私は恐らく、分岐点での選択を間違えたのだろう。ルフィが標的とされない為に、そうなった時に守れるように傍に居たいと願った私は、その理由の1つに航海士も測量士も、そして操舵手もいない事をあげた。
エースはそんな私の主張を受けて、根本的な所を……ティーチを叩くべきだと主張して、ティーチ討伐に向かってしまった。悪魔の実の能力が無いのであれば、エースが負ける事も可能性としては低いと考えた私は、反応が少し遅れてしまって……。
気付いた時にはもう、エースは遠く離れていたのだ。それが大きな間違いだったと知るのは、それから間もなくの事。
マルコは状況を伝える為に1度モビーへと帰り、私はチョッパーと同時加入扱いでルフィと共に先へと進んだ。けれどもそれは、シャボンディ諸島に到着する迄との話で纏まった。
スリラーバークを抜けた直後に入った新聞でのその情報により、私はエースを取り戻すと決めたから。だからと言ってルフィを海の真ん中で放置は出来ないので、ちゃんとシャボンディ諸島までは連れて行ったし、その時ハチにも会ったけどね。
状況連絡を入れた私に親父様は、折角離れているから……と戦争に連れていかない為に乗せない事を決めたらしい。そんな親父様と電伝虫を通じて大喧嘩して、折れない親父様にもう知らない!と言った私はそのまま海兵に化けて、マリンフォードへの侵入を成功させた。
戦争の時は将校以下は出て行くようにとの通達がなされ、私はけれど備品整理等を理由に残らせて貰えないかとおつるさんに掛け合う。好きな人がこの場に残るから、離れたくないのだと訴えた形だ。
そのやり取りを聞いていたらしいヒナが、戦場に出ないなら残らせてあげましょうよと言ってくれて、私は内部に残る事を条件にその場に居る事を許された。海楼石の手錠で、その戦争により使われる為に持ち出されたそれと合う鍵を手にして、私は戦場へと飛び出すタイミングを見計らう。
中から表を見ていても、誰も怪しみはしないのだから、良い理由付けになったものよね。……エース、必ず、助けるから。
その時処刑人の1人を襲い、入れ替わろうとしてる人物に気付いた私は協力を申し出て、二人に睡眠薬入のクッキーと紅茶を差し出した。それにより眠った二人から私とミスター3が衣服を奪い、化けてエースの元へと向かう。
己を責めるエースと、傷付き倒れる家族を見て……泣かないで居るだけで私には精一杯。その横で、海兵に扮したミスター3は無表情を貫いている。
……見習わなきゃ。そう思ったけど、エースの言葉を聞いては冷静で居られない。
エースは、歪んでなんかいないよ。大切な人が怒ってくれる事、泣いてくれる事は……何よりも有難いし嬉しい事だから。
存在しても構わない……そんな程度ではならない状態なの。存在して欲しいと、強く想われてる証拠なんだもの。
泣きそうなって、でも……ここでバレる訳にはいかない。そう思った時、エースがガープさんを見た時に私の方を見ていて……気付かれた。
そして、エースの表情から何かを感じ取ったらしいガープさんがその瞳を静かに閉ざして、何かを考え込み始める。その時間は恐ろしく長く感じられたけど、恐らくそれ程長い時間じゃなかったんだろう。
「センゴク」
「ん?」
「連れションに付き合え」
「何言っとる!?」
「少し、話しておきたいこともある。付き合え」
暫しの沈黙の後で、2人は私達に逃がすなよと言って降りていく。私とミスター3はその与えて貰えた時間でエースの海楼石の手錠を外して、その能力を使えるように解放する。
それにエースが気付かない筈も無く、ミスター3と私が手を叩き合い喜んだ瞬間、エースは私を即座に強く抱き締めると、そのまま叫んだ。全てを受け入れると言ったエースは、その言葉の通りに……。
「今、ナミ連れて帰るからよ!皆、無事に生き延びてくれ!!」
そして処刑台から飛び降りるエースに、三人の大将が同時に反応したけど……他の海兵も反応したけど、これ程大きく話の流れを変えた以上、私にもこの先が読めない。ただ……今、エースは生きている。
「……っ!エース!」
「ナミはよ、いつもいつも、俺が絡むと……無茶ばっかしやがって……!!そんで、助けるだけ助けて、いつも力尽きちまうんだからよ!!」
「エース……!!」
「ここからは、俺がナミを守るから……抱き着いてろ。帰ろう、親父達が、待ってる」
「うんっ!!」
エースを狙う沢山の海兵達。けどその大半を、隊長を任されてるだけあってエースは余裕さえ見せながら片付けて進む。
駆けていく中で、家族と合流するエースは途中ルフィも拾って駆け抜けて行く。その途中、親父様の声が谺響した。
「……この……馬鹿娘がァァァ!!1人で乗り込んでるとは、どういう了見だァァ!!」
「親父様……」
その声に反応した私だけど、それと同時に恐らくは最後の別れを惜しむ時間として気を利かせてくれただろうガープさんが親父様に突進して行く。怒りと憎しみを隠しもしないままに。
「儂の孫達をよくもー!!」
「……その理屈だと、お前が俺の親になっちまうな。エースは俺の……可愛い息子だぜ?」
そう言って笑う親父様を見て、私がそちらへ向かおうとするとエースもそれに気付いて駆け出してくれた。でもその次の瞬間、親父様の姿が消える。
目標を見失ったガープさんの拳が大地を割り、辺りを見ればモビーに帰ってる親父様が見えた。まさか……?
挑発して来る赤犬の声が響いたと思った直後、エースが反応して振り向いた時、今度は私とエースの視界も歪み、気が付けばモビーの上に帰っていた。そう、まだ、モビーは燃やされていないのだ。
「どう言う、事?」
「分からねェ」
でも、とりあえず挑発されて死へと向かう予定だったエースが帰って来た事で、皆も無事に帰って来てくれる。マルコがルフィを抱えて走って来てくれているのが見えた。
本当に全員無事なのが確認出来れば、運命をここまで変えて大丈夫なのかと不安が微かに脳裏を掠めてしまう。でも、そもそも親父様の病気は治ってるのだから、それはそれで……。
「ナミ」
突然聞こえた声に振り向けば、私達がモビーに帰り着いた理由が分かった。エースから手を離してそちらを見れば、疲れたような不機嫌そうな、微妙な顔したローちゃんが立っている。
勿論初対面の筈だけど……幼い頃に夢で見ていたから、何となく既視感が拭えないのだ。可愛く、思えてしまう。
「ローちゃん……」
「ナミ、無事で良かった」
「どうして……?」
助けてくれたの?
本来は、ルフィの事を助けてくれただけの筈……。でもそれは、白髭を陥れようとする海軍が気に入らないのと、同じDを持つ者を信じてみたかったからだと思ってたのに。
「今のナミは知らねェんだろうが……俺はナミに命を救われて、今この場に生きている。大切な人も喪わずに済んだ。……今度は、俺の番だってだけだ」
「ありがとう……なら、あの雪の夢は……現実だったのね」
「……仮説でしか無いが、ナミが選ばなかった別な道の先で、俺達を助けたんだろう。そういう事が可能ならば、俺が……ナミを手に入れたかったがな」
「あら、お上手ね」
まさか女の子を口説くスキルまで持ってるとは。元々顔が良いって事で人気あったのに、これじゃぁ女の子達が放置しない訳よね。
元々育ちの良い子だから、変な事しないし、本当に立派になったわね。関わりなんてないのに、何だか誇らしい。
そう思って笑った時、エースが私とローちゃんの間に立ち、私をその背に隠してしまう。どうしたのかな?
「初めまして。助けてくれてありがとな!!俺はナミの旦那で、ポートガス・D・エース!お前は?」
「トラファルガー・ロー」
「あ、私もちゃんと名乗ってなかったわね。私、ポートガス・D・ナミです」
エースの横から顔を出して言ったら、エースに頭を押さえつけられてしまったけど。そんな私とエースを見ていたローちゃんが、少しばかり驚いたような顔をしている。
「本当に選んだ道が違うんだな。俺の知ってるナミは〝ルフィと恋人〟だった」
その瞬間、エースの動きが止まり、そして言った。詳しく聞かせてくれと。
エースはこれで本当に心が狭い。特に、私に関わるエース以外の男の話になると。
……困ったわ、どうしましょう。そう思って項垂れた時、ローちゃんが言った。
「いや、俺も1度ここを離れる。次に何処かで会えたら……その時にでも話そう」
ローちゃんはそこで言葉を切ると、エースから私に視線を移して……でも、エースに向けて言う。本当に、皆からの評価がおかしい気がするわ。
「……ナミを、頼んだ。無茶ばっかして、勝手に死のうとして……そのくせ大丈夫って嘘ついて笑いやがるから、心配なんだ」
「よく分かる。なら、名残惜しいがまたな!」
そうして私達は帰って来た家族と、ルフィとを伴い海軍からエース奪還後逃げ切った。勿論この戦争での戦死者や負傷者は沢山居たけど……1人でティーチを仕留めようと頑張った結果、売られてしまったエースを取り戻す為のそれは、家族としては当然やるべき事である。
どうしたって欠けてしまった人達も多いけど、それでも大半は生きている。また、多くの家族が揃って笑い合えているのだ。
ローちゃんが去って、海軍から逃げ切り、シャンクスが墓を作る手伝いをしてくれて……。親父様は、その島をどうして知ってるのかと唸りながらも受け入れてくれた。
本来ならば、親父様とエースが弔われる筈だったその場所に……今回の戦争で散った家族が、眠る事となった。その際、親父様が隠してるつもりの事を皆が知ってたと知らされた親父様が、珍しく動揺していて可愛かった事をここに残しておきたい。
「さて……馬鹿娘」
「何よ、頑固親父……」
「……エース解放の為とは言え、よくもまァこんな危険な事しやがって……」
「運命は変えられた。この後私に何が起きても構わないって覚悟でやったの。……私、大切な人は、もう二度と何も出来ないままに喪うなんてしたくない」
「心配、かけやがって……」
声が、出せない。親父様が、心で泣いてるのがわかってしまったから。
「…………悪かった。ナミ、お帰り」
「……っ!ただいま、帰りました……パパ!」
そう言って親父様に抱き着くと、親父様が永遠に勝てないとか呟きながら抱きとめてくれた。大きく変わった運命の先、誰も知らない未来が待っている。
波間の向こうを目指して……大切な人達と進む未来は、きっと幸福に満ちているだろう。そう信じられる位に、私は幸福を満喫している。