【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
「うー……バイト、バイト」
今アルバイトを探して(学園内を)全力疾走している俺は聖グロリアーナに通うごく一般的な女子生徒。強いて違う所を挙げるとすればガルパン世界にTS転生した元ガルおじってとこかナ―――名前は天翔エミ。
そんなわけで帰り道に在る
ふと見ると、ベンチに女性が座っていた。
「(マチルダ会で戦車道)やらないか?」
学園艦は内部のプラントにより食料やその他様々な物品を生産している。これは学園艦内で多くの人が暮らしている以上必要なことである。そして人が生活する以上、そこに貨幣経済が生まれないなどということは決してない。
つまるところ仕事によって糧を得る必要があるので、
いくつかあるバイトの中から自分にできそうなモノを見繕っていく。できれば長期雇用が発生しそうなモノがいい。それでいて、自分の売りであるパワーとスタミナ、それとすばしっこさを生かした職種を選ぶべきだ。荷運びであったり砲撃練習のための装填手の雇用であったり、部屋の移動のための引っ越し手伝いだの映画スタントマンなんかがモアベターであろう。
間違っても、時給が良いからと言って「新製品の下着モデル」だったり「自主製作映画のヒロインオーディション」だのそんな感じの項目を選んではいけない。ストレスで血を吐く羽目になる(戒め)
「もし?そちら、天翔エミさんではございませんこと?」
「―――はい?」
唐突に名前を呼ばれて振り返ると学外の服装の女性が一人、こっちに優雅に会釈してきた件。誰ですか?(素) 自己紹介と同時に渡された名刺を見ると『マチルダ会代表 ****』とある。
まぁ、話自体は何という事はない。ただ単に「
実際問題として、別にマチルダ会に所属して戦車が強制的にマチルダになろうと俺のやることは装填以外変わらないのだからどうなろうと構わないのだが―――
「―――お待たせいたしましたわ」
「うわわわわっっ!?」
不意にそんな声が聞こえると同時に俺の身体がふわりと持ち上げられ、俺は浮遊感から思わず悲鳴じみた声を上げていた。もふっと重量感のあるものに押し付けられている感覚とともに見上げると、ニコニコ顔のパイセンが居た。どうやら小さい子の脇の下に手を入れて抱き上げる感じに持ち上げられているらしい。
「貴女―――この間紅茶の園にお呼ばれしていた……」
「その節はどうも♪近いうちに冠名を授かる予定ですわ」
ニコニコとした笑顔で誰だお前と言いたくなるお貴族様トークでマチルダ会のOGを圧倒していくパイセン。しばらくOHANASHIをしていたが完全に呑まれ切ったマチルダ会の何某さんはそそくさと立ち去ってしまった。私としては別にマチルダに固定されようと問題ないんだがなぁ、装填しかできんし揺れまくる車輛よりは鈍足でも安定してるマチルダの方が―――
「だーめーでーすーぅ」
さっきまでのカリスマ溢れる姿はどこへやら、俺と対面するように抱き直してこちらの内心を読んだかのようにジト目で唇を尖らせて俺に駄目出ししてくるパイセン。なんでやねんと思ったりもしたが、そこまで読んだかのように大きく胸を張り、言った。
「貴女がマチルダに乗ったら、チャーチルの私が楽しめないじゃないの」
「……先輩。無知蒙昧な私にゃー言っていることが全く理解できません」
結局よくわからないままマチルダ会の話はお流れになり、その日は普通に手ごろな荷運びのバイトを請け負って帰ったのだった。
―――後日なんか俺の机の上に「高給保証!」とか書かれた見出しと一緒に「給与・実働時間、応相談。資格:天翔エミであること」とか書かれたバイト用紙が貼ってあったので丁寧に折りたたんで机の中に仕舞い込んで、後で焼却炉に放り込んでおいた。
何故かその日、パイセンの機嫌が悪かったらしく他の下級生が戦々恐々としていたらしい。
****** Emi to Earlgray
「貴女に冠名“アールグレイ”を受ける栄誉を与えます」
「―――謹んで、拝領致します」
恭しく一礼して冠名授与を終えた。これで私は今日から【アールグレイ】の名前で呼ばれることになる。冠名《ソウルネーム》、別名に【紅茶銘】と呼ばれるこれはグロリアーナだけのルールである。
聖グロリアーナの生徒会など、学園運営に携わる者たちが所属するハイソサイエティの住まう場所。それが紅茶の園である。―――という建前で、卒業したはずのOGの一部は紅茶の園に居座って学園艦から外に出ようとしない者が居たり、気が付いたらそういう引きこもった様なOGが学園艦の方の運営にかかわっていたりする。大いに謎が秘められた場所である。
アールグレイと名を改めてもやることは変わらない。ただ、自分の使える手札が純粋に増えたのは有難いことだった。チャーチル会の一員として所属しつつ、引っ張った費用を使ってチマチマとレストアしていた私の夢の結晶を、今私が特に気に入っている二人だけに見せることにした。
―――巡航戦車クロムウェルMarkⅧ
聖グロリアーナにやってきて、倉庫の奥で煤ぼけたガラクタに過ぎなかったコレを、少しずつ少しずつレストアしていった。今や完全に復旧が完遂し、ミーティアエンジンも完璧にレストアが完了していつでも動かせる状態になっている。
「私の夢はね。倉庫の隅っこで埃をかぶっていたこの子と一緒に、配備数で争ってる御三家の方々を抜き去って、私だけの戦術で優勝することなの」
誰からもそっぽを向かれていたこの子はもうガラクタじゃあない。きちんと磨きを掛けられた私だけの戦車になった。
あなたの真価は私が皆に教え込んであげる。価値なしと見限った連中を見返させてあげる。大きな流れに逆らったものをつまはじきにする有象無象に、弾かれた者たちで咆哮を上げよう。研鑽はそのための牙なのだから。
******
中等部を卒業し、高等部に昇級する。中等部のころに出会った西住まほ。それにプラウダのカチューシャと名乗った少女。粒よりの強者で嫌になるわ。
けれど同時に燃えて来る。世間では常勝黒森峰の話題で持ち切り、4強なんて持て囃されてはいるけれど、実質黒森峰をてっぺんに、下に集う羽虫の群れから一足抜きんでただけの存在に過ぎない。
―――だからこそ燃えて来る。
大向こうの予想を覆して勝利したとき、皆はどんな顔で私たちを称賛するだろう?それを想うと心が躍る。敵が強ければ強い程、燃え上がる、燃え盛る。
足を止めず、思考を止めず、進み続ければ縮まらない距離なんてない。
―――私は、そう信じていた。
速度×時間=距離 という方程式は絶対だという法則から目をそらしていた。
******
――月――日
最初の一年目はベスト4。でも私には何一つ焦りなどなかった。
何故なら今年の大会は小手調べに過ぎない。来年も、あの娘を加えての小手調べの継続だ。
2年の歳月を相手の戦力分析に使って、3年目、最後の夏で優勝する。そのための布石。そのための敗北。悔しさがないわけではない、涙だって流れる。
それでも、あの子たちが進級してきて全員が揃う3年目こそが、私にとって最大のチャンスなのだ。“負けてもしょうがない顔で笑顔を見せている連中”が居なくなるその時こそが、私にとって最高の賭け時なのだ。
甘んじて敗北を受け入れよう。この辛酸をも糧に変えよう。
古人に曰く『臥薪嘗胆』この苦しみも、この悔しさも、涙も、全てのみ込んで明日の糧に変えてみせる。
******
――月――日
2年生になり、私が名を冠した『ダージリン』が昇級してきた。まずは一人。アッサムも含めれば二人、手駒が揃った。
高等部の戦車道は中等部のものとはレベルが違うが、この子たちならば乗り越えてくれる。きっと
あとは中等部のあの娘が昇級すればすべての準備が整うのだ。
――月――日
三度目の桜の季節。あの娘が進級してやってきた。
これで私の持てるすべての手札が揃った。あとは可能な限り磨き上げるだけ。
私の3年間―――いえ、6年間の集大成。必ず実を結ばせて見せる―――!!
******
「―――クソッ!糞っ!!糞ッッ!!」
縦横無尽に走り回るクロムウェル。快速で駆け回る車輛から、行進間射撃で吐き出される砲弾は、しかし相手の重装甲に手も足も出ない。
至近距離まで近づけるならば、有効打を与えるだろう。けれどそんなことをしたら包囲陣で囲まれ逃げ場を無くし、動きを止めたところを倒されるのは自明の理。
無意味だとわかっているのに、砲撃を止められない。
―――当たり前だ。
3年だ。3年待ったんだ。3年間、無為に過ごしたことなど一日足りとない。修練を積み、OG会の影響を遠ざけ、チームメンバーを護り、後輩を鍛え、自分を鍛え、やっとここまで―――準決勝までやってきたんだ。
あと一歩なんだ。あと一歩で決勝。決勝で、上がって来るだろう黒森峰に勝利すれば、私のこれまでは報われる。この子だって、ガラクタではない何者かになれる。これまでの全てを皆に報いてあげられる。
―――だから
「―――負けてられないんだよぉ!!お前たちなどにィィィィッッッ!!!」
吠える。己の闘志よ余すところなく弾丸に宿れとばかりに咆哮する。
―――嗚呼、けれど
『聖グロリアーナフラッグ車、走行不能。プラウダ高校の勝利―――!!』
敵陣を寸断し、フラッグを探す私の下に届いたのは、そんな絶望的な宣告だった―――。
******
「―――ごめんね、勝たせてあげられなくて」
ところどころに傷跡を残す車体を撫でる。公式の大会はこれで終わり。私と
そう考えると、不意にさみしさがこみあげて来るもので―――
「―――申し訳ありませんでした!アールグレイ様!!」
ガレージに入って来るなり平謝りするのは、フラッグ車を任せたダージリンだった。自分が守りを抜かれてフラッグを死守できなかったことを責任として感じているようだ。
「大丈夫よダージリン。貴女が護り切れなかったのなら、たとえ誰であっても無理だっただろうから」
「ですが―――ッッ」
責任感と罪悪感からだろうか、涙を流すダージリンを抱きしめて、あやすように背中をぽんぽんと叩く。
―――涙は見せられない。こんな後輩がいる前では、絶対に。
「―――いつかこの悔しさを糧に、勝って見せなさい」
「―――はい……ッッ!!」
ひとしきり涙を流した後は、いつもの彼女に戻っていた。きっともう大丈夫。私の知る彼女ならば、今回の敗北も糧にして、【対応】して見せる。
ダージリンと別れて、自分のテントに戻る。着替えるために、パンツァージャケットを脱いだ。
―――あぁ、駄目だ。
戦闘服《ドレス》を脱いで、頭が理解してしまった。『もう終わったんだ』と。
終わった。
終わってしまった。
私の3年間は―――これでもう終わってしまったのだ。
「――――――っ……くっ…………ぅ………ッッ……!!」
流すまいと決めていた涙が、止められなかった。気が付けば、その場に膝を着いていた。
駄目だ。“これ”は駄目だ。
折れてしまう。何かが音を立てて、折れてしまう。
―――ふわりと、優しい手が私の頭を撫でていた。
顔を上げると、滲む視界の向こうに小さい影があった。小学生程しかない小さなその娘は、近くにあった砲弾用の空の木箱を踏み台にして私の頭に手を届かせていた。
「―――お疲れ様でした、先輩。
大丈夫。先輩の
「――――――ッッ!!」
感極まって、目の前の少女を抱きしめていた。抱きしめて、声を殺して泣いていた。
ああもぅ、生意気な娘だ。何処までも小生意気で無遠慮でどうしようもなくド天然な娘だ、本当に。
「―――忘れなさい。さもないと全身余すところなくチューするわ。時間をかけて丹念に、他の誰も見れなくなるくらい」
「墓の下まで持っていきます、マム!」
ひとしきりぬいぐるみのように扱って、泣き顔と醜態を晒した気恥ずかしさと、アールグレイとしての威厳の保持のためと―――あと若干の乙女心から口にした言葉を秒で斬って捨てた彼女をやや不機嫌な目で見てしまったとしても、きっと私は無罪。控訴は棄却する。
ここで約束を求めるくらいなら、本気になってあげても良かったけれど、後輩のお気に入りだからこれ以上踏みこんでやらない。元々私は御簾の向こうで夜這いを待つタイプの高嶺の花なのだ。何をおいてもあなたが欲しい、くらいでないと本気になってあげない。
「
有言実行できるようなら、私からもご褒美をあげる」
******
―――時は流れ、戦車道高校生大会準決勝。
轟音を立てて突き刺さり、地面ごと複数の敵車輛を薙ぎ払う
『黒森峰フラッグ車、行動不能!!よって、聖グロリアーナの勝利!!!』
黒森峰のティーガーⅠを打ち砕き、減速に失敗してなだらかな斜面を滑り落ちていくクロムウェルMarkⅧ。
「―――約束、ちゃんと護ってくれたのね」
電光掲示板に映る「WINNER」の文字と、観客とグロリアーナの生徒たちの称賛と歓喜の声を受けて輝いて見える私のクロムウェル。
私では果たせなかった夢は、彼女たちがかなえてくれた。
「―――とびっきりの“ご褒美”を、用意しないとね」
―――私が最初に見出したのだし、後から彼女に引き合わせたのも私なんだし、
問題はない。あれでもこれってアレよね?最近流行ってる『びーえすえす』ってやつよね?アリなのかしら?ナシなのかしら?
「―――まぁどっちでもいいか」
ざっくりと悩んでいた思考をぶった切って、脳内を切り替える。簡単な話だ。
とてもとても、シンプルな話だ。
「―――愛してあげる。だから黙って愛されなさい。答えは求めてないわ、ハイかイエスかダーかウィで答えなさいな。その代わり、わたしの全てで応えてあげる」
当面は彼女を、どうやってすり抜けようか、どう出し抜いてあの娘のところまでたどり着くか。それを考えないといけないかな?
私は【疾風】アールグレイ。古人曰く『兵は神速を尊ぶ』が如く、まごまごしているのなら颯爽と攫って行きましょう。
次回更新(お相手)
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本編やって、やくめでしょ?
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聖グロ以外の学園艦