほどのペコと同様さらりと返すダージリン。
「Indecision is often worse than wrong action.*3」
「アメリカの実業家、フォード一世の言葉ですね」
「Don’t find fault, find a remedy; anybody can complain.*4」
「同じく、フォード一世の言葉ね」
「Your most unhappy customers are your greatest source of learning.*5」
「アメリカの実業家、ビル・ゲイツの言葉ですね」
お互いにさらりと名言を撃ちだし、それを回答して反撃する。ラリーというかオフェンスとディフェンスを繰り返す。
そのうえで―――答えに窮したオレンジペコがカードを一枚裏返す。
カードは言ってみれば「残機」システムである。制限時間が過ぎた時に残機が残ってる方が勝利、または制限時間までに残機がすべて無くなったら負け。だがこれまで数多く勝負して来ているが、この二人が残機全ロスしてるとこを未だ見たことがない。
そうこうしているうちにタイムアップになった様だ。勝敗が傾いたのは―――ダージリンの方だったらしい。
「では、行きましょうか」と強引に抱きかかえるようにして引きずられていく。足がつくかつかないかぎりぎりのラインで持ち上げてくなっつってんだよお前ェ!足が微妙につくから踏ん張りも蹴っぱりも擦り抜けもできねぇんだよ畜生が!!
*******
ダージリンの【教育】は的確である。それは疑う余地もない。
加えて言うならきちんと学習能力に合わせたカリキュラムを敷いている。【俺が到達する限界点】をきちんと理解したうえでそのギリッギリ上を要求してくる辺りとても性格が悪く、同時に頼もしくある。
でもな?用意されたテストをクリアするたびに「よくできました」って頭よしよしすんのやめよう?赤ん坊か何かみたいにするのやめよう?(迫真)オレサマ、オマエ、オナイドシ。オーライ?比較対象が殆どないんで有識者意見が欲しい件。女子ってこんなスキンシップ多めの生き物だったっけ?(謎)
学力は問題なく上がる、上がるけど精神的に辛い、胃がすごくてやばい(語彙現象)
―――オレンジペコの場合、優しく授業が行われる。お茶請けと珈琲紅茶を用意され至れり尽くせりでお勉強タイムである。が……正直“居心地が悪い”。
俺補修受けてるような状態だよね?国賓待遇じゃないよね?なんで?(素朴)
オレンジペコ相手のお勉強タイムはダージリンの時より幾分か気分が楽である。楽ではあるのだが――おそらく身につかない。これはペッコが一年下という状況も鑑みて、純粋に学力差というものだと思われる(名推理)
それを置いても緊張感と呼べるものがないので学力が上がっているかというと微妙……これやばない?やばばない?
なのにオレンジペコは「先輩なら大丈夫です」と励ましてくれる。ええ子やん(浪花のおっちゃん感)
オレンジペコにそんなに迷惑を掛けられない。であればダージリン一択なのだが―――
ぶっちゃけダージリンと四六時中一緒にいるとか俺の胃袋がマッハだったりする。みほエリのため、みほエリのためと身を粉にしている自信があるが、みほエリを拝む前に血ィ吐いて死にかねん
……が、このくらいの苦労は呑み込まねばならんと言えるし、飲み込むべき些事であるはずだ。
でも結果としてオレンジペコに「ダージリンに教えてもらうからいいわ」と面と向かって言うこともできない件。今の【尊敬する先輩のために】ってなってる状況、確実に曇る、曇りまくる。
と、なると状況としては―――ひとつ。
“ダージリンを応援して合法的なルール上でダージリンの指導を受けつつ、全力で耐えきること”これしかない。
―――なお、卒業してからも「学力維持のため」としてまだこの勝負は続いている。内容を【本日の天翔エミの所有権】の奪い合いというタイトルマッチにすり替えて。
なんで?(困惑)
俺はこの先みほエリを見るまで生き残れるのだろうか……それは誰にも分らない。
******** E to D
―――視線を感じる。
天翔エミの学力低下から端を発したオレンジペコとのこの【勝負】。
どちらの格が上かの勝負であり、天翔エミの進退を決める戦いである。当の本人は何も理解しておらずのほほんと勝負を見つめていた。
―――私だけが知っている。
オレンジペコが天翔エミの教育係となった場合、“天翔エミが進級できないギリギリのラインを見極めて勉強を施す”つもりだと言うことを。
目の前のにこやかな少女はこの上なく天翔エミに依存している。それは私を含めた紅茶の園の
―――彼女が【それ以外を一顧だにせず天翔エミだけに依存している】ことを除けば。
目の前の少女にとって天翔エミがこだわっている事項が「戦車道」のみであることしか脳に入っていないに違いない。そして、仮に天翔エミがそれ以外気にしないのならば【一年留年する】など苦にしないであろうということ。
であれば―――【ごく自然に留年させ、同じ学年でもう一年おなじ学舎に通う】ことこそが彼女にとって最もベストな未来であるはずなのだ。
―――ならばそんなことを許せるはずがなかった。
天翔エミに対しての感情は関係ないけれど、己の欲望のために他人の人生に干渉し、未来の可能性を閉ざす選択肢を座して見ているなどと言うのは英国淑女にあるまじき行動だから。感情は関係ないけれど!淑女にあるまじき行動だから!
私にできるのは目の前の少女に勝利し、天翔エミの教育権を奪取し、天翔エミにきちんと教育を施し、きちんと中等部を卒業させること。
そうして、私は勝利した。そして―――天翔エミは無事卒業を果たし、高等部一年生になった。
だけどまだ彼女との勝負は続いている。
―――わかっている。これはもはや「意地」だ。
私が卒業した後にあの娘が彼女に溺れてしまう分には、私の手を離れてしまった以上どうしようもないだろうとは思う。私にできるのはせいぜい、私が手を伸ばせる間、あの娘を彼女から護って依存しないように正気を保たせるくらい。
だってほら、今この瞬間、勝負の間ずっと視線を感じる
だからこそ私は天翔エミから勝利を望まれていると確信できているのだから。
ダー「人生において我々が囚われている鎖は、我々が生み出したものに他ならない。」
(※意訳「天翔エミの人生を縛る権利は誰にもありません。理解できて?」)
ペコ「イギリスの小説家、チャールズ・ディケンズの言葉ですね」
ペコ「変革せよ。変革を迫られる前に。」
(※意訳「閉じ込められてる檻はそちらも同じでは?意識改革が必要だと思いますけれど」)
ダー「……米国経営者、ジャック・ウェルチの言葉ね」
ダー「決断しないことは、ときとして間違った行動よりたちが悪い。」
(※意訳「現状で彼女に選ばせずに足止めさせる、それは何より害悪よ」)
ペコ「アメリカの実業家、フォード一世の言葉ですね」
ペコ「あら探しをするより改善策を見つけよ。不平不満など誰でも言える。」
(※意訳「それならそちらが改善案を提示すべきではないですか?あれも嫌これも嫌ではただの老人の愚痴と変わりませんけれど?」)
ダー「同じく、フォード一世の言葉ね」
ダー「あなたの顧客の中で一番不満をもっている客こそ、あなたにとって一番の学習源なのだ。」
(※意訳「現在の天翔エミを否定する私こそが彼女の何より確かな道標でしてよ?そこが理解できてない時点で何も言うことはないわ」)
ペコ「アメリカの実業家、ビル・ゲイツの言葉ですね」
カス「この掛け合い……やはりダーペコはベストパートナーやな!聖グロはダーペコしか勝たん!!」
次回更新(お相手)
-
ダージリン
-
ペッコ
-
アッサム
-
舎弟ヒップ
-
パイセン
-
本編やって、やくめでしょ?
-
聖グロ以外の学園艦