ギシギシとベッドが軋む音が響く。私はただ、声を押し殺してエースにしがみつく事しか出来ない。
それでもエースはその腰の動きを緩める事はなく、縋るように視線を向けると何故かその熱塊を膨張させる。私はそんなエースを、それでも押し退ける事さえ出来はしないのだ。
「っ……!!ふっ……ぅ……」
「いつまで、耐えられるか……なっ!!」
「んんんっ!!」
今、この部屋のソファでは、エースの女版がスヨスヨと眠っている。何が起きてるのかを思い返せば、昨日の昼過ぎに時を遡らなくてはならない。
いつものように私は海図を描いたり、書類を纏めたりしていて、そんな私にマルコが書類を確認しに来ながらそのついでにと、食事を提供してくれたのが始まりだったと思う。
「ナミ、少しは休めよぃ。戦争の後殆ど休んでねェだろぃ」
「それは皆同じ事でしょ」
「だが、エースがそろそろ限界だろうからねぃ……。突然襲いかかられても知らねェよぃ?」
その言葉に思い当たる事はある。戦争の後、怪我の治療期間を終えても、触れられるのを私がやんわりとだけど拒んでるのだ。
エースに戦場で言った言葉とか、親父様に泣かれた事とかを思い出すと……何も無くても胸が苦しくなる。顔が急激に熱を持って、不安に陥るのだ。
「……だって、なんか、色々あり過ぎて、気恥しいのよ。だから、つい、逃げちゃって……」
「奥手で初心な妻を持つと大変なもんだねぃ……。まァ明日から三日は二人揃って休みにしてお」
そこまでマルコが言った時、甲板から怒号と歓声が聞こえて来て顔を見合わせる。何事かと飛び出した私とマルコは、その場にいたエース女版に呼吸が止まりそうになった。
刺青がもしも彼女にあったのならば、ホルホルの能力で性別を変えられた事を疑うしかない位に、良く似ている。でも、エースに姉妹は居ない筈だわ。
「だからっ!私はあんたの従姉妹よ!!アンタの母親と私の母親が姉妹なの!」
「俺に血の繋がった親族がいる訳ねェ!」
「見てみなさいよ!こんなに似てる他人って……その方が可笑しいでしょ!?」
言われればぐうの音も出ない程に良く似ている。彼女は、エースと双子だと言われてもきっと殆どの人が納得してしまうだろう。
けど、突然現れた存在に、エースは冷静ではなくなる。エースはその声を明らかにお腹から出していた。
「なら、何で今まで姿見せなかったんだよ!!」
「新聞でアンタの処刑が報じられるまで、私アンタの事知らなかったし、母さんも知らなかったのよ!海賊王の子供宿してるなんて、叔母さんも言えなかったんじゃないの?んで、エースって恋人はいるの?」
「は?……恋人はいねェけど?」
エースは問われたそれに首を傾げて、素直に言葉を返す。そう、エースに恋人はいない。
私は妻だし、違うとしたら姉になる。つまり恋人では無いのだ。
私が納得して頷くと、隣でマルコが胡乱な眼差しを向けて来たけど、意味が分からない。その上でエースを見て、あーあ……なんてよく分からない声を出している。
「そっか……!なら、暫く宜しくね!」
「はァ!?」
「アンタが私の乗って来た船壊したから、帰れないんじゃない!!親族なんだから持て成しなさいよ!!」
そんな会話が聞こえて来て、私はマルコに視線を向ける。するとマルコは親父様の方へと歩いて行ったので、後は親父様の判断次第かなと小さく笑った。
「あ!ナミ!見てたなら助けろよ!!」
「エース、従姉妹なんていたのね」
「のほほんとしてる場合か!?」
エースと似てて可愛いじゃない。そう思って笑ったら、エース女版は私を訝しげに見て来た。
「誰、あんた?仲間?」
「……新聞を見たのなら、エースに血の繋がらない義兄弟がいるのはご存知でしょう?その内の1人ですよ。愚弟がお騒がせしました」
私の言葉にエース女版は言葉を失い立ち尽くす。それと引き換えに何かを言おうとしたらしいエースに視線を向けて、先に口を開いた。
「……エース、部屋に案内してあげなさい。今、飲み物持って行くから、ゆっくり、落ち着いて、話をした方がいいわ」
「っ!……でもよ……」
言葉を飲み込み、それからしょんぼりとした様子で、嫌そうな顔で言うそれに困ってしまう。本当にこの子は……。
私よりもずっと大きいのに、なんだか妙に小さく見える。こんな時、エースは長い事弟だったんだと思い出す。
今は愛しい旦那様だけど、こんな姿を見てしまうと弟としての感覚が強くなってしまうの。だからそっとその頭を撫でようとして……届かなくて頬に触れるに留めた。
「海賊王の方じゃなくて、恩をずっと感じてたお義母さんの方の血縁なら……話くらいしておいた方が良いわ。エースがどうしても嫌なら、私が立ち会うとか何かするから……ね?」
「……ナミが正しいのも、分かってるけどよ。なんか、落ち着かねェ」
「大丈夫よ。動揺するのが当然だと思うから、気にしないで……。何か飲みたいものある?」
「「酒!!」」
揃った声に、私は少し笑ってしまう。本当に、双子だと言われても納得してしまいそうな程に良く似てるわ。
これなら味覚も近いかなと、頷いて二人を見送った。これにより甲板に集まっていた人達は散っていき、私はサッチに軽食とお酒を頼む。
「それさ、アイツらコッチに呼んだ方が良いって。部屋に置いといたら、ナミの書類駄目にされる気がする」
「でも、待ってるようにって言っちゃったわ」
「仕方ねェな。よし、俺様が迎えに行ってやろう!」
そう言ってサッチが料理を他の人に任せて着いて来てくれて、二人を部屋まで迎えに行けば何故か大喧嘩になっていた。それによりサッチが、な?と言ってウインクするのでそれに頷いたけど、その直後突然サッチに腰を引かれる形で抱き締められる。
驚いた私のすぐ側を花瓶が通り過ぎて、どうやら庇われたらしいと気付いた直後、エースの視線が私を貫いた。怒りに燃えるそれに首を傾げた直後、私から離れたサッチがエース達を殴り部屋から引きずり出して行ったのを見送る。
そしてその後話し合いの結果、3日程エースの従姉妹さんと共に生活する事になり、私は部屋を開け渡そうと荷物を纏め始める。とりあえず、ナースの部屋に空きのベッドがあった筈だと思って居たけど、荷物を手に部屋を出ようとした所でエースに捕まった。
「どこ行くんだよ」
「エースの部屋で彼女が過ごすなら、どうしたって狭くなるだろうし、家族の語らいを邪魔できないかなと思って」
「……ナミは、俺の1番近い家族の筈だろ」
「そうだけど、三日しか1緒に居られないなら、従姉妹さんを優先しないとま」
不味いでしょの所は、その唇に吸収された。そのまま深くなる口付けに、私は酔わされてしまう。
エースのこの熱が、真っ直ぐな想いが、私を包んでいると実感できるのが大きい。愛しいと心から思って、でも……と従姉妹さんを思い浮かべた瞬間エースが唇を離した。
「……今、俺以外の事考えたろ」
「エース……」
「最近、俺を拒むし……サッチに腰抱かれてるし……俺の事、捨てるのか?」
「そんな訳無いじゃない!」
間髪入れず叫ぶように言った私に、エースはなのに悲しそうにその顔を歪ませる。不安なのだと、その瞳が揺れるから……それが悲しい。
どうしたら信じてくれるの。どうしたら、エースを誰よりも大切に想ってるとわかって貰えるんだろう。
「本当に?」
「私、エースが大切で愛しいのよ!お願い、疑わないで……私、エースに疑われたらどうしていいかわかんない」
泣きそうになって言えば、エースが何故か呻いた。そして、卑怯者と突然意味のわからない罵りをして来る。
そんなエースをそっと抱き締めて、縋るように言葉を口にすればエースの身体が大袈裟に震えた。だけど、本気なんだもん。
「エース……嫌わないで……」
「……っ!今夜、覚悟しとけよっ!!」
「今夜、従姉妹さん居るんじゃ……?」
「酒で寝かせる。だから気にすんな」
「気になるわよ!!」
そうして夜本当に酒で寝かせた後、ソファでスヨスヨと寝てる従姉妹さんの傍で、こうして抱かれている訳である。だって、抵抗しようとすると、やっぱりもう俺はいらないのかなんて寂しそうに言われるんだもん!!
「んっ……えー、す……」
「ナミ、俺は見られても良いから……声聞かせろよ」
「やっ……!んぅ……んっ!!」
「強情……」
そう言ってエースは腰を奮う。私はそれにより、出したくもない喘ぎを耐えるので必死である。
もう空も白んで来ていて、それこそいつ従姉妹さんが目覚めてもおかしくは無い。エースは容赦無く腰を奮うし、胸も楽しそうに揉みしだくのだから堪らない。
何度ももう許してと言ってるのに、エースは暫くできてなかったんだからもう少し付き合え……とそればかりを繰り返すのだ。それに愚かにも頷いてしまう私は、きっとマルコ達に知られれば〝甘い!〟と叱られる案件だろう。
でも、エースが望んでくれるなら、私はそれに応えたい。エースに触れられる事も、望まれる事も、恥ずかしいし苦しいけど……嫌では無いのだから。
「エース……二人きりで、続きは、お願ぃ……」
「……っ!あと少し、付き合えって」
「みられ、たくな……ぃ」
私にも、耐え難いものはあるのよ。なのに、どうしてわかってくれないの……?
ぎゅっとエースに抱きつけば、エースはその動きを止めて頭を撫でてくれる。エースだって、私を虐めて楽しんでる訳じゃない……つもりなんだと思う。
「ナミ……」
「エースの、こんなかお、ほかの誰にも、知られたくないの……」
撫でられてる事が嬉しくて、へにゃりと笑って言えば、中にいるエースが膨張した。なんで!?と思ってもエースは悪いと呟いて、でもその動きを止めてはくれない。
敏感過ぎる身体を呪っても、その刺激を与えて来る相手を憎めないのは甘さなのか。手加減してと願えば願う程、激しくなるその動きに泣きたくなる。
結果として、泣きそうな顔で必死に声を漏らすまいと耐えるナミの表情はあまりに悩まし過ぎて、エースの加虐心を煽るだけなのだが、当人に理解しろというのが無理な話だろう。腰の動きをそのままに、指先で胸の突起を数回こねたと思ったら、もう片方の突起に舌を絡ませ、硬くなってる感触を味わうように思うまま吸い付くエースにナミはその身をしならせる。
「ひっ……やあああ!!」
ついにナミの口から漏れた嬌声に、エースは満足気にほくそ笑む。それでもそれを続ける当たり、まだまだいじめ足りないらしい。
その上何とも嬉しそうに笑う事で、ナミの反論や抵抗を抑え込む。そうしてエースは、そっとナミの耳元に唇を寄せた。
「歓喜の悲鳴で、起こしちまいそうだな」
「あ……はあっ……!!」
言わないで……。その言葉の代わりにエースの髪に指を絡めれば、エースは1度急に腰を引いて行く。
その瞬間に私の意志とは関係無しに、次の動きを予見した身体が本能的に逃げをうつ。それを力で押さえ込み、エースは肉の隘路を引き裂かんばかりの勢いで、灼熱の塊を一気に再奥まで突き入れた。
「きゃ……あぁぁぁぁ!?」
余りの衝撃に抑えようなんて余裕も無く、白い喉を悲鳴に震わせる。必死に逃れようと抗うものの、すぐに引き戻されてしまう。
そうして打ち込まれる楔は、更なる強烈な快感を生み出して行く。身悶える度に、内壁が収縮し、埋め込まれたモノを締め付ける。
エースはもう狂ったように腰を振り続けていて、その度に絶え間なく齎される振動に1晩中それを咥えこんで潤みきっている粘膜が淫猥な音を立てる。夢中で首を振り回し、イヤイヤと伝えるけど、身体はもう逃れる事など忘れたかのように、よがり悶えていた。
これはSEXなのか、拷問なのか。拷問だとしたら、あまりにも甘美過ぎる。
あぁ……もっと、もっと奥まで掻き回して。言葉にはしなくとも、伝えてしまいそうな表情になっているのだろう。
エースが本当に嬉しそうに、笑ったのが分かる。異常な陶酔の中、私はただエースの熱しか感じられなくなる。
今部屋に他に人がいる事も、どうして声を抑えなければいけないかも含めて、意識から飛び去る。胸に湧き上がる愛しさに、目が眩む。
「ナミ……俺のものだ。兄貴だろうが、親父だろうが、触れさせてたまるかっ!永遠に、俺のものだ……!!」
愛する相手から、これ程情熱的に誰にも渡したくないと、自分だけのものにしておきたいと、強く、激しく願われて、悦ばない女が居るだろうか。辺りの静寂が喧騒に変わる頃になっても、抑えられなくなった嬌声が絶える事はない。
響く荒い息がどちらのものか等、当人達にさえ分かりはしない。飢え渇いた獣のように、エースは私の身体を貪り続けた。
そうして深く沈んだ意識の底で、何となく聞こえて来た気がする会話。それは本当に近くでされていたのかも、定かではない。
「折角揃って三日休みにしてやったのに、寝込ませておく気かよぃ!?」
「だってよ、ナミが可愛くて加減が……」
「コッチには何した?」
「ナミが飲んでる睡眠薬、酒に混ぜて飲ませた」
「馬鹿か!?んな事したら下手したら死ぬぞ!!頭を冷やすまでナミにもこの子にも近付くなぃ!!」
意識が戻った時、既にエースの従姉妹さんの姿は無くて、綺麗に整えられた身体は不快感を感じる事も無い。でも、ここって医務室じゃ無くて、マルコの部屋……よね?
「起きたかよぃ?」
「マルコ」
「エースが暴走したろぃ?小出しにさせとけ。今日はここで休んでればいい。対処はしてやるから、今日は寝て体力戻しとけ」
そう言って笑ったマルコが、私の頭を撫でてからドアの向こうに怒鳴る。それによりドアの前で情けない声を響かせるエースがいた事の他は、何も変わらない日常が待っていた。
その後エースに〝恋人〟は居ないけど〝妻〟が居ると知った従姉妹さんが怒り狂い、船を弁償させられたエースを蹴って去って行ったらしい事を知る。けれども私もエースも、その従姉妹さんが現れた目的も正体も、何も知らないままであった。