正直、暇だった。だってよ、ナミが海図描いてて俺に気付いてくれねェんだもんよ。
そう思った時、製図台ではない普通の机に何か置かれてるのに気付く。それをなんの気無しに眺めたら楽しそうな事が書いてあって、卵で遊ぶ方法だと分かった。
それによりナミの邪魔も出来ねェからと親父の所にその資料を持って行くと、ナミは本当に何でも考え出すなと笑った。それから、何かやるようにしようかと頷いたが……親父はナミにデレデレだ。
マルコ曰く男親なんてのは娘に甘いもんだとの事だけど、納得は出来ねェ。それからすぐに、親父はマルコ達隊長を呼び集めて準備を進めるから、俺はナミに報せようと足を進める。
すると甲板に出た所で霧が出てきたのに気付く。それがなんか、重苦しい感じがしたから、どうしても不愉快になる。
炎で焼き尽くしたいなと本気で考えた俺の目の前で、扉がものすごい勢いで開いた。そこから飛び出してきたのはナミで、どうしたのかと様子を見れば何故かその場で霧を相手に振り払おうとしていて……。
おかしすぎるそれに驚いて駆け寄れば倒れる身体。支えれば大丈夫なんかじゃない癖して俺を振り払おうとするから、つい声が尖る。
確かに甘え過ぎるのは良くないとは思うが、ナミのこれは甘えじゃねェ。とうして、自分にだけこうも厳しいのか。
「この程度、甘えには入らない」
それだけで泣きそうな顔をするから、早く休ませたいと考えて部屋に連れて行く。マルコに連絡を入れて状況だけ伝えると、船をすぐに近くの島へと向かわせると言われる。
船内でのみ使えるように子電伝虫があるから、それで連絡を取っているのでナミ1人にする事は無い。その時ナミが徐ろに口を開いた。
「私、イースターのイベントやりたいの」
「イースター?」
突然の言葉である上に聞いた事のない単語だった為に、よく分からず首を傾げる俺を見てナミは笑う。なんだかその顔が少し幼い。
「兎と卵のイベント。詳しくはWebで!」
「〝うぇぶ〟ってなんだ?」
「言い間違えたのよ。机に出版したくて書いたの置いてあるから、それを見てくれると助かるわ」
その言葉であの卵の遊びはそれかと気付く。だから俺は頷いて、それについてはもう準備が始まってる事を伝える。
「それ、見付けたから親父に渡してある」
「……いつの間に。まぁ、良いけど」
「金かかんないからやろうって言って皆で話してたぞ」
俺の言葉に全く……なんて笑うナミは、なんとも優しい顔をしている。そんなナミの頭を撫でた時、妙な感触があって動きを止めたら、ナミも変な顔してた。
手を離して様子を見れば、ナミを象徴してるとしか思えないものが生えてきた。文字通り、というか、その動物らしい生え方だと思う。
何せピョコンって感じで生えてきたからな。それにしても、何が起きてんだ?
「頭の上にあるものは……目の錯覚か?」
もしくは俺の願望か?
そんな事を考えていたら駆け出すナミ。自分の頭の上にあるそれに悲鳴をあげて、触ってビクビクとしたかと思ったら、尻に手を伸ばしてそれから鏡に尻を向けてそれを確認してる。……あ、尻尾もあるんだ。
丸い尻尾が可愛くて、俺も触ってみたいと思わされる。触ったら、ナミ、怒るかな?
「……なに、これ?」
「明らかに兎の耳と尻尾だろうな」
丸いその尻尾も、長い耳も兎の特徴的な部分だろうに何故賢いナミが分からないのか。混乱してる様子だから、仕方ねェのかな?
「な、なんで!?どうして!?こんな、変な……!!」
「変じゃねェと思う。むしろ似合い過ぎて怖いな」
「そういう事じゃ無いのよ!!」
怒るナミを宥めつつ、マルコを呼べばナース達も同じような状態だと分かりナミにそれを伝える。するとナミは気を取り直したのか、自分からマルコの元へ行き共に調べ始めた。
その様子に本当に似合うなと思いつつそれを手伝っていたら、この海域で発生する霧に包まれるとそれから数日間動物の耳と尾が生える事が分かった。体調等に悪影響はないとの事で、ナミ本人も含めて皆が肩から力を抜く。
「……ナミ、そう言えばだが、イベントを明日にでもやろうって事になってる。少し打合せ手伝って貰えるかよぃ?」
「本当に進めてたのね。分かった。私も参加したいし、協力するわ」
マルコの言葉に頷いたナミは、真剣な顔でそれに対応して、俺はそんな2人を眺めてるばかり。……ナミは、俺の新妻ってやつだと思うのにな……。
「エース?」
「ナミは、俺のなのに……」
「……妬いてる?」
不思議そうに首を傾げたナミに、俺はクワッと牙をむく。それを受けて尚、ナミは優しく微笑むばかりなんだけどよ。
「当たり前だろ!ナミは俺の奥さんなんだぞ!!」
「エース、可愛い……」
そう言って俺を撫で回すナミに、いつになったらこの母親とか姉とかの立ち位置から俺の妻である認識を強めてくれるんだろうと本気で思う。まァ、ベッドでは普通に俺の女だから、まだいいけどさ。
結局ナミも交えての話合いが行われて、その後ナミの発案でエッグレースってのをやる事になった。卵をスプーンに乗せたまま落とさずに走り抜けて行く、バトンの代わりにスプーンに乗った卵を託して行くと言うものだ。
各隊から10人ずつ選出してタイムを競い、1位のチームには2日間のお休みが貰えると言う。2位のチームには1日の休み。
そして最下位のチームにその2チームのやるべきだった仕事が割り振られるので仕事量が増すらしい。勿論四番隊は休まれても困るし、仕事が増えたら過労で倒れるのでそうはいかないらしいが。
「四番隊は優勝したらお小遣いで、最下位になったら繰り下げ最下位のチームの人達にだけデザートを追加で用意するのはどう?」
四番隊はいつも忙しいばかりで、イベントに参加するのが難しい。だからと思って言葉を口にしただろうナミにマルコは頷く。
こんな時本当にナミは他人の事はよく見てるんだよなと思うのだ。そんな事を考えていたら、ナミが俺を見て笑った。
不安になんて思う必要は無いとでも言うかのように。それにより肩から力を抜くと、マルコとナミの会話を冷静に聞いていられるようになった。
「そのくらいならありかもなぃ。ナミは今回エースの隊って事でいいかねぃ?」
「いい加減正式な私の隊を決めて欲しいんだけど……。まぁいいわ。……エース、頑張ってね」
普段ナミはマルコの隊というか、マルコの補佐なんだけど、こういう時はマルコとナミが揃って休まれた時困るのと、俺が休みでナミが仕事ってなると面倒なんだと言われた。結果論俺には問題無いからいいけどな。
そうして迎えた当日。始まったエッグレースは早く走りすぎて卵が吹き飛ばされたり、スプーンを受け渡す時にスプーンを折ったりしたチームが続出してナミが妙な顔になった。
「エッグレースって、こんなふうになるもの?卵を落とさないように気をつけて、不格好になって走るイメージだったのに」
「筋肉量が常人とは違うから、走った事で軸がとか、そういう心配もないのか理由でそれは大丈夫なんだろうと思うぜ?ただ、卵が軽すぎてカーブで飛ぶな……」
「剃とか使ってないのに、目で追うのがキリギリスの動きとか……皆、人間辞めてるとしか思えないわ」
それ、ナミには誰も言われたくねェと思うぞ。お手本として走った時のナミの軽やかな動きとか、卵が張り付いてんじゃねェかって状態を思い出して身震いする。
これでもみんなで練習した成果だってのに。ナミがお手本でやったのは知識でしか知らなかったから初体験よなんて言ってたのを思い出せば溜息位出る。
Happy Easter……。卵を海に落として、それを拾ってまた走るなんてやるから皆時間ばかりかかるそのゲームは、それでも暖かな笑いに包まれる。
愛しい兎との休日めざして走るエースに、だが、兄達も容赦はしない。谺響する笑い声に、今日もモビーは平和だと、兎は満足そうに微笑んでいた。