俺が自分の想いを認めるのに時間がかかったからか、それともナミが鈍いからか、兄妹以上恋人未満な俺達は同室で呑気に共に過ごして来た。愛しいと伝える事はこんなにも難しい事だっただろうか?
同室になり2年、ナミも16歳になったのに何故か恋愛と言う概念を持ち合わせて居ないように見える。恋愛脳な女も世の中には多いのに、寧ろ恋人が居ない期間とか耐えられないなんて女もいるのに、何故だ……。
そう思いながら部屋に帰れば、変な物がある。……いやな、俺じゃなけりゃ騙されたと思うんだが、ナミの匂いがねェし、ペンが動いてねェ。
窓を開けて空気圧を変えてやれば掻き消える幻。残されたのはナミの大切な武器1つ。
……待てや、これがあるって事はナミほぼ武器無しと同じじゃねェか!?
短剣は人を傷付けられないナミでは武器として見なせねェし……他は武器と呼ぶのは烏滸がましい。直ぐに連れ帰らねェと……!
慌てて飛び出した俺は、ナミの行きたいと言っていた島に向かう。その島は確かに俺も興味はあった。
だが、危険なんだよ!人も商品として看做す島なんだからよ。
色々な意味で〝商品〟の質を追求する島だから、だからナミを連れて行きたくなかったんだ。なのに、1人で行くなんて何考えて……!
島に到着するとナミの船を見付けてしまい、慌てて陸に降りて駆け出す。無事で居ろよと願いながら。
その時ふと横を通り過ぎた、お嬢様風の女の子に視線を奪われる。背格好はナミと近いが、歩き方や雰囲気、見た目や顔は明らかに別人だ。
なのに……視線が離れようとしない。穏やかな微笑みを浮かべて果物を吟味している姿は、お料理初挑戦を考えてる無垢なお嬢様にしか見えねェが……お前、ナミだな。
思わず声をかけそうになり、それを根性で抑え込む。だってよ……ナミが笑ってる。
「これも買うから少し圧縮して下さらない?」
「商売あがったりだよ、んな事したら」
「まぁ、ケチね。……こっちも買うから、この位でどうかしら?」
「分かった!畜生、可愛い顔してえげつないな……」
「ふふっありがとう!」
そんなやり取りの中で、ナミは楽しそうに果物を手の中で転がしてから袋に入れて行く。そのまま次の店へと移動する姿を見送り、何を買っていたのか見れば無駄に品質のいい果物を幾つか買っていたのだと分かる。
……何をするつもりなのか。船にも果物はあるが、それだとダメだったのだろうか。
冷やかすだけというのも悪い気がして、林檎を1つ買って齧りながら後に続けば林檎が恐ろしく美味い。何だ、眉唾の噂じゃなく本当に質がいいな。
他の食材もついでに買って帰りたくなる程だが、今はナミだと思い諦める。……今度、ここに白髭海賊団として買物に来たいな。
ラッピングの店から出て来たナミを捕まえて叱りながら帰宅させれば、話を聞いてさえ居ないナミに溜息が落ちる。どれだけ心配してると思ってんだよ。
その勢いのままに部屋に閉じ込めれば、べーっとか言ってるナミがいてそろそろ本気で泣かせてやろうかと思うが、実際には出来ないだろう事も分かっている。クソ……惚れた俺の負けなんだよな……。
夜部屋に戻ればドアを開けた瞬間に、甘い匂いが鼻を直撃して1瞬足を止める。何がどうなるとこの部屋がチョコの匂いになるんだ?
「サッチ、お帰りなさい」
「只今……それより、なんだこの匂いは」
「そんなに匂う?」
「嗚呼……鼻が馬鹿になってるな。ちょっと来い。少し散歩して戻れば理解できるだろ」
「……出ても、良いの?」
キョトンとした顔で言われてしまえば、俺も少し動きを止める事になる。だがまァ、風呂にも入りたいだろうからな。
「風呂、行きたいだろ。送って行く」
「まるで罪人ね。刑務所に入ってるとトイレ入るのも付き添われるのは知ってるけど、なんか嫌だわ」
ブツクサ言いながら俺と風呂に向かうナミからは、カカオの匂いがする。その時ふと普通じゃないカカオの匂いを感じ取り、クリオロ種も扱ってたのかとあの島を思う。
……4番隊総出で買い物に行きてェな。そんな事を考えていたらナミが振り向いて、そっと俺の頬にキスをして来た。
「なっ……!?」
「お風呂入ってくるわ。待っててくれるの?」
「……おぅ……その、つもりだ」
「ふふ、なんかご褒美貰った気分。怒られるのもたまには良いものね」
そう言って去って行く後ろ姿に、俺はその場で崩れ落ちる。……卑怯だろ、なんだよその笑顔。
何より、俺と1緒に居られるのが嬉しいみたいな様子に、期待させられる。悔しいが、俺は1生ナミに勝てない気がするぜ。
風呂から戻ったナミは俺を見ると嬉しそうにその頬を綻ばせるから、手を広げてみれば当然のように飛び付いてきた。……うん、安定の兄と妹だな。
そう思いながらも細く温かなそれを強く抱きしめて、部屋まで連行と言いながら連れ帰ればナミは楽しそうに笑う。その笑顔で俺の心は随分と癒されていると自覚しつつ、部屋に帰ればナミと俺は揃ってチョコの匂いに崩れ落ちた。
……わ、忘れていた。この強烈な匂いの事を。
「やだ……これ、酷い。どれだけ麻痺してたの、私の鼻」
「理解したか、コノヤロウ。換気するぞ」
「是非……!」
そうして扇風機で匂いを追い出しつつ俺とナミは笑う。こうなってはもう、許す他無いだろう。
頭を撫でながら、心配かけるなよと言えばごめんなさいと素直に謝るから、今回だけだぞと思いながら許してやる。明日からは、またお互い忙しくなるなと笑いながら今夜もまた同じベッドで眠りに落ちた。
それから数日は、何も代わり映えのない日々が過ぎた。そして、ある日の朝……ナミが珍しく俺を起こさないよう気を付けながらベッドから降りたのを確認する。
トイレに行きたい時以外では、それは珍しい行為だからと寝たふりして様子を伺っていれば、こっそりと取り出した何かを口に入れているのが見えた。朝からオヤツかと不思議に思った直後に戻って来たナミが、俺の唇とナミの唇とを合わせてそのまま口の中に何かを押し込んで来た。
「ぅん!?」
思わず目を開けた俺に、けれどもナミは最後までそれを押し込んでから唇を離すと、動揺する俺を見てニッと悪戯に笑った。それから、何処で覚えたのかと言いたくなる程に艶やかな流し目で俺に言葉を告げる。
「サッチへのバレンタインのチョコは、それよ。感謝してよね!キッチン使えないから作るの苦労したんだから!」
「……どうやって作ったんだよ、これ」
キッチン無しで作れる筈が本来ねェだろ。そう思ってナミを見るが、特にこれは間違いなくクリオロのカカオだ。
よくあるカカオとは違い、ポリフェノールを含まないが為に苦味が無いのが特徴で、弱い品種の為に育てるのが難しく入手は中々に難しい。美味いけどよ……マジで、どうやって作ったのか。
そして何よりも、どうして口移しだったのか。……我慢して、優しいお兄さんで居るのにそれも難しくなりそうだ。
「……愛の力、とか言ったら信じる?」
「ナミ、あんまり煽ってると喰うぞ」
「……サッチにそんな気無いの、分かってるもの。エース達にもチョコあげてくるわ」
その言葉を聞いた瞬間、ナミの腕を掴みベッドに連れ戻しながらその唇を貪るように重ねていた。微かな隙間から苦しそうに喘ぐナミの声を聞きつつ、寝巻きの中に手を入れればビクリと反応するその無垢な体。
……敏感だな。流石は、肌で天候を感じるだけの事はある。
そう冷静に思う俺と、エース達にも同じようにチョコを配るなんて許さねェと言う嫉妬心から、このまま抱こうとする本能的な俺が、鬩ぎ合う。その時、ナミが泣きそうな顔で俺を見ているのに気付き、そっと唇を離す。
それでも、その体を離してやる事が出来ないのは何故なのか。……この、肌が悪いのかもな。
瑞々しい素肌の感触に、心と体が渇きを訴える。喰いたいと、魂が叫ぶ。
それを必死の思いで掻き集めた理性で押しとどめると、優しい兄貴の顔を作る。傷付けたく、ねェんだよ。
「……他の男に、同じような事をしたらこれじゃすまねェぞ。辞めとけ」
「っ……!私は、こんな事してチョコ渡すのはサッチにだけよ!お説教なんて沢山!離して!妹にしか見れないなら、もう良いから離してよ!」
そう言って泣きながら暴れだしたナミに、その涙と言葉に俺は夢でも見ているのかと本気で思う。だってよ、ナミ、お前その言葉は……。
「俺は、ナミを妹だなんて1度も思った事は無ェ!」
「え?」
「ナミの事は、ずっと女として見ていた。まだ、体が出来てねェだろうからと耐えてただけだ馬鹿!」
俺の言葉を受けてナミはまた涙をこぼす。そして、俺に腕を伸ばして抱き着いたと思ったら耳元で言う。
「それなら、このまま私も貰って」
「ナミ!?」
「ずっと、片想いだって思ってて……最後の、賭けのつもりだったの。慰めで偽りを口にしたのでなければ、私を……貰って」
震えているナミの腕と声が、本気だと告げている。……お互い、馬鹿だな、俺達は。
「ナミ、愛してる。嫌になったら言え。やり方変えてやる」
「……辞めてやるって言うのかと思った」
「馬鹿か、辞められるか。……惚れてる相手から誘われて、止まれたら男じゃねェよ」
脱がせる事無くナミの体を指で弄れば、戸惑いの表情で俺を見ながらも反応する体に声を出せないナミ。なぜ脱がせないのかって思ってるのが伝わるから、優しく教えてやる。
「……恥ずかしいだろうと思って、脱がせねェだけだが……それとも、脱がせて欲しいか?」
自分で脱ぐか、俺にお願いするかと選択肢を突きつければナミは顔を真っ赤に染めて、狡いなんて言う。そうだな、俺は狡い大人なんだよ。
「俺、好きな子虐めるタイプなんだよ」
「いつも、やさしかったのに……!」
「ん?こんな俺は、嫌いか?」
言いながらも体を弄ればビクビクと反応して必死に首を横に振るナミ。その度に髪が揺れて、蜜柑の香りが俺を誘う。
「んっ……!好き……!だか、ァ!」
「そっか、ここ弄られるの好きか」
分かっていて虐める俺に、初めてなのに酷いと瞳を潤ませるナミを見て、痛い程に脈動する自身を感じる。……ダメだ、今日は俺もナミも勝手に休みにするしかねェ。
Happy Valentine……いつまでも姿を見せない2人の部屋から微かにもれる声に、呼びに来たメンバーはそっと離れて行く。長い両片想いが終わった事に、家族はそっと笑い合い親父へ休みを申請してくれていた。
後にそれを知った少女が男をボコボコにしたのは、きっとご愛嬌だろう。
私の書くサッチは基本的にどうやらS気が強目の様子です。