※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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オレンジデーイベント(光源氏16)side

 バレンタインに想いが通じ合って、ホワイトデーに失敗した俺は今度何かの時にはナミを喜ばせたいと心から思っているが、今度っていつだ?

 深い溜息を落として、シャワーから出れば机に向かっていたナミがタオルを投げ渡してきた。初心で可愛いナミは、手の甲と耳が赤くなっている。

 あれから何度も抱いたのに、どうしてこうも初心なままなのか。そんな事を考えながら、ゴミ箱に捨てられている紙をヒョイッと拾う。

 ナミの文字の書かれたそれに、変な事は書かれていない気がして、どうして捨ててあるのかと思ったからだ。そして……オレンジデー?

 成程なァ。バレンタインやホワイトデーでの盛り上がりを考えれば、オレンジデーだと気を使わせるとでも考えたんだろうと分かり、そっとその紙を畳んで懐に仕舞う。

 ……次の機会が、舞い込んで来たな。今度は失敗出来ねェぞと自分に言い聞かせながら、俺は1人で少し浮かれつつナミに喜んで貰えそうな事を考える。

 だが、俺は俺に休みなんてほぼない事をすっかり忘れていた。なので何かを買いに行くなんてそんな余裕もなく、日にちばかりが過ぎて行く。

 そんな訳で数日後、2時間の仮眠休憩時間に部屋に戻った俺は、ナミ考案の汗ふきシートで軽く汗を拭いてからベッドに転がる。即座に眠りに落ちる自分の体に、これ寿命削ってるだろと心から思う。

 隊長と呼ばれる奴らは基本的に皆そうだが、仕事が多過ぎる。駄目だ、何かを考える余裕もねェ。

 そんな俺の頭を撫でる誰かの指。優しいその感触に、力が抜ける。

 もう、ずっと寝ていたい。このまま甘やかされていたいと思わされる程に、心地好い。

 

 「愛しているわ」

 

 聞こえてきた声に、言葉に、息を呑む。俺も……愛している。

 薄く眼を開ければ、何かに気を取られている様子で、見れば花弁だと分かる。……春、なんだなァ。

 そのままナミが少し憂いた表情になるから、そんな顔するなよと思う。常に幸せでいて貰えるように、精一杯の愛情を示そうと心から思わされる。

 その後俺に視線を戻したナミは、困った人ねとでも言いそうな顔で俺の額にキスをして、それから微かに瞳を揺らすと抱き着いてきた。……もしかして、寂しいのか?

 スリスリと甘えるようにして、それからお休みと囁くナミは直後に眠る。もう少しで俺も起きなきゃなんねェけど、それまではナミを抱いて寝ちまおうか。

 起きたら、また考えるから……ナミをどうしたら喜ばせられるのかを。だから今は……この甘やかな温もりを独占したい。

 それから数日後、何をしたらいいか決まらないままに、いつもの様に買い出しに出る事になった。そこにナミも1緒に行っていいかなんて聞いてきたから、野郎共が浮かれた。

 

 「珍しいな。どうした?今日はインクとか買う予定無ェぞ?」

 「そっちはマルコが買ってくれるから大丈夫。ちょっとね、欲しい食材があるのよ。でも、私1人だと持てないから……駄目かな?」

 

 キュルンとした眼差しを向けられて、駄目と言える筈も無い。だいたいこんな時にナミが言うのは、いつも誰かの為だ。

 ……誰かの為。食材。

 …………成程、オレンジデー関連か。バレンタインの時もそういや買い物に行ってたな。

 今回はこっそりじゃねェから、良いだろうが……良さそうな蜜柑とかオレンジを探してやろう。そっとナミを抱き締めて、軽くキスをしてから離れんなよと囁けば真っ赤になって頷くナミに、それなら良しと言って手を繋いで歩き出す。

 買い出しの時の目利きも、お前4番隊に入れよと言いたくなる程だ。だからこそ、ナミを自分の補佐に奪っているパイナップルが憎くなる。

 パイナップルが好きだからって、髪型迄パイナップルにするこたァねェだろうと俺は常々思っている。だが、それを言えば蹴られるので、俺は懸命にも言わないでいるのだ。

 

 「どうしようかな……蒸しパンみたいなのがいいかな。でも、ケーキも有りだよね……。いや、人数考えるとそれは……うーん」

 

 ブツブツ言いながら小麦粉や牛乳を見ているナミに、つい笑っちまう。やァっぱり、全員に何か作ろうとしてんな。

 

 「ナミ」

 「サッチ?」

 「手伝ってやるよ。1人でやろうとすんな」

 「え?」

 

 俺の言葉にキョトンとした顔を見せるから、オレンジデーだろうと言ってやればなんで知ってるのと驚いて見せるその顔は無防備だ。その頭を撫でてから、ナミの事なら大概分かるとだけ教えて〝皆〟の事しか考えてなさそうなナミに俺から何か作ってやろうと決める。

 

 「ホットケーキミックスに頼ってた自分が呪わしいわ」

 「……よくわかんねェが、手伝ってやるから小麦粉から作るぞ」

 

 とりあえずホットケーキを作れる配分の材料が必要なのは分かったので、そう言ってやれば笑顔を向けられた。その瞳は輝いていて、異様に可愛い。

 そして、13日の夜。夕飯の後片付けを終えた俺はナミと共にキッチンにいた。

 1人1個のタルトケーキだと大き過ぎるし、タルトカップだと足りないからと、手抜きのタルトっぽい蜜柑ケーキにすると言うナミに、成程と頷く。ホットケーキを作れる材料で、オーブンを使い大量の生地を作る事になれば、流れ作業でやった方が良いなと思う。

 生地のそれを俺が測って入れると、ナミが手際良く混ぜて行く。混ざったそれをナミが捏ねて丸めた所で貰い受けて伸ばしつつオーブンに並べ、その隙に次の測ったそれをナミに回す。

 そうしてオーブンに大量に並んだ生地を焼いている間に次の生地の準備を進めて、今夜の内に生地を全て焼いてしまおうと笑えば、ナミが嬉しそうに笑って頷いた。明日ナミには、チーズケーキでも作ってやるかと片手間で作れるそれを思う。

 流石にこれをやりながら、本格的な物を作る余裕は無さそうだ。それに、飯の用意もあるからな。

 提供するのは明日の昼過ぎとはいえ、その間には朝と昼の食事もありその間はナミとこうして作る余裕はねェ。蜜柑の皮を剥いて房ごとにバラしてから、蜂蜜水に入れていけば明日使う時には使いやすくなっている筈だ。

 そうして蜜柑を漬け込んでいるその水を少しグラスに移して、氷を入れてからナミに声を掛ける。

 

 「そろそろ1度休憩挟もう。汗とか入ってたら不味いからな」

 「そうね。ありがとう」

 

 そう言ってナミが手荷物からタオルを取り出して自分が1つ使いながら、俺にも当然のように差し出すからそれを受け取りながら蜂蜜蜜柑水を差し出す。交換する形で受け取ったそれをナミはありがとうと言って飲むので、ホッとする。

 疲れると飲む事すら辞めちまう時があるから、その辺は俺が見とくべきだと思っている。この蜜柑の漬け込みをすると蜜柑が入る分どうしても水分が溢れそうになる事が多いので、こうして少し飲んでも問題は無い。

 ……あれだ、風呂に人が入ると水嵩が増すのと理屈は同じだ。蜜柑が入って水嵩が増してるから、溢れさせるくらいなら飲んじまえって話な。

 今は水と蜂蜜に蜜柑を漬け込んでるが、明日蜜柑を使う前に軽く煮立たせてやると、切り分けるにしてもそのまま食わせるにしても柔らかくなって食べやすくなるので、それを勧めるつもりだ。視線をナミに向けると、ちびちびとグラスの中身を飲みながら、卵を睨み付けているのでそれに少し笑っちまう。

 

 「……生クリームにするか、カスタードクリームか悩んでるのか?」

 「そうなのよ。なんでわかったの?」

 「生クリームの方が簡単だが、卵睨んでたからそれで悩んでんだろうなと思っただけだ。カスタードクリームは作ってやるから、塗って蜜柑を乗せたらいい」

 「でも、悪いわ。私が……「ナミ、俺これでもプロなんだけど?明日は朝からそこの1角でナミ1人でその仕上げさせるしかねェんだから、クリーム位作らせろって」」

 

 言葉を遮って言えばナミは困ったように笑ってから、ありがとうと微笑む。それから立ち上がると、台を作り終わらせちゃいましょうかなんて言う。

 それに頷いて俺も動き始めれば、時間は矢のように過ぎて行った。人数が多いと、簡単作業も重労働だ。

 そうして迎えた当日。朝一でシャワーを済ませてから最初に厨房へ足を踏み入れた俺は、ナミの分のカスタードクリームを鬼のような勢いで用意してから、いつもの朝食の準備に取り掛かる。

 俺が準備を始めると、隊員達も次々と姿を見せるので今日は隅でナミが何か作ってるが気にしたり邪魔したりするなよとだけ伝えて、いつもの戦場となる。交代で現れる奴らに、朝食を食わせたら後片付けをしつつ引き続き昼食の準備に入った。

 ナミの方に視線を向ければやはり蜜柑を少し煮たようで、甘い香りが充満しているがそれは良い。どんな様子かなと覗き込めば、完成したそれが思っていたより可愛くて、そして美味そうな事に驚かされる。

 だが、単純作業を繰り返すナミはそれなりに疲れて……待てよ、朝食食ってねェだろ、ナミ!

 小さく舌打ちして簡単に食べられるようにと考える。だが、サンドイッチだと中身が飛び出そうだからと、ホットサンドにして四隅をしっかりと抑えてやる事にする。

 中身は炒り卵とチーズ、ベーコンとほうれん草だ。発酵食品と肉と、野菜と完全栄養食となれば栄養バランス的にも悪くはねェ筈だ。

 ほうれん草と牛乳、ベーコンで作ったスープを添えてナミに出してやりながら、軽くその頭を叩く。

 

 「痛い」

 「痛くしたんだよ。少しは休め。そして、飯を食え」

 

 そう言いつつ差し出したそれを見て、ナミは嬉しそうに笑うので食べ終わるまで続きはやるなよと言って椅子に座らせる。ナミはそんな俺にクスクスと笑いながら、ありがとうと言うので見てなかった俺も悪かったなと少し反省する。

 ん?あァ俺は作りながら新人の作った分に関して、味見として散々食うから、そこは問題ねェ。

 鍋ごとに食うんだぜ?人数考えたら鍋幾つだと思うよ?

 食事として他に何か食う余裕があると思うなよ。そんな事を誰にともなく思いながら作業を続ける。

 食事を終えたナミはそれを洗って片付けてから、続きを行いケーキを人数分作り上げていく。出来たところで俺と休憩に入る予定になっているので、俺の方もそれ迄に区切りのいい所まで終わらせておけば、提供するのはこいつらの仕事だ。

 

 「後は任せたぞ」

 

 言いながらナミ用の蜜柑入りチーズケーキを手に部屋に向かう俺を見送って、ごゆっくりと言う弟達にありがとうと返しておく。1足先に帰っていたナミは、俺を見ると少しソワソワした様子でソファに座らせて来るから何か用意してくれていたらしいと知る。

 

 「ホットケーキの残りで作ったの。簡単蜜柑ケーキタワー」

 

 ホットケーキに生クリームと蜜柑を乗せて、その上に1回り小さなホットケーキ。その上にまたと言うのが繰り返されただけのそれは、ホットケーキが3段になっていて妙に可愛い。

 

 「可愛いな。これ、他の果物も入れて作ると可愛さが増すだろ」

 「今日はオレンジデーだから、蜜柑とオレンジ、デコポンを使ってるのよ」

 「3種類使ってたか。美味そうだな。……俺からはこれな。……手抜きで悪いけど」

 

 そう言って蜜柑入のチーズケーキを差し出せばナミは嬉しそうに笑って、ありがとうと言って向かい側に座る。互いに互いの作ったそれを食べて笑い合い、気付けばナミをソファに押し倒している自分がいた。

 

 「休ませてやるべきなんだろうとは思うんだけどな」

 「サッチ……知らないの?男の人は疲れるとやりたくなるんですってよ?」

 「……マルコ辺りか、その情報」

 「ううん、ドクター……私の祖父から」

 「孫に何教えてんだ!?」

 

 そんな事を言いながらも、あながち間違ってないなと思う。だが、俺の場合は……いつでもナミが欲しいと心から思うから該当しねェかもだが。

 互いに互いを喜ばせたくてやったのが、こっそりとしたお菓子作りであった辺りが似ているよなと思う。そして、俺に押し倒されても幸せそうに笑うナミに、理性なんてある筈もない。

 Happy orange day……甘い蜜柑の香りが充満する中で、互いに互いを求め合う。疲れているからなんてのは、きっと後付けの理由でしかないのだろう。

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