朝から何かがおかしい。ナミにレシピについて確認している時は特に何も起きないのだが、そのまま少しナミの髪を弄り始めたりする度に誰かが叫ぶような自体が起きる。
例えばスープが沸騰寸前になっていて、誰が火を付けたのかと確認しても全員首を傾げる始末だ。棚が崩れて食料庫の整理を余儀なくされたり、先程は書類の確認があるからとマルコが現れてナミを連れて行った。
大した事では無いのか?
偶然なのか?
だが、尽くナミとの時間は何かが起きて過ごせなくなる。今夜から明日に掛けてはクリスマスだと言う事で、俺とナミは2人でのんびり過ごす予定になっているが、この調子ではそれもどうなるかわかったものでは無い。
最近疲労からか顔色が悪い時があるナミを思えば、外出等出来る筈もねェ。エースやマルコを中心に何処かへ出掛けるのかと聞かれる事も多く、それについてナミは皆に気遣われてるのねと言うが……ネタにする為に着いて来ようとしてるに違いねェ。
さて、今やれる事は終わったからとナミの元へ向かえば、甲板で本を片手にお茶を飲んでる姿を見付けた。その本が恋愛小説とかならば分かるが、何をどうしてか『クローンは作れるのか!?幻の人造人間製造技術!!』とかいう本を読んでいると分かれば、趣味なのか知識欲の権化なのかと悩まされる。
「ナミ」
「あ、サッチ……。ヴィンスモーク家ではクローン人間兵器作られてるのに、この本情報が古いと思わない?最新のだって言うから買ったのに。確かサイボーグは海軍がほぼ完成させたわよね。ベガパンクの技術だって聞いたけ「何処の情報だよ。聞いた事ねェぞ」」
情報収集の1環で読んでたのかと思ったが、これは聞き逃せねェと言葉を口にした時エースが姿を見せた。それも、妙に楽しそうな気配を感じるのは気の所為か?
「ナミ!俺ナミに相談があるんだ!」
おいコラお前、何を脇から……とは思うが、ナミがエースから〝相談〟があるなんて言われて無視出来る筈もない。それを分かっているから、諦めを込めてそっと眼を伏せると俺の唇に何かが触れた。
何だと思って眼を開けば、瞼の伏せられたナミの顔のアップがあってキスされていると気付く。何が起きてるのかと思った直後に離れたナミは、優しく微笑んだ。
「少しエースと話してくるだけよ。だから、そんなに寂しそうな顔しないで。……愛してるわ、サッチ」
そう言って俺の側から離れるナミの腕を、無意識とは言え掴みそうになる自分の情けなさ。待ってくれと縋りたいような気持ちにさせられるのは、相手がナミだからだろう。
エースはナミの行動に驚き目を見開いているが、俺だって驚いているさ。だが、恐らく相当俺が寂しそうな顔をしていたのだろう。
そうでなければ流石に人前で、ナミからのキスなんて有り得る筈もない。その為に慰めるように苦手な事をしているのだから、これ以上の我儘は許される筈もねェ。
「分かった。気をつけて行けよ」
「何処か遠くに行く訳じゃないし、相手はエースよ?気を付ける必要なんて無いじゃない」
そりゃナミにして見りゃ可愛い弟だろうが、他から見りゃ間違いなく男としてナミを想ってるんだから、警戒して欲しいと思う。だが、無邪気に笑うナミにそれをどう伝えればいいのか分からずに、違う言葉で誤魔化す自分がいる。
「ナミが心配なんだ。俺は、ナミに溺れちまってるからな」
「サッチ……」
「ナミ!早く来てくれよ!」
互いに視線を絡めていたら、エースにナミが明らかに攫われて行った。あいつはー!と怒ったところで暖簾に腕押し糠に釘なのは分かっている。
そこに笑い声が聞こえて来て視線を向ければ、ビスタとハルタの姿があった。何だと思って視線で問いかければ、視線で呼ばれたのでそちらへ足を向ける。
「今日の日を邪魔するのは流石にスマートとは言えないからな。協力してやろう。……ところでサッチ、贈物は用意してあるだろうな?」
「……贈物?」
ビスタの言葉が分からずに問い返せば、ビスタに呆れたような視線を向けられてしまう。それからハルタに、馬鹿にしたように笑われる。
「俺としてはさ、どうなるか見学してようかと思ったんだけど……。ナミちゃんが泣くのは見たくないから、協力してやろうかなーって思ってたのに、用意してない!?はっ!彼氏名乗るなら、彼女の書いた物くらい読んでやんなよ、作品多いけどさ」
言われてから思い出す。そうだ、クリスマスのメインは食い物じゃねェ!
だが、今から何かを買いに行くのはほぼ不可能だ。どうする、どうしたらいい!?
「……なァんだ。読んでたんだ。いびるつもりだったのに、つまんないのー。なら、手伝ってあげるから、プレゼントだけ用意しておきなよ。……ナミちゃん泣かせたら、許さないからね」
「ハルタ、ナミに甘くねェか!?」
「あのお人好しの珍獣守りたくもなるよ。あァ、言っとくけどさ、プレゼント無かったなんて話になったら……沈めるよ?」
「善処します!」
既に何を手伝ってくれるつもりなのかも分からないままに、俺はハルタのそれにおされて敬礼しつつ頷く事しか出来なかった。ハルタとビスタが離れてから素直に考えて、何も凝った物とかじゃなくて良いんだよなと思い付く。
いつも俺が動き回りナミは部屋に引きこもってるから、中々1緒にゆっくりと過ごせねェんだから、俺が2人分のクリスマス料理を用意して……真珠のイヤリングでも作って渡してやるかと決める。
料理してると時々真珠と遭遇する。真珠と呼べないような小さなそれに商品価値は無いが、幾つかをあわせて花の形でも作ってやればイヤリングとしてなら使えるだろう。
そう思って皆が揃って食べる予定で作ったのとは別に、ナミと2人で食べる為の物を作りつつ、寝かせたり煮込んだりしている空き時間にプレゼントとなるイヤリングを制作しておく。それを自室に運び終えるのとほぼ同時に、ナミが部屋に帰って来た。
「あ、サッチも帰ってたの?」
「あァ、今帰って来た所だ」
「なら、これからパーティよね。急いで支度しないとかな?シャワー浴びる時間無いなら、背中拭こうか?」
……ナミは確かに、ハルタの言う通りお人好しの珍獣かも知れねェなと密かに思いつつ、首を横に振る。今夜は、2人だけで過ごしたい。
その為に俺無しでも回るように準備は整えてある。だが、確かにいつもイベントがある度に俺は動き回りナミがこうして手伝ってくれてたんだよな。
「サッチ?」
「ナミには、俺と2人でここにいて欲しい。……嫌か?」
「そんな訳無いじゃない!私……サッチは忙しいって分かってるから、言わないだけで……ずっと1緒にいたいのに」
そう言って俺に抱き着いてくれるナミをそっと抱き締めてやれば、小さく体を震わせる。外でどれ程雪が降り積もろうとも、ナミがこうして傍にいてくれるならそれだけで暖かく感じるのだから不思議なものだ。
「ハルタさんがね〝部屋に俺からのプレゼントがある〟って言うから、来てみたらサッチがいて……それで……少し、期待しちゃったの」
「あァ、ハルタの言ってたプレゼントは、俺だろうな」
「……へ?」
「ナミが俺と2人で過ごせるように、邪魔する奴らに何かするつもりらしい。……だから、俺との時間ってヤツを、ハルタはプレゼントしたって言ったんだろうぜ」
俺の言葉にナミはハラハラと涙を落として、本当に?なんて言う。そんなに、寂しい思いをさせてたかと思うと流石に罪悪感に蝕まれる。
「本当に、サッチと2人で過ごせるの?」
「あァ、俺もそのつもりで料理作ったんだぜ?」
言って顎でそれを示せばナミはそれを見て嬉しそうに笑うと、ありがとうと言って俺の首に腕を回すように抱き着いてくれた。そのまま触れる程度のキスをして、そっと唇を離すと俺から腕を離して、その涙を袖口で拭おうとする。
そんな事させられるかとその腕を掴んで涙を唇で拭えば、ナミの涙は止まり代わりにその顔がジワジワと赤く染まった。それを気付いていて辞めずに繰り返せば、ナミは逃げる事も出来ずにただそれを甘受する。
基本的に、俺に何されてもナミは逃げねェし抵抗しないからなと思えば、それだけで充分に愛されてるのだと分かる。だが、このまま続けたら料理より先にナミを食らいつくしそうだと気付いて、そっとその耳元に囁く。
「涙は止まったみたいだな」
「あ……ぅ……」
「ナミ、俺からのクリスマスプレゼントはこれだ。有り合わせで悪いけど、貰ってくれるか?」
言いながら作ったばかりのイヤリングを差し出せば、ナミはそれを見て可愛いと呟く。それからそっと耳に付けて、どう?なんて聞いてくるから1度頷く事でそれに応える。
それにナミは嬉しそうに笑うと、今度はナミから何かを手渡された。開けてみると中からはスカーフが色違いで何枚も入っていて、その左下には白髭のマークが刺繍されている。
その刺繍に触れてみると所々ボコボコしており、ナミの手による物だと分かる。単色のそれらは、柄物を身につけないと知っているからだろうか。
「ナミ、ありがとう。全てに刺繍してくれたんだな」
「サッチは、その方が喜ぶかなって思って……」
そう言って笑ったナミは、幸せそうな雰囲気を纏っている。それに俺も自然と笑えたのは、多分自然な事だろう。
Merry Christmas……愛しい君と共に過ごせる事だけで、それは充分過ぎる聖なる夜。愛しい人の手が作り出したプレゼントを互いに身に付けられたなら、共に過ごせない時も少しは寂しさを紛らわせる事が出来るのだろうと思いつつ、そっと目の前にいる愛しい人を抱き締めた。
書いた順番ではなく、時間軸順に掲載しています。