偶然の遭遇(光源氏14)side
暇潰しに海を漂っていたその日、何かから必死で逃げる小娘と、何も無いように姿を隠して追い掛けるソレに遭遇した。小娘を助ける義理は無いが、その隠れている物には興味がありその姿を顕にさせる。
すると何故か大騒ぎになっている船がそこにはあり、勝手に沈もうとしている事に気付く。ジワジワと沈むのも良いが、同じ沈むのならば何があったのか話くらい聞いてみようと既に割れ始めていた船を完全に割り、手近な存在に話を聞こうと夜を抜く。
木片となった船のほぼ沈んでいると言えるような所に少女が落ちており、その少女を恐らくは殺そうとしていたであろう海賊がその近くで船が割れた事に驚き腰を抜かしている。腰を抜かしている海賊に近付いて話を聞いてみると、どうやら落ちている少女が色々やらかして、その相方を追い掛けていたら船を沈めようとして来たのだというから驚かされる。
本当はその相方を捕らえるか、もしくは逃がしたとしても売り飛ばしてやるつもりでいたらしいが、人間の子供1人では端金にしかならぬであろうにと狙われていた少女に視線を向ければ、意識を取り戻したのか自ら顔を上げて状況を必死で理解しようとしているのがわかる。それから薄く笑った少女は空を見上げて、小さく呟いた。
……いや、声は出していなかったのかも知れないが、唇は確かに動いた。
「良かった。これでカリーナは助かる。もうすぐ、サイクロンが来る」
その言葉に空を見上げるが変化は無い。何を言っているのかと思った直後、少女は空の樽と自分をロープで縛り、座り込んだ。
変な子供だと思って見ていたが、遠目に見ても容姿は確かに整っており恐らく売ればそれなりになるだろうと思えた。その時、空気が変わり本当にサイクロンが目の前に現れた。
逃げるには遅すぎるが、切り裂くには近過ぎる。厄介な……と思いながらも、俺はサイクロンとかち合う事になってしまった。
小さく舌打ちが漏れた時、先程の少女が飛ばされて行くのが視界の端に映った。その後次々と飲まれていく者達を視界に捉えながら俺は襲い来る風を切り裂きその場に留まる事だけを目標に立ち尽くす。
だが縦横無尽に吹き荒ぶ風に対応が遅れて、船が持ち上げられる。咄嗟に船に掴まると俺は船ごと飛ばされて、海面に戻れた時には現在位置が分からなくなっていた。
辺りを見れば先程の船の残骸等も落ちていて、取り敢えず己の船が形状を保っていた事に感謝すべきかと思うような状態だ。その中で樽に器用に乗り、木片で樽を動かしている人物を発見すればそれはどうやら売られかけていた少女のようだった。
波間を睨み付けていたと思ったら少し樽を動かしてから、後は何もせずに流されて行く。それを見てどこへ向かうのか、どこかへ辿り着けるのかと興味を惹かれてその樽を追ってみる事にした。
その少女はこの
狙われて当然だとしか言えないような、恐ろしい程の航海術と操舵技術だ。娘はロープを自らの体から外すと、樽を波に攫われない位置まで移動させて……倒れた。
偶然ではあるが島までの道案内をしてくれた恩人に当たるそれを見捨てるのも、何となく気が咎めたので近付き抱き起こすと、その余りにも整った顔に息を飲む。これは手元に欲しいな。
これから育つであろう肉体は、まだ瑞々しいというよりも青いが、将来的な事を考えれば買いたがる者は少なくないだろう。その上でこの才能だ。
……手放すには惜しいが、どうしたら手に入るか。そう思いながら船へと運び入れて、服を剥ぎ取ると早々にシャワーでその頭と体を洗う。
それでも意識を取り戻さない子供の無防備さを責めるより先に、そうなるまで気を張り続けていたのだろうと思い至るのは、拷問された跡が忌々しくも残っているからだろう。左肩には刺青までされていて、良く動けたものだと思ってしまう。
風呂から出てその傷を簡易的ではあるが治療して、俺のベッドに子供を寝かせてから船の破損状況を確認に動く。船の修理を終えてから船室に戻ると、体を無理矢理起こそうとしている子供の姿が目に飛び込んできた。
「何をしている。動ける体ではない。寝ていろ」
「……っ!あ……っ……りがとう、ございます。助けて頂いたようで。私は……」
子供は俺を見て驚愕にその顔色を染めてから、あっと1音発した後にそれを利用して感謝の言葉を述べる。その機転に舌を巻いていたら、意地なのか体をすっと起こしてから、俺を真っ直ぐに見据えた。
「……私の名はナミ。無理と無礼を重々承知の上ですが、どうか私を帰らせて下さい」
「親が恋しいか、娘」
名を呼ぶつもりはなかった。それは欲しいという感情は物理的なものであるとしておきたい自分のプライドが原因だっただろうが、今の所は馴れ合うつもりが無いからでもある。
けれども俺の問い掛けに対して、娘は口を開いたものの声を出さずに視線を彷徨わせるから、何事かと思ってしまう。先程迄とはまた違った興味を持ちそうになる。
……何を考えている。相手は戦う力もない幼い子供だ。
「どうした、娘」
「親が……恋しいかとの問いに、答えるべきものを持ち合わせておりません。ですが……」
俯き自信なさげに答え始めた子供の言葉に耳を傾けていれば、すっと視線を俺に戻して、強い意志の宿る瞳に俺を映す。それを心地良いと感じた。
「……私は、帰らねばなりません。時間が無いのです。もしくは、私を殺して生首を届けてください!貴方ならば……!王下七武海の称号を持つ〝鷹の目〟のミホークならば、殺す事も容易く死体や生首を届ける事も造作無く出来ましょう?どうか!」
……やはり俺の事を知っていたかと思うのと同時に、何故死に急ぐのかと思う。家まで送って欲しいと嘆けば、それだけで事足りるだろうに。
無垢な子供として……まァ少しばかり航海術の能力は高めで賢く冷静で見目麗しいとしても、子供は子供。七武海なのだから海軍に保護をと言われれば、海賊に捕まり売られそうになっていたと言うだけで、安全に家まで帰して貰えると分かるだろう。
それが分からないような、無知でも普通の子供でもなさそうなのだが、何を考えて殺せなどと言うのか。確かに殺すのは容易いがこの能力は殺すには惜しい。
……さて、どうしたものか。真剣な眼差しは俺から逸らされる事はなく、嘘を言ってるようにも見えない。
「……どちらを強く望んでいる?」
殺される事か、帰る事か。全てはその希望次第だ。
「私は今すぐに帰れるのであれば、生きて帰りたいです。……遺される痛みを、植え付けるのは望んでおりませんから。なれど、もう……時間が無いのです。間に合わないのならば生きている場合では無いのです!私1人の命で250人の命が……!」
「もうよい、少し休め」
これ以上語らせるには、心身共に無理がありそうだと判断して声を出せば口を噤む。その判断能力の高さと、俺に怯えない担力に笑みがもれる。
「帰りたいのは、何処だ。手配してやる」
「……!あ、ありがとうございます。
言葉が終わる前にその首に手刀を落として意識を奪うと、即座に船を動かす。東の海ならばここから最短で行くには
何故、この娘の希望を叶えてやりたいのか。それもこの手で……などと。
センゴク辺りに話を繋いでやれば十分の筈なのに、何故これ程に気になるのか。……側に置いておきたいと思うのは何故なのか。
焦燥感に近いものを感じながら、俺はこの娘を実家の島へ連れて行こうとしている。だが……到着したからと言って、手放すつもりも既にないという事は己が1番よく分かっている。
俺はどうしてしまったのか。妙な胸騒ぎにより胸焼けに近いものを感じながら、船を動かす。
到着した島でこの娘、ナミの抱えるものを知り、心と体を縛り付け捕らえている元を知り、破壊し尽くして島からナミを海賊の名に相応しく奪い去るまでそう時間はかからなかった。連れ去る直前、肩に入っている刺青を消させたら妙なマークに変わったが、他の男の所有印では無くなったので良しとする。
全てを破壊し尽くした時、泣きながら礼を述べる姿は年相応であったというのにその泣き顔に欲情した等、口が裂けても言える筈もないが、生涯側に置いておくとこの時に誓ったのは確かな事だった。