その体を馴らすと言う名目で、それを本気で拒むナミを弄び続けていたが、ナミはそんな日常の中でもその能力の高さでもっていつの間にか幹部の地位を与えられて然るべき状況にまで登ってきていた。そして、今朝もサイクロンを躱してから、進路を示し、島に今日中につくと言ってから部屋にこもったのだ。
気が付いた時には手遅れだった。海図を描き始めたナミはいくら呼びかけても反応は無く、能力で操れば止められるかも知れないが、それをやると面倒な事になるのは過去の経験から分かっている。
この容姿で頑固で融通が効かねェとはな……。その上妙にプライドも高く気も強い。
能力の高さを考えれば、このプライドの高さもおかしくはねェが……。その優秀過ぎる頭と引き換えに、恋愛的な所と性的な所は成長していない様子なのがまた、アンバランスな印象を与える。
真剣な顔は幼いながらも美しく、数年後にはどうなるかと考えればそれは楽しみでもあり、同時に恐怖でもある。俺が少しでも傍を離れれば虫が群がるのは必定となるのが、火を見るより明らかであるような成長をしている。
ナミの姿を眺めながらハロウィンと書かれたイベントについて検討すると、幹部達は喜びそうだと手配を進める事にした。俺もだからと言ってナミに常に張り付いて居られるほど暇でもねェのが惜しまれるな。
やる事を1通り終えて部屋に戻る頃に視線を上げれば、既に朝日は登りきっていて甲板ではイベントが開始されていた。思い思いの妖怪や物語の登場人物に扮したファミリーを見て、ナミには衣装の1つも用意してなかったと思い出す。
そこでどうするかと少し考えてから、おつるさんの所で貰ってきた海兵の制服を着せてみようかと思い至る。そうして制服を持ってナミの元へと戻れば、ナミは昨日と同じように海図を描いていた。
描き上がった海図が、尋常ではない枚数干されていなければ、恐らく時が進んでいる事に気付かなかっただろうと言う程に変わらない。ベッドのシーツにあるシワの形さえ、変わっていないのだから、救いようがない。
「おいナミ、倒れる前に寝ろ。と言うか、食事はしたのか」
俺の問い掛けにナミは微かに体を揺らすと、ゆっくりと首を動かして俺に視線を向けて来る。その視線が少し生意気で気の強さが伺える。
「若様に関係無いでしょ。私は私のやるべき事はやってるもの」
これがまだ14歳だと言うのだから、最近のガキは末恐ろしいな。この生意気な様子がローやシュガーを彷彿とさせ、それでいて何故か征服欲を刺激する。
わざとらしく溜息を落としたナミは、だが基本的に甘いヤツである事は分かっている。だからこそイベントの事も俺に伝えたのだろうし、最初に自ら宣言していたように実際誰かが死ぬ所を見るのも、傷付く姿でさえ見るのも嫌がる。
自分の命が危険になっても、逃げ隠れはしてもなかなか攻撃出来ない甘チャンだ。それなのに俺には……こう、いつまでも頑なだと言うのが許せねェと思うのは、それなりに気に入ってるからだろうか。
「……天候も安定してるし、イベントの事は伝えたからガス抜きも出来るでしょう。私に構わないで」
冷たい眼差しを向けて来るナミに、俺は海兵の制服を投げ付ける。それを慌てた様子で受け取ったナミは妙に幼い顔をして見せた。
「お前もイベントに参加しろ」
「それで、海兵?」
「あァ……さっさと着替えろ」
声を掛けるとナミは何とも切なそうな顔で、その制服を見ていると気付かされる。正義のマントを何故か愛おしそうに撫でてから、優しく微笑んだ。
その顔に胸を掴まれたような気持ちになったのは、それが何処か母上と重なったからか……。そしてナミは、珍しく素直に頷いた。
「ついでだから、お風呂入ってくるわ。それくらい良いでしょ」
「構わねェよ。好きにしろ」
その言葉を受けてナミは風呂へと向かうから、描いていた海図に目を通して待つ。その海図の素晴らしさに、魚共がナミを求めた理由が嫌という程に伝わって来る。
……近々、あの忌々しい刺青を消し去るか。どうせなら俺のマークに変えさせよう。
そう思った時ナミが帰って来たのが分かり視線を向ける。すると、相変わらず髪から雫を落としつつ歩いて来たその姿は、驚く程に違和感の無い若い女海兵だった為に息を飲んでしまう。
「海から上がってきたばかりの海兵って様相だな。……来い」
俺の言葉にナミは1瞬瞳を揺らしてから、嫌そうに溜息を落とした。その表情はいつものように冷たくて、だが1瞬瞳を揺らしたその表情を思い出せば、どうやら本気で俺を嫌ってる訳では無さそうだと分かる。
「ナミ、来い」
もう1度命じれば小さく体を震わせてから、諦めた様子で近付いてくる。そんなナミの腕を掴んで抱き込めば、その微かな震えに気付かない筈も無い。
その震えは俺に対する怯えかと1瞬考え、今更それは無いなと思う。ならば、何故だと考えれば答えなんてそう多くはない。
……トラウマが刺激されたか、もしくは、俺に可愛がられるのが怖いのか?
タオルを奪い髪を拭いてやれば、泣きそうにその顔を歪めながらもそれを甘受する。その姿につい、問い掛けてしまう。
「俺に……抱かれたくないか?」
「……嫌でも、辞めてはくれないんでしょ?」
「そうだな。だが……猶予はやってもいい」
「え?」
驚いたような顔をするナミに、俺は耳元で囁く。その時ふわりと柑橘系の香りが鼻を掠めるから、恐ろしい程に食欲を刺激する奴だなと内心で笑う。
「体も持たねェだろうから、後数年は待ってやる。勿論、その手前までは、手を出すがな」
そう言ってから小さなその体をベッドに投げ捨てる。バウンドしたナミの体をそのまま押さえつけ、言葉を放つ。
「海賊に捕まった女海兵がどうなるか、体験させてやるよ」
「余計なお世話よ!離して!」
「なら、Trick or Treat……?」
「何も持ってる訳……!」
怯えたような瞳で俺を見ながら強気な態度を崩さねェナミに、俺は笑み崩れる。あァ……堪らねェ……。
怯えた子うさぎのような眼差しで、強気な態度を見せながら、甘く……優しい心根を保つ。これ程までに、海兵の制服が似合う女もいないだろう。
Trick or Treat……海賊が約束なんざ守る筈ねェだろうに、信じようとするナミに笑っちまう。もう少し……その甘い心を俺に与えてろよ、そうすりゃ何か間違いが起きる時もいずれ来るかも知れねェぞ?
そんな事を思いながらナミの唇を奪う。大切に可愛がってやるさと、内心で嗤いながら。