海賊と言う職業柄寝ない事も多い俺達だが、寝る日としたらいつもより遅い時間にベッドへと入ったと言うのに……どうしてナミは今俺の腕から抜け出しているのだろう。それ程体温が高い訳でもないのに、居なくなると物凄く寒く感じるのは俺がナミに依存しているからだろうか。
1人で部屋を出て行ったその小さな身体を追い掛けるようにして、俺はベッドから出てみる。夜明け前だからこその冷え込みに、俺でさえ身体がぶるりと震えた。
天候に何かあったのならば、力仕事と言う意味と皆を起こす要員として俺を起こす筈だ。だとしたら、ナミが部屋を出た理由は何だろうか。
そんな事を考えながら部屋を出れば、うっすらと明るさを示し出して海と空に境界線ができるところだった。思わず見惚れるようにそれを見ていたら、それを同じように見詰めていたナミが、呟くように言葉を口にする。
「あけましておめでとう。今年も1年、平和でありますように」
「ナミ」
ある意味で恐ろしくナミらしい言葉であり、妙に儚いそれを聞いていられなくて、咄嗟に名を呼べば振り向く身体。そのまま情けない顔をしたナミが、俺に手を伸ばすからそっと抱き締める。
すると寒かった……と小さく震えるから、暖めてやりたいと思う。だけど、燃やしちまう訳にもいかねェからな。
案じる言葉を紡ぐ俺に、ナミは身体を震わせながらじっとしている。燃やさない程度に、火傷させない程度に俺の体温を上げて暖めてやれば、少しずつおさまる震え。
良かったと思った直後、ナミから向けられたのは作り笑顔で……。そんな顔させたくなくて、強制的に連れ戻した部屋の中、それまで抵抗も何もしなかったナミが小さく笑う。
その笑顔は作り物なんかじゃなくて、だからこそ不思議に思って首を傾げればナミの瞳が悪戯に輝く。そして音も無く紡がれた言葉は、勘でしかないけどきっと〝ナイショ〟だろう。
だから俺はナミに、抱き締めると言う形でお仕置きを返す。そうしてみれば、ナミの震えは完全に落ち着いていて、幸せそうに笑うナミに俺の心が温かくなる。
「もう、寒くないか」
「うん、ありがとう」
信頼と愛情の滲む眼差しを向けられて、自分の顔が能力じゃないもので熱くなるのを感じれば、見られたくなくて抱き締める力が強まっちまう。なのにナミは愛しそうに俺の腕に手を添えるから、俺は暫くナミを腕の中から離してやる事が出来なかった。
そうしていつまでもナミを抱き締めていたら、ドアを叩く音が聞こえて返事を返す。すると迷い無くドアを開けたのは、少し疲れた顔をしたサッチだった。
「そろそろ飯だってのに出て来ないから、呼びに来たんだが……結婚してんのに、まだエースはひっつき虫してんのかよ」
「ナミが可愛すぎて腕が離れねェ」
「エースが可愛くて、逃げる気にならないのよ」
「確かにナミは可愛いが、飯だから離してやれよ。それと、ナミはエースを甘やかし過ぎないようにな」
その言葉にナミがビクリと身体を揺らして、小さくはぁいと返事をした。それにより渋々ナミを解放すれば、着替えてから行くわねと言われて俺はサッチと共に先に部屋を出る。
そして親父の待つ甲板に到着すれば、マルコから樽ジョッキを投げ渡された。それと同時に親父の声が谺響する。
「だいたい揃ったな。……グララララララ!あけましておめでとう、今年も兄弟仲良く過ごしやがれ!!」
親父の言葉に皆が大騒ぎすれば、それを遮るように親父から乾杯との声が轟く。そうして始まった最初の宴は、開始して少しすると何人かが舞台の設置を始めるから、何をやるんだろうと皆が興味を示す。
隊長の1人である筈の俺も話は何も聞いてなくて、何が行われるのか全く持って不明だ。だから思わず親父を見上げれば、軽く手招きされてそれに従う。
「折角だ、膝にでも乗るか」
「えっ!?折角ってなんだよ!?」
「グララララララ!!エースは今日だが、他にも1月が誕生日の奴等全員を祝う為の舞台だ。好きに楽しめ。……エース、おめでとう。お前が産まれて、俺の息子になってくれて、俺ァ……嬉しいぜ?」
優しく細められたその瞳を見て、顔が熱を持つ。助けを求めるように視線を動かせば、舞台の幕が上がる所だったので誤魔化すようにそれに視線を向けた。
そこに現れたのはナミだった。1人で舞いながら舞台の上で、時には暗転したその隙に衣装を変えて舞う。
華やかで、楽しいそれが俺の為だと言われても現実感が無い。衣装が変わる度に動きや表情迄変えるから、器用だなと素直に思う。
他にも誰かが舞台に上がったのを視界には捉えているのに、誰なのかとか、その他にも多くの事が理解出来ないでいる。美しい娘から、男物の姿へと変わるナミに完全なる観客と化した兄弟が大騒ぎしてるのさえ、右から左へと流れていっちまう。
時間の経過さえわからなくなる程にナミをただ見詰めていれば、横からイゾウが解説してくれる。今ナミが舞っているのは変化舞踊と呼ばれる物で、藤娘・鷹匠・座頭・船頭・鬼の5役を1人で演じ分けて居るらしい。
「綺麗、だな……」
「おいおい、ビスタ達も出てんのにナミしか見ないのはどうなんだよ」
そうは言われても、俺の視線はナミから離れようとしない。ふとした仕草が、恐ろしく色っぽくて……皆に見せんなと騒ぎたいのにそれすらできない程に、俺はナミに魅入られている。
舞台の幕が降りると、大歓声が響く。拍手が鳴り止まずに、けどそこで漸く動けるようになった俺は舞台袖に居るだろうナミを求めて駆け出していた。
その僅かな距離が恐ろしく遠い。移動する自分の足が、もどかしく苛立たしい程に遅く感じる。
「ナミ!!」
「エース、どうし」
言葉を最後まで言わせる事無く、力一杯に抱き締めれば苦しそうに息を吐くナミ。なのに、抵抗もしないとか、その内俺に折られるぞ?
そう思っても口に出せないから、代わりの言葉を考えて、結局別な本音を口にしていた。嫉妬……してたんだろうと思う。
「ナミ、あんな色っぽい姿、皆に見せてんじゃねェよ……」
「……本気で意味が分からないんだけど?」
本気でそう思ってるのだろう。戸惑いと呆れが、全身から俺へと向けられている。
自分の容姿とか諸々に色々と無自覚なナミが心配で、俺は明け方と同じようにひっつき虫に戻っちまう。それをナミはクスクスと笑いながら、突然背伸びをしたと思ったら首に腕を回して来る。
そのままの勢いで頬に口付けをされれば、呪われてる筈の今日という日が愛しく感じちまう。きっと、今年はいい年になるだろうと思って笑った時、ナミを呼ぶ声が聞こえて行かせるかと腕に力を込めた。
「ナミに、やっておいて欲しい書類があるんだがねぃ?」
「駄目だ!!今日は元日だぞ!?仕事させてたまるか!」
「こだわるねぃ」
「一年の計は元旦にありって言うんだろ!?今年もナミが働き詰めになったら、どうしてくれるんだ!!」
騒ぐ俺にマルコはケラケラと笑うが、笑い事じゃない。ナミの場合普段から働きすぎなんだよ。
まァ、それはマルコにも言える事だけどよ。だからって、認める訳にはいかねェ。
「あ、ナミ!!ボタン取れちゃったから直して欲しいんだけど」
「ハルタまで!?皆して俺の妻を当然のように使うなよ!!」
ギャーギャーと騒ぐ俺の腕の中、ナミは困ったように笑うばかり。いつの間にか舞台袖には大切な家族が集まって来ていた。
そうして俺は、大切な人達に囲まれながら、Happy new year!!と言葉を紡ぐ。愛しい女を他の誰にも触れさせない為に強く抱き締めている。