【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
―――聖グロリアーナ女学院、生徒会室。
通称【紅茶の園】と呼ばれるそこで、ふたりの生徒が向かい合って座っていた。
かたや神妙な面持ちで、テーブルに肘をついて口元を両手を組んだ形で隠した【碇ゲ〇ドウポーズ】で目の前の少女を見ているのは元生徒会長、現中等部三年生。
二つ名は【疾風】、アールグレイその人。
対して意気消沈といった様子で、普段の冷静沈着で飄々とした様子と裏腹に俯いて座って居るのは中等部“現”生徒会長、ダージリン。
紅茶の園の中にはその二人しか居ない。普段ならば紅茶をサーブする庶務や雑用担当の一年生が居るはずの時間だが、ふたりだけで座して対峙していた。
「―――候補は、他にないものね」
ぼそりと、そう呟いたアールグレイの言葉に、ビクリと身をすくませるダージリン。緊張に震えている彼女は、いつも手に持っている紅茶のカップとソーサーすら、テーブルの上に置いていた。普段カップとソーサーを手にしている二つの手は今、膝の上でぐっと固く握りしめられていた。
「―――覚悟を、決めなきゃね」
「……はい……」
微かに首肯するダージリンにアールグレイは視線を外して席を立ち、扉の内鍵を外して外部に繋がる伝声管を開いてハンドベルの音を響かせた。独特の鐘の音に反応して、静かな足取りで紅茶の園の扉から一年生がやって来たことを確認して、アールグレイは大仰に腕を振るい、舞台上の役者のようにポーズをキメて見せた。
「―――ブリュンヒルデを招聘なさい。速やかに」
第1話【異変兆候/「狂い始めた日常」】
「よく来てくれたね!ブリュンヒルデ」
「アッハイ」
今日も今日とて戦車道。明日は明日で戦車道。ガッコンガッコン装填装填、うぉぉん!俺は人間砲弾ローダーだ!とばかりに全力で装填しまくって演習を終えて、ぬぁぁん疲れましたよもぉぉん!って状態で一年生の娘たちに囲まれて、あれよあれよという間にもみくちゃにされ、着替えを強制されシャワーを浴びてる時間がないのでと制汗スプレーを噴射され、わっしょいわっしょいと運ばれてきた俺は戦車道専攻の二年生。名前は天翔エミ。
断じて「ぶりゅんひるで」とかそういう名前ではありません(断固として固辞)
そんなこんなで紅茶の園―――聖グロリアーナ生徒会室に通された俺は、妙に芝居かかったアールグレイパイセンと向かい合う形で席に座らされていた。
俺を連れて来た一年生ズは早々にハケて行き、部屋の中には俺とパイセンの二人
―――もとい、“三人”が残された。
「……あの、パイセン?そこのダージリンが何かあったんですか?」
そう。俺とパイセンから少し離れたとこに座って、ジッとこっちを睨むような目で見ているブリカスは、しかしいつもなら皮肉のひとつも言ってくるはずのそいつは何も言わずこっちをただ強い視線で見ているだけである。正直ちょっと対応がわからなくて気味が悪い。
俺の言葉に微妙に言いよどむ様子を見せて、少し逡巡するように大袈裟に天を仰いだ。
「―――説明をしよう。しようとは思う―――思うのだが……」
やや口ごもる様子のパイセンは、そう言ってコトリとカップを俺の目の前に置いた。カップの中にはなみなみと白い液体が満たされている。
「まずは、
見えないシェフ帽子を取り上げて一例のポーズを恭しくとるパイセンに、「あ、これ飲まないと帰れないヤツや」と判断した俺は、観念してカップを手に取る。
口元に近づけた瞬間に感じたのは、むっと濃厚なミルクの香り。しぼりたての生乳といった感じのそれを鼻が感じ取って、最初に過ったのは「畜産」だった。
つまるところはこれ、テイスティング的なアレか。
ダージリンはストレートで紅茶を飲むことが多いが、ミルクティーは元々イギリスの上流階級の象徴みたいなものとされていた。紅茶の渋みを和らげる目的であり、元々はチベットとかの寒冷地で茶葉から抽出した茶にヤクの乳だの山羊の乳だのを混ぜた高カロリー摂取品として飲んでたのが起源なのだとか……閑話休題。
とはいえ目論見はわかったし、質の良いミルクはコーヒーの普及にも役立ってくれると思われるし、こちらにも得がある話だ。
というわけでぐっとカップを傾けて口の中に。舌の上で味をしっかりと確かめながらゆっくり嚥下していく。喉越し、味、濃度、鮮度を含めて総合的に判断を下さなければ、テイスティング役として失格であろう。
「ちょっと普段飲みなれてるものより濃い感じですね。喉に残る感じなのはミルク特有なんだけど、紅茶とかに合わせたら飲みやすくなるかもっすね」
『コーヒーには合わなさそうですけど』と付け加えてパイセンに告げると、パイセンが不思議な顔をしていた。あと横の方で座ってるブリカスが座ったまま顔だけをこちらに見えないように逸らしていた。
「体調に変化などはあるかな?その……身体に合う合わないで腹痛などを起こす場合もあるだろう?」
「あー……そうですねー……」
ぽんぽんと、お腹を軽くさすってみる。確かに成分未調整だとか、低脂肪乳とかが体質に合わなかったらお腹を壊してトイレに籠る羽目になる人も割と結構な人数居ると聞く。
一先ず10分ほど様子を見てみたが、特に体調不良の類は起きていないようだった。
「とりあえず大丈夫そうですね」
「そう、か……そうかぁ……」
パイセンに大丈夫だということを告げるとパイセンがいよいよ神妙な面持ちで考え込んでいた。購入すべきかを慎重に検討しているのかもしれない。
[―――そういうわけだけど、“問題は全てクリアされた”と言って差し支えないと思うわ。
あとは……貴女次第ね。ダージリン」
スッと身を引くように一歩、二歩とムーンウォークかエレガントバックステップといった様子で音も無く後ずさるパイセンと入れ替わるように、ダージリンが前に出る。いつものカップとソーサーを手にしたブリカス標準装備ではなく、胸の前で腕を組んだ珍しいポーズで胸を張り―――
―――ちょっと、いや大分違和感が、ある。
「―――何かおかしなことでもあって?訝し気な視線、やめて下さる?」
「……え?あ、あぁ……ぅん」
違和感があるのだが、その違和感の正体がつかめず、曖昧に頷いて歯切れの悪い言葉を返してしまった。微妙に気まずい空気が周囲を包んで、お互いに無言のまま、時間だけが過ぎていくのが、備え付けの時計の秒針のチクタクという音で知らせてくる。
―――【居たたまれない】と、正直にそう感じてしまう。
「……何か言えよ」
結局、どうにかこうにか絞り出した俺のそんなぶっきらぼう全開の言葉に
「――――貴女に、【アールグレイ様の代わり】を引き継いでいただきたいの」
そんな感じの言葉が返ってきた。
パイセンの代わり?という要領を得ない言葉に脳内に?マークを浮かべながら軽く首をかしげる。我装填手ぞ?我ただのモブぞ?我ネームドの代わりが務まるようなタマと違うぞ?何考えてんだこのブリカスは?様々な疑問が浮かぶが、最終的にダージリンが目に涙をためながら頭を下げたことで考える余裕が消し飛んだ。
ダージリンは俺こと天翔エミをライバル視している。
そのダージリンが「頭を下げる」ほどの事情がある。
ならば、そこにもう「逡巡」だとか「躊躇」だとかそういうのはバカのやることだろう。
「いいよ。なんか知らないけどやるよ」
秒でOKを出した俺の言葉にバッと顔をあげて俺を見るダージリン。潤んだ瞳に脳内で「これ俺の罪になるかな?」と脳内の裁判長に提議してる検事の俺(コーヒー装備)が居たり、「異議あり!」を叫ぶ弁護士の俺が居たり脳内で裁判開始されたりしたが、どうでもいいので割愛する。
「ありがとうございます」と再び頭を下げるダージリンを制しつつ、詳しい事情を聞こうとパイセンの方を見ると、パイセンはパチパチと拍手をしながらゆっくりとこっちに歩み寄りながら「Congratulation…! Congratulation…!」と繰り返していた。なんかどっかで見たぞこの構図―――!!
「じゃ、ブリュンヒルデにはこれから一年間。卒業して高等部に向かう私の代わりに、中等部で【ダージリンの乳処理係】をやってもらいます」
―――――――――は?
*******
「―――すいません。詳しい話をもっかいお願いします」
「混乱するのはわかるわ。医学的に症例がない話じゃないけれど、目の当たりにすることはほぼないはずだから」
椅子に腰かけて何度か深呼吸しつつ、パイセンと二人顔を突き合わせて相談している。その後ろでは「んっ♡」だの「はぁ……♡」だの、よくわからんけど艶めかしい声が響いている。視線を向けることはしない。極大クラスのピロシキ案件だとわかり切っているから。なんなら今このタイミングですらパイセンから説明を受けなければならないという状況でなかったら炎柱か牡牛座の聖闘士張りに鼓膜を破壊して音が聞こえなくしているところだ。
俺とパイセンの背後では、“きゅっぽ きゅっぽ”という定期的な音と、ダージリンの囁くほどに微かな喘ぎ声が響いていた。
パイセンが説明したのは、「ダージリンの胸に母乳が溜まってる」という端的なものだった。 ――――なんで?
最初は乳がんとかそういうものも疑ったらしく、各種医療のお世話にもなったらしい。が、結果として出された資料は「母乳」であり、身体的に異常はないとのこと。ホルモンバランスの変動とか何とか、そんな結論に達したらしく、中等部という年齢もあって投薬などの方法も取れないらしい。その後、ちょっとした拍子に母乳が分泌されてしまうので、ニプレスに母乳パッドを使って母乳漏れで胸元が濡れてしまうことは避けているが、抑えている分胸の中に母乳が蓄積されてしまいややバストサイズが増してしまうらしい。制服がパツンパツンになってしまうので、先ほど考えた違和感はそれだったらしい。
溜まってしまった母乳を放置していると胸が張って苦しいし、乳首が痛くなるとかで、定期的に搾乳をしているらしいのだが、問題は「搾乳した後の母乳をどうするか」という点。アールグレイパイセンはダージリンの「周囲にあまり知られたくない」という意向を組んで、自分一人で処理―――要は『飲んで』いたらしい。
が、ここでパイセンの『中等部卒業』という問題が浮上した。というわけだ。
勿論、聖グロリアーナ学園艦内部の聖グロリアーナ女学院。その内部にある中等部と高等部に別れているだけなので移動するのは容易なのだが、高等部に進級したパイセンが、中等部の生徒会に足しげく通っているというのは風聞に悪いし、下手に紅茶の園の上層部に目を付けられるとダージリン自身の醜聞が出回ることになる。というわけで、【後継者】を探していたらしい。
「―――で、何で私なんです?」
「君意外に適任が居ないから」
いや居るだろ。アッサムとかオレンジペコ(予定)とかローズヒップ(予定)とか
そんな感じで「他にもいるんじゃないですか?」と問いかけてみるも「じゃあ誰が適任だと思う?」と返された件。
いや居るだろ(以下二度目なので省略)
と、一応候補を上げてみたのだが……
まずオレンジペコ(仮)とローズヒップ(仮)は「そもそも紅茶の園のメンバーではないので情報統制がし難い」という難点がある。
ルクリリやニルギリに関しては「後輩に弱みを見せたくないから自分(パイセン)に相談したのに本末転倒」だという点。
そんで、大本命のアッサムなのだが……紅茶に混ぜて飲ませたところ母乳と身体の相性が悪かったらしく、乙女の尊厳が決壊しかけてえらいことになったらしい。
余談ではあるが、母乳は赤ん坊のための飲み物であり、乳糖:ラクトースが多く含有しているため、赤ん坊以外の大人が飲むと体内で乳糖を分解できずお腹を壊すそうな。体質みたいなものもあるが、乳糖を分解する消化酵素が大人になると減衰するのだとかなんとか……いやマジ余談だわ(迫真)
「……終わりましたわ」
衣擦れの音を最後に、静かに歩み寄ってきたダージリンがそう言って、テーブルの上にコトリとプラスチックの瓶を置く。小さな瓶状の器の中にはティーカップで飲むなら半分程度の量の人肌温度のミルクが入っていた。
「戦車の中が乳臭くなると中の娘たちが地獄*1だし、
アールグレイパイセンの言葉にむむむと唸る。
俺の脳内ではこれまでのいくつかの出来事が渦を巻いていた。
ダージリンの飴玉口移し事件。
その後のダージリン縋りつき事件。
ことあるごとに俺を抱き上げようとするダージリン。
そしてここにきての「ダージリン母乳体質」
ことここに来れば何ら違和感もなく、俺の脳は真相を導き出していた。
―――いつの間にか、
俺は、『ウ=ス=異本の方のガルパン次元に転移してたらしい』
転移、という発想は簡単だ。もしも最初から完璧にウ=ス=異本だったら、これまで練習試合をしてきた他の学園艦の連中になんかもっと違和感があってしかるべきだということ。あのダージリンの飴玉事件が起きるまで特に何事もなく日常が続いて三年近く中等部で過ごしていたことから考えて、それまで何にも気づかなかったということはきっとない。なので『最初からそう言う世界に転生した』とは考えにくい。
で、次の問題。『ダージリンを放置して良いか?』 答えは当然、『No』
何故ならこいつはみぽりんが戦車道と向き合うためのフラグアイテムであり、妥当すべき壁として立ちはだかり続ける存在であり、西住みほという軍神が覚醒するためのイベントアイテムだからだ。
みほエリという世界の悲願を達成するためにこいつのモチベーションを維持し続ける必要はアリアリアリアリアリーヴェデルチであり、そのために骨身を削る覚悟はあるかと問われれば「俺はできてる」と答えるのに秒も要らぬ。
そう、みほエリ。
ここがウ=ス=異本の世界だと仮定されるとして、『この症例が一般的なガルパンキャラに現れる症状の世界線』だとさらに仮定した場合―――
みぽりんが母乳体質になってしまい、誰にも相談できないところにエリカが―――
或いはエリカが母乳体質になってしまってそれに気づいたみぽりんが―――
あーいけませんお客様あー!!あーー!!!お客様!!困ります!!あーっ!!困ります!!お客様!!(ry)
「―――カf―――」
「天翔エミ!?」
セルフで喉をキュッとして脳内に広がった妄想を窒息でぶっ飛ばしてメンタルリセットを敢行。一瞬状況についていけずに自決しようとしてたように見えたのか、すごく申し訳なさそうな顔でしおらしくしているダージリンを見ていると、突発的に「これアカンやつじゃないかな?処す?(セルフで)処す?」と脳内で語りかけてくる俺が居る件。
「―――もう一度、条件を復唱します。
“一年間”でいいんですね?」
アールグレイパイセンに向き直ってそう尋ねると、笑顔で大仰に頷いて返してきた。長い長い、とてもとても長い溜息は俺の覚悟を決めるための時間と同等であるので、多少は許されて欲しい。
「わかりましたよ。引き受けますけど、このままってわけにもいかんでしょ?」
「勿論、高等部に入って成長期に影響が出ない程度の治療方針を打ち出しているよ。この状態のダージリンは当人にとってもよろしくないからね」
パイセンがそう語る以上、俺としてはパイセンを信じざるを得ないのでどうしようもない。俺は己のメンタルと生命が中等部卒業まで保ってくれることを強く強く祈りながら―――
「―――そういうわけで、お手柔らかに頼むわ」
ダージリンに手を差し出した。流石に自分が出した母乳を飲む相手を真正面から見ることに抵抗があるのだろう、ダージリンは顔を片手で隠しながらもいつもとは調子の違う弱弱しくおずおずとした様子で手を伸ばし、握手で返す。
「――――――ん゛っ♡」
ビクンと軽く震えて胸元を押さえるダージリンに、『この先俺は本当に生きのこることができるのか?』と滅茶苦茶心配になった俺だった―――。
――何故、俺はこんな話を……
米ビ「やめろぁ!生やすのは嫌だぁ!そういうのは本家様の芸当なんだよぉ!」
邪神「じゃあ「生やす」のはやめよう。「生やす」のはね……」
次回更新(お相手)
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ダージリン
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ペッコ
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アッサム
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舎弟ヒップ
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パイセン
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本編やって、やくめでしょ?
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聖グロ以外の学園艦