人数が多いこの船では、食事を準備すると言うのは意外と大仕事だ。先月のバレンタインでチョコを貰いながら、漸く恋人同士になれたナミを思い浮かべつつ食事を作って行く。
「隊長、気持ち悪い顔になってますよー」
「五月蝿ェ!て、なんだこの臭……あー!スープ沸騰させんなァ!!」
そんなバタバタとした時間を乗り越えてフラフラと部屋に入ると、ナミは窓の所でニュースクーと何やらやり取りをしていた。何してるんだろうと、何の気なしにそれを眺める。
見れば菓子か何かを与えている様子で、その手元には箱が置かれていると分かる。手紙もあるらしく、嬉しそうに笑っている姿が妙に幼い。
送り元はと見ればコノミ……?嗚呼、姉か。
俺に気付かないのか、ナミはニュースクーを見送った後で箱の中身を見て幸せそうに笑い、それから1人で納得した様子を見せる。うむうむとか言って頷いてるそれに可愛いけどと思いながら眺めていたが、そう言えばホワイトデーが近いんだったなと思い出す。
その時口の中に甘味が押し込まれて、果物を用いたマシュマロだと気付く。結構上質なやつだな、これ。
「特別よ」
俺が余程落ち込んだ顔でもしていたのか、ナミは俺を気遣うように見ているから、有難くて涙が出そうだと答えてから、これ嫌味にも取れるなと気付く。だがナミには嫌味には思えなかったらしく、得意そうに笑うから、これもまた正解だろうと思えた。
その後に差し出された飲み物を口にして、俺はナミに欲しい物を問いかけようと視線を向けたが、何も言えなくなった。だってよ……愛しそうに、幸せそうに空を眺めていたから。
俺達が海を愛するように、ナミは空を愛しているのかと思えば、それ以上言葉は紡げなかった。仕方なくその場を後にした俺は、何か自分で考えるかと部屋を静かに出て1瞬だけナミを振り向いた。
だが、それに気付いてくれて微笑まれたからそれで全て解決したような気分になる。ナミが可愛い事だけは、間違いようがねェ事実だ。
さァて、休憩時間は終わりだ。戦場に戻るかね!
それから数日後……買い出しの為に船を降りた俺達だったが、そこである事に気付く。チョコ系の菓子屋が異様に多い。
それで調べてみると、この島のお偉いさんがチョコ好きで月に1度大会が開かれてその大会で優勝すると相当な金額が貰えるらしい。チョコは1攫千金を狙うパティシエ達の夢と希望に満ちた食べ物だと言われれば、成程と思う。
その中には酒の入った物もあり、そういやナミからチョコをもらってたなと思う。その時マタタビが売られているのを見つける。
それも木天寥ではなく、マタタビだ。……マルコに確認してからだが、確か健康食品の筈だなと電伝虫を取り出して話を聞けば、やはり木天寥は薬や酒にされる程の物で、マタタビは健康食品だった。
「〝マタタビは疲労回復、免疫力向上、高血圧の予防、血行促進、冷え性の改善、利尿作用があり、そのマタタビに寄生した虫を元に……ってそこは良いかねぃ。とりあえずそれの希少な奴が木天寥で効能が変わるんだよぃ〟」
木天寥って虫系か。まぁ蜂蜜も虫の母乳だもんな。
「〝木天寥は血行促進、冷え性の改善、利尿作用、鎮痛作用、神経痛、リウマチに効果があるよぃ。ただし、どちらもキウィフルーツにアレルギーがある相手には、同じアレルゲンを持つから与えるなよぃ〟」
流石はお医者様だと感心しつつ、疲労回復と血行促進、免疫力向上に効くならとマタタビを購入する。マタタビ酒だと作るのにもう時間が足りねェから、チョコにでも混ぜて食わせてやるか。
そう考えて空いた時間にマタタビ入のチョコを作り、当日になるのを待った。日付が変わった瞬間に部屋に帰った俺を、ナミはいつもと変わらない様子で俺を出迎えてくれるから、どうやら今日が何の日か気付いていないらしいと知る。
「ナミ、ホワイトデーだからお返し」
「ありがとう、何かなー?」
楽しそうに箱を開けたナミは少し困ったような顔で夜に甘い物は太るし、ニキビがなんて言い出す。それに味見程度で後は起きてからにしたらいいと言えば、大義名分を貰ったからなのか嬉しそうに頷いた。
そしていくつか入っているチョコのうち1つを摘み食べた所までは、何もおかしくなかった。変わった味がするのねと言ってから少ししたら、ナミの呼吸が荒くなり、熱っぽい表情を見せる。
……待て、ナミは人間の筈だ。なんで催淫効果が出てんだよ!?
「さっちぃ……」
なんだこの、エロ可愛い生き物は。え……俺にどうしろと?
そう思いながら、変なもんが混ざったのかとあげた筈のチョコを1つ摘むが、おかしな物は入ってねェ。とりあえず、ナミは猫の血でも入ってるらしいって事にして……どうにかしないとな。
「ナミ、どんな感じだ?」
「暑いし、いきぐるしいし、ちから、入んないし、なに食べさせたの?」
「俺も変な物入れたかと確認で食べたが、何ともねェんだよ。ナミお前、本当に猫だったのか」
「そんな、こと……ある訳ない、じゃない。でも……」
「ん?」
「サッチが、ほしい」
……1瞬何を言われたのか分からなかった俺は、ナミを凝視して……衝動的に唇を重ねていた。それに可愛く鳴くナミに俺の理性は崩壊した。
服を脱がせて、人間ならマタタビが効く筈ないんだから問題ないだろうと言いながら、ナミの体でチョコを溶かしてみたりしてチョコごと食べ始める。そんな俺に、ナミはヘンタイなんて言うが……恋人相手に変態や助平にならない男がいたら、お目にかかりたいもんだよ。
ホワイトデーに最高のチョコで女の疲れを癒す筈が、気付けば男の欲望の饗宴が始まっていた。それでもきっと……女は少女のように笑い、全てを受け入れるのだろう。
後に女が体質的にマタタビが合わないのだとパイナップルに知らされた男が平謝りしたのは、また別なお話。今宵はただの幸福な恋人同士として、心と体が重なり合うだけ。
実際アレルギーでは無く、体質に合わない方は居ます。
その場合、目眩、吐気、頭痛、脈拍数や血圧の上昇、耳鳴り、平衡感覚の乱れ、発熱等を引き起こす場合もあります。ただ、一欠片程度でそこまで酷い症状が出るのは奇跡の領域です。参考までに。